(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156888
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】金属樹脂複合体を製造するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/58 20060101AFI20231018BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20231018BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20231018BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
B29C43/58
B29C43/18
B21D24/00 H
B21D22/26 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066523
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 憲一
【テーマコード(参考)】
4E137
4F204
【Fターム(参考)】
4E137AA10
4E137AA23
4E137AA30
4E137BB01
4E137CA09
4E137CA24
4E137EA04
4E137GA03
4E137HA08
4F204AA36
4F204AC03
4F204AD03
4F204AD08
4F204AD16
4F204AG28
4F204AM32
4F204AR07
4F204AR20
4F204FA01
4F204FB01
4F204FB11
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F204FN17
(57)【要約】
【課題】金属樹脂複合体を製造するための装置および方法において、樹脂材の意図しない箇所への漏出を抑制する。
【解決手段】装置50は、金属板10および樹脂材20をプレス成形して金属樹脂複合体1を製造するためのものである。装置50は、金属板10および樹脂材20を挟み込む上型110および下型120を備える。上型110および下型120によって樹脂材20を配置するためのキャビティCが設けられる。上型110および下型120が閉じられた際に下型120と金属板10とが設計上干渉してキャビティCを封止するように、上型110と下型120との距離d23は金属板10の厚みtよりも小さく設定されている。キャビティCを封止しつつ下型120が撓むことによって距離d23を金属板10の厚みtまで拡大しながらプレス成形を実行する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材および樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための装置であって、
前記金属部材および前記樹脂材を挟み込む上型および下型を備え、
前記上型および前記下型によって前記樹脂材を配置するためのキャビティが設けられ、
前記プレス成形の際に前記下型および前記金属部材が設計上干渉して前記キャビティを封止するように前記上型と前記下型との距離は前記金属部材の厚みよりも部分的に小さく設定され、
前記キャビティを封止しつつ前記下型が撓むことによって前記距離を前記金属部材の厚みまで拡大しながら前記プレス成形を実行する、装置。
【請求項2】
前記金属樹脂複合体は、長手方向に垂直な断面において、水平方向に延びる底壁部と、前記底壁部の両端から立ち上がる側壁部と、前記側壁部から水平方向外側に延びるフランジ部とを有し、
前記上型は、前記断面において、前記底壁部を成形する第1成形上面と、前記側壁部を成形する第2成形上面と、前記フランジ部を成形する第3成形上面とを有し、
前記下型は、前記断面において、前記底壁部を成形する第1成形下面と、前記側壁部を成形する第2成形下面と、前記フランジ部を成形する第3成形下面とを有している、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記下型には、前記断面において、溝が前記第2成形下面に隣接して設けられている、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記溝の内側面は、前記第2成形下面と平行に配置されている、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記溝に挿入されるスペーサをさらに備える、請求項3または請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記スペーサの幅は、前記断面において、前記溝の幅と前記干渉の大きさとの差に等しい、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記干渉の大きさは、0.2mm以上かつ1.0mm以下である、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記第2成形下面は、鉛直方向から5°以下で傾斜しており、
