(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156929
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
C08J5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066589
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 英樹
(72)【発明者】
【氏名】和泉 篤士
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA21
4F071AA81
4F071AA86
4F071AF34Y
4F071AF40Y
4F071AF54
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AG34
4F071BA02
4F071BB02
4F071BB07
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】低コスト化が図られ、特に、高ガラス転移点を有する熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂フィルムにおいて、黄変や分子量低下およびカールが生じることなく、かつ、その低熱膨張率化を図ることが可能な樹脂フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の樹脂フィルム1の製造方法は、熱可塑性樹脂と溶媒とを含有する樹脂組成物を、前記熱可塑性樹脂の軟化温度よりも低い温度で加熱した状態で混練した後に、押し出す押出工程と、押し出された前記樹脂組成物を加熱して前記溶媒の一部を前記樹脂組成物から除去しつつ、フィルム状に成形する成形工程と、フィルム状に成形された前記樹脂組成物を、少なくとも前記樹脂組成物を押し出す押出し方向に延伸する延伸工程と、前記押出し方向に延伸された前記樹脂組成物を、加熱して乾燥させることで樹脂フィルムを得る乾燥工程とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と溶媒とを含有する樹脂組成物を、前記熱可塑性樹脂の軟化温度よりも低い温度で加熱した状態で混練した後に、押し出す押出工程と、
押し出された前記樹脂組成物を加熱して前記溶媒の一部を前記樹脂組成物から除去しつつ、フィルム状に成形する成形工程と、
フィルム状に成形された前記樹脂組成物を、少なくとも前記樹脂組成物を押し出す押出し方向に延伸する延伸工程と、
前記押出し方向に延伸された前記樹脂組成物を、加熱して乾燥させることで樹脂フィルムを得る乾燥工程とを有することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記溶媒は、前記熱可塑性樹脂を溶解する溶解性を有する請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記溶媒は、前記熱可塑性樹脂とのハンセン溶解度パラメータの距離(Ra)が7.00(J/cm3)0.5以下である請求項2に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記押出工程において、前記樹脂組成物に含まれる前記溶媒の含有量は、5.0重量%以上50.0重量%以下に設定される請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記成形工程において、前記樹脂組成物に含まれる前記溶媒の含有量は、5.0重量%以上15.0重量%以下に設定される請求項4に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、前記溶媒としてトルエンが10重量%の含有量で含まれるものとしたとき、30℃および60℃における貯蔵弾性率G’が、それぞれ0.50GPa以上2.50GPa以下の範囲内に設定される請求項5に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記延伸工程において、フィルム状に成形された前記樹脂組成物を延伸する際の前記樹脂組成物の温度は、40℃以上80℃以下に設定される請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂は、200℃以上のガラス転移点を有する高Tg樹脂である請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記高Tg樹脂は、ポリノルボルネン系樹脂である請求項8に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記ポリノルボルネン系樹脂は、下記一般式(1)で表されるものである請求項9に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【化1】
[前記一般式(1)中、nおよびmは、それぞれ、独立して、1以上の整数であり、基Xは、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基、芳香族基、脂環族基、グリシジルエーテル基のうちのいずれかである。]
【請求項11】
前記乾燥工程において、平均厚さが20μm以上500μm以下の前記樹脂フィルムが得られる請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂フィルムを、フィルム状に成形する成形方法として、例えば、Tダイ法、インフレーション法のような押出成形法、カレンダー法およびキャスト法等が知られている。
【0003】
これらのうち、押出成形法では、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を押出機に供給して溶融混練した後に、押出機の先端に設けられたダイから、溶融状態とされた樹脂組成物をフィルム状に押し出し、その後、このフィルム状とされた樹脂組成物を所定の厚さのものに成形した後に、冷却させることにより、樹脂フィルムが成形される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この押出成形法において、その製造コストの削減、および、樹脂組成物を溶融混練する際に、樹脂組成物が高温で加熱されることに起因して、成形される樹脂フィルムに黄変や分子量低下、カールが発生するのを抑制または防止することを目的に、より低温領域の加熱により樹脂組成物を溶融混練することができる、樹脂フィルムを製造する製造方法の開発が求められているのが実情であった。
【0005】
なお、このような樹脂フィルムの製造方法の開発は、特に、高ガラス転移点を有する熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂フィルムにおいて、膜厚の厚い樹脂フィルムを成形する際に、黄変や分子量低下、カールが高頻度に発生することから、その開発がより求められている。
【0006】
さらに、かかる製造方法により得られる樹脂フィルムとして、より低熱膨張率化が図られているものを製造し得ることが求められているのが実情として存在していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、低コスト化が図られ、特に、高ガラス転移点を有する熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂フィルムにおいて、黄変や分子量低下およびカールが生じることなく、かつ、その低熱膨張率化を図ることが可能な樹脂フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)~(11)に記載の本発明により達成される。
(1) 熱可塑性樹脂と溶媒とを含有する樹脂組成物を、前記熱可塑性樹脂の軟化温度よりも低い温度で加熱した状態で混練した後に、押し出す押出工程と、
押し出された前記樹脂組成物を加熱して前記溶媒の一部を前記樹脂組成物から除去しつつ、フィルム状に成形する成形工程と、
フィルム状に成形された前記樹脂組成物を、少なくとも前記樹脂組成物を押し出す押出し方向に延伸する延伸工程と、
前記押出し方向に延伸された前記樹脂組成物を、加熱して乾燥させることで樹脂フィルムを得る乾燥工程とを有することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。
【0010】
(2) 前記溶媒は、前記熱可塑性樹脂を溶解する溶解性を有する上記(1)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0011】
