(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156700
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】太陽光発電施設での作物栽培システム
(51)【国際特許分類】
A01G 9/00 20180101AFI20231018BHJP
A01G 9/08 20060101ALI20231018BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
A01G9/00 C
A01G9/08 606A
A01G7/00 601Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066211
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】冨貴 丈宏
(72)【発明者】
【氏名】稲邉 裕司
【テーマコード(参考)】
2B022
2B327
【Fターム(参考)】
2B022DA01
2B327ND13
2B327NE01
2B327TC04
2B327TC10
2B327TC12
(57)【要約】
【課題】太陽光発電施設において、土地を有効活用して作物が栽培できるとともに、日光を好み日陰では育たない植物も栽培でき、かつ高収量で高収益の作物が栽培できる作物栽培システムを提供する。
【解決手段】通路3を挟んで複数の太陽光パネル2が並設された太陽光発電施設での作物栽培システム1である。前記太陽光パネル2下の地面に作物が地植えされる土耕栽培領域5と、前記太陽光パネル2下と前記通路3とを移動可能な移動式高設ベンチ7上で作物を栽培する高設栽培領域6とが備えられている。前記移動式高設ベンチ7は、通路3に日が差す日中は通路3に移動して高設栽培領域6に植えられた作物に充分に日光が当たるようにし、夜間や太陽光パネル2のメンテナンスのときなどは、太陽光パネル2下に移動する。前記土耕栽培領域5では陰性植物を栽培し、前記高設栽培領域6では半陰性植物及び/又は陽性植物を栽培する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通路を挟んで複数の太陽光パネルが並設された太陽光発電施設での作物栽培システムであって、
前記太陽光パネル下の地面に作物が地植えされる土耕栽培領域と、前記太陽光パネル下と前記通路とを移動可能な移動式高設ベンチ上で作物が栽培される高設栽培領域とが備えられていることを特徴とする太陽光発電施設での作物栽培システム。
【請求項2】
前記土耕栽培領域では陰性植物が栽培され、前記高設栽培領域では半陰性植物及び陽性植物のいずれか一方又は両方が栽培されている請求項1記載の太陽光発電施設での作物栽培システム。
【請求項3】
前記高設栽培領域では、前記移動式高設ベンチに設けられた栽培槽において作物が底面給水方式で栽培されている請求項1、2いずれかに記載の太陽光発電施設での作物栽培システム。
【請求項4】
前記移動式高設ベンチは、地面に敷設されたレール上を走行することにより移動可能とされている請求項1~3いずれかに記載の太陽光発電施設での作物栽培システム。
【請求項5】
前記通路に日照センサが設置され、前記日照センサが日照を検知したときに、前記移動式高設ベンチを前記通路に移動し、それ以外のときは前記移動式高設ベンチを前記太陽光パネル下に配置するように制御されている請求項1~4いずれかに記載の太陽光発電施設での作物栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電施設の土地を有効活用して作物が栽培できるようにした太陽光発電施設での作物栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、太陽光発電施設の土地の有効活用を図るため、太陽光パネルによる発電と並行して、太陽光パネル下の領域で作物を栽培する技術が提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1~3には、太陽光パネル下の土壌に作物を地植えして土耕栽培することが開示されている。また、下記特許文献4、5には、太陽光パネル下に水耕ベンチを設置して作物を高設栽培することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-119709号公報
【特許文献2】実用新案登録第3183330号公報
【特許文献3】特許第5960332号公報
【特許文献4】特許第5791211号公報
【特許文献5】特許第5791215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、太陽光パネル下で作物を栽培する場合、太陽光パネルによって日差しが遮られるため、日光を好み日陰では育たない、例えばトマト、きゅうり、キャベツなどの陽性植物を栽培することはできなかった。また、上記特許文献3~5では、太陽光パネルに透光領域を設けて太陽光パネル下での日照を確保したり、光反射性を有する反射シートを設置して内部に導光したり、補助灯によって光量の不足を補ったりしているが、それでも上方に太陽光パネルが設置されない場合に比べて光量がかなり弱く、陽性植物が栽培できる環境ではなかった。
【0006】
