(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156932
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
C08J5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066592
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 英樹
(72)【発明者】
【氏名】和泉 篤士
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA21
4F071AA81
4F071AA86
4F071AF34C
4F071AF40Y
4F071AF54
4F071AH12
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】多孔質体で構成される樹脂フィルムにおいて、この樹脂フィルムに含まれる樹脂材料の種類によらず、比較的容易に樹脂フィルムを多孔質体として成形することができる樹脂フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の樹脂フィルム1の製造方法は、熱可塑性樹脂と良溶媒とを含有する樹脂組成物を、フィルム状に成形する成形工程と、フィルム状に成形された前記樹脂組成物を、前記熱可塑性樹脂の溶解度が前記良溶媒より低い貧溶媒に浸漬する浸漬工程と、前記貧溶媒に浸漬された前記樹脂組成物を、加熱して乾燥させることで、多孔体で構成された樹脂フィルムを得る乾燥工程とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と良溶媒とを含有する樹脂組成物を、
フィルム状に成形する成形工程と、
フィルム状に成形された前記樹脂組成物を、前記熱可塑性樹脂の溶解度が前記良溶媒より低い貧溶媒に浸漬する浸漬工程と、
前記貧溶媒に浸漬された前記樹脂組成物を、加熱して乾燥させることで、多孔体で構成された樹脂フィルムを得る乾燥工程とを有することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記良溶媒は、前記熱可塑性樹脂とのハンセン溶解度パラメータの距離が7.00(J/cm3)0.5以下である請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記貧溶媒は、前記熱可塑性樹脂とのハンセン溶解度パラメータの距離が10.00(J/cm3)0.5以上であり、かつ前記良溶媒と前記貧溶媒とを任意の比率で混合した際に両者が分離することがない請求項2に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記貧溶媒は、その沸点が前記良溶媒の沸点よりも低い請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記成形工程において、前記樹脂組成物に含まれる前記良溶媒の含有量は、5.0重量%以上50.0重量%以下に設定される請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、200℃以上のガラス転移点を有する高Tg樹脂である請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記高Tg樹脂は、ポリノルボルネン系樹脂である請求項6に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ポリノルボルネン系樹脂は、下記一般式(1)で表されるものである請求項7に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【化1】
[前記一般式(1)中、nおよびmは、それぞれ、独立して、1以上の整数であり、基Xは、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基、芳香族基、脂環族基、グリシジルエーテル基のうちのいずれかである。]
【請求項9】
前記樹脂フィルムは、その厚さ方向に切断することで形成された断面において、直径が5μm以下の細孔を含み、小角X線散乱測定(SAXS)により得られた散乱像において、散乱ベクトルの大きさをqとしたとき、前記散乱ベクトルの大きさqが0.05nm-1以上0.5nm-1以下の範囲内で、小角X線散乱強度I(q)がq-4に比例する請求項8に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂組成物は、前記良溶媒の添加により、100℃における貯蔵弾性率G’が1.0×104Pa以上1.0×107Pa以下の範囲内に設定される請求項8または9に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記乾燥工程において、平均厚さが20μm以上500μm以下の前記樹脂フィルムが得られる請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な複数の空孔を備える多孔質体で構成される樹脂フィルムは、近年、薬剤の精製、精製水の製造および水処理等の際に使用される分離精製膜、衣類等に使用される透湿防水フィルム、建材、電子機器等が備える断熱材として使用される断熱フィルム、半導体装置等が備える層間絶縁膜として使用される絶縁フィルム、電池に使用される電池用セパレートフィルムのような各種の分野において広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような多孔質体で構成される樹脂フィルムは、当然、このものが適用される分野に応じて、すなわち、樹脂フィルムが使用される用途に応じて、各種の特性が付与されることが求められる。
【0004】
したがって、樹脂フィルムに求められる特性に応じて、多孔質体を構成する空孔の粒径および形状や、樹脂フィルムに含まれる樹脂材料の種類を、選択し得ることが求められる。そのため、樹脂フィルムに含まれる樹脂材料の種類によらず、多孔質体で構成される樹脂フィルムを比較的容易に成形することができる樹脂フィルムの製造方法の提供が望まれているのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、多孔質体で構成される樹脂フィルムにおいて、この樹脂フィルムに含まれる樹脂材料の種類によらず、比較的容易に樹脂フィルムを多孔質体として成形することができる樹脂フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)~(11)に記載の本発明により達成される。
(1) 熱可塑性樹脂と良溶媒とを含有する樹脂組成物を、
フィルム状に成形する成形工程と、
フィルム状に成形された前記樹脂組成物を、前記熱可塑性樹脂の溶解度が前記良溶媒より低い貧溶媒に浸漬する浸漬工程と、
前記貧溶媒に浸漬された前記樹脂組成物を、加熱して乾燥させることで、多孔体で構成された樹脂フィルムを得る乾燥工程とを有することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。
【0008】
(2) 前記良溶媒は、前記熱可塑性樹脂とのハンセン溶解度パラメータの距離が7.00(J/cm3)0.5以下である上記(1)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0009】
(3) 前記貧溶媒は、前記熱可塑性樹脂とのハンセン溶解度パラメータの距離が10.00(J/cm3)0.5以上であり、かつ前記良溶媒と前記貧溶媒とを任意の比率で混合した際に両者が分離することがない上記(2)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0010】
(4) 前記貧溶媒は、その沸点が前記良溶媒の沸点よりも低い上記(1)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0011】
(5) 前記成形工程において、前記樹脂組成物に含まれる前記良溶媒の含有量は、5.0重量%以上50.0重量%以下に設定される上記(1)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0012】
(6) 前記熱可塑性樹脂は、200℃以上のガラス転移点を有する高Tg樹脂である上記(1)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0013】
(7) 前記高Tg樹脂は、ポリノルボルネン系樹脂である上記(6)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0014】
(8) 前記ポリノルボルネン系樹脂は、下記一般式(1)で表されるものである上記(7)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【化1】
[前記一般式(1)中、nおよびmは、それぞれ、独立して、1以上の整数であり、基Xは、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基、芳香族基、脂環族基、グリシジルエーテル基のうちのいずれかである。]
【0015】
(9) 前記樹脂フィルムは、その厚さ方向に切断することで形成された断面において、直径が5μm以下の細孔を含み、小角X線散乱測定(SAXS)により得られた散乱像において、散乱ベクトルの大きさをqとしたとき、前記散乱ベクトルの大きさqが0.05nm-1以上0.5nm-1以下の範囲内で、小角X線散乱強度I(q)がq-4に比例する上記(8)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0016】
