(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156927
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】ズボン、上着、衣服一式、ズボンの製造方法および上着の製造方法
(51)【国際特許分類】
A41D 1/06 20060101AFI20231018BHJP
A41D 1/14 20060101ALI20231018BHJP
A41D 1/02 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
A41D1/06 L
A41D1/06 501D
A41D1/14 501D
A41D1/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066587
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】591206164
【氏名又は名称】株式会社ナカヒロ
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 茂幸
【テーマコード(参考)】
3B031
【Fターム(参考)】
3B031AA07
3B031AB08
3B031AC05
3B031AE05
(57)【要約】
【課題】生地の伸縮性に依らずに、様々な体の動きに対して抵抗感などを抑えることができる、ズボンなどの衣服を提供する。
【解決手段】ズボン10において、伸縮材60A、60Bが、裾40A、40Bに向けて延びるとともに、パンツ前側に向けて延び、他方の端部62A、62Bは、パンツ前側の裾40A、40Bに位置する。伸縮材60A、60Bは、股下部分40A、40Bに沿ってその周囲を巻くように延びる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状または帯状の伸縮材が、少なくとも股下部分の膝接触部分またはその周囲において設けられ、
前記伸縮材が、少なくともその幅方向に沿って伸縮可能であって、ズボン前側から見て、脇側から裾内側に向けて、あるいは股下内側から裾外側に向けて、延びていることを特徴とするズボン。
【請求項2】
前記伸縮材が、ズボン前側から見て、前記膝接触部分よりも脇側を通り、脇側から裾内側に向けて斜めに延びていることを特徴とする請求項1に記載のズボン。
【請求項3】
前記伸縮材が、股上から、裾または裾付近まで延びていることを特徴とする請求項2に記載のズボン。
【請求項4】
線状または帯状の伸縮材が、少なくとも袖部分の肘接触部分またはその周囲において設けられ、
前記伸縮材が、少なくともその幅方向に沿って伸縮可能であって、上着前側から見て、脇側とは反対側の袖外側から脇側と向かい合う袖内側に向けて、あるいは袖内側から袖外側に向けて、延びていることを特徴とする上着。
【請求項5】
前記伸縮材が、上着前側から見て、袖外側から、前記肘接触部分よりも袖外側を通り、袖内側に向けて斜めに延びていることを特徴とする請求項4に記載の上着。
【請求項6】
前記伸縮材が、上着後ろ側の脇付近から、袖口または袖口付近まで延びていることを特徴とする請求項5に記載の上着。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載されたズボンと、
請求項4乃至6のいずれかに記載された上着と
を備えたことを特徴とする衣服一式。
【請求項8】
前記ズボンに設けられる伸縮材が、テープ状であって、
前記上着に設けられる伸縮材が、エラストマーを含むことを特徴とする請求項7に記載の衣服一式。
【請求項9】
前パンツと後パンツの型を作成する工程と、
前記前パンツと前記後パンツを、少なくともその幅方向に沿って伸縮可能な伸縮材を介在させて縫合する工程とを含み、
前記伸縮材が、ズボン後側の股上から、股下部分の膝接触部分またはその周囲を通り、ズボン前側の裾または裾付近にまで渡って延びるように、前記前パンツと前記後パンツの型を作成することを特徴とするズボンの製造方法。
【請求項10】
縫合によって袖部分を作製する工程と、
少なくともその幅方向に沿って伸縮可能な伸縮材を、前記袖部分に縫合する工程とを含み、