また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「地上設置型太陽光発電システムの設計ガイドライン」では、複数の太陽電池アレイを設置する場合は、陰の影響を最小化するための離隔距離の確保が必要となることが指摘されるとともに、敷地を有効活用するために、傾斜角を小さくし離隔距離を短くする場合には、メンテナンススペースの確保に留意することが指摘されている。更に、資源エネルギー庁の「事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)」では、運転開始後に適切な保守点検及び維持管理が可能となるよう、そのための通路・スペースを十分に確保した設計を行うことが求められている。このように、太陽光発電施設では、通路を挟んで複数の太陽光パネルを並設する場合、陰の影響を軽減するとともに、メンテナンススペースを確保するため、太陽光パネル間に所定幅以上の通路を設ける必要がある。ところが、このような通路は、冬至付近の日が低いときを除いて日中は充分な日照があるにもかかわらず、メンテナンスのときに使用する以外はほとんど利用されない無駄なスペースであった。
【0007】
そこで本発明の主たる課題は、太陽光発電施設において、土地を有効活用して作物が栽培できるようにするとともに、日光を好み日陰では育たない植物も栽培でき、かつ高収量で高収益の作物が栽培できる作物栽培システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、通路を挟んで複数の太陽光パネルが並設された太陽光発電施設での作物栽培システムであって、
前記太陽光パネル下の地面に作物が地植えされる土耕栽培領域と、前記太陽光パネル下と前記通路とを移動可能な移動式高設ベンチ上で作物が栽培される高設栽培領域とが備えられていることを特徴とする太陽光発電施設での作物栽培システムが提供される。
【0009】
上記請求項1記載の発明では、太陽光パネル下の地面に作物が直接地植えされる土耕栽培領域と、太陽光パネル下と通路とを移動可能な移動式高設ベンチ上で作物が栽培される高設栽培領域とを備えている。このように、本発明に係る作物栽培システムでは、前記土耕栽培領域と高設栽培領域との2つの栽培領域で作物が栽培できるため、太陽光発電施設の土地を有効活用して作物が栽培でき、高収量で高収益の作物栽培が可能となる。また、前記高設栽培領域を形成する移動式高設ベンチが、太陽光パネル下と通路とを移動可能とされているため、通路に日が差す日中は、前記移動式高設ベンチを通路に移動して高設栽培領域に植えられた作物に充分に日光を当てることができ、通路の日差しが無くなる夜間や太陽光パネルのメンテナンスのときなどは、前記移動式高設ベンチを太陽光パネル下に移動して通路を人や機器が通れるようにすることができる。これにより、前記高設栽培領域において、日光を好み日陰では育たない植物も栽培できるため、従来のように陰生植物に限らず、陽性植物や半陰性植物も栽培でき、高収量で高収益の作物栽培が可能になる。
【0010】
請求項2に係る本発明として、前記土耕栽培領域では陰性植物が栽培され、前記高設栽培領域では半陰性植物及び陽性植物のいずれか一方又は両方が栽培されている請求項1記載の太陽光発電施設での作物栽培システムが提供される。
【0011】
上記請求項2記載の発明では、前記土耕栽培領域では、上方に設置された太陽光パネルによって日照が遮られるため、日陰でも栽培できる陰生植物を栽培し、前記高設栽培領域では、移動式高設ベンチを通路に移動することにより日照が確保されるため、日光を好み日陰では育たない陽性植物や、陽性植物と陰生植物の間の性質を持つ半陰生植物を栽培することができる。
【0012】
請求項3に係る本発明として、前記高設栽培領域では、前記移動式高設ベンチに設けられた栽培槽において作物が底面給水方式で栽培されている請求項1、2いずれかに記載の太陽光発電施設での作物栽培システムが提供される。
【0013】
上記請求項3記載の発明では、前記高設栽培領域における栽培方式として、前記移動式高設ベンチに設けられた栽培槽に培養液を供給して、そこに作物が植えられた鉢を浸し、鉢底から給水する底面給水方式とするのが好ましい。これにより、高設栽培領域における給水の管理がしやすくなる。
【0014】
請求項4に係る本発明として、前記移動式高設ベンチは、地面に敷設されたレール上を走行することにより移動可能とされている請求項1~3いずれかに記載の太陽光発電施設での作物栽培システムが提供される。
【0015】
上記請求項4記載の発明では、前記移動式高設ベンチの移動形態として、太陽光パネル下と通路とに亘って地面にレールを敷設するとともに、前記移動式高設ベンチの下端に、このレール上を走行可能な車輪などを設けておき、移動式高設ベンチが前記レール上を走行することにより移動できるようにしている。これにより、移動式高設ベンチの移動が簡単に行えるようになる。
【0016】
請求項5に係る本発明として、前記通路に日照センサが設置され、前記日照センサが日照を検知したときに、前記移動式高設ベンチを前記通路に移動し、それ以外のときは前記移動式高設ベンチを前記太陽光パネル下に配置するように制御されている請求項1~4いずれかに記載の太陽光発電施設での作物栽培システムが提供される。
【0017】