(10) 前記樹脂組成物は、前記良溶媒の添加により、100℃における貯蔵弾性率G’が1.0×104Pa以上1.0×107Pa以下の範囲内に設定される上記(8)または(9)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【0017】
(11) 前記乾燥工程において、平均厚さが20μm以上500μm以下の前記樹脂フィルムが得られる上記(1)に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、成形すべき、多孔質体で構成される樹脂フィルムについて、樹脂フィルムに含まれる樹脂材料の種類によらず、比較的容易に樹脂フィルムを多孔質体として成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の樹脂フィルムの製造方法を適用して製造される樹脂フィルムの実施形態を示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示す樹脂フィルムを製造する本発明の樹脂フィルムの製造方法が適用された樹脂フィルム製造装置の側面図である。
【
図3】実施例1の樹脂フィルムの断面における電子顕微鏡写真である。
【
図4】実施例1の樹脂フィルムの散乱像における、散乱ベクトルの大きさqと、小角X線散乱強度I(q)との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の樹脂フィルムの製造方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
<樹脂フィルム1の製造方法>
図1は、本発明の樹脂フィルムの製造方法を適用して製造される樹脂フィルムの実施形態を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、
図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0022】
樹脂フィルム1は、
図1に示すように、フィルム状(シート状)をなす多孔質体からなる、熱可塑性樹脂を主材料として構成されるものであり、本発明の樹脂フィルムの製造方法を適用して製造される。
【0023】
以下では、まず、本発明の樹脂フィルムの製造方法を説明するのに先立って、本発明の樹脂フィルムの製造方法が適用された樹脂フィルム製造装置について説明する。
【0024】
(樹脂フィルム製造装置)
図2は、
図1に示す樹脂フィルムを製造する本発明の樹脂フィルムの製造方法が適用された樹脂フィルム製造装置の側面図である。なお、以下の説明では、
図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0025】
図2に示す樹脂フィルム製造装置500は、フィルム供給部700と、フィルム調整部800と、フィルム浸漬部900と、フィルム乾燥部600と、フィルム搬送部400と、を有している。
【0026】
フィルム供給部700は、押出機210と、Tダイ240と、単軸または2軸のような多軸の混練機230とを備え、押出機210に接続された配管212に混練機230が連結され、さらに、この混練機230に配管212を介してTダイ240が接続されている。
【0027】
かかる構成のフィルム供給部700では、樹脂フィルム1を形成するための主材料である樹脂材料としての熱可塑性樹脂と、この熱可塑性樹脂に対する溶解性を示す良溶媒とを含む樹脂組成物が押出機210に収納されている。そして、溶融状態または軟化状態とされた押出機210に収納された樹脂組成物が、混練機230に供給されると、この混練機230の作動により、溶融状態または軟化状態で混練される。その後、溶融状態または軟化状態とされた樹脂組成物がフィルム状をなす溶融フィルム150として、混練機230、配管212およびTダイ240(が有する開口部241)を介して、フィルム調整部800に供給される。
【0028】
フィルム調整部800は、本実施形態では、3つのタッチロール110、120、130を有している。これらのロールは、それぞれ図示しないモータ(駆動手段)により、それぞれ単独回転するように構成されており、例えば、ステンレス鋼等のような金属材料で構成されている。また、これらのロールは、回動軸(中心軸)同士が同じ方向を向いており、互いに離間して配置されている。さらに、各ロールは、例えば、樹脂フィルム製造装置500全体を支持するフレーム(図示せず)に回動可能に支持されている。
【0029】
さらに、これらのタッチロール110~130は、その少なくとも1つが加熱手段を備えており、これにより、フィルム状をなす溶融フィルム150、すなわち、溶融状態または軟化状態とされた樹脂組成物を加熱し得るよう構成されている。
【0030】
これらタッチロール110、120、130の回転により、フィルム供給部700から供給された溶融フィルム150が連続的にフィルム浸漬部900に送り出されるようになっている。このフィルム調整部800に、溶融または軟化された溶融フィルム150をフィルム供給部700から連続的に送り込むことにより、溶融フィルム150の第1面15および第2面13が平坦化されるとともに、溶融フィルム150の厚さが所望の大きさに設定(調整)される。
【0031】
タッチロール110と、タッチロール120とは、外周面が平滑性を有するロールであり、互いに対向配置されている。このようなタッチロール110とタッチロール120との間に、溶融フィルム150を供給することにより、溶融フィルム150の第1面15および第2面13が平坦化される。
【0032】
さらに、タッチロール130は、外周面が平滑性を有するロールであり、タッチロール110およびタッチロール120の後段に配置されている。このようなタッチロール130に、溶融フィルム150を供給することにより、溶融フィルム150の第2面13がより平坦化される。
【0033】
また、タッチロール110と、タッチロール120との間の離間距離、および、タッチロール120と、タッチロール130との間の離間距離を、それぞれ、適宜設定することで、所望の厚さの溶融フィルム150を得ることができる。
【0034】
そして、加熱手段を備えるタッチロール110~130により、第1面15および第2面13が平坦化され、かつ、その厚さが所定の大きさに設定された溶融フィルム150が加熱されることで、この溶融フィルム150に含まれる溶媒の一部が、溶融フィルム150から除去される。
【0035】
なお、本実施形態では、これらフィルム供給部700とフィルム調整部800とにより、熱可塑性樹脂と良溶媒とを含有する樹脂組成物を、フィルム状に成形するフィルム成形部が構成される。
【0036】
フィルム搬送部400は、フィルム調整部800から送り出された溶融フィルム150をフィルム浸漬部900とフィルム乾燥部600とに順次搬入(供給)するとともに、樹脂フィルム1をフィルム乾燥部600から搬出する搬送ローラ41と、フィルム乾燥部600から搬出された樹脂フィルム1を巻取る(巻回する)巻取りローラ46とを有している。
【0037】
なお、各ローラは、それぞれ図示しないモータ(駆動手段)により、それぞれ単独回転するように構成されており、例えば、ステンレス鋼等のような金属材料で構成されている。また、これらのローラは、回動軸(中心軸)同士が同じ方向を向いており、互いに離間して配置されている。さらに、各ローラは、例えば樹脂フィルム製造装置500全体を支持するフレーム(図示せず)に回動可能に支持されている。
【0038】
搬送ローラ41は、それぞれ、外形形状が円柱状をなしている。また、これらの搬送ローラ41は、溶融フィルム150(樹脂フィルム1)の長手方向の途中が第2面13(下面)側で接触しつつ、回転するローラである。これにより、フィルム調整部800(タッチロール130)から送り出された溶融フィルム150を、フィルム乾燥部600に搬入(供給)するとともに、フィルム乾燥部600で乾燥された樹脂フィルム1をフィルム乾燥部600から搬出させることができる。
【0039】
また、巻取りローラ46は、外形形状が円柱状をなし、樹脂フィルム1の搬送方向最下流側に位置して、フィルム乾燥部600すなわち搬送方向上流側から送り出されてきた樹脂フィルム1を巻取るローラである。この巻取りローラ46の回転により、樹脂フィルム1が巻取りローラ46に巻き取られる。
【0040】
フィルム浸漬部900は、浸漬槽92と、浸漬ロール91とを有している。このフィルム浸漬部900は、溶融フィルム150の搬送方向の上流側に位置する2つの搬送ローラ41の間における、フィルム調整部800(タッチロール130)よりも下流側の位置に配置されており、樹脂フィルム製造装置500全体を支持する前記フレームに支持、固定されている。
【0041】
浸漬槽92は、貧溶媒を貯留する貯留槽である。また、浸漬ロール91は、浸漬槽92内に複数(
図2では5つ)のものが設けられており、浸漬槽92に貧溶媒に貯留された際に、各浸漬ロール91が貧溶媒に浸漬する位置(高さ)に配置されている。これらのロールは、例えば、ステンレス鋼等のような金属材料で構成されている。また、これらのロールは、回動軸(中心軸)同士が同じ方向を向いており、本実施形態では、高位置(上側)に配置されたものと低位置(下側)に配置されたものとが、溶融フィルム150の搬送方向の上流から下流に沿って交互に配置されている。さらに、各ロールは、浸漬槽92に対して回動可能に支持されている。
【0042】
