(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156872
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】アルミ型材の連結構造
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20231018BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C23C26/00 C
B32B15/01 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066502
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】寺田 真一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 太河
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 慎也
(72)【発明者】
【氏名】中澤 晃久
(72)【発明者】
【氏名】柴田 航輔
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA19C
4F100AB10D
4F100AD11B
4F100AT00A
4F100BA04
4F100BA07
4F100DA11
4F100DH01B
4F100DH02B
4K044AA06
4K044AB03
4K044BA13
4K044BB01
4K044BC02
4K044CA16
4K044CA17
(57)【要約】
【課題】炭素繊維強化樹脂に近接して配置されるアルミニウム型材の腐食を防止可能なアルミ型材の連結構造を提供すること。
【解決手段】アルミ型材の連結構造1は、中空部30を有し、互いに突き合わせ連結される一対のアルミ型材31と、一対のアルミ型材31の連結部32に設けられ、中空部30内に挿入されるスリーブ4と、スリーブ4の表面に配置される炭素繊維強化樹脂部材5と、を備え、連結部32における一対のアルミ型材31の内周面311a、312aには、アルマイト皮膜33又はベーマイト皮膜34が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を有し、互いに突き合わせ連結される一対のアルミ型材と、
前記一対のアルミ型材の連結部に設けられ、前記中空部内に挿入されるスリーブと、
前記スリーブの表面に配置される炭素繊維強化樹脂部材と、を備え、
前記連結部における前記一対のアルミ型材の内周面には、アルマイト皮膜又はベーマイト皮膜が設けられている、アルミ型材の連結構造。
【請求項2】
前記炭素繊維強化樹脂部材と、前記内周面との間には、2.0mm以下の隙間が形成されている、請求項1に記載のアルミ型材の連結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミ型材の連結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な構造体や部材等において、アルミニウム等の金属の部品と、炭素繊維強化樹脂(CFRP)とを重ねて配置することが知られている。炭素繊維強化樹脂中に含まれる炭素が導電性であることから、炭素繊維強化樹脂に接触するアルミニウム製の部材の腐食を防ぐため、アルミニウム製の部材と炭素繊維強化樹脂との間にガラス繊維強化樹脂等の非導電性シートを配置することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス繊維強化樹脂等の他の部材を設けることで、製造コストが上昇したり、他の部材のためのスペースを配置する必要が生じる。アルミ型材を連結する場合、他の部材を設けずに、炭素繊維強化樹脂に近接して配置されるアルミ型材の腐食を防ぐことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、中空部を有し、互いに突き合わせ連結される一対のアルミ型材と、前記一対のアルミ型材の連結部に設けられ、前記中空部内に挿入されるスリーブと、前記スリーブの表面に配置される炭素繊維強化樹脂部材と、を備え、前記連結部における前記一対のアルミ型材の内周面には、アルマイト皮膜又はベーマイト皮膜が設けられている、アルミ型材の連結構造に関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態のアーチ10は、空間の装飾に用いられるアルミニウム製の装飾部材の骨組みである。アーチ10は、一対のアルミ型材を互いに突き合せて連結して構成されるアルミ型材の連結構造1を備えるとともに、支柱2と、桁3と、スリーブ4と、を有する。
