(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156900
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】低級オレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 1/20 20060101AFI20231018BHJP
C10G 1/00 20060101ALI20231018BHJP
C07C 11/04 20060101ALI20231018BHJP
C07C 11/06 20060101ALI20231018BHJP
C07C 11/09 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C07C1/20
C10G1/00 C
C07C11/04
C07C11/06
C07C11/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066544
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(71)【出願人】
【識別番号】522150403
【氏名又は名称】Solariant Capital株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100121636
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌靖
(74)【代理人】
【識別番号】100150212
【弁理士】
【氏名又は名称】上野山 温子
(72)【発明者】
【氏名】仙頭 準
(72)【発明者】
【氏名】岡村 淳志
(72)【発明者】
【氏名】島 昌秀
(72)【発明者】
【氏名】浦野 陽平
【テーマコード(参考)】
4H006
4H129
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC25
4H006AC26
4H006BA71
4H006BD10
4H006DA12
4H129AA01
4H129BA03
4H129BB03
4H129BC37
4H129NA21
(57)【要約】
【課題】草木系バイオマスの炭化処理による生成物を原料として低級オレフィンを製造する方法を提供すること。
【解決手段】草木系バイオマスを炭化処理し、これにより生じた揮発成分を冷却して液化物を得ること、および、該液化物を原料として低級オレフィンを製造すること、を含む、低級オレフィンの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
草木系バイオマスを炭化処理し、これにより生じた揮発成分を冷却して液化物を得ること、および、
該液化物を原料として低級オレフィンを製造すること、
を含む、低級オレフィンの製造方法。
【請求項2】
前記炭化処理が、酸素濃度が5%未満の不活性雰囲気下で、前記草木系バイオマスを100℃~550℃の処理温度で加熱することを含む、請求項1に記載の低級オレフィンの製造方法。
【請求項3】
前記液化物を原料として低級オレフィンを製造することが、前記液化物を固体酸触媒と接触させることを含む、請求項1に記載の低級オレフィンの製造方法。
【請求項4】
前記液化物を精製することをさらに含む、請求項1に記載の低級オレフィンの製造方法。
【請求項5】
前記草木系バイオマスが、スギ、アカシア、タケ、サトウキビ、エリアンサス、イネ、ムギ、ソバ、および果実から選択される、請求項1に記載の低級オレフィンの製造方法。
【請求項6】
前記液化物を原料として低級オレフィンを製造することが、前記液化物および石油由来成分を含む混合物から低級オレフィンを製造することを含む、請求項1に記載の低級オレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、草木系バイオマスを原料とする低級オレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガス(GHG)排出削減において、排出CO2の回収および再資源化は有用な手段であるが、現状では技術成熟度が低く、長期的視点での取り組みが必要である。その一方で、原料そのものをバイオ化すれば根本的なGHG排出削減が可能となり、カーボンニュートラルに向けた取組みに大いに貢献することができる。
【0003】
