(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156730
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】海草の生育基盤の形成方法
(51)【国際特許分類】
A01G 33/00 20060101AFI20231018BHJP
A01K 61/73 20170101ALI20231018BHJP
【FI】
A01G33/00
A01K61/73
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066267
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】末岡 一男
(72)【発明者】
【氏名】田谷 全康
(72)【発明者】
【氏名】玉上 和範
【テーマコード(参考)】
2B003
2B026
【Fターム(参考)】
2B003AA01
2B003DD06
2B003EE04
2B026AB05
(57)【要約】
【課題】海底にアマモ類などの海草が生育し易い生育基盤を簡易に形成できる海草の生育基盤の形成方法を提供する。
【解決手段】
海底Bの土砂の間隙水にケイ酸イオンを供給してその間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるケイ酸イオン供給材1を設けることによって、海草Kの生育基盤を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海草の生育基盤を形成する海底の土砂の間隙水にケイ酸イオンを供給して前記間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるケイ酸イオン供給材を設けることを特徴とする海草の生育基盤の形成方法。
【請求項2】
前記ケイ酸イオン供給材として、木炭、竹炭、もみ殻くん炭、珪藻岩、珪藻土、カンラン石、海草の乾燥物またはダム湖堆積物のいずれかを使用する請求項1に記載の海草の生育基盤の形成方法。
【請求項3】
破片状または粉末状の前記ケイ酸イオン供給材を、粘着材によってまとめた状態で前記海底に設ける請求項1または2に記載の海草の生育基盤の形成方法。
【請求項4】
棒状の前記ケイ酸イオン供給材を前記海底に挿設する請求項1または2に記載の海草の生育基盤の形成方法。
【請求項5】
前記ケイ酸イオン供給材を収容した透水可能な構造の管状部材を前記海底に挿設する請求項1または2に記載の海草の生育基盤の形成方法。
【請求項6】
前記ケイ酸イオン供給材を収容した透水可能な構造の袋部材を前記海底に設置する請求項1または2に記載の海草の生育基盤の形成方法。
【請求項7】
前記ケイ酸イオン供給材を収容した透水可能な構造の箱体を前記海底に設置する請求項1または2に記載の海草の生育基盤の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海草の生育基盤の形成方法に関し、さらに詳しくは、海底にアマモ類などの海草が生育し易い生育基盤を簡易に形成できる海草の生育基盤の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水生生物が生育し易い環境を形成するには、海底に水生生物の住処や隠れ場所となるアマモ類などの海草を繁茂させることが好ましい。従来、海底に海草の生育基盤を形成する方法として、海底に海草生育用モルタルプレートを設置する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に記載の発明では、特殊な構造の海草生育プレートを製造して、海底に多数の海草生育プレートを設置する必要がある。そのため、海底の広い範囲に海草の生育基盤を形成するには、比較的多くのコストと時間を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、海底にアマモ類などの海草が生育し易い生育基盤を簡易に形成できる海草の生育基盤の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明の海草の生育基盤の形成方法は、海草の生育基盤を形成する海底の土砂の間隙水にケイ酸イオンを供給して前記間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるケイ酸イオン供給材を