(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156933
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】ロータリーダンパ及びバルブ並びにバルブの摩耗によるロータリーダンパのトルクの低下を防止する方法
(51)【国際特許分類】
F16F 9/14 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
F16F9/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066595
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】519184930
【氏名又は名称】株式会社ソミックマネージメントホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】山田 大輔
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA42
3J069EE01
3J069EE62
(57)【要約】
【課題】バルブの摩耗によるロータリーダンパのトルクの低下を防止する。
【解決手段】本発明は、油室(4)の一端を閉塞する第1の面(4a)に対向する第1端面(3a)、油室(4)の他端を閉塞する第2の面(4b)に対向する第2端面(3b)、油室(4)の湾曲面(4c)に対向する背面(3c)、及びローター(2)との間に形成される油路(5)を閉じる弁部(3d)を有し、弁部(3d)が油路(5)を閉じることによって油室(4)に注入されるオイルが油路(5)を通って逆流することを防止するバルブ(3)を備え、バルブ(3)が背面(3c)に凹凸(3k,3l)を有し、凹凸(3k,3l)の凹部(3k)が湾曲面(4c)との間に隙間(6)を形成し、隙間(6)の断面積が凹凸(3k,3l)の凸部(3l)の摩耗によって縮小し、弁部(3d)の機能が凸部(3l)の摩耗によって損なわれないことを特徴とするロータリーダンパを提供する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油室の一端を閉塞する第1の面に対向する第1端面、前記油室の他端を閉塞する第2の面に対向する第2端面、前記油室の湾曲面に対向する背面、及びローターとの間に形成される油路を閉じる弁部を有し、前記弁部が前記油路を閉じることによって前記油室に注入されるオイルが前記油路を通って逆流することを防止するバルブを備え、
前記バルブは前記背面に凹凸を有し、
前記凹凸の凹部は前記湾曲面との間に隙間を形成し、
前記隙間の断面積は前記凹凸の凸部の摩耗によって縮小し、
前記弁部の機能は前記凸部の摩耗によって損なわれない
ことを特徴とするロータリーダンパ。
【請求項2】
前記オイルが前記隙間によるトルクの低下を防止するのに十分な粘度を有することを特徴とする請求項1に記載のロータリーダンパ。
【請求項3】
ロータリーダンパ用のバルブであって、
前記バルブは油室の一端を閉塞する第1の面に対向する第1端面、前記油室の他端を閉塞する第2の面に対向する第2端面、前記油室の湾曲面に対向する背面、ローターとの間に形成される油路を閉じる弁部、及び前記背面に形成される凹凸を有し、前記弁部が前記油路を閉じることによって前記油室に注入されるオイルが前記油路を通って逆流することを防止し、
前記凹凸の凹部は前記湾曲面との間に隙間を形成し、
前記隙間の断面積は前記凹凸の凸部の摩耗によって縮小し、
前記弁部の機能は前記凸部の摩耗によって損なわれない
ことを特徴とするバルブ。
【請求項4】
バルブの摩耗によるロータリーダンパのトルクの低下を防止する方法であって、
前記バルブとして、油室の一端を閉塞する第1の面に対向する第1端面、前記油室の他端を閉塞する第2の面に対向する第2端面、前記油室の湾曲面に対向する背面、ローターとの間に形成される油路を閉じる弁部、及び前記背面に形成される凹凸を有し、前記弁部が前記油路を閉じることによって前記油室に注入されるオイルが前記油路を通って逆流することを防止し、前記凹凸の凹部は前記湾曲面との間に隙間を形成し、前記隙間の断面積は前記凹凸の凸部の摩耗によって縮小し、前記弁部の機能は前記凸部の摩耗によって損なわれないものを使用し、