これら浸漬ロール91に、溶融フィルム150が折り畳まれるように上下に掛け回されており、浸漬ロール91の回転により、フィルム調整部800から供給された溶融フィルム150が浸漬槽92内を通過した後に、連続的にフィルム乾燥部600に送り出されるようになっている。このフィルム浸漬部900に、所定の厚さに設定(調整)された溶融フィルム150を連続的に送り込むことにより、溶融フィルム150が浸漬槽92内において貧溶媒中に浸漬される。その結果、溶融フィルム150に含まれる良溶媒と、貧溶媒との相互作用により、溶融フィルム150の構造に変化が生じるため、溶融フィルム150に多孔質な構造が形成される。すなわち、多孔質体で構成された溶融フィルム150が形成される。
【0043】
なお、良溶媒と貧溶媒との組み合わせの種類、貧溶媒に対する浸漬時間、溶融フィルム150に含まれる良溶媒の含有量等を適宜変更することにより、多孔質体の空孔率や、多孔質体を構成する空孔(孔部)の粒径および形状等を適宜設定することができる。
【0044】
フィルム乾燥部600は、一対の熱風供給部61を有している。これら熱風供給部61は、溶融フィルム150の搬送方向の下流側に位置する2つの搬送ローラ41の間において、溶融フィルム150の搬送方向のフィルム浸漬部900よりも下流側の位置に、溶融フィルム150に対向して、その上方および下方に1つずつ配置されており、樹脂フィルム製造装置500全体を支持する前記フレームに支持、固定されている。そして、各熱風供給部61は、図示しない加熱部(加熱ファン)を内蔵しており、この加熱部で加熱された熱風が、フィルム浸漬部900から搬送された溶融フィルム150に対して吹き付けられる。これにより、溶融フィルム150が加熱されるため、溶融フィルム150に残存する溶媒(良溶媒と貧溶媒との混合溶媒)が除去され、溶融フィルム150が乾燥し、その結果、多孔質体で構成され、さらに、この多孔質体で構成されることに基づいて白色を呈する樹脂フィルム1が形成される。この樹脂フィルム1が、搬送ローラ41の作動(回転)により、フィルム乾燥部600よりも下流側に搬送され、この下流側に位置する巻取りローラ46に巻き取られる。
【0045】
以上のような樹脂フィルム製造装置500を用いた樹脂フィルムの製造方法により、多孔質体で構成される樹脂フィルム1が製造される。
【0046】
樹脂フィルムの製造方法は、本実施形態では、溶融状態または軟化状態の樹脂組成物を、帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150として押し出す押出工程と、溶融フィルム150の第1面15および第2面13を平坦化するとともに、溶融フィルム150の厚さを所定の厚さに調整することで、溶融フィルム150をフィルム状に成形する調整工程と、溶融状態または軟化状態の樹脂組成物がフィルム状に成形された溶融フィルム150を貧溶媒に浸漬して、溶融フィルム150を多孔質体とする浸漬工程と、溶融フィルム150を加熱することで乾燥させる乾燥工程とを有している。
【0047】
以下、樹脂フィルム1を製造するための各工程について詳述する。
[A]まず、溶融状態または軟化状態とされた樹脂組成物を、帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150として押し出す(押出工程)。
【0048】
この押出工程では、樹脂フィルム1を形成するための熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂組成物が、フィルム供給部700が備える押出機210に収納されている。そして、溶融状態または軟化状態とされた押出機210に収納された樹脂組成物が、混練機230に供給されると、この混練機230の作動により、溶融状態または軟化状態で混練される。その後、溶融状態または軟化状態とされた樹脂組成物がフィルム状をなす溶融フィルム150として、混練機230、配管212を介して、Tダイ240が有する開口部241からフィルム調整部800に押し出される。これにより、溶融状態または軟化状態の樹脂組成物が、帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150として、フィルム調整部800に連続的に送り出される。したがって、溶融フィルム150(樹脂組成物)が押し出される押出し方向が、溶融フィルム150が流れる(搬送される)MD(流れ方向)となる。
【0049】
この樹脂組成物として、本実施形態では、形成すべき樹脂フィルム1の主材料である熱可塑性樹脂の他に、さらに、熱可塑性樹脂を溶解する溶解性を有する良溶媒を含むものが用いられる。
【0050】
したがって、樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とするために、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂の軟化温度よりも低い温度に設定することが可能となる。このように、樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とする際の加熱温度を、樹脂組成物に良溶媒が含まれない場合と比較して、低い温度に設定することができる。そのため、熱可塑性樹脂を主材料として構成される多孔質体からなる樹脂フィルム1の製造を、低コスト化を図って実施し得る。
【0051】
また、特に、高ガラス転移点を有する熱可塑性樹脂すなわち高Tg樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1を製造する場合には、樹脂組成物に良溶媒が含まれていないと、樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とする際に、熱可塑性樹脂(高Tg樹脂)が高温度に加熱されることに起因して、熱可塑性樹脂(高Tg樹脂)が低分子化して樹脂組成物に黄変や分子量低下が生じたり、次工程[B]において、溶融フィルム150の平坦化を図りつつ、その厚さを調整することで、溶融フィルム150を成形する際に、溶融フィルム150が収縮することに起因して、溶融フィルム150にカールが生じることがある。これに対して、本実施形態のように、樹脂組成物に良溶媒が含まれることで、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂(高Tg樹脂)の軟化温度よりも低い温度に設定することができる。そのため、樹脂組成物における黄変の発生、および、溶融フィルム150における分子量低下およびカールの発生を的確に抑制または防止することができる。したがって、優れた平坦性を有し、かつ優れた白色を呈する、多孔質体で構成される樹脂フィルム1を製造することができる。
【0052】
熱可塑性樹脂(樹脂材料)としては、形成すべき樹脂フィルム1の種類、すなわち、樹脂フィルム1に付与すべき特性に応じて適宜選択され、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66のようなポリアミド系樹脂、熱可塑性ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンのようなフッ素系樹脂が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
熱可塑性樹脂は、これらの中でも、ポリビニルアルコール系樹脂およびポリノルボルネン系樹脂であることが好ましい。すなわち、これらの熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1を成形する際に、本実施形態のように、樹脂フィルム1を成形するために用いられる樹脂組成物として、熱可塑性樹脂と良溶媒とを含むものを用いることで、これらの熱可塑性樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1を、確実に低コスト化を図って成形することができる。
【0054】
また、これらの熱可塑性樹脂の中でも、ポリノルボルネン系樹脂は、ガラス転移点が200℃以上のように高Tg(高ガラス転移点)を示すものを含む、いわゆる高Tg樹脂の1種である。したがって、ポリノルボルネン系樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1を成形する際に、本実施形態のように、樹脂フィルム1を成形するために用いられる樹脂組成物として、熱可塑性樹脂と良溶媒とを含むものを用いることで、ポリノルボルネン系樹脂の低分子化に伴う樹脂組成物における黄変の発生、および、溶融フィルム150におけるカールの発生を的確に抑制または防止することができる。そのため、優れた平坦性を有し、かつ、優れた白色を呈する多孔質体からなる、ポリノルボルネン系樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1を確実に成形することができる。
【0055】
なお、ポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)としては、特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、及び、アミノ基変性ポリビニルアルコール等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
ポリノルボルネン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1Y)で示される構造単位を含むものが挙げられる。これにより、耐熱性に優れ、また、低誘電率化が図られた、樹脂フィルム1を確実に得ることができる。
【0057】
【0058】
一般式(1Y)において、R1~R4は、それぞれ、水素、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基、芳香族基、脂環族基、グリシジルエーテル基、下記置換基(2Y)のいずれかである。また、mは0~4の整数である。