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ケイ酸イオンはアマモ類などの海草の生育を促進する効果を有しているので、海草の生育基盤を形成する海底の土砂の間隙水にケイ酸イオンを供給してその間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるケイ酸イオン供給材を設けることで、海草が生育し易い生育基盤を簡易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】破片状のケイ酸イオン供給材を海底に埋設した状態を断面視で例示する説明図である。
【
図2】破片状のケイ酸イオン供給材を粘着材によってまとめた状態で海底に埋設した状態を断面視で例示する説明図である。
【
図3】棒状のケイ酸イオン供給材を海底に挿設した状態を断面視で例示する説明図である。
【
図4】ケイ酸イオン供給材を収容した金属製の管状部材を海底に挿設した状態を断面視で例示する説明図である。
【
図5】ケイ酸イオン供給材を収容した竹を加工して形成した管状部材を海底に挿設した状態を断面視で例示する説明図である。
【
図6】ケイ酸イオン供給材を収容した袋部材を海底に設置した状態を断面視で例示する説明図である。
【
図7】ケイ酸イオン供給材を収容した袋部材を海底に埋設した状態を断面視で例示する説明図である。
【
図8】ケイ酸イオン供給材を収容した箱体を海底に設置した状態を断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の海草の生育基盤の形成方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0009】
本発明者らは、海草Kの生育に影響を与える要因について様々な試験や分析を行った。その結果、ケイ酸イオンが海草Kの生育を促進する効果を有しており、海草Kが生育する海底Bの土砂の間隙水(土砂の土粒子間を満たしている水)のケイ酸イオン濃度を意図的に高めることで、海草Kがより生育し易い生育基盤を形成できることを見出した。特に、アマモ類の海草K、具体的には、例えば、アマモ、コアマモ、タチアマモ、オオアマモ、スゲアマモなどは、ケイ酸イオンによる生育促進効果が高く、海草Kが繁茂している海底Bの土砂の間隙水のケイ酸イオン濃度は海草Kが繁茂していない海底Bの土砂の間隙水のケイ酸イオン濃度に比して高い傾向にあることが分かった。
【0010】
そこで、本発明では、
図1に例示するように、アマモ類などの海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水にケイ酸イオンを供給してその間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるケイ酸イオン供給材1を設けることで、海底Bに海草Kの生育を促進する生育基盤を形成する。ケイ酸イオン供給材1としては、木炭、竹炭、もみ殻くん炭などの炭材や、珪藻岩、珪藻土、カンラン石などが例示できる。アマモ類などの海草Kはケイ酸イオンを吸収して蓄積するため、採取した海草Kの乾燥物をケイ酸イオン供給材1として使用することもできる。また、ダム湖の底に堆積するケイ酸塩鉱物や風化したケイ酸塩鉱物由来のケイ酸の沈殿物等で形成されたダム湖堆積物はケイ酸を多く含むため、ダム湖堆積物をケイ酸イオン供給材1として使用することもできる。
【0011】
海草Kは、根や茎などから海底Bの土砂の間隙水に含まれるケイ酸イオンを吸収する。海草Kの種類にもよるが、海草Kの根が張る深さは海底Bの表面から概ね20cm以内の深さである。そのため、海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水とは、海草Kの生育基盤となる海底Bの表面から例えば、30cm以内の深さにおける間隙水となる。それ故、ケイ酸イオン供給材1は、海底Bの表面から30cm以内の深さや海底B上に設けるとよい。
【0012】
ケイ酸イオン供給材1を意図的に設けていない海草Kが自然に繁茂し難い海底Bの土砂の間隙水中のケイ酸イオン濃度は、概ね、0.1mgSi/L~4mgSi/L程度である。一方で、ケイ酸イオン供給材1を意図的に設けていない海草Kが自然に繁茂しているような海底Bの土砂の間隙水中のケイ酸イオン濃度は、概ね4mgSi/L~30mgSi/L程度である。そのため、本発明では、ケイ酸イオン供給材1を設けることで、海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水中のケイ酸イオン濃度を、例えば4mgSi/L以上、より好ましくは7mgSi/L以上、さらに好ましくは10mgSi/L以上に高めるとよい。