前記第1端面の摩耗による前記第2端面と前記第2の面との間隙の拡大又は前記第2端面の摩耗による前記第1端面と前記第1の面との間隙の拡大によるトルクの低下を、前記凸部の摩耗による前記隙間の断面積の縮小によって防ぐことを特徴とする方法。
【請求項5】
前記オイルが前記隙間によるトルクの低下を防止するのに十分な粘度を有することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリーダンパ及びバルブ並びにバルブの摩耗によるロータリーダンパのトルクの低下を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油室の一端を閉塞する第1の面に対向する第1端面、前記油室の他端を閉塞する第2の面に対向する第2端面、前記油室の湾曲面に対向する背面、及びローターとの間に形成される油路を閉じる弁部を有し、前記弁部が前記油路を閉じることによって前記油室に注入されるオイルが前記油路を通って逆流することを防止するバルブを備えるロータリーダンパが知られている。
【0003】
例えば、国際公開第2012/141242号の
図3乃至
図7には、油室(室71及び室72)の一端を閉塞する第1の面(プラグ30の底面)に対向する第1端面、前記油室の他端を閉塞する第2の面(端壁11の上面)に対向する第2端面、前記油室の湾曲面(周壁12の内周面)に対向する背面、及びローターとの間に形成される油路(第1の溝81)を閉じる弁部(突出部84b)を有し、前記弁部が前記油路を閉じることによって前記油室に注入されるオイルが前記油路を通って逆流することを防止するバルブ(弁体84)を備えるロータリーダンパが開示されている。
【0004】
しかしながら、従来のロータリーダンパでは、バルブの第1端面が油室の第1の面に接触し、かつバルブの背面が油室の湾曲面に接触しながらローター又はハウジングが回転し、或いはバルブの第2端面が油室の第2の面に接触し、かつバルブの背面が油室の湾曲面に接触しながらローター又はハウジングが回転するため、バルブが摩耗し、それにより、トルクが低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、バルブの摩耗によるロータリーダンパのトルクの低下を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、以下のロータリーダンパ及びバルブ並びにバルブの摩耗によるロータリーダンパのトルクの低下を防止する方法を提供する。
1.油室の一端を閉塞する第1の面に対向する第1端面、前記油室の他端を閉塞する第2の面に対向する第2端面、前記油室の湾曲面に対向する背面、及びローターとの間に形成される油路を閉じる弁部を有し、前記弁部が前記油路を閉じることによって前記油室に注入されるオイルが前記油路を通って逆流することを防止するバルブを備え、
前記バルブは前記背面に凹凸を有し、
前記凹凸の凹部は前記湾曲面との間に隙間を形成し、
前記隙間の断面積は前記凹凸の凸部の摩耗によって縮小し、
前記弁部の機能は前記凸部の摩耗によって損なわれない
ことを特徴とするロータリーダンパ。
2.油室の一端を閉塞する第1の面に対向する第1端面、前記油室の他端を閉塞する第2の面に対向する第2端面、前記油室の湾曲面に対向する背面、及びローターとの間に形成される油路を閉じる弁部を有し、前記弁部が前記油路を閉じることによって前記油室に注入されるオイルが前記油路を通って逆流することを防止するバルブを備え、
前記バルブは前記背面に凹凸を有し、
前記凹凸の凹部は前記湾曲面との間に隙間を形成し、
前記オイルが前記隙間によるトルクの低下を防止するのに十分な粘度を有し、
前記隙間の断面積は前記凹凸の凸部の摩耗によって縮小し、
前記弁部の機能は前記凸部の摩耗によって損なわれない
ことを特徴とするロータリーダンパ。
3.ロータリーダンパ用のバルブであって、
