(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156793
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】ポリウレタン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 18/65 20060101AFI20231018BHJP
C09D 175/06 20060101ALI20231018BHJP
C08G 18/38 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C08G18/65
C09D175/06
C08G18/38 076
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066366
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】520355426
【氏名又は名称】斎藤塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】池田 宏文
(72)【発明者】
【氏名】菅 彰浩
【テーマコード(参考)】
4J034
4J038
【Fターム(参考)】
4J034BA08
4J034CA32
4J034CB01
4J034CC03
4J034DA01
4J034DB04
4J034DF01
4J034DF16
4J034DF19
4J034DF20
4J034DM01
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC33
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC71
4J034HC73
4J034QA02
4J034QA03
4J034QA05
4J034RA07
4J038DD061
4J038DG111
4J038DG262
4J038DL052
4J038JA25
4J038JA33
4J038JC02
4J038KA06
4J038KA09
4J038MA11
4J038NA12
4J038PA06
(57)【要約】
【課題】様々な材料への高い密着性と伸び率を有する硬化膜を形成することができ、貯蔵安定性に優れたポリウレタン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、および脂肪族ジオールの縮合反応物であるポリエステルポリオール、(B)ポリイソシアネート、ならびに(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物を含有するポリウレタン樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、および脂肪族ジオールの縮合反応物であるポリエステルポリオール、
(B)ポリイソシアネート、ならびに
(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物
を含有するポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)ポリエステルポリオールがポリエステルジオールである、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)ポリイソシアネートが炭素数6以上の脂肪族ジイソシアネートと脂肪族ポリオールのアダクト体である、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)炭化水素化合物の反応性チオール基の数が1である、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、(D)反応性水酸基を有するシリコーン化合物を含有する、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~6のいずれかに記載のポリウレタン樹脂組成物からなる一液型塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性チオール基を有する炭化水素化合物を含むポリウレタン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の塗装では、金属、ガラス、セメントなどの無機材料や、プラスチックなどの有機材料など、基材の材料に最適な塗料を使用することが一般的である。しかし、この方法では、異なる材料を組み合わせた複合素材を塗装するときに2種以上の塗料が必要になる。単一の塗料で複合素材を塗装する潜在的なニーズが存在する。このニーズに応えるため、様々な材料に対する高い密着性を有する塗料が求められている。さらに、天然ゴムなどの高弾性基材や、発泡材料や布などの変形しやすい基材に密着し、伸びや曲げなどの変形に追随できる塗料が求められている。
【0003】
また、塗料材料としてポリウレタン樹脂組成物が幅広く用いられている。特に、分子量が大きいポリオールを含むポリウレタン組成物は、強固な硬化物を形成できるが、貯蔵安定性に劣るため2液型とする必要があり作業性が劣る。また、流動性が低く、塗料には適さない。低分子量のポリオールを含むポリウレタン組成物は貯蔵安定性が改善し、1液型とすることは可能であるが、硬化物の物性が不十分である。
【0004】
特許文献1には、芳香族骨格を有するポリエステルポリオール、脂肪族骨格を有するジオール及びジイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンエラストマーを繊維に用いると、その弾性機能により、心地よい着用感が得られることが開示されている。しかし、このエラストマーを塗装に適用することは開示されていない。
【0005】
特許文献2には、アクリルポリオールとジイソシアネートとを含有する樹脂組成物から得られる塗膜が開示されている。しかし、柔軟性(耐衝撃性)は不十分であるし、塗膜表面の粘着性が低いため密着性が低いことが懸念される。