前記伸縮材が、上着後側の腋付近から、前記袖の肘接触部分またはその周囲を通り、上着前側の袖口または袖口付近にまで渡って延びるように、前記伸縮材を前記袖部分の裏地に縫合することを特徴とする上着の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上着(トップス)、ズボン(パンツ)などの衣服に関し、特に、伸縮性のある衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
衣服を着用した状態で肘、膝を屈曲させたときに窮屈な違和感を与えず、着用感を良好にするため、伸縮性をもたせた衣服が知られている。例えば、肘、膝が接触する部分に伸縮性のある生地の裏地を縫合したスーツが提案されている(特許文献1参照)。また、前身頃、後身頃を一方向に伸縮性のある生地で仕立て、ウエスト部分を含めてズボンの横方向に伸縮性をもたせたズボンが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3155704号公報
【特許文献2】実用新案登録第3159291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
肘、膝を屈曲させるような体の動きに対応するために、特定の伸縮性をもつ生地を用意し、仕立てることは、衣服にとって本来あるべき着用感を阻害することに繋がる。例えば、歩行状態などでは、ズボンの長さ方向に伸縮性をもたないと、動きにくくなる場合もある。
【0005】
したがって、生地の伸縮性に依らずに、様々な体の動きに対して抵抗感などを抑えることができるズボンなどの衣服が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様であるズボンは、フォーマル、カジュアルいずれの形態も適用可能であり、股下丈が膝部分まで延びているショート型ズボンも含まれる。本発明のズボンは、線状または帯状の伸縮材が、少なくとも股下部分の膝接触部分またはその周囲において設けられ、前記伸縮材が、少なくともその幅方向に沿って伸縮可能であって、ズボン前側から見て、脇側から裾内側に向けて、あるいは股下内側から裾外側に向けて、延びている。ここで、「ズボン前側から見て」とは、ユーザがズボンを着用した状態、すなわち、ズボンの股下部分が筒状に延びている状態で前側を見た場合のことを意味する。また、膝接触部分は、ズボンのサイズに応じた身丈(股下)のあるユーザが着用したときの膝と生地裏との接触部(厳密に面状に接触状態にあることを意味するのではなく、歩行など動きを伴うときに接触する部分に応じたエリアを示す。起立(直立)状態、歩行状態、着座状態、しゃがんだ状態で接触する部分のうち少なくとも直立、歩行状態での接触部分が含まれる。少なくとも起立(直立)状態あるいは歩行状態で接触または実質的に接触しているとみなせる部分を膝接触部分として定義することができる。
【0007】
伸縮材は、ズボンを構成する前ズボン、後ズボンの生地とは異なる素材(生地を含む)で構成することが可能であって、様々な伸縮性の素材あるいは素材の組み合わせを適用することが可能であり、帯状あるいは幅が非常に狭い線状の伸縮材を用いてもよい。幅方向にだけ沿って伸縮可能、幅方向、長手方向に伸縮可能であってもよく、幅方向の伸縮性が他の方向よりも優れているものであってもよい。伸縮材は、すくなくとも幅方向に沿った伸縮性が前ズボン、後ズボンの生地の伸縮性より高くなるように構成することができる。伸縮材は、織物、編み物などで構成することも可能であり、また、テープ状、シート状で構成することが可能である。あるいは、ゴムなどのエラストマーを含む素材などによって構成することも可能である。例えば、緯方向(横方向)に高いストレッチ性能を備えた経編地、横糸として弾性糸、捲縮糸を用いた経編地などの編物によって構成することが可能である。また、少なくとも幅方向に沿った伸縮性が、ズボン生地より優れている(伸縮性能が高い)ように構成可能である。
【0008】
例えば、前記伸縮材は、ズボン前側から見て、前記膝接触部分よりも脇側を通り、脇側から裾内側に向けて斜めに延びるように構成することができる。また、伸縮材が、股上から、裾または裾付近まで延びるように構成することも可能である。
【0009】
