(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015689
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】光ファイバ母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/014 20060101AFI20230125BHJP
【FI】
C03B37/014 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119614
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 達哉
【テーマコード(参考)】
4G021
【Fターム(参考)】
4G021CA11
4G021CA13
4G021CA14
(57)【要約】
【課題】光ファイバ母材の長手方向におけるフッ素の添加量の変動を抑制できる光ファイバ母材の製造方法を提供する。
【解決手段】光ファイバ母材の製造方法は、コアロッドおよびスート層を有する未処理母材と、ヒータと、を前記未処理母材の長手方向に沿って互いに相対移動させるとともに、炉心管内にフッ素系ガスを導入しながら前記ヒータによって前記未処理母材を加熱することで、前記スート層に対してフッ素を添加する光ファイバ母材の製造方法であって、前記ヒータから見た前記未処理母材の相対速度の絶対値をトラバース速度V[mm/hr]とし、前記スート層の前記未処理母材の径方向における厚さをd[mm]とし、前記炉心管内における前記フッ素系ガスの容積比をr[%]とするとき、以下の数式a、bが成立する。
a:V=A×r/d
b:4808≦A[mm
2/hr]≦17500
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアロッドおよび前記コアロッドの外周面上にガラス微粒子を堆積させることによって形成されたスート層を有する未処理母材と、ヒータと、を前記未処理母材の長手方向に沿って互いに相対移動させるとともに、前記未処理母材が収容される炉心管内にフッ素系ガスを導入しながら前記ヒータによって前記未処理母材を加熱することで、前記スート層に対してフッ素を添加する光ファイバ母材の製造方法であって、
前記フッ素系ガスを前記炉心管内に導入する際における、前記ヒータから見た前記未処理母材の相対速度の絶対値をトラバース速度V[mm/hr]とし、
前記スート層の前記未処理母材の径方向における厚さをd[mm]とし、
前記炉心管内における前記フッ素系ガスの容積比をr[%]とするとき、以下の数式a、bが成立する、光ファイバ母材の製造方法。
a:V=A×r/d
b:4808≦A[mm2/hr]≦17500
【請求項2】
前記フッ素系ガスを前記炉心管内に導入する際における、前記炉心管内の温度が1100℃以上1170℃以下である、請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項3】
前記スート層のかさ密度B[g/cm3]の前記長手方向における平均値をBe[g/cm3]とするとき、
前記長手方向における各位置において、Be-0.2≦B≦Be+0.2が成立する、請求項1または2に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項4】
前記炉心管の内周面と前記未処理母材の外周面とが対向する領域における前記フッ素系ガスの平均流速は112~206mm/minである、請求項1から3のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項5】