【0006】
特許文献3には、ゴム組成物に粘性を付与し架橋収率を改善するために、反応性チオール基を有する炭化水素化合物を配合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-81305号公報
【特許文献2】特開平09-059566号公報
【特許文献3】特開2000-26820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、様々な材料への高い密着性と伸び率を有する硬化膜を形成することができ、貯蔵安定性に優れたポリウレタン樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリエステルポリオールの原料成分として、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールを組み合わせ、さらに反応性チオール基を有する炭化水素化合物を配合することで前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、(A)芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、および脂肪族ジオールの縮合反応物であるポリエステルポリオール、(B)ポリイソシアネート、ならびに(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物を含有するポリウレタン樹脂組成物に関する。
【0011】
前記(A)ポリエステルポリオールがポリエステルジオールであることが好ましい。
【0012】
前記(B)ポリイソシアネートが炭素数6以上の脂肪族ジイソシアネートと脂肪族ポリオールのアダクト体であることが好ましい。
【0013】
前記(C)炭化水素化合物の反応性チオール基の数が1であることが好ましい。
【0014】
さらに、(D)反応性水酸基を有するシリコーン化合物を含有することが好ましい。
【0015】
また、本発明は、前記ポリウレタン樹脂組成物からなる一液型塗料に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、様々な材料への高い密着性と伸び率(弾性・柔軟性)を有する硬化膜を形成することができ、貯蔵安定性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、(A)芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、および脂肪族ジオールの縮合反応物であるポリエステルポリオール、(B)ポリイソシアネート、ならびに(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物を含有する。
【0018】
<(A)ポリエステルポリオール>
本発明で使用する(A)ポリエステルポリオールは、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジオールの縮合反応物である。
【0019】
芳香族ジカルボン酸は特に限定されず、o-フタル酸(オルトフタル酸)、m-フタル酸(イソフタル酸)、p-フタル酸(テレフタル酸)、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸や、これらの酸無水物、アルキルエステル、酸ハロゲン化物などの反応性誘導体が挙げられる。これらの中でも、原料としての入手の容易さ、コストの観点から、炭素数8~14の芳香族ジカルボン酸及びその反応性誘導体が好ましく、o-フタル酸、m-フタル酸、p-フタル酸及びその反応性誘導体が特に好ましい。これらのジカルボン酸は、単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
【0020】
脂肪族ジカルボン酸は特に限定されず、直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族ジカルボン酸や、これらの酸無水物、アルキルエステル、酸ハロゲン化物などの反応性誘導体が挙げられる。具体的には、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、原料としての入手の容易さ、コストの観点から、炭素数4~9の脂肪族ジカルボン酸及びその反応性誘導体が好ましく、中でも直鎖状の脂肪族ジカルボン酸及びその反応性誘導体がより好ましく、アジピン酸及びその反応性誘導体が特に好ましい。これらのジカルボン酸は、単独でまたは2種を以上併用して用いることができる。
【0021】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸の比率は、両者の合計100重量部中、芳香族ジカルボン酸が20~80重量%含まれることが好ましく、30~70重量%がより好ましい。20重量%未満であると、基材への密着性が低下する傾向があり、80重量%を超えると、ポリウレタン樹脂組成物を塗料として用いたときに、塗膜の弾性・柔軟性が低下する傾向がある。
【0022】
脂肪族ジオールは特に限定されず、直鎖状(エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなど)、分岐状(1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオールなど)又は環状(1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)の脂肪族ジオールが挙げられる。これらのジオールは、単独または2種以上併用して用いることができる。これらの中でも、原料としての入手の容易さ、コストの観点から、炭素数2~8のものが好ましく、炭素数2~6のものがより好ましい。
【0023】
脂肪族ジオールに加えて、芳香族ジオールを併用してもよいが、全ジオール成分中、脂肪族ジオールの割合が60~100重量%であることが好ましく、70~100重量%であることがより好ましく、80~100重量%であることがさらに好ましい。60重量%未満であると、ポリウレタン樹脂組成物を塗料として用いたときに、塗膜の弾性・柔軟性が低下する傾向がある。