本発明の他の態様である上着(トップス)は、ジャケット、シャツなどに適用可能であり、フォーマル、カジュアルいずれの形態であってもよい。また、袖が膝部分まで延びている袖ショートタイプの上着も含まれる。本発明の上着は、線状または帯状の伸縮材が、少なくとも袖部分の肘接触部分またはその周囲において設けられ、前記伸縮材が、少なくともその幅方向に沿って伸縮可能であって、上着前側から見て、脇側とは反対側の袖外側から脇側と向かい合う袖内側に向けて、あるいは袖内側から袖外側に向けて、延びている。ここでの「上着前側から見て」とは、上述したように、上着サイズに合っているユーザが着用した状態で見た場合を意味する。また、「膝接触部分」は、直立状態、歩行状態、腕を曲げた状態で上着の生地裏と接触する部分が含まれる。
【0010】
伸縮材は、上着前側から見て、袖外側から、肘接触部分よりも袖外側を通り、袖内側に向けて斜めに延びるように構成することができる。また、伸縮材は、上着後ろ側の脇付近から、袖口または袖口付近まで延びるように構成することができる。伸縮材の素材としては、ズボンにおいて上述した伸縮性を持つことが可能である。本発明では、上述したズボン、上着を一式とした衣服を提供することができる。
【0011】
本発明の一態様であるズボンの製造方法は、前パンツ、すなわち右前パンツ、左前パンツと後パンツの型を作成する工程と、前パンツと後パンツを、少なくともその幅方向に沿って伸縮可能な伸縮材を介在させて縫合する工程とを含み、伸縮材が、ズボン後側の股上から、股下部分の膝接触部分またはその周囲を通り、ズボン前側の裾または裾付近にまで渡って延びるように、前パンツと後パンツの型を作成する。
【0012】
本発明の一態様である上着の製造方法は、縫合によって袖部分を作製する工程と、少なくともその幅方向に沿って伸縮可能な伸縮材を、袖部分に縫合する工程とを含み、伸縮材が、上着後側の腋付近から、袖の肘接触部分またはその周囲を通り、上着前側の袖口または袖口付近にまで渡って延びるように、伸縮材を袖部分の裏地に縫合する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生地の伸縮性に依らずに、様々な体の動きに対して抵抗感などを抑えることができる、ズボンなどの衣服を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態であるズボンの前側、後側から見た平面図である。
【
図2】ズボンを着用して左膝を曲げた状態を示す図である。
【
図3】第2の実施形態である上着を前側、後側から示した図である。
【
図4】第3の実施形態であるスーツのズボン(スラックス)を示した図である。
【
図5】第3の実施形態であるスーツのジャケット(背広)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本実施形態である衣服(ズボン、上着)について説明する。
【0016】
図1は、第1の実施形態であるズボンの前側、後側から見た平面図である。
【0017】
ズボン10は、ウエストベルト15、後ヨーク17、右足側の左前パンツ20A、左足側の右前パンツ20B、後パンツ30とを縫製したズボンであり、脇ポケット32、後ろポケット34を備えている。ズボン10は、例えば警備員、作業員などのフォーマルなズボン(背服)として使用することが可能であり、一方で、カジュアルなズボンとして構成することも可能である。
【0018】
前パンツ(左前パンツ20A、右前パンツ20B)、後パンツ30の生地は任意であり、前中心C1、後中心C2に沿って伸縮可能な生地、前中心C1、後中心C2の横方向に伸縮可能な生地、両方向に伸縮可能な生地、あるいは特定の方向に伸縮可能な生地、伸縮しない生地を採用することができる。ここでは、生地自体には、実質的にストレッチ性を持たない素材によって構成されている。
【0019】
ズボン10には、帯状の伸縮材(
図1ではハッチングで示している)60A、60Bが、股上部分50から股下部分40A、40Bに跨って、対になって設けられている。伸縮材60A、60Bは、ここではテープ状に構成され、左前、右前パンツ20A、20Bおよび後パンツ30の生地とは異なる素材から成り、生地とは別構成のパーツとして構成されている。伸縮材60の幅は、ズボン10のサイズ、仕様等に応じて、所定の長さに定められている。
【0020】
