(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156914
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】新規リパーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/55 20060101AFI20231018BHJP
C11D 3/386 20060101ALI20231018BHJP
C11D 17/06 20060101ALI20231018BHJP
C11D 17/08 20060101ALI20231018BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231018BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20231018BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231018BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231018BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231018BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231018BHJP
C12N 9/20 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C12N15/55
C11D3/386 ZNA
C11D17/06
C11D17/08
C12N15/63 Z
C12N15/31
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066572
(22)【出願日】2022-04-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日置 貴大
(72)【発明者】
【氏名】寺井 三佳
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰人
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4H003
【Fターム(参考)】
4B050CC01
4B050CC03
4B050DD02
4B050LL04
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA57
4H003BA09
4H003BA12
4H003DA01
4H003DA17
4H003DC01
4H003EC01
(57)【要約】
【課題】界面活性剤による活性阻害が緩和され、高い洗浄効果を示すリパーゼの提供。
【解決手段】配列番号14で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号14で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼ。
【請求項2】
請求項1に記載のリパーゼをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
【請求項4】
請求項3に記載のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
【請求項5】
微生物である、請求項4に記載の形質転換細胞。
【請求項6】
請求項1に記載のリパーゼを含有する洗浄剤組成物。
【請求項7】
衣料洗浄剤又は食器洗浄剤である、請求項6に記載の洗浄剤組成物。
【請求項8】
粉末又は液体である、請求項7に記載の洗浄剤組成物。
【請求項9】
低温で使用される、請求項7又は8に記載の洗浄剤組成物。
【請求項10】
5~40℃の温度で使用される、請求項9に記載の洗浄剤組成物。
【請求項11】
請求項6~10のいずれか1項に記載の洗浄剤組成物を用いる、汚れの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規リパーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
リパーゼは、洗濯洗剤、食器用洗剤、油脂加工、パルプ処理、飼料、医薬中間体合成など様々な用途において有用である。洗浄においては、リパーゼはトリグリセリドを加水分解して脂肪酸を生成することによって油を含む汚れの除去に寄与する。
【0003】
現行の洗浄組成物や洗浄環境は、リパーゼの活性や洗浄効果を阻害する様々な成分を含んでおり、そのような条件下で機能するリパーゼが求められている。洗浄に有用なリパーゼとして、Thermomyces lanuginosus由来のリパーゼ(以下TLL)がLIPOLASE(登録商標)の商品名で販売されている。特許文献1にはCedecea sp-16640株由来のリパーゼLipr139がTLLと比較して優れた洗浄性能を有することが開示されている。特許文献2には、1つ又は複数の参照脂肪分解酵素と比較した場合に改善された洗浄性能を有するProteus属細菌由来リパーゼ(以下PvLip)の変異体が開示されている。特許文献3にはメタゲノム由来のリパーゼLipr138がTLLと比較して優れた洗浄性能を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2015-523078号公報
【特許文献2】国際公開第2020/046613号
【特許文献3】特表2015-525248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リパーゼは洗浄組成物中に含まれる界面活性剤によってその活性が阻害されることが知られている。実際に本発明者らが検証した限り、洗浄への適性が開示されている公知のリパーゼは、TLL、Lipr139及びPvLipのいずれもが界面活性剤の共存によって大きな活性阻害を受けた。界面活性剤による活性阻害は洗浄用リパーゼ共通の大きな課題である。また、リパーゼは洗浄用途に限らずパルプ処理などの産業用途においても界面活性剤と共に使用されることが多く、界面活性剤による活性阻害は産業用リパーゼ全体の課題でもある。界面活性剤による活性阻害が緩和され、高い洗浄効果を示すリパーゼが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる課題に鑑み鋭意検討した結果、界面活性剤による活性阻害に対して顕著に高い耐性を有し、劇的な洗浄効果を示す新規リパーゼKAL-A8を見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記1)~6)に係るものである。
1)配列番号14で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼ。
2)1)に記載のリパーゼをコードするポリヌクレオチド。
3)2)のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
