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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156787
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】燃料電池及び燃料電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/124 20160101AFI20231018BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20231018BHJP
   H01M 8/0286 20160101ALI20231018BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231018BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20231018BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20231018BHJP
【FI】
H01M8/124
H01M4/88 T
H01M8/0286
H01M4/86 U
H01M4/86 T
H01M8/1253
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066356
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 遥平
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB05
5H018EE02
5H018EE03
5H018EE04
5H018EE10
5H018EE12
5H018HH03
5H018HH05
5H126AA02
5H126AA06
5H126AA13
5H126BB06
5H126GG12
5H126HH00
5H126HH01
5H126HH04
5H126HH10
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】一方の電極層に触媒溶液を含浸させる際に、他方の電極層に触媒溶液が染み込むことを確実に防止することのできる、燃料電池及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】燃料電池の製造方法は、積層体を作製する工程と、積層体の端部に段差を形成する工程と、段差を覆うように端部緻密セラミックス層を形成する工程と、多孔質金属層及び多孔質セラミックス層にカソード触媒及びアノード触媒を担持させる工程とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緻密セラミックス層である電解質層と、前記電解質層を挟むように設けられた第1及び第2多孔質セラミックス層と、前記第1及び第2多孔質セラミックス層上にそれぞれ設けられた第1及び第2多孔質金属層と、を有する積層体を作製する工程と、
前記積層体の端部において、前記第1及び第2多孔質金属層の少なくとも一方を除去し、段差を形成する工程と、
前記積層体の端部に、前記段差を覆うように、端部緻密セラミックス形成用材料をコートする工程と、
前記コートされた端部緻密セラミックス形成材料を焼成し、端部緻密セラミックス層を形成する工程と、
前記端部緻密セラミックス層の形成後に、前記第1多孔質金属層及び前記第1多孔質セラミックス層にカソード触媒溶液を含浸させてカソード触媒を担持させ、前記第2多孔質金属層及び前記第2多孔質セラミックス層にアノード触媒溶液を含浸させてアノード触媒を担持させる工程と、
を備える、
燃料電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記段差を形成する工程は、液体を用いたエッチングにより実施される、
製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法であって、
前記コートする工程は、前記端部緻密セラミックス層形成用のスラリーに、前記積層体の端部をディップする工程を含む、
製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の製造方法であって、
前記積層体を作製する工程は、
グリーン積層体を作製する工程と、
前記グリーン積層体を焼成することにより前記積層体を形成する、グリーン積層体焼成工程とを有し、
前記端部緻密セラミックス層を形成する工程における焼成温度は、前記グリーン積層体焼成工程における焼成温度よりも低い、
製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の製造方法であって、