従来技術においては、草木系バイオマスの炭化物を固形燃料として利用することが提案されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、草木系バイオマスを炭化処理した際の生成物を原料として低級オレフィンを製造する技術は未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、草木系バイオマスの炭化処理による生成物を原料として低級オレフィンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの局面によれば、草木系バイオマスを炭化処理し、これにより生じた揮発成分を冷却して液化物を得ること、および、該液化物を原料として低級オレフィンを製造すること、を含む、低級オレフィンの製造方法が提供される。
1つの実施形態において、上記炭化処理が、酸素濃度が5%未満の不活性雰囲気下で、上記草木系バイオマスを100℃~550℃の処理温度で加熱することを含む。
1つの実施形態において、上記液化物を原料として低級オレフィンを製造することが、上記液化物を固体酸触媒と接触させることを含む。
1つの実施形態において、上記液化物を精製することをさらに含む。
1つの実施形態において、上記草木系バイオマスがスギ、アカシア、タケ、サトウキビ、エリアンサス、イネ、ムギ、ソバ、および果実から選択される。
1つの実施形態において、上記液化物を原料として低級オレフィンを製造することが、上記液化物および石油由来成分を含む混合物から低級オレフィンを製造することを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態による低級オレフィンの製造方法によれば、草木系バイオマスの炭化処理において生成する揮発成分を凝縮させて得られる液体成分を低級オレフィンに変換することにより、低級オレフィンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例における低級オレフィンの製造プロセスを説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。なお、本明細書中で、数値範囲を表す「~」は、その上限および下限の数値を含む。また、本明細書中で「重量」との表現がある場合は、重さを示すSI系単位として慣用されている「質量」と読み替えてもよい。
【0010】
本発明の実施形態による低級オレフィンの製造方法は、
草木系バイオマスを炭化処理し、これにより生じた揮発成分を冷却して液化物を得ること(炭化工程)、および、
該液化物を原料として低級オレフィンを製造すること(低級オレフィン製造工程)、
を含む。
本発明の実施形態による低級オレフィンの製造方法は、必要に応じて、低級オレフィン製造工程の前に液化物を精製する第1の精製工程および/または低級オレフィン製造工程の後に反応生成物を精製する第2の精製工程をさらに含むことができる。
【0011】
本発明の実施形態による低級オレフィンの製造方法で製造される低級オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、n-ブチレン等の炭素数2~5のオレフィンが挙げられ、なかでも、エチレンまたはプロピレンが好ましい。本発明の実施形態による低級オレフィンの製造方法によれば、液化物中の炭素量(モル数)を基準としたエチレンおよびプロピレンの合計収率として、例えば2.5%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上の収率が達成され得る。
【0012】
以下、各工程について、具体的に説明する。
【0013】
<炭化工程>
炭化工程においては、草木系バイオマスを炭化処理し、これにより生じた揮発成分を冷却して液化物(バイオガスオイル(BGO))を得る。炭化は、加熱によって有機物質が分解し、炭素に富んだ物質になる現象であり、その過程で多くの有機分が揮発脱出する。
【0014】
草木系バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、リグニン等を含む植物由来のバイオマスを意味し、木質系バイオマス、草本系バイオマス、またはこれらの混合物を用いることができる。バイオマスの形態は、特に制限されず、粉状、屑状、チップ状等の粉砕物、樹皮、絞り粕、製材残渣、剪定残渣等であってよい。
【0015】
木質系バイオマスとしては、スギ、ヒノキ、マツ、クヌギ、サクラ、タモ、ケヤキ、ブナ、ナラ、カエデ、イチョウ、キリ、カシ、クリ、ユーカリ、チーク、マホガニー、ヒバ、ポプラ、アカシア、モミ、カバ、ワラン、ウォールナット、サワラ、カヤ、イチイ、オーク、カツラ、モミ等が挙げられる。
【0016】
草本系バイオマスとしては、イネ(藁、もみ殻)、ムギ(藁、もみ殻)、ソバ(藁、もみ殻)、サトウキビ、エリアンサス、トウモロコシ、アブラナ、ダイズ、ヤシ、ヨシ、ササ、タケ、テンサイ等が挙げられる。また、果実(殻、汁後の残渣等)を用いることもできる。
【0017】
なかでも、スギ、アカシア、タケ、サトウキビ(バガス)、エリアンサス、イネ、ムギ、ソバ、および果実が好ましく用いられる。