【0024】
(A)ポリエステルポリオールに含まれる水酸基は2~4が好ましく、ポリエステルジオールであることがより好ましい。
【0025】
(A)ポリエステルポリオールの数平均分子量(Mn)は1000~30000が好ましく、10000~20000がより好ましい。1000未満であると、硬化物の弾性の低下傾向があり、30000を超えると、高粘度となり、ハンドリング性が大きく低下する傾向がある。なお、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めることができる。
【0026】
(A)ポリエステルポリオールの重量平均分子量(Mw)は2000~60000が好ましく、20000~40000がより好ましい。2000未満であると、弾性の低下傾向があり、60000を超えると、高粘度となり、ハンドリング性が大きく低下する傾向がある。なお、重量平均分子量は、GPCを用いてポリスチレン換算で求めることができる。
【0027】
(A)ポリエステルポリオールの水酸基価は5~100mgKOH/gが好ましく、5~50mgKOH/gがより好ましい。5mgKOH/g未満であると、架橋密度の低下による膜強度の低下傾向があり、100mgKOH/gを超えると、膜の耐水性が低下する傾向がある。なお、水酸基価は、ポリエステルポリオールを無水フタル酸のピリジン溶液でエステル化し、過剰な無水フタル酸を水酸化ナトリウム溶液で滴定することにより求めることができる(JIS K 1557-1に準拠)。
【0028】
(A)ポリエステルポリオールは、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールを公知の方法で脱水縮合させて得ることができる。
【0029】
ジカルボン酸成分(芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸)とジオール成分との比率は、ジカルボン酸に含まれるカルボキシ基の合計モル数に対するジオール成分に含まれる水酸基の合計モル数の比(水酸基/カルボキシ基)が、0.5~1.5となることが好ましく、0.8~1.2となることがより好ましい。
【0030】
<(B)ポリイソシアネート>
本発明で使用する(B)ポリイソシアネートは特に限定されず、直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族ポリイソシアネートや芳香族ポリイソシアネートなどが挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。芳香族ジイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。また、これらのポリイソシアネートと、グリセリン、トリメチロールプロパンなどのポリオールとを付加反応させたアダクト体も使用することもできる。これらのポリイソシアネートは、単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
【0031】
中でも、高弾性・高柔軟性の硬化膜が得られることから、脂肪族骨格を有するもの(脂肪族ポリイソシアネートや、脂肪族ポリイソシアネートと脂肪族ポリオールのアダクト体)が好ましい。また、原料としての入手の容易さ、コストの観点から、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの炭素数6以上、好ましくは炭素数6~12の脂肪族ジイソシアネートと、脂肪族ポリオールのアダクト体がより好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンのアダクト体が特に好ましい。
【0032】
ポリイソシアネートとして脂肪族骨格を有するものと芳香族骨格を有するものとを併用してもよいが、脂肪族骨格を有するものの割合が、全ポリイソシアネート成分中50~100重量%であることが好ましく、70~100重量%であることがより好ましく、80~100重量%であることがさらに好ましい。50重量%未満であると、硬化膜の弾性・柔軟性が低下する傾向がある。
【0033】
ポリイソシアネート中のNCO基の重量%を示すNCO%は、2~30%であることが好ましく、2~20%であることがさらに好ましい。
【0034】
<(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物>
(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物は、ポリウレタン樹脂組成物に貯蔵安定性を付与する。「反応性チオール基」とは、(B)ポリイソシアネート基との反応性を有するチオール基を意味する。(A)ポリエステルポリオールと(B)ポリイソシアネートの2者を混合すると常温でウレタン結合を形成するため貯蔵安定性に劣る。(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物は、(B)ポリイソシアネートとアダクト体を形成し、(A)ポリエステルポリオールと(B)ポリイソシアネートとの反応を抑制する。
【0035】
(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物と、(B)ポリイソシアネートとの反応は平衡反応である。(A)、(B)、および(C)成分が存在する系では、優先的に(B)成分と(C)成分によるアダクト体の形成が生じ、(A)ポリエステルポリオールと(B)ポリイソシアネートによるウレタン結合の形成が抑制される。(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物が揮発などにより系から失われると、(A)ポリエステルポリオールと(B)ポリイソシアネートとの間でウレタン結合が形成される。
【0036】