前記干渉の大きさは、0.2mm以上かつ0.6mm以下である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記第2成形下面は、鉛直方向から5°より大きく傾斜しており、
前記干渉の大きさは、0.4mm以上かつ1.0mm以下である、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記第2成形上面には、段差が設けられている、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
金属部材および樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための方法であって、
前記樹脂材を配置するためのキャビティを形成する上型および下型であって、前記プレス成形の際に前記下型および前記金属部材が設計上干渉して前記キャビティを封止するように前記上型と前記下型との距離は前記金属部材の厚みよりも部分的に小さく設定されている前記上型および前記下型を準備し、
前記上型および前記下型によって前記金属部材および前記樹脂材を挟み込み、
前記キャビティを封止しつつ前記下型が撓むことによって前記距離を前記金属部材の厚みまで拡大しながら前記金属部材および前記樹脂材を前記プレス成形により一体化する
ことを含む、方法。
【請求項12】
前記金属部材および前記樹脂材を前記プレス成形により一体化する前に前記金属部材のみをハット形にプレス成形することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属樹脂複合体を製造するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材および熱硬化性を有する樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための装置が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属樹脂複合体をプレス成形する場合、樹脂材のみをプレス成形する場合と比べて上型と下型の隙間を閉じることが難しい。その結果、金型の上型と下型との隙間を通じて樹脂材が意図しない箇所に漏出するおそれがある。そのような樹脂材の漏出は、例えば、後の組立工程でのスポット溶接不良、金型のその他の隙間への樹脂材流入による金型固着、または、樹脂材の充填圧不足による未充填などの問題につながる。
【0005】
本発明は、金属樹脂複合体を製造するための装置および方法において、樹脂材の意図しない箇所への漏出を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、
金属部材および樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための装置であって、
前記金属部材および前記樹脂材を挟み込む上型および下型を備え、
前記上型および前記下型によって前記樹脂材を配置するためのキャビティが設けられ、
前記プレス成形の際に前記下型および前記金属部材が設計上干渉して前記キャビティを封止するように前記上型と前記下型との距離は前記金属部材の厚みよりも部分的に小さく設定され、
前記キャビティを封止しつつ前記下型が撓むことによって前記距離を前記金属部材の厚みまで拡大しながら前記プレス成形を実行する、装置を提供する。
【0007】
この構成によれば、上型および下型が閉じられた際に下型と金属部材が設計上干渉するほど金属部材が上型と下型とに強く挟み込まれ、樹脂材をキャビティ内に堅固に封止する。そのため、キャビティからの樹脂材の漏出を抑制でき、樹脂材の意図しない箇所への漏出を抑制できる。樹脂材の漏出を抑制することで、キャビティにおける樹脂材の充填圧が高まり、樹脂材の安定した成形を実現できる。従って、安定した品質の金属樹脂複合体を製造できる。また、上記設計上の干渉は、プレス成形の際に下型の撓み(弾性変形)により上記距離が金属部材の厚みまで拡大されるため、実際の干渉(めりこみ)となるわけではない。
【0008】
前記金属樹脂複合体は、長手方向に垂直な断面において、水平方向に延びる底壁部と、前記底壁部の両端から立ち上がる側壁部と、前記側壁部から水平方向外側に延びるフランジ部とを有してもよく、