更に、
前記担持させる工程の後に、金属製フレーム上に、前記第1又は第2多孔質金属層が前記金属製フレーム側を向くように前記積層体を配置し、前記金属製フレームと、前記第1又は第2多孔質金属層とを、溶接により結合する工程と、
前記溶接された部分よりも外周部において、前記端部緻密セラミックス層と前記金属製フレームとの間をシールするように、シール材を配置する工程と、
を含む、製造方法。
【請求項6】
緻密セラミックス層である電解質層と、前記電解質層を挟むように設けられた、アノード電極及びカソード電極と、を有する積層体と、
前記積層体の端部を覆うように設けられ、緻密セラミックス層である、端部緻密セラミックス層と、
を有し、
前記アノード電極及び前記カソード電極には、それぞれ、アノード触媒及びカソード触媒が担持されており、
前記アノード電極は、
前記電解質層上に設けられたアノード多孔質セラミックス層と、
前記アノード多孔質セラミックス層上に設けられたアノード多孔質金属層と、を有し、
前記カソード電極は、
前記電解質層上に設けられたカソード多孔質セラミックス層と、
前記カソード多孔質セラミックス層上に設けられたカソード多孔質金属層と、を有し、
前記アノード多孔質金属層及び前記カソード多孔質金属層の少なくとも一方の端部は、前記電解質層の端部よりも内側に位置しており、前記端部緻密セラミックス層により被覆されている、
燃料電池。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料電池であって、
前記アノード多孔質セラミックス層及び前記カソード多孔質セラミックス層の少なくとも一方は、体積分率で50%以上のジルコニアを含む、
燃料電池。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の燃料電池であって、
前記アノード多孔質金属層及び前記カソード多孔質金属層の少なくとも一方は、Fe及びCrを含む、
燃料電池。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の燃料電池であって、
前記アノード多孔質セラミックス層、前記カソード多孔質セラミックス層、および前記電解質層のうちの少なくとも一つの層が、ジルコニアを含み、
前記端部緻密セラミックス層が、ジルコニアを含む、
燃料電池。
【請求項10】
請求項6又は7に記載の燃料電池であって、
前記アノード多孔質金属層及び前記カソード多孔質金属層の少なくとも一方において、端面の表面粗さは、上面の表面粗さよりも大きい、
燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池及び燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池として、セラミックス製の電解質層と、電解質層を挟持するように配置されたアノード電極及びカソード電極を有する電池が知られている。そのような燃料電池として、各電極が多孔質構造を有し、各電極に触媒が担持された電池が知られている。
【0003】
電極に触媒が担持された燃料電池の製造方法の一例が、特許文献1(米国特許出願公開第2018/0323443号公報)に記載されている。特許文献1には、多孔質セラミック製の電極層を作製し、作製した電極層の第1面にカソード触媒の前駆体(溶液)を含浸させ、第2面にアノード触媒の前駆体(溶液)を含浸させる方法が記載されている(クレーム13等)。また、各触媒の前駆体を電極層に含浸させる際には、含浸を意図していない領域にアクリル塗料マスクを設ける点も記載されている(特に、特許文献1の0032~0033)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0323443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既述のように、アノード電極とカソード電極とは、電解質層を挟むように設けられる。アノード触媒溶液を電極に含浸させる際には、カソードとなる領域に溶液が染み込んではならない。カソード触媒溶液の含浸時には、逆に、アノードとなる領域に溶液が染み込まないようにする必要がある。特許文献1に記載される方法によれば、アクリル塗料マスクにより、含浸を意図しない側の電極層が保護される。しかしながら、仮にアクリル塗料マスクを用いたとしても、一方の電極層に含浸した溶液が、電解質層の端部を回り込んで他方の電極層に到達してしまう可能性がある。その結果、アノード電極とカソード電極とが短絡してしまう可能性がある。
【0006】