【0059】
【0060】
一般式(2Y)において、R5は、それぞれ、水素、メチル基またはエチル基であり、R6、R7およびR8は、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基、線状または分岐状の炭素数1~20のアルコキシ基、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキルカルボニルオキシ基、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキルペルオキシ基、置換もしくは未置換の炭素数6~20のアリールオキシ基のいずれかである。また、nは0~5の整数である。
【0061】
前記線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基としては、特に限定されるものではないが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0062】
前記芳香族基としては、特に限定されるものではないが、フェニル基、フェネチル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0063】
前記脂環族基としては、特に限定されるものではないが、シクロヘキシル基、ノルボルネニル基、ジヒドロジシクロペンタジエチル基、テトラシクロドデシル基、メチルテトラシクロドデシル基、テトラシクロドデカジエチル基、ジメチルテトラシクロドデシル基、エチルテトラシクロドデシル基、エチリデニルテトラシクロドデシル基、フェニルテトラシクロドデシル基、シクロペンタジエチル基の三量体等の脂環族基等が挙げられる。
【0064】
前記置換基(2Y)中のR5は、特に限定されるものではないが、水素、メチル基またはエチル基等が挙げられる。
【0065】
前記置換基(2Y)中のR6、R7およびR8は、それぞれ、特に限定されるものではないが、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基、線状または分岐状の炭素数1~20のアルコキシ基、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキルカルボニルオキシ基、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキルペルオキシ基、置換もしくは未置換の炭素数6~20のアリールオキシ基のいずれかが挙げられる。
【0066】
そのような置換基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基、アセトキシ基、プロピオキシ基、ブチロキシ基、メチルペルオキシ基、イソプロピルペルオキシ基、t-ブチルペルオキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシフェノキシ基、ナフチロキシ基等が挙げられる。
【0067】
また、前記一般式(1Y)中のmは、0~4の整数であり、特に限定されるわけではないが、0または1が好ましい。mが0または1である場合、前記一般式(1Y)で示される構造単位は、下記一般式(3Y)または(4Y)で示される。
【0068】
【0069】
【0070】
以上のことから、前記一般式(1Y)で示される構造単位は、具体的には、例えば、ノルボルネン、5-メチルノルボルネン、5-エチルノルボルネン、5-プロピルノルボルネン、5-ブチルノルボルネン、5-ペンチルノルボルネン、5-ヘキシルノルボルネン、5-へプチルノルボルネン、5-オクチルノルボルネン、5-ノニルノルボルネン、5-デシルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、シクロヘキサンノルボルネン、5-フェネチルノルボルネン、5-トリエトキシシリルノルボルネン、5-トリメチルシリルノルボルネン、5-トリメトキシシリルノルボルネン、5-メチルジメトキシシシリルノルボルネン、5-ジメチルメトキシノルボルネン、5-グリシジルオキシメチルノルボルネン等のノルボルネン系モノマーを重合することにより得ることができる。なお、前記ノルボルネン系モノマーを重合する際は、単一のノルボルネン系モノマーで重合しても、複数のノルボルネン系モノマーを共重合しても良い。
【0071】
また、ポリノルボルネン系樹脂は、特に限定されるわけではなく、前記一般式(1Y)で示される単一の構造単位で形成されている単一重合体であってもよく、また、複数の構造単位で形成されている共重合体であってもよいが、特に、前記一般式(3Y)で表される構造単位を有する共重合体、より具体的には、下記一般式(5Y)で示される共重合体であることが好ましい。これにより、ポリノルボルネン系樹脂を、ガラス転移点が200℃以上を示すものに、より確実にすることができる。そのため、本実施形態のように、樹脂フィルム1を成形するために用いられる樹脂組成物として、熱可塑性樹脂と良溶媒とを含むものを用いることで、ポリノルボルネン系樹脂の低分子化に伴う樹脂組成物における黄変の発生、および、溶融フィルム150におけるカールの発生をより的確に抑制または防止することができる。そのため、優れた平坦性を有し、かつ、優れた白色を呈する多孔質体からなる、ポリノルボルネン系樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1をより確実に成形することができる。
【0072】
【0073】
前記一般式(5Y)中、nおよびmは、それぞれ、独立して、1以上の整数であり、基Xは、線状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基、芳香族基、脂環族基、グリシジルエーテル基のうちのいずれかである。
【0074】
このようなポリノルボルネン系樹脂(PNB系樹脂)は、その具体例として、ポリノルボルネン、ポリメチルノルボルネン、ポリエチルノルボルネン、ポリプロピルノルボルネン、ポリブチルノルボルネン、ポリペンチルノルボルネン、ポリヘキシルノルボルネン、ポリへプチルノルボルネン、ポリオクチルノルボルネン、ポリノニルノルボルネン、ポリデシルノルボルネン、ポリフェネチルノルボルネン、ポリトリエトキシシリルノルボルネン、ポリトリメチルシリルノルボルネン、ポリトリメトキシシリルノルボルネン、ポリメチルジメトキシシシリルノルボルネン、ポリジメチルメトキシノルボルネン、ポリグリシジルオキシメチルノルボルネン等の単一重合体、ノルボルネン-ヘキシルノルボルネン共重合体、ノルボルネン-エチリデンノルボルネン共重合体、ノルボルネン-シクロヘキサンノルボルネン共重合体、ノルボルネン-トリエトキシシリルノルボルネン共重合体、ノルボルネン-グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体、ブチルノルボルネン-トリエトキシシリルノルボルネン共重合体、デシルノルボルネン-トリエトキシシリルノルボルネン共重合体、ブチルノルボルネン-グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体、デシルノルボルネン-グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体、デシルノルボルネン-ブチルノルボルネン-フェネチルノルボルネン-グリシジルオキシメチルノルボルネン共重合体等の共重合体が挙げられる。
【0075】
また、前記一般式(1Y)で示される構造単位を有するポリノルボルネン系樹脂は、その重量平均分子量(Mw)が、50,000g/mol以上1,000,000g/mol以下であることが好ましく、100,000g/mol以上500,000g/mol以下であることがより好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定法を用いて、ポリスチレン標準物質に関する検量線を作成し、この検量線を用いて算出することで得ることができる。
【0076】
なお、前記一般式(1Y)で示される構造単位を有するポリノルボルネン系樹脂は、特に限定されるわけではないが、開環メタセシス重合(以下、ROMPとも記載する。)、ROMPと水素化反応の組み合わせ、ラジカルまたはカチオンによる重合により合成することができる。
【0077】
より具体的には、前記一般式(1Y)で示される構造単位を有するポリノルボルネン系樹脂は、例えば、パラジウムイオン源を含有する触媒、ニッケルと白金を含有する触媒、ラジカル開始剤等を用いることにより合成することができる。
【0078】
なお、前述の通り、成形される樹脂フィルム1に含まれる熱可塑性樹脂としてポリノルボルネン系樹脂を選択することで、樹脂フィルム1の低誘電率化を図ることができるが、具体的には、周波数10GHzにおける樹脂フィルム1の比誘電率(Dk(-))は、好ましくは2.0未満、より好ましくは1.0以上1.8以下の範囲内に設定し得る。また、周波数10GHzにおける誘電正接(Df(-))は、好ましくは5.0×10-4未満、より好ましくは5.0×10-5以上4.5×10-4以下の範囲内に設定し得る。
【0079】
また、樹脂フィルム1の比誘電率(Dk(-))および誘電正接(Df(-))は、JIS C 2526に準拠した、空洞共振器法による誘電率測定装置を用いて測定することができる。
【0080】
