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  • 特開-測定対象の温度変化測定方法 図1
  • 特開-測定対象の温度変化測定方法 図2
  • 特開-測定対象の温度変化測定方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156886
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】測定対象の温度変化測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/20 20060101AFI20231018BHJP
   G01N 3/30 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
G01K11/20
G01N3/30 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066520
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】延谷 義晴
(72)【発明者】
【氏名】平野 篤士
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AA13
2G061AB04
2G061BA17
2G061CA03
2G061CB01
2G061EA01
2G061EB05
2G061EB07
2G061EC05
2G061EC07
(57)【要約】
【課題】
高い汎用性を有する測定対象の温度変化測定方法を提供する。
【解決手段】
測定対象10の温度変化測定方法は以下を含む。測定対象10の温度変化を測定する部分である測定部10dに感温塗料6を塗布する。測定部10dに励起光を照射して感温塗料6に蛍光を放出させる。感温塗料6から放出される蛍光強度の分布の時間変化を測定する。蛍光強度の分布の時間変化に基づいて、測定部10dの温度変化を得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の温度変化を測定する部分である測定部に感温塗料を塗布し、
前記測定部に励起光を照射して前記感温塗料に蛍光を放出させ、
前記感温塗料から放出される蛍光強度の分布の時間変化を測定し、
前記蛍光強度の分布の時間変化に基づいて、前記測定部の前記温度変化を得る、
測定対象の温度変化測定方法。
【請求項2】
前記蛍光強度の分布の時間変化の測定は、高速カメラで前記測定部を撮像することにより実行される、請求項1に記載の温度変化測定方法。
【請求項3】
前記蛍光が可視光である、請求項1又は2に記載の温度変化測定方法。
【請求項4】
前記励起光が紫外光である、請求項1又は2に記載の温度変化測定方法。
【請求項5】
前記蛍光が可視光であり、前記励起光が紫外光である、請求項1又は2に記載の温度変化測定方法。
【請求項6】
前記温度変化が10K/秒以上である、請求項1又は2に記載の温度変化測定方法。
【請求項7】
前記温度変化が前記測定対象の加工変形に伴う発熱に起因するものである、請求項1又は2に記載の温度変化測定方法。
【請求項8】
前記測定対象が引張試験に用いられる試験片であり、前記温度変化が前記引張試験による前記加工変形に伴う発熱に起因するものである、請求項7に記載の温度変化測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象の温度変化測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、測定対象である試料流体が流れる流路を画定するガラス板に感温塗料を塗布しておき、励起光が照射された感温塗料から放出される蛍光を撮像することで、試料流体の温度分布を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】松田佑,外2名,"感温塗料を用いた沸騰電熱面の温度分布計測法の開発",伝熱,公益社団法人 日本伝熱学会,2020年4月,第59巻,第247号,p.11-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に開示された測定方法では、測定対象自体ではなくガラス板に感温塗料が塗布されるため、適用の汎用性に改善の余地がある。
【0005】
本発明は、高い汎用性を有する測定対象の温度変化測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、測定対象の温度変化を測定する部分である測定部に感温塗料を塗布し、前記測定部に励起光を照射して前記感温塗料に蛍光を放出させ、前記感温塗料から放出される蛍光強度の分布の時間変化を測定し、前記蛍光強度の分布の時間変化に基づいて、前記測定部の前記温度変化を得る、測定対象の温度変化測定方法を提供する。