従って、本発明の目的は、一方の電極層に触媒溶液を含浸させる際に、他方の電極層に触媒溶液が染み込むことを防止することのできる、燃料電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料電池の製造方法は、緻密セラミックス層である電解質層と、電解質層を挟むように設けられた第1及び第2多孔質セラミックス層と、第1及び第2多孔質セラミックス層上にそれぞれ設けられた第1及び第2多孔質金属層と、を有する積層体を作製する工程と、積層体の端部において、第1及び第2多孔質金属層の少なくとも一方を除去し、段差を形成する工程と、積層体の端部に、段差を覆うように、端部緻密セラミックス形成用材料をコートする工程と、コートされた端部緻密セラミックス形成材料を焼成し、端部緻密セラミックス層を形成する工程と、端部緻密セラミックス層の形成後に、第1多孔質金属層及び第1多孔質セラミックス層にカソード触媒溶液を含浸させてカソード触媒を担持させ、第2多孔質金属層及び第2多孔質セラミックス層にアノード触媒溶液を含浸させてアノード触媒を担持させる工程と、を備える。
【0008】
また、本発明に係る燃料電池は、緻密セラミックス層である電解質層と、電解質層を挟むように設けられた、アノード電極層及びカソード電極層と、を有する積層体と、積層体の端部を覆うように設けられ、緻密セラミックス層である、端部緻密セラミックス層と、を有する。アノード電極層及びカソード電極層には、それぞれ、アノード触媒及びカソード触媒が担持されている。アノード電極層は、電解質層上に設けられたアノード多孔質セラミックス層と、アノード多孔質セラミックス層上に設けられたアノード多孔質金属層と、を有する。カソード電極層は、電解質層上に設けられたカソード多孔質セラミックス層と、カソード多孔質セラミックス層上に設けられたカソード多孔質金属層と、を有する。アノード多孔質金属層及びカソード多孔質金属層の少なくとも一方の端部は、電解質層の端部よりも内側に位置しており、端部緻密セラミックス層により被覆されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一方の電極層に触媒溶液を含浸させる際に、他方の電極層に触媒溶液が染み込むことを防止することのできる、燃料電池及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態に係る燃料電池の主要部を示す概略断面図である。
図2図2は、燃料電池の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図3図3は、ステップS1で作製される積層体を示す概略断面図である。
図4図4は、段差形成後の積層体の形状を示す概略断面図である。
図5図5は、第2の実施形態に係る燃料電池を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
以下に、図面を参照しつつ、第1実施形態について説明する。
【0012】
(1)燃料電池
まず、本実施形態において製造される燃料電池1の構成について説明する。図1は、第1実施形態に係る燃料電池1の主要部(電解質電極接合体)を示す概略断面図である。本実施形態に係る燃料電池1は、固体酸化物形燃料電池である。燃料電池1は、積層体10と、端部緻密セラミックス層5とを有している。
【0013】
積層体10は、電解質層2、カソード電極3、およびアノード電極4を有している。電解質層2は、緻密セラミックス層である。一方、カソード電極3及びアノード電極4は、いずれも多孔質性である。カソード電極3及びアノード電極4は、電解質層2を挟むように設けられている。カソード電極3及びアノード電極4には、それぞれ、カソード触媒及びアノード触媒が担持されている。カソード電極3は、電解質層2上に設けられたカソード多孔質セラミックス層3-1と、カソード多孔質セラミックス層3-1上に設けられたカソード多孔質金属層3-2と、を有している。同様に、アノード電極4も、電解質層2上に設けられたアノード多孔質セラミックス層4-1と、アノード多孔質セラミックス層4-1上に設けられたアノード多孔質金属層4-2と、を有している。各多孔質金属層(3-2及び4-2)の端部は、電解質層2の端部よりも内側に位置している。これによって、積層体10の端部には段差が形成されている。なお、各多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)の端部は、電解質層2の端部と揃っている。上方から見た場合の電解質層2の端部から各多孔質金属層(3-2及び4-2)の端部までの距離は、例えば0.2~5mm、好ましくは0.5~2mmである。
【0014】
端部緻密セラミックス層5は、緻密セラミックス層により構成され、積層体10の端部を覆っている。具体的には、端部緻密セラミックス層5は、上述の段差を覆っている。電解質層2の端面も、端部緻密セラミックス層5により覆われている。端部緻密セラミックス層5は、積層体10の端部の全周にわたって設けられている。また、端部緻密セラミックス層5が設けられているのは、積層体10の外周端のみである。すなわち、カソード電極3及びアノード電極4は、それぞれ、その上面において外部に露出している。なお、本明細書において、各電極(3及び4)の上面とは、電解質層2側の面を下面とした場合の上面を指すものとする。