【0013】
以下に、本発明において、海草Kの生育基盤を形成する海底Bにケイ酸イオン供給材1を設ける具体的な方法を説明する。
【0014】
図1に例示する実施形態では、ケイ酸イオン供給材1を海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂に混合することで、海底Bの土砂にケイ酸イオン供給材1を埋設している。より具体的には、ケイ酸イオン供給材1としてチップ状に破砕した木炭を、海底Bの土砂に混合して埋設している。このケイ酸イオン供給材1を海底Bに埋設する作業は、潜水士などにより容易に短時間で行うことができる。
【0015】
木炭に限らず、例えば、ケイ酸イオン供給材1として、竹炭やもみ殻くん炭、珪藻岩、珪藻土、カンラン石、海草Kの乾燥物、ダム湖堆積物などを用いる場合にも、同様に海底Bの土砂に混合して埋設することが可能である。複数種類のケイ酸イオン供給材1を組み合わせて海底Bに設けることもできる。
【0016】
上述したように、ケイ酸イオンはアマモ類などの海草Kの生育を促進する効果を有している。そのため、本発明によれば、海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水にケイ酸イオンを供給してその間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるケイ酸イオン供給材1を設けることで、海草Kが生育し易い生育基盤を簡易に形成することができる。本発明は、比較的簡素に低コストで海草Kの生育を促進する生育基盤を形成できるので、当業者にとって非常に有益である。
【0017】
この実施形態のように、ケイ酸イオン供給材1を海底Bに埋設する場合には、海底Bの表面から30cm以内の深さに設けると、ケイ酸イオン供給材1から溶出するケイ酸イオンが、海草Kの根が張る範囲の間隙水に留まり易くなるので、海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるには有利になる。ケイ酸イオン供給材1の表面積が広いほどケイ酸イオンは溶出し易くなるため、破片状や粉末状のケイ酸イオン供給材1を使用すると、間隙水のケイ酸イオン濃度を効率的に高めるには有利になる。
【0018】
ケイ酸イオン供給材1は、海底Bの土砂(海砂)よりもケイ酸イオンを供給する能力が高いものであれば特に限定されないが、ケイ酸イオン供給材1として特に、木炭、竹炭、もみ殻くん炭、珪藻岩、珪藻土、カンラン石、海草Kの乾燥物またはダム湖堆積物のいずれかを使用すると、間隙水のケイ酸イオン濃度を効果的に高めることができる。例えば、木炭や竹炭、もみ殻くん炭などの炭材はサイズにもよるが、概ね10年程度は継続してケイ酸イオンを溶出するので、海底Bにケイ酸イオン供給材1として炭材を設ければ10年程度は海草Kが生育し易い良好な生育基盤を維持することが可能である。
【0019】
図2に例示する実施形態では、破片状や粉末状のケイ酸イオン供給材1を、粘着材2によってまとめた状態で海底Bに設けている。より具体的には、ケイ酸イオン供給材1としてチップ状の木炭を用いて、複数のチップ状の木炭を粘着材2によってまとめた粘性を有する集合体(木炭および粘着材2)を海底Bの土砂に埋設している。粘着材2は、例えば、デンプンや寒天、ゼラチン、ペクチン、カラギーナン、ゲランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、カードラン、アルギン酸などの水中環境に影響の少ないもので作成するとよい。
【0020】
ひとつひとつのケイ酸イオン供給材1を小さくするほど、海底Bに設けるケイ酸イオン供給材1の総表面積を大きくできるので、間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるには有利になるが、その反面でケイ酸イオン供給材1が海流などによって流され易くなる。それに対して、この実施形態では、破片状または粉末状のケイ酸イオン供給材1を、粘着材2によってまとめた状態で海底Bに設けることで、ひとつひとつのケイ酸イオン供給材1を小さくしつつ、ケイ酸イオン供給材1が海流などによって流されることを簡易に抑制することができる。