(3) 前記溶媒は、前記熱可塑性樹脂とのハンセン溶解度パラメータの距離(Ra)が7.00(J/cm3)0.5以下である上記(2)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0012】
(4) 前記押出工程において、前記樹脂組成物に含まれる前記溶媒の含有量は、5.0重量%以上50.0重量%以下に設定される上記(1)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0013】
(5) 前記成形工程において、前記樹脂組成物に含まれる前記溶媒の含有量は、5.0重量%以上15.0重量%以下に設定される上記(4)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0014】
(6) 前記樹脂組成物は、前記溶媒としてトルエンが10重量%の含有量で含まれるものとしたとき、30℃および60℃における貯蔵弾性率G’が、それぞれ0.50GPa以上2.50GPa以下の範囲内に設定される上記(5)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0015】
(7) 前記延伸工程において、フィルム状に成形された前記樹脂組成物を延伸する際の前記樹脂組成物の温度は、40℃以上80℃以下に設定される上記(1)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0016】
(8) 前記熱可塑性樹脂は、200℃以上のガラス転移点を有する高Tg樹脂である上記(1)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0017】
(9) 前記高Tg樹脂は、ポリノルボルネン系樹脂である上記(8)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0018】
(10) 前記ポリノルボルネン系樹脂は、下記一般式(1)で表されるものである上記(9)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【化1】
[前記一般式(1)中、nおよびmは、それぞれ、独立して、1以上の整数であり、基Xは、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基、芳香族基、脂環族基、グリシジルエーテル基のうちのいずれかである。]
【0019】
(11) 前記乾燥工程において、平均厚さが20μm以上500μm以下の前記樹脂フィルムが得られる上記(1)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂フィルムを、低コスト化を図って製造することができる。また、特に、高ガラス転移点を有する熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂フィルムにおいて、黄変や分子量低下およびカールが生じることなく、かつ、その低熱膨張率化を図ってフィルム状に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の樹脂フィルムの製造方法を適用して製造される樹脂フィルムの実施形態を示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示す樹脂フィルムを製造する本発明の樹脂フィルムの製造方法が適用された樹脂フィルム製造装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の樹脂フィルムの製造方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0023】
<樹脂フィルム1の製造方法>
図1は、本発明の樹脂フィルムの製造方法を適用して製造される樹脂フィルムの実施形態を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、
図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0024】
樹脂フィルム1は、
図1に示すように、フィルム状(シート状)をなし、熱可塑性樹脂を主材料として構成されるものであり、本発明の樹脂フィルムの製造方法を適用して製造される。
【0025】
以下では、まず、本発明の樹脂フィルムの製造方法を説明するのに先立って、本発明の樹脂フィルムの製造方法が適用された樹脂フィルム製造装置について説明する。
【0026】
(樹脂フィルム製造装置)
図2は、
図1に示す樹脂フィルムを製造する本発明の樹脂フィルムの製造方法が適用された樹脂フィルム製造装置の側面図である。なお、以下の説明では、
図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0027】
図2に示す樹脂フィルム製造装置500は、フィルム供給部700と、フィルム成形部800と、フィルム乾燥部600と、フィルム搬送部400と、を有している。
【0028】
フィルム供給部700は、押出機210と、Tダイ240と、単軸または2軸のような多軸の混練機230とを備え、押出機210に接続された配管212に混練機230が連結され、さらに、この混練機230に配管212を介してTダイ240が接続されている。
【0029】
かかる構成のフィルム供給部700では、樹脂フィルム1を形成するための熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂組成物が押出機210に収納されている。そして、溶融状態または軟化状態とされた押出機210に収納された樹脂組成物が、混練機230に供給されると、この混練機230の作動により、溶融状態または軟化状態で混練される。その後、溶融状態または軟化状態とされた樹脂組成物がフィルム状をなす溶融フィルム150として、混練機230、配管212およびTダイ240(が有する開口部241)を介して、フィルム成形部800に供給される。
【0030】
フィルム成形部800は、3つのタッチロール110、120、130を有している。これらのロールは、それぞれ図示しないモータ(駆動手段)により、それぞれ単独回転するように構成されており、例えば、ステンレス鋼等のような金属材料で構成されている。また、これらのロールは、回動軸(中心軸)同士が同じ方向を向いており、互いに離間して配置されている。さらに、各ロールは、例えば、樹脂フィルム製造装置500全体を支持するフレーム(図示せず)に回動可能に支持されている。
【0031】
さらに、これらのタッチロール110~130は、その少なくとも1つが加熱手段を備えており、これにより、フィルム状をなす溶融フィルム150、すなわち、溶融状態または軟化状態とされた樹脂組成物を加熱し得るよう構成されている。
【0032】
これらタッチロール110、120、130の回転により、フィルム供給部700から供給された溶融フィルム150が連続的に送り出されるようになっている。このフィルム成形部800に、溶融または軟化された溶融フィルム150を連続的に送り込むことにより、溶融フィルム150の第1面15および第2面13が平坦化されるとともに、溶融フィルム150の厚さが所望の大きさに設定される。
【0033】
タッチロール110と、タッチロール120とは、外周面が平滑性を有するロールであり、互いに対向配置されている。このようなタッチロール110とタッチロール120との間に、溶融フィルム150を供給することにより、溶融フィルム150の第1面15および第2面13が平坦化される。
【0034】
さらに、タッチロール130は、外周面が平滑性を有するロールであり、タッチロール110およびタッチロール120の後段に配置されている。このようなタッチロール130に、溶融フィルム150を供給することにより、溶融フィルム150の第2面13がより平坦化される。
【0035】
また、タッチロール110と、タッチロール120との間の離間距離、および、タッチロール120と、タッチロール130との間の離間距離を、それぞれ、適宜設定することで、所望の厚さの溶融フィルム150を得ることができる。
【0036】
そして、加熱手段を備えるタッチロール110~130により、第1面15および第2面13が平坦化され、かつ、その厚さが所定の大きさに設定された溶融フィルム150が加熱されることで、この溶融フィルム150に含まれる溶媒の一部が、溶融フィルム150から除去される。
【0037】
フィルム搬送部400は、フィルム成形部800から送り出された溶融フィルム150をフィルム乾燥部600に搬入(供給)するとともに、樹脂フィルム1をフィルム乾燥部600から搬出する複数の搬送ローラ41と、フィルム乾燥部600から搬出された樹脂フィルム1を巻取る(巻回する)巻取りローラ46とを有している。
【0038】