【0015】
本実施形態に係る燃料電池1において、カソード電極3にはカソードガスが、アノード電極4にはアノードガスが、それぞれ供給される。カソード電極3及びアノード電極4では、カソードガス及びアノードガスを用いた電池反応が進行し、電池としての機能が発揮される。ここで、電池性能を向上させるためには、カソード電極3側とアノード電極4側との間でガスが分離されている必要がある。この点に関し、本実施形態では、積層体10の端部に段差が設けられているため、カソード多孔質金属層3-2の端部から電解質層2の端部を回り込んでアノード多孔質金属層4-2に至るまでの経路が長くなっている。従って、一方の電極から端部を回り込んで他方の電極にガスが到達することが抑制される。その結果、ガスシール性が改善されている。
【0016】
続いて、各部の詳細について説明する。
【0017】
(電解質層)
電解質層2は、既述のように緻密セラミックス層により形成されている。なお、セラミックスとは、無機物の焼結体をいい、非金属酸化物だけでなく、金属酸化物をも包含する概念である。電解質層2は、酸化物イオンが伝導可能であり、一方でガスについては透過させないように構成されていればよい。例えば、電解質層2は、固体酸化物セラミックスにより形成することができる。固体酸化物セラミックスとしては、特に限定されないが、例えば、ジルコニア含有材料を挙げることができる。ジルコニア含有材料としては、イットリア、酸化ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、およびスカンジウム等をドープした安定化ジルコニアなどを挙げることができる。より好ましくは、電解質層2は、体積分率で5~97%のジルコニアを含む。電解質層2の厚さは、例えば0.5~20μm、好ましくは1~10μmである。
【0018】
(カソード電極及びアノード電極)
カソード電極3は、カソードガスに含まれる酸素分子を酸化物イオンに変換する部分である。一方、アノード電極4は、例えば水素などのアノードガスを酸化物イオンと反応させて、電子を生じさせる部分である。
【0019】
既述のように、カソード電極3には、カソード触媒が担持されている。カソード触媒としては、例えば、プラセオジウム酸化物等が用いられる。カソード触媒は、カソード多孔質セラミックス層3-1と、カソード多孔質金属層3-2との双方に担持されている。
【0020】
また、アノード電極4には、アノード触媒が担持されている。アノード触媒としては、例えば、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、Ni-Fe合金、Ni-Co合金、Fe-Co合金、Ni-Cu合金、およびPd-Pt合金等が用いられる。アノード触媒は、アノード多孔質セラミックス層4-1と、アノード多孔質金属層4-2との双方に担持されている。
【0021】
各多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)は、電極としての機能に加えて、それぞれ、各多孔質金属層(3-2及び4-2)を電解質層2に接合させる機能を有している。また、各多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)は、酸化物イオンを伝導させる機能をも有している。
【0022】
多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)の構成材料は特に限定されないが、例えば、固体酸化物セラミックスを用いることができる。固体酸化物セラミックスとしては、例えば、イットリア、酸化ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、スカンジウム等をドープした安定化ジルコニア等を挙げることができる。
【0023】
好ましい一態様においては、電解質層2がジルコニアを含み、かつ、多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)の少なくとも一方もジルコニアを含む。より好ましくは、電解質層2および多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)の全てがジルコニアを含む。ジルコニアを含む層同士は、ジルコニアの相互拡散により、強固に接合する。電解質層2と多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)とがいずれもジルコニアを含んでいると、両者を強固に接合することが可能となる。また、各多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)がジルコニアを含んでいると、各多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)における酸化物イオン伝導機能が向上する。なお、各多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)におけるジルコニアの含有量は、体積分率で50%以上であることが好ましい。