【0021】
図3に例示する実施形態では、棒状のケイ酸イオン供給材1を海底Bに挿設している。より具体的には、ケイ酸イオン供給材1として棒状の木炭を海底Bに挿入することで、木炭を海底Bに固定している。このように、棒状のケイ酸イオン供給材1を海底Bに挿設すると、ケイ酸イオン供給材1を海底Bに簡易に安定した状態で固定できる。棒状のケイ酸イオン供給材1はハンマー等を用いることで、海底Bに容易に短時間で打設できる。複数の棒状のケイ酸イオン供給材1を互いに間隔をあけて挿設することで、海底Bの広範囲にケイ酸イオン供給材1を設けることも可能である。
【0022】
棒状のケイ酸イオン供給材1を海底Bに挿設する場合にも、ケイ酸イオン供給材1は海底Bの表面から30cm以内の深さに挿設するとよい。また、障害物にならないように棒状のケイ酸イオン供給材1は、上端が海底Bの表面から突出しない位置まで挿入するとよい。棒状のケイ酸イオン供給材1の長さ(挿入深さ)を例えば、10cm~30cmの範囲に設定すると棒状のケイ酸イオン供給材1を海底Bに安定して固定しつつ、海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水のケイ酸イオン濃度を効果的に高めることができる。
【0023】
図3に例示するように、この実施形態では、ケイ酸イオン供給材1として、芯部分を炭化させずに外周部分だけを炭化させた棒状の木炭を使用している。芯部分を炭化させていないことで、芯部分まで完全に炭化させる場合よりも、木炭の強度を高めることができる。これにより、ハンマー等を用いて木炭を海底Bに打設して挿入する場合にも、木炭がより破損し難くなり、木炭をより円滑に挿設し易くなる。
【0024】
また、芯部分を炭化させていないことで、芯部分まで完全に炭化させる場合よりも木炭の密度が大きくなるので、木炭が水中で浮き上がり難くなり、木炭を海底Bに挿設する作業をより行い易くなる。さらに、海底Bに挿設した木炭が海底Bから抜け難くなる。なお、本発明では、ケイ酸イオン供給材1として、芯部分まで炭化させた木炭を使用することもできるし、例えば、木炭以外の棒状に形成した炭材や珪藻岩などの他の棒状のケイ酸イオン供給材1を海底Bに挿設することもできる。
【0025】
図4に例示する実施形態では、ケイ酸イオン供給材1を収容した透水可能な構造の管状部材3を海底Bに挿設している。より具体的には、側面に複数の貫通孔が形成された有底の管状部材3の管内にチップ状の木炭を収容して、管状部材3の上部開口に蓋4をした状態で、管状部材3を海底Bに挿設している。管状部材3は例えば、単管杭の側面に貫通孔を形成することで、簡易に低コストで作成できる。管状部材3の上部開口を蓋4で塞ぐと、管状部材3を海底Bに挿入する過程や挿設した後に管状部材3の外部にケイ酸イオン供給材1が流出することをより確実に防ぐことができる。なお、蓋4は必要に応じて任意に設けることができる。例えば、蓋4を設けずに管状部材3を挿設した後に管状部材3の上部開口に海底Bの土砂を詰めて塞ぐこともできる。
【0026】
このように、透水可能な構造の管状部材3を使用すると、破片状のケイ酸イオン供給材1や強度の低いケイ酸イオン供給材1を使用する場合にも、ケイ酸イオン供給材1を海底Bに安定した状態で固定できる。例えば、もみ殻くん炭や粉末状の珪藻土などの細かいケイ酸イオン供給材1を使用する場合には、管状部材3の内側に透水可能な布材や網材を設けることで、管状部材3の貫通孔からケイ酸イオン供給材1が流出することを防ぐことが可能である。管状部材3はハンマー等を用いることで、海底Bに容易に短時間で挿設できる。ケイ酸イオン供給材1を収容した複数の管状部材3を互いに間隔をあけて挿設することで、海底Bの広範囲にケイ酸イオン供給材1を設けることも可能である。
【0027】
ケイ酸イオン供給材1を収容した管状部材3を海底Bに挿設する場合にも、管状部材3は海底Bの表面から30cm以内の深さに挿設するとよい。また、障害物にならないように管状部材3は、上端が海底Bの表面から突出しない位置まで挿入するとよい。管状部材3の長さ(挿入深さ)を例えば、10cm~30cmの範囲に設定すると管状部材3を海底Bに安定して固定しつつ、海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水のケイ酸イオン濃度を効果的に高めることができる。
【0028】
