(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156901
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】機械学習プログラム、機械学習方法、熱解析装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/27 20200101AFI20231018BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20231018BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20231018BHJP
G06F 119/08 20200101ALN20231018BHJP
【FI】
G06F30/27
G06F30/20
G06F30/10 100
G06F119:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066545
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曾根田 弘光
(72)【発明者】
【氏名】小川 雅俊
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DC03
5B146DJ01
5B146DJ11
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】高速且つ高精度にヒートシンクの熱解析を行うことを課題とする。
【解決手段】熱解析装置は、説明変数であるヒートシンクの形状情報と目的変数であるヒートシンクの熱分布情報とを含む訓練データを取得する。熱解析装置は、訓練データに基づいて、機械学習モデルの、ヒートシンクの複数の位置の温度関係を制約する式を含む損失関数に従った機械学習を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
説明変数であるヒートシンクの形状情報と目的変数である前記ヒートシンクの熱分布情報とを含む訓練データを取得し、
前記訓練データに基づいて、機械学習モデルの、ヒートシンクの複数の位置の温度関係を制約する式を含む損失関数に従った機械学習を実行する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする機械学習プログラム。
【請求項2】
前記取得する処理は、
前記ヒートシンクの形状情報を用いて算出された前記ヒートシンクのフィン間隔を前記説明変数にさらに含む前記訓練データを取得し、
前記実行する処理は、
前記ヒートシンクの形状情報および前記フィン間隔を説明変数、前記ヒートシンクの熱分布情報を前記目的変数に含む前記訓練データに基づいて、前記機械学習を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の機械学習プログラム。
【請求項3】
前記制約する式は、前記ヒートシンクにおける熱分布を物理法則に即して記述する関数である物理ベース損失関数である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の機械学習プログラム。
【請求項4】
前記物理ベース損失関数は、前記ヒートシンクの熱抵抗と包絡体積の関係式である、
ことを特徴とする請求項3に記載の機械学習プログラム。
【請求項5】
前記物理ベース損失関数は、前記ヒートシンクにおいて熱源からの距離が異なる複数の位置の温度の大小関係に応じた値を返す、
ことを特徴とする請求項3に記載の機械学習プログラム。
【請求項6】
前記複数の位置は、
第1の位置と、
前記第1の位置よりも前記熱源に近い第2の位置と、
を含み、
前記物理ベース損失関数は、前記第1の位置の温度が前記第2の位置の温度よりも低い場合には、前記第1の位置の温度が前記第2の位置の温度よりも高い場合よりも、小さい値を返す、
ことを特徴とする請求項5に記載の機械学習プログラム。
【請求項7】
前記物理ベース損失関数は、前記第1の位置の温度と前記第2の位置の温度との差を引数とするReLU関数を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の機械学習プログラム。
【請求項8】
説明変数であるヒートシンクの形状情報と目的変数である前記ヒートシンクの熱分布情報とを含む訓練データを取得し、
前記訓練データに基づいて、機械学習モデルの、ヒートシンクの複数の位置の温度関係を制約する式を含む損失関数に従った機械学習を実行する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする機械学習方法。
【請求項9】