上記請求項5記載の発明では、通路に日照センサを設置しておき、この日照センサが日照を検知したときに、移動式高設ベンチが通路に移動し、それ以外のときは移動式高設ベンチが太陽光パネル下に配置されるようにしている。前記日照センサによって日照が自動的に検知されるため、前記移動式高設ベンチを移動する際の作業が省力化できる。
【発明の効果】
【0018】
以上詳説のとおり本発明によれば、太陽光発電施設において、土地を有効活用して作物が栽培できるとともに、日光を好み日陰では育たない植物も栽培でき、かつ高収量で高収益の作物が栽培できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】通路3に日照がないときの本発明に係る作物栽培システム1の側面図である。
【
図2】通路3に日照があるときの本発明に係る作物栽培システム1の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0021】
本発明に係る作物栽培システム1は、
図1及び
図2に示されるように、通路3を挟んで複数の太陽光パネル2が並設された太陽光発電施設で作物を栽培するシステムである。
【0022】
前記太陽光パネル2は、
図1及び
図2の紙面と垂直方向に直線状に複数並べて配置されており、この直線状に配置された太陽光パネル列が、
図1及び
図2の左右方向に通路3を挟んで複数列に亘って並設されている。これによって、直線状に配置された太陽光パネル2の列と、直線状の通路3とが交互に複数配列されるようになる。
【0023】
前記太陽光パネル2は、
図1及び
図2に示されるように架台4の上に並べて固定されている。前記架台4は、図示しない地面に埋設された基礎又は杭の上に固設されることにより、地面にしっかりと定着している。
【0024】
前記太陽光パネル2は、地面から所定の高さ位置で発電に適した方角及び傾斜角度で配置されている。地面から太陽光パネル2下端までの高さHとしては、メンテナンスなどの際に人が入れる程度の高さを有し、後述する高設栽培領域6で栽培する作物の上端が太陽光パネル2の裏面にぶつからない程度の高さが好ましく、具体的には0.5~2.5m、好ましくは1~2mであるのがよい。
【0025】
前記通路3は、メンテナンスのときなどに人や機器が通行できる幅を有するとともに、南側に隣接する太陽光パネル2の陰の影響を最小化する幅が確保されている。前記通路3の幅Wは、太陽光パネル2の傾斜角度などによっても異なるが、○○~○○mとするのが好ましい。
【0026】
本作物栽培システム1では、前記太陽光パネル2の下の地面に作物が地植えされる土耕栽培領域5と、前記太陽光パネル2の下の空間と通路3とを移動可能な移動式高設ベンチ7上で作物が栽培される高設栽培領域6とが備えられている。すなわち、太陽光パネル2の下の空間では、地面に直接地植えされる土耕栽培領域5と、その上方に配置される移動式高設ベンチ7上に設けられた高設栽培領域6との2段の栽培領域によって作物が栽培可能となっている。
【0027】
以下、各栽培領域について詳細に説明すると、
先ずはじめに前記土耕栽培領域5は、上方が太陽光パネル2で覆われるとともに、ほぼ前記架台4で囲われた空間の地面部分であり、地面の土壌に直接作物を植え付けて栽培する領域である。このため、必要に応じて土壌の耕耘や施肥が行われる。
【0028】
この土耕栽培領域5は、上方が太陽光パネル2で覆われているため、日差しが遮られ、大部分が日陰となる。したがって、この土耕栽培領域5では、日陰でも栽培できる陰生植物(例えば、ミョウガ、サカキ、きのこ類、ふき、ドクダミ、みつば、せり、しそ、にら)を栽培するのが好ましい。特に、前記土耕栽培領域5の上方には前記高設栽培領域6の移動式高設ベンチ7が配置されるため、成長してもあまり背丈が高くならない作物(例えば、きのこ類、ふき、ドクダミ、みつば、せり、にら)が好ましい。
【0029】
前記土耕栽培領域5における光量不足を補うため、前記架台4や移動式高設ベンチ7に照明装置を設置してもよい。この照明装置に必要な電力は、前記太陽光パネル2で発電した電力を用いるのが望ましい。
【0030】
前記土耕栽培領域5は、上方が太陽光パネル2で覆われているため、作物に雨が当たりにくくなっている。そこで、図示しない散水装置を設けて土耕栽培領域5に散水を行ってもよい。前記散水装置は、土耕栽培領域5の外側の地面に設置し、土耕栽培領域5内に散水するようにしてもよいし、太陽光パネル2の架台4や移動式高設ベンチ7に設置し、土耕栽培領域5の上方から散水するようにしてもよい。前記散水装置による散水は自動で制御することができ、この際に用いられる電力は、前記太陽光パネル2で発電した電力を用いるのが望ましい。なお、特別に上述のような散水装置を設けなくても、太陽光パネル2を流れる雨水を樋などで受け、それを土耕栽培領域5に流す機構を設けてもよい。
【0031】
次いで、前記高設栽培領域6について説明する。前記高設栽培領域6は、前記移動式高設ベンチ7の上で作物が栽培される領域である。前記移動式高設ベンチ7は、太陽光パネル2下と通路3との間を移動可能とされたテーブルであり、このテーブルの上に前記高設栽培領域6が設けられている。前記移動式高設ベンチ7は、複数のモジュールからなる太陽光パネル2を支持するそれぞれの架台4(アレイ)に、1台又は複数台設置されている。好ましくは、1つのアレイの架台4の脚部間に、1台の移動式高設ベンチ7が配置されるようになっている。
【0032】