管状部材3は、金属や樹脂、木材などの様々な素材で形成することができるが、鉄製の管状部材3を使用すると、管状部材3から海草Kの生育に必要な鉄イオンが溶出するので、海草Kの生育を促進するには有利になる。管状部材3は、ケイ酸イオン供給材1が収容可能で透水可能な構造であればよく、この実施形態の他にも様々な構成にすることができる。
【0029】
図5に例示する実施形態では、竹を加工して作成した管状部材3を使用している。この竹製の管状部材3は、竹を10cm~30cm程度の長さで切断して、側面に孔をあけることで容易に低コストで作成できる。竹を加工して作成した管状部材3では内部に竹の節があるため、この実施形態では、チップ状の木炭を管状部材3の側面に形成した孔と上部開口から管状部材3の内部に詰めている。また、蓋4を設けずに竹製の管状部材3を海底Bに挿設した後に管状部材3の上部開口に海底Bの土砂を詰めて上部開口を塞いでいる。例えば、管状部材3の上部に竹の節を残して上部が開口していない構造にすることもできる。また、例えば、竹の節を取り除く加工を行い、管状部材3の上部開口からケイ酸イオン供給材1を詰めることが可能な構造にすることもできる。
【0030】
竹で作成した管状部材3を使用すると、管状部材3を海底Bから回収せずとも、管状部材3は海底Bで微生物などによって自然に徐々に分解されるので、水中環境により配慮した生育基盤を形成できる。この実施形態では、炭化させていない竹製の管状部材3を例示しているが、例えば、炭化させた竹製の管状部材3を使用すれば、管状部材3からもケイ酸イオンが溶出されるので海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるにはより有利になる。
【0031】
図6に例示する実施形態では、ケイ酸イオン供給材1を収容した透水可能な構造の袋部材5を海底Bに設置している。より具体的には、袋部材5として麻袋を使用して、袋部材5にチップ状の木炭を収容している。海底Bに杭6を打ち込んで、その杭6と袋部材5とを紐状体7で結ぶことで、袋部材5を海底Bに係留している。袋部材5を海底Bに設置(係留や固定)する方法は、この実施形態に限定されず、他にも様々な構成にすることができる。
【0032】
このように、透水可能な構造の袋部材5を使用すると、破片状や粉末状のケイ酸イオン供給材1や、強度の低いケイ酸イオン供給材1を海底Bにより安定した状態で設置できる。また、ケイ酸イオン供給材1を袋部材5に収容することで、ケイ酸イオン供給材1が水中に飛散することをより確実に防ぐことができる。袋部材5を使用すると多くのケイ酸イオン供給材1をまとめて設置することができるので、海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるにも有利になる。
【0033】
図7に例示する実施形態では、ケイ酸イオン供給材1を収容した透水可能な構造の袋部材5を海底Bに埋設している。この実施形態では、袋部材5の全体を海底Bの土砂の中に埋設しているが、袋部材5の一部を海底Bの土砂の中に埋設することもできる。このように、ケイ酸イオン供給材1を収容した透水可能な構造の袋部材5を海底Bに埋設すると、袋部材5を海底Bにより簡易に固定することができ、袋部材5によってケイ酸イオン供給材1が海流などによって流されることをより簡易に抑制できる。また、袋部材5の全体または一部を海底Bの土砂中に埋設することで、海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるにも有利になる。袋部材5を海底Bに埋設する場合にも、袋部材5は海底Bの表面から30cm以内の深さに埋設するとよい。
【0034】
図8に例示する実施形態では、ケイ酸イオン供給材1を収容した透水可能な構造の箱体8を海底Bに設置している。より具体的には、チップ状の木炭を透水可能な構造の袋部材5に収容し、その袋部材5を透水可能な構造の箱体8に収容している。箱体8は海底Bに挿し込む固定具9によって海底Bに固定している。箱体8の周面(底面や側面、上面)には複数の貫通孔が設けられている。この実施形態では、箱体8の底面、側面および上面にそれぞれ複数の貫通孔が設けられている。箱体8に設ける貫通孔の数や位置は海底Bの形状などに応じて適宜決定できる。なお、袋部材5を用いずに箱体8に直接ケイ酸イオン供給材1を収容した構成にすることもできる。箱体8を海底Bに設置(係留や固定)する方法はこの実施形態に限定されず、他にも様々な構成にすることができる。
【0035】