前記フッ素が添加された前記スート層が焼結された際に、当該スート層の比屈折率差の最大値が-0.186%以下となるように、前記スート層に前記フッ素を添加する、請求項1から4のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フッ素系ガスを用いて、未処理母材が有するスート層(トレンチ部)に対してフッ素(ドーパント)を添加する光ファイバ母材の製造方法において、フッ素をスート層に対して均一に添加すべき旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、スート層に対するフッ素の添加量を、未処理母材の径方向において均一にすることについて検討されてきた。ところで、スート層に添加されるフッ素の量は、スート層のかさ密度に依存する。したがって、スート層のかさ密度が未処理母材の長手方向において不均一である場合、当該スート層に添加されるフッ素の添加量も長手方向において意図せず不均一となりやすい。フッ素の添加量が長手方向において不均一になると、当該未処理母材を焼結した光ファイバ母材から溶融紡糸された光ファイバにおいて、所望の光学特性(屈折率分布)が得られない場合がある。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされ、光ファイバ母材の長手方向におけるフッ素の添加量の変動を抑制できる光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る光ファイバ母材の製造方法は、コアロッドおよび前記コアロッドの外周面上にガラス微粒子を堆積させることによって形成されたスート層を有する未処理母材と、ヒータと、を前記未処理母材の長手方向に沿って互いに相対移動させるとともに、前記未処理母材が収容される炉心管内にフッ素系ガスを導入しながら前記ヒータによって前記未処理母材を加熱することで、前記スート層に対してフッ素を添加する光ファイバ母材の製造方法であって、前記フッ素系ガスを前記炉心管内に導入する際における、前記ヒータから見た前記未処理母材の相対速度の絶対値をトラバース速度V[mm/hr]とし、前記スート層の前記未処理母材の径方向における厚さをd[mm]とし、前記炉心管内における前記フッ素系ガスの容積比をr[%]とするとき、以下の数式a、bが成立する。
a:V=A×r/d
b:4808≦A[mm2/hr]≦17500
【発明の効果】
【0007】
本発明の上記態様によれば、光ファイバ母材の長手方向におけるフッ素の添加量の変動を抑制可能な光ファイバの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の光ファイバ母材の製造方法において用いられる光ファイバ母材の製造装置の一例を示す図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿う未処理母材の断面図である。
【
図3】本実施形態に係る光ファイバの屈折率分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法および光ファイバ母材の製造装置について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、光ファイバ母材の製造装置1は未処理母材Mを収容可能な炉心管10と、ヒータ20と、炉体30と、断熱材40と、を備える。炉心管10は、中空容器状に形成されている。炉心管10は、第1端部10aおよび第2端部10bを有する。未処理母材Mは、支持部50によって、炉心管10内において支持される。
【0010】
(方向定義)
ここで、本実施形態では、炉心管10の中心軸線Oと平行な方向をZ方向または軸方向Zと称する。軸方向Zに沿って、第2端部10bから第1端部10aに向かう方向を+Z方向または上方と称し、+Z方向とは反対の方向を-Z方向または下方と称する。軸方向Zに垂直な断面を横断面と称する。炉心管10の中心軸線Oに直交する方向を径方向と称する。径方向に沿って、中心軸線Oに接近する方向を径方向内側と称し、中心軸線Oから離反する方向を径方向外側と称する。軸方向Zから見て、中心軸線Oまわりに周回する方向を周方向と称する。
【0011】
(光ファイバ母材の製造装置)
図2に示すように、未処理母材Mは、コアロッドRと、スート層(ガラス多孔質体)M1と、を有する。スート層M1は、コアロッドRの外周面上にガラス微粒子を堆積させることによって形成される。未処理母材Mに対して焼結等の熱処理を行うことにより、光ファイバ母材が得られる。光ファイバ母材を紡糸炉内で溶融紡糸することにより、光ファイバFが得られる。
【0012】
本実施形態において、コアロッドRは、未処理コア部MCおよび未処理内側クラッド部M0を有する。未処理内側クラッド部M0は、未処理コア部MCの外周面を覆っている。未処理コア部MCは、光ファイバFのコア部FCになる部分である(