4)3)のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
5)1)に記載のリパーゼを含有する洗浄剤組成物。
6)5)に記載の洗浄剤組成物を用いる、汚れの洗浄方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリパーゼは、界面活性剤による活性阻害に対して顕著に高い耐性を有し、界面活性剤存在下でも優れた洗浄効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】各リパーゼの界面活性剤溶液中でのリパーゼ活性。
【
図2】各リパーゼの界面活性剤を含むモデル洗浄液中でのリパーゼ活性。
【
図3】各リパーゼの界面活性剤を含むモデル洗浄液中での洗浄力。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0011】
本明細書において、「リパーゼ」とは、トリアシルグリセロールリパーゼ(EC3.1.1.3)を指し、トリグリセリドを加水分解して脂肪酸を生成する活性を有する酵素群を意味する。リパーゼ活性は、オクタン酸4-ニトロフェニルの加水分解による4-ニトロフェノールの遊離に伴う吸光度の増加速度を測定することによって決定することができる。リパーゼ活性の測定の具体的手順は、後述の実施例に詳述されている。
【0012】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYX Ver.12のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0013】
本明細書において、プロモーターなどの制御領域と遺伝子の「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
【0014】
本明細書において、遺伝子に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の上流及び下流をいう。例えば、「プロモーターの下流に配置された遺伝子」とは、DNAセンス鎖においてプロモーターの3’側に該遺伝子が存在することを意味し、遺伝子の上流とは、DNAセンス鎖における該遺伝子の5’側の領域を意味する。
【0015】
<1.リパーゼ>
本発明のリパーゼは、配列番号14で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼである。本発明のリパーゼは、界面活性剤によるリパーゼ活性阻害に対して顕著に高い耐性を有し、界面活性剤存在下であっても顕著に高い洗浄力を示す。
【0016】
配列番号14で示されるアミノ酸配列と少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼとしては、配列番号14で示されるアミノ酸配列と少なくとも91%の同一性、具体的には、91%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼが挙げられる。
少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列には、1又は複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が含まれる。「1又は複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、1個以上30個以下、好ましくは20個以下、より好ましくは10個以下、さらに好ましくは5個以下のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0017】
配列番号14で示されるアミノ酸配列と少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼは、例えば、配列番号14で示されるアミノ酸配列からなるリパーゼの人工的に作製された変異体が挙げられる。当該変異体は、例えば、配列番号14で示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子に対して紫外線照射や部位特異的変異導入(Site-Directed Mutagenesis)のような公知の突然変異導入法により突然変異を導入し、当該突然変異を有する遺伝子を発現させ、所望のリパーゼ活性を有するタンパク質を選択することによって、作製することができる。このような変異体作製の手順は、当業者に周知である。
【0018】
本発明のリパーゼは、従来単離又は精製されているリパーゼ及びNCBIタンパク質配列データベースにおいてトリアシルグリセロールリパーゼとして推定されたタンパク質とは異なるアミノ酸配列を有する。従来単離又は精製されているリパーゼとしては、例えば、Thermomyces lanuginosus由来のリパーゼTLL(配列番号18)、前記特許文献1において洗浄に好適なリパーゼとして開示されているCedecea sp.-16640株由来のリパーゼLipr139(配列番号2)、前記特許文献2において洗浄に好適なリパーゼ変異体群の親酵素として開示されているProteus属細菌由来リパーゼ(以下、PvLipと称する、配列番号4)、前記特許文献3において洗浄に好適なリパーゼとして開示されているメタゲノム由来のリパーゼLipr138(配列番号16)などが挙げられる。また、NCBIタンパク質配列データベースにおいてトリアシルグリセロールリパーゼとして推定されたタンパク質としては、アクセッション番号WP_123598507.1のタンパク質(以下、PfLipと称する、配列番号6)、アクセッション番号WP_115457195.1のタンパク質(以下、EtLipと称する、配列番号8)、アクセッション番号WP_135495634.1のタンパク質(以下、EspLipと称する、配列番号10)、アクセッション番号WP_005161363.1のタンパク質(以下、YeLipと称する、配列番号12)などが挙げられる。当該データベースに登録されているこれらのタンパク質について、その酵素学的性質はこれまでに報告されていない。配列番号14で示されるアミノ酸配列からなる本発明のリパーゼKAL-A8は、Lipr139、PvLip、PfLip、EtLip、EspLip及びYeLipとそれぞれ72%、60%、59%、68%、86%及び71%のアミノ酸配列同一性を示す。
【0019】
好ましい一実施形態において、本発明のリパーゼは、配列番号14で示されるアミノ酸配列からなるリパーゼである。
【0020】
<2.リパーゼの生産方法>
本発明のリパーゼは、例えば、上記本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドを発現させることにより生産することができる。好ましくは、本発明のリパーゼは、本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドを導入した形質転換体から生産することができる。例えば、本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチド、又はそれを含むベクターを宿主に導入して形質転換体を得た後、該形質転換体を適切な培地で培養すれば、該形質転換体に導入した本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドから本発明のリパーゼが生産される。生産されたリパーゼを該培養物から単離又は精製することにより、本発明のリパーゼを取得することができる。