説明変数であるヒートシンクの形状情報と目的変数である前記ヒートシンクの熱分布情報とを含む訓練データを用いてヒートシンクの複数の位置の温度関係を制約する式を含む損失関数に従った機械学習により生成された機械学習モデルに、設計対象であるヒートシンクの形状情報を入力し、
前記ヒートシンクの形状情報の入力に応じて前記機械学習モデルが出力する出力結果に基づき、前記設計対象であるヒートシンクの熱分布情報を取得する、
制御部を有することを特徴とする熱解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒートシンクの設計における機械学習技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートシンクの設計に熱解析が用いられることが知られている。近年では、物理モデルや機械学習モデルを用いた熱解析のシミュレーションにより、ヒートシンクの形状を最適化することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-118940号公報
【特許文献2】特開2003-223470号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2017/0091356号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱解析に物理モデルを用いると、計算時間が長くなり高速化の課題はあるが、物理法則に即した結果が得られやすい。機械学習モデルを用いると、高速化できるが、物理法則に即した結果が得られなかったり、訓練データのない領域での解析精度が低下したりする。
【0005】
一つの側面では、高速且つ高精度にヒートシンクの熱解析を行うことができる機械学習プログラム、機械学習方法、熱解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の案では、機械学習プログラムは、説明変数であるヒートシンクの形状情報と目的変数であるヒートシンクの熱分布情報とを含む訓練データを取得し、訓練データに基づいて、機械学習モデルの、ヒートシンクの複数の位置の温度関係を制約する式を含む損失関数に従った機械学習を実行する、処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
一実施形態によれば、高速且つ高精度にヒートシンクの熱解析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る熱解析装置1の機能構成を示す機能ブロックである。
【
図2】
図2は、入力情報21aの例を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、出力情報21bの例を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、機械学習部22による機械学習モデルMの機械学習方法を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、解析部21による熱解析方法を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、ハードウェア構成例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。この実施形態により発明は限定されない。各形態は、矛盾のない範囲内で適宜組み合わされてよい。
【0010】
ヒートシンクを組み込んだ機器の開発のペースがハイスピード化するにつれ、熱設計もハイスピード化することが望まれている。近年、発熱量の増大に伴い、開発のごく初期の段階からあらかじめ熱設計をしておく必要性が出てきている。その場合、長期間をかけて、特定のモデルに対して厳密に熱性能を推定することだけが有用なのではなく、ごく短期間(数分程度)に推定値を出すことが有用となってくる。また、熱解析に習熟した者でなくても手軽に熱性能を推定できることが望ましい。ヒートシンクは、発熱源、例えば機器やデバイスごとに個別設計されるのが一般的であり、その設計には、熱性能、サイズ、重量などをバランスよく最適化する必要がある。
【0011】
ヒートシンクの形状を最適化するために、熱解析シミュレーションが行われる。シミュレーションには、物理モデルや機械学習モデルが利用されるが、次のような利点・欠点がある。物理モデルを用いると、物理現象に則した結果が得られるが、計算時間が長くなり、高速化の課題が生じる。また、物理モデルによる推定値と実測値に乖離が生じることもある。機械学習モデルを用いることで、計算時間は短くなり高速化は可能になる。訓練データ点では機械学習モデルによる推定値と実測値の乖離が小さい。ただし、訓練データのない領域の推定の信頼性が低い。推定結果が物理法則と一致する保証もない。こういったことから、高精度化の課題が残る。