前記移動式高設ベンチ7は、略方形状の板材、枠材及び/又は網材などからなる天部9と、この天部9を支持する脚部10とを備えている。前記脚部10は、略方形状の天部9に対して、少なくとも四隅に備えられている。すなわち、移動式高設ベンチ7の移動方向の両側部にそれぞれ、移動方向に間隔を空けて2本ずつ設けるのを基本形態とし、移動方向の脚部列の本数を、移動方向に間隔を空けて3本以上としてもよいし、このように配置した移動方向の脚部列を、移動式高設ベンチ7の移動方向と直交する方向の中間部にも同様に配置してもよい。
【0033】
前記天部9の高さとしては、土耕栽培領域5に植え付けられた作物が成長するのに充分な高さを有するとともに、作業者が高設栽培領域6における作物の管理や収穫などの作業がし易い高さとするのが好ましく、具体的には0.3~1.2m、特に0.5~1mとするのがよい。
【0034】
この移動式高設ベンチ7の天部9の上には、作物を栽培するための栽培槽8が設けられている。前記栽培槽8は、この槽内で作物が栽培できるように構成されていれば特に制限はないが、前記栽培槽8に培養液13を供給して、そこに作物が植え付けられた鉢14を浸し、鉢底から給水する底面給水方式によって作物に給水がなされるようにしたものが特に好ましい。これにより、鉢14に植えられた作物に効率よく給水でき、培養液13の養分を作物に確実に供給することができる。更に、前記移動式高設ベンチ7の天部9及び前記栽培槽8として透光性の高い部材、例えば透明な樹脂製の板材で構成したり、枠材及び網材のいずれか一方又は両者の組み合わせで構成したりすることにより、栽培槽8に土を敷き詰めた場合より、栽培槽8に培養液13を満たした場合の方が、下層側への透光性を高めることができ、土耕栽培領域5の光量を少しでも多くすることができるようになる。
【0035】
前記鉢14は、移動式高設ベンチ7を移動する際の振動や慣性力などによって転倒や移動が生じないように、栽培槽8の底面に固定できるようにしたり、栽培槽8の上部開口を覆う蓋材を設けるとともに、この蓋材に鉢14が嵌合する開口を設けたりすることにより、栽培槽8に固定できるようにするのが好ましい。
【0036】
前記移動式高設ベンチ7は、太陽光パネル2下の領域と、この太陽光パネル2下の領域に隣接する通路3とを移動可能とされている。前記移動式高設ベンチ7が太陽光パネル2下の領域から移動する通路3は、
図1及び
図2に示されるように、傾斜して設置された太陽光パネル2のうち設置高さが高い側に隣接する通路3である。
【0037】
前記移動式高設ベンチ7は、太陽光パネル2下と通路3との間を移動する際、前記脚部10の下端に備えられた地面上を自由に移動できるキャスターによって移動できるようにしてもよいが、地面に敷設されたレール11上を走行することにより移動できるようにした方がスムーズに少ない労力で出し入れができるので好ましい。前記レール11上を移動可能とするには、
図1及び
図2に示されるように、太陽光パネル2下と通路3とに亘るレール11を敷設しておき、前記脚部10の下端に設けられた車輪12が、前記レール11上を回転することにより走行可能とすることができる。また、図示しないが、レール11の上面を脚部10の下端が摺動することにより走行可能としてもよい。
【0038】
このようにして移動可能とされた移動式高設ベンチ7は、
図2に示されるように、通路3に日照があるとき、又は通路3に日照がないときでも日中の一定の時間帯に、通路3に移動する。これにより、高設栽培領域6の作物に直射日光が当たるため、又は太陽光パネル2下より明るくなるため、高設栽培領域6に植え付けた作物の生育が促進されるようになる。
【0039】
一方、
図1に示されるように、上記以外のとき、又は太陽光パネル2のメンテナンスなどのため通路3を人や機器が通行するとき、前記移動式高設ベンチ7を太陽光パネル2下に移動する。これにより、通路3の通行に支障がある障害物が無くなり、通路3を人や機器が自由に通行できるようになる。
【0040】
このように、前記高設栽培領域6では、移動式高設ベンチ7を通路3に移動することにより日照が確保されるため、日光を好み日陰では育たない陽性植物(例えば、水稲、かぼちゃ、トマト、きゅうり、キャベツ、ナス、スイカ、メロン、大豆、落花生)や、陽性植物と陰生植物の間の性質を持つ半陰生植物(例えば、ブルーベリー、茶、ねぎ、ホウレンソウ、小松菜、かぶ、レタス、春菊、パセリ、イチゴ)を栽培することができる。
【0041】
また、前記高設栽培領域6では、前記移動式高設ベンチ7を太陽光パネル2下に配置した状態のままとして移動させない、又は直射日光が当たる時間帯を避けて通路3に移動させることにより、上述の陰生植物を栽培することも可能である。この場合は、太陽光パネル2の裏面のメンテナンスなどの際に、移動式高設ベンチ7を通路3に移動して、太陽光パネル2下における作業スペースを確保することができる。
【0042】
前記移動式高設ベンチ7を移動させるには、作業員が移動式高設ベンチ7を人力で動かすようにしてもよいが、電動で移動できるようにすることで作業の省力化を図るのが好ましい。前記移動式高設ベンチ7を電動で移動させるには、ワイヤの先端を移動式高設ベンチ7に固定しておき、このワイヤをウインチで巻き取る方式や、油圧又は空圧のシリンダのストロークによって移動する方式などを採用できる。電動で移動させる際の電力は、太陽光パネル2で発電された電力を用いるのが望ましい。
【0043】