【0008】
支柱2は、アーチ10の正面視における左右方向の一方及び他方に対向して配置される。支柱2は、地面等の設置面から上下方向に延びるように設置される。支柱2は内部が中空で、断面視略四角形のホロー構造を有する長尺のアルミ型材である。支柱2の高さ寸法は限定されないが、例えば2.5m程度の長さを有する。
【0009】
桁3は、支柱2の上端を接続し、アーチ10の正面視における左右方向に延びるように配置される。桁3の長さは限定されないが、例えば10m程度の長さを有する。桁3は、一対のアルミ型材としての桁本体31が連結されることで構成され、桁本体31と、連結部32と、スリーブ4と、を有する。
【0010】
桁本体31は、内部が中空で、断面視略四角形のホロー構造を有する長尺のアルミ型材である。
図1に示すように、桁本体31は、2本の桁本体31を連結することで1本の桁3を形成する部材であり、それぞれの桁本体31の断面形状は同一である。連結される桁本体31の長さは異なっていてよく、限定されないが、例えば4mと6mであってよい。
図2に示すように、桁本体31は、中空部30と、桁上面部311と、桁下面部312と、一対の桁側面部313と、を有する。
【0011】
中空部30は、桁本体31の内部の空間であり、桁本体31の長手方向の一端から他端まで延びる。桁上面部311は、平面視略長方形の平坦な面である。桁上面部311の短手方向の幅は、例えば15cm程度である。桁下面部312は、平面視略長方形の平坦な面であり、桁上面部311の下方に配置される。桁下面部312の短手方向の幅は、例えば15cm程度である。桁側面部313は、桁上面部311及び桁下面部312を接続する平坦な面である。
図2に示すように、桁側面部313は、桁上面部311の端部から桁下面部312の端部を越えて下方へ延び、断面視で桁下面部312の下端から下方に突出して配置されている。桁側面部313の短手方向の幅は、例えば15cm程度である。桁上面部311及び桁下面部312の内周面311a、312a、すなわち中空部30側に面する面には、電極処理又は水熱処理によって形成されたアルマイト皮膜33又はベーマイト皮膜34が設けられてている。
【0012】
アルマイト皮膜33は、桁本体31を構成するアルミ型材を、電解液中に浸漬し、電解溶液中に電流を流すことでアルミニウムの表面に生成される皮膜である。ベーマイト皮膜34は、桁本体31を構成するアルミ型材を、75度以上の温水に浸漬することでアルミニウムの表面に生成される皮膜である。アルマイト皮膜33又はベーマイト皮膜34は、中空部30の内周面の全体に形成されていてもよいが、少なくとも一対の桁本体31同士を突き合せ連結する部分の内周面、すなわち以下に説明する連結部32における桁本体31の内周面に形成されていればよい。
【0013】
連結部32は、一方の桁本体31aと他方の桁本体31bの端部が連結される部分である。連結部32は、隣接する桁本体31a、31bの端部を突き合せ、桁本体31a、31bの内部の中空部30に、以下に説明するスリーブ4を挿通させた範囲を指す。
【0014】
スリーブ4は、連結部32に設けられ、2本の桁本体31a、31bの中空部30内を挿通して配置される。スリーブ4は、桁本体31同士が連結される部分の強度を高めるために配置される。スリーブ4は、内部が中空で、断面視略四角形のホロー構造を有する長尺のアルミ型材である。スリーブ4の長さは、桁本体31の長さより短く、限定されないが、例えば2mであってよい。スリーブ4は、長手方向の中央部が、2本の桁本体31a、31bの隣接する端部に位置するように配置され、ビスにより桁本体31a、31bに固定される。