【0021】
本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドは、配列番号14で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼをコードするポリヌクレオチドであり得る。また本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドは、一本鎖若しくは二本鎖DNA、RNA、又は人工核酸の形態であり得、あるいはcDNA、又はイントロンを含まない化学合成DNAであり得る。
【0022】
本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドは、該リパーゼのアミノ酸配列に基づいて、化学的又は遺伝子工学的に合成することができる。例えば、該ポリヌクレオチドは、上述した本発明のリパーゼのアミノ酸配列に基づいて、化学的に合成することができる。ポリヌクレオチドの化学合成には、核酸合成受託サービス(例えば、株式会社医学生物学研究所、Genscript社などより提供されている)を利用することができる。さらに、合成したポリヌクレオチドをPCR、クローニングなどにより増幅することもできる。
【0023】
またあるいは、本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドは、上記の手順で合成されたポリヌクレオチドに対して、上述した紫外線照射や部位特異的変異導入のような公知の突然変異導入法により突然変異を導入することによって、作製することができる。例えば、本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドは、配列番号13のポリヌクレオチドに公知の方法で突然変異導入し、得られたポリヌクレオチドを発現させてリパーゼ活性を調べ、所望のリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを選択することによって、得ることができる。
【0024】
ポリヌクレオチドへの部位特異的変異導入は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法など(村松ら編、「改訂第4版 新遺伝子工学ハンドブック」、羊土社、p.82-88)の任意の手法により行うことができる。必要に応じてStratagene社のQuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kitや、QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kitなどの各種の市販の部位特異的変異導入用キットを使用することもできる。
【0025】
本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドはベクターに組み込むことができる。当該ポリヌクレオチドを含有するベクターの種類としては、特に限定されず、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YACベクター、シャトルベクターなどの任意のベクターであってよい。また該ベクターは、限定ではないが、好ましくは、細菌内、好ましくはバチルス属細菌(例えば枯草菌又はその変異株)内で増幅可能なベクターであり、より好ましくは、バチルス属細菌内で導入遺伝子の発現を誘導可能な発現ベクターである。中でも、バチルス属細菌と他の生物のいずれでも複製可能なベクターであるシャトルベクターは、本発明のリパーゼを組換え生産する上で好適に用いることができる。好ましいベクターの例としては、限定するものではないが、pHA3040SP64、pHSP64R又はpASP64(特許第3492935号)、pHY300PLK(大腸菌と枯草菌の両方を形質転換可能な発現ベクター;Jpn J Genet,1985,60:235-243)、pAC3(Nucleic Acids Res,1988,16:8732)などのシャトルベクター;pUB110(J Bacteriol,1978,134:318-329)、pTA10607(Plasmid,1987,18:8-15)などのバチルス属細菌の形質転換に利用可能なプラスミドベクター、などが挙げられる。また大腸菌由来のプラスミドベクター(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC57、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescriptなど)を用いることもできる。
【0026】
上記ベクターは、DNAの複製開始領域又は複製起点を含むDNA領域を含み得る。あるいは、上記ベクターにおいては、本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチド(すなわち本発明のリパーゼ遺伝子)の上流に、該遺伝子の転写を開始させるためのプロモーター領域、ターミネーター領域、又は発現されたタンパク質を細胞外へ分泌させるための分泌シグナル領域などの制御配列が作動可能に連結されていてもよい。本明細書において、遺伝子と制御配列が「作動可能に連結されている」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域による制御の下に発現し得るように配置されていることをいう。
【0027】
上記プロモーター領域、ターミネーター領域、分泌シグナル領域などの制御配列の種類は、特に限定されず、導入する宿主に応じて、通常使用されるプロモーターや分泌シグナル配列を適宜選択して用いることができる。例えば、ベクターに組み込むことができる制御配列の好適な例としては、Bacllus sp.KSM-S237株のセルラーゼ遺伝子のプロモーター、分泌シグナル配列などが挙げられる。
【0028】
あるいは、上記本発明のベクターには、該ベクターが適切に導入された宿主を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤の耐性遺伝子)がさらに組み込まれていてもよい。あるいは、宿主に栄養要求性株を使用する場合、要求される栄養の合成酵素をコードする遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。またあるいは、生育のために特定の代謝を必須とする選択培地を用いる場合、該代謝の関連遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。このような代謝関連遺伝子の例としては、アセトアミドを窒素源として利用するためのアセトアミダーゼ遺伝子が挙げられる。
【0029】
上記本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドと、制御配列及びマーカー遺伝子との連結は、SOE(splicing by overlap extension)-PCR法(Gene,1989,77:61-68)などの当該分野で公知の方法によって行うことができる。連結した断片のベクターへの導入手順は、当該分野で周知である。