図1及び
図2に示されるように、通路3に日照があることを検知するため、通路3に日照センサ15を設置することができる。この日照センサ15が日照を検知したときに、前記移動式高設ベンチ7を通路3に移動し、それ以外のときは移動式高設ベンチ7を太陽光パネル2下に配置するように制御することができる。この制御は、コンピュータなどを用いて自動で行うのがよい。
【0044】
太陽光発電施設に本発明に係る作物栽培システム1を導入することにより、太陽光パネル2下の土耕栽培領域5で作物が地植えされるため、大雨時の土砂災害の軽減に寄与できるという効果もある。また、林地などを開拓して太陽光発電施設を新たに建設するなどの場合、太陽光発電施設で作物を栽培することによって、国土の緑化率が低下するという欠点を補うことができる。
【符号の説明】
【0045】
1…作物栽培システム、2…太陽光パネル、3…通路、4…架台、5…土耕栽培領域、6…高設栽培領域、7…移動式高設ベンチ、8…栽培槽、9…天部、10…脚部、11…レール、12…車輪、13…培養液、14…鉢、15…日照センサ
【手続補正書】
【提出日】2022-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通路を挟んで複数の太陽光パネルが並設された太陽光発電施設での作物栽培システムであって、
前記太陽光パネル下の地面に作物が地植えされる土耕栽培領域と、前記太陽光パネル下と前記通路とを移動可能な移動式高設ベンチ上で作物が栽培される高設栽培領域とが備えられていることを特徴とする太陽光発電施設での作物栽培システム。
【請求項2】
前記土耕栽培領域では陰性植物が栽培され、前記高設栽培領域では半陰性植物及び陽性植物のいずれか一方又は両方が栽培されている請求項1記載の太陽光発電施設での作物栽培システム。
【請求項3】
前記高設栽培領域では、前記移動式高設ベンチに設けられた栽培槽において作物が底面給水方式で栽培されている請求項1記載の太陽光発電施設での作物栽培システム。
【請求項4】
前記移動式高設ベンチは、地面に敷設されたレール上を走行することにより移動可能とされている請求項1記載の太陽光発電施設での作物栽培システム。
【請求項5】
前記通路に日照センサが設置され、前記日照センサが日照を検知したときに、前記移動式高設ベンチを前記通路に移動し、それ以外のときは前記移動式高設ベンチを前記太陽光パネル下に配置するように制御されている請求項1記載の太陽光発電施設での作物栽培システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電施設の土地を有効活用して作物が栽培できるようにした太陽光発電施設での作物栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、太陽光発電施設の土地の有効活用を図るため、太陽光パネルによる発電と並行して、太陽光パネル下の領域で作物を栽培する技術が提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1~3には、太陽光パネル下の土壌に作物を地植えして土耕栽培することが開示されている。また、下記特許文献4、5には、太陽光パネル下に水耕ベンチを設置して作物を高設栽培することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-119709号公報
【特許文献2】実用新案登録第3183330号公報
【特許文献3】特許第5960332号公報
【特許文献4】特許第5791211号公報
【特許文献5】特許第5791215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、太陽光パネル下で作物を栽培する場合、太陽光パネルによって日差しが遮られるため、日光を好み日陰では育たない、例えばトマト、きゅうり、キャベツなどの陽性植物を栽培することはできなかった。また、上記特許文献3~5では、太陽光パネルに透光領域を設けて太陽光パネル下での日照を確保したり、光反射性を有する反射シートを設置して内部に導光したり、補助灯によって光量の不足を補ったりしているが、それでも上方に太陽光パネルが設置されない場合に比べて光量がかなり弱く、陽性植物が栽培できる環境ではなかった。
【0006】
また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「地上設置型太陽光発電システムの設計ガイドライン」では、複数の太陽電池アレイを設置する場合は、陰の影響を最小化するための離隔距離の確保が必要となることが指摘されるとともに、敷地を有効活用するために、傾斜角を小さくし離隔距離を短くする場合には、メンテナンススペースの確保に留意することが指摘されている。更に、資源エネルギー庁の「事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)」では、運転開始後に適切な保守点検及び維持管理が可能となるよう、そのための通路・スペースを十分に確保した設計を行うことが求められている。このように、太陽光発電施設では、通路を挟んで複数の太陽光パネルを並設する場合、陰の影響を軽減するとともに、メンテナンススペースを確保するため、太陽光パネル間に所定幅以上の通路を設ける必要がある。ところが、このような通路は、冬至付近の日が低いときを除いて日中は充分な日照があるにもかかわらず、メンテナンスのときに使用する以外はほとんど利用されない無駄なスペースであった。