なお、各ローラは、それぞれ図示しないモータ(駆動手段)により、それぞれ単独回転するように構成されており、例えば、ステンレス鋼等のような金属材料で構成されている。また、これらのローラは、回動軸(中心軸)同士が同じ方向を向いており、互いに離間して配置されている。さらに、各ローラは、例えば樹脂フィルム製造装置500全体を支持するフレーム(図示せず)に回動可能に支持されている。
【0039】
搬送ローラ41は、それぞれ、外形形状が円柱状をなしている。また、これらの搬送ローラ41は、溶融フィルム150(樹脂フィルム1)の長手方向の途中が第2面13(下面)側で接触しつつ、回転するローラである。これにより、フィルム成形部800(タッチロール130)から送り出された溶融フィルム150を、フィルム乾燥部600に搬入(供給)するとともに、フィルム乾燥部600で乾燥された樹脂フィルム1をフィルム乾燥部600から搬出させることができる。
【0040】
また、巻取りローラ46は、外形形状が円柱状をなし、樹脂フィルム1の搬送方向最下流側に位置して、フィルム乾燥部600すなわち搬送方向上流側から送り出されてきた樹脂フィルム1を巻取るローラである。この巻取りローラ46の回転により、樹脂フィルム1が巻取りローラ46に巻き取られる。
【0041】
さらに、搬送ローラ41による溶融フィルム150の搬送速度、および、巻取りローラ46による樹脂フィルム1の巻取り速度は、タッチロール110~130による溶融フィルム150の搬送速度よりも速く設定されている。これにより、溶融フィルム150(樹脂フィルム1)がタッチロール130と巻取りローラ46との間を搬送される際に、溶融フィルム150がMD(流れ方向)に延びる張力が溶融フィルム150に作用する。そのため、溶融フィルム150がMD(流れ方向)に沿って延伸される。したがって、巻取りローラ46には、MDに沿って延伸された樹脂フィルム1が巻回されることとなる。
【0042】
フィルム乾燥部600は、一対の熱風供給部61を有している。これら熱風供給部61は、2つの搬送ローラ41の間の、溶融フィルム150の搬送方向のフィルム成形部800(タッチロール130)よりも下流側の位置に、溶融フィルム150に対向して、その上方および下方に1つずつ配置されており、樹脂フィルム製造装置500全体を支持する前記フレームに支持、固定されている。そして、各熱風供給部61は、図示しない加熱部(加熱ファン)を内蔵しており、この加熱部で加熱された熱風が、フィルム成形部800から搬送された溶融フィルム150に対して吹き付けられる。これにより、溶融フィルム150が加熱されるため、溶融フィルム150に残存する溶媒が除去され、溶融フィルム150が乾燥し、その結果、樹脂フィルム1が形成される。この樹脂フィルム1が、搬送ローラ41の作動(回転)により、フィルム乾燥部600よりも下流側に搬送され、この下流側に位置する巻取りローラ46に巻き取られる。
【0043】
以上のような樹脂フィルム製造装置500を用いた樹脂フィルムの製造方法により、樹脂フィルム1が製造される。
【0044】
樹脂フィルムの製造方法(本発明の樹脂フィルムの製造方法)は、溶融状態または軟化状態の樹脂組成物を、帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150として押し出す押出工程と、溶融フィルム150の第1面15および第2面13を平坦化するとともに、その厚さを所定の厚さに設定して、溶融フィルム150を成形する成形工程と、溶融状態または軟化状態の樹脂組成物が成形された溶融フィルム150を、溶融フィルム150を押し出す押出し方向に延伸する延伸工程と、溶融フィルム150を押し出す押出し方向に延伸された溶融フィルム150を加熱することで乾燥させる乾燥工程とを有している。
【0045】
以下、樹脂フィルム1を製造するための各工程について詳述する。
[A]まず、溶融状態または軟化状態とされた樹脂組成物を、帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150として押し出す(押出工程)。
【0046】
この押出工程では、樹脂フィルム1を形成するための熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂組成物が、フィルム供給部700が備える押出機210に収納されている。そして、溶融状態または軟化状態とされた押出機210に収納された樹脂組成物が、混練機230に供給されると、この混練機230の作動により、溶融状態または軟化状態で混練される。その後、溶融状態または軟化状態とされた樹脂組成物がフィルム状をなす溶融フィルム150として、混練機230、配管212を介して、Tダイ240が有する開口部241からフィルム成形部800に押し出される。これにより、溶融状態または軟化状態の樹脂組成物が、帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150として、フィルム成形部800に連続的に送り出される。したがって、溶融フィルム150(樹脂組成物)が押し出される押出し方向が、溶融フィルム150が流れる(搬送される)MD(流れ方向)となる。
【0047】
この樹脂組成物として、本発明では、形成すべき樹脂フィルム1の主材料である熱可塑性樹脂の他に、さらに、熱可塑性樹脂を溶解する溶解性を有する溶媒を含むものが用いられる。
【0048】
したがって、樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とするために、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂の軟化温度よりも低い温度に設定することが可能となる。このように、樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とする際の加熱温度を、樹脂組成物に溶媒が含まれない場合と比較して、低い温度に設定することができる。そのため、熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1の製造を、低コスト化を図って実施し得る。
【0049】
また、特に、高ガラス転移点を有する熱可塑性樹脂すなわち高Tg樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1を製造する場合には、樹脂組成物に溶媒が含まれていないと、樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とする際に、熱可塑性樹脂(高Tg樹脂)が高温度に加熱されることに起因して、熱可塑性樹脂(高Tg樹脂)が低分子化して樹脂組成物に黄変や分子量低下が生じたり、次工程[B]において、溶融フィルム150を成形する際に、溶融フィルム150が収縮することに起因して、溶融フィルム150にカールが生じることがある。これに対して、樹脂組成物に溶媒が含まれることで、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂(高Tg樹脂)の軟化温度よりも低い温度に設定することができる。そのため、樹脂組成物における黄変の発生、および、溶融フィルム150における分子量低下およびカールの発生を的確に抑制または防止することができる。したがって、優れた透明性を有し、かつ、優れた平坦性を有する樹脂フィルム1を製造することができる。
【0050】
熱可塑性樹脂としては、形成すべき樹脂フィルム1の種類に応じて適宜選択され、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66のようなポリアミド系樹脂、熱可塑性ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンのようなフッ素系樹脂が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
熱可塑性樹脂は、これらの中でも、ポリビニルアルコール系樹脂およびポリノルボルネン系樹脂であることが好ましい。すなわち、これらの熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1を成形する際に、本発明を適用して、樹脂フィルム1を成形するために用いられる樹脂組成物として、熱可塑性樹脂と溶媒とを含むものを用いることで、これらの熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1を、その低熱膨張率化が図られたものとして、確実に低コスト化を図って成形することができる。
【0052】