【0007】
測定部に塗布された感温塗料に励起光を照射し、それによる蛍光から温度変化が測定される。そのため、測定対象について温度変化測定中の変形の有無、移動の有無等に制約がなく、この温度変化測定方法は各種試験片、リチウムイオン電池の容器等の種々の測定対象に適用可能であり、高い汎用性を有する。
【0008】
前記蛍光強度の分布の時間変化の測定は、高速カメラで前記測定部を撮像することにより実行されてもよい。
【0009】
前記蛍光が可視光であってもよい。
【0010】
前記励起光が紫外光であってもよい。
【0011】
前記蛍光が可視光であり、前記励起光が紫外光であってもよい。
【0012】
前記温度変化が10K/秒以上であってもよい。
【0013】
前記温度変化が前記測定対象の加工変形に伴う発熱に起因するものであってもよい。例えば、前記測定対象が引張試験に用いられる試験片であり、前記温度変化が前記引張試験による前記加工変形に伴う発熱に起因するものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る測定対象の温度変化測定方法は高い汎用性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る測定対象の温度変化測定方法の一実施形態を実施するための測定設備の模式図。
図2】試験片の模式図。
図3】試験片の温度変化測定結果(0.1ms毎の温度分布変化)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0017】
本実施形態は、引張速度が10m/秒の高速引張試験に本発明に係る温度変化測定方法を適用したものである。高速引張試験としての引張速度は、例えば0.1m/秒以上20m/秒以下の範囲で設定できる。
【0018】
図1は、本実施形態に係る温度変化測定方法に使用できる測定装置1の一例を示す。測定装置1は、測定対象である試験片10に対して高速引張試験を行うための引張試験機2、励起光源3、高速カメラ4、及び制御部5を備える。
【0019】
図2を併せて参照すると、試験片10は7000系アルミ合金製で一定厚み(例えば0.05mm以上4.0mm以下)の細長い長方形状の板材である。試験片10の長手方向の両端部10a,10bは一定幅(例えば15mm以上30mm以下)を有する。試験片の長手方向の中央部分、つまり両端部10a,10bの間には、両端部10a,10bよりも十分に幅の狭い幅に設定された(例えば3.0mm以上5.0mm以下)狭幅部10cが設けられている。本実施形態では、狭幅部10c全体と、狭幅部10cと両端部10a,10bの境界部分とが温度変化を測定する部分である測定部10dに設定される。
【0020】
本実施形態における引張試験機2は、上下のチャック治具2a,2bを備え、上側のチャック治具2aは昇降可能なスライダ機構2cの下端に固定支持されており、下側のチャック治具2bは、引張荷重測定のためのロードセル2dを介して、台座2eに固定支持されている。台座2eはフレーム2fを介してスライダ機構2cを支持しており、チャック治具2a,2bは間隔をあけて上下方向に対向している。
【0021】
本実施形態では、励起光源3は、紫外線(図1において符号UVで概念的に示す)を出射する紫外光源である。紫外光の波長はおおよそ200nm以上400nm以下である。
【0022】
本実施形態における高速カメラ4は、可視光波長域の光を撮像できるものであり、撮像速度は100,000fps(frame per second)である。高速カメラ4は撮影速度が例えば1,000fps以上1,000,000fps以下の範囲のものを使用でき、撮影速度が10,000fps以上が好ましい可視光の波長はおおよそ400nm以上800nm以下である。
【0023】
制御部5は、測定装置1を構成する機器、つまり引張試験機2、励起光源3、及び高速カメラ4の動作を統括的に制御する機能を有する。また、制御部5は、後に詳述する高速カメラ4で撮像された画像群から温度変化を求める機能を有する。制御部5は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)のような記憶装置を含むハードウェアと、それに実装されたソフトウェアにより構築できる。制御部5を構成するハードウェアは、単一の機器であってもよいし、複数の機器であってもよい。制御部5の機能の一部又は全部を手動操作で実行してもよい。
【0024】
以下、温度変化測定の手順を説明する。
【0025】
