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特開2023-156827超硬合金表面の金属結合相の選択腐食方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156827
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】超硬合金表面の金属結合相の選択腐食方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/00 20060101AFI20231018BHJP
   C23F 1/04 20060101ALI20231018BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20231018BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C23F1/00 Z
C23F1/04
B23B27/14 B
B23P15/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066421
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】522150768
【氏名又は名称】九州瑞穂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116296
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幹生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 堅志
(72)【発明者】
【氏名】大澤 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】武本 泰夫
(72)【発明者】
【氏名】大澤 史和
【テーマコード(参考)】
3C046
4K057
【Fターム(参考)】
3C046FF32
4K057WA13
4K057WB01
4K057WB17
4K057WN10
(57)【要約】
【課題】新規の用途、新規の超硬合金の品種、ならびに新規の選択腐食深さに対して都度の予備実験を実施しなくても、選択腐食条件を精度良く決定し、目的とする腐食深さに必要な腐食時間を定めて、その腐食時間で超硬合金中に含まれる金属結合相の選択腐食を行うことが可能な、金属結合相の選択腐食方法を提供する。
【解決手段】超硬工具を構成する超硬合金に含まれる硬質粒子相1と金属結合相2のうち、超硬合金の表面において金属結合相のみを選択腐食する際に、必要な腐食深さに影響を与える制御変数をあらかじめ重回帰分析を用いてその影響度を数値化し、重回帰分析における重回帰式から目的とする腐食深さに必要な腐食時間を定めて、その腐食時間で超硬合金中に含まれる金属結合相の選択腐食を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬工具を構成する超硬合金に含まれる硬質粒子相と金属結合相のうち、超硬合金の表面において金属結合相のみを選択腐食する際に、必要な腐食深さを選定し、その狙い深さで腐食する金属結合相の選択腐食方法であって、腐食深さに影響を与える制御変数をあらかじめ重回帰分析を用いてその影響度を数値化し、重回帰分析における重回帰式によって目的とする腐食深さに必要な腐食時間を定めて、その腐食時間で超硬合金中に含まれる金属結合相の選択腐食を行うことを特徴とする超硬合金表面の金属結合相の選択腐食方法。
【請求項2】
前記腐食深さを重回帰分析で数式化する際、その制御変数として、硬質粒子相と金属結合相の質量比、超硬合金の硬質粒子径、腐食液組成、腐食液濃度、腐食液温度、腐食時間、腐食液の流速、または腐食時の振動条件の少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の超硬合金表面の金属結合相の選択腐食方法。
【請求項3】
前記重回帰式を腐食時間について解き、目的とする工具に最適な腐食深さを定め、その他の制御変数を入力することにより、前記腐食深さに対応する腐食時間を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の超硬合金表面の金属結合相の選択腐食方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬工具を構成する超硬合金に含まれる硬質粒子相と金属結合相のうち、金属結合相のみを選択腐食するにあたって、必要な選択腐食深さを選定した際、その腐食時間を決定して、超硬合金表面の金属結合相を選択的に腐食する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切断工具として用いられる超硬工具の特性の向上に関して、近年、硬質粒子相と金属結合相からなる超硬合金のうち、金属結合相を工具表面から除去し、硬質粒子相のみをその表面に残して工具として使用することによって、その特性が向上することが、特許文献1において報告されている。
【0003】
この金属結合相の除去に際して、化学エッチングや物理エッチングがその手段として用いられる。例えば特許文献2では、王水や硝酸溶液での表面金属結合相の除去プロセスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2019/065677号公報