【0018】
炭化処理に供される草木系バイオマスの水分含有量は、例えば5重量%~50重量%、好ましくは5重量%~30重量%である。このような水分含有量の草木系バイオマスを用いることにより、効率よく炭化処理を行うことができるとともに、水分含有量が低い液化物が得られ得る。草木系バイオマスは、上記水分含有量となるように、炭化処理の前に天然乾燥や人工乾燥等の予備乾燥処理に供されてもよい。なお、水分含有量は、乾燥前後の重量減少から求めることができる。
【0019】
炭化処理は、代表的には、酸素濃度が5%未満、好ましくは3%未満の不活性雰囲気下で草木系バイオマスを100℃~550℃の処理温度で加熱することによって行われる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等を用いることができる。なお、上記不活性雰囲気は、不活性ガスを流通させることなく実現することも出来る。例えば、炉内を外気と遮断することで、処理の進行と共に炉内の酸素が消費され、実質的に炉内が無酸素状態になる状態も含まれる。
【0020】
炭化処理における処理温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは200℃以上である。また、処理温度は、好ましくは550℃以下、より好ましくは500℃以下である。処理温度がこのような範囲内であれば、得られる液化物の保存安定性に優れる。また、リグニンの熱分解を抑制しつつセルロースおよびヘミセルロースの熱分解を好適に進行させることができ、結果として、低級オレフィンの製造に適した軽沸成分の含有割合が高い液化物を得ることができる。なお、上記処理温度は、炭化処理の間の炉内の最高温度として管理することができる。
【0021】
炭化処理の処理時間(上記処理温度での加熱時間)は、例えば10分~120分、好ましくは15分~90分、より好ましくは20分~80分である。上記処理温度およびこのような処理時間で処理することにより、処理開始時のバイオマスに対して25質量%~40質量%の炭化物が得られ、同時に生成する揮発成分から化学資源としての利用価値のある液化物が得られ得る。
【0022】
炭化処理は、バッチ式であってもよく、フロー式であってもよい。バッチ式の処理装置としては、通常のボックス炉を用いることができる。フロー式の処理装置としては、メッシュベルト式連続焼成炉、トンネルキルン、ロータリーキルン等が好ましい。
【0023】
バッチ式の炉を用いた場合の温度上昇度は、例えば1℃/分~50℃/分、好ましくは2℃/分~20℃/分、より好ましくは5℃/分~10℃/分である。
【0024】
ロータリーキルンを用いた場合のキルン長は、例えば1m~100mであり、好ましくは5m~75mであり、より好ましくは10m~50mである。また、キルンの内径は、例えば0.2m~20mであり、好ましくは0.3m~15m、より好ましくは0.5m~10mである。キルンの傾斜角は、例えば0.1°~20°であり、好ましくは0.5°~15°であり、より好ましくは1.0°~10°である。このキルンの回転速度は、例えば1分間で0.1回転~20回転であり、好ましくは0.2回転~15回転、より好ましくは0.5回転~10回転である。キルンは、代表的には、外部加熱式であり、バイオマスが接触するキルン内面の表面温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは200℃以上である。また、上記表面温度は、好ましくは550℃以下、より好ましくは500℃以下である。このキルンを上記処理時間でバイオマスが通過することが出来る。キルンの内面には、混合撹拌を促進する目的で、邪魔板等を設置する場合もある。
【0025】
上記炭化処理によって草木系バイオマス中の有機物質の一部が熱分解および揮発して生じる揮発成分を冷却することにより、液化物を得る。炭化処理の固体残渣(炭化物)は、圧縮成形して固形燃料として用いることができる。
【0026】
揮発成分の冷却(液化)は、例えば、揮発成分を冷却捕集容器に捕集して行う。冷却はBGOの性状に応じて、-20℃~220℃の範囲の温度で1~5段階で実施することが出来る。例えば、100℃および180℃の2段階で冷却しても良い。
【0027】
液化物は、アルコール化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物、炭化水素化合物、有機酸化合物、水等を含む。低級オレフィンの収率を向上する観点から、例えば、1-ヒドロキシ-2-プロパノンを多く含むことが好ましい。液化物における1-ヒドロキシ-2-プロパノンの含有量は、例えば5重量%~60重量%である。
【0028】