前記上型は、前記断面において、前記底壁部を成形する第1成形上面と、前記側壁部を成形する第2成形上面と、前記フランジ部を成形する第3成形上面とを有してもよく、
前記下型は、前記断面において、前記底壁部を成形する第1成形下面と、前記側壁部を成形する第2成形下面と、前記フランジ部を成形する第3成形下面とを有してもよい。
【0009】
この構成によれば、金属樹脂複合体の断面形状がハット形に成形される。ハット形の金属樹脂複合体は、汎用性が高く様々な用途に使用できる。
【0010】
前記下型には、前記断面において、溝が前記第2成形下面に隣接して設けられてもよい。
【0011】
この構成によれば、上型および下型が閉じられた際、溝によって第2成形下面が第2成形上面から離れるように下型が容易に撓むことができるため、上記設計上の干渉を解消しながらプレス成形を実行できる。これにより、上型、下型、および金属部材への過負荷を抑制できる。
【0012】
前記溝の内側面は、前記第2成形下面と平行に配置されてもよい。
【0013】
この構成によれば、第2成形下面と溝との間の肉厚を均等にできるため、当該部分の強度を一定にできる。仮に、当該部分の肉厚に差があると、当該部分が割れたり撓まなかったりするおそれがある。
【0014】
前記装置は、前記溝に挿入されるスペーサをさらに備えてもよい。
【0015】
この構成によれば、スペーサによって第2成形下面が過度に撓むことを抑制し、即ち上記距離が過度に広がることを抑制できる。従って、上型および下型と金属部材との間で生じる加圧力が過度に低減することを抑制でき、樹脂材をキャビティ内に堅固に封止できる。
【0016】
前記スペーサの幅は、前記断面において、前記溝の幅と前記干渉の大きさとの差に等しくてもよい。
【0017】
この構成によれば、スペーサによって上記距離が金属部材の厚みより大きく広がることを抑制できる。従って、上型および下型と金属部材との間で生じる加圧力が必要以上に低減することを抑制でき、樹脂材をキャビティ内に一層堅固に封止できる。
【0018】
前記干渉の大きさは、0.2mm以上かつ1.0mm以下であってもよい。また、前記第2成形下面は、鉛直方向から5°以下で傾斜しており、前記干渉の大きさは、0.2mm以上かつ0.6mm以下であってもよい。また、前記第2成形下面は、鉛直方向から5°より大きく傾斜しており、前記干渉の大きさは、0.4mm以上かつ1.0mm以下であってもよい。
【0019】
これらの構成によれば、高精度の製造を実現できる干渉の大きさを具体的に規定できる。特に、第2成形下面の傾斜角度に応じて干渉の大きさを好適に設定できる。詳細には、成形下死点前0~5mm程度で上記距離の大きさが金属部材の厚みと概略等しくなる。従って、上型、下型、および金属部材への過負荷を抑制できる。
【0020】
前記第2成形上面には、段差が設けられてもよい。
【0021】
この構成によれば、樹脂材がキャビティから漏出するためには、上型の段差を越えて流動する必要があるため、樹脂材の漏出を抑制できる。従って、樹脂材のキャビティにおける充填圧を高め、品質を高めることができる。
【0022】
本発明の第2の態様は、
金属部材および樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための方法であって、
前記樹脂材を配置するためのキャビティを形成する上型および下型であって、前記プレス成形の際に前記下型および前記金属部材が設計上干渉して前記キャビティを封止するように前記上型と前記下型との隙間は前記金属部材の厚みよりも部分的に小さく設定されている前記上型および前記下型を準備し、
前記上型および前記下型によって前記金属部材および前記樹脂材を挟み込み、
前記キャビティを封止しつつ前記下型が撓むことによって前記距離を前記金属部材の厚みまで拡大しながら前記金属部材および前記樹脂材を前記プレス成形により一体化する
ことを含む、方法を提供する。
【0023】
この方法によれば、上型および下型が閉じられた際に下型と金属部材とが干渉するほど金属部材が上型と下型とに強く挟み込まれ、樹脂材をキャビティ内に堅固に封止する。そのため、キャビティからの樹脂材の漏出を抑制でき、樹脂材の意図しない箇所への漏出を抑制できる。樹脂材の漏出を抑制することで、キャビティにおける樹脂材の充填圧が高まり、樹脂材の安定した成形を実現できる。従って、安定した品質の金属樹脂複合体を製造できる。また、上記設計上の干渉は、プレス成形の際に下型の撓み(弾性変形)により上記距離が金属部材の厚みまで拡大されるため、実際の干渉(めりこみ)となるわけでない。
【0024】
前記方法は、前記金属部材および前記樹脂材を前記プレス成形により一体化する前に前記金属部材のみをハット形にプレス成形することをさらに含んでもよい。
【0025】