【0030】
本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主へ導入するか、又は本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドを含むDNA断片を宿主のゲノムに導入することにより、本発明の形質転換細胞を得ることができる。
【0031】
宿主細胞としては、細菌、糸状菌などの微生物が挙げられる。細菌の例としては、大腸菌(Escherichia coli)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、リステリア属(Listeria)、バチルス属(Bacillus)に属する細菌などが挙げられ、このうち、大腸菌及びバチルス属細菌(例えば、枯草菌Bacillus subtilis Marburg No.168(枯草菌168株)又はその変異株)が好ましい。枯草菌変異株の例としては、J.Biosci.Bioeng.,2007,104(2):135-143に記載のプロテアーゼ9重欠損株KA8AX、ならびにBiotechnol.Lett.,2011,33(9):1847-1852に記載の、プロテアーゼ8重欠損株にタンパク質のフォールディング効率を向上させたD8PA株を挙げることができる。糸状菌の例としては、トリコデルマ属(Trichoderma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、リゾプス属(Rizhopus)などが挙げられる。
【0032】
宿主へのベクターの導入の方法としては、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法などの当該分野で通常使用される方法を用いることができる。導入が適切に行われた株をマーカー遺伝子の発現、栄養要求性などを指標に選択することで、ベクターが導入された目的の形質転換体を得ることができる。
【0033】
あるいは、本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチド、制御配列及びマーカー遺伝子を連結した断片を、宿主のゲノムに直接導入することもできる。例えば、SOE-PCR法などにより、上記連結断片の両端に宿主のゲノムと相補的な配列を付加したDNA断片を構築し、これを宿主に導入して、宿主ゲノムと該DNA断片との間に相同組換えを起こさせることによって、本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチドが宿主のゲノムに導入される。
【0034】
斯くして得られた、本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチド又はそれを含むベクターが導入された形質転換体を適切な培地で培養すれば、該ベクター上のタンパク質をコードする遺伝子が発現して本発明のリパーゼが生成される。当該形質転換体の培養に使用する培地は、当該形質転換体の微生物の種類にあわせて、当業者が適宜選択することができる。
【0035】
あるいは、本発明のリパーゼは、無細胞翻訳系を使用して本発明のリパーゼをコードするポリヌクレオチド又はその転写産物から発現させてもよい。「無細胞翻訳系」とは、宿主となる細胞を機械的に破壊して得た懸濁液にタンパク質の翻訳に必要なアミノ酸などの試薬を加えて、in vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。
【0036】
上記培養物又は無細胞翻訳系にて生成された本発明のリパーゼは、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどを単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、単離又は精製することができる。培養物から回収されたタンパク質は、公知の手段でさらに精製されてもよい。
【0037】
<3.洗浄剤組成物>
斯くして得られる本発明のリパーゼは、公知のタンパク質に比して、界面活性剤によるリパーゼ活性阻害に対して顕著に高い耐性を有し、界面活性剤存在下であっても顕著に高い洗浄力を示す。
ここで、「高い耐性」とは、公知のタンパク質、具体的には配列番号2、4、6、8、10もしくは12で示されるアミノ酸配列からなるリパーゼ又はNCBIタンパク質配列データベースでリパーゼと推定されたタンパク質に比して高い耐性を意味する。界面活性剤によるリパーゼ活性阻害に対する耐性は、当該技術分野において周知の方法を用いて評価され得る。例えば、リパーゼ溶液と界面活性剤溶液を混合し、該混合液にリパーゼの基質となるオクタン酸4-ニトロフェニル溶液を添加し、4-ニトロフェノールの遊離に伴う405nmの吸光度変化(OD/min)を測定し、ブランクとの差分ΔOD/minをリパーゼ活性値(界面活性剤溶液中のリパーゼ活性値)として求める。さらに、界面活性剤溶液にかえてバッファーを用いた際のリパーゼ活性値(バッファー中のリパーゼ活性値)を求め、界面活性剤溶液中のリパーゼ活性値をバッファー中のリパーゼ活性値で割って100を掛けた値を相対活性(%)として求める。相対活性(%)が高い程、界面活性剤によるリパーゼ活性阻害に対する耐性が高いと判断できる。
本発明のリパーゼは、後記実施例の(3)の条件下、SDS溶液(0.1%(w/v))中のリパーゼ相対活性(%)が好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上のリパーゼである。
本発明のリパーゼは、後記実施例の(3)の条件下、Triton X-100溶液(0.1%(w/v))中のリパーゼ相対活性(%)が好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上のリパーゼである。
また、「高い洗浄力」とは、公知のタンパク質、具体的には配列番号2、4、6、8、10若しくは12で示されるアミノ酸配列からなるリパーゼ又はNCBIタンパク質配列データベースでリパーゼと推定されたタンパク質に比して高い洗浄力、例えば、汚れの除去を洗濯又は洗浄工程においてもたらす能力を意味する。洗浄力は、当該技術分野において周知の方法を用いて評価され得る。例えば、所定の指標物質(例えば、スダンIIIなどの脂肪に対する溶解性の高い染色剤)を含むモデル汚れにリパーゼを含む洗浄液を添加して所定の条件で洗浄処理する。洗浄液の一部を分取し、洗浄処理により洗浄液に可溶化したモデル汚れ中の指標物質の濃度を、例えば吸光度測定により測定し、ブランクとの差分を洗浄力として求めることができる。
【0038】
本発明のリパーゼは、各種洗浄剤組成物配合用酵素として有用であり、特に低温洗浄に適した洗浄剤組成物配合用酵素として有用である。
ここで、「低温」としては、40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下が挙げられ、また5℃以上、10℃以上、15℃以上が挙げられる。また、5~40℃、10~35℃、15~30℃、15~25℃が挙げられる。