伸縮材60は、その幅方向に沿った伸縮性が他の方向と比べて優れている、すなわち伸長度が大きい特性をもつ。伸縮材60は、例えば、緯方向(横方向)に沿って相対的に大きな伸縮性を備え、経方向(縦方向)に沿って外側に湾曲するようなリブ状突起部を表裏交互に並べた経編地によって構成することができる。なお、織物によって構成してもよい。
【0021】
図1に示すように、伸縮材60A、60Bは、左前パンツ20A、右前パンツ20Bと後パンツ30との繋ぎ部分に沿って表地に縫い付けられている。伸縮材60A、60Bは、ここでは前中心C1、後中心C2に対して対称的であり、また、股下部分40A、40Bに沿って対称的な位置に設けられている。伸縮材60A、60Bの端部61A、61Bは、パンツ後側の股上部分50よりも上側にあって、後ヨーク17と後パンツ30との境に位置する。
【0022】
そして、伸縮材60は、裾41A、41Bに向けて延びるとともに、パンツ前側に向けて延び、他方の端部62A、62Bは、パンツ前側の裾41A、41Bに位置する。すなわち、伸縮材60A、60Bは、股下部分40A、40Bに沿ってその周囲を巻くように延びている。したがって、ズボン前側から見た時、伸縮材60は、股下部分40の脇側40Eから裾内側に向けて、斜め方向に延びている。なお、伸縮材60の他方の端部62A、62Bは、裾41A、41Bよりも上側(裾付近)に位置するようにしてもよい。
【0023】
また、伸縮材60は、ユーザが膝を曲げたとき、股下部分40A、40Bにおける膝と生地裏との接触部分(以下、膝接触部分という)45A、45Bの周囲を通るように延びている。ここでは、伸縮材60が、膝接触部分45A、45Bよりも脇側40Eを通るように延びている。なお、ズボン10のサイズに合った下半身サイズのユーザがズボン10を着用していることを前提として、膝接触部分45A、45Bと伸縮材60A、60Bとの位置関係を説明している。なお、ここでの膝接触部分45A、45Bは、ユーザがズボンを着用して直立状態、歩行状態などの動きを伴うときに膝と接触する生地裏部分に相当する領域として定められている。
【0024】
図2は、ユーザがズボン10を着用して左膝を曲げた状態を示す図である。ユーザによる膝の屈曲動作によって、右前パンツ20Bは股下部分40Bに沿って引っ張られ、後パンツ30は緩んで皺が生じる。このとき、伸縮材60Bは、右前パンツ20Bの膝接触部分45B付近において伸び、特にその幅方向Bに沿って大きく伸びる(符号B参照)。
【0025】
上述したように、ズボン前側から見た時、伸縮材60は、股下部分40A、40B(前中心C1、後中心C2)に対して斜め方向に延びている。したがって、伸縮部材60がその幅方向に伸びることによって、右前パンツ20Bに対し、股下部分40Bの横方向ではなく、斜め方向に力が作用する(
図1の符号B参照)。ユーザが膝を屈曲させた状態から元の起立状態に戻ると、伸縮材60は縮んで
図1の状態に戻る。ユーザが右膝を曲げた場合も同様である。
【0026】
股上部分50から股下部分40A、40Bに跨って伸縮材60を、ズボン後側からズボン前側へ延ばす構成により、ユーザは、起立した状態から着席した状態、しゃがんだ状態へ、窮屈感なく移行することが可能となり、生地の伸縮性に依らず、膝の曲げ伸ばしがしやすくなる。
【0027】
一方、伸縮材60が膝接触部分45A、45Bから外れた位置(オフセット位置)を通るように延びているため、伸縮材60の伸びの程度は、接触部分45A、45Bに位置する場合と比べて抑えられる。そのため、ユーザが膝を曲げたときの伸縮材60から受ける力(抵抗力、摩擦力)が抑えられ、身体に掛かる抵抗感、不快感が、接触部分45A、45Bに位置する場合と比べて抑えられる。
【0028】
さらに、伸縮材60の一方の端部61A、61Bが、股上部分50の後ヨーク17との境に位置する。そのため、着席した時などにおいて伸縮材60がウエストベルト15付近においてズボン長手方向に対して斜め方向に伸縮し、腹部が圧迫されるのを抑えることができる。
【0029】
また、伸縮材60は、股下部分40A、40Bに沿ってその周囲を巻くように延び、他方の端部62A、62Bは裾41A、41Bの内側に位置する。ユーザが着用した状態でズボン前側から見た時、その幅方向に最も伸縮性のある伸縮材60が、ズボン長さ方向(前中心C1、後中心C2)に対して斜め方向に沿って延びる。そのため、股上部分50、股下部分40A、40Bいずれにおいても、ズボン長さ方向あるいは横方向に対して傾斜した方向に伸びやすい。これは、膝の屈曲だけでなく、脚を上げる動作、斜め後ろに伸ばす動作、横方向に開く動作など、様々な身体の動きに対し、窮屈感、抵抗感を抑えることを可能にする。