この方法によれば、金属部材を単独でプレス成形するので成形精度を向上できる。また、ハット形の金属樹脂複合体は、汎用性が高く様々な用途に使用できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、金属樹脂複合体を製造するための装置および方法において、樹脂材の意図しない箇所への漏出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第1工程を示す断面図。
【
図3】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第2工程を示す断面図。
【
図4】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第3工程を示す断面図。
【
図5】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第4工程を示す断面図。
【
図6】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第5工程を示す断面図。
【
図7】金属樹脂複合体なしで上型および下型を閉じた状態を示す断面図。
【
図8】
図7の破線円VIIIの部分を拡大して示す断面図。
【
図10】
図9の破線円Xの部分を拡大して示す断面図。
【
図13】第2実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第5工程を示す断面図。
【
図14】他の変形例における金属樹脂複合体を製造するための方法の第2工程を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態として、金属樹脂複合体を製造するための装置および方法について説明する。
【0029】
(第1実施形態)
図1を参照して、本実施形態で製造される金属樹脂複合体1は、金属板(金属部材)10と、樹脂材20とを含んでいる。金属樹脂複合体1は、長手方向に垂直な断面においてハット形をしている。詳細には、ハット形状を有する金属板10の内面(凹面)に樹脂材20が固着されることによって金属樹脂複合体1が構成されている。ただし、金属樹脂複合体1の形状は、ハット形に限定されず、任意の形状であり得る。
【0030】
金属樹脂複合体1は、水平方向に延びる底壁部2と、底壁部2の両端から立ち上がる側壁部3と、側壁部3から水平方向外側に延びるフランジ部4とを有している。底壁部2は金属板10と樹脂材20とからなり、側壁部3は金属板10と樹脂材20とからなり、フランジ部4は金属板10のみからなる。底壁部2からフランジ部4に向かって側壁部3の途中で、樹脂材20が端面20aにて終端している。
【0031】
図2~6を参照して、本実施形態における金属樹脂複合体1を製造するための装置50および方法について説明する。図面では、水平方向をX方向として示し、鉛直方向(上下方向または高さ方向)をY方向として示す。
【0032】
本実施形態では、
図2~6に示す第1~5工程を順に実行する中で2回のプレス成形を実行する。
図2~4に示す第1~3工程で1回目のプレスを実行し、
図4~6に示す第3~6工程で2回目のプレスを実行する。なお、本実施形態では、1回目と2回目のプレスを同一の金型100で実行するが、1回目と2回目のプレスを別の金型で実行してもよい。また、金属樹脂複合体1を1つずつ生産してもよく、即ち1回目のプレスと2回目のプレスとを連続的に実行してもよい。代替的には、必要枚数の金属板10の成形(1回目のプレス)を繰り返し実行した後に金属板10と樹脂材20との一体化成形(2回目のプレス)を繰り返し実行してもよい。なお、詳細を後述するように樹脂材20を金属板10上に設置する時間があるため、この時間を短縮する観点からは後者の方が好ましい。
【0033】
本実施形態における金属樹脂複合体1を製造するための装置50は、金型100と、金型100を駆動する駆動部130と、金型100を加熱する加熱部140とを有している。なお、駆動部130および加熱部140は、プレス成形を実行可能な公知のものを使用でき、詳細を図示することなく概念図として
図2にのみ示し、
図3以降での図示を省略する。
【0034】
金型100は、金属板10および樹脂材20をプレス成形して金属樹脂複合体1を製造するものである。金型100は、金属板10および樹脂材20を挟み込む上型110と下型120とを有している。本実施形態では、上型110がパンチとして構成され、下型120がダイとして構成されている。上型110は駆動部130によって鉛直方向に移動可能であり、即ち下型120に対して接近および離反可能に構成されている。ただし、駆動部130による金型100の駆動態様については特に限定されず、駆動部130は上型110および下型120の少なくとも一方を鉛直方向に移動させるものであり得る。
【0035】
上型110は、底壁部2(
