(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156788
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】木材用仮設養生剤、および養生された建築用木材
(51)【国際特許分類】
B27K 5/00 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
B27K5/00 G
B27K5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066357
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 愛枝
(72)【発明者】
【氏名】今井 和正
(72)【発明者】
【氏名】相馬 智明
【テーマコード(参考)】
2B230
【Fターム(参考)】
2B230AA08
2B230AA11
2B230AA15
2B230BA03
2B230CA30
2B230EB03
(57)【要約】
【課題】木材の吸湿を抑えることのできる木材用仮設養生剤を提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも反応型水性アクリルシリコン系ポリマーと、硬化剤と、撥水剤とを含み、
全体に対して、前記撥水剤を0.25質量%以上3.0質量%未満含むことを特徴とする木材用仮設養生剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも反応型水性アクリルシリコン系ポリマーと、硬化剤と、撥水剤とを含み、
全体に対して、前記撥水剤を0.25質量%以上3.0質量%未満含むことを特徴とする木材用仮設養生剤。
【請求項2】
ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末を、全体に対して0.2質量%以上4質量%以下、
鱗片状シリカ粉末を、全体に対して0.3質量%以上6質量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の木材用仮設養生剤。
【請求項3】
紫外線吸収剤を、全体に対して0.3質量%以上6質量%以下含むことを特徴とする請求項1または2に記載の木材用仮設養生剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の木材用仮設養生剤からなり、適用量が固形分で3g/m2以上60g/m2以下である被覆膜を、少なくとも一部に有することを特徴とする養生された建築用木材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設現場で保管する木材の養生技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場に搬入された建築資材は、保護用の養生シートなどで被覆されて保管されることが多い。例えば、現場に搬入された木材は、ラップ材(ポリ塩化ビニリデン製等の透明なフィルム)で被覆される場合があるが、使用される大量の木材をラップ材で被覆し、また使用時に剥がすのは非常に手間がかかる。さらに、使用後のラップ材が大量のゴミとなるため、環境に配慮しているとは言い難い。
【0003】
木材は、その含水率により寸法が変化する。木材の平衡含水率は、外部環境により変化するが、日本国では屋外の平均的な値は15%であり、屋内ではこれよりやや低くなる。木材の工事現場搬入時の含水率は、建築工事標準仕様書 JASS11木工事(日本建築学会)において、構造材20%以下、造作材15%以下、仕上材13%以下と定められており、木材は、製材工場において、含水率がこの値以下となるように乾燥された状態で出荷される。
近年、地球温暖化防止の観点から、製造時の二酸化炭素排出量が少なく、炭素の固定量が多いため、大量の木材を用いる木造建築の大規模化が注目されている。木造建築工事の大規模化に伴い、現場に搬入されてから施工されるまでの期間が長期化する傾向にあり、湿度環境や降雨等により現場で保管中の木材の含水率が変化してしまう場合がある。木材が膨張、収縮してしまうと、設計寸法とのズレが生じてしまい、柱と梁等の木材同士が接合できずに架構が組めない、部材の接合部の穴の位置がずれ金物が差し込めず接合できない等の不具合が生じる。