【特許文献2】特開2019-206754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、金属結合相を化学エッチングや物理エッチングの方法で選択除去すると、その表面は、特定の使用環境において、耐摩耗性、耐電圧性、潤滑性等が改善することがわかっている。しかし、金属結合相の欠乏深さは、切断工具、切削工具、プレス工具、引き抜きダイス、摺動放電工具等、それぞれの用途に応じた品種の超硬合金にそれぞれ最適な深さが存在するため、腐食条件をあらかじめ定めておくことは困難である。
【0006】
従来は、顧客仕様に応じて、超硬合金の品種と選択腐食深さを定めると、都度選択腐食の予備検討を実施した上で、最適腐食時間を決定し製品に適用していた。しかし、このプロセスは工程が煩雑であることから、選択腐食された表面を持つ工具の量産採用を顧客が行うにあたって、品質、コスト、納期の観点から大きな障害となっていた。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、新規の用途、新規の超硬合金の品種、ならびに新規の選択腐食深さに対して都度の予備実験を実施しなくても、選択腐食条件を精度良く決定し、目的とする腐食深さに必要な腐食時間を定めて、その腐食時間で超硬合金中に含まれる金属結合相の選択腐食を行うことが可能な、金属結合相の選択腐食方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、本発明は、超硬工具を構成する超硬合金に含まれる硬質粒子相と金属結合相のうち、超硬合金の表面において金属結合相のみを選択腐食する際に、必要な腐食深さを選定し、その狙い深さで腐食する金属結合相の選択腐食方法であって、腐食深さに影響を与える制御変数をあらかじめ重回帰分析を用いてその影響度を数値化し、重回帰分析における重回帰式によって目的とする腐食深さに必要な腐食時間を定めて、その腐食時間で超硬合金中に含まれる金属結合相の選択腐食を行うことを特徴とする金属結合相の選択腐食方法である。
【0009】
また、本発明においては、前記腐食深さを重回帰分析で数式化する際、その制御変数として、硬質粒子相と金属結合相の質量比、超硬合金の硬質粒子径、腐食液組成、腐食液濃度、腐食液温度、腐食時間、腐食液の流速、または腐食時の振動条件の少なくとも1つ以上を含むことができる。
【0010】
また、本発明においては、前記重回帰式により求められる腐食時間から、使用目的とする工具に最適な腐食深さを定め、その他の制御変数を入力することにより、腐食深さに対応する腐食時間を算出することができる。
【0011】
これにより、新規の用途、新規の超硬合金の品種、ならびに新規の選択腐食深さに対して都度の予備実験を実施しなくても、選択腐食条件を精度良く決定し、目的とする腐食深さに必要な腐食時間を定めて、その腐食時間で超硬合金中に含まれる金属結合相の選択腐食を行うことが可能となる。なお、選択腐食の深さは、強度保持の観点から、硬質粒子の平均粒径と同程度の深さとすることを前提としている。
【0012】
そのため、新たな顧客要求を伴う製品用途に対して、選択腐食の最適深さが決定され、この最適深さを得るための腐食時間が一義的に決定されることにより、顧客要求を満たす製品設計が属人化されることなく、最短、最適に決定され、良好な品質の超硬工具の量産が可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、新規の用途、新規の超硬合金の品種、ならびに新規の選択腐食深さに対して都度の予備実験を実施しなくても、新たな顧客要求を伴う製品用途に対して、選択腐食の最適深さが決定され、この最適深さを得るための腐食時間が一義的に決定されることにより、顧客要求を満たす製品設計が属人化されることなく、最短、最適に決定され、良好な品質の超硬工具の量産が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】超硬合金製工具の表面の金属結合相の選択腐食後の断面と、その際の金属結合相の主成分であるC量の変化を模式的に示した図である。
図2】金属結合相の欠乏深さを定義するための図である。
図3】超硬合金中の表面金属結合相の欠乏深さ測定方法のフローチャートである。
図4】選択腐食深さに必要な腐食時間を一義的に求める方法を、製品の製造プロセスに適用した処理のフローチャートである。
図5】重回帰分析による欠乏深さ算出のためのフローチャートである。
図6】細粒について重回帰分析を行った例を示す図である。
図7】中粒について重回帰分析を行った例を示す図である。
図8】粗粒について重回帰分析を行った例を示す図である。
図9】重回帰分析の処理条件決定の詳細を示す図である。
図10】狙い欠乏深さと計算深さと実測深さの対比を示す図である。
図11】細粒についての欠乏深さをSEMによる観察で実測した図である。
図12】中粒についての欠乏深さをSEMによる観察で実測した図である。
図13】粗粒についての欠乏深さをSEMによる観察で実測した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る超硬合金表面の金属結合相の選択腐食方法を、その実施形態に基づいて説明する。
【0016】
最初に、本発明の基盤技術となる、金属結合相の選択腐食の欠乏深さを算出する方法について説明する。