(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物の、炭化水素の構造は特に限定されず、直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族炭化水素や、芳香族炭化水素が挙げられる。(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物の炭素数は、2~20が好ましく、3~18がより好ましく、8~16がさらに好ましく、10~14が特に好ましい。炭素数が2未満では使用時に臭気を生じる傾向がある。炭素数が20を超えると揮発性が低く、塗料として用いたときに硬化膜の性能が低下する傾向がある。
【0037】
(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物の、チオール基は1官能が好ましい。2官能以上では、(B)成分と架橋し、ポリウレタン樹脂組成物の貯蔵安定性が低下する傾向がある。
【0038】
(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物の具体例としては、プロピルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタン、オクタデシルメルカプタンなどが挙げられる。これらの中でも、常温かつ常圧の条件下で揮発性のものが好ましく、プロピルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタンが好ましい。
【0039】
<(D)反応性水酸基を有するシリコーン化合物>
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、さらに、(D)反応性水酸基を有するシリコーン化合物を含むことが好ましい。「反応性水酸基」とは、イソシアネート基との反応性を有する水酸基を意味する。スリップ剤として作用するシリコーン化合物が反応性水酸基を有するため、ポリイソシアネートと反応して硬化膜に固定され、長期間にわたりスリップ性を持続させることができる。
【0040】
(D)反応性水酸基を有するシリコーン化合物では、反応性水酸基はSiに直結されていてもよいし、直結されていなくてもよい。また、反応性水酸基は、アルコキシシリル基等の加水分解により生じるものであってもよい。(D)反応性水酸基を有するシリコーン化合物は、反応性水酸基の他に、(メタ)アクリル基、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等の反応性基や、アルキル基、エステル基、アラルキル基、フェニル基、ポリエーテル基等の非反応性基を有していてもよい。
【0041】
(D)反応性水酸基を有するシリコーン化合物の数平均分子量は1000~20000が好ましく、3000~15000がより好ましい。1000未満であると、膜から離脱して効果が持続しなくなる傾向があり、20000を超えると、膜表面に配向するのが難しくなり、タック防止効果が発生しなくなる傾向がある。
【0042】
(D)反応性水酸基を有するシリコーン化合物の重量平均分子量は2000~40000が好ましく、6000~30000がより好ましい。2000未満であると、膜から離脱して効果が持続しなくなる傾向があり、40000を超えると、膜表面に配向するのが難しくなり、タック防止効果が発生しなくなる傾向がある。
【0043】
(D)反応性水酸基を有するシリコーン化合物の水酸基価は30~200mgKOH/gが好ましく、80~150mgKOH/gがより好ましい。30mgKOH/g未満であると、膜から離脱して効果が持続しなくなる傾向があり、200mgKOH/gを超えると、水可溶性が上がり、水分により膜から離脱する傾向がある。
【0044】
<その他の添加剤>
本発明のポリウレタン樹脂組成物には、必要に応じて顔料、分散剤、溶剤、レベリング剤、硬化触媒、増粘剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、シランカップリング剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0045】
顔料は特に限定されず、着色顔料としては、酸化チタン、酸化鉄系黄色顔料及び赤色顔料、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ベンツイミダゾロン、キナクリンドン、アントラキノン、ナフトール、アゾ系各種顔料などが挙げられ、所望の色に応じて単独または2種以上併用して用いることができる。また、体質顔料としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、アルミナホワイト、硫酸バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、バライトパウダー、珪藻土、シリカなどが挙げられる。さらに防錆顔料としては、シアナミド鉛、亜酸化鉛、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、亜鉛華などが挙げられる。配合量も特に限定されないが、例えば(A)ポリエステルポリオール100重量部に対し1~300重量部添加することができる。
【0046】
分散剤は特に限定されず、ポリカルボン酸系顔料分散剤、ポリアミン系顔料分散剤などが挙げられる。配合量も特に限定されないが、例えば(A)ポリエステルポリオール100重量部に対し0.1~10重量部添加することができる。
【0047】
溶剤は特に限定されず、シクロヘキサノン、酢酸ブチル、酢酸エチル、キシレン、トルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これらの溶媒は、単独または2種以上併用して用いることができる。樹脂組成物中の溶媒の含有量も特に限定されず、必要に応じて調節すればよい。
【0048】