木材に寸法安定化剤等の薬剤を注入して寸法変化を抑える方法もあるが(特許文献1等)、建築に用いられる大きさの木材を閉じ込めた状態で温度や圧力を制御できる大規模な専用装置が必要であり、コストや手間がかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、建築現場に搬入される木材に適用する木材用仮設養生剤、特に、寸法安定性に優れた木材用仮設養生剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は以下の通りである。
1.少なくとも反応型水性アクリルシリコン系ポリマーと、硬化剤と、撥水剤とを含み、
全体に対して、前記撥水剤を0.25質量%以上3.0質量%未満含むことを特徴とする木材用仮設養生剤。
2.ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末を、全体に対して0.2質量%以上4質量%以下、
鱗片状シリカ粉末を、全体に対して0.3質量%以上6質量%以下含むことを特徴とする1.に記載の木材用仮設養生剤。
3.紫外線吸収剤を、全体に対して0.3質量%以上6質量%以下含むことを特徴とする1.または2.に記載の木材用仮設養生剤。
4.1.または2.に記載の木材用仮設養生剤からなり、適用量が固形分で3g/m2以上60g/m2以下である被覆膜を、少なくとも一部に有することを特徴とする養生された建築用木材。
【発明の効果】
【0007】
本発明の木材用仮設養生剤(以下、仮設養生剤ともいう)により、現場で保管している建築用木材を保護することができる。本発明の仮設養生剤は、湿度変化や降雨等による吸湿を防止して建築用木材の含水率の変動を抑えることができ、含水率の変動による寸法変化量を小さくすることができる。特に、本発明の仮設養生剤により、僅かな時間だけ濡れてしまった際の含水率の増加を有意に抑えることができるため、急な降雨等により木材が濡れてしまった際の寸法増加を抑えることができる。本発明の仮設養生剤は低コストであり、また、木材への適用も容易であるため、木材の寸法変化を低コストで抑制することができる。
本発明の仮設養生剤は、施工まで現場で保管される木材に適用する仮設養生塗料として有用である。本発明の仮設養生剤は、製材工場等で所定の形状に加工した木材に事前に適用することができ、また、本発明の仮設養生剤が適用された建築用木材をそのまま建築物として組み立てることができる。そのため、本発明の仮設養生剤を用いることにより、建築現場での作業量を軽減することができ、さらに発生するゴミの量を削減することができる。本発明の仮設養生剤は、薄く適用しても効果を発揮することができるため、後作業への影響はほとんどない。
紫外線吸収剤を含む本発明の仮設養生剤により、建築用木材の日焼けによる変色を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例での評価試験における撥水度試験後の水を滴下した面と、接触角試験の画像。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の建築用仮設養生剤は、木材を用いた柱部材、梁部材、板材等の建築現場で保管される建築用木材に適用されて建築用木材を被覆する被覆膜となり、木材を保護し、吸水による寸法変化を抑制することができる。具体的には、本発明の仮設養生剤は、少なくとも反応型水性アクリルシリコン系ポリマーと、硬化剤と、撥水剤とを含み、全体に対して、撥水剤を0.25質量%以上3.0質量%未満含むことを特徴とする。
【0010】
反応型水性アクリルシリコン系ポリマーは、グリシジル基等と架橋構造を形成可能な水性アクリルシリコン系ポリマーであり、例えば、側鎖にアルコキシシリル基を有するアクリル系ポリマーが挙げられる。反応型水性アクリルシリコン系ポリマーとしては、市販品を用いることができ、例えば、株式会社カネカ製のゼムラックW3108F、ゼムラックW3153CF、DIC株式会社製のボンコートSA-6360、ジャパンコーティングレジン株式会社製のモビニールLDM7532等を使用することができ、これらの2種以上を混合して使用することもできる。
本発明の仮設養生剤は、仮設養生剤全体に対して反応型水性アクリルシリコン系ポリマーを1.0質量%以上12.5質量%未満含むことが好ましい。
【0011】
硬化剤としては、反応型水性アクリルシリコン系ポリマーと架橋構造を形成可能なものを特に制限することなく使用することができる。例えば、アミノシラン、アミノシラン/アルキルシラン加水分解物、ジアミノシラン加水分解物、アミノシラン/アルキルシラン加水分解物、エポキシシラン加水分解物等を使用することができる。これらは市販品を用いることができ、例えば、エボニック社製のDynasylan HYDROSIL 1151、2627、2776、2909、2926等を使用することができる。