また、これらの熱可塑性樹脂の中でも、ポリノルボルネン系樹脂は、ガラス転移点が200℃以上のように高Tg(高ガラス転移点)を示すものを含む、いわゆる高Tg樹脂の1種である。したがって、ポリノルボルネン系樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1を成形する際に、本発明を適用して、樹脂フィルム1を成形するために用いられる樹脂組成物として、熱可塑性樹脂と溶媒とを含むものを用いることで、ポリノルボルネン系樹脂の低分子化に伴う樹脂組成物における黄変の発生、および、溶融フィルム150におけるカールの発生を的確に抑制または防止することができる。そのため、優れた透明性を有し、かつ、優れた平坦性を有する、ポリノルボルネン系樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1を確実に成形することができる。
【0053】
なお、ポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)としては、特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、及び、アミノ基変性ポリビニルアルコール等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
ポリノルボルネン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1Y)で示される構造単位を含むものが挙げられる。これにより、耐熱性に優れ、また、低誘電率化が図られた、樹脂フィルム1を確実に得ることができる。
【0055】
【0056】
一般式(1Y)において、R1~R4は、それぞれ、水素、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基、芳香族基、脂環族基、グリシジルエーテル基、下記置換基(2Y)のいずれかである。また、mは0~4の整数である。
【0057】
【0058】
一般式(2Y)において、R5は、それぞれ、水素、メチル基またはエチル基であり、R6、R7およびR8は、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基、線状または分岐状の炭素数1~20のアルコキシ基、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキルカルボニルオキシ基、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキルペルオキシ基、置換もしくは未置換の炭素数6~20のアリールオキシ基のいずれかである。また、nは0~5の整数である。
【0059】
前記線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基としては、特に限定されるものではないが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0060】
前記芳香族基としては、特に限定されるものではないが、フェニル基、フェネチル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0061】
前記脂環族基としては、特に限定されるものではないが、シクロヘキシル基、ノルボルネニル基、ジヒドロジシクロペンタジエチル基、テトラシクロドデシル基、メチルテトラシクロドデシル基、テトラシクロドデカジエチル基、ジメチルテトラシクロドデシル基、エチルテトラシクロドデシル基、エチリデニルテトラシクロドデシル基、フェニルテトラシクロドデシル基、シクロペンタジエチル基の三量体等の脂環族基等が挙げられる。
【0062】
前記置換基(2Y)中のR5は、特に限定されるものではないが、水素、メチル基またはエチル基等が挙げられる。
【0063】
前記置換基(2Y)中のR6、R7およびR8は、それぞれ、特に限定されるものではないが、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基、線状または分岐状の炭素数1~20のアルコキシ基、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキルカルボニルオキシ基、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキルペルオキシ基、置換もしくは未置換の炭素数6~20のアリールオキシ基のいずれかが挙げられる。
【0064】
そのような置換基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基、アセトキシ基、プロピオキシ基、ブチロキシ基、メチルペルオキシ基、イソプロピルペルオキシ基、t-ブチルペルオキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシフェノキシ基、ナフチロキシ基等が挙げられる。
【0065】
また、前記一般式(1Y)中のmは、0~4の整数であり、特に限定されるわけではないが、0または1が好ましい。mが0または1である場合、前記一般式(1Y)で示される構造単位は、下記一般式(3Y)または(4Y)で示される。
【0066】
【0067】
【0068】
以上のことから、前記一般式(1Y)で示される構造単位は、具体的には、例えば、ノルボルネン、5-メチルノルボルネン、5-エチルノルボルネン、5-プロピルノルボルネン、5-ブチルノルボルネン、5-ペンチルノルボルネン、5-ヘキシルノルボルネン、5-へプチルノルボルネン、5-オクチルノルボルネン、5-ノニルノルボルネン、5-デシルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、シクロヘキサンノルボルネン、5-フェネチルノルボルネン、5-トリエトキシシリルノルボルネン、5-トリメチルシリルノルボルネン、5-トリメトキシシリルノルボルネン、5-メチルジメトキシシリルノルボルネン、5-ジメチルメトキシノルボルネン、5-グリシジルオキシメチルノルボルネン等のノルボルネン系モノマーを重合することにより得ることができる。なお、前記ノルボルネン系モノマーを重合する際は、単一のノルボルネン系モノマーで重合してもよく、複数のノルボルネン系モノマーを共重合してもよい。
【0069】
また、ポリノルボルネン系樹脂は、特に限定されるわけではなく、前記一般式(1Y)で示される単一の構造単位で形成されている単一重合体であってもよく、また、複数の構造単位で形成されている共重合体であってもよいが、特に、前記一般式(3Y)で表される構造単位を有する共重合体、より具体的には、下記一般式(5Y)で示される共重合体であることが好ましい。これにより、ポリノルボルネン系樹脂を、ガラス転移点が200℃以上を示すものに、より確実にすることができる。そのため、本発明の樹脂フィルムの製造方法が、より好適に適用される。
【0070】
【0071】
前記一般式(5Y)中、nおよびmは、それぞれ、独立して、1以上の整数であり、基Xは、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基、芳香族基、脂環族基、グリシジルエーテル基のうちのいずれかである。
【0072】
このようなポリノルボルネン系樹脂(PNB系樹脂)は、その具体例として、ポリノルボルネン、ポリメチルノルボルネン、ポリエチルノルボルネン、ポリプロピルノルボルネン、ポリブチルノルボルネン、ポリペンチルノルボルネン、ポリヘキシルノルボルネン、ポリへプチルノルボルネン、ポリオクチルノルボルネン、ポリノニルノルボルネン、ポリデシルノルボルネン、ポリフェネチルノルボルネン、ポリトリエトキシシリルノルボルネン、ポリトリメチルシリルノルボルネン、ポリトリメトキシシリルノルボルネン、ポリメチルジメトキシシシリルノルボルネン、ポリジメチルメトキシノルボルネン、ポリグリシジルオキシメチルノルボルネン等の単一重合体、ノルボルネン-ヘキシルノルボルネン共重合体、ノルボルネン-エチリデンノルボルネン共重合体、ノルボルネン-シクロヘキサンノルボルネン共重合体、ノルボルネン-トリエトキシシリルノルボルネン共重合体、ノルボルネン-グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体、ブチルノルボルネン-トリエトキシシリルノルボルネン共重合体、デシルノルボルネン-トリエトキシシリルノルボルネン共重合体、ブチルノルボルネン-グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体、デシルノルボルネン-グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体、デシルノルボルネン-ブチルノルボルネン-フェネチルノルボルネン-グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体等の共重合体が挙げられる。
【0073】