図1参照)を成形する第1成形上面111と、側壁部3(
図1参照)を成形する第2成形上面112と、フランジ部4(
図1参照)を成形する第3成形上面113とを有している。本実施形態では、第1成形上面111および第3成形上面113は水平面として構成されており、第2成形上面112は第1成形上面111および第3成形上面113を接続するとともに鉛直方向から傾斜して構成されている。
【0036】
本実施形態では、第2成形上面112に段差112aが設けられている。段差112aは、第1成形上面111から第3成形上面113に向かって1段上がるように設けられている。なお、段差112aの数は2段以上であってもよいし、段差112aは必要に応じて省略され得る。
【0037】
下型120は、底壁部2(
図1参照)を成形する第1成形下面121と、側壁部3(
図1参照)を成形する第2成形下面122と、フランジ部4(
図1参照)を成形する第3成形下面123とを有している。本実施形態では、第1成形下面121および第3成形下面123は水平面として構成されており、第2成形下面122は第1成形下面121および第3成形下面123を接続するとともに鉛直方向から傾斜して構成されている。第1成形下面121は第1成形上面111と対向して配置され、第2成形下面122は第2成形上面112と対向して配置され、第3成形下面123は第3成形上面113と対向して配置されている。
【0038】
本実施形態では、下型120には、溝124が第2成形下面122に隣接して(例えば数mm程度離れて)設けられている。溝124を利用した下型120の撓みの詳細については後述する。溝124は、鉛直方向に第3成形下面123から第1成形下面121程度までの深さを有している。なお、溝124は、必要に応じて省略され得る。
【0039】
図2に示す第1工程では、加熱部140によって上型110および下型120を加熱し、温間プレス可能に準備する。また、成形前の平板状の金属板10を下型120の上に載置する。
【0040】
図3に示す第2工程では、上型110を下降させ、金属板10を上型110と下型120によって挟み込んで概ねハット形にプレス成形する。上型110と下型120が閉じられた状態において、第1~2成形上面111~112と第1~2成形下面121~122(詳細には金属板10)との間には、樹脂材20を充填するためのキャビティCが設けられている。
【0041】
上型110と下型120が閉じられた状態において、第1成形上面111と第1成形下面121との間の距離d1は金属板10の厚みtよりも大きい(d1>t)。第3成形上面113と第3成形下面123との間の距離d3は金属板10の厚みtと概略等しい(d3=t)。段差112aの下方における第2成形上面112と第2成形下面122との間の距離d21は、金属板10の厚みtよりも大きい(d21>t)。段差112aの上方における第2成形上面112と第2成形下面122との間の距離d22は、金属板10の厚みtに対して概略等しい(d22=t)。距離d22が金属板10の厚みtに対して等しくなっていることで、後工程における樹脂材20の充填圧を高めることができる。なお、詳細を後述するように、本工程では、距離d22は、第2成形下面122が第2成形上面112から離れるように下型120が撓んでいることにより、撓み前の設計寸法よりも大きくなっている。換言すると、設計上、上型110および下型120が閉じられた際に下型120と金属板10とが設計上干渉してキャビティCを封止するように、上型110と下型120との距離は金属板10の厚みよりも部分的に小さく設定されている。本工程では、樹脂材20(
図4~6参照)は未だ充填されておらず、金属板10のみを上型110と下型120とによって挟み込む。
【0042】
図4に示す第3工程では、上型110を上昇させる。このとき、下型120の上記撓みは元に戻っており、金属板10は最終形状(
図1参照)に近い概略ハット形に成形されている。上型110の上昇後、金属板10上に必要な寸法に裁断したシート状の樹脂材20(プリグレグともいう。)を載置する。本実施形態では、SMC(Sheet Molding Compound)法と称される成形法によって、当該樹脂材20を高温高圧下で硬化させる(後述する第4工程参照)。本実施形態では、樹脂材20として、樹脂にガラス繊維や炭素繊維を含侵させた繊維強化樹脂(FRP:Fiber Reinforced Plastic)を使用する。また、本実施形態では、樹脂材20は、熱硬化性を有している。本工程では、樹脂材20は未だ加熱されておらず、即ち硬化していない。なお、樹脂材20は、シート状である必要はなく、任意の形状をとり得る。
【0043】