【0012】
反応型水性アクリルシリコン系ポリマーと硬化剤とは、それぞれの反応性基のモル比が、30:70~70:30となるように混合することが好ましく、このモル比は40:60~60:40であることがより好ましく、45:55~55:45であることがさらに好ましい。
本発明の仮設養生剤は、少なくとも反応型水性アクリルシリコン系ポリマーを含む主剤と、少なくとも硬化剤とを含む硬化液とを、使用直前に混合して使用する。
【0013】
撥水剤としては、フッ素系、シリコーン系等のものを用いることができ、例えば、フッ素系のものとしては、日油株式会社製のモディパーF226、モディパーFS770、DIC株式会社製のメガファックF-552等、シリコーン系のものとしては各種シリコーンオイル等を使用することができる。
【0014】
本発明の仮設養生剤は、仮設養生剤全体に対して撥水剤を0.25質量%以上3.0質量%未満含む。本発明の仮設養生剤は、反応型水性アクリルシリコン系ポリマーが、親水性であるシリコン構造を有するが、仮設養生剤全体に対して撥水剤を0.25質量%以上3.0質量%未満含むことにより、適用した木材に撥水性を付与することができ、木材の吸湿を防止することができる。撥水剤の含有量が0.25質量%未満では、吸湿防止効果が十分でなく、撥水剤の含有量が3.0質量%以上では、それ以上の吸湿防止性は不要であり、他の剤と比較して高価な撥水剤の量が増えるため高コストとなる。
また、本発明の仮設養生剤は、反応型水性アクリルシリコン系ポリマー100質量部に対して、撥水剤を10質量部以上40質量部以下含むことが、吸湿防止の点から好ましく、15質量部以上30質量部以下含むことがより好ましい。
【0015】
本発明の仮設養生剤は、ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末(以下、吸着スメクタイト粉末ともいう)を含むことが好ましい。吸着スメクタイト粉末は、仮設養生剤全体に対して0.16質量%以上2質量%未満含むことが好ましい。
スメクタイトは、モンモリロナイト、サポナイト、スチーブンサイト、ヘクライト等の層状ケイ酸塩からなり、金属イオン(アルミニウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン等)とケイ酸とが結合して形成されたシートが層状に形成された粘土鉱物であり、水膨潤性を有している。スメクタイトへのアミン化合物のインターカーレーション現象はよく知られており、ポリカルボジイミドもスメクタイトに強く吸着する。
【0016】
ポリカルボジイミドは、反応型水性アクリルシリコン系ポリマー等が有するカルボキシル基と反応してN-アシルウレア化合物を形成する。ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末は、反応型水性アクリルシリコン系ポリマーと共有結合を形成して複合化するため、被覆膜に強度を付与する。また、スメクタイトは水膨潤性を有するため、吸着スメクタイト粉末を含む仮設養生剤からなる被覆膜は、木材の寸法変化に追従することができ、被覆膜のクラック等の発生による物性低下を防止することができる。ポリカルボジイミドのカルボジイミド等量は300~600g/molであることが好ましい。なお、カルボジイミド等量とは、1当量のカルボジイミド基を含有する重合体のグラム数を表す。
【0017】
ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末は、例えば水中に適量のポリカルボジイミド及びスメクタイト粉末を添加して撹拌・混合し、数分~数十分間静置し、濾過及び乾燥することにより調製することができる。ポリカルボジイミド及びスメクタイト粉末のそれぞれの添加量は、質量比で1:0.1~0.5とすることが好ましい。ポリカルボジイミドの添加量がスメクタイト粉末の添加量の0.1倍よりも少ないとポリカルボジイミドを吸着させた効果が不十分な場合があり、また、0.5倍よりも多すぎても吸着されなかったポリカルボジイミドが無駄となるので、不経済となる。
【0018】
本発明の仮設養生剤は、ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末に加え、さらに鱗片状シリカ粉末を含むことが好ましい。鱗片状シリカ粉末は、仮設養生剤全体に対して0.25質量%以上3質量%以下含むことが好ましい。また、鱗片状シリカ粉末は、吸着スメクタイト粉末100質量部に対して50質量部以上200質量部以下含むことが好ましい。