【0039】
洗浄剤組成物中への本発明のリパーゼの配合量は、当該リパーゼが活性を示す量であれば特に制限されないが、例えば、洗浄剤組成物1kg当たり好ましくは0.1mg以上、より好ましくは1mg以上、より好ましくは5mg以上であり、且つ好ましくは5000mg以下、より好ましくは1000mg以下、より好ましくは500mg以下である。また0.1~5000mgであるのが好ましく、1~1000mgであるのがより好ましく、5~500mgであるのがより好ましい。
【0040】
洗浄剤組成物は、好ましくは、本発明のリパーゼに加えて、スルホコハク酸エステル又はその塩を含む。スルホコハク酸エステル又はその塩は、洗浄剤組成物に配合される成分として知られている(例えば、特開2019-182911号公報)。スルホコハク酸エステル又はその塩は、炭素数9以上12以下の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩が好ましく、炭素数9又は10の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩がより好ましく、炭素数10の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩がさらに好ましい。また、スルホコハク酸エステル又はその塩は、スルホコハク酸ジ分岐鎖アルキルエステル又はその塩であって、2つの分岐鎖アルキル基がそれぞれ炭素数9以上12以下の分岐鎖アルキル基であるスルホコハク酸ジ分岐アルキルエステル又はその塩が好ましく、2つの分岐鎖アルキル基がそれぞれ炭素数9又は10の分岐鎖アルキル基であるスルホコハク酸ジ分岐アルキルエステル又はその塩がより好ましく、2つの分岐鎖アルキル基がそれぞれ炭素10の分岐鎖アルキル基であるスルホコハク酸ジ分岐アルキルエステル又はその塩がさらに好ましく、ビス-(2-プロピルヘプチル)スルホコハク酸又はその塩がさらに好ましい。
【0041】
塩としては、例えばアルカリ金属塩、アルカノールアミン塩などが挙げられ、アルカリ金属塩又はアルカノールアミン塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、及びモノエタノールアミン塩から選ばれる塩がより好ましく、ナトリウム塩がさらに好ましい。
【0042】
スルホコハク酸エステル又はその塩としては、下記式1で表される化合物が挙げられる。
【0043】
【0044】
〔式1中、R1、R2は、それぞれ、炭素数9以上12以下の分岐鎖アルキル基であり、A1O、A2Oは、それぞれ、炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基であり、x1、x2は、平均付加モル数であり、それぞれ、0以上10以下の数であり、Mは陽イオンである。〕
【0045】
式1中、R1、R2は、それぞれ、分岐鎖ノニル基、分岐鎖デシル基及び分岐鎖ドデシル基から選ばれる分岐鎖アルキル基が好ましく、分岐鎖デシル基がより好ましい。分岐鎖デシル基は、2-プロピルヘプチル基が好ましい。
【0046】
式1中、A1O、A2Oは、それぞれ、炭素数2以上4以下、水に対する潤滑性の観点から好ましくは炭素数2又は3のアルキレンオキシ基である。式1中、x1、x2は、A1O、A2Oの平均付加モル数を表し、それぞれ、0以上10以下、水に対する潤滑性の観点から好ましくは6以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは2以下の数であり、0がさらに好ましい。
【0047】
式1中、Mは陽イオンである。Mは水素イオン以外の陽イオンが好ましい。Mとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン、カルシウムイオン、バリウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン、トリエタノールアンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオン、モノエタノールアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、モノメチルアンモニウムイオンなどの有機アンモニウムイオンなどが挙げられる。
Mは、水への分散性の観点から、アルカリ金属イオン、アルカノールアンモニウムイオンが好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオン、モノエタノールアンモニウムイオンがより好ましく、ナトリウムイオンがさらに好ましい。
【0048】
スルホコハク酸エステル又はその塩は、下記式1-1で表される化合物が好ましい。式1-1の化合物は、式1中のx1、x2がそれぞれ0の化合物である。
【0049】
【0050】
〔式1-1中、R1、R2は、それぞれ、炭素数9以上12以下の分岐鎖アルキル基であり、Mは陽イオンである。〕
式1-1中のR1、R2、Mの具体例や好ましい例は式1と同じである。
好ましい一実施形態において、スルホコハク酸エステル又はその塩は、ビス-(2-プロピルヘプチル)スルホコハク酸又はその塩である。
【0051】
洗浄剤組成物中へのスルホコハク酸エステル又はその塩の配合量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、且つ好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。また0.01~2.0質量%であるのが好ましく、0.1~1.0質量%であるのがさらに好ましい。
【0052】
洗浄剤組成物は、本発明のリパーゼ以外に様々な酵素を併用することもできる。例えば、加水分解酵素、酸化酵素、還元酵素、トランスフェラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼ、シンテターゼなどである。このうち、本発明のリパーゼとは異なるリパーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、ケラチナーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、プルラナーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、グルコシダーゼ、グルカナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼなどが好ましく、特にプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、リパーゼが好ましい。
プロテアーゼとしては市販のAlcalase、Esperase、Everlase、Savinase、Kannase、Progress Uno(登録商標;ノボザイムズ社)、PREFERENZ、EFFECTENZ、EXCELLENZ(登録商標;デュポン社)、Lavergy(登録商標;BASF社)、またKAP(花王)、などが挙げられる。
セルラーゼとしてはCelluclean、Carezyme(登録商標;ノボザイムズ社)、またKAC、特開平10-313859号公報記載のバチルス・エスピーKSM-S237株が生産するアルカリセルラーゼ、特開2003-313592の号公報記載の変異アルカリセルラーゼ(以上、花王)などが挙げられる。