レベリング剤は特に限定されず、ポリエーテル系レベリング剤、フッ素系レベリング剤、ポリエステル系レベリング剤、シロキサン系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤、アクリル系レベリング剤などが挙げられる。レベリング剤の配合量は特に限定されないが、(A)ポリエステルポリオール100重量部に対し0.1~10重量部が好ましく、0.2~5重量部がより好ましい。
【0049】
シランカップリング剤は特に限定されず、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系シランカップリング剤、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリル系シランカップリング剤、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ系シランカップリング剤、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミン系シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤の配合量は特に限定されないが、(A)ポリエステルポリオール100重量部に対し0.1~10重量部が好ましく、0.2~5重量部がより好ましい。
【0050】
<必須成分の配合比>
(A)ポリエステルポリオールに含まれる水酸基の合計モル数(さらに(D)反応性水酸基を有するシリコーン化合物を含む場合には、当該成分に含まれる水酸基の合計モル数も含むモル数)に対する(B)ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/水酸基)が、0.7~1.5となることが好ましく、0.8~1.2となることがより好ましい。
【0051】
(B)ポリイソシアネートの配合量は、(A)ポリエステルポリオール100重量部に対し0.1~50重量部が好ましく、1~10重量部がより好ましい。
【0052】
(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物の配合量は、(A)ポリエステルポリオール100重量部に対し0.1~8重量部が好ましく、0.5~5重量部がより好ましい。
【0053】
また、(B)ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基に対し、(C)反応性チオール基を有する炭化水素化合物に含まれるチオール基のモル比(イソシアネート基/チオール基)は、0.1~3が好ましく、0.5~2がより好ましい。
【0054】
(D)反応性水酸基を有するシリコーン化合物の配合量は、(A)ポリエステルポリオール100重量部に対し0.3~10重量部が好ましく、0.5~5重量部がより好ましい。0.3重量部未満であると硬化膜の表面タックを十分に抑制することができないおそれがあり、10重量部を超えると耐水性が低下し、水分の多い環境下で硬化膜表面が白化するおそれがある。
【0055】
ポリウレタン樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、(A)成分、(B)成分、および(C)成分を一括で、または任意の順序により混合すればよい。貯蔵安定性を高めるためには、あらかじめ(B)成分と(C)成分を反応させて両者のアダクト体を形成し、そのアダクト体を(A)成分と混合することが好ましい。
【0056】
<硬化膜の形成方法>
本発明のポリウレタン樹脂組成物を基材上に塗布し、硬化させることにより硬化膜を形成できる。塗布方法は特に限定されず、スプレー、刷毛、ローラー、バーコート、スピンコート、ディッピング、印刷、インクジェット等が挙げられる。硬化方法も特に限定されず、常温乾燥による硬化、加温による促進硬化などの公知の方法が挙げられる。
【0057】
スプレーによる塗布を行う場合、本発明のポリウレタン樹脂組成物を充填剤と共にエアゾール容器に充填する。充填剤はエアゾールに用いられるものであれば特に限定されず、ジメチルエーテル、液化石油ガス(LPG)、フッ化炭化水素等が挙げられる。これらの中でもジメチルエーテルが好ましい。充填剤の使用量は、ポリウレタン樹脂組成物と充填剤の体積比が55:45~40:60が好ましく、50:50~45:55がより好ましい。
【0058】
基材の材質は特に限定されず、天然ゴム、合成ゴム(スチレン・ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、シリコンゴム等)、金属(鉄、ステンレス(SUS304、SUS430等)、アルミニウム(アルミ5052、アルミ6063等)、銅、真鍮等)、樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、静電処理ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、6ナイロン、66ナイロン、PET樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、硬質塩化ビニル、軟質塩化ビニル、酢酸ビニル樹脂等)、ガラス、陶器、タイル、コンクリート、織布、不織布、合成皮革、天然皮革(牛革等)等が挙げられる。織布、不織布を構成する繊維は、前述した樹脂であってもよく、綿、絹などであってもよい。これらは単独でもよく、2種以上が組み合わされた複合素材でもよい。
【0059】
基材の形態も特に限定されず、フィルム、シート、成形体、発泡タイプ、フォームタイプが挙げられる。
【0060】
硬化膜の膜厚は特に限定されず、5~200μmが好ましい。5μm未満では、膜強度が不十分なため、膜破断する傾向があり、200μmを超えると、反応性が不均一となり、指触感が悪くなる傾向がある。なお、200μmを超える厚みを必要とする場合には、数回に分けて塗装と硬化を繰り返せばよい。
【0061】
硬化膜は、膜厚が50μmの場合に300%以上の伸び率を示すことが好ましく、350%以上がより好ましい。ここで、伸び率とは、フリーフィルムの引張試験による値である。
【0062】
<用途>