図5に示す第4工程では、上型110を下降させ、金属板10と樹脂材20とを上型110と下型120とによって挟み込んで完全なハット形にプレス成形する。このとき、前述の下型120と金属板10との設計上の干渉によって、樹脂材20をキャビティC内に封止する。当該設計上の干渉は、後述するように下型120が撓むことによって実際の干渉(めりこみ)を伴うことなく金属板10と樹脂材20とを一体化するプレス成形が実行される。このようにして、SMC法によって、必要な寸法に裁断した樹脂材20を金型100に投入し、高温高圧下で硬化させる。本実施形態では、キャビティCは、上型110と下型120(詳細には金属板10)とによって挟み込まれて形成される段差112aより下方の空間をいう。樹脂材20は、キャビティCにて加熱され、キャビティCから漏出することなく硬化する。このとき、樹脂材20は、端面20aにて段差112aに当接している。
【0044】
図6に示す第5工程では、上型110を上昇させる。金属板10は、最終形状(本実施形態ではハット形)に成形され、金属板10の上面(ハット形の凹面)には樹脂材20が固着され、金属樹脂複合体1が形成されている。なお、下型120の撓みは、その弾性によって元の形状に復元する。
【0045】
図7は、金属樹脂複合体1なしで上型110および下型120を閉じた状態を示す断面図である。
図8は、
図7の破線円VIIIの部分を拡大して示す断面図である。
図7,8を参照して、前述の下型120の撓みについて説明する。
【0046】
本実施形態では、上型110および下型120が閉じられた際に下型120と金属板10とが設計上干渉してキャビティC(
図5参照)を封止するように、上型110と下型120との距離d23は金属板10の厚みt(
図3参照)よりも小さく設定されている(d23<t)。当該設計上の干渉の大きさは、例えば0.2mm以上かつ1.0mm以下であり得る。上型110および下型120が金属板10を挟んで閉じられた際に第2成形下面122が第2成形上面112から離れるように下型120が撓み、第2工程(
図3参照)および第4工程(
図5参照)では、距離d23は金属板10の厚みt(距離d22)まで拡大される(
図8の破線参照)。詳細には、距離d22は、上型110および下型120が金属板10を挟んで閉じられた際の第2成形下面122の上端(フィレット部がある場合はフィレット部を除く)と第2成形上面112との距離である。距離d23は、上型110および下型120が金属板10を挟むことなく閉じられた際の第2成形下面122の上端(フィレット部がある場合はフィレット部を除く)と第2成形上面112との距離である。
【0047】
本実施形態によれば、上型110および下型120が閉じられた際に下型120と金属板10が設計上干渉するほど金属板10が上型110と下型120とに強く挟み込まれ、樹脂材20をキャビティC内に堅固に封止する。そのため、キャビティCからの樹脂材20の漏出を抑制でき、樹脂材20の意図しない箇所(例えばフランジ部4等)への漏出を抑制できる。樹脂材20の漏出を抑制することで、キャビティCにおける樹脂材20の充填圧が高まり、樹脂材20の安定した成形を実現できる。従って、安定した品質の金属樹脂複合体1を製造できる。また、上記設計上の干渉は、プレス成形の際に下型120の撓み(弾性変形)により距離d23が金属板10の厚みtまで拡大されるため、実際の干渉(めりこみ)となるわけでない。
【0048】
また、本実施形態では、金属樹脂複合体1の断面形状がハット形に成形される。ハット形の金属樹脂複合体1は、汎用性が高く様々な用途に使用できる。
【0049】
また、本実施形態では、上型110および下型120が閉じられた際に溝124によって第2成形下面122が第2成形上面112から離れるように下型120が容易に撓むことができるため、上記設計上の干渉を解消しながらプレス成形を実行できる。これにより、上型110、下型120、および金属板10への過負荷を抑制できる。なお、溝124が設けられていない場合でも下型120自体が有するわずかな弾性によって下型120は一定程度撓むことができる。
【0050】
また、樹脂材20がキャビティCから漏出するためには、上型110の段差112aを越えて流動する必要があるため、樹脂材20の漏出を抑制できる。従って、樹脂材20のキャビティCにおける充填圧を高め、品質を高めることができる。
【0051】
図8を参照して、好ましくは、第2成形下面122が鉛直方向から5°以下で傾斜している場合(θ≦5°)、上記設計上の干渉の大きさ(t-d23)は0.2mm以上かつ0.6mm以下である。また好ましくは、第2成形下面122が鉛直方向から5°より大きく傾斜している場合(θ>5°)、上記設計上の干渉の大きさ(t-d23)は0.4mm以上かつ1.0mm以下である。第2成形下面122の傾斜角度θに応じて上記設計上の干渉の大きさをこのように設定することで、成形下死点前0~5mm程度で第2成形下面122と第2成形上面112との距離d22が金属部材の厚みtと概略等しくなる。従って、上型110、下型120、および金属板10への過負荷を抑制できる。