前記バルブは油室の一端を閉塞する第1の面に対向する第1端面、前記油室の他端を閉塞する第2の面に対向する第2端面、前記油室の湾曲面に対向する背面、ローターとの間に形成される油路を閉じる弁部、及び前記背面に形成される凹凸を有し、前記弁部が前記油路を閉じることによって前記油室に注入されるオイルが前記油路を通って逆流することを防止し、
前記凹凸の凹部は前記湾曲面との間に隙間を形成し、
前記隙間の断面積は前記凹凸の凸部の摩耗によって縮小し、
前記弁部の機能は前記凸部の摩耗によって損なわれない
ことを特徴とするバルブ。
4.バルブの摩耗によるロータリーダンパのトルクの低下を防止する方法であって、
前記バルブとして、油室の一端を閉塞する第1の面に対向する第1端面、前記油室の他端を閉塞する第2の面に対向する第2端面、前記油室の湾曲面に対向する背面、ローターとの間に形成される油路を閉じる弁部、及び前記背面に形成される凹凸を有し、前記弁部が前記油路を閉じることによって前記油室に注入されるオイルが前記油路を通って逆流することを防止し、前記凹凸の凹部は前記湾曲面との間に隙間を形成し、前記隙間の断面積は前記凹凸の凸部の摩耗によって縮小し、前記弁部の機能は前記凸部の摩耗によって損なわれないものを使用し、
前記第1端面の摩耗による前記第2端面と前記第2の面との間隙の拡大又は前記第2端面の摩耗による前記第1端面と前記第1の面との間隙の拡大によるトルクの低下を、前記凸部の摩耗による前記隙間の断面積の縮小によって防ぐことを特徴とする方法。
5.バルブの摩耗によるロータリーダンパのトルクの低下を防止する方法であって、
前記バルブとして、油室の一端を閉塞する第1の面に対向する第1端面、前記油室の他端を閉塞する第2の面に対向する第2端面、前記油室の湾曲面に対向する背面、ローターとの間に形成される油路を閉じる弁部、及び前記背面に形成される凹凸を有し、前記弁部が前記油路を閉じることによって前記油室に注入されるオイルが前記油路を通って逆流することを防止し、前記凹凸の凹部は前記湾曲面との間に隙間を形成し、前記隙間の断面積は前記凹凸の凸部の摩耗によって縮小し、前記弁部の機能は前記凸部の摩耗によって損なわれないものを使用し、
前記オイルが前記隙間によるトルクの低下を防止するのに十分な粘度を有し、
前記第1端面の摩耗による前記第2端面と前記第2の面との間隙の拡大又は前記第2端面の摩耗による前記第1端面と前記第1の面との間隙の拡大によるトルクの低下を、前記凸部の摩耗による前記隙間の断面積の縮小によって防ぐことを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のロータリーダンパによれば、油室の湾曲面に対向するバルブの背面に凹凸が形成され、前記凹凸の凹部が前記湾曲面との間に隙間を形成し、前記隙間の断面積が前記凹凸の凸部の摩耗によって縮小し、前記バルブの弁部の機能が前記凸部の摩耗によって損なわれないため、前記バルブの摩耗によるトルクの低下を防止することが可能である。
本発明のバルブによれば、油室の湾曲面に対向する背面に凹凸が形成され、前記凹凸の凹部が前記湾曲面との間に隙間を形成し、前記隙間の断面積が前記凹凸の凸部の摩耗によって縮小し、弁部の機能が前記凸部の摩耗によって損なわれないため、前記バルブの摩耗によるロータリーダンパのトルクの低下を防止することが可能である。
本発明の方法によれば、バルブとして、油室の一端を閉塞する第1の面に対向する第1端面、前記油室の他端を閉塞する第2の面に対向する第2端面、前記油室の湾曲面に対向する背面、ローターとの間に形成される油路を閉じる弁部、及び前記背面に形成される凹凸を有し、前記弁部が前記油路を閉じることによって前記油室に注入されるオイルが前記油路を通って逆流することを防止し、前記凹凸の凹部は前記湾曲面との間に隙間を形成し、前記隙間の断面積は前記凹凸の凸部の摩耗によって縮小し、前記弁部の機能は前記凸部の摩耗によって損なわれないものを使用し、前記第1端面の摩耗による前記第2端面と前記第2の面との間隙の拡大又は前記第2端面の摩耗による前記第1端面と前記第1の面との間隙の拡大によるトルクの低下を、前記凸部の摩耗による前記隙間の断面積の縮小によって防ぐため、前記バルブの摩耗によるロータリーダンパのトルクの低下を防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は実施例に係るロータリーダンパの縦断面図である。