また、前記一般式(1Y)で示される構造単位を有するポリノルボルネン系樹脂は、その重量平均分子量(Mw)が、50,000g/mol以上1,000,000g/mol以下であることが好ましく、100,000g/mol以上500,000g/mol以下であることがより好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定法を用いて、ポリスチレン標準物質に関する検量線を作成し、この検量線を用いて算出することで得ることができる。
【0074】
なお、前記一般式(1Y)で示される構造単位を有するポリノルボルネン系樹脂は、特に限定されるわけではないが、開環メタセシス重合(以下、ROMPとも記載する。)、ROMPと水素化反応の組み合わせ、ラジカルまたはカチオンによる重合により合成することができる。
【0075】
より具体的には、前記一般式(1Y)で示される構造単位を有するポリノルボルネン系樹脂は、例えば、パラジウムイオン源を含有する触媒、ニッケルと白金を含有する触媒、ラジカル開始剤等を用いることにより合成することができる。
【0076】
なお、前述の通り、成形される樹脂フィルム1に含まれる熱可塑性樹脂としてポリノルボルネン系樹脂を選択することで、樹脂フィルム1の低誘電率化を図ることができるが、具体的には、周波数10GHzにおける樹脂フィルム1の比誘電率(Dk(-))は、好ましくは1.5以上3.5以下、より好ましくは2.0以上3.0以下の範囲内に設定し得る。また、周波数10GHzにおける誘電正接(Df(-))は、好ましくは0.00010以上0.00200以下、より好ましくは0.00020以上0.00100以下の範囲内に設定し得る。
【0077】
また、樹脂フィルム1の比誘電率(Dk(-))および誘電正接(Df(-))は、JIS C 2526に準拠した、空洞共振器法による誘電率測定装置を用いて測定することができる。
【0078】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、デカン、メシチレン、トルエン、キシレン類等の炭化水素類、アニソール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジグライム等のアルコール/エーテル類、炭酸エチレン、酢酸エチル、酢酸N-ブチル、乳酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトン等のエステル/ラクトン類、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン等のケトン類、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド/ラクタム類が挙げられ、形成すべき樹脂フィルム1の種類に応じて選択された熱可塑性樹脂を溶解する溶解性を示すものが用いられる。
【0079】
この溶媒は、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂の軟化温度よりも確実に低い温度に設定するために、熱可塑性樹脂を溶解する溶解度が高い、いわゆる良溶媒が好ましく選択され、具体的には、熱可塑性樹脂に対するハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)が7.00(J/cm3)0.5以下であるものが好ましく、3.00(J/cm3)0.5以下であるものがより好ましく、2.00(J/cm3)0.5以下であるものがさらに好ましく選択される。このような溶媒を、熱可塑性樹脂を高い溶解度で溶解し得る良溶媒であると言うことができる。したがって、樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とするために、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂の軟化温度よりも確実に低い温度に設定することができる。
【0080】
なお、本明細書におけるハンセン(Hansen)溶解度パラメータは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、分散項δD,極性項δP,および水素結合項δHの3成分に分割し、3次元空間に表したものである。
【0081】
分散項δDは、分散力による効果、極性項δPは、双極子間力による効果、さらに水素結合項δHは、水素結合力による効果を示す。
δD: 分子間の分散力に由来するエネルギー
δP: 分子間の極性力に由来するエネルギー
δH: 分子間の水素結合力に由来するエネルギー
で表すことができる(なお、それぞれの単位は(J/cm3)0.5である。)。
【0082】
ヒルデブランド(Hildebrand)のSP値と、ハンセン(Hansen)のHSPの間には、以下に示す関係が認められる。
ヒルデブランドのSP2=δD2+δP2+δH2
【0083】
また、HSPの定義と計算は、Charles M.Hansen著、Hansen Solubility Parameters: A Users Handbook(CRCプレス,2007年)に記載されている。
【0084】
ここで、それぞれ、分散項はファンデルワールス力、極性項はダイポール・モーメント、水素結合項は水、アルコールなどによる作用を反映している。また、HSPによるベクトルが似ているもの同士は溶解性が高いと判断できる。
【0085】
HSP距離(Ra)は、例えば、溶質(熱可塑性樹脂)のHSPを(δD1,δP1,δH1)とし、溶媒のHSPを(δD2,δP2,δH2)としたとき、下記の式により算出することができる。
【0086】
HSP距離(Ra)=
{4×(δD1-δD2)2+(δP1-δP2)2+(δH1-δH2)2}0.5
【0087】
また、溶媒のハンセンのHSPは、混合比率として体積を用いて、下記の式により算出することができる。
【0088】
[δDm,δPm,δHm]=
[(a×(δD1+b×δD2),(a×(δP1+b×δP2),(a×(δH1+b×δH2)]/(a+b)
【0089】
このような良溶媒としては、例えば、熱可塑性樹脂としてポリビニルアルコール系樹脂を選択した場合には、水(沸点100.0℃)が挙げられる。すなわち、熱可塑性樹脂としてポリビニルアルコール系樹脂を選択した場合には、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂と溶媒との組み合わせとして、ポリビニルアルコール系樹脂と水との組み合わせが挙げられる。
【0090】
また、熱可塑性樹脂としてポリノルボルネン系樹脂を選択した場合には、良溶媒としては、例えば、デカン(沸点174.1℃)、メシチレン(沸点164.1℃)およびトルエン(沸点110.7℃)のうちの少なくとも1種が挙げられる。すなわち、熱可塑性樹脂としてポリノルボルネン系樹脂を選択した場合には、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂と溶媒との組み合わせとして、ポリノルボルネン系樹脂と、デカン、メシチレンおよびトルエンのうちの少なくとも1種との組み合わせが挙げられる。
【0091】
また、溶媒は、樹脂組成物における含有量が、好ましくは5.0重量%以上50.0重量%以下、より好ましくは15.0重量%以上30.0重量%以下に設定される。樹脂組成物における溶媒の含有量を、かかる範囲内に設定することにより、樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とするために、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂の軟化温度よりも確実に低い温度に設定することができる。また、かかる範囲内のように、樹脂組成物中における溶媒の含有量を比較的少量に設定することにより、次工程[B]および後工程[D]における溶融フィルム150の加熱を経ることによる、溶融フィルム150の乾燥を迅速に実施することができる。さらに、かかる範囲内のように、樹脂組成物中における溶媒の含有量が比較的少量であっても、溶融状態または軟化状態を示す樹脂組成物の100℃における貯蔵弾性率G’を、下記範囲内の大きさに確実に設定することができる。
【0092】
樹脂組成物が溶媒を含有することで、前述の通り、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂の軟化温度よりも確実に低い温度に設定し得るが、樹脂組成物を加熱する加熱温度は、選択する熱可塑性樹脂の種類によって異なるが、概ね、好ましくは70℃以上150℃以下、より好ましくは80℃以上120℃以下の温度範囲に設定される。樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とするために、樹脂組成物を加熱する加熱温度をかかる範囲内に設定し得ることで、低コスト化が図られた樹脂フィルム1を得ることができる。また、樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とする際に、熱可塑性樹脂が低分子化して樹脂組成物に黄変が生じるのを的確に抑制または防止することができるため、優れた透明性を有する樹脂フィルム1を得ることができる。