図2に示すように、スリーブ4は、上面部41と、下面部42と、一対の側面部43と、スリーブ中空部40と、炭素繊維強化樹脂部材5とを有する。スリーブ中空部40は、スリーブ4の内部の空間であり、長手方向の一端から他端まで延びる。
【0015】
上面部41は
図2に示すように、桁本体31内に設置された状態でアルミ型材の上面に延びる平坦な面である。上面部41は、凹部平面41aと、端部平面41bと、を有する。端部平面41bは、スリーブ4の断面視における幅方向の両端側に配置され、幅方向の端部から中央側に向かって延びる平面である。凹部平面41aは、端部平面41bよりもわずかにスリーブ中空部40側に位置するように、端部平面41bと比べて窪んでいる。凹部平面41aの窪む高さは、2~3mm程度である。
【0016】
下面部42は、
図2に示すように、上面部41と対称な形状を有し、凹部平面42aと、端部平面42bと、を有する。端部平面42bは、スリーブ4の断面視における幅方向の両端側に配置され、幅方向の端部から中央側に向かって延びる平面である。凹部平面42aは、端部平面42bよりもわずかにスリーブ中空部40側に位置するように、端部平面42bと比べて窪んでいる。凹部平面42aの窪む高さは、2~3mm程度である。
【0017】
一対の側面部43は、上面部41における端部平面41bと凹部平面41aとの境界部と、下面部42における端部平面42bと凹部平面42aとの境界部とを接続するように、桁本体31内に配置された状態で上下方向に延びる平坦な面である。
【0018】
炭素繊維強化樹脂部材5は、樹脂材に炭素繊維を混合させた炭素繊維強化樹脂(Carbon Fiber Reinforced Plastics)をシート状にした部材である。炭素繊維強化樹脂部材5は、上面部41の凹部平面41aと、下面部42の凹部平面42aに接着剤51により接着して配置される。炭素繊維強化樹脂部材5がスリーブ4に接着されることで、スリーブ4の剛性が向上する。炭素繊維強化樹脂部材5の表面は、スリーブ4の端部平面41b、42bと概ね同じ高さに位置する。炭素繊維強化樹脂部材5の寸法は、スリーブ4の上面部41又は下面部42よりも小さい。
【0019】
以上のスリーブ4は、桁本体31の中空部30内に配置される。その際、炭素繊維強化樹脂部材5の表面と、桁本体31における桁上面部311及び桁下面部312の内周面311a、312aとの間には、2.0mm以下の隙間Gが形成されている。
【0020】
表1に、アルミニウム製の板の内周面に、アルマイト皮膜及びベーマイト皮膜を形成した場合と、形成しなかった場合の電食の生成の有無を検証した試験結果を示す。
【0021】
【0022】
実施例1~3及び比較例1及び2として、6063アルミニウム合金の押出型材を試験品とした。試験品の寸法は、長手方向100mm、短手方向30mm、厚さ2mmである。また、三菱ケミカル社製のTRW40-50L、エポキシ樹脂の引抜成型品である炭素繊維強化樹脂の板を、試験品と2.0mmのクリアランスを設けた状態で固定した。炭素繊維強化樹脂板の寸法は、長手方向100mm、短手方向30mm、厚さ2mmである。
【0023】
実施例1及び2として、試験品にベーマイト皮膜を形成した。試験品を、80度の温水中にアルミニウム板を浸漬させた。実施例1は、5分間浸漬し、実施例2は、10分間浸漬処理を行った。
【0024】
実施例3として、試験品にアルマイト皮膜を形成した。試験品を、50度の水酸化ナトリウム水溶液にて5分間エッチング処理を行い、試験品の表面に生成している自然酸化被膜を除去した。その後、試験品を15%の硫酸水溶液中に浸漬し、100A/m2の電流密度にて5分間陽極酸化処理を行った。
【0025】
比較例1は、試験実施前に、試験品を50度の5%水酸化ナトリウム水溶液にて5分間エッチング処理を行い、試験品の表面に生成している自然酸化被膜を除去した。
【0026】
比較例2は、試験品のアルミニウム板を押し出し成形した後、成形された試験品に生成した自然酸化被膜をそのまま放置した。
【0027】
<腐食電流測定>