鱗片状シリカは、耐水性に優れ、自己造膜性を有しているが、膨潤性は小さい。そのため、吸着スメクタイト粉末を含まず鱗片状シリカ粉末を含む被覆膜は、伸縮性が少なく強固であるが、木材の変形に対する追従性が劣る。吸着スメクタイト粉末と鱗片状シリカ粉末の両方を含むことにより、被覆膜の追従性と耐水性とをバランス良く発揮することができる。鱗片状シリカ粉末としては、例えば、市販のAGCSIテック株式会社製のサンラブリーを使用することができる。また、鱗片状シリカ粉末は、メジアン径(D50)が0.5μm以上3.0μm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の仮設養生剤は水系である。溶媒としては、水を必須とし、水と相溶するアルコール系溶剤、ケトン系溶剤等を含むことができる。仮設養生剤全体に対する溶媒の量は、40質量%以上95質量%以下であることが、被覆膜形成性の点から好ましい。溶媒中の水の割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
本発明の仮設養生剤は、紫外線吸収剤、造膜助剤、光安定剤、防腐剤等の添加剤を配合することができる。これらの添加剤は任意成分であるが、紫外線吸収剤を配合することが、木材の日焼けによる変色を防止する点から好ましい。
【0020】
紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤及び無機系紫外線吸収剤の少なくとも1種を使用することができる。紫外線吸収剤は、仮設養生剤全体に対して0.2質量%以上2.7質量%未満含むことが好ましい。
有機系と無機系の紫外線吸収剤は、併用することもでき、併用することが、吸収する紫外線の波長帯を広帯域化することができるため好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、トリアジン系の紫外線吸収剤であるBASF社製のチヌビン400、ベンゾトリアソール系の紫外線吸収剤である株式会社ADEKA製のアデカスタブLA31、アデカスタブLA32、アデカスタブLA36、クラリアントケミカルズ株式会社製のHOSTAVIN3315DISP、HOSTAVIN3326DISP等を使用することができる。無機系紫外線吸収剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム等を使用することができる。
【0021】
本発明の仮設養生剤は、反応型水性アクリルシリコン系ポリマーが水中に分散したエマルジョンであるため、最低造膜温度(MFT:Minimun Film-forming Temperature)が存在する。MFTは、ポリマー粒子同士が融着する最低の温度である。乾燥時の温度がMFTを下回ると、ポリマー粒子同士が融着せず、造膜不良となって被膜にひび割れが発生する場合がある。本発明の仮設養生剤中に造膜助剤を添加すると、ポリマー粒子同士が融着しやすくなり、MFTを下げることができる。アクリルシリコン系ポリマーのMFTは5~10℃程度であるが、造膜助剤を添加することによってMFTを0℃以下まで下げることができ、冬季でも屋外での適用が可能な仮設養生剤とすることができる。
造膜助剤としては、例えば花王株式会社製のスマックMP-40、スマックMP-70、安藤パラケミー株式会社製のダワノールPNP等を使用することができる。また、ブチルセロセルブ、ブチルカルビトール、グリコールジアセテート等も使用することができる。
【0022】
光安定剤は、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)が汎用的に用いられており、高分子の光劣化を抑制し、特に表面の劣化防止に優れている添加剤である。この光安定剤としては、BASF社製のチヌビン、株式会社ADEKA製のアデカスタブLA72、アデカスタブLA82、クラリアントケミカルズ株式会社製のHOSTAVIN3051-2DISP、HOSTAVIN3070DISP等を使用することができる。
【0023】
防腐剤としては、水溶性の木材用防腐剤を特に制限することなく使用することができ、例えば第4級アンモニウム化合物、銅・第4級アンモニウム化合物、銅・アゾール化合物等を使用することができる。
【0024】
本発明の仮設養生剤は、建築現場で保管する建築用木材の少なくとも一部を被覆するものであり、木材の吸湿を防止し、含水率の変動による寸法変化を抑制することができる。