【0012】
ヒートシンクの開発スピードの高速化のためには、熱解析シミュレーションの高速化及び高精度化が必要である。しかし、シミュレーションに用いる物理モデル或いは機械学習モデルにはそれぞれ上述のような欠点がある。開示される技術によれば、それらの欠点が克服された、高速且つ高精度にヒートシンクの熱解析を行うことができるようになる。
【0013】
図1は、実施形態に係る熱解析装置1の機能構成を示す機能ブロックである。熱解析装置1は、ヒートシンクの熱解析を行う装置である。熱解析装置1は、制御部2と、記憶部3とを含む。記憶部3には、制御部2による制御に必要なさまざまな情報が記憶される。
図1には、記憶部3に記憶される情報のうち、機械学習モデルMが例示される。
【0014】
制御部2は、熱解析装置1全体の処理を司る処理部であり、解析部21と機械学習部22とを有する。解析部21には、入力情報21aが入力される。入力情報21aは、ヒートシンクの形状情報を含む。ヒートシンクの種類等に応じてさまざまに異なり得る入力情報21aが、解析部21に入力される。
【0015】
解析部21は、入力情報21aに基づいて熱解析を行い、熱解析の結果を出力情報21bとして出力する。出力情報21bは、ヒートシンクの熱分布情報を含む。入力情報21aに応じたさまざまな出力情報21bが、解析部21によって出力される。
【0016】
解析部21に入力される入力情報21a、及び、解析部21が出力する出力情報21bについて、
図2及び
図3も参照して説明する。
【0017】
図2は、入力情報21aの例を模式的に示す図である。入力情報21aは、設計対象であるヒートシンク4の形状情報を含む。ヒートシンク4は、発熱源の放熱に用いられる。この例では、発熱源は、リード7とともに基板8上に実装されるCPU6である。CPU6における基板8とは反対側の面が、熱伝導材5を介してヒートシンク4と熱的に接続される。
【0018】
ヒートシンク4は、ベース41と、複数のフィン42とを含む。ベース41は、熱伝導材5を介してCPU6に熱的に接触する。ヒートシンク4は、例えばベース41の中央部とCPU6とが対向するように、CPU6に対して配置される。複数のフィン42は、各々がベース41の異なる位置を基端とし、間隔をあけて延在する。
【0019】
入力情報21aは、ヒートシンク4の寸法を含む。ヒートシンク4の寸法は、ヒートシンク4全体の寸法(例えば包絡形状寸法)、ヒートシンク4の各部の寸法等である。ヒートシンク4の各部の寸法の例は、ベース41の寸法(幅、長さ、高さ等)、フィン42の寸法(幅、長さ、高さ等)等である。
【0020】
入力情報21aは、発熱部品すなわちこの例ではCPU6の温度情報を含む。温度情報の例は、CPU6自体の温度、CPU6のケース温度(パッケージ等の温度)、CPU6の周辺温度(アンビエント温度)等である。入力情報21aは、CPU6の形状情報、また、CPU6の位置情報すなわちCPU6がヒートシンク4のどの部分に対向してヒートシンク4に熱的に接続されるのか等の情報も含んでよい。他にも、CPU6に対して設けられる図示しないファンに関する情報等が入力情報21aに含まれてよい。
【0021】
図3は、出力情報21bの例を模式的に示す図である。出力情報21bは、設計対象であるヒートシンク4の熱分布情報を含む。この例では、ヒートシンク4の熱分布が、ヒートシンク4に対して設定された3次元グリッドに従って示される。グリッドの交点に対応する位置を、位置Yと称し図示する。出力情報21bは、ヒートシンク4における複数の位置Yと、温度とを対応付ける情報であってよい。
【0022】
図1に戻り、解析部21は、機械学習モデルMを用いて、ヒートシンク4の熱解析を行う。機械学習モデルMは、任意のヒートシンクの形状情報が入力されると、そのヒートシンクの熱分布情報を出力するように、予め訓練データを用いて機械学習されたモデルである。解析部21は、ヒートシンク4の形状情報を含む入力情報21aを機械学習モデルMに入力することによって、機械学習モデルMから、ヒートシンク4の熱分布情報を含む出力情報21bを取得する。なお、機械学習モデルMにおいて扱われる形状情報及び熱分布情報は、機械学習モデルMでの処理に適したデータ形式に変換されたデータであってよい。
【0023】
機械学習部22は、機械学習モデルMの機械学習を実行する。機械学習モデルMの機械学習に用いられる訓練データを、訓練データ22aと称し図示する。機械学習部22は、訓練データ22aを取得し、取得した訓練データ22aに基づいて、機械学習モデルMの機械学習を実行する。
【0024】
図4は、機械学習部22による機械学習モデルMの機械学習方法を模式的に示す図である。この例では、機械学習モデルMは、ニューラルネットワークNNを含んで構成される。訓練データ22aは、説明変数と、目的変数とを含む。先に説明変数について説明し、その後、目的変数について説明する。