【0007】
そこで本発明の主たる課題は、太陽光発電施設において、土地を有効活用して作物が栽培できるようにするとともに、日光を好み日陰では育たない植物も栽培でき、かつ高収量で高収益の作物が栽培できる作物栽培システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、通路を挟んで複数の太陽光パネルが並設された太陽光発電施設での作物栽培システムであって、
前記太陽光パネル下の地面に作物が地植えされる土耕栽培領域と、前記太陽光パネル下と前記通路とを移動可能な移動式高設ベンチ上で作物が栽培される高設栽培領域とが備えられていることを特徴とする太陽光発電施設での作物栽培システムが提供される。
【0009】
上記請求項1記載の発明では、太陽光パネル下の地面に作物が直接地植えされる土耕栽培領域と、太陽光パネル下と通路とを移動可能な移動式高設ベンチ上で作物が栽培される高設栽培領域とを備えている。このように、本発明に係る作物栽培システムでは、前記土耕栽培領域と高設栽培領域との2つの栽培領域で作物が栽培できるため、太陽光発電施設の土地を有効活用して作物が栽培でき、高収量で高収益の作物栽培が可能となる。また、前記高設栽培領域を形成する移動式高設ベンチが、太陽光パネル下と通路とを移動可能とされているため、通路に日が差す日中は、前記移動式高設ベンチを通路に移動して高設栽培領域に植えられた作物に充分に日光を当てることができ、通路の日差しが無くなる夜間や太陽光パネルのメンテナンスのときなどは、前記移動式高設ベンチを太陽光パネル下に移動して通路を人や機器が通れるようにすることができる。これにより、前記高設栽培領域において、日光を好み日陰では育たない植物も栽培できるため、従来のように陰生植物に限らず、陽性植物や半陰性植物も栽培でき、高収量で高収益の作物栽培が可能になる。
【0010】
請求項2に係る本発明として、前記土耕栽培領域では陰性植物が栽培され、前記高設栽培領域では半陰性植物及び陽性植物のいずれか一方又は両方が栽培されている請求項1記載の太陽光発電施設での作物栽培システムが提供される。
【0011】
上記請求項2記載の発明では、前記土耕栽培領域では、上方に設置された太陽光パネルによって日照が遮られるため、日陰でも栽培できる陰生植物を栽培し、前記高設栽培領域では、移動式高設ベンチを通路に移動することにより日照が確保されるため、日光を好み日陰では育たない陽性植物や、陽性植物と陰生植物の間の性質を持つ半陰生植物を栽培することができる。
【0012】
請求項3に係る本発明として、前記高設栽培領域では、前記移動式高設ベンチに設けられた栽培槽において作物が底面給水方式で栽培されている請求項1記載の太陽光発電施設での作物栽培システムが提供される。
【0013】
上記請求項3記載の発明では、前記高設栽培領域における栽培方式として、前記移動式高設ベンチに設けられた栽培槽に培養液を供給して、そこに作物が植えられた鉢を浸し、鉢底から給水する底面給水方式とするのが好ましい。これにより、高設栽培領域における給水の管理がしやすくなる。
【0014】
請求項4に係る本発明として、前記移動式高設ベンチは、地面に敷設されたレール上を走行することにより移動可能とされている請求項1記載の太陽光発電施設での作物栽培システムが提供される。
【0015】
上記請求項4記載の発明では、前記移動式高設ベンチの移動形態として、太陽光パネル下と通路とに亘って地面にレールを敷設するとともに、前記移動式高設ベンチの下端に、このレール上を走行可能な車輪などを設けておき、移動式高設ベンチが前記レール上を走行することにより移動できるようにしている。これにより、移動式高設ベンチの移動が簡単に行えるようになる。
【0016】
請求項5に係る本発明として、前記通路に日照センサが設置され、前記日照センサが日照を検知したときに、前記移動式高設ベンチを前記通路に移動し、それ以外のときは前記移動式高設ベンチを前記太陽光パネル下に配置するように制御されている請求項1記載の太陽光発電施設での作物栽培システムが提供される。
【0017】
上記請求項5記載の発明では、通路に日照センサを設置しておき、この日照センサが日照を検知したときに、移動式高設ベンチが通路に移動し、それ以外のときは移動式高設ベンチが太陽光パネル下に配置されるようにしている。前記日照センサによって日照が自動的に検知されるため、前記移動式高設ベンチを移動する際の作業が省力化できる。
【発明の効果】
【0018】
以上詳説のとおり本発明によれば、太陽光発電施設において、土地を有効活用して作物が栽培できるとともに、日光を好み日陰では育たない植物も栽培でき、かつ高収量で高収益の作物が栽培できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】通路3に日照がないときの本発明に係る作物栽培システム1の側面図である。
【
図2】通路3に日照があるときの本発明に係る作物栽培システム1の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0021】
本発明に係る作物栽培システム1は、
図1及び
図2に示されるように、通路3を挟んで複数の太陽光パネル2が並設された太陽光発電施設で作物を栽培するシステムである。
【0022】