アミラーゼとしてはTermamyl、Duramyl、Stainzyme、Stainzyme Plus、Amplify Prime(登録商標;ノボザイムズ社)、PREFERENZ、EFFECTENZ(登録商標;デュポン社)、またKAM(花王)、などが挙げられる。
リパーゼとしてはLipolase、Lipex(登録商標;ノボザイムズ社)などが挙げられる。
【0053】
洗浄剤組成物には公知の洗浄剤成分を配合することができ、当該公知の洗浄剤成分としては、例えば次のものが挙げられる。
【0054】
(1)界面活性剤
界面活性剤は洗浄剤組成物中0.5~60質量%配合され、特に粉末状洗浄剤組成物については10~45質量%、液体洗浄剤組成物については20~90質量%配合することが好ましい。また本発明の洗浄剤組成物がランドリー用衣料洗浄剤、自動食器洗浄機用洗浄剤である場合、界面活性剤は一般に1~10質量%、好ましくは1~5質量%配合される。
【0055】
洗浄剤組成物に用いられる界面活性剤としては、上記のスルホコハク酸エステル又はその塩以外の、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤の1種又は組み合わせを挙げることが出来るが、好ましくは陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤である。
【0056】
陰イオン性界面活性剤としては、炭素数10~18のアルコールの硫酸エステル塩、炭素数8~20のアルコールのアルコキシル化物の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、内部オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸塩、α-スルホ脂肪酸アルキルエステル塩又は脂肪酸塩が好ましい。本発明では特に、アルキル鎖の炭素数が10~14の、より好ましくは12~14の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキレン鎖の炭素数が12~20の、より好ましくは16~18の内部オレフィンスルホンから選ばれる一種以上の陰イオン性界面活性剤が好ましく、対イオンとしては、アルカリ金属塩やアミン類が好ましく、特にナトリウム及び/又はカリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンが好ましい。内部オレフィンスルホン酸は例えばWO2017/098637を参照することができる。
【0057】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8~20)エーテル、アルキルポリグリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8~20)フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸(炭素数8~22)エステル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸(炭素数8~22)エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーが好ましい。特に、非イオン性界面活性剤としては、炭素数10~18のアルコールにエチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドを4~20モル付加した〔HLB値(グリフィン法で算出)が10.5~15.0、好ましくは11.0~14.5であるような〕ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。
【0058】
(2)二価金属イオン捕捉剤
二価金属イオン捕捉剤は0.01~50質量%、好ましくは5~40質量%配合される。本発明洗浄剤組成物に用いられる二価金属イオン捕捉剤としては、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、オルソリン酸塩などの縮合リン酸塩、ゼオライトなどのアルミノケイ酸塩、合成層状結晶性ケイ酸塩、ニトリロ三酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、イソクエン酸塩、ポリアセタールカルボン酸塩などが挙げられる。このうち結晶性アルミノケイ酸塩(合成ゼオライト)が特に好ましく、A型、X型、P型ゼオライトのうち、A型が特に好ましい。合成ゼオライトは、平均一次粒径0.1~10μm、特に0.1~5μmのものが好適に使用される。
【0059】
(3)アルカリ剤
アルカリ剤は0.01~80質量%、好ましくは1~40質量%配合される。粉末洗剤の場合、デンス灰や軽灰と総称される炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、並びにJIS1号、2号、3号などの非晶質のアルカリ金属珪酸塩が挙げられる。これら無機性のアルカリ剤は洗剤乾燥時に、粒子の骨格形成において効果的であり、比較的硬く、流動性に優れた洗剤を得ることができる。これら以外のアルカリとしてはセスキ炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられ、またトリポリリン酸塩などのリン酸塩もアルカリ剤としての作用を有する。また、液体洗剤に使用されるアルカリ剤としては、上記アルカリ剤の他に水酸化ナトリウム、並びにモノ、ジ又はトリエタノールアミンを使用することができ、活性剤の対イオンとしても使用できる。
【0060】
(4)再汚染防止剤
再汚染防止剤は0.001~10質量%、好ましくは1~5質量%配合される。本発明洗浄剤組成物に用いられる再汚染防止剤としてはポリエチレングリコール、カルボン酸系ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。このうちカルボン酸系ポリマーは再汚染防止能の他、金属イオンを捕捉する機能、固体粒子汚れを衣料から洗濯浴中へ分散させる作用がある。カルボン酸系ポリマーはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などのホモポリマーないしコポリマーであり、コポリマーとしては上記モノマーとマレイン酸の共重合したものが好適であり、分子量が数千~10万のものが好ましい。上記カルボン酸系ポリマー以外に、ポリグリシジル酸塩などのポリマー、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、並びにポリアスパラギン酸などのアミノカルボン酸系のポリマーも金属イオン捕捉剤、分散剤及び再汚染防止能を有するので好ましい。
【0061】
(5)漂白剤
例えば過酸化水素、過炭酸塩などの漂白剤は1~10質量%配合するのが好ましい。漂白剤を使用するときは、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)や特開平6-316700号公報記載などの漂白活性化剤(アクチベーター)を0.01~10質量%配合することができる。