このように、透水可能な構造の箱体8を使用すると、破片状や粉末状のケイ酸イオン供給材1や、強度の低いケイ酸イオン供給材1を海底Bにより安定した状態で設置できる。また、ケイ酸イオン供給材1を箱体8に収容することで、ケイ酸イオン供給材1が水中に飛散することをより確実に防ぐことができる。箱体8を使用すると多くのケイ酸イオン供給材1をまとめて設置することができるので、海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるにも有利になる。
【0036】
この実施形態のように、箱体8の底面に複数の貫通孔を設けると、ケイ酸イオン供給材1から溶出するケイ酸イオンが海底Bの土砂の間隙水に供給され易くなるので、海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるには有利になる。さらに、箱体8の側面や上面にも貫通孔を設けると、側面や上面に設けられた貫通孔から箱体8の内部に水が流入し易くなり、箱体8の内部に収容されたケイ酸イオン供給材1からケイ酸イオンがより溶出し易くなるので、海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水のケイ酸イオン濃度を高めるにはより有利になる。この実施形態では、ケイ酸イオン供給材1を収容した箱体8を海底B上に設置しているが、例えば、海底Bに掘った溝に箱体8の一部や全部を埋め込んだ状態で設置することもできる。
【0037】
透水可能な構造の箱体8は、金属や樹脂、木材などの様々な素材で形成することができるが、鉄製の箱体8を使用すると、箱体8から海草Kの生育に必要な鉄イオンが溶出するので、海草Kの生育を促進するには有利になる。箱体8は透水可能な構造であればよく、例えば、パンチングメタルや金網部材などで箱体8を作成することもできる。
【0038】
なお、本発明では、ケイ酸イオン供給材1によって海草Kの生育基盤を形成する海底Bの土砂の間隙水にケイ酸イオンを供給することができれば、ケイ酸イオン供給材1を設ける方法は、上記で例示した実施形態に限定されず、他にも様々な構成にすることができる。例えば、岸壁や水上構造物に近い水域に海草Kの生育基盤を形成する場合には、ケイ酸イオン供給材1を海底Bに近い岸壁や水上構造物の壁面に設置することもできる。
【実施例0039】
種々の試料に対してケイ酸イオンの溶出量を測定する溶出試験を行った。また、それぞれの試料を混合した生育基盤材を用いて海草を50日間生育させた場合の生育基盤材の間隙水中のケイ酸イオン濃度と海草の葉長を測定する生育促進試験を行った。以下に示す表1は、前述した溶出試験の試験結果を示している。表2は、生育促進試験の試験結果を示している。生育促進試験では、海草としてアマモを用いて試験を行った。
【0040】
【0041】
【0042】
溶出試験では、2mm以下に破砕した試料50gと、人工海水500mLを容器に入れて4日間振とう溶出させた。溶出完了後に上澄み液をろ過してケイ酸イオン濃度を測定した。その結果、表1に示すように、木炭、竹炭、もみ殻くん炭、珪藻岩、珪藻土、カンラン石、海草の乾燥物(アマモの葉の乾燥物)およびダム湖堆積物におけるケイ酸イオン濃度が土砂におけるケイ酸イオン濃度よりも高い数値を示し、前述した試料は土砂よりも多くのケイ酸イオンを溶出することが分かった。
【0043】
生育促進試験では、土砂(海砂)にそれぞれの試料を混合した生育基盤材を用いてアマモの植物体を培養し、培養50日後の生育基盤材の間隙水中のケイ酸イオン濃度とアマモの葉長を測定した。アマモの植物体はアマモ種子から発芽させたものを用いた。生育基盤材は、土砂の質量割合を90%とし、それぞれの試料の質量割合を10%として作成した。アマモの葉長の測定では、最初に発芽する第1葉と次に発芽する第2葉とその次に発芽する第3葉についてそれぞれ葉長を測定した。
【0044】
表2に示すように、溶出試験で土砂よりもケイ酸イオンを溶出する量が多かった試料(木炭、竹炭、もみ殻くん炭、珪藻岩、珪藻土、カンラン石、海草の乾燥物、ダム湖堆積物)を用いて生育させたアマモは、試料を混合しない土砂のみで生育させた場合よりも培養後50日後の葉長が長く成長することが分かった。この試験結果から溶出試験で土砂よりもケイ酸イオンを溶出する量が多かった試料をケイ酸イオン供給材として使用することで、海草の生育基盤を形成する海底の土砂の間隙水のケイ酸イオン濃度を効果的に高めることができ、間隙水のケイ酸イオン濃度を高めることで、海草の生育を促進させることができることが分かった。