図3も参照)。未処理内側クラッド部M0は、光ファイバFの内側クラッド部F0になる部分である。コアロッドRは、例えば、VAD法やOVD法等のスート法を用いて製造されていてもよい。
【0013】
スート法を用いてコアロッドRを製造する場合、まず、反応容器内に設置されたバーナから、酸素ガス、水素ガス、不活性ガス等を流し、これらのガスを反応させた火炎中に、SiCl4等のガラス原料ガスを投入する。これにより、ガラス微粒子が生成される。このガラス微粒子を、反応容器内で回転する石英棒に付着させることで、石英棒の外周にスートが堆積する。スートが堆積した石英棒を加熱(焼結)して透明ガラス化することで、コアロッドRが製造される。より具体的には、石英棒が未処理コア部MCになり、スートが未処理内側クラッド部M0になる。
【0014】
上記した方法等によって製造されたコアロッドRに対して、VAD法やOVD法等のスート法を用いてさらにガラス微粒子を堆積させることにより、コアロッドRおよびスート層M1を有する未処理母材Mが製造される。
【0015】
本実施形態に係る炉心管10は、横断面視において略円形状に形成されている。なお、「略円形状」には、製造誤差を取り除けば円形状とみなせる場合も含まれる。炉心管10の材質としては、例えば石英ガラス等を採用できる。
図1に示すように、炉心管10の第1端部10aには、炉心管蓋部11が設けられている。炉心管蓋部11を開くことで、炉心管10に未処理母材Mを炉心管10内部に挿入したり、炉心管10から処理済みの母材(光ファイバ母材)を取り出したりすることができる。
【0016】
炉心管10の第2端部10bには、ガス導入口12が設けられている。ガス導入口12から、未処理母材Mが収容される空間(炉心管10内部)にガスを導入することができる。また、炉心管10には、不図示のガス排出口が設けられていてもよい。ガス排出口は、未処理母材Mが収容される空間(炉心管10内部)からガスを排出するために用いられる。
【0017】
支持部50は、炉心管蓋部11を貫通している。本実施形態において、未処理母材Mは、未処理母材Mの長手方向と軸方向Zとが平行となるように支持される。なお、未処理母材Mの長手方向と軸方向Zとが平行でない状態で未処理母材Mが支持されてもよい。
【0018】
支持部50は、炉心管蓋部11に対して摺動自在に接触している。また、光ファイバ母材の製造装置1は、炉心管10の外部に不図示の昇降装置を備えていてもよい。昇降装置は、支持部50を把持して、支持部50を軸方向Z沿って移動させる。この構成により、未処理母材Mは、炉心管10およびヒータ20に対して、軸方向Zに沿って相対移動可能である。
【0019】
炉体30は、中空容器状に形成されている。本実施形態に係る炉体30は、横断面視において略円形状に形成されている。なお、「略円形状」には、製造誤差を取り除けば円形状とみなせる場合も含まれる。
【0020】
炉体30の上壁には、第1挿入孔31Aが形成されている。炉体30の下壁には、第2挿入孔31Bが形成されている。炉心管10は、挿入孔31A、31Bを貫通している。炉体30の上面には、第1挿入孔31Aを塞ぐ上蓋部32Aが設けられている。炉体30の下面には、第2挿入孔31Bを塞ぐ下蓋部32Bが設けられている。蓋部32A、32Bは、炉心管10を炉体30に対して固定する役割も有している。蓋部32A、32Bを炉体30から取り除くことで、炉体30から炉心管10を取り外すことができる。
【0021】
ヒータ20および断熱材40は、炉体30に収容されている。本実施形態に係るヒータ20および断熱材40は、横断面視において略円形状に形成されている。なお、「略円形状」には、製造誤差を取り除けば円形状とみなせる場合も含まれる。ヒータ20および断熱材40は、炉心管10を径方向外側から取り囲んでいる。ヒータ20は、炉心管10を介して未処理母材Mを加熱する。ヒータ20は、例えば電気ヒータ等であってもよい。ヒータ20は、径方向において炉心管10と対向している。断熱材40は、ヒータ20の熱が炉体30の外部へ逃げるのを抑制する部材である。
【0022】
(光ファイバ母材の製造方法)
次に、以上のように構成された光ファイバ母材の製造装置を用いた光ファイバ母材の製造方法について説明する。
【0023】