【0093】
また、樹脂組成物は、溶媒の添加により、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂の軟化温度よりも低い温度に設定したとしても、溶融状態または軟化状態を示すものとなるが、具体的には、溶融状態または軟化状態を示す樹脂組成物は、100℃における貯蔵弾性率G’が1×104Pa以上1×107Pa以下の範囲内に設定されているのが好ましく、1×104Pa以上1×106Pa以下の範囲内に設定されているのがより好ましい。貯蔵弾性率G’が前記範囲内に設定されることにより、溶融状態または軟化状態の樹脂組成物を、Tダイ240が有する開口部241から、帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150として、フィルム成形部800に対して、確実に送り出すことができる。
【0094】
さらに、熱可塑性樹脂と溶媒とを含む樹脂組成物は、加熱しつつ混練することで、溶融状態または軟化状態を示すものとなるが、混練機230で樹脂組成物を混練する際に、樹脂組成物に掛かるせん断応力は、好ましくは3KPa以上1800KPa以下、より好ましくは6KPa以上1400KPa以下に設定される。これにより、樹脂組成物を、溶融状態または軟化状態を確実に示すものとし得ることから、Tダイ240が有する開口部241から、帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150として、フィルム成形部800に対して、確実に送り出すことができる。
【0095】
なお、樹脂組成物には、熱可塑性樹脂と溶媒との他に、添加剤が含まれていてもよい。この添加剤としては、例えば、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、難燃剤および安定剤等が挙げられる。
【0096】
[B]次に、溶融状態または軟化状態を示す樹脂組成物が帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150の第1面15および第2面13を平坦化するとともに、その平均厚さを所定の厚さに設定して、溶融フィルム150(樹脂組成物)を成形する(成形工程)。
【0097】
この成形工程は、タッチロール110とタッチロール120との間に、溶融フィルム150を供給した後に、さらに、タッチロール120とタッチロール130との間に、溶融フィルム150を供給することにより行われる。
【0098】
この際、タッチロール110の外周面、タッチロール120の外周面およびタッチロール130の外周面は、それぞれ、平滑性を有するロール状をなしている。そのため、溶融フィルム150の第1面15および第2面13は、それぞれ、各ロールの平滑性を有する外周面に押し当てられることにより、平坦化される。
【0099】
また、タッチロール110の外周面とタッチロール120の外周面との離間距離、および、タッチロール120の外周面とタッチロール130の外周面との離間距離は、それぞれ、形成すべき樹脂フィルム1の厚さに設定され、この離間距離を所定の大きさに適宜設定することで、所望の厚さの溶融フィルム150、ひいては樹脂フィルム1を得ることができる。
【0100】
このように、本工程[B]において、タッチロール110、タッチロール120およびタッチロール130はそれぞれ、第1面15および第2面13を平坦化するため、ならびに、溶融フィルム150の厚さを設定するために用いられる。
【0101】
このようなタッチロール110、120、130を用いた、溶融フィルム150における第1面15および第2面13の平坦化において、本発明では、溶融状態または軟化状態を示す樹脂組成物として樹脂組成物と溶媒とを含むものが用いられている。これにより、前工程[A]において説明した通り、この樹脂組成物が帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150にカールが生じるのを的確に抑制または防止して、溶融フィルム150を、フィルム供給部700からフィルム成形部800(タッチロール110、120、130)に供給することができる。そのため、タッチロール110、120、130を用いた、溶融フィルム150における第1面15および第2面13の平坦化、さらには、溶融フィルム150の厚さの設定を優れた精度で実施することができる。
【0102】
また、溶融フィルム150におけるカールは、特に、熱可塑性樹脂として、ポリノルボルネン系樹脂のうち、ガラス転移点が200℃以上を示す高Tg樹脂を選択し、さらに、厚膜の溶融フィルム150を成形した場合に、樹脂組成物中に溶媒が含まれていないと、高頻度に発生することとなるが、このような場合に、本発明を適用して、樹脂組成物として、高Tg樹脂と溶媒とを含むものを用いることで、前記カールの発生を的確に抑制または防止することができる。そのため、後工程[C]において、その平均厚さが20μm以上500μm以下に設定された厚膜の樹脂フィルム1であっても、優れた精度で成形することができる。
【0103】
ここで、本発明では、本工程[B]における、溶融フィルム150(樹脂組成物)の成形の際に、溶融フィルム150(樹脂組成物)を加熱する。これにより、溶融フィルム150に含まれる溶媒の一部を、この溶融フィルム150から除去する。
【0104】
この溶融フィルム150(樹脂組成物)の加熱は、タッチロール110~130のうちの少なくとも1つが加熱手段を備えており、この加熱手段を備えるロールの加熱により実施される。
【0105】
本工程[B]において、溶融フィルム150(樹脂組成物)を加熱する加熱温度は、好ましくは80℃以上160℃以下程度、より好ましくは100℃以上140℃以下程度に設定される。これにより、溶融フィルム150に含まれる溶媒の一部を、溶融フィルム150から確実に除去することができる。
【0106】
また、この溶媒の除去により、溶融フィルム150に含まれる溶媒の含有量、すなわち樹脂組成物に残存する溶媒の残存量は、5.0重量%以上15.0重量%以下程度に設定されるのが好ましく、7.0重量%以上13.0重量%以下程度に設定されるのがより好ましい。これにより、次工程[C]において、溶融フィルム150(樹脂組成物)を、MD(流れ方向)に沿って延伸させる際に、溶融フィルム150に含まれる熱可塑性樹脂を、TD(流れに直角な方向)に沿って確実に配向させることができる。
【0107】
さらに、この溶融フィルム150は、このものに含まれる溶媒としてのトルエンの含有量を10重量%としたとき、30℃および60℃における貯蔵弾性率G’が、それぞれ、0.50GPa以上2.50GPa以下の範囲内に設定されているのが好ましく、1.00GPa以上1.70GPa以下の範囲内に設定されているのがより好ましい。前記30℃および60℃における貯蔵弾性率G’がそれぞれ前記範囲内に設定されることにより、次工程[C]において、溶融フィルム150が搬送されるMDに沿って延伸する際に、溶融フィルム150に含まれる熱可塑性樹脂を、溶融フィルム150のMDに直交するTDに沿って確実に配向させることができる。
【0108】
[C]次に、第1面15および第2面13が平坦化され、かつ、所定の厚さに設定された、溶融状態または軟化状態の樹脂組成物としての溶融フィルム150を、この溶融フィルム150(樹脂組成物)が押し出された押出し方向、すなわち溶融フィルム150(樹脂組成物)が搬送されるMD(流れ方向)に沿って延伸する(延伸工程)。
【0109】
この溶融フィルム150の押出し方向に沿った延伸により、溶融フィルム150(樹脂組成物)に含まれる熱可塑性樹脂を、溶融フィルム150(樹脂組成物)の押出し方向すなわち溶融フィルム150のMD(流れ方向)に直交するTD(流れに直角な方向)に沿って配向させることができる。そのため、次工程[D]において得られる樹脂フィルム1を、低熱膨張率化が図られたものとし得る。
【0110】
この延伸工程は、溶融フィルム150(樹脂組成物)を、タッチロール130と巻取りローラ46との間を搬送させる際に実施され、タッチロール130と巻取りローラ46との間に位置するフィルム乾燥部600において、溶融フィルム150の加熱により、このものに含まれる溶媒が除去されて樹脂フィルム1が形成されるまで行われる。
【0111】
なお、この延伸工程における、溶融フィルム150(樹脂組成物)のMD(流れ方向)に沿った延伸は、搬送ローラ41による溶融フィルム150の搬送速度、および、巻取りローラ46による樹脂フィルム1の巻取り速度と、タッチロール110~130による溶融フィルム150の搬送速度とにおいて、前者の方が速く設定されており、この速さの違いにより、溶融フィルム150(樹脂組成物)に、そのMD(流れ方向)に延びる張力が溶融フィルム150に作用することに基づいて実施される。