前記太陽光パネル2は、
図1及び
図2の紙面と垂直方向に直線状に複数並べて配置されており、この直線状に配置された太陽光パネル列が、
図1及び
図2の左右方向に通路3を挟んで複数列に亘って並設されている。これによって、直線状に配置された太陽光パネル2の列と、直線状の通路3とが交互に複数配列されるようになる。
【0023】
前記太陽光パネル2は、
図1及び
図2に示されるように架台4の上に並べて固定されている。前記架台4は、図示しない地面に埋設された基礎又は杭の上に固設されることにより、地面にしっかりと定着している。
【0024】
前記太陽光パネル2は、地面から所定の高さ位置で発電に適した方角及び傾斜角度で配置されている。地面から太陽光パネル2下端までの高さHとしては、メンテナンスなどの際に人が入れる程度の高さを有し、後述する高設栽培領域6で栽培する作物の上端が太陽光パネル2の裏面にぶつからない程度の高さが好ましく、具体的には0.5~2.5m、好ましくは1~2mであるのがよい。
【0025】
前記通路3は、メンテナンスのときなどに人や機器が通行できる幅を有するとともに、南側に隣接する太陽光パネル2の陰の影響を最小化する幅が確保されている。前記通路3の幅Wは、太陽光パネル2の傾斜角度などによっても異なるが、○○~○○mとするのが好ましい。
【0026】
本作物栽培システム1では、前記太陽光パネル2の下の地面に作物が地植えされる土耕栽培領域5と、前記太陽光パネル2の下の空間と通路3とを移動可能な移動式高設ベンチ7上で作物が栽培される高設栽培領域6とが備えられている。すなわち、太陽光パネル2の下の空間では、地面に直接地植えされる土耕栽培領域5と、その上方に配置される移動式高設ベンチ7上に設けられた高設栽培領域6との2段の栽培領域によって作物が栽培可能となっている。
【0027】
以下、各栽培領域について詳細に説明すると、
先ずはじめに前記土耕栽培領域5は、上方が太陽光パネル2で覆われるとともに、ほぼ前記架台4で囲われた空間の地面部分であり、地面の土壌に直接作物を植え付けて栽培する領域である。このため、必要に応じて土壌の耕耘や施肥が行われる。
【0028】
この土耕栽培領域5は、上方が太陽光パネル2で覆われているため、日差しが遮られ、大部分が日陰となる。したがって、この土耕栽培領域5では、日陰でも栽培できる陰生植物(例えば、ミョウガ、サカキ、きのこ類、ふき、ドクダミ、みつば、せり、しそ、にら)を栽培するのが好ましい。特に、前記土耕栽培領域5の上方には前記高設栽培領域6の移動式高設ベンチ7が配置されるため、成長してもあまり背丈が高くならない作物(例えば、きのこ類、ふき、ドクダミ、みつば、せり、にら)が好ましい。
【0029】
前記土耕栽培領域5における光量不足を補うため、前記架台4や移動式高設ベンチ7に照明装置を設置してもよい。この照明装置に必要な電力は、前記太陽光パネル2で発電した電力を用いるのが望ましい。
【0030】
前記土耕栽培領域5は、上方が太陽光パネル2で覆われているため、作物に雨が当たりにくくなっている。そこで、図示しない散水装置を設けて土耕栽培領域5に散水を行ってもよい。前記散水装置は、土耕栽培領域5の外側の地面に設置し、土耕栽培領域5内に散水するようにしてもよいし、太陽光パネル2の架台4や移動式高設ベンチ7に設置し、土耕栽培領域5の上方から散水するようにしてもよい。前記散水装置による散水は自動で制御することができ、この際に用いられる電力は、前記太陽光パネル2で発電した電力を用いるのが望ましい。なお、特別に上述のような散水装置を設けなくても、太陽光パネル2を流れる雨水を樋などで受け、それを土耕栽培領域5に流す機構を設けてもよい。
【0031】
次いで、前記高設栽培領域6について説明する。前記高設栽培領域6は、前記移動式高設ベンチ7の上で作物が栽培される領域である。前記移動式高設ベンチ7は、太陽光パネル2下と通路3との間を移動可能とされたテーブルであり、このテーブルの上に前記高設栽培領域6が設けられている。前記移動式高設ベンチ7は、複数のモジュールからなる太陽光パネル2を支持するそれぞれの架台4(アレイ)に、1台又は複数台設置されている。好ましくは、1つのアレイの架台4の脚部間に、1台の移動式高設ベンチ7が配置されるようになっている。
【0032】
前記移動式高設ベンチ7は、略方形状の板材、枠材及び/又は網材などからなる天部9と、この天部9を支持する脚部10とを備えている。前記脚部10は、略方形状の天部9に対して、少なくとも四隅に備えられている。すなわち、移動式高設ベンチ7の移動方向の両側部にそれぞれ、移動方向に間隔を空けて2本ずつ設けるのを基本形態とし、移動方向の脚部列の本数を、移動方向に間隔を空けて3本以上としてもよいし、このように配置した移動方向の脚部列を、移動式高設ベンチ7の移動方向と直交する方向の中間部にも同様に配置してもよい。
【0033】
前記天部9の高さとしては、土耕栽培領域5に植え付けられた作物が成長するのに充分な高さを有するとともに、作業者が高設栽培領域6における作物の管理や収穫などの作業がし易い高さとするのが好ましく、具体的には0.3~1.2m、特に0.5~1mとするのがよい。
【0034】