【0017】
図1は、超硬合金製工具の表面の金属結合相の選択腐食後の断面と、その際の金属結合相の主成分であるC量の変化を模式的に示したものである。選択腐食がなされた後の欠乏層内では、硬質粒子1間にわずかに金属結合相2が残存するために、C量は完全にゼロとはならない値で変動を持って推移する。金属結合相2が腐食によって除去された領域から、未反応の領域ではなだらかなC量の遷移が起きており、この領域で欠乏深さを定義する必要がある。
【0018】
そこで本発明者は、図2に示す直線的な成分変化を仮定し、金属結合相の欠乏深さを定義することとした。母体のC量をm1、硬質粒子間に残る少量のC量をm2とし、m2、m1はそれぞれ一定値、m2からm1への遷移は、図2に示すように、直線的な変化が起きるものと仮定する。
【0019】
この直線的な変化が起きるC量の遷移位置を、金属結合相の欠乏深さdと定義する。これらの定義と、特性X線分析で照射するX線が計測する分析深さD、実際に特性X線分析で測定したCo量mxを用いて、Co量の質量保存で等式を作ると、以下の式(1)が得られる。
【0020】
【数1】

【0021】
式(1)を欠乏深さdで解けば、式(2)が得られる。
【0022】
【数2】

【0023】
ここで、硬質粒子間に残る金属結合相の濃度は、あらかじめ、走査型電子顕微鏡に付属する分析方法等でその残分を推定しておく必要がある。また分析深さは、使用する特性X線分析装置のX線強度と、分析される超硬合金の組成で定まる。
【0024】
特性X線分析装置とは、エネルギー分散型特性X線分析装置(EDS)や、波長分散型特性X線分析装置(WDS)などを指す。いずれの装置も、試料表面から放出される特性X線を検出することにより、試料の化学組成を測定する装置であり、EDSは特性X線のエネルギーを測定するものであり、WDSは特性X線の波長を測定するものである。
【0025】
EDSは、特性X線の反応領域が、深さ方向に数μmと比較的浅い一方、WDSは10μmを超える分析深さを有している。本発明においては、被分析素材が数μm程度の硬質粒子径を持つことを考えると、複数粒子分の深さが測定できる波長分散型特性X線分析装置(WDS)の方が、より望ましい分析装置であると言える。
【0026】
このような単純化された定義の欠乏深さではあるが、この欠乏深さは算術上、一義的に定まるものであり、またCo量の遷移領域と必ず交わるために、取り決めとして仕様書などにうたう場合に、大変扱いやすい定義となる。またこの測定方法は非破壊であるために、直接的に出荷検査に用いることが可能になり、同時に異常時の原因分析に用いることもできる。
【0027】
上述したように、超硬合金母体の組成m1、これと同一の母体を工具に加工し、金属結合相を選択腐食した後で上面から特性X線分析で計測した組成mx、選択腐食された金属結合相の欠乏領域で硬質粒子間にわずかに残存する金属結合相の組成m2、および特性X線分析で特性X線が放出されることにより計測する分析深さDの4つの情報から、金属結合相の欠乏深さdを算出することが可能となる。
【0028】
図3に、以上説明した、超硬合金中の表面金属結合相の欠乏深さ測定方法のフローチャートを示す。この処理を行うことにより、計算された腐食深さは、実際には境界があいまいな腐食前面の深さを非破壊で一義的に定義できる。
【0029】
上述した、金属結合相の欠乏深さの算出方法を用いて、以下に、本発明の実施形態に係る超硬合金表面の金属結合相の選択腐食方法について説明する。
本発明は、新規の用途、新規の超硬合金の品種、新規の選択腐食深さに対して、都度の予備実験を実施しなくても、選択腐食条件を精度高く決定するための方法に関するものである。
【0030】
その方法は、超硬工具を構成する超硬合金に含まれる硬質粒子相と金属結合相のうち、超硬合金の表面において金属結合相のみを選択腐食する際に、必要な腐食深さを選定し、その狙い深さで腐食する金属結合相の選択腐食方法であって、腐食深さに影響を与える制御変数をあらかじめ重回帰分析を用いてその影響度を数値化し、重回帰分析における重回帰式によって目的とする腐食深さに必要な腐食時間を定めて、その腐食時間で超硬合金中に含まれる金属結合相の選択腐食を行う選択腐食方法である。
【0031】
腐食深さを重回帰分析で数式化する際、その制御変数として、硬質粒子相と金属結合相の質量比、超硬合金の硬質粒子径、腐食液組成、腐食液濃度、腐食液温度、腐食時間、腐食液の流速、または腐食時の振動条件の少なくとも1つ以上を含むようにし、重回帰式を腐食時間について解き、目的とする工具に最適な腐食深さを定め、その他の制御変数を入力することにより、腐食深さに対応する腐食時間を算出するものである。
【0032】
上述した、選択腐食深さに必要な腐食時間を一義的に求める方法を、製品の製造プロセスに適用した処理のフローチャートを、図4に示す。
【0033】
以下に、金属結合相の欠乏深さdについて、狙い値と計算値と実測値との比較についての試験内容と、その結果について説明する。
図5に、重回帰分析による欠乏深さ算出のためのフローチャートを示す。
【0034】
硬質粒子の粒径や金属結合相量が異なる材種を用いて、サンプルを製作し、エッチング処理前のサンプルについて、波長分散型特性X線分析装置(WDS)またはエネルギー分散型特性X線分析装置(EDS)により成分分析して、母相の金属結合相量を同定し、これを未処理の計算基準値として用いる。ここでは、粒子径が異なる3つの材種(細粒、中粒、粗粒)を対象とし、それぞれの平均粒径は、細粒が0.6~1.0μm、中粒が2.0~4.0μm、粗粒が5.0μm以上である。