樹脂組成物に含まれる良溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、デカン、メシチレン、トルエン、キシレン類等の炭化水素類、アニソール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジグライム等のアルコール/エーテル類、炭酸エチレン、酢酸エチル、酢酸N-ブチル、乳酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトン等のエステル/ラクトン類、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン等のケトン類、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド/ラクタム類が挙げられ、形成すべき樹脂フィルム1の種類に応じて選択された熱可塑性樹脂に対して、優れた溶解性を示すものが用いられる。
【0081】
この良溶媒は、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂の軟化温度よりも確実に低い温度に設定するために、熱可塑性樹脂を溶解する溶解度が高いものが好ましく選択され、具体的には、熱可塑性樹脂に対するハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)が7.00(J/cm3)0.5以下であるものが好ましく、3.00(J/cm3)0.5以下であるものがより好ましく、2.00(J/cm3)0.5以下であるものがさらに好ましく選択される。このような良溶媒を、熱可塑性樹脂を高い溶解度で溶解し得るものであると言うことができる。したがって、樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とするために、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂の軟化温度よりも確実に低い温度に設定することができる。
【0082】
なお、本明細書において、良溶媒とは、後述する貧溶媒よりも、熱可塑性樹脂を優れた溶解性をもって溶解し得るもののこと、すなわち、熱可塑性樹脂に対するハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)が貧溶媒とのHSP距離(Ra)よりも短いもののことを言い、また、本明細書における溶媒(良溶媒および貧溶媒)のハンセン(Hansen)溶解度パラメータは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、分散項δD,極性項δP,および水素結合項δHの3成分に分割し、3次元空間に表したものである。
【0083】
分散項δDは、分散力による効果、極性項δPは、双極子間力による効果、さらに水素結合項δHは、水素結合力による効果を示す。
δD: 分子間の分散力に由来するエネルギー
δP: 分子間の極性力に由来するエネルギー
δH: 分子間の水素結合力に由来するエネルギー
で表すことができる(なお、それぞれの単位は(J/cm3)0.5である。)。
【0084】
ヒルデブランド(Hildebrand)のSP値と、ハンセン(Hansen)のHSPの間には、以下に示す関係が認められる。
ヒルデブランドのSP2=δD2+δP2+δH2
【0085】
また、HSPの定義と計算は、Charles M.Hansen著、Hansen Solubility Parameters: A Users Handbook(CRCプレス,2007年)に記載されている。
【0086】
ここで、それぞれ、分散項はファンデルワールス力、極性項はダイポール・モーメント、水素結合項は水、アルコールなどによる作用を反映している。また、HSPによるベクトルが似ているもの同士は溶解性が高いと判断できる。
【0087】
HSP距離(Ra)は、例えば、溶質(熱可塑性樹脂)のHSPを(δD1,δP1,δH1)とし、溶媒(良溶媒および貧溶媒)のHSPを(δD2,δP2,δH2)としたとき、下記の式により算出することができる。
【0088】
HSP距離(Ra)=
{4×(δD1-δD2)2+(δP1-δP2)2+(δH1-δH2)2}0.5
【0089】
また、溶媒(良溶媒および貧溶媒)のハンセンのHSPは、混合比率として体積を用いて、下記の式により算出することができる。
【0090】
[δDm,δPm,δHm]=
[(a×(δD1+b×δD2),(a×(δP1+b×δP2),(a×(δH1+b×δH2)]/(a+b)
【0091】
このような良溶媒としては、例えば、熱可塑性樹脂としてポリノルボルネン系樹脂を選択した場合には、例えば、デカン(沸点174.1℃)、メシチレン(沸点164.1℃)およびトルエン(沸点110.7℃)のうちの少なくとも1種が挙げられる。すなわち、熱可塑性樹脂としてポリノルボルネン系樹脂を選択した場合には、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂と良溶媒との組み合わせとして、ポリノルボルネン系樹脂と、デカン、メシチレンおよびトルエンのうちの少なくとも1種との組み合わせが挙げられる。
【0092】
また、良溶媒は、樹脂組成物における含有量が、好ましくは5.0重量%以上50.0重量%以下、より好ましくは15.0重量%以上30.0重量%以下に設定される。樹脂組成物における良溶媒の含有量を、かかる範囲内に設定することにより、樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とするために、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂の軟化温度よりも確実に低い温度に設定することができる。また、かかる範囲内のように、樹脂組成物中における良溶媒の含有量を比較的少量に設定することにより、次工程[B]および後工程[D]における溶融フィルム150の加熱を経ることによる、溶融フィルム150の乾燥を迅速に実施することができる。さらに、かかる範囲内のように、樹脂組成物中における良溶媒の含有量が比較的少量であっても、溶融状態または軟化状態を示す樹脂組成物の下記貯蔵弾性率G’を、下記範囲内の大きさに確実に設定することができる。また、後工程[C]における溶融フィルム150の貧溶媒に対する浸漬において、溶融フィルム150に含まれる良溶媒と、貧溶媒との間で、確実に相互作用を生じさせることができる。したがって、溶融フィルム150の構造に確実に変化が生じるため、多孔質体で構成された溶融フィルム150を確実に形成することができる。
【0093】
樹脂組成物が良溶媒を含有することで、前述の通り、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂の軟化温度よりも確実に低い温度に設定し得るが、樹脂組成物を加熱する加熱温度は、選択する熱可塑性樹脂の種類によって異なるが、概ね、好ましくは70℃以上150℃以下、より好ましくは80℃以上120℃以下の温度範囲に設定される。樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とするために、樹脂組成物を加熱する加熱温度をかかる範囲内に設定し得ることで、低コスト化が図られた樹脂フィルム1を得ることができる。また、樹脂組成物を溶融状態または軟化状態とする際に、熱可塑性樹脂が低分子化して樹脂組成物に黄変が生じるのを的確に抑制または防止することができるため、優れた白色を呈する多孔体で構成された樹脂フィルム1を得ることができる。
【0094】
また、樹脂組成物は、良溶媒の添加により、樹脂組成物を加熱する加熱温度を、熱可塑性樹脂の軟化温度よりも低い温度に設定したとしても、溶融状態または軟化状態を示すものとなるが、具体的には、溶融状態または軟化状態を示す樹脂組成物は、100℃における貯蔵弾性率G’が1.0×104Pa以上1.0×107Pa以下の範囲内に設定されているのが好ましく、1.0×104Pa以上1.0×106Pa以下の範囲内に設定されているのがより好ましい。貯蔵弾性率G’が前記範囲内に設定されることにより、溶融状態または軟化状態の樹脂組成物を、Tダイ240が有する開口部241から、帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150として、フィルム調整部800に対して、確実に送り出すことができる。
【0095】
さらに、熱可塑性樹脂と良溶媒とを含む樹脂組成物は、加熱しつつ混練することで、溶融状態または軟化状態を示すものとなるが、混練機230で樹脂組成物を混練する際に、樹脂組成物に掛かるせん断応力は、好ましくは3KPa以上1800KPa以下、より好ましくは6KPa以上1400KPa以下に設定される。これにより、樹脂組成物を、溶融状態または軟化状態を確実に示すものとし得ることから、Tダイ240が有する開口部241から、帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150として、フィルム調整部800に対して、確実に送り出すことができる。
【0096】
なお、樹脂組成物には、熱可塑性樹脂と良溶媒との他に、添加剤が含まれていてもよい。この添加剤としては、例えば、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、難燃剤および安定剤等が挙げられる。
【0097】
[B]次に、溶融状態または軟化状態を示す樹脂組成物が帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150の第1面15および第2面13を平坦化するとともに、その平均厚さを所定の厚さに設定(調整)する(調整工程)。
【0098】
これにより、熱可塑性樹脂と良溶媒とを含有する樹脂組成物が、フィルム状をなして成形された溶融フィルム150が形成される。
【0099】