【0030】
特に、伸縮材60が臀部の位置まで延びているため、腿の動きに対してもサポートすることができる。このように、伸縮材60を上述したような縫着位置に定めることにより、ズボン10の生地の特性などによって動きが妨げられず、着衣中の動ける範囲を一層高めることができる。
【0031】
また、巻き付くように膝に沿って延びる伸縮材60を縫着したことによってストレッチ素材のズボン生地のみを採用した場合と比べて体の可動範囲および動きやすさがより優れたものになる。よって、ズボン10の生地に対して横方向、縦方向あるいは両方向にストレッチ性をもたない生地(少なくとも伸縮材60よりもストレッチ性能が劣る)を採用可能となり、生地による突っ張り、抵抗感を抑えることができる。
【0032】
上述したように、ズボン10を着用するユーザは、ズボン10の股下に合った身丈(股下)を持っているが、人によってその長さは完全に一致するものではなく、膝接触部分45A、45Bも着用者によって多少相違する。しかしながら、伸縮材60を巻き付けるように膝接触部分45A、45Bに沿って縫着させることにより、個々の脚の長さの相違に関わらず、脚の動きをサポートし、アシストすることができる。
【0033】
以上のズボン10は、公知の縫製手法を適用することによって製造することが可能である。例えば、左前パンツ、右前パンツと後パンツの型を作成する工程と、左前パンツ、右前パンツと後パンツを、少なくともその幅方向に沿って伸縮可能な伸縮材を介在させて縫合する工程とを含むように縫製すればよい。この場合、伸縮材が、ズボン後側の股上から、股下部分の膝接触部分またはその周囲を通り、ズボン前側の裾または裾付近にまで渡って延びるように、左前パンツ、右前パンツと後パンツの型を作成する。
【0034】
伸縮材60は、膝接触部分45A、45Bまで延び、そこを端部とするように構成してもよい。また、股上部分には設けず、膝接触部分45A、45B周辺にだけ設けてもよい。伸縮材60は、その伸縮性を調整することにより、その一部または全部が膝接触部分45A、45Bを通るようにしてもよい。さらに、股下部分40A、40Bの内側(股)部分から脇側に沿って斜め方向に延びるように構成してもよい。
【0035】
次に、
図3を用いて第2の実施形態である上着について説明する。第2の実施形態では、上着の肘付近を通る伸縮材が設けられている。
【0036】
図3は、第2の実施形態である上着を前側、後側から示した図である。上着100は、ここではジャケットとして構成され、第1の実施形態と同様、制服などに適用することが可能である。ただし、カジュアルなジャケットとして構成することも可能である。
【0037】
上着100は、右前身頃110A、左前身頃110Bに対して前身頃脇側120A、120Bを縫合し、袖ぐりが身頃続きとなるように縫製されている。上着100では、後ろ身頃130A、130Bと縫合した後身頃ヨーク140A、140Bを、上述した前身頃脇側120A、120Bと縫合させ、また、袖下側135A、135Bと前身頃脇側120A、120Bとを縫合させることによって、袖部分105A、105Bが構成されている。また、上着100には、後中心C2に沿って帯状の弾性材150が設けられている。
【0038】
伸縮材160A、160Bは、袖下側135A、135Bと前身頃脇側120A、120Bとの縫合部分に設けられ、裏地に縫い付けられている。伸縮材160A、160Bは、その一端161A、161Bが、上着後側の脇付近に位置し、第1の実施形態と同じように、袖部分105A、105Bに対してその周囲を巻くように延び、他方の端部162A、162Bは、上着前側の袖口106A、106B付近に位置する。なお、伸縮材160を袖口106A、106Bまで延ばしてもよい。
【0039】
上着前側から見た時、伸縮材160A、160Bは、袖部分105A、105Bの長手方向(袖丈測定方向)に対して斜めに延びている。また、ユーザが肘を曲げたときの肘と袖部分105A、105Bの裏地との接触部分(以下、肘接触部分という)145A、145Bよりも、(脇側とは反対側の)袖外側を通り、肘接触部分145A、145Bから外れている。なお、ここでの肘接触部分145A、145Bは、ユーザが上着100を着用して直立状態、歩行状態などの動きを伴うときに肘と接触する生地裏部分に相当する領域として定められている。