1つの実施形態において、液化物は、実質的に硫黄を含まない。液化物における硫黄含有量は、例えば0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下である。
【0029】
<第1の精製工程>
必要に応じて、低級オレフィン製造工程の前に、液化物を精製する第1の精製工程が行われる。炭化工程で得られた液化物は、水、有機酸化合物、芳香族化合物等の低級オレフィンの生成に寄与しない成分若しくは生成への寄与が低い成分を含み得る。精製によってこれらの成分を低減または除去することにより、低級オレフィンの製造効率を向上することができる。
【0030】
精製は、例えば、蒸留(分留)によって行われ得る。蒸留の具体的な方法としては、常圧蒸留、減圧蒸留、水蒸気蒸留、薄膜蒸留等が挙げられる。中でも、常圧蒸留または減圧蒸留が好ましい。
【0031】
蒸留条件は、低級オレフィンの生成に寄与しない成分を低減できる限りにおいて制限されない。蒸留は、例えば、塔頂温度が20℃~120℃、好ましくは30℃~110℃、より好ましくは40℃~100℃である塔頂から留出分を得ることによって行われる。塔頂の圧力は、例えば1kPa~90kPa、好ましくは1kPa~80kPaであり得る。
【0032】
また、蒸留の他にも好ましい精製として、水素化反応による脱酸素処理も行われ得る。水素化の具体的な方法としては、既存の手法が参照され得る。例えば、遷移金属または遷移金属を金属酸化物に担持した触媒を用い、水素の存在下、反応温度150℃~500℃、圧力1MPa~30MPaの条件で実施することが出来る。貴金属としては、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、パラジウム、ルテニウム、白金等を用いることが出来る。金属酸化物としては、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、ゼオライト等の多孔体を用いることが出来る。
【0033】
<低級オレフィン製造工程>
低級オレフィン製造工程においては、任意に精製されていてもよい上記液化物を原料として低級オレフィンを製造する。低級オレフィンの製造は、例えば、液化物を固体酸触媒に接触させることによって行われ得る。当該触媒との接触により、液化物中の1-ヒドロキシ-2-プロパノン等が改質(例えば、熱分解)されて低級オレフィンが生成する。
【0034】
固体酸触媒としては、液化物から低級オレフィンが得られる限りにおいて制限はなく、例えば、ナフサ等のクラッキングにおいて一般的に用いられる固体酸触媒を用いることができる。具体例としては、金属塩(アルミニウム、鉄等の塩化物、臭化物等)、プロトン性水素原子あるいは金属カチオン(アルミニウム、チタン、ガリウム、鉄、セリウム、スカンジウム等)を有するゼオライト、層状粘土鉱物、シリカ、ヘテロポリ酸等の無機系固体酸が挙げられる。
【0035】
ゼオライトとしては、ベータ型、Y型、ZSM-5型、モルデナイト型、SAPO型等の基本骨格を有する各種のゼオライトが挙げられ、中でも、ZSM-5型、モルデナイト型、およびSAPO型が好ましい。これらゼオライトにおいて、シリカ/アルミナモル比については、反応条件に応じて各種の比を選択できるが、例えば10~1000であり、好ましくは10~100である。
【0036】
液化物の固体酸触媒との接触は、液相状態または気相状態で行われることができ、気相状態で行われることが好ましい。1つの実施形態において、液化物からの低級オレフィンの製造は、フロー式の気相反応である。
【0037】
触媒との接触時の雰囲気温度は、例えば350℃~700℃、好ましくは400℃~650℃、より好ましくは450℃~600℃である。反応温度は、ヒーターもしくは熱媒体でコントロールすることができる。
【0038】
触媒との接触時の雰囲気圧力は大気圧~1.0MPa、好ましくは大気圧~0.8MPa、より好ましくは大気圧~0.2MPaである。
【0039】
触媒との接触頻度は、触媒1gに対して1時間に供給したBGOの炭素のモル数として、10ミリモル-炭素/g-触媒・時間~1000ミリモル-炭素/g-触媒・時間、好ましくは20ミリモル-炭素/g-触媒・時間~500ミリモル-炭素/g-触媒・時間、より好ましくは50ミリモル-炭素/g-触媒・時間~200ミリモル-炭素/g-触媒・時間である。
【0040】
触媒との接触前に、液化物を予熱し、気化させておいてもよい。予熱温度は、例えば200℃~600℃、好ましくは250℃~600℃である。
【0041】
液化物の濃度、触媒との接触頻度等をコントロールするために、低級オレフィンの製造に悪影響を与えないガスを希釈ガスとして供給することができる。供給できるガスとしては、窒素、水蒸気、二酸化炭素、希ガス、およびこれらの混合ガスを例示することができる。また、液化物中の反応基質が含有する酸素を除去する目的で還元性ガスを付与することもできる。還元性ガスとしては水素、一酸化炭素、メタン等の低沸点有機化合物、およびこれらの混合ガスを例示することができる。