本発明の仮設養生剤は、スギ材を被覆した場合に、20℃25%RHから20℃90%RHに湿度を変化させて24時間経過後の湿度変化前後での含水率(湿度)の変化量は、寸法変化を小さくする点から8%未満であることが好ましい。含水率(湿度)の変化量は、高湿度環境となった際の含水率の変化を想定したものであり、含水率(湿度)の変化量は7.6%以下であることがより好ましい。含水率(湿度)の変化は小さいほど好ましいが、7%程度であれば実用的に寸法変化を抑制することができ、それ以上小さくすると、仮設養生剤の使用量が増える、高価な撥水剤の使用量が増える等により高コストとなる。
また、含水率(湿度)の変化量は、本発明の仮設養生剤を適用していないときの含水率(湿度)に対して、90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。
【0025】
さらに、本発明の仮設養生剤は、スギ材を被覆した場合に、20℃の蒸留水に3分浸漬した浸漬前後の湿度変化前後での含水率(吸水)の変化量は、寸法変化を小さくする点から8%未満であることが好ましい。含水率(吸水)の変化量は、屋外で保管された木材に雨水がかかってしまった際の含水率の変化を想定したものであり、含水率(吸水)の変化量は7.5%以下であることがより好ましい。含水率(吸水)の変化は小さいほど好ましいが、5%程度であれば実用的に寸法変化を抑制することができ、それ以上小さくすると、仮設養生剤の使用量が増える、高価な撥水剤の使用量が増える等により高コストとなる。
また、含水率(吸水)の変化量は、本発明の仮設養生剤を適用していないときの含水率(湿度)に対して、60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明の仮設養生剤は、建築用木材に対して固形分で3g/m2以上60g/m2以下で適用することが好ましい。適用量が3g/m2未満では吸湿防止性が不十分である場合があり、適用量が60g/m2を超えるとそれ以上の吸湿防止性は不要であり、仮設養生剤の使用量が増えるため高コストとなる。
【0027】
本発明の仮設養生剤は、建築用木材の少なくとも一部を被覆するものである。適用する建築用木材は特に制限されず、柱部材、梁部材、板材等が挙げられる。本発明の仮設養生剤は、継手、仕口等の接合部の少なくとも一部に適用することが好ましく、接合部全体に適用することがより好ましい。接合部の寸法変化を抑制することにより、建方の際の結合不良を効率的に防止することができる。なお、本発明の仮設養生剤は、建築用木材の全面に適用することもできる。
【0028】
本発明の仮設養生剤は、製材工場等で所定の含水率以下となるように乾燥し、プレカットした後の建築用木材に適用することが好ましい。これにより、プレカット時の設計寸法からの寸法変化量を小さくすることができ、また、現場での作業量を削減することができる。
本発明の仮設養生剤は、スプレー、ローラー、刷毛等の公知の方法で建築用木材に適用することができる。これらの中で、継手、仕口等の複雑な形状に加工された接合部への適用が容易なため、スプレーで適用することが好ましい。
【実施例0029】
[ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末の調製]
水に所定量のスメクタイト粉末を分散させた。ポリカルボジイミド(カルボジライトV-10、日清紡ケミカル社)を質量比でスメクタイト粉末の1/10となるように添加し、5分間良く撹拌した後に濾過及び乾燥して、ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末を得た。
【0030】
[仮設養生剤の調製]
主剤と硬化液とを混合し、反応型水性アクリルシリコン系ポリマー(ゼムラックW3108F、株式会社カネカ)25質量%、硬化剤(Dynasylan HYDROSIL 1151、エボニック社製)4質量%、撥水剤(モディパーF226、日油株式会社製)3質量%、ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末2質量%、鱗片状シリカ粉末(サンラブリー、AGCSIテック株式会社)3質量%、造膜助剤(ダワノールPNP、安藤パラケミー株式会社)5質量%、無機系紫外線吸収剤(酸化チタン)0.7質量%、有機系紫外線吸収剤(チヌビン400、BASF製)2質量%、光安定剤(チヌビン、BASF社)2質量%、防腐剤2質量%、イソプロピルアルコール10質量%、プロピレングリコール6質量%、残部水からなる仮設養生剤1を調製した。なお、硬化液は、硬化剤とプロピレングリコールとからなり、残りの剤は主剤に含まれる。