【
図2】
図2は実施例に係るロータリーダンパの横断面図であり、バルブとローターとの間に形成される油路が閉鎖された状態を示す。
【
図3】
図3は実施例に係るロータリーダンパの横断面図であり、バルブとローターとの間に形成される油路が開放された状態を示す。
【
図4】
図4は実施例で採用したバルブの正面側斜視図である。
【
図5】
図5は実施例で採用したバルブの背面側斜視図である。
【
図6】
図6は実施例で採用したバルブの平面図である。
【
図7】
図7は実施例で採用したバルブの正面図である。
【
図8】
図8は実施例で採用したバルブの背面図である。
【
図9】
図9は実施例で採用したバルブの右側面図である。
【
図11】
図11は比較例で採用したバルブの正面側斜視図である。
【
図12】
図12は比較例で採用したバルブの背面側斜視図である。
【
図13】
図13は比較例の動作回数と、比較例で採用したバルブの第1端面と油室の第1の面との間及び比較例で採用したバルブの第2端面と油室の第2の面との間を通過するオイルの流量の関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は比較例の動作回数と、比較例で採用したバルブの背面と油室の湾曲面との間を通過するオイルの流量の関係を示すグラフである。
【
図15】
図15は比較例の動作回数と、トルクの関係を示すグラフである。
【
図16】
図16は実施例の動作回数と、実施例で採用したバルブの第1端面と油室の第1の面との間及び実施例で採用したバルブの第2端面と油室の第2の面との間を通過するオイルの流量の関係を示すグラフである。
【
図17】
図17は実施例の動作回数と、実施例で採用したバルブの背面と油室の湾曲面との間を通過するオイルの流量の関係を示すグラフである。
【
図18】
図18は実施例の動作回数と、トルクの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例0011】
図1に示したように、実施例に係るロータリーダンパは、ハウジング(1)、ローター(2)、及びバルブ(3)を有して構成される。
【0012】
図1及び
図2に示したように、ハウジング(1)は、筒状の周壁(1a)、周壁(1a)の一端を閉塞する蓋(1b)、周壁(1a)の他端を閉塞する端壁(1c)、周壁(1a)の内周面から突出する隔壁(1d)、及び周壁(1a)の外周面から突出するフランジ(1e)を備える。
図2に示したように、隔壁(1d)は、ハウジング(1)の内部に形成される2つの油室(4)を隔てる仕切りである。各油室(4)には、オイルが注入される。フランジ(1e)は、ハウジング(1)の回転を阻止する物、又はハウジング(1)に回転力を伝達する物に連結される。
【0013】
図2に示したように、ローター(2)は、軸部(2a)及び軸部(2a)の外周面から突出する突起(2b)を備える。軸部(2a)は、ローター(2)に回転力を伝達する物、又はローター(2)の回転を阻止する物に連結される。突起(2b)は、各油室(4)に配置される。突起(2b)は、その先端に縦溝(2c)を有する。
【0014】
図2に示したように、バルブ(3)は、ハウジング(1)の周壁(1a)とローター(2)の突起(2b)との間に設置される。
図4から
図10に示したように、バルブ(3)は、第1端面(3a)、第2端面(3b)、背面(3c)、及び弁部(3d)を有する。
【0015】
図1に示したように、バルブ(3)の第1端面(3a)は、油室(4)の一端を閉塞する第1の面(4a)(すなわち、実施例では、蓋(1b)の底面)に対向し、バルブ(3)の第2端面(3b)は、油室(4)の他端を閉塞する第2の面(4b)(すなわち、実施例では、端壁(1c)の上面)に対向し、バルブ(3)の背面(3c)は、油室(4)の湾曲面(4c)(すなわち、実施例では、周壁(1a)の内周面)に対向する。