【0035】
その後、サンプルをエッチング処理して、エッチング処理されたサンプルの成分分析を行い、処理後の金属結合相量を同定する。これらのデータと分析深さDから、式(2)により、各サンプルの金属結合相の欠乏深さを計算する。
【0036】
サンプルを粒子径が異なる材種系統ごとに分類し、金属結合相の欠乏深さについて重回帰分析を行い、回帰直線を算出し、回帰直線の方程式から、処理時間について解を求める式(処理条件決定式)を算出する。
【0037】
それぞれの材種系統のサンプルを製作し、エッチング処理前のサンプルの成分分析を行い、母相の金属結合相量を同定する。処理条件決定式より、金属結合相欠乏深さの狙い値と処理時間を決定し、エッチング処理を行う。
【0038】
上述した処理を行った具体的な実施例について、以下に説明する。
図6から図8に、粒子径が異なる材種系統ごとに重回帰分析を行った例を示しており、図6は、細粒についての回帰直線を示し、図7は、中粒についての回帰直線を示し、図8は、粗粒についての回帰直線を示している。
【0039】
図9に、この重回帰分析の処理条件決定の詳細を示しており、図9(a)は、重回帰分析における係数を、細粒、中粒、粗粒のそれぞれについて示している。また、図9(b)は、これにより求めた処理時間計算値を示しており、図9(c)は、欠乏深さ計算値を示している。なお、図9における処理深さは、欠乏深さと同意である。
【0040】
図9(c)により決定された狙い処理時間は、細粒で60秒、中粒で65秒、粗粒で100秒であり、欠乏深さの狙い値は、細粒で0.16μm、中粒で0.76μm、粗粒で1.04μmであった。結合相量は12.0wt%、処理液濃度は10.0wt%である。
【0041】
この狙い値と対比するために、サンプルの金属結合相の欠乏深さの計算値を、式(2)により求めるとともに、金属結合相の欠乏深さの実測値を、SEMにより実測した。
サンプルの断面をイオンビームミリングで加工し、金属結合相が欠乏している深さをSEMで実測して欠乏深さ分析を行ったところ、その平均値は、細粒で0.14μm、中粒で0.81μm、粗粒で1.29μmであった。欠乏深さの測定は、数か所について実測を行い、その平均値とした。図11は、細粒についてSEMにより欠乏深さの実測を行った図である。図12は、中粒についてSEMにより欠乏深さの実測を行った図である。図13は、粗粒についてSEMにより欠乏深さの実測を行った図である。
【0042】
一方、計算による欠乏深さは、細粒については、0.14μmであり、中粒については、0.87μmであり、粗粒については、1.32μmであった。
【0043】
狙い欠乏深さと計算深さと実測深さの対比を図10に示す。図10(a)は、細粒についてのものであり、図10(b)は、中粒についてのものであり、図10(c)は、粗粒についてのものである。
【0044】
図10(a)、(b)、(c)において、欠乏深さの適正範囲の上限値と下限値は、回帰直線式の値とプロットされている解析用データとの差異のばらつきより決定しており、図10(d)に、最大差異絶対値と、差異の標準偏差σと、3σを示している。その結果、いずれのケースについても、±3σの範囲内にあり、回帰直線から外れていないことが確認された。
【0045】
上記の実施例における制御変数は一例を示したものであり、腐食深さに影響を与える制御変数には様々なものがあり得る。例えば、腐食液温度については、温度を上げると化学的に腐食反応を促進することがわかっており、反応を制御する因子である。また、腐食液の流速は、腐食液中反応イオンの物質移動を促進し、反応速度に影響を与えるため、反応を制御する因子である。さらに、腐食時の振動は、ミクロな凹部の間隙の反応物の除去と反応イオンの補充を促進し、反応速度に影響を与えるため、反応を制御する因子である。
これらの因子を制御変数として用いて、水準を変化させ、重回帰分析を行うことによって、上記の実施例と同様に、影響度を数値化することができる。
【0046】
このように、腐食深さに影響を与える様々な制御変数を用いて同様の重回帰分析を行うことが可能であり、重回帰分析で数式化する際の制御変数として、硬質粒子相と金属結合相の質量比、超硬合金の硬質粒子径、腐食液組成、腐食液濃度、腐食液温度、腐食時間、腐食液の流速、または腐食時の振動条件等を用いることができる。
【0047】
上述したプロセスを確立することにより、新たな顧客要求を伴う製品用途に対して、最適深さを決定すると、この最適深さを得るための腐食時間は一義的に決定される。これにより顧客要求を満たす製品設計が属人化されることなく最短、最適に決定されるため、良好な品質の超硬工具の量産が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、新規の用途、新規の超硬合金の品種、ならびに新規の選択腐食深さに対して都度の予備実験を実施しなくても、選択腐食条件を精度良く決定し、目的とする腐食深さに必要な腐食時間を定めて、その腐食時間で超硬合金中に含まれる金属結合相の選択腐食を行うことが可能な、金属結合相の選択腐食方法として、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 硬質粒子
2 金属結合相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13