図3は、本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法によって製造された光ファイバ母材を、さらに溶融紡糸することによって得られた光ファイバFを表す図である。本実施形態において、光ファイバFは、コア部FCと、内側クラッド部F0と、外側クラッド部F1と、第2の外側クラッド部F2と、を有する。内側クラッド部F0は、コア部FCの外周面を覆っている。外側クラッド部F1は、内側クラッド部F0の外周面を覆っている。第2の外側クラッド部F2は、外側クラッド部F1の外周面を覆っている。なお、第2の外側クラッド部F2は、焼結済みの未処理母材Mの外側に堆積されたガラス微粒子(第2のスート層M2)に由来する部分である(詳細は後述)。また、
図3に示す光ファイバFの屈折率分布は一例であり、適宜変更可能である。例えば、光ファイバFの各層FC、F0、F1、F2において屈折率は一定でなくてもよい。
【0024】
本実施形態において、コア部FCの最大屈折率n1は、内側クラッド部F0の最大屈折率n2、外側クラッド部F1の最大屈折率n3、および第2の外側クラッド部F2の最大屈折率n4のいずれよりも大きく設計される。一方、外側クラッド部F1の最大屈折率n3は、コア部FCのn1、内側クラッド部F0の最大屈折率n2、および第2の外側クラッド部F2の最大屈折率n4のいずれよりも小さく設計される。なお、本明細書において最大屈折率とは、光ファイバFの各層FC、F0、F1、F2における屈折率の最大値を意味する。
【0025】
また、外側クラッド部F1の比屈折率差Δの最大値が、第2の外側クラッド部F2の最大屈折率n4を基準として、-0.186%以下となるように光ファイバFの屈折率分布が設計されてもよい。なお、本明細書において比屈折率差Δとは、光ファイバFの各部分の屈折率が基準値(n4)と比べてどの程度小さいかを表す値である。光ファイバFの各部分において、比屈折率差Δは以下の数式(1)で定義される。数式(1)中において、n4は第2の外側クラッド部F2の最大屈折率である。nは当該部分における屈折率である。
【0026】
【0027】
本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法は、フッ素系ガス拡散工程と、焼結工程と、を有する。これらの工程を経て製造された光ファイバ母材を溶融紡糸することにより、上記したような屈折率分布を有する光ファイバFが製造される。
【0028】
まず、コアロッドRが準備される。コアロッドRの準備にあたっては、先述したように、スート法によってコアロッドRが製造されてもよい。また、屈折率を調節するためにゲルマニウムやフッ素等のドーパントが添加されてもよい。
次に、コアロッドRおよびスート層M1を有する未処理母材Mが製造される。未処理母材Mの製造にあたっては、コアロッドRに対して、スート法によってガラス微粒子が堆積されてもよい。
【0029】
次に、フッ素系ガス拡散工程が行われる。なお、フッ素系ガス拡散工程が行われる前に、未処理母材Mに対して適宜脱水処理が行われてもよい。
【0030】
フッ素系ガス拡散工程において、炉心管10内にはCF4、SiF4、SF6等のフッ素系ガスが導入される。炉心管10内に導入されたフッ素系ガスがガラス微粒子と反応することにより、スート層M1にフッ素(F)が添加される。スート層M1に対してフッ素を添加することにより、外側クラッド部F1の屈折率を下げることができる。なお、フッ素系ガスが炉心管10内に導入されるとともに、アルゴン等の不活性ガス(キャリアガス)が炉心管10内に導入されてもよい。
【0031】
フッ素系ガス拡散工程において、未処理母材Mは、ヒータ20によって加熱される。未処理母材Mを加熱することにより、ガラス微粒子とフッ素系ガスとの反応を促進し、フッ素の添加効率を高めることができる。また、未処理母材Mの長手方向における全体にわたってフッ素が添加されるように、未処理母材Mと、ヒータ20と、は軸方向Z(未処理母材Mの長手方向)に沿って互いに相対移動(トラバース)させられる。特に、本実施形態においては、ヒータ20が炉体30内に固定され、未処理母材Mが昇降装置等によって軸方向Zに沿って移動する。以降本明細書において、ヒータ20から見た未処理母材Mの相対速度の絶対値を、トラバース速度V[mm/hr]と称する場合がある。本実施形態においては、未処理母材Mの移動速度がトラバース速度Vと一致する。