【0016】
図2、
図4から
図7、
図9及び
図10に示したように、実施例で採用したバルブ(3)は、ローター(2)の突起(2b)の先端とハウジング(1)の周壁(1a)との間に設置される本体部(3e)、本体部(3e)の一端側で本体部(3e)から突出する第1突出部(3f)、及び本体部(3e)の他端側で本体部(3e)から突出する第2突出部(3g)を有する。
図1及び
図2に示したように、第1突出部(3f)及び第2突出部(3g)は、ローター(2)に形成される縦溝(2c)の中に配置され、縦溝(2c)の中で周方向に移動可能である。
図4、
図7、
図9及び
図10に示したように、バルブ(3)の弁部(3d)は、第1突出部(3f)と第2突出部(3g)の間に形成される。
【0017】
図4、
図7及び
図10に示したように、バルブ(3)は、本体部(3e)の左側面から弁部(3d)の左側面まで延在する第1の溝(3h)、第1突出部(3f)及び第2突出部(3g)の左側面から第1突出部(3f)及び第2突出部(3g)の右側面まで延在する第2の溝(3i)、及び弁部(3d)の右側面から本体部(3e)の右側面まで延在する第3の溝(3j)を有する。
【0018】
図2に示したように、実施例に係るロータリーダンパは、バルブ(3)とローター(2)との間に形成される油路(5)を有する。この油路(5)は、バルブ(3)の第1の溝(3h)とローター(2)の突起(2b)の先端との間隙、バルブ(3)の第2の溝(3i)とローター(2)に形成される縦溝(2c)との間隙、及びバルブ(3)の第3の溝(3j)とローター(2)の突起(2b)の先端との間隙から構成される。
【0019】
図2に示したように、実施例で採用したバルブ(3)は、ローター(2)との間に形成される油路(5)を閉じる弁部(3d)を有し、弁部(3d)が油路(5)を閉じることによって油室(4)に注入されるオイルが油路(5)を通って逆流することを防止するものである。具体的には、
図3に示したように、ローター(2)が反時計回り方向に、又はハウジング(1)が時計回り方向に回転した場合には、バルブ(3)の弁部(3d)がローター(2)の突起(2b)から離れるため、オイルが油路(5)を通って流れる。一方、
図2に示したように、ローター(2)が時計回り方向に、又はハウジング(1)が反時計回り方向に回転した場合には、バルブ(3)の弁部(3d)がローター(2)の突起(2b)に接触し、それにより、オイルの流れが遮断されるため、オイルが油路(5)を通って逆流しない。
【0020】
実施例に係るロータリーダンパは、油路(5)がバルブ(3)で閉鎖されるときに、有効なトルクを発生するものである。しかしながら、ローター(2)又はハウジング(1)が回転するときに、バルブ(3)の第1端面(3a)と油室(4)の第1の面(4a)との間、及びバルブ(3)の背面(3c)と油室(4)の湾曲面(4c)との間に摩擦が発生し、又はバルブ(3)の第2端面(3b)と油室(4)の第2の面(4b)との間、及びバルブ(3)の背面(3c)と油室(4)の湾曲面(4c)との間に摩擦が発生する。したがって、バルブ(3)は、ローター(2)又はハウジング(1)が回転を繰り返すことによって摩耗する。バルブ(3)の第1端面(3a)が摩耗した場合には、バルブ(3)の第2端面(3b)と油室(4)の第2の面(4b)との間隙が拡大し、バルブ(3)の第2端面(3b)が摩耗した場合には、バルブ(3)の第1端面(3a)と油室(4)の第1の面(4a)との間隙が拡大するため、これらの間隙を通過するオイルの流量が増加し、その結果、トルクが低下する。
【0021】
図5及び
図8から
図10に示したように、実施例で採用したバルブ(3)は、背面(3c)に凹凸(3k,3l)を有する。
図1から
図3に示したように、凹凸(3k,3l)の凹部(3k)は、油室(4)の湾曲面(4c)との間に隙間(6)を形成する。オイルは、バルブ(3)の弁部(3d)が油路(5)を閉じているときに、この隙間(6)を通り抜けることができるので、この隙間(6)は、トルクを低下させる。しかしながら、実施例で採用したオイルは、隙間(6)によるトルクの低下を防止するのに十分な粘度を有する。すなわち、実施例で採用したオイルの粘度は、後述する比較例と同等のトルクを発生し得るように、比較例で使用されるオイルの粘度よりも高く設定される。