以上の通り得た実施例1~3及び比較例1、2に電流を流して腐食電流を測定した。試験品を、直径19mmの孔を開けたビニルテープで被覆し、ビニルテープの孔を炭素繊維強化樹脂側に面する内周面側に配置させて試験面積を設定した。測定は、2.5%のNaCl水溶液を25度で、スターラーにて250rpmで攪拌して温度を均一化して行った。試験品と炭素繊維強化樹脂板を、北斗電工株式会社製HM-103Aの無抵抗電流計を介して短絡させ、測定を実施した。得られた電流密度を表1に示す。
【0028】
<塩水噴霧試験>
試験品と炭素繊維強化樹脂板を、JIS Z2371にて規定される中性塩水噴霧試験4800時間にて試験を実施した。これにより、試験品と炭素繊維強化樹脂板との間に試験液が入り、試験品と炭素繊維強化樹脂板とが試験液を通じて電気的に接触する。実施例1~比較例2それぞれの処理をした試験品を、炭素繊維強化樹脂板に隣接させないで単体で配置した試験品単体と、実施例1~比較例2に係る処理を行った試験品及び炭素繊維強化樹脂板を2.0mmのクリアランスを設けて一体化させた試験体とを、塩水噴霧後、外観を比較して目視にて評価を行った。実施例1~比較例2において、試験品単体と同程度の腐食状態である場合、〇と記載した。炭素繊維強化樹脂板に隣接させないで配置した試験品単体と比較し、腐食が促進された状態である場合、×と記載した。
【0029】
<評価>
実施例1及び2について、ベーマイト皮膜を有するアルミニウム板は、腐食電流密度が低く抑えられた。塩水噴霧後の実施例1及び2の外観は、炭素繊維強化樹脂板に隣接させないで配置させた試験品単体と同程度の腐食状態だった。また、実施例1と2とでは、温水に浸漬する時間が長い実施例2の方で、ベーマイト皮膜が厚く得られ、皮膜が厚い方実施例2の方が、腐食電流密度が低かった。
【0030】
実施例3について、アルマイト皮膜を有するアルミニウム板は、実施例1及び2よりも腐食電流密度が低かった。塩水噴霧後の実施例3の外観は、炭素繊維強化樹脂板に隣接させないで配置させた試験品単体と同程度の腐食状態だった。得られた皮膜は、実施例1及び2よりも薄かった。
【0031】
比較例1及び2では、腐食電流密度が高く、電流が流れやすいことがわかった。塩水噴霧後の外観は、炭素繊維強化樹脂板に隣接させないで配置させた試験品と比べて、比較例1及び2の方が、腐食が促進されていた。
【0032】
アルミニウム板の炭素繊維強化樹脂板に面する側の表面に、アルマイト皮膜又はベーマイト皮膜を形成することにより、アルミニウム板が炭素繊維強化樹脂板に隣接して配置されていても、アルミニウム板の腐食の抑制が図られることがわかった。
【0033】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。アルミ型材の連結構造1を、中空部30を有し、互いに突き合わせ連結される一対のアルミ型材である桁本体31と、一対の桁本体31の連結部32に設けられ、中空部30内に挿入されるスリーブ4と、スリーブ4の表面に配置される炭素繊維強化樹脂部材5と、を含んで構成した。連結部32における一対の桁本体31の内周面に、アルマイト皮膜33又はベーマイト皮膜34を設けた。これにより、アルミニウム製のスリーブ4を炭素繊維強化樹脂部材5で補強する一方で、炭素繊維強化樹脂部材5に面する桁本体31の中空部30の内周面と、炭素繊維強化樹脂部材5との間に雨水等が接して電流が流れ、腐食することを防止することができる。よって、ガラス繊維強化樹脂等の他の部材を設けずに、容易に電食を防止することができる。
【0034】
本実施形態によれば、炭素繊維強化樹脂部材5と、内周面311a、312aとの間に、2.0mm以下の隙間が形成されている。炭素繊維強化樹脂部材5と内周面311a、312aとの間に2.0mm以下の隙間Gが形成されていても、内周面311a、312aにアルマイト皮膜33又はベーマイト皮膜が設けられているので、桁本体31の電食が防止される。
【0035】
本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本開示に含まれる。上記の説明で記載した寸法等は、例示に過ぎず、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 アルミ型材の連結構造、 4 スリーブ、 5 炭素繊維強化樹脂部材、 30 中空部、 31 桁本体(アルミ型材)、 32 連結部、 33 アルマイト皮膜、 34 ベーマイト皮膜、 311a、312a 内周面