【0025】
説明変数は、さまざまなヒートシンクの形状情報であり、先に
図2を参照して説明したヒートシンク4の入力情報21aと同様の情報を含む。例えば、訓練データ22a用に準備されたヒートシンクの形状情報が、機械学習部22に入力される。機械学習部22は、入力されたヒートシンクの形状情報を、説明変数として取得する。
【0026】
さらに、機械学習部22は、フィン間隔も説明変数として取得してよい。
図4に示される例では、ヒートシンクの物理モデルを用いて、フィン間隔が取得される。この物理モデルは、熱伝導、放熱、熱抵抗等の物理特性に基づいて、最適なフィン間隔を算出する。例えば、下記の式に従って、最適なフィン間隔が算出される。
【0027】
【0028】
物理モデルは、制御部2の機械学習部22が利用できるように、例えば記憶部3に記憶されてよい。制御部2の解析部21も、その物理モデルを利用可能である。
【0029】
目的変数は、説明変数に係るヒートシンクの熱分布情報であり、先に
図3を参照して説明したようなヒートシンク4の出力情報21bと同様の情報を含む。例えば、上述の説明変数に係るヒートシンクの熱分布情報が、機械学習部22に入力される。機械学習部22は、入力されたヒートシンクの熱分布情報を、目的変数として取得する。
【0030】
目的変数は、正解データであり、熱分布の実測値(実験結果)や、同一又は類似の形状を有するヒートシンクに対して行われた過去の熱分布シミュレーション結果等を用いて準備される。
【0031】
機械学習部22は、上述のような訓練データ22aを取得し、取得した訓練データ22aに基づいて、機械学習モデルMの機械学習を実行する。機械学習モデルMは、ヒートシンクの形状情報が入力されると、ヒートシンクの熱分布情報を出力するように学習される。機械学習モデルMが出力する熱分布情報は、推定データである。機械学習部22は、機械学習モデルMが出力する熱分布情報(推定データ)が、訓練データ22aの目的変数である熱分布情報(正解データ)に近づくように、機械学習モデルMを学習させる。
【0032】
具体的に、機械学習部22は、損失関数fに従った機械学習を実行する。本実施形態では、損失関数fは、ヒートシンクの複数の位置Yの温度関係を制約する式を含む。損失関数fは、例えば以下の式によって表される。
【0033】
【0034】
上記の式(2)の右辺第1項のLは、説明変数と目的変数との差を表す一般的な損失関数である。右辺第2項のλPHYLPHYは、ヒートシンクの複数の位置Yの温度関係を制約する式を構成する。具体的に、λPHYは、定数であり、LPHYは、ヒートシンク4の複数の位置Yの温度関係を制約する物理ベース損失関数である。
【0035】
物理ベース損失関数L
PHYは、ヒートシンクにおける熱分布を物理法則に即して記述する式であり、より具体的には、ヒートシンク4の熱抵抗と包絡体積の関係式である。例えば、物理ベース損失関数L
PHYは、ヒートシンクにおける熱源(例えば
図2のCPU6等)からの距離が異なる複数の位置Yの温度の大小関係に応じた値を返す。
【0036】
具体的に、ヒートシンクにおける複数の位置Yのうち、第1の位置Ya、及び、第1の位置Yaよりも熱源に近い第2の位置Ybを例に挙げて説明する。物理法則に従えば、位置Yaの温度は、位置Ybの温度よりも低くなる。
【0037】
物理ベース損失関数LPHYは、位置Yaの温度が位置Ybの温度よりも低い場合には、位置Yaの温度が位置Ybの温度よりも高い場合よりも、小さい値を返す。位置Yaの温度及び位置Ybの温度の大小関係が物理法則に即しているので、物理ベース損失関数LPHYが小さくなる。
【0038】
一方で、物理ベース損失関数LPHYは、位置Yaの温度が位置Ybの温度よりも高い場合には、位置Yaの温度が位置Ybの温度よりも低い場合よりも、大きい値を返す。位置Yaの温度及び位置Ybの温度の大小関係が物理法則に即しておらず、物理ベース損失関数LPHYが大きくなる。
【0039】
上述のような物理ベース損失関数LPHYは、例えば、位置Yaの温度と位置Ybの温度との差を引数とするReLU関数含む。そのような物理ベース損失関数LPHYの一例を以下に示す。
【0040】
【0041】
上記の式(3)のハット付きYaは、位置Yaの温度を示す。ハット付きYbは、位置Ybの温度を示す。物理ベース損失関数LPHYは、ハット付きYaがハット付きYbよりも大きい場合には、その差の大きさに応じた値を返す。物理ベース損失関数LPHYは、ハット付きYaがハット付きYbよりも小さい場合には、ゼロを返す。
【0042】
機械学習部22は、損失関数fを最小化するような最適化関数を求め、その最適化関数に従って、機械学習モデルMのニューラルネットワークNNのパラメータを更新等(フィッティング)する。
【0043】