【0062】
(6)蛍光剤
洗浄剤組成物に用いられる蛍光剤としてはビフェニル型蛍光剤(例えばチノパールCBS-Xなど)やスチルベン型蛍光剤(例えばDM型蛍光染料など)が挙げられる。蛍光剤は0.001~2質量%配合するのが好ましい。
【0063】
(7)その他の成分
洗浄剤組成物には、衣料用洗剤の分野で公知のビルダー、柔軟化剤、還元剤(亜硫酸塩など)、抑泡剤(シリコーンなど)、香料、防菌防カビ剤(プロキセル[商品名]、安息香酸など)、その他の添加剤を含有させることができる。
【0064】
洗浄剤組成物は、上記方法で得られた本発明のリパーゼ及び上記公知の洗浄成分を組み合わせて常法に従い製造することができる。洗剤の形態は用途に応じて選択することができ、例えば液体、粉体、顆粒、ペースト、固形などにすることができる。
【0065】
斯くして得られる洗浄剤組成物は、衣料洗浄剤、食器洗浄剤、漂白剤、硬質表面洗浄用洗浄剤、排水管洗浄剤、義歯洗浄剤、医療器具用の殺菌洗浄剤などとして使用することができるが、好ましくは衣料洗浄剤、食器洗浄剤が挙げられ、より好ましくはランドリー用衣料洗浄剤(ランドリー用洗濯洗剤)、手洗いによる食器洗浄剤、自動食器洗浄機用洗浄剤が挙げられる。
また、当該洗浄剤組成物は、40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下で、且つ5℃以上、10℃以上、15℃以上での使用に適する。また、5~40℃、10~35℃、15~30℃、15~25℃での使用に適する。好ましい使用態様としては、ランドリーでの低温(15~30℃)洗浄における使用、自動食器洗浄機による低温(15~30℃)洗浄における使用が挙げられる。
【0066】
本発明の洗浄剤組成物を用いることで、汚れの除去を必要とする被洗浄物(例えば、衣類、食器、硬質表面、排水管、義歯、医療器具など)を洗浄すること、すなわち汚れを除去することができる。斯かる洗浄方法は、汚れの除去を必要とする被洗浄物と本発明の洗浄剤組成物とを接触させることを含む。好ましくは、汚れとは、皮脂汚れ又は食品由来の油脂を含有する汚れである。
【0067】
本発明の洗浄方法において、被洗浄物と洗浄剤組成物とを接触させるには、該洗浄剤組成物を溶かした水に、該被洗浄物を漬け置きしてもよく、また該洗浄剤組成物を、該被洗浄物に直接塗布してもよい。本発明の方法においては、該漬け置き又は洗剤組成物の塗布後の被洗浄物をさらに手洗い、洗濯機などで洗ってもよいが、必ずしもその必要はない。
【0068】
上述した実施形態に関し、本発明においては更に以下の態様が開示される。
<1>配列番号14で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼ。
<2>配列番号14で示されるアミノ酸配列からなる、<1>に記載のリパーゼ。
<3><1>又は<2>に記載のリパーゼをコードするポリヌクレオチド。
<4><3>に記載のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
<5><4>に記載のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
<6>微生物である、<5>に記載の形質転換細胞。
<7>大腸菌又はバチルス属細菌である、<5>又は<6>に記載の形質転換細胞。
【0069】
<8><1>又は<2>に記載のリパーゼを含有する洗浄剤組成物。
<9>スルホコハク酸エステル又はその塩、好ましくは炭素数9以上12以下の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩、より好ましくは炭素数9又は10の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩、さらに好ましくは炭素数10の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩をさらに含有する、<8>に記載の洗浄剤組成物。
<10>スルホコハク酸ジエステル又はその塩、好ましくは2つの分岐鎖アルキル基がそれぞれ炭素数9以上12以下の分岐鎖アルキル基であるスルホコハク酸ジ分岐アルキルエステル又はその塩、より好ましくは2つの分岐鎖アルキル基がそれぞれ炭素数9又は10の分岐鎖アルキル基であるスルホコハク酸ジ分岐アルキルエステル又はその塩、さらにこのましくは2つの分岐鎖アルキル基がそれぞれ炭素10の分岐鎖アルキル基であるスルホコハク酸ジ分岐アルキルエステル又はその塩、さらに好ましくはビス-(2-プロピルヘプチル)スルホコハク酸又はその塩をさらに含有する、<8>に記載の洗浄剤組成物。
<11>衣料洗浄剤又は食器洗浄剤である、<8>~<10>のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
<12>粉末又は液体である、<8>~<11>のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
<13>低温で使用される、<8>~<12>のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
<14>40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下で、且つ5℃以上、10℃以上、15℃以上で使用されるか、又は5~40℃、10~35℃、15~30℃、15~25℃で使用される、<13>に記載の洗浄剤組成物。
【0070】
<15><8>~<14>のいずれかに記載の洗浄剤組成物を用いる、汚れの洗浄方法。
<16>被洗浄物と<8>~<14>のいずれかに記載の洗浄剤組成物とを接触させることを含む、<15>に記載の方法。
<17>汚れが皮脂汚れ又は食品由来の油脂を含有する汚れである、<15>又は<16>に記載の方法。
【0071】
<18>洗浄剤組成物の製造のための配列番号14で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼの使用。
<19>リパーゼが配列番号14で示されるアミノ酸配列からなるリパーゼである、<18>に記載の使用。
<20>洗浄剤組成物が衣料洗浄剤又は食器洗浄剤である、<18>又は<19>に記載の使用。
<21>洗浄剤組成物が粉末又は液体である、<18>~<20>のいずれかに記載の使用。
<22>洗浄剤組成物が低温で使用されるものである、<18>~<21>のいずれかに記載の使用。
<23>洗浄剤組成物が40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下で、且つ5℃以上、10℃以上、15℃以上で使用されるか、又は5~40℃、10~35℃、15~30℃、15~25℃で使用されるものである、<22>に記載の使用。
【0072】
<24>汚れの洗浄のための配列番号14で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼの使用。
<25>リパーゼが配列番号14で示されるアミノ酸配列からなるリパーゼである、<24>に記載の使用。
<26>汚れが皮脂汚れ又は食品由来の油脂を含有する汚れである、<24>又は<25>に記載の使用。