【0024】
各多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)の厚みは、例えば0.3~50μm、好ましくは0.5~30μmである。
【0025】
多孔質金属層(3-2及び4-2)は、形状保持などの目的で設けられている。すなわち、多孔質金属層(3-2及び4-2)は、メタルサポートとして設けられている。多孔質金属層(3-2及び4-2)を設けることにより、電解質層2及び多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)の厚みが薄い場合であっても、全体としての形状を維持することができる。
【0026】
各多孔質金属層(3-2及び4-2)の厚みは、形状保持の点などから決められ、例えば50~1000μm、好ましくは100~500μmである。
【0027】
各多孔質金属層(3-2及び4-2)の構成材料は、導電性を有する金属製の材料であればよく、特に限定されない。好ましくは、各多孔質金属層(3-2及び4-2)は、Fe及びCrを含む。Fe及びCrを含むことにより、酸化耐性が向上し、高温作動にも耐えられるようになる。好ましくは、各多孔質金属層(3-2及び4-2)の構成材料は、SUSである。
【0028】
(端部緻密セラミックス層)
端部緻密セラミックス層5は、積層体10の端部を保護するために設けられている。端部緻密セラミックス層5を設けることによって、多孔質金属層(3-2及び4-2)を構成する金属が端部から気相拡散してしまうことを抑制できる。
【0029】
端部緻密セラミックス層5の構成材料は、特に限定されず、例えば電解質層2と同様の材料を用いることができる。好ましくは、端部緻密セラミックス層5は、ジルコニアを含む。端部緻密セラミックス層5におけるジルコニアの含有量は、体積分率で、例えば5~50%である。
【0030】
好ましい一態様においては、多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)並びに電解質層2のうちの少なくとも一つの層がジルコニアを含み、かつ、端部緻密セラミックス層5も、ジルコニアを含む。このような構成を採用すれば、ジルコニアの相互拡散により、端部緻密セラミックス層5をより強固に積層体10に接合させることができる。より好ましい態様においては、多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)、電解質層2、および端部緻密セラミックス層5の全ての層が、ジルコニアを含む。
【0031】
好ましい一態様において、各多孔質金属層(3-2及び4-2)の端面の表面粗さR2は、その上面の表面粗さR1よりも大きい。このような構成を採用すれば、アンカー効果により、各多孔質金属層(3-2及び4-2)と端部緻密セラミックス層5との間の接合がより強固になる。
【0032】
(2)燃料電池の製造方法
続いて、本実施形態に係る燃料電池1の製造方法について説明する。図2は、燃料電池の製造方法を概略的に示すフローチャートである。本実施形態に係る製造方法は、積層体を作製する工程(ステップS1)、段差を形成する工程(ステップS2)、端部に緻密セラミックス形成用材料をコートする工程(ステップS3)、端部緻密セラミックス形成用材料を焼成する工程(ステップS4)、および触媒溶液を含浸させる工程(ステップS5)を備えている。以下に、各ステップについて詳細に説明する。
【0033】
ステップS1:積層体の作製
まず、積層体を作製する。図3は、本工程で作製される積層体10を示す概略断面図である。この積層体は、電解質層2、第1及び第2多孔質セラミックス層(3-1-a及び4-1-a)、並びに第1及び第2多孔質金属層(3-2-a及び4-2-a)を有している。第1及び第2多孔質セラミックス層(3-1-a及び4-1-a)は、それぞれ、最終的にアノード及びカソード多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)になる部分である。第1及び第2多孔質金属層(3-2-a及び4-2-a)は、それぞれ、最終的にアノード及びカソード多孔質金属層(3-2及び4-2)になる部分である。
【0034】