機械学習モデルMは、物理ベース損失関数LPHYを含む損失関数fを最小化するように訓練される。このように訓練された機械学習モデルMは、従来の機械学習モデルと同様に高速な熱解析が行えるだけでなく、物理法則に即した高精度な熱解析を行えるモデルとして機能する。この機械学習モデルMをヒートシンク4の熱解析に用いることで、高速且つ高精度な解析が可能になる。所望の放熱特性を得ることが可能な、より具体的には例えばCPU6等のデバイスを閾値温度以下に管理することが可能な、ベース41やフィン42の適切な寸法等を導出(設計等)できるようになる。ヒートシンク4の形状情報にフィン間隔が含まれる場合には、適切なフィン間隔も導出できるようになる。
【0044】
図5は、解析部21による熱解析方法を模式的に示す図である。解析部21には、設計対象であるヒートシンク4の形状情報を含む入力情報21aが入力され、これにより、解析部21は、ヒートシンク4の形状情報を取得する。解析部21は、先に
図4を参照して説明した機械学習部22と同様に、ヒートシンクの物理モデルを用いて、フィン間隔も、ヒートシンク4の形状情報として取得してもよい。解析部21は、機械学習モデルMに、ヒートシンク4の形状情報を入力する。
【0045】
機械学習モデルMは、ヒートシンク4の形状情報が入力されたことに応じて、ヒートシンク4の熱分布情報を出力する。解析部21は、機械学習モデルMの出力結果に基づき、ヒートシンク4の熱分布情報を取得する。解析部21は、取得したヒートシンク4の熱分布情報を、出力情報21bとして出力する。
【0046】
例えば以上のようにして、設計対象であるヒートシンク4の熱解析を行うことができる。機械学習モデルMを用いることにより、高速且つ高精度なヒートシンク4の熱解析が可能になる。
【0047】
図6は、ハードウェア構成例を説明する図である。熱解析装置1は、通信装置1a、表示装置1b、HDD(Hard Disk Drive)1c、メモリ1d、プロセッサ1eを有するコンピュータによって実現される。通信装置1a、表示装置1b、HDD1c、メモリ1d及びプロセッサ1eは、バス等で相互に接続される。
【0048】
通信装置1aは、ネットワークインタフェースカードなどであり、他のサーバとの通信を行う。表示装置1bは、是正結果などを表示する装置であり、例えばタッチパネルやディスプレイなどである。HDD1cは、
図1に示した機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。プログラムは、制御部2による制御を実行する制御プログラムであり、より具体的には解析部21による熱解析を実行する熱解析プログラム、機械学習部22による機械学習モデルMの機械学習を実行する機械学習プログラム等である。
【0049】
プロセッサ1eは、プログラムをHDD1c等から読み出してメモリ1dに展開することで、
図1等で説明した各機能を実行するプロセスを動作させる。例えば、このプロセスは、熱解析装置1が有する制御部2と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ1eは、プログラムをHDD1c等から読み出す。そして、プロセッサ1eは、制御部2等と同様の処理を実行するプロセスを実行する。
【0050】
このように、熱解析装置1は、プログラムを読み出して実行することで、ヒートシンク4の熱解析を行う。また、熱解析装置1は、媒体読取装置によって記録媒体からプログラムを読み出し、読み出されたプログラムを実行することで上記した実施例と同様の機能を実現することもできる。なお、プログラムは、熱解析装置1によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータまたはサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0051】
このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することができる。
【0052】
以上説明した技術は、例えば次のように説明される。開示される技術の一つは、機械学習プログラムである。
図1~
図4及び
図6等を参照して説明したように、機械学習プログラムは、説明変数であるヒートシンクの形状情報と目的変数である当該ヒートシンクの熱分布情報とを含む訓練データ22aを取得し、訓練データ22aに基づいて、機械学習モデルMの、ヒートシンクの複数の位置Yの温度関係を制約する式を含む損失関数fに従った機械学習を実行する、処理をコンピュータに実行させる。
【0053】
上記の機械学習プログラムによれば、機械学習モデルMの、ヒートシンクの複数の位置Yの温度関係を制約する式を含む損失関数fに従った機械学習が実行される。このように学習された機械学習モデルMは、従来の機械学習モデルと同様に高速な熱解析が行えるだけでなく、物理法則に即した高精度な熱解析を行えるモデルとして機能する。従って、高速且つ高精度にヒートシンクの熱解析を行うことができるようになる。