<27>洗浄が低温での洗浄である、<24>~<26>のいずれかに記載の使用。
<28>洗浄が40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下で、且つ5℃以上、10℃以上、15℃以上での洗浄であるか、又は5~40℃、10~35℃、15~30℃、15~25℃での洗浄である、<27>に記載の使用。
【実施例0073】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0074】
(1)リパーゼ発現プラスミドの構築
リパーゼ発現プラスミドは、WO2021/153129に記載の枯草菌spoVG遺伝子由来プロモーターを含む配列番号26のVHHの発現用プラスミドを鋳型として構築した。上記プラスミドのVHH遺伝子を含むORF全長に、In-Fusion反応によって各リパーゼ遺伝子を載せ替えることで構築した。人工遺伝子合成したリパーゼ遺伝子Lipr139、PvLip、PfLip、EtLip、EspLip、YeLip、KAL-A8、Lipr138(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11、13及び15のポリヌクレオチド、それぞれ配列番号2、4、6、8、10、12、14及び16のアミノ酸配列をコードする)から、それぞれプラスミドpHY-Lipr139、pHY-PvLip、pHY-PfLip、pHY-EtLip、pHY-EspLip、pHY-YeLip、pHY-KAL-A8、pHY-Lipr138を構築した。プラスミドpHY-Lipr139のLipr139遺伝子を含むORF全長に、N末端側に枯草菌amyE由来シグナル配列(配列番号19のポリヌクレオチド、配列番号20のアミノ酸配列をコードする)が連結されたリパーゼTLL遺伝子(配列番号17のポリヌクレオチド、配列番号18のアミノ酸配列をコードする)の人工合成遺伝子をIn-Fusion反応によって載せ替えることでpHY-amyEsig-TLLを構築した。
【0075】
(2)リパーゼ溶液の調整
リパーゼ発現プラスミドを枯草菌株にプロトプラスト法によって導入し、2×L-マルトース培地(2%トリプトン、1%酵母エキス、1%NaCl、7.5%マルトース、7.5ppm硫酸マンガン五水和物、0.04%塩化カルシウム二水和物、15ppmテトラサイクリン;%は(w/v)%)で、30℃、2日間培養した後、リパーゼを含む培養上清を遠心分離により回収した。透析によって培養上清を10mM Tris-HCl+0.01% Triton-X100(pH7.0)にバッファー交換し、SDS-PAGEのバンド強度からリパーゼ濃度を定量した。
【0076】
(3)界面活性剤溶液中での活性測定
オクタン酸4-ニトロフェニル(SIGMA)を基質として用いた。リパーゼの作用による4-ニトロフェノールの遊離に伴う吸光度の増加速度を測定することでリパーゼの活性を求めることができる。20mM Tris-HCl(pH7.0)中の20mM オクタン酸4-ニトロフェニルを基質溶液として用いた。20mM Tris-HCl(pH7.0)にSDS又はTriton X-100を0.1%(w/v)添加したものを界面活性剤溶液として用いた。2ppmに調整したリパーゼ溶液5μLと界面活性剤溶液100μLを96穴アッセイプレートの各ウェルで混合し、基質溶液10μLを添加して、30℃で405nmの吸光度変化(OD/min)を測定した。ブランク(酵素添加無しサンプル)との差分ΔOD/minを活性値とした。各リパーゼについて、界面活性剤溶液の代わりに20mM Tris-HCl(pH7.0)を用いた際の活性値(バッファー中での活性)で界面活性剤溶液中での活性値を割って100をかけた値を、相対活性(%)として求めた(
図1)。
TLL、特許文献1、2及び3において洗浄への適性が開示されているLipr139、PvLip及びLipr138、及び自然界に現存するリパーゼ配列であるPfLip、EtLip、EspLip及びYeLipは、SDS及びTriton X-100の存在下で著しく活性が阻害された。これらと比較して、新規リパーゼKAL-A8はSDS及びTriton X-100による活性阻害に対して高い耐性を示した。
【0077】
(4)モデル洗浄液中での活性測定
20 mM Tris-HCl(pH7.0)中の20mM オクタン酸4-ニトロフェニルを基質溶液として用いた。モデル洗浄液として、表1の水性媒体を用いた。4ppmに調整したリパーゼ溶液2μLと試験液(モデル洗浄液又は20mM Tris-HCl(pH7.0))100μLを96穴アッセイプレートの各ウェルで混合し、基質溶液10μLを添加して、30℃で405nmの吸光度変化(OD/min)を測定した。ブランク(酵素添加無しサンプル)との差分ΔOD/minを求めた。31~500μMの4-ニトロフェノールを含む20mM Tris-HCl(pH7.0)10μLを各試験液100μLと混合し、405nmの吸光度を測定し検量線を作成した。各試験液の検量線とΔOD/minの値から、一分間あたりの4-ニトロフェノールの遊離速度(μM/min)を活性値として算出した。
各リパーゼについて、20mM Tris-HCl(pH7.0)を試験液とした際の活性値(バッファー中での活性)で、モデル洗浄液を試験液とした際の活性値を割って100をかけた値を、相対活性(%)として求めた(
図2)。
TLL、特許文献1、2及び3において洗浄への適性が開示されているLipr139、PvLip及びLipr138、及び自然界に現存するリパーゼ配列であるPfLip、EtLip、EspLip及びYeLipは、モデル洗浄液中で著しく活性が阻害された。一方、新規リパーゼKAL-A8はモデル洗浄液中での活性阻害に対して高い耐性を示した。
【0078】
【0079】
(5)モデル洗浄液中での洗浄評価
牛脂(SIGMA,03-0660)とナタネ油(SIGMA,23-0450)を重量比9:1で混合し、3倍量のクロロホルムに溶解した後に0.2wt%のスダンIIIで着色したものをモデル汚れとした。ポリプロピレン製の96穴ディープウェルプレートのウェル底にモデル汚れを10μLずつ滴下し、クロロホルムを蒸発・乾燥させ、汚れプレートとした。
表1記載のモデル洗浄液に、1/100容量の240ppmのリパーゼ溶液を添加したものを洗浄液とした。汚れプレートに洗浄液を300μLずつ緩やかに添加し、室温(約22℃)で15分間静置して浸漬洗浄を行った。底部の汚れに触れないように洗浄液を100μLずつ分取し、新しい96穴プレートに移した。浸漬洗浄によって洗浄液に可溶化したモデル汚れ中のスダンIIIを定量するため、500nmの吸光度(A500)を測定した。洗浄後のA500から洗浄前のA500を差し引いた値ΔA500は洗浄液中への油の遊離量に対応し、洗浄力の指標として用いることができる。各リパーゼの洗浄力ΔA500を
図3に示した。
特許文献1において洗浄への適性が開示されているLipr139は、TLL、Lipr138、PvLip、PfLip、EtLip、EspLip及びYeLipと比較して、モデル洗浄液中で高い洗浄力を示した。一方、新規リパーゼKAL-A8はモデル洗浄液中でLipr139を含む他のリパーゼと比較して顕著に高い洗浄力を示した。