【0042】
1つの実施形態においては、液化物および石油由来成分を含む混合物から低級オレフィンを製造する。具体的には、石油化学による低級オレフィンの製造では、石油精製からナフサ分解等を経てエチレン、プロピレン等の低級オレフィンを製造するが、当該石油化学による低級オレフィン製造の任意のプロセスに上記液化物を原料の一部として組み込むことができる。例えば、ナフサ等の石油由来成分の熱分解処理、固体酸触媒を用いた流動接触分解処理、精製処理(蒸留等)、改質処理(水添、脱硫等)等において、処理対象の石油由来成分に液化物を混合することにより、最終的に得られる低級オレフィンの一部をバイオマス由来とすることができる。この場合、蒸留、水添、脱硫等の分離精製工程は、既存の方法で行うことができる。石油由来成分は原油であってもよい。好ましくは、石油化学による低級オレフィン製造において、固体酸触媒を用いた流動接触分解またはそれよりも上流のプロセスにおいて、液化物を石油由来成分と混合する。
【0043】
<第2の精製工程>
第2の精製工程においては、低級オレフィン製造工程で得られた反応生成物を精製する。反応生成物は、目的の低級オレフィンに加えて、メタン、エタン、プロパン等を含み得ることから、これらを分離することにより、目的の低級オレフィンを高純度で得ることができる。精製は、代表的には蒸留によって行われ得る。蒸留条件は、通常のナフサ分解による低級オレフィンの製造と同様の条件を用いることができる。
【実施例0044】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0045】
[実施例1]
図1に示すフローで低級オレフィンの製造を行った。具体的には、以下のとおりである。
(炭化および冷却(液化))
乾燥した国産杉チップ(含水率15%未満)を熱分解炉に投入し、炉内に窒素を流通させながら、酸素濃度が3%未満の炉内雰囲気とした。この熱分解炉を、室温から徐々に450℃まで昇温し、そのまま60分間保持した。このときの昇温速度は、5℃/分であった。発生した揮発成分を0℃で冷却捕集して、杉由来の液化物を得た。
得られた液化物をガスクロマトグラフ質量分析法で分析したところ、油成分は、主として酢酸10%~30%、メタノール10%未満、1-ヒドロキシ-2-プロパノン10%~30%、4-ヒドロキシ4-メチル2-ペンタノン10%未満、グアヤコール10%未満、クレゾール10%未満からなる混合物であった。なお、液化物に含まれる水分は50%であった。
(液化物の蒸留)
上記のようにして得られた液化物を室温から徐々に昇温しながら、約10kPaで減圧蒸留し、蒸留塔頂温度が約65℃から約95℃の範囲で得られた留出分を集めた液化物画分を得た。当該液化物画分に含まれる水分は18%であった。
(低級オレフィンの製造)
0.5gのZSM-5(プロトン型、SiO
2/Al
2O
3=20)をヒーター加熱管式流通反応器に充填して触媒層とし、当該反応器に窒素を20ml/分で流通させた。触媒層を500℃で安定させた後、上記液化物分を約30mg/分で触媒層に供給した。
【0046】
[実施例2]
炭化および冷却(液化)で得られた液化物を蒸留せずにそのまま低級オレフィンの製造に供したこと、および、反応温度を600℃にしたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0047】
[実施例3]
バイオマスにアカシア(含水率15%未満)を用いたこと、および、反応温度を500℃にしたこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。なお、得られた液化物をガスクロマトグラフ質量分析法で分析したところ、油成分は、主として酢酸30%~50%、メタノール10%未満、1-ヒドロキシ-2-プロパノン5%~20%、4-ヒドロキシ4-メチル2-ペンタノン10%未満、グアヤコール10%未満、クレゾール10%未満からなる混合物であった。なお、液化物に含まれる水分は44%であった。
【0048】
実施例1~実施例3において、反応器出口から排出されるガスを冷却し、凝結成分と気体成分とをそれぞれ、ガスクロマトグラフィーで分析して、反応生成物を定量した。また、以下の式によって、反応生成物の収率を算出した。結果を表1に示す。
成分Aの収率(%)=反応器出口の成分Aに含まれる炭素(モル)/供給液化物画分または液化物の炭素(モル)×100
【0049】
【0050】
表1に示されるように、本発明の実施形態による低級オレフィンの製造方法によれば、草木系バイオマスを炭化処理して得られる揮発成分の液化物を原料としてエチレン、プロピレン等の低級オレフィンを製造することができる。