【0054】
取得する処理は、ヒートシンクの形状情報を用いて算出されたヒートシンクのフィン間隔を説明変数にさらに含む訓練データ22aを取得し、実行する処理は、ヒートシンクの形状情報およびフィン間隔を説明変数、ヒートシンクの熱分布情報を目的変数に含む訓練データ22aに基づいて、機械学習を実行してよい。例えばこのような説明変数を用いることで、所望の放熱特性を得ることが可能な、ヒートシンクの適切な形状のみならずフィン間隔までも導出できるようになる。
【0055】
制約する式は、ヒートシンクにおける熱分布を物理法則に即して記述する関数である物理ベース損失関数LPHYであってよい。物理ベース損失関数LPHYは、ヒートシンクの熱抵抗と包絡体積の関係式であってよい。より具体的には、物理ベース損失関数LPHYは、ヒートシンクにおいて熱源(例えばCPU6)からの距離が異なる複数の位置Yの温度の大小関係に応じた値を返してよい。複数の位置Yは、第1の位置Yaと、第1の位置Yaよりも熱源に近い第2の位置Ybと、を含み、物理ベース損失関数LPHYは、第1の位置Yaの温度が第2の位置Ybの温度よりも低い場合には、第1の位置Yaの温度が第2の位置Ybの温度よりも高い場合よりも、小さい値を返してよい。物理ベース損失関数LPHYは、第1の位置Yaの温度と第2の位置Ybの温度との差を引数とするReLU関数を含んでよい。例えばこのような物理ベース損失関数LPHYを含む損失関数fを用いることで、物理法則に即した熱解析結果を得ることのできる機械学習モデルMが得られる。
【0056】
図1~
図4及び
図6等を参照して説明した機械学習方法も、開示される技術の一つである。機械学習方法では、説明変数であるヒートシンクの形状情報と目的変数であるヒートシンクの熱分布情報とを含む訓練データ22aを取得し、訓練データ22aに基づいて、機械学習モデルMの、ヒートシンクの複数の位置の温度関係を制約する式を含む損失関数fに従った機械学習を実行する、処理をコンピュータが実行する。このような機械学習方法によっても、高速且つ高精度にヒートシンクの熱解析を行うことができるようになる。
【0057】
図1~
図3及び
図5等を参照して説明した熱解析装置1も、開示される技術の一つである。熱解析装置1は、説明変数であるヒートシンクの形状情報と目的変数であるヒートシンクの熱分布情報とを含む訓練データ22aを用いてヒートシンクの複数の位置の温度関係を制約する式を含む損失関数fに従った機械学習により生成された機械学習モデルMに、設計対象であるヒートシンク4の形状情報を入力し、ヒートシンク4の形状情報の入力に応じて機械学習モデルMが出力する出力結果に基づき、設計対象であるヒートシンク4の熱分布情報を取得する、制御部2を有する。このような熱解析装置1によれば、高速且つ高精度にヒートシンクの熱解析を行うことができる。
【0058】
以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0059】
(付記1)説明変数であるヒートシンクの形状情報と目的変数である前記ヒートシンクの熱分布情報とを含む訓練データを取得し、
前記訓練データに基づいて、機械学習モデルの、ヒートシンクの複数の位置の温度関係を制約する式を含む損失関数に従った機械学習を実行する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする機械学習プログラム。
【0060】
(付記2)前記取得する処理は、
前記ヒートシンクの形状情報を用いて算出された前記ヒートシンクのフィン間隔を前記説明変数にさらに含む前記訓練データを取得し、
前記実行する処理は、
前記ヒートシンクの形状情報および前記フィン間隔を説明変数、前記ヒートシンクの熱分布情報を前記目的変数に含む前記訓練データに基づいて、前記機械学習を実行する、
ことを特徴とする付記1に記載の機械学習プログラム。
【0061】
(付記3)前記制約する式は、ヒートシンクにおける熱分布を物理法則に即して記述する関数である物理ベース損失関数である、
ことを特徴とする付記1又は2に記載の機械学習プログラム。
【0062】
(付記4)前記物理ベース損失関数は、ヒートシンクの熱抵抗と包絡体積の関係式である、
ことを特徴とする付記3に記載の機械学習プログラム。
【0063】
(付記5)前記物理ベース損失関数は、ヒートシンクにおいて熱源からの距離が異なる複数の位置の温度の大小関係に応じた値を返す、
ことを特徴とする付記3又は4に記載の機械学習プログラム。
【0064】
(付記6)前記複数の位置は、
第1の位置と、
前記第1の位置よりも前記熱源に近い第2の位置と、
を含み、
前記物理ベース損失関数は、前記第1の位置の温度が前記第2の位置の温度よりも低い場合には、前記第1の位置の温度が前記第2の位置の温度よりも高い場合よりも、小さい値を返す、