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、下着、スポーツウェア、ストッキング、靴下、サポーターなどの衣料品用の塗料として、また、包帯、ガーゼ、絆創膏などの医療用品用の塗料として好適に使用できる。本発明のポリウレタン樹脂組成物は、透明な塗膜を形成するための塗料としても好適に使用できる。
【0063】
また、本発明のポリウレタン樹脂組成物は、自動車のボディー外板下回りやバンパー部分において、飛石などによる傷や腐食を防ぐための耐チッピングプライマーとして好適に使用できる。この場合、耐チッピングプライマー層は、自動車のボディー外板下回りやバンパーなどの基材上や、中塗り層の下に形成することができる。耐チッピングプライマー層の上には、更に、メタリックベース層、中塗り層、クリヤー層などを任意の順序で積層してもよい。
【0064】
また、本発明のポリウレタン樹脂組成物は、フレキシブルディスプレイ装置やフレキシブルタッチパネルにおいて、偏光フィルタ、カラーフィルタ、電極基板などの接着に使用できる。また、自動車用合わせガラス、航空機用合わせガラス、船舶用合わせガラス、建築物用合わせガラスなどの製造のための透明基材用接着剤として使用できる。
【0065】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は1液型、2液型のいずれの形態で用いてもよいが、貯蔵安定性に優れるため1液型の塗料、接着剤、またはプライマーとして使用でき、1液型のスプレー塗料として特に好適に使用できる。
【実施例0066】
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、特にことわりのない限り、「部」は重量部を意味する。
【0067】
(1)塗料組成物の製造
実施例1
芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸14部及びイソフタル酸14部と、脂肪族ジカルボン酸であるアジピン酸30部とを混合し、ジカルボン酸混合物を得た。これに脂肪族ジオールであるエチレングリコール8部、ネオペンチルグリコール17部及び1,6-ヘキサンジオール17部を混合し、公知の方法で縮合反応させ、ポリエステルポリオール(A1)を得た。(A1)のMnは17400、Mwは34100、水酸基価(固形)は10mgKOH/gであった。得られた(A1)100部に対し、シリコーン化合物(KR-500(メトキシシリル基を有するシリコーン化合物。メトキシ基を28重量%含有)、信越化学工業株式会社製)1部を混合し、さらに、溶剤としてシクロヘキサノン96部を混合して主剤とした。
【0068】
ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンのアダクト体(デュラネートE402-90T(NCO%:8.5%)旭化成株式会社製)4部とn-ドデシルメルカプタン4部を混合した。この混合物を主剤に添加し、塗料組成物を得た。
【0069】
実施例2
n-ドデシルメルカプタンの代わりに、プロピルメルカプタンを4部使用した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0070】
実施例3
n-ドデシルメルカプタンの代わりに、n-ヘキサデシルメルカプタンを4部使用した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0071】
比較例1
n-ドデシルメルカプタンを使用せず、シクロヘキサノンを100部使用した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0072】
(2)塗料組成物の評価
(2-1)塗料組成物の貯蔵安定性
塗料を50℃、湿度95%以上の環境下で表1に記載の期間静置した。静置後の増粘が±5KU未満のときに〇、±5KU以上のときに×と評価した。
【0073】
(2-2)エアゾールの貯蔵安定性
各実施例および比較例の塗料組成物と、ジメチルエーテルを、体積比9:11の割合でそれぞれスプレー缶に充填した。
(i)振とう攪拌
エアゾールスプレー缶を50℃、湿度95%以上の環境下で表1に記載の期間静置した。静置後、エアゾールスプレー缶を上下に振とう攪拌して、攪拌球の音が鳴るまでの振とう攪拌回数を数えた。10回未満のときに〇、10回以上のときに×と評価した。
【0074】
(ii)全量噴射
エアゾールスプレー缶を50℃、湿度95%以上の環境下で表1に記載の期間静置した。静置後、全量噴射したときのエアゾールスプレー缶の噴射口の状態を観察した。最初から最後まで噴射状態に差がなく、成膜時に凝集が生じないときに○、噴射状態が変化する、および/または成膜時に凝集が生じたときに×と評価した。
【0075】
(2-3)塗膜性能
塗料組成物を天然ゴム基材に塗装して厚み50μmの塗膜を形成した。
(i)外観
成膜の確認(JIS K 5600-3)、色や艶の確認(JIS K 5600-4)を各JIS規格に基づき評価した。外観が良好であるときに○、中程度であるときに△、不十分であるときに×と評価した。
(ii)耐水性
塗膜を40℃温水に72時間浸漬した(JIS K 5600-6-2)。浸漬後の塗膜の色と艶が良好であるときに○、中程度であるときに△、不十分であるときに×と評価した。
(iii)伸縮性
両端を引っ張り変形させることにより、塗膜の伸び率を測定した。伸び率(%)は、引張前の長さに対して、塗膜が引っ張り破断した時点での基材の長さの比率で表す。伸び率の、チオール非含有時(比較例1)との差が20%未満のときに○、そうでないときに△と評価した。
(iv)耐溶剤性
塗膜に対しエタノールで湿らせた布地で100回こするラビング試験を行った。試験後の塗膜の色と艶が良好であるときに○、中程度であるときに△、不十分であるときに×と評価した。
【0076】
(2-4)塗料組成物の臭気
塗料組成物の使用時の臭いを確認した。異臭がないときに○、異臭があるときに△と評価した。
【表1】
【0077】
比較例1の塗料組成物は反応性チオール基を有する炭化水素化合物を含まないため、貯蔵安定性に劣っていた。実施例1~3の塗料組成物は貯蔵安定性に優れており、その塗膜も十分な性能を備えていた。