また、この仮設養生剤1を水で希釈して、撥水剤の含有量がそれぞれ0.1質量%、0.3質量%、1.0質量%、1.5質量%である仮設養生剤を調製した。
【0031】
スギ材(無節、70×150×10mm)の全面に、刷毛により各仮設養生剤を、液分を含む適用量が200mg/m
2となるように均一に適用し、被検試料を得た。各被検試料と仮設養生剤なしのスギ材について、以下に示す評価試験を行った。結果を表1に示す。また、撥水度試験後の水を滴下した面と、接触角試験の画像の一部を
図1に示す。
【0032】
・含水率変化(湿度)
湿度変化を想定した試験である。
20℃25%RHから20℃90%RHに変化させて24時間経過後の湿度変化前後での含水率増加量を測定し、以下の基準で評価した。
○:8%未満
△:8%以上10%未満
×:10%以上
・含水率変化(吸水)
降雨を想定した試験である。
20℃の蒸留水に被検試料を3分浸漬し、浸漬前後での含水率増加量を測定し、以下の基準で評価した。
○:8%未満
△:8%以上10%未満
×:10%以上
【0033】
・撥水度(1分)
予め質量を測定した被検試料の適用面中央部に約1gの純水を滴下し、水滴下直後の被検試料の質量(W1)と、1分後に水をふき取った被検試料の質量(W2)を測定し、下記式(1)により撥水度を計算し、以下の基準で評価した。
○:99%以上
△:96%以上99%未満
×:96%未満
撥水度(%)=(1-{(W2-W)/(W1-W)})×100・・・・・(1)
W :水滴下前の試験体質量
W1:水滴下直後の約1gの水を含む試験体質量
W2:水滴下1分後に水を拭き取った直後の試験体質量
・撥水度(3時間)
上記の撥水度(1分)において、「1分後に水をふき取った」の部分を「3時間後に水をふき取った」に変更して撥水度を計算し、以下の基準で評価した。
○:70%以上
△:50%以上70%未満
×:50%未満
【0034】
・接触角
接触角計により、被検試料主面における純水2μlの接触角を測定した。測定は3回行いその平均値により、以下の基準で評価した。
○:85°以上
△:10°以上85°未満
×:10°未満
【0035】
【0036】
実施例1~3、比較例3の仮設養生剤により、適用なし(比較例1)と比較して、湿度変化時の含水率変化を約85%以下、降雨を想定した含水率変化を約55%以下に抑えることができた。
【0037】
[寸法変化の想定計算]
長さ6000mmのスギの梁材と450mm角のスギの柱材とが結合する際の、梁の伸長量と柱の幅増大量の累加値(部材同士の接合部分)が7mm以下を目標とする。なお、7mm以下であれば、建方時の接合不良を防ぐことができる。
一般的な建築用木材であるスギ材の含水率15%時の大きさを基準に、含水率が1%変化したときの伸縮量の割合として、接線方向0.259%、放射方向0.093%、繊維方向0.011%と想定した。
【0038】
・湿度変化
適用なしの杉材の場合、上記比較例1より、湿度変化により含水率(湿度)は8.8%増加する。含水率が8.8%増加した際、梁の伸長量と柱の幅増大量は、以下のとおりである。なお、柱の幅増大量としては、寸法変化のより大きい接線方向(板目)の想定値を用いた。
(梁の伸長量)
6m×0.011%×8.8(%)=5.8mm
(柱の幅増大量)
45cm×0.259%×8.8(%)=10.3mm
梁と柱は全体的に膨張するから、この梁と柱の結合面での膨張量は片面あたりの膨張量となる。すなわち、梁が2.9mm(=5.8/2)伸長し、柱の幅が5.1mm(=10.3/2)増大し、その累加値は8.0mmである。
【0039】
このようにして算出した、梁の伸長量(片面)と柱の幅増大量(片面)とその合計とを、表2に示す。
【0040】
【0041】
表2に示すように、本発明の仮設養生剤により、木材の寸法変化を小さくすることができるため、梁と柱の結合面での寸法変化を7mm以下に抑えることができる。特に、急な降雨等に僅かな時間だけ濡れてしまった際の寸法増加を抑制することができる。
比較例3の仮設養生剤は吸湿防止効果に優れていた。ただし、その寸法変化は高湿度の際に6.3mm、降雨等で濡れた際に4.0mmであり、ここまでの寸法変化抑制効果が必要になる状況はほとんど想定されないためオーバースペックであり、また、仮設養生剤の使用量、他の剤と比較して高価な撥水剤の使用量が増えるため高コストである。