詳細には、まず、グリーン積層体が形成される(ステップS1-1)。グリーン積層体とは、焼成によりセラミックス層が形成される前の段階の積層体である。グリーン積層体は、例えば、テープキャスト法により、形成することができる。具体的には、まず、積層体に含まれる各層の原料となるスラリーを調製する。そして、調製した各スラリーをシート状になるように成型し、得られたシートを積層する。これにより、グリーン積層体が得られる。なお、シートの形状が長尺状である場合には、必要に応じて、所望のサイズになるように、グリーン積層体が切断される。グリーン積層体は、5層ともほぼ同じ大きさであることが好ましい。これにより、後述のセル焼成時(ステップS1-2)に反り等が発生しにくくなる。
【0035】
続いて、グリーン積層体を焼成する(ステップS1-2)。これにより、セラミック層が形成され、図3に示した構成を有する積層体が得られる。本工程における焼成処理は、還元雰囲気で実施されることが好ましい。例えば、焼成処理は、水素を含む不活性ガス雰囲気下で行われる。焼成温度は、セラミックス層が形成されるような温度であればよい。焼成温度は、例えば1000~1500℃、好ましくは1200~1400℃である。
【0036】
ステップS2:段差形成
続いて、積層体の端部に段差を形成する。図4は、段差形成後の積層体の形状を示す概略断面図である。図4に示されるように、積層体の端部において、第1多孔質金属層3-2-a及び第2多孔質金属層4-2-aを除去する。
【0037】
多孔質金属層(3-2-a及び4-2-a)を除去するための手法は、特に限定されず、化学的な手法を用いてもよいし、機械的な手法を用いてもよい。
【0038】
好ましくは、液体を用いたエッチングにより、各多孔質金属層(3-2-a及び4-2-a)を除去する。液体を用いてエッチングを行うことにより、各多孔質金属層(3-2-a及び4-2-a)の端面の表面が粗くなる。その結果、既述のように、アンカー効果により、端部緻密セラミックス層5を、より強固に多孔質金属層(3-2-a及び4-2-a)に接合させることができる。なお、エッチングに使用する液体としては、多孔質金属層(3-2-a及び4-2-a)を溶解させるものであればよいが、典型的には酸が用いられる。また、本ステップにおいて、除去することを意図しない領域については、必要に応じて、マスク材が設けられてもよい。
【0039】
ステップS3:端部緻密セラミックス形成用材料のコート
続いて、積層体10の端部に、端部緻密セラミックス形成用材料をコートする。端部緻密セラミックス形成用材料は、端部緻密セラミックス層5が形成される予定の領域にコートされる。すなわち、ステップS2で形成された段差が覆われるように、端部緻密セラミックス形成用材料がコートされる。
【0040】
好ましくは、端部緻密セラミックス層形成用材料としてスラリーを準備し、このスラリーに積層体10の端部をディップする。これにより、均一に端部緻密セラミックス形成用材料をコートすることができる。
【0041】
ステップS4:焼成(端部緻密セラミックス層の形成)
次に、コートされた端部緻密セラミックス形成材料を焼成する。これにより、コートされた端部緻密セラミックス形成用材料が緻密化し、端部緻密セラミックス層5が形成される。
【0042】
本ステップにおける焼成温度は、コートされた端部緻密セラミックス形成用材料が焼結し、緻密化するような温度であればよい。本ステップにおける焼成は、ステップS1-2と同様に、還元雰囲気下で行われることが好ましい。
【0043】
好ましくは、本ステップにおける焼成温度は、ステップS1-2における焼成温度よりも低い。ステップS1-2における焼成温度よりも低い温度で焼成することにより、積層体10に高温の熱入力が繰り返し加わることが防止される。その結果、積層体10に曲げが生じたり、多孔質層が緻密化することを防ぐことができる。本ステップにおける焼成温度は、例えば900~1400℃、好ましくは1100~1300℃である。
【0044】
ステップS5:触媒溶液の含浸
続いて、第1多孔質金属層3-2-a及び第1多孔質セラミックス層3-1-aにカソード触媒溶液を含浸させてカソード触媒を担持させ、第2多孔質金属層4-2-a及び第2多孔質セラミックス層4-1-aにアノード触媒溶液を含浸させてアノード触媒を担持させる。これにより、図1に示した構成(電解質電極接合体)が得られる。
【0045】
具体的には、まず、カソード触媒溶液を、第1多孔質金属層3-2-aの上面に供給し、第1多孔質金属層3-2-a及び第1多孔質セラミックス層3-1-aに染み込ませる。また、アノード触媒溶液を、第2多孔質金属層4-2-aの上面に供給し、第2多孔質金属層4-2-a及び第2多孔質セラミックス層4-1-aに染み込ませる。その後、熱処理を行い、カソード触媒及びアノード触媒を析出させる。これにより、各電極に、カソード触媒及びアノード触媒が担持される。その結果、第1多孔質金属層3-2-a及び第1多孔質セラミックス層3-1-aがカソード電極3として機能するようになり、第2多孔質金属層4-2-a及び第2多孔質セラミックス層4-1-aがアノード電極4として機能するようになる。