【0032】
本願発明者らは、トラバース速度Vが遅いほど、光ファイバ母材(未処理母材M)の長手方向におけるフッ素の添加量の変動が抑制できると考察した。これは、トラバース速度Vが遅いほど、未処理母材Mの各部分がヒータ20によって加熱される時間が長くなり、当該部分におけるガラス微粒子とフッ素系ガスとの反応時間が確保されると考えられるためである。
【0033】
また、本願発明者らは、スート層M1の全体にフッ素が添加されるまでに必要な時間は、スート層M1の厚さdが大きいほど長くなり、炉心管10内におけるフッ素系ガスの濃度rが低いほど長くなると考察した。スート層M1の厚さdが大きいほどガラス微粒子の量が多くなり、フッ素系ガスの濃度rが低いほどガラス微粒子とフッ素系ガスとの反応速度が低下すると考えられるためである。当該考察によれば、スート層M1の厚さdが大きく、炉心管10内におけるフッ素系ガスの濃度rが低いほど、トラバース速度Vを遅く設定する必要があると考えられる。
【0034】
一方で、トラバース速度Vを不必要に遅く設定してしまうと、未処理母材Mを炉心管10内で移動させるのに必要な時間が長くなり、光ファイバ母材(光ファイバF)の生産効率を低下させてしまう可能性がある。
【0035】
そこで本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法においては、トラバース速度Vは以下の数式(2)で決定される。数式(2)中において、r[%]は炉心管10内におけるフッ素系ガスの容積比(濃度)である。d[mm]はスート層M1の径方向における寸法(厚さ)である。A[mm2/hr]は、作業者が適宜設定する係数である。
【0036】
【0037】
数式(2)において、トラバース速度Vは係数Aに比例している。先の議論と同様に、係数Aを小さく設定するほど光ファイバ母材の長手方向におけるフッ素の添加量の変動が抑制できるが、係数Aを不必要に小さく設定してしまうと、光ファイバ母材の生産効率を低下させてしまう。これに対して本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法においては、係数Aが4808≦A≦17500の範囲から選択される。このように、係数Aに対して上限を設定することにより、光ファイバ母材の長手方向におけるフッ素の添加量の変動を抑制することができる。また、係数Aに対して下限を設定することにより、光ファイバ母材の生産効率の低下を抑制することができる。
【0038】
また、数式(2)において、トラバース速度Vの設定値は、炉心管10内におけるフッ素系ガスの濃度rに比例し、スート層M1の厚さdに反比例している。つまり、スート層M1の厚さdが大きく、炉心管10内におけるフッ素系ガスの濃度rが低いほど、トラバース速度Vを小さく(遅く)設定している。このように、スート層M1の厚さd、および炉心管10内におけるフッ素系ガスの濃度rに応じてトラバース速度Vを決定することで、フッ素の添加量の変動をより確実に抑制しつつ、光ファイバ母材の生産効率の低下をより確実に抑制することができる。
【0039】
なお、フッ素系ガス拡散工程において、外側クラッド部F1の比屈折率差Δの最大値が-0.186%以下になるように、スート層M1にフッ素が添加されてもよい。この場合、係数Aや炉心管10内におけるフッ素系ガスの濃度r等が適宜調整されてもよい。なお、先述したように、外側クラッド部F1は、スート層M1が焼結され、さらに溶融紡糸された(線引きされた)部分である。
【0040】
フッ素系ガス拡散工程が行われたのち、焼結工程が行われる。焼結工程においては、ヒータ20によって未処理母材Mがガラス転移温度まで加熱される。これにより、スート層M1が透明ガラス化される。なお、焼結工程において、未処理母材Mとヒータ20とが相対移動(トラバース)してもよい。
【0041】
焼結工程が行われたのち、焼結済みの未処理母材Mの外周にガラス微粒子が堆積され、第2のスート層M2が形成されてもよい(
図2参照)。第2のスート層M2の形成には、スート法が用いられてもよい。なお、第2のスート層M2は形成されなくてもよい。
【0042】