この成形工程は、タッチロール110とタッチロール120との間に、溶融フィルム150を供給した後に、さらに、タッチロール120とタッチロール130との間に、溶融フィルム150を供給することにより行われる。
【0100】
この際、タッチロール110の外周面、タッチロール120の外周面およびタッチロール130の外周面は、それぞれ、平滑性を有するロール状をなしている。そのため、溶融フィルム150の第1面15および第2面13は、それぞれ、各ロールの平滑性を有する外周面に押し当てられることにより、平坦化される。
【0101】
また、タッチロール110の外周面とタッチロール120の外周面との離間距離、および、タッチロール120の外周面とタッチロール130の外周面との離間距離は、それぞれ、形成すべき樹脂フィルム1の厚さに調整され、この離間距離を所定の大きさに適宜設定することで、所望の厚さの溶融フィルム150、ひいては樹脂フィルム1を得ることができる。
【0102】
このように、本工程[B]において、タッチロール110、タッチロール120およびタッチロール130はそれぞれ、第1面15および第2面13を平坦化するため、ならびに、溶融フィルム150の厚さを設定するために用いられる。
【0103】
このようなタッチロール110、120、130を用いた、溶融フィルム150における第1面15および第2面13の平坦化において、本実施形態では、溶融状態または軟化状態を示す樹脂組成物としてポリノルボルネン系樹脂と良溶媒とを含むものが用いられている。これにより、前工程[A]において説明した通り、この樹脂組成物が帯状をなすフィルムとされた溶融フィルム150にカールが生じるのを的確に抑制または防止して、溶融フィルム150を、フィルム供給部700からフィルム調整部800(タッチロール110、120、130)に供給することができる。そのため、タッチロール110、120、130を用いた、溶融フィルム150における第1面15および第2面13の平坦化、さらには、溶融フィルム150の厚さの設定を優れた精度で実施することができる。
【0104】
また、溶融フィルム150におけるカールは、特に、熱可塑性樹脂として、ポリノルボルネン系樹脂のうち、ガラス転移点が200℃以上を示す高Tg樹脂を選択し、さらに、厚膜の溶融フィルム150を成形した場合に、樹脂組成物中に良溶媒が含まれていないと、高頻度に発生することとなるが、このような場合に、本実施形態のように、樹脂組成物として、高Tg樹脂と良溶媒とを含むものを用いることで、前記カールの発生を的確に抑制または防止することができる。そのため、後工程[C]において、その平均厚さが20μm以上500μm以下に設定された厚膜の樹脂フィルム1であっても、優れた精度で成形することができる。
【0105】
また、本工程[B]における、溶融フィルム150(樹脂組成物)の成形の際に、溶融フィルム150(樹脂組成物)を加熱することにより、溶融フィルム150に含まれる良溶媒の一部を、この溶融フィルム150から除去することが好ましい。
【0106】
この溶融フィルム150(樹脂組成物)の加熱は、タッチロール110~130のうちの少なくとも1つが加熱手段を備えており、この加熱手段を備えるロールの加熱により実施される。
【0107】
本工程[B]において、溶融フィルム150(樹脂組成物)を加熱する加熱温度は、好ましくは80℃以上160℃以下程度、より好ましくは100℃以上140℃以下程度に設定される。これにより、溶融フィルム150に含まれる良溶媒の一部を、溶融フィルム150から確実に除去することができる。
【0108】
また、この良溶媒の除去により、溶融フィルム150に含まれる良溶媒の含有量、すなわち樹脂組成物に残存する良溶媒の残存量は、0.5重量%以上3.0重量%以下程度に設定されるのが好ましく、1.0重量%以上2.0重量%以下程度に設定されるのがより好ましい。これにより、次工程[C]において、溶融フィルム150(樹脂組成物)を、貧溶媒中に浸漬させる際に、この貧溶媒と、溶融フィルム150に含まれる良溶媒との相互作用により、溶融フィルム150の構造変化を、確実に生じさせ得ることから、溶融フィルム150に多孔質な構造を、確実に形成することができる。
【0109】
なお、本実施形態では、前記工程[A](押出工程)と本工程[B](調整工程)とで、熱可塑性樹脂と良溶媒とを含有する樹脂組成物を、フィルム状をなす溶融フィルム150に成形する成形工程が構成されるが、この成形工程は、これら押出工程と調整工程とで構成される工程に限定されるものではない。すなわち、熱可塑性樹脂と良溶媒とを含有する樹脂組成物を用いて、フィルム状をなす溶融フィルム150を成形し得る工程であれば、インフレーション法、カレンダー法、キャスト法等の各種方法が適用された工程であってもよい。ただし、これら押出工程と調整工程とで構成される工程で、溶融フィルム150を成形する成形工程を構成することにより、前述した通り、熱可塑性樹脂を主材料として構成される多孔質体からなる樹脂フィルム1の製造を、低コスト化を図って実施できると言う効果が得られる。さらに、特に、高Tg樹脂を主材料として構成される樹脂フィルム1を製造する場合には、優れた平坦性を有し、かつ、優れた白色を呈する樹脂フィルム1を製造することができると言う効果が得られる。
【0110】
[C]次に、第1面15および第2面13が平坦化され、かつ、所定の厚さに調整された、溶融状態または軟化状態の樹脂組成物としての溶融フィルム150を、熱可塑性樹脂の溶解度が良溶媒よりも低い貧溶媒に浸漬する(浸漬工程)。
【0111】
これにより、溶融フィルム150に含まれる良溶媒と、貧溶媒との間で相互作用が生じ、その結果、溶融フィルム150の構造に変化が発生するため、溶融フィルム150に多孔質な構造が形成される。すなわち、多孔質体で構成された溶融フィルム150が形成される。そのため、次工程[D]において得られる樹脂フィルム1を、多孔質体で構成され、さらに、この多孔質体で構成されることに基づいて白色を呈するものとし得る。
【0112】
この浸漬工程は、溶融フィルム150(樹脂組成物)を、タッチロール130と巻取りローラ46との間を搬送させる際に、フィルム乾燥部600の上流側に位置するフィルム浸漬部900に搬送することにより行われる。この溶融フィルム150のフィルム浸漬部900への搬送により、浸漬ロール91に折り畳まれるように上下に掛け回されている溶融フィルム150が浸漬槽92内を通過し、これにより、溶融フィルム150が貧溶媒に対して浸漬される。その結果、溶融フィルム150に含まれる良溶媒と、貧溶媒との相互作用により、溶融フィルム150の構造に変化が生じるため、溶融フィルム150に多孔質な構造が形成される。すなわち、多孔質体で構成された溶融フィルム150が形成される。
【0113】
溶融フィルム150を浸漬させる貧溶媒としては、例えば、前述した良溶媒で説明したのと同様のものが挙げられ、形成すべき樹脂フィルム1の種類に応じて選択された熱可塑性樹脂の溶解性が、良溶媒よりも低いものが用いられる。
【0114】
この貧溶媒は、熱可塑性樹脂に対するハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)が10.00(J/cm3)0.5以上であるものが好ましく、12.00(J/cm3)0.5以上であるものがより好ましく、13.00(J/cm3)0.5以上であるものがさらに好ましく、これらのうち良溶媒と貧溶媒とを任意の比率で混合した際に両者が分離することがないものが選択される。このような貧溶媒を、熱可塑性樹脂の溶解度が良溶媒と比較して低いものであると言うことができる。そして、このような貧溶媒のうち、良溶媒と任意の比率で混合した際に両者が分離することがないものを選択することで、良溶媒と貧溶媒との間で、より確実に相互作用を生じさせ得るため、多孔質体で構成された溶融フィルム150をより確実に形成することができる。
【0115】
このような貧溶媒としては、例えば、熱可塑性樹脂としてポリノルボルネン系樹脂を選択した場合には、例えば、アセトン(沸点56.0℃)、メタノール(沸点64.7℃)およびシクロヘキサノン(沸点155.6℃)のうちの少なくとも1種が挙げられる。すなわち、熱可塑性樹脂としてポリノルボルネン系樹脂を選択した場合には、良溶媒と貧溶媒との組み合わせとして、デカン、メシチレン、シクロヘキサンおよびトルエンのうちの少なくとも1種と、アセトン、メタノールおよびシクロヘキサノンのうちの少なくとも1種との組み合わせが挙げられる。
【0116】
また、貧溶媒は、その沸点が良溶媒の沸点よりも低いことが好ましく、良溶媒の沸点よりも50℃以上150℃以下の範囲内で低いことがより好ましい。これにより、次工程[D]において、溶融フィルム150(樹脂組成物)を加熱することで乾燥させる際に、溶融フィルム150に残存する溶媒としての良溶媒と貧溶媒との混合溶媒を、より効率よく、溶融フィルム150から除去することができる。そのため、溶融フィルム150の加熱による乾燥を、効率化を図って実施することができる。
【0117】
また、本工程[C]において、溶融フィルム150(樹脂組成物)を貧溶媒に浸漬する浸漬時間は、好ましくは3sec以上30sec以下程度、より好ましくは5sec以上10sec以下程度に設定される。これにより、溶融フィルム150(樹脂組成物)の貧溶媒に対する浸漬により、多孔質体で構成された溶融フィルム150をより確実に形成することができる。
【0118】
さらに、本工程[C]において、溶融フィルム150(樹脂組成物)を貧溶媒に浸漬する際の溶融フィルム150(樹脂組成物)の温度、すなわち、貧溶媒の温度は、好ましくは10℃以上50℃以下程度、より好ましくは20℃以上40℃以下程度に設定される。これにより、溶融フィルム150(樹脂組成物)の貧溶媒に対する浸漬により、多孔質体で構成された溶融フィルム150をより確実に形成することができる。