【0112】
また、本工程[C]において、溶融フィルム150(樹脂組成物)を延伸する延伸倍率は、好ましくは1.2倍以上9.0倍以下程度、より好ましくは1.5倍以上7.0倍以下程度に設定される。これにより、溶融フィルム150(樹脂組成物)が溶融フィルム150のMD(流れ方向)に沿って延伸された際に、この延伸方向に直交するTD(流れに直角な方向)に沿って、溶融フィルム150(樹脂組成物)に含まれる樹脂組成物を確実に配向させることができる。
【0113】
さらに、本工程[C]において、溶融フィルム150(樹脂組成物)を延伸する際の溶融フィルム150(樹脂組成物)の温度、すなわち、タッチロール130とフィルム乾燥部600との間を搬送させる際の雰囲気の温度は、好ましくは40℃以上80℃以下程度、より好ましくは50℃以上70℃以下程度に設定される。これにより、溶融フィルム150(樹脂組成物)が溶融フィルム150のMD(流れ方向)に沿って延伸された際に、この延伸方向に沿って、溶融フィルム150(樹脂組成物)に含まれる樹脂組成物をTD(流れに直角な方向)に確実に配向させることができる。
【0114】
[D]次に、溶融状態または軟化状態の樹脂組成物としての溶融フィルム150が搬送されるMD(流れ方向)に沿って延伸された溶融フィルム150(樹脂組成物)を加熱することで乾燥させる(乾燥工程)。
【0115】
これにより、樹脂組成物が帯状をなすフィルムとされた樹脂フィルム1を、樹脂フィルム1が搬送されるMD(流れ方向)に沿って延伸された状態で得ることができる。
【0116】
この乾燥工程は、MD(流れ方向)に沿って延伸された溶融フィルム150を、フィルム乾燥部600に搬送することにより行われる。この溶融フィルム150のフィルム乾燥部600への搬送により、各熱風供給部61から熱風が、第1面15および第2面13が平坦化された溶融フィルム150に対して吹き付けられる。その結果、樹脂組成物中に含まれる溶媒が揮発して、溶融フィルム150が加熱・乾燥されることで、第1面15および第2面13が平坦化された樹脂フィルム1が形成される。
【0117】
このとき、前記工程[C]における、溶融フィルム150の押出し方向に沿った延伸により、溶融フィルム150(樹脂組成物)に含まれる熱可塑性樹脂が、溶融フィルム150のTD(流れに直角な方向)に沿って配向しており、本工程[D]において、この状態を維持して、溶融フィルム150が加熱・乾燥されて樹脂フィルム1が形成される。したがって、形成される樹脂フィルム1を、低熱膨張率化が図られたものとし得る。
【0118】
なお、形成される樹脂フィルム1に含まれる熱可塑性樹脂としてポリノルボルネン系樹脂を選択した場合、樹脂フィルム1の熱膨張率は、具体的には、ポリノルボルネン系樹脂のTg(ガラス転移点)以下での線熱膨張率(CTE)が好ましくは40ppm/K以下、より好ましくは15ppm/K以上30ppm/K以下に設定される。これにより、形成された樹脂フィルム1の低熱膨張率化が図られていると言うことができる。ここで、ポリノルボルネン系樹脂のTg以下での線熱膨張率(CTE)は、例えば、樹脂フィルム1で構成される試験片(幅10mm×長さ10mm)を作製し、デジタル画像相関法を用いて、50~150℃の昇温過程における前記試験片の延伸方向における法線歪を抽出し、その法線歪を温度の関数として線形近似した直線の傾きから算出することができる。
【0119】
また、本工程[D]において、溶融フィルム150(樹脂組成物)を加熱する加熱温度は、好ましくは100℃以上180℃以下程度、より好ましくは120℃以上160℃以下程度に設定される。これにより、溶融フィルム150に残存する溶媒を、溶融フィルム150から確実に除去して、樹脂フィルム1を得ることができる。
【0120】
以上のような工程を経ることで、熱可塑性樹脂を主材料として構成され、この熱可塑性樹脂がTD(流れに直角な方向)に沿って配向している樹脂フィルム1が製造される。
【0121】
以上、本発明の樹脂フィルムの製造方法について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0122】
例えば、本発明の樹脂フィルムの製造方法では、任意の目的で、1以上の工程を追加することができる。
【0123】
また、前記実施形態では、溶融フィルム150(樹脂組成物)が搬送されるMDに沿って延伸される場合について説明したが、この場合に限定されず、溶融フィルム150(樹脂組成物)を、TD(流れに直角な方向)に沿って延伸するようにしてもよいし、MDとTDとの双方に沿って延伸するようにしてもよい。なお、溶融フィルム150を、TDに沿って延伸する場合、タッチロール130と巻取りローラ46との間に、搬送される溶融フィルム150をTDに沿って延伸し得る引張装置を配置することで実施することができる。
【実施例0124】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0125】
1.原材料の準備
まず、各実施例および各比較例の樹脂フィルム1の製造に用いた原材料を以下に示す。
【0126】
(PNB系樹脂1)
PNB系樹脂1として、ノルボルネン(NB)-ヘキシルノルボルネン(HexylNB)共重合体(Promerus社製、NB:HexylNB=80:20、ガラス転移点:295℃、重量平均分子量(Mw):2.0×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0127】
(PNB系樹脂2)
PNB系樹脂2として、ノルボルネン(NB)-ヘキシルノルボルネン(HexylNB)共重合体(Promerus社製、NB:HexylNB=95:5、ガラス転移点:310℃、重量平均分子量(Mw):1.5×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0128】
(PNB系樹脂3)
PNB系樹脂3として、ノルボルネン(NB)-エチリデンノルボルネン(EthylideneNB)共重合体(Promerus社製、NB:EthylideneNB=80:20、ガラス転移点:310℃、重量平均分子量(Mw):1.9×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0129】
(PNB系樹脂4)
PNB系樹脂4として、ノルボルネン(NB)-エチリデンノルボルネン(EthylideneNB)共重合体(Promerus社製、NB:EthylideneNB=95:5、ガラス転移点:312℃、重量平均分子量(Mw):1.9×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0130】
(PNB系樹脂5)
PNB系樹脂5として、ノルボルネン(NB)-シクロヘキサンノルボルネン(CyclohexaneNB)共重合体(Promerus社製、NB:CyclohexaneNB=80:20、ガラス転移点:300℃、重量平均分子量(Mw):1.5×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0131】
(PNB系樹脂6)
PNB系樹脂6として、ノルボルネン(NB)-シクロヘキサンノルボルネン(CyclohexaneNB)共重合体(Promerus社製、NB:CyclohexaneNB=95:5、ガラス転移点:305℃、重量平均分子量(Mw):1.8×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0132】
(PNB系樹脂7)
PNB系樹脂7として、ポリシクロオレフィンノルボルネン(COP)(日本ゼオン株式会社社製、ガラス転移点:155℃、黄変開始温度:350℃を用意した。
【0133】
(溶媒1)
溶媒1として、トルエン(関東化学社製、「40180-01」、沸点:110.7℃、)を用意した。
【0134】
1.樹脂フィルムの形成
[実施例1]
[1]まず、PNB系樹脂1(NB:HexylNB=80:20)と、溶媒1(トルエン)とを、それぞれの含有量が、50重量%と50重量%となるように、撹拌・混合することにより調製することで、樹脂組成物を準備した。
【0135】
なお、PNB系樹脂1(NB:HexylNB=80:20)に対する、溶媒1(トルエン)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)を、計算ソフトHSPiP 5th edition(http://pirika.com/JP/HSP/index-j.htmlから入手)を用いて計算したところ2.60(J/cm3)0.5であった。
【0136】