この移動式高設ベンチ7の天部9の上には、作物を栽培するための栽培槽8が設けられている。前記栽培槽8は、この槽内で作物が栽培できるように構成されていれば特に制限はないが、前記栽培槽8に培養液13を供給して、そこに作物が植え付けられた鉢14を浸し、鉢底から給水する底面給水方式によって作物に給水がなされるようにしたものが特に好ましい。これにより、鉢14に植えられた作物に効率よく給水でき、培養液13の養分を作物に確実に供給することができる。更に、前記移動式高設ベンチ7の天部9及び前記栽培槽8として透光性の高い部材、例えば透明な樹脂製の板材で構成したり、枠材及び網材のいずれか一方又は両者の組み合わせで構成したりすることにより、栽培槽8に土を敷き詰めた場合より、栽培槽8に培養液13を満たした場合の方が、下層側への透光性を高めることができ、土耕栽培領域5の光量を少しでも多くすることができるようになる。
【0035】
前記鉢14は、移動式高設ベンチ7を移動する際の振動や慣性力などによって転倒や移動が生じないように、栽培槽8の底面に固定できるようにしたり、栽培槽8の上部開口を覆う蓋材を設けるとともに、この蓋材に鉢14が嵌合する開口を設けたりすることにより、栽培槽8に固定できるようにするのが好ましい。
【0036】
前記移動式高設ベンチ7は、太陽光パネル2下の領域と、この太陽光パネル2下の領域に隣接する通路3とを移動可能とされている。前記移動式高設ベンチ7が太陽光パネル2下の領域から移動する通路3は、
図1及び
図2に示されるように、傾斜して設置された太陽光パネル2のうち設置高さが高い側に隣接する通路3である。
【0037】
前記移動式高設ベンチ7は、太陽光パネル2下と通路3との間を移動する際、前記脚部10の下端に備えられた地面上を自由に移動できるキャスターによって移動できるようにしてもよいが、地面に敷設されたレール11上を走行することにより移動できるようにした方がスムーズに少ない労力で出し入れができるので好ましい。前記レール11上を移動可能とするには、
図1及び
図2に示されるように、太陽光パネル2下と通路3とに亘るレール11を敷設しておき、前記脚部10の下端に設けられた車輪12が、前記レール11上を回転することにより走行可能とすることができる。また、図示しないが、レール11の上面を脚部10の下端が摺動することにより走行可能としてもよい。
【0038】
このようにして移動可能とされた移動式高設ベンチ7は、
図2に示されるように、通路3に日照があるとき、又は通路3に日照がないときでも日中の一定の時間帯に、通路3に移動する。これにより、高設栽培領域6の作物に直射日光が当たるため、又は太陽光パネル2下より明るくなるため、高設栽培領域6に植え付けた作物の生育が促進されるようになる。
【0039】
一方、
図1に示されるように、上記以外のとき、又は太陽光パネル2のメンテナンスなどのため通路3を人や機器が通行するとき、前記移動式高設ベンチ7を太陽光パネル2下に移動する。これにより、通路3の通行に支障がある障害物が無くなり、通路3を人や機器が自由に通行できるようになる。
【0040】
このように、前記高設栽培領域6では、移動式高設ベンチ7を通路3に移動することにより日照が確保されるため、日光を好み日陰では育たない陽性植物(例えば、水稲、かぼちゃ、トマト、きゅうり、キャベツ、ナス、スイカ、メロン、大豆、落花生)や、陽性植物と陰生植物の間の性質を持つ半陰生植物(例えば、ブルーベリー、茶、ねぎ、ホウレンソウ、小松菜、かぶ、レタス、春菊、パセリ、イチゴ)を栽培することができる。
【0041】
また、前記高設栽培領域6では、前記移動式高設ベンチ7を太陽光パネル2下に配置した状態のままとして移動させない、又は直射日光が当たる時間帯を避けて通路3に移動させることにより、上述の陰生植物を栽培することも可能である。この場合は、太陽光パネル2の裏面のメンテナンスなどの際に、移動式高設ベンチ7を通路3に移動して、太陽光パネル2下における作業スペースを確保することができる。
【0042】
前記移動式高設ベンチ7を移動させるには、作業員が移動式高設ベンチ7を人力で動かすようにしてもよいが、電動で移動できるようにすることで作業の省力化を図るのが好ましい。前記移動式高設ベンチ7を電動で移動させるには、ワイヤの先端を移動式高設ベンチ7に固定しておき、このワイヤをウインチで巻き取る方式や、油圧又は空圧のシリンダのストロークによって移動する方式などを採用できる。電動で移動させる際の電力は、太陽光パネル2で発電された電力を用いるのが望ましい。
【0043】
図1及び
図2に示されるように、通路3に日照があることを検知するため、通路3に日照センサ15を設置することができる。この日照センサ15が日照を検知したときに、前記移動式高設ベンチ7を通路3に移動し、それ以外のときは移動式高設ベンチ7を太陽光パネル2下に配置するように制御することができる。この制御は、コンピュータなどを用いて自動で行うのがよい。
【0044】
太陽光発電施設に本発明に係る作物栽培システム1を導入することにより、太陽光パネル2下の土耕栽培領域5で作物が地植えされるため、大雨時の土砂災害の軽減に寄与できるという効果もある。また、林地などを開拓して太陽光発電施設を新たに建設するなどの場合、太陽光発電施設で作物を栽培することによって、国土の緑化率が低下するという欠点を補うことができる。
【符号の説明】
【0045】
1…作物栽培システム、2…太陽光パネル、3…通路、4…架台、5…土耕栽培領域、6…高設栽培領域、7…移動式高設ベンチ、8…栽培槽、9…天部、10…脚部、11…レール、12…車輪、13…培養液、14…鉢、15…日照センサ