【0119】
[D]次に、溶融状態または軟化状態の樹脂組成物が多孔質体とされた溶融フィルム150を加熱することで乾燥させる(乾燥工程)。
【0120】
これにより、樹脂組成物が帯状をなすフィルムとされた樹脂フィルム1を、多孔質体で構成されるものとして得ることができる。
【0121】
この乾燥工程は、樹脂組成物が多孔質体とされた溶融フィルム150を、タッチロール130と巻取りローラ46との間を搬送させる際に、フィルム浸漬部900の上流側に位置するフィルム乾燥部600に搬送することにより行われる。この溶融フィルム150のフィルム乾燥部600への搬送により、各熱風供給部61から熱風が、第1面15および第2面13が平坦化された溶融フィルム150に対して吹き付けられる。その結果、樹脂組成物中に含まれる溶媒としての良溶媒と貧溶媒との混合溶媒が揮発して、溶融フィルム150が加熱・乾燥されることで、第1面15および第2面13が平坦化された樹脂フィルム1が形成される。
【0122】
このとき、前記工程[C]における、溶融フィルム150の貧溶媒に対する浸漬により、溶融フィルム150が多孔質体で構成されており、本工程[D]において、この状態を維持して、溶融フィルム150が加熱・乾燥されて樹脂フィルム1が形成される。したがって、加熱・乾燥して形成される樹脂フィルム1を、多孔質体で構成され、さらに、この多孔質体で構成されることに基づいて白色を呈するものとして得ることができる。
【0123】
この多孔質体で構成される樹脂フィルム1は、その厚さ方向に切断することで形成された断面において、直径が好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下の細孔を含み、さらに、小角X線散乱測定(SAXS)により得られた散乱像において、散乱ベクトルの大きさをqとしたとき、前記散乱ベクトルの大きさqが0.05nm-1以上0.5nm-1以下の範囲内で、小角X線散乱強度I(q)がq-4に比例することが好ましい。これにより、多孔質体で構成される樹脂フィルム1において、微細な空孔(孔部)が形成され、さらに、この空孔が均一に分散されて形成されていると言うことができる。ここで、小角X線散乱測定(SAXS)により得られた樹脂フィルム1の散乱像は、例えば、樹脂フィルム1で構成される試験片(幅10mm×長さ10mm)を作製し、この試験片に対し、放射光施設のビームライン(例えば、SPring-8 BL03XUビームライン第二ハッチ)において、Pilatus 1M検出器を用いて、例えば、X線波長0.1nm、カメラ距離4mおよび1mの条件で測定することで得ることができる。また、散乱ベクトルの大きさqは、X線波長をλとし、X線散乱角を2θとしたとき、q=(4π/λ)sin(2θ/2)で表すことができる。
【0124】
また、本工程[D]において、溶融フィルム150(樹脂組成物)を加熱する加熱温度は、好ましくは100℃以上180℃以下程度、より好ましくは120℃以上160℃以下程度に設定される。これにより、溶融フィルム150に残存する溶媒としての良溶媒と貧溶媒との混合溶媒を、溶融フィルム150から確実に除去して、樹脂フィルム1を得ることができる。
【0125】
以上のような工程を経ることで、熱可塑性樹脂を主材料として含む多孔質体で構成される樹脂フィルム1を、熱可塑性樹脂(樹脂材料)の種類によることなく製造することができる。
【0126】
以上、本発明の樹脂フィルムの製造方法について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0127】
例えば、本発明の樹脂フィルムの製造方法では、任意の目的で、1以上の工程を追加することができる。
【実施例0128】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0129】
1.原材料の準備
まず、各実施例および各比較例の樹脂フィルム1の製造に用いた原材料を以下に示す。
【0130】
(PNB系樹脂1)
PNB系樹脂1として、ヘキシルノルボルネン(HexylNB)単独重合体(Promerus社製、ガラス転移点:221℃、重量平均分子量(Mw):2.7×105g/mol、黄変開始温度:195℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0131】
(PNB系樹脂2)
PNB系樹脂2として、ノルボルネン(NB)-ヘキシルノルボルネン(HexylNB)共重合体(Promerus社製、NB:HexylNB=50:50、ガラス転移点:259℃、重量平均分子量(Mw):1.3×105g/mol、黄変開始温度:195℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0132】
(PNB系樹脂3)
PNB系樹脂3として、ノルボルネン(NB)-ヘキシルノルボルネン(HexylNB)共重合体(Promerus社製、NB:HexylNB=80:20、ガラス転移点:270℃、重量平均分子量(Mw):1.6×105g/mol、黄変開始温度:195℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0133】
(PNB系樹脂4)
PNB系樹脂4として、ヘキシルノルボルネン(HexylNB)単独重合体(Promerus社製、ガラス転移点:240℃、重量平均分子量(Mw):1.7×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0134】
(PNB系樹脂5)
PNB系樹脂5として、ノルボルネン(NB)-ヘキシルノルボルネン(HexylNB)共重合体(Promerus社製、NB:HexylNB=50:50、ガラス転移点:263℃、重量平均分子量(Mw):2.1×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0135】
(PNB系樹脂6)
PNB系樹脂6として、ノルボルネン(NB)-ヘキシルノルボルネン(HexylNB)共重合体(Promerus社製、NB:HexylNB=80:20、ガラス転移点:295℃、重量平均分子量(Mw):2.0×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0136】
(PNB系樹脂7)
PNB系樹脂7として、ノルボルネン(NB)-ヘキシルノルボルネン(HexylNB)共重合体(Promerus社製、NB:HexylNB=95:5、ガラス転移点:310℃、重量平均分子量(Mw):1.5×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0137】
(PNB系樹脂8)
PNB系樹脂8として、ノルボルネン(NB)-エチリデンノルボルネン(EthylidenelNB)共重合体(Promerus社製、NB:EthylidenelNB=80:20、ガラス転移点:310℃、重量平均分子量(Mw):1.9×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0138】
(PNB系樹脂9)
PNB系樹脂9として、ノルボルネン(NB)-シクロヘキサンノルボルネン(CyclohexaneNB)共重合体(Promerus社製、NB:CyclohexaneNB=80:20、ガラス転移点:300℃、重量平均分子量(Mw):1.5×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0139】
(PNB系樹脂10)
PNB系樹脂10として、エチリデンノルボルネン(EthylidenelNB)単独重合体(Promerus社製、ガラス転移点:352℃、重量平均分子量(Mw):2.0×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0140】
(PNB系樹脂11)
PNB系樹脂11として、ノルボルネン(NB)-エチリデンノルボルネン(EthylidenelNB)共重合体(Promerus社製、NB:EthylidenelNB=50:50、ガラス転移点:337℃、重量平均分子量(Mw):1.3×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0141】
(PNB系樹脂12)
PNB系樹脂12として、ノルボルネン(NB)-エチリデンノルボルネン(EthylidenelNB)共重合体(Promerus社製、NB:EthylidenelNB=95:5、ガラス転移点:312℃、重量平均分子量(Mw):1.5×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0142】
(PNB系樹脂13)
PNB系樹脂13として、ノルボルネン(NB)-ヘキシルノルボルネン(HexylNB)共重合体(Promerus社製、NB:HexylNB=80:20、ガラス転移点:294℃、重量平均分子量(Mw):1.9×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0143】
(PNB系樹脂14)
PNB系樹脂14として、ノルボルネン(NB)-ヘキシルノルボルネン(HexylNB)共重合体(Promerus社製、NB:HexylNB=95:5、ガラス転移点:310℃、重量平均分子量(Mw):1.6×105g/mol、黄変開始温度:190℃、分子量低下開始温度:240℃)を用意した。
【0144】
(良溶媒1)
良溶媒1として、トルエン(関東化学社製、「40180-01」、沸点:110.7℃)を用意した。
【0145】
(貧溶媒1)