【0046】
ここで、各触媒溶液の含浸時には、端部緻密セラミックス層5の存在により、多孔質金属層(3-2-a及び4-2-a)の外周端部からの各触媒溶液の流出が防止される。
【0047】
加えて、ステップS2において段差が形成されているため、段差が存在しない場合に比べて、一方の多孔質金属層(3-2-a又は4-2-a)から端部を回り込んで他方の多孔質金属層(4-2-a又は3-2-a)に至るまでの経路が長くなっている。従って、一方の電極に含浸した触媒溶液が、反対側の電極に到達しにくい。その結果、短絡がより確実に防止される。
【0048】
なお、カソード触媒溶液及びアノード触媒溶液は、どちらを先に含浸させてもよい。また、カソード触媒溶液及びアノード触媒溶液の含浸及び熱処理は、所望する量の触媒を担持させるため、それぞれ、複数回実施されてもよい。
【0049】
以上説明した方法により、図1に示した構成(電解質電極接合体)が得られる。なお、得られた電解質電極接合体は、必要に応じて他の部材と組み合わされ、燃料電池1として使用される。
【0050】
続いて、本実施形態の構成及び効果について、以下に要約する。
【0051】
本実施形態によれば、緻密セラミックス層である電解質層と、電解質層を挟むように設けられた第1及び第2多孔質セラミックス層と、第1及び第2多孔質セラミックス層上にそれぞれ設けられた第1及び第2多孔質金属層と、を有する積層体が作成される(ステップS1)。続いて、積層体の端部において、第1及び第2多孔質金属層の少なくとも一方が除去され、段差が形成される(ステップS2)。続いて、積層体の端部に、段差を覆うように、端部緻密セラミックス形成用材料がコートされる(ステップS3)。続いて、コートされた端部緻密セラミックス形成材料が焼成され、端部緻密セラミックス層が形成される(ステップS4)。続いて、第1多孔質金属層及び第1多孔質セラミックス層にカソード触媒溶液が含浸させられてカソード触媒が担持される。また、第2多孔質金属層及び第2多孔質セラミックス層にアノード触媒溶液が含浸させられてアノード触媒が担持させられる(ステップS5)。このような工程を採用することにより、ステップS5において、含浸させた各触媒溶液が、端部を回り込んで反対側に染み込むことを防止することができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、例えば特許文献1に記載されるような方法と比べて、製造工程を少なくすることができる。特許文献1に記載された方法では、カソード電極側に触媒溶液を含浸させる際には、アノード側の電極をアクリル塗料マスクにより保護しておき、アノード電極側に触媒溶液を含浸させる際には、逆に、カソード側の電極を保護しておく必要がある。この方法によれば、アクリル塗料マスクの形成及び除去を繰り返す必要がある。これに対して、本実施形態によれば、端部緻密セラミックス層5が各触媒溶液の含浸時にマスクとして機能する。端部緻密セラミックス層5の形成及び除去を繰り返す必要はない。従って、本実施形態に係る方法は、製造工程短縮の点においても、有利である。
【0053】
好ましい一態様において、多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)の少なくとも一方が、体積分率で50%以上のジルコニアを含む。これにより、多孔質セラミックス層における酸化物イオン伝導機能を向上させることができる。また、電解質層2がジルコニアを含んでおり、多孔質セラミックス層(3-1又は4-1)もジルコニアを含んでいる場合、多孔質セラミックス層(3-1又は4-1)を電解質層2に強固に接合させることができる。
【0054】
好ましい一態様において、多孔質セラミックス層(3-1及び4-1)及び電解質層2のうちの少なくとも一つの層がジルコニアを含み、かつ、端部緻密セラミックス層5がジルコニアを含む。このような構成を採用することにより、端部緻密セラミックス層5を積層体10に強固に接合させることができる。
【0055】
好ましい一態様において、多孔質金属層(3-2及び4-2)の少なくとも一方は、Fe及びCrを含む。Fe及びCrを含むことにより、酸化耐性が向上し、高温作動にも耐えられるようになる。
【0056】
好ましい一態様において、多孔質金属層(3-2及び4-2)の少なくとも一方において、端面の表面粗さR2は、上面の表面粗さR1よりも大きい。このような構成によれば、アンカー効果によって、端部緻密セラミックス層5を多孔質金属層(3-2及び4-2)の端部に強固に接合させることができる。
【0057】
好ましい一態様において、ステップS2において、液体を用いたエッチングにより、段差が形成される。このような工程を採用することにより、多孔質金属層(3-2-a及び4-2-a)の端面の表面粗さが粗くなる。その結果、アンカー効果により、端部緻密セラミックス層5を、多孔質金属層(3-2-a及び4-2-a)の端部に強固に接合させることができる。