【0052】
図9は、
図7の第1変形例を示す断面図である。
図10は、
図9の破線円Xの部分を拡大して示す断面図である。
【0053】
第1変形例では、装置50は、溝124に挿入される金属製のスペーサ125を有している。スペーサ125は、溝124の深さと概略同じ長さを有している。また、スペーサ125の幅W1は、図示の断面において、自然状態(撓み前)の溝124の幅W2と前述の干渉の大きさ(t-d23)との差に等しい。これにより、上型110および下型120が金属板10を挟んで閉じられた際に下型120は第2成形下面122が第2成形上面112から離れるように前述の干渉の大きさ(t-d23)だけ撓み(
図10の破線参照)、スペーサ125の幅W1と、撓み後の溝124の幅W2とが等しくなる。即ち、スペーサ125が溝124の両内側面124a,124aと当接し、下型120がそれ以上撓むことを抑制できる。
【0054】
第1変形例によれば、スペーサ125によって第2成形下面122が過度に撓むことを抑制し、即ち距離d23が金属板10の厚みtより大きく広がることを抑制できる。従って、上型110および下型120と金属板10との間で生じる加圧力が必要以上に低減することを抑制でき、樹脂材20をキャビティC内に堅固に封止できる。
【0055】
図11は、
図7の第2変形例を示す断面図である。
図12は、
図11の破線円XIIの部分を拡大して示す断面図である。
【0056】
第2変形例では、溝124の内側面124aは、第2成形下面122と平行に配置されている。その結果、第2成形下面122と溝124との間の肉厚は、均一となっている。なお、スペーサ125は、第1変形例と同じものである。
【0057】
第2変形例によれば、第2成形下面122と溝124との間の肉厚を均等にできるため、当該部分の強度を一定にできる。仮に、当該部分の肉厚に差があると、当該部分が割れたり撓まなかったりするおそれがある。
【0058】
(第2実施形態)
図13を参照して、第2実施形態における金属樹脂複合体1を製造するための装置50および方法について説明する。本実施形態では、金属樹脂複合体1の形状が第1実施形態とは異なる。これに関する構成以外は、
図1~6の第1実施形態の構成と同様である。従って、第1実施形態にて示した部分については説明を省略する場合がある。
【0059】
本実施形態では、金属樹脂複合体1は、底壁部2に突起2aを有している。突起2aは、樹脂材20からなり、鉛直上方に細長く延びている。また、第1成形上面111には、突起2aに相補的な形状を有する凹部111aが形成されている。凹部111aは、第1成形上面111において下方へ開口している。
【0060】
樹脂材20を突起2aのように細長く成形する場合には十分な充填圧が求められるが、ここでは前述の設計上の干渉によって樹脂材20の充填圧を高めているため、突起2aのような細長い形状も安定して成形できる。
【0061】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の実施形態や変形例の内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【0062】
また、樹脂材20として熱可塑性樹脂にガラス繊維または炭素繊維を含侵させたものを使用してもよい。この場合、樹脂材20を加熱して軟化させた状態で金型100に投入する。そして、金型100内において金属板10上で冷却して硬化させることで金属樹脂複合体1を製造する。
【0063】
また、金属樹脂複合体1において、金属板10と樹脂材20との間に接着層を設けてもよい。この場合、接着層を設けることで、金属板10と樹脂材20とを強固に一体成形することができる。
【0064】
また、
図14を参照して、第2工程(1回目のプレス)で金属板10を完全なハット形にプレス成形してもよい。この場合、金属板10を完全なハット形にプレス成形するように完全なハット形の成形面を有している上型110Aと、溝124を備えず金属板10と干渉しない下型120Aを使用する。代替的には、1回目のプレスと2回目のプレスで同じ上型及び同じ下型を使用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 金属樹脂複合体
2 底壁部
3 側壁部
4 フランジ部
10 金属板(金属部材)
20 樹脂材
20a 端面
50 装置
100 金型
110,110A 上型
111 第1成形上面
111a 凹部
112 第2成形上面
112a 段差
113 第3成形上面
120,120A 下型
121 第1成形下面
122 第2成形下面
123 第3成形下面
124 溝
124a 内側面
125 スペーサ
130 駆動部
140 加熱部
C キャビティ