貧溶媒1として、アセトン(関東化学株式会社製、沸点:56.1℃)を用意した。
【0146】
1.樹脂フィルムの形成
[実施例1]
[1]まず、PNB系樹脂1(HexylNB単独重合体)と、良溶媒1(トルエン)とを、それぞれの含有量が、70重量%と30重量%となるように、撹拌・混合することにより調製することで、樹脂組成物を準備した。
【0147】
なお、PNB系樹脂1(HexylNB単独重合体)に対する、良溶媒1(トルエン)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)を、計算ソフトHSPiP 5th edition(http://pirika.com/JP/HSP/index-j.htmlから入手)を用いて計算したところ2.0(J/cm3)0.5であった。
【0148】
また、樹脂組成物の100℃における貯蔵弾性率G’は、動的粘弾性測定装置(DMA、アントンパール社製、「MCR302」)を用いて、昇温速度5℃/分、温度範囲25℃~150℃および角周波数1Hzの条件で測定したところ、1.0×104Paであった。
【0149】
[2]次に、調製された樹脂組成物を、
図2に示す樹脂フィルム製造装置500が備える押出機210に収納し、その後、押出機210から混練機230に供給した。そして、2軸の混練機230における回転数を70rpm、加熱温度を100℃、混練時間を1分とする条件で、混練機230により、PNB系樹脂1(HexylNB単独重合体)と良溶媒1(トルエン)とを樹脂組成物中で混練した後に、この混練された樹脂組成物をTダイ240に供給した後、Tダイ240の開口部241から、軟化状態とされた溶融フィルム150としてフィルム調整部800に押出した。
【0150】
[3]次に、開口部241から押出されたフィルム状をなす溶融フィルム150を、タッチロール110とタッチロール120との間、および、タッチロール120とタッチロール130との間で挾持することで、溶融フィルム150の第1面15および第2面13を平坦化するとともに、タッチロール110~130による溶融フィルム150の加熱により、溶融フィルム150における溶媒の残存率が10%となるまで溶媒を溶融フィルム150から除去した。
【0151】
[4]次に、この溶融フィルム150を、フィルム浸漬部900に供給し、この溶融フィルム150を、浸漬槽92内に貯留された貧溶媒1(アセトン)に浸漬することで、溶融フィルム150を、多孔質体で構成されるものとした。なお、溶融フィルム150を、浸漬槽92内に貯留された貧溶媒1(アセトン)に浸漬する時間は、10secとし、さらに、浸漬槽92内に貯留された貧溶媒1(アセトン)の温度は、25℃に設定した。さらに、PNB系樹脂1(HexylNB単独重合体)に対する、貧溶媒1(アセトン)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)を、計算ソフトHSPiP 5th edition(http://pirika.com/JP/HSP/index-j.htmlから入手)を用いて計算したところ13.2(J/cm3)0.5であった。
【0152】
[5]次に、この多孔質体で構成される溶融フィルム150を、フィルム乾燥部600に供給し、この溶融フィルム150に対して、フィルム乾燥部600が備える熱風供給部61から150℃の熱風を60分間吹き付けることで、溶融フィルム150を加熱・乾燥させて、平均厚さ200μmの実施例1の樹脂フィルム1を得た。
【0153】
[実施例2~3]
前記工程[1]において、樹脂組成物中に含まれる熱可塑性樹脂の種類を、表1に示すように変更したこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例2~3の樹脂フィルム1を得た。
【0154】
[実施例4~14]
前記工程[1]において、樹脂組成物中に含まれる熱可塑性樹脂の種類を、表1に示すように変更し、その樹脂と良溶媒のそれぞれの含有量を、50重量%と50重量%となるように変更したこと以外は、前記実施例1~3と同様にして、実施例4~14の樹脂フィルム1を得た。
【0155】
[比較例1~14]
前記工程[4]において、溶融フィルム150のフィルム浸漬部900への供給を中止することで、溶融フィルム150の貧溶媒1(アセトン)への浸漬を省略したこと以外は、前記実施例1~14とそれぞれ同様にして、比較例1~14の樹脂フィルム1を得た。
【0156】
2.評価
各実施例および各比較例の樹脂フィルム1を、以下の方法で評価した。
【0157】
<切断断面における空孔の観察試験>
各実施例および各比較例の樹脂フィルム1について、それぞれ、その厚さ方向に切断することで断面を形成した。そして、この断面を、電子顕微鏡(日本電子社製、「JSM-7401F FE-SEM」)で撮影し、樹脂フィルム1の断面に存在する空孔の構造を観察した。なお、
図3に、参考までに、実施例1の樹脂フィルム1の断面の拡大図を表す電子顕微鏡写真を示す。そして、各実施例および各比較例の樹脂フィルム1の断面における電子顕微鏡写真に基づいて、断面に存在する空孔における直径(μm)を測定し、次のように評価した。
【0158】
◎:断面に存在する空孔として、直径が3μm以下のものが認められる。
〇:断面に存在する空孔として、直径が5μm以下のものが認められる。
×:断面に存在する空孔として、直径が5μm以下のものが認められない。
【0159】
<小角X線散乱測定試験>
各実施例および各比較例の樹脂フィルム1について、それぞれ、樹脂フィルム1で構成される試験片(幅10mm×長さ10mm)を作製し、この試験片に対し、放射光施設のビームライン(例えば、SPring-8 BL03XUビームライン第二ハッチ)において、Pilatus 1M検出器を用いて、例えば、X線波長0.1nm、カメラ距離4mおよび1mの条件で測定することで、樹脂フィルム1の散乱像を得た。
【0160】
そして、散乱像において、散乱ベクトルの大きさをqとしたときの、散乱ベクトルの大きさqと、小角X線散乱強度I(q)との関係を求め、次のように評価した。なお、散乱ベクトルの大きさqは、X線波長をλとし、X線散乱角を2θとしたとき、q=(4π/λ)sin(2θ/2)[1/nm]で表すことができる。また、
図4に、参考までに、実施例1および比較例1の樹脂フィルム1の散乱像における、散乱ベクトルの大きさqと、小角X線散乱強度I(q)との関係を表すグラフを示す。
【0161】
散乱ベクトルの大きさqが0.05nm-1以上0.5nm-1以下の大きさの範囲内において、
〇:小角X線散乱強度I(q)がq-4に比例する。
×:小角X線散乱強度I(q)がq-4に比例しない。
【0162】
<誘電率測定試験>
各実施例および各比較例の樹脂フィルム1について、それぞれ、幅3.5mm×長さ80mmの大きさのものを切り出して試験片とした。次いで、この試験片に対し、JIS C 2526に準拠した、空洞共振器法による誘電率測定装置(AET社製、「ADMS010c」)を用いて、樹脂フィルム1の比誘電率(Dk(-))および誘電正接(Df(-))を測定した。
【0163】
<黄変度試験>
各実施例および各比較例の樹脂フィルムを得るための樹脂組成物について、それぞれ、試料(幅50mm、長さ50mm、厚さ200μmから500μm)を180℃設定の熱風循環型オーブンで酸素雰囲気下60分間加熱し、成形体を得た。
【0164】
次いで、各実施例および各比較例の樹脂フィルムから得られた成形体について、それぞれ、コニカミノルタ社製、色彩色差計CR-200を用いて、黄変度(ΔYI)を測定し、次のように評価した。
【0165】
◎:ΔYIが8.0以下で外観の変化なし。
〇:ΔYIが8.0超20.0以下で外観変化が若干見られる。
×:ΔYIが20.0超で外観変化が明らかに見られる。
【0166】
<分子量低下試験>
各実施例および各比較例の樹脂フィルム1に含まれる熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定法を用いて、ポリスチレン標準物質に関する検量線を作成し、この検量線を用いて算出することで得た。
【0167】
そして、各実施例および各比較例の樹脂フィルムに含まれる熱可塑性樹脂の原材料における重量平均分子量(Mw)の大きさに基づいて、各実施例および各比較例の樹脂フィルムに含まれる熱可塑性樹脂のMw低下率を次のように評価した。
◎:Mw低下率が5.0%未満で分子量低下が確認されるとは言えない。
〇:Mw低下率が10.0%未満で若干の分子量低下が確認される。
×:Mw低下率が10.0%以上で分子量低下が明らかに確認される。
【0168】
<カール試験>
各実施例および各比較例の樹脂フィルム1について、フィルムに生じているカールの発生の有無を目視にて観察した。
【0169】
そして、各実施例および各比較例の樹脂フィルム1において、観察されたカールの状態に基づいて、次のように評価した。
【0170】
◎:カールの発生が認められない。
〇:若干のカールの発生が認められるものの、
樹脂フィルム1としての使用に耐え得る程度のものである。
×:明らかなカールの発生が認められる。
【0171】
以上のようにして得られた各実施例および各比較例の樹脂フィルムにおける評価結果を、それぞれ、下記の表1、2に示す。
【0172】
【0173】
【0174】
各実施例では、表1に示したように、前記工程[4]において、溶融フィルム150を貧溶媒に浸漬させることで、成形された樹脂フィルム1を、多孔体で構成されたものとして成形し得ることが判った。
【0175】
これに対して、各比較例では、表2に示したように、前記工程[4]における、溶融フィルム150の貧溶媒1への浸漬が省略されており、その結果、成形された樹脂フィルム1を、多孔体で構成することができない結果を示した。