【0058】
好ましい一態様において、ステップS3において、積層体10の端部を端部緻密セラミックス層形成用のスラリーにディップすることにより、端部緻密セラミックス形成用材料がコートされる。この工程を採用することにより、均一に、端部緻密セラミックス形成用材料をコートすることができる。
【0059】
好ましい一態様において、ステップS4における焼成温度は、ステップS1-2における焼成温度よりも低い。このような構成を採用することにより、積層体10に曲げが生じたり、多孔質層が緻密化することを防ぐことができる。
【0060】
[第2実施形態]
続いて、第2実施形態について説明する。図5は、第2実施形態に係る燃料電池1を示す概略断面図である。本実施形態に係る燃料電池1では、第1の実施形態に対して、金属製フレーム6が追加されている。
【0061】
金属製フレーム6は、積層体10を支持するために用いられている。すなわち、積層体10は、金属製フレーム6上に載せられている。具体的には、積層体10は、アノード多孔質金属層4-2が金属製フレーム6側を向くように、金属製フレーム6上に載せられている。また、金属製フレーム6は、その開口部がアノード多孔質金属層4-2の上面中央部に重なるように配置されている。従って、アノード多孔質金属層4-2の上面中央部は、金属製フレーム6の開口部を介して露出している。
【0062】
金属製フレーム6と積層体10とは、溶接部7により結合させられている。具体的には、アノード多孔質金属層4-2の上面外周部は、金属製フレーム6の枠部分に重なっている。そして、アノード多孔質金属層4-2の上面外周部と、金属製フレーム6とが、溶接部7により結合させられている。溶接部7は、スポット状に設けられていてもよいし、環状に設けられていてもよい。
【0063】
更に、金属製フレーム6上には、溶接部7よりも外周部に、シール材8が設けられている。具体的には、積層体10は、端部緻密セラミックス層5が金属製フレーム6の枠上に載るように配置されている。そして、端部緻密セラミックス層5と金属製フレーム6との間の隙間を埋めるように、シール材8が設けられている。より詳細には、シール材8は、端部緻密セラミックス層5の外周部と、金属製フレーム6との間の隙間を埋めるように、配置されている。シール材8としては、例えば、ガラス材を用いることができる。
【0064】
本実施形態に係る燃料電池1は、例えば、以下に説明する方法により得ることができる。第1の実施形態のステップS5において触媒を担持させた後、金属製フレーム6上に、アノード多孔質金属層4-2が金属製フレーム6側を向くように積層体10を配置する。そして、金属製フレーム6と、アノード多孔質金属層4-2とを、溶接により結合する。さらに、溶接された部分よりも外周部において、端部緻密セラミックス層5と金属製フレーム6との間をシールするように、シール材8を配置する。シール材8は、例えば、シール材形成材料用のスラリーを塗布し、乾燥させることにより、形成することができる。
【0065】
以上説明した方法により、本実施形態に係る燃料電池1を得ることができる。
【0066】
本実施形態によれば、溶接により、金属製フレーム6が積層体10に結合させられているため、燃料電池1の強度を高めることができる。また、シール材8が設けられているため、アノード電極4の側部からガス等が漏洩することが防止できる。
【0067】
なお、本実施形態では、アノード電極4が金属製フレーム6側を向くように、積層体10が金属製フレーム6上に配置されている場合について説明したが、カソード電極3が金属製フレーム6側を向くように配置されていてもよい。
【0068】
また、金属製フレーム6は、アノード電極4及びカソード電極3のどちらか一方の側にのみ設けられるのではなく、両側に金属製フレーム6が設けられていてもよい。すなわち、燃料電池1は、積層体10が、一対の金属製フレーム6によって挟まれるような構成を有していてもよい。
【0069】
また、燃料電池1は、図5に示した構成を1ユニットとして、複数のユニットが積層されたスタック型の構成を有していてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 燃料電池、2 電解質層、3 カソード電極層、3-1 カソード多孔質セラミックス層、3-2 カソード多孔質金属層、3-1-a 第1多孔質セラミックス層、3-2-a 第1多孔質金属層、4 アノード電極層、4-1 アノード多孔質セラミックス層、4-2 アノード多孔質金属層、4-1-a 第2多孔質セラミックス層、4-2-a 第2多孔質金属層、5 端部緻密セラミックス層、6 金属製フレーム、7 溶接部、8 シール材、10 積層体
図1
図2
図3
図4
図5