第2のスート層M2は、光ファイバFの第2の外側クラッド部F2になる部分である。先述の通り、第2の外側クラッド部F2の最大屈折率n4は外側クラッド部F1の最大屈折率n3よりも大きい。このような屈折率分布を実現するために、第2のスート層M2に対しては、例えば、フッ素が添加されなくてもよい。あるいは、第2のスート層M2に対するフッ素の添加量が、スート層M1に対するフッ素の添加量よりも小さくてもよい。あるいは、第2のスート層M2に対して、添加された部分の屈折率を向上させるドーパント(ゲルマニウム等)を添加してもよい。
【0043】
最後に、第2のスート層M2が形成された未処理母材Mに対して再度焼結工程を行うことにより、第2のスート層M2が透明ガラス化される。これにより、光ファイバ母材が得られる。当該光ファイバ母材を溶融紡糸することで、
図3の例に示すような屈折率分布を有する光ファイバFを得ることができる。
【0044】
次に、以上のように構成された光ファイバ母材の製造方法の作用について説明する。
【0045】
従来、スート層に対するフッ素の添加量を、径方向において均一にすることについて検討されてきた。ところで、スート層に添加されるフッ素の量は、スート層のかさ密度に依存する。したがって、スート層のかさ密度が長手方向において不均一である場合、当該スート層に添加されるフッ素の添加量も長手方向において意図せず不均一となりやすい。フッ素の添加量が長手方向において不均一になると、当該未処理母材を焼結した光ファイバ母材から溶融紡糸された光ファイバにおいて、所望の光学特性(屈折率分布)が得られない場合がある。
【0046】
しかしながら、スート層のかさ密度が長手方向において完全に均一となるようにガラス微粒子の堆積を制御することは困難である。また、光ファイバを製造するうえでの都合から、敢えてかさ密度が不均一になるようスート層が堆積される場合もある。
【0047】
これに対して本実施形態に係る光ファイバの製造方法では、数式(2)を用いてトラバース速度Vを決定し、かつ係数Aの値を17500以下に制限している。この構成により、スート層M1とフッ素系ガスとの反応時間が確保され、未処理母材Mの長手方向におけるフッ素の添加量の変動を抑制することができる。また、係数Aの値に下限(4808≦A)を設けることで、光ファイバ母材の生産効率の低下を抑制することができる。
【0048】
また、数式(2)を用いてトラバース速度Vを決定することで、スート層M1の厚さdおよび炉心管10内におけるフッ素系ガスの濃度rに応じたトラバース速度Vを選択することができる。これにより、未処理母材Mの長手方向におけるフッ素の添加量の変動をより確実に抑制しつつ、光ファイバ母材の生産効率の低下をより確実に抑制することができる。
【実施例0049】
以下、具体的な実施例を用いて、上記実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0050】
比較例および実施例1~7に係る光ファイバ母材の製造方法を用いて、光ファイバ母材を製造した。また、比較例および実施例1~7において製造された光ファイバ母材を溶融紡糸することで光ファイバFを製造し、当該光ファイバFの長手方向における屈折率変動を評価した。表1は、比較例および各実施例における各種の製造パラメータおよび屈折率変動の評価結果を示した表である。
【0051】
【0052】
表1において、コアロッド径は、コアロッドRの外径である。
コアロッド断面積は、コアロッドRの長手方向に垂直な断面におけるコアロッドRの面積である。
スート厚さdは、スート層M1の径方向における寸法(厚さ)である。
平均かさ密度Beは、スート層M1(ガラス微粒子)のかさ密度Bを、未処理母材Mの長手方向において平均した値である。
かさ密度変動は、スート層M1のかさ密度Bと平均かさ密度Beとの差の最大値を示している。
フッ素系ガス濃度rは、炉心管10内におけるフッ素系ガスの容積比(濃度)である。
係数Aは、作業者が設定した係数である。
トラバース速度Vは、ヒータ20からみた未処理母材Mの相対速度である。トラバース速度Vは、先述の数式(2)によって決定された。
処理温度は、フッ素系ガス導入中における炉心管10内の温度である。
ガス流速は、炉心管10内に導入されたフッ素系ガスおよびキャリアガスの流速である。より詳しくは、炉心管10の内周面と未処理母材Mの外周面とが対向する領域における上記ガスの平均流速である。
【0053】