まず、試験片10の測定部10dの片面に感温塗料6を塗布する。感温塗料6としては、例えばユーロピウムを含有したアクリル系樹脂塗料を使用できる。本実施形態では、感温塗料6として励起光源3が発生する紫外光が照射されると可視光を放出するものが使用される。感温塗料は測定部10dに直接塗布してもよいし、表面処理剤、他の塗料等を測定部10dに塗布した後に塗布してもよい。感温塗料6はストークシフト(最大励起波長と最大蛍光波長間の差)が大きいため、放出された可視光を照射された紫外線から切り離して確実に検出できる利点がある。
【0026】
塗布した感温塗料6が測定部10dに定着した後、試験片10を引張試験機2にセットする。具体的には、試験片10は、一方の端部10aが上側のチャック治具2aに把持され、他方の端部10bが下側のチャック治具2bに把持される。試験片10は、測定部10dの感温塗料6が塗布された側が、励起光源3(本実施形態ではシーシーエス社製の高出力紫外LED照明(型式:LDL-205X12UV3-365-N))からの紫外線UV(最大波長365nm)が照射され、かつ高速カメラ4の視野(図1において符号FOVで概念的に示す)に収まるように、引張試験機2にセットされる。
【0027】
以上の準備手順が完了した後、引張試験機2による高速引張試験を実施する。高速引張試験中、試験片10の測定部10dに対して励起光源3から紫外光が連続的に照射される。紫外光の照射により、測定部10dに塗布された感温塗料6は、可視光である蛍光を放出する。また、この高速引張試験中、高速カメラ4による撮像が継続される。つまり、高速引張試験中、感温塗料6から放出される蛍光強度の分布の時間変化が測定される。高速カメラ4によって撮像された連続画像は、高速カメラ4自体、又は制御部5に記憶される。
【0028】
高速引張試験の実施と並行して、又は高速引張試験の終了後、蛍光強度の分布の時間変化に基づいて、測定部5の温度変化が求められる。具体的には、制御部5は、使用する感温塗料6、励起光源3から測定部10dに照射される紫外光の波長、高速撮影カメラ4の感度等のスペックについての、蛍光強度と温度との関係を予め記憶している。そして、制御部5は、この関係に基づいて、高速カメラ4によって撮像された連続画像から測定部10dの温度変化を求める。言い換えれば、蛍光強度と温度との関係に基づいて、高速カメラ4によって撮像された連続画像から、測定部10dの温度分布が表された連続画像(高速カメラ4のフレームレートに対応する時間間隔での連続画像)が得られる。
【0029】
図3は、測定部10dの温度分布が表された連続画像(本実施形態における高速カメラ4のフレームレートであるfpsに対応する0.1ms間隔の連続画像)の一例を示す。この図3から理解できるように、本実施形態の温度変化測定方法により、高速引張速度における試験片10の破断直前、破断、及び破断直後の、10K/秒以上の温度変化(試験片10の加工変形に伴う発明に起因する)の下での、温度分布の時間変化が測定できる。
【0030】
本実施形態では、励起光源3が発生する励起光は紫外光で、感温塗料6が放出する蛍光は可視光である。しかし、つまり蛍光だけでなく励起光が迷光として高速カメラ4によって撮像されることによる測定精度の低下が問題とならない限り、励起光と蛍光の両方が可視光であってもよい。また、測定対象の温度変化が低速である場合には、高速カメラ4代えて撮影速度が低速(30fps以上1,000fps以下)のカメラを使用してもよいし、測定部10の形状によっては、カメラの範疇に含まれないセンサによって連続画像を取得してもよい。
【0031】
本実施形態では、感温塗料6が放出する蛍光は可視光であり、可視光はガラス製やアクリル製の部材(例えば、板材)を透過するので、測定対象10と高速カメラ4との間にガラス製やアクリル製の部材が介在していても、測定を行うことができる。
【0032】
本実施形態では測定対象10が測定中に変形するが、測定中に変形しない測定対象であっても、本発明の温度変化測定方法を適用できる。
【0033】
以上の実施形態の説明から明らかなように、本発明に係る測定対象の温度変化測定方法では、測定対象の測定部に塗布された感温塗料に励起光を照射し、それによって励起された蛍光から温度変化が測定される。そのため、測定対象については、感温塗料の塗布が可能である限り、温度変化測定中の変形の有無、移動の有無等に制約がなく、引張速度の試験片以外の各種試験片、リチウムイオン電池の容器等の種々の測定対象に適用可能である。また、蛍光が可視光であればガラス製やアクリル製の部材を透過した蛍光から温度変化が測定できる。少なくともこれらの理由より、本発明に係る測定対象の温度変化測定方法は高い汎用性を有する。
【符号の説明】
【0034】
1 測定装置
2 引張試験機
2a,2b チャック治具
2c スライダ機構
2d ロードセル
2e 台座
3 励起光源
4 高速カメラ
5 制御部
6 感温塗料
10 試験片
10a,10b 端部
10c 狭幅部
10d 測定部
UV 紫外線
FOV 視野
図1
図2
図3