【0040】
上着100の各パーツの生地は、第1の実施形態と同様に任意であり、ここでは、特定の方向に伸縮性のある生地、伸縮性のない生地を用いられている。伸縮材160A、160Bは、第1の実施形態と同様、その幅方向の伸縮性が他の方向と比べて高い素材を用いることが可能である。ここでは、弾性材150と同様の素材から成る。例えば、伸縮材160A、160Bは、エラストマーを含む素材(ゴムなど)によって構成することが可能である。また、第1の実施形態と同様に、経編地などの伸縮材で構成してもよい。伸縮材160A、160Bは、裏地に縫い付け可能なものであればよい。
【0041】
このように伸縮材160A、160Bを設けた上着100を構成することにより、ユーザが肘を曲げるとき、抵抗感、窮屈感を抑えながら、スムーズに曲げることを可能にする。また、伸縮材160A、160Bが肘接触部分145A、145Bよりも袖口側に位置するため、肘を大きく曲げる動作をした場合でも、前身頃脇側120A、120Bが強く引っ張られるのを抑制するとともに、上着後側において、後身頃ヨーク140A、140Bが強く引っ張られるのを抑制し、上着100の型の崩れを抑えることができる。また、腕の長さが相違することによって肘接触部分145A、145Bが着用者によって多少相違したとしても、伸縮材160A、160Bが巻き付くように袖部分105A、105Bに縫着し、肘接触部分145A、145Bに沿うようにすることによって、着用者の腕の動きをサポートし、アシストすることができる。
【0042】
さらに、伸縮材160A、160Bが裏地に縫い付けられているため、伸縮材160A、160Bによって良好なデザイン性を損なうことがない。なお、第1の実施形態と同様、伸縮材160A、160Bを表地に現れるように設けてもよい。この場合でも、伸縮材160A、160Bの素材、カラーリングなどにデザイン性を持たせることにより、よりファッショナブルな上着100を構成することが可能である。
【0043】
以上の上着100は、公知の縫製手法を適用することによって、製造することが可能である。例えば、縫合によって袖部分を作製する工程と、少なくともその幅方向に沿って伸縮可能な伸縮材を、袖部分に縫合する工程とを含む縫製によって製造することができる。この場合、伸縮材が、上着後側の腋付近から、袖の肘接触部分またはその周囲を通り、上着前側の袖口または袖口付近にまで渡って延びるように、伸縮材を袖部分の裏地に縫合する。なお、通常のジャケットのように、前身頃、後身頃とを縫合し、アームホールに袖を縫合する工程を含む上着の製造方法において、上述した伸縮材を設ける工程を含むようにしてもよい。
【0044】
伸縮材160A、160Bは、肘接触部分145A、145Bまで延び、そこを端部とするように構成してもよい。また、脇付近まで延びず、肘接触部分145A、145B周辺にだけ設けてもよい。伸縮材160A、160Bは、その伸縮性を調整することにより、その一部または全部が肘接触部分145A、145Bを通るようにしてもよい。さらに、袖内側から袖外側に向けて斜め方向に延びるように構成してもよい。
【0045】
次に、
図4、5を用いて、第3の実施形態であるスーツ(衣服一式)について説明する。
【0046】
図4は、第3の実施形態であるスーツのズボン(スラックス)を示した図である。
図5は、第3の実施形態であるスーツのジャケット(背広)を示した図である。
図4、5に示したスーツは、一式の衣服としてそのデザインが統一されている。第1、第2の実施形態と同様、ズボン200、ジャケット300には、伸縮材260A、260B、伸縮材360A、360Bが設けられている。なお、第1、第2の実施形態のズボンを衣服一式としてもよい。
【0047】
なお、第1~第3の実施形態では、男性用のズボン、上着を前提とした衣服で構成されているが、女性用の衣服、子供用の衣服として構成可能である。さらに、犬や猫などに着用させる衣服にも適用可能である。この場合、前足、後足の手根、足根までカバーするように延びる、あるいはその途中まで延びる衣服に対して伸縮材を設ければよい。
【符号の説明】
【0048】
10 ズボン
40A、40B 股下部分
50 股上部分
60 伸縮材
100 上着
160A、160B 伸縮材