ΔMAXは、外側クラッド部F1の長手方向における比屈折率差の最大値(比屈折率差の絶対値の最小値)である。
ΔMINは、外側クラッド部F1の長手方向における比屈折率差の最小値(比屈折率差の絶対値の最大値)である。
屈折率変動判定では、ΔMAX-ΔMINの値が0.015%以下であった場合を良とし、所定の値よりも大きかった場合を不良とした。
【0054】
表1からわかるように、係数Aが4808≦A≦17500の範囲内に設定された各実施例1~7においては、スート厚さdやフッ素系ガス濃度rといった他の製造パラメータの大小に依らず、屈折率変動判定が良となっている。一方、係数Aが当該範囲内に設定されていない比較例においては、屈折率変動判定が不良となっている。
【0055】
このように、トラバース速度Vを先述の数式(2)により決定し、かつ係数Aの値を17500以下とすることにより、光ファイバFの長手方向における屈折率変動を抑制することができる。つまり、光ファイバ母材の長手方向におけるフッ素の添加量の変動を抑制することができる。さらに、係数Aを4808以上とすることにより、光ファイバ母材の生産効率の低下を抑制することができる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法は、コアロッドRおよびコアロッドRの外周面上にガラス微粒子を堆積させることによって形成されたスート層M1を有する未処理母材Mと、ヒータ20と、を未処理母材Mの長手方向に沿って互いに相対移動させるとともに、未処理母材Mが収容される炉心管10内にフッ素系ガスを導入しながらヒータ20によって未処理母材Mを加熱することで、スート層M1に対してフッ素を添加する光ファイバ母材の製造方法であって、フッ素系ガスを炉心管10内に導入する際における、ヒータ20から見た未処理母材Mの相対速度の絶対値をトラバース速度V[mm/hr]とし、スート層M1の径方向における厚さをd[mm]とし、炉心管10内におけるフッ素系ガスの容積比をr[%]とするとき、以下の数式a、bが成立する。
a:V=A×r/d
b:4808≦A[mm2/hr]≦17500
【0057】
この構成により、光ファイバ母材の長手方向におけるフッ素の添加量の変動を抑制できる。さらに、光ファイバ母材の生産効率の低下を抑制することができる。
【0058】
また、フッ素系ガス拡散工程において、炉心管10内の温度が1100℃以上1170℃以下であってもよい。この場合、スート層M1(ガラス微粒子)とフッ素系ガスとの反応が促進される。
【0059】
また、スート層M1のかさ密度B[g/cm3]の未処理母材Mの長手方向における平均値をBe[g/cm3]とするとき、当該長手方向における各位置において、Be-0.2≦B≦Be+0.2が成立してもよい。この場合、光ファイバ母材の長手方向におけるフッ素の添加量の変動をより確実に抑制できる。
【0060】
また、炉心管10の内周面と未処理母材Mの外周面とが対向する領域におけるフッ素系ガスの平均流速は112~206mm/minであってもよい。この場合、フッ素系ガスの供給が円滑に行われ、光ファイバ母材の長手方向におけるフッ素の添加量の変動をより効果的に抑制できる。
【0061】
また、外側クラッド部F1の比屈折率差の最大値が-0.186%以下となるように、スート層M1にフッ素を添加してもよい。この場合、光ファイバFの曲げ損失をより確実に抑制することができる。
【0062】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0063】
例えば、スート層M1の透明ガラス化と第2のスート層M2の透明ガラス化とは、単一の焼結工程において行われてもよい。言い換えれば、スート層M1と第2のスート層M2とは、同時に焼結されてもよい。
【0064】
また、フッ素系ガス拡散工程の一部と焼結工程の一部とが、同時に行われてもよい。あるいは、フッ素系ガス拡散工程の全部と焼結工程の全部とが、同時に行われてもよい。
【0065】
また、フッ素系ガス拡散工程において、未処理母材Mが炉心管10内に固定され、ヒータ20が軸方向Zに沿って移動してもよい。あるいは、未処理母材Mおよびヒータ20の両方が軸方向Zに沿って移動してもよい。
【0066】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。