ことを特徴とする付記5に記載の機械学習プログラム。
【0065】
(付記7)前記物理ベース損失関数は、前記第1の位置の温度と前記第2の位置の温度との差を引数とするReLU関数を含む、
ことを特徴とする付記6に記載の機械学習プログラム。
【0066】
(付記8)説明変数であるヒートシンクの形状情報と目的変数である前記ヒートシンクの熱分布情報とを含む訓練データを取得し、
前記訓練データに基づいて、機械学習モデルの、ヒートシンクの複数の位置の温度関係を制約する式を含む損失関数に従った機械学習を実行する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする機械学習方法。
【0067】
(付記9)前記取得する処理は、
前記ヒートシンクの形状情報を用いて算出された前記ヒートシンクのフィン間隔を前記説明変数にさらに含む前記訓練データを取得し、
前記実行する処理は、
前記ヒートシンクの形状情報および前記フィン間隔を説明変数、前記ヒートシンクの熱分布情報を前記目的変数に含む前記訓練データに基づいて、前記機械学習を実行する、
ことを特徴とする付記8に記載の機械学習方法。
【0068】
(付記10)前記制約する式は、ヒートシンクにおける熱分布を物理法則に即して記述する関数である物理ベース損失関数である、
ことを特徴とする付記8又は9に記載の機械学習方法。
【0069】
(付記11)前記物理ベース損失関数は、ヒートシンクの熱抵抗と包絡体積の関係式である、
ことを特徴とする付記10に記載の機械学習方法。
【0070】
(付記12)前記物理ベース損失関数は、ヒートシンクにおいて熱源からの距離が異なる複数の位置の温度の大小関係に応じた値を返す、
ことを特徴とする付記10又は11に記載の機械学習方法。
【0071】
(付記13)前記複数の位置は、
第1の位置と、
前記第1の位置よりも前記熱源に近い第2の位置と、
を含み、
前記物理ベース損失関数は、前記第1の位置の温度が前記第2の位置の温度よりも低い場合には、前記第1の位置の温度が前記第2の位置の温度よりも高い場合よりも、小さい値を返す、
ことを特徴とする付記12に記載の機械学習方法。
【0072】
(付記14)前記物理ベース損失関数は、前記第1の位置の温度と前記第2の位置の温度との差を引数とするReLU関数を含む、
ことを特徴とする付記13に記載の機械学習方法。
【0073】
(付記15)説明変数であるヒートシンクの形状情報と目的変数である前記ヒートシンクの熱分布情報とを含む訓練データを用いてヒートシンクの複数の位置の温度関係を制約する式を含む損失関数に従った機械学習により生成された機械学習モデルに、設計対象であるヒートシンクの形状情報を入力し、
前記ヒートシンクの形状情報の入力に応じて前記機械学習モデルが出力する出力結果に基づき、前記設計対象であるヒートシンクの熱分布情報を取得する、
制御部を有することを特徴とする熱解析装置。
【0074】
(付記16)前記制御部は、
前記ヒートシンクの形状情報を用いて算出された前記ヒートシンクのフィン間隔を取得し、
前記機械学習モデルに、前記ヒートシンクの形状情報および前記フィン間隔を入力する、
ことを特徴とする付記15に記載の熱解析装置。
【0075】
(付記17)前記制約する式は、ヒートシンクにおける熱分布を物理法則に即して記述する関数である物理ベース損失関数である、
ことを特徴とする付記15又は16に記載の熱解析装置。
【0076】
(付記18)前記物理ベース損失関数は、ヒートシンクの熱抵抗と包絡体積の関係式である、
ことを特徴とする付記17に記載の熱解析装置。
【0077】
(付記19)前記物理ベース損失関数は、ヒートシンクにおいて熱源からの距離が異なる複数の位置の温度の大小関係に応じた値を返す、
ことを特徴とする付記17又は18に記載の熱解析装置。
【0078】
(付記20)前記複数の位置は、
第1の位置と、
前記第1の位置よりも前記熱源に近い第2の位置と、
を含み、
前記物理ベース損失関数は、前記第1の位置の温度が前記第2の位置の温度よりも低い場合には、前記第1の位置の温度が前記第2の位置の温度よりも高い場合よりも、小さい値を返す、
ことを特徴とする付記19に記載の熱解析装置。
【0079】
(付記21)前記物理ベース損失関数は、前記第1の位置の温度と前記第2の位置の温度との差を引数とするReLU関数を含む、
ことを特徴とする付記20に記載の熱解析装置。
【符号の説明】
【0080】
1 熱解析装置
1a 通信装置
1b 表示装置
1c HDD
1d メモリ
1e プロセッサ
2 制御部
21 解析部
21a 入力情報
21b 出力情報
22 機械学習部
22a 訓練データ
3 記憶部
4 ヒートシンク
41 ベース
42 フィン
5 熱伝導材
6 CPU
7 リード
8 基板
M 機械学習モデル
NN ニューラルネットワーク