[2]次に、調製された樹脂組成物を、
図2に示す樹脂フィルム製造装置500が備える押出機210に収納し、その後、押出機210から混練機230に供給した。そして、2軸の混練機230における回転数を70rpm、加熱温度を100℃、混練時間を1分とする条件で、混練機230により、PNB系樹脂1(NB:HexylNB=80:20)と溶媒1(トルエン)とを樹脂組成物中で混練した後に、この混練された樹脂組成物をTダイ240に供給した後、Tダイ240の開口部241から、軟化状態とされた溶融フィルム150としてフィルム成形部800に押出した。
【0137】
[3]次に、開口部241から押出されたフィルム状をなす溶融フィルム150を、タッチロール110とタッチロール120との間、および、タッチロール120とタッチロール130との間で挾持することで、溶融フィルム150の第1面15および第2面13を平坦化するとともに、タッチロール110~130による溶融フィルム150の加熱により、溶融フィルム150における溶媒の残存率が10重量%となるまで溶媒を溶融フィルム150から除去した。また、溶融フィルム150の30℃および60℃における貯蔵弾性率G’は、動的粘弾性測定装置(DMA、TA Instruments社製、「Q800」)を用いて、昇温速度5℃/分、温度範囲30℃~320℃および角周波数1Hzの条件で測定したところ、それぞれ、1.47GPaおよび1.43GPaであった。
【0138】
[4]次に、この溶融フィルム150を、フィルム乾燥部600に供給されるまでの間、搬送ローラ41による溶融フィルム150の搬送速度、および、巻取りローラ46による樹脂フィルム1の巻取り速度を、タッチロール110~130による溶融フィルム150の搬送速度よりも早く設定することで、溶融フィルム150をMDに沿って延伸した。なお、溶融フィルム150を、フィルム乾燥部600に供給されるまでの間の雰囲気の温度は、60℃に設定した。なお、このときの溶融フィルム150延伸倍率は、1.39倍であった。
【0139】
[5]次に、このMDに沿って延伸された溶融フィルム150を、フィルム乾燥部600に供給し、この溶融フィルム150に対して、フィルム乾燥部600が備える熱風供給部61から150℃の熱風を60分間吹き付けることで、溶融フィルム150を加熱・乾燥させて、平均厚さ88μmの実施例1の樹脂フィルム1を得た。
【0140】
[実施例2~6]
前記工程[1]において、樹脂組成物中に含まれる熱可塑性樹脂の種類を、表1に示すように変更したこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例2~6の樹脂フィルム1を得た。
【0141】
[比較例1~6]
前記工程[4]において、搬送ローラ41による溶融フィルム150の搬送速度、および、巻取りローラ46による樹脂フィルム1の巻取り速度を、タッチロール110~130による溶融フィルム150の搬送速度と同じ速度に設定することで、溶融フィルム150のMDに沿った延伸を省略したこと以外は、前記実施例1~6とそれぞれ同様にして、比較例1~6の樹脂フィルム1を得た。
【0142】
[比較例7]
前記工程[1]において、樹脂組成物中に含まれる熱可塑性樹脂の種類を、PNB系樹脂7に変更し、また、前記工程[4]において、搬送ローラ41による溶融フィルム150の搬送速度、および、巻取りローラ46による樹脂フィルム1の巻取り速度を、タッチロール110~130による溶融フィルム150の搬送速度と同じ速度に設定することで、溶融フィルム150のMDに沿った延伸を省略したこと以外は、前記実施例1と同様にして、比較例7の樹脂フィルム1を得た。
【0143】
2.評価
各実施例および各比較例の樹脂フィルム1を、以下の方法で評価した。
<線熱膨張率測定試験>
各実施例および各比較例の樹脂フィルム1について、それぞれ、デジタル画像相関法を適用するため、フィルム表面にインクスプレーを噴霧した後、ホットプレート上で100℃、5分乾燥することで、フィルム表面にランダムパターンを作製した。このフィルムから、幅10mm×長さ10mmの大きさのものを切り出して試験片とした。
【0144】
次いで、この試験片を顕微鏡用大型試料冷却加熱ステージ(リンカム社製、「T95―HS」)に設置した後、50~150℃の範囲内において、昇温速度10℃/分、5℃昇温毎に1分保持した直後の試験片表面画像を走査型共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス社製、「LEXT OLS4000」)で撮影した。この昇温、温度保持、撮影を段階的に進めることで得られたデジタル画像を解析することで、50~150℃の昇温過程における試験片の延伸方向における法線歪を抽出し、その法線歪を温度の関数として線形近似した直線の傾きから線熱膨張率を算出することができる。これをガラス転移点(Tg)以下における線熱膨張率(ppm/K)として、各実施例および各比較例の樹脂フィルム1について、それぞれ、算出した。
【0145】
<配向度測定試験>
各実施例および各比較例の樹脂フィルム1について、それぞれ、放射光施設のビームライン(例えば、SPring-8 BL03XUビームライン第二ハッチ)において、樹脂フィルム1の断面方向からのX線回折画像を得た。なお、この際の測定条件は、波長を0.1nm、カメラ長を40cmとした。また、二次元検出器は、Pilatus 1Mを用いた。そして、得られたX線回折画像からポリノルボルネン系樹脂を含む樹脂フィルム1の分子鎖間距離に由来するX線回折強度を円周方向に一次元化したグラフを得た。その後、一次元化したグラフにおける回折強度ピークの半価幅Hを下記式1に代入することで樹脂フィルム1におけるポリノルボルネン系樹脂の配向度を算出した。
【0146】
配向度=(180-H)/180 … (式1)
【0147】
<誘電率測定試験>
各実施例および各比較例の樹脂フィルム1について、それぞれ、幅3.5mm×長さ80mmの大きさのものを切り出して試験片とした。次いで、この試験片に対し、JIS C 2526に準拠した、空洞共振器法による誘電率測定装置(AET社製、「ADMS010c」)を用いて、樹脂フィルム1の比誘電率(Dk(-))および誘電正接(Df(-))を測定した。
【0148】
<黄変度試験>
各実施例および各比較例の樹脂フィルムを得るための樹脂組成物について、それぞれ、試料(幅50mm、長さ50mm、厚さ200μmから500μm)を180℃設定の熱風循環型オーブンで酸素雰囲気下60分間加熱し、成形体を得た。
【0149】
次いで、各実施例および各比較例の樹脂フィルムから得られた成形体について、それぞれ、コニカミノルタ社製、色彩色差計CR-200を用いて、黄変度(ΔYI)を測定し、次のように評価した。
【0150】
◎:ΔYIが8.0以下で外観の変化なし。
〇:ΔYIが8.0超20.0以下で外観変化が若干見られる。
×:ΔYIが20.0超で外観変化が明らかに見られる。
【0151】
<分子量低下試験>
各実施例および各比較例の樹脂フィルム1に含まれる熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定法を用いて、ポリスチレン標準物質に関する検量線を作成し、この検量線を用いて算出することで得た。
【0152】
そして、各実施例および各比較例の樹脂フィルムに含まれる熱可塑性樹脂の原材料における重量平均分子量(Mw)の大きさに基づいて、各実施例および各比較例の樹脂フィルムに含まれる熱可塑性樹脂のMw低下率を測定し、次のように評価した。
【0153】
◎:Mw低下率が5.0%未満で分子量低下が確認されるとは言えない。
〇:Mw低下率が10.0%未満で若干の分子量低下が確認される。
×:Mw低下率が20.0%超で分子量低下が明らかに確認される。
【0154】
<カール試験>
各実施例および各比較例の樹脂フィルム1について、フィルムに生じているカールの発生の有無を目視にて観察した。
【0155】
そして、各実施例および各比較例の樹脂フィルム1において、観察されたカールの状態に基づいて、次のように評価した。
【0156】
◎:カールの発生が認められない。
〇:若干のカールの発生が認められるものの、
樹脂フィルム1としての使用に耐え得る程度のものである。
×:明らかなカールの発生が認められる。
【0157】
以上のようにして得られた各実施例および各比較例の樹脂フィルムにおける評価結果を、それぞれ、下記の表1、表2に示す。
【0158】
【0159】
【0160】
表1、表2に示したように、各実施例では、熱可塑性樹脂としてポリノルボルネン系樹脂を含む樹脂フィルムにおいて、樹脂フィルムがMDに沿って延伸されて、ポリノルボルネン系樹脂がTD(流れに直角な方向)に沿って配向することに起因して、配向していないポリノルボルネン系樹脂を含む各比較例の樹脂フィルムと比較して、低熱膨張率化が図られた結果を示した。