【0022】
凹部(3k)によってバルブ(3)とハウジング(1)の周壁(1a)との間に形成される隙間(6)の断面積は、凹凸(3k,3l)の凸部(3l)の摩耗によって縮小する。後述するように、実施例に係るロータリーダンパは、第1端面(3a)及び/又は第2端面(3b)の摩耗によるトルクの低下が隙間(6)の断面積の縮小によるトルクの増大によって補填されるため、バルブ(3)の摩耗によるトルクの低下を少なくすることができる。
【0023】
バルブ(3)の弁部(3d)の機能は、凸部(3l)の摩耗によって損なわれない。弁部(3d)の「機能」とは、弁部(3d)が油路(5)を閉じる能力を意味する。実施例において、油路(5)の断面積(具体的には、バルブ(3)の第1の溝(3h)とローター(2)の突起(2b)の先端との間隙の断面積)は、凸部(3l)の摩耗によって拡大する。しかしながら、実施例で採用したバルブ(3)の弁部(3d)の左側面は、油路(5)の断面積が拡大した後も油路(5)を完全に閉じることができる十分な面積を有する。したがって、弁部(3d)の機能は、凸部(3l)の摩耗によって損なわれない。この弁部(3d)を有するバルブ(3)によれば、オイルが油路(5)を通って逆流することを防止できると共に、隙間(6)の断面積の縮小による補填効果を高めることができる。
【0024】
実施例は、バルブ(3)の摩耗によるロータリーダンパのトルクの低下を防止する方法を提供する。この方法は、バルブ(3)の第1端面(3a)の摩耗によるバルブ(3)の第2端面(3b)と油室(4)の第2の面(4b)との間隙の拡大又はバルブ(3)の第2端面(3b)の摩耗によるバルブ(3)の第1端面(3a)と油室(4)の第1の面(4a)との間隙の拡大によるトルクの低下を、バルブ(3)の凸部(3l)の摩耗による隙間(6)の断面積の縮小によって防ぐことを特徴とする。
【0025】
この方法の効果を実施例と比較例を比較して説明する。
図11及び
図12に示したように、比較例で採用したバルブ(3’)は、その背面(3c’)に凹凸が形成されていない点で、実施例で採用したバルブ(3)と異なる。比較例のその他の構成は、実施例と同一である。
【0026】
図13から
図18に示したグラフにおいて、「流量」は単位時間内に特定の場所を通過するオイルの推定量であり、「動作回数」はローター(2)を一方向(油路(5)が閉鎖される方向)に回転させた回数であり、「N1」はバルブ(3,3’)に摩耗が発生したときの動作回数である。
図15及び
図18に示したグラフにおいて、「トルク」はローター(2)を一方向(油路(5)が閉鎖される方向)に回転させたときに発生するトルクである。
図16から
図18に示したグラフにおいて、「N2」は凸部(3l)が摩耗し尽くしたときの動作回数である。
【0027】
図13に示したように、比較例では、バルブ(3’)の第1端面(3a’)又は第2端面(3b’)に摩耗が発生した後は、動作回数がN1から増加するにしたがってバルブ(3’)の第1端面(3a’)又は第2端面(3b’)の摩耗が進行するため、オイルの流量が増加する。
【0028】
図16に示したように、実施例も比較例と同様に、バルブ(3)の第1端面(3a)又は第2端面(3b)に摩耗が発生した後は、動作回数がN1から増加するにしたがってバルブ(3)の第1端面(3a)又は第2端面(3b)の摩耗が進行するため、オイルの流量が増加する。なお、実施例で採用したオイルの粘度は、比較例で採用したオイルの粘度よりも高いため、実施例の初期の流量は、比較例の初期の流量よりも少ない。
【0029】
図14に示したように、比較例では、バルブ(3’)の背面(3c’)に摩耗が発生し、動作回数がN1から増加し、それにより、バルブ(3’)の背面(3c’)の摩耗が進行しても、バルブ(3’)の背面(3c’)と油室(4)の湾曲面(4c)との間を通過するオイルの流量は初期値から変化しない。
【0030】
比較例と対照的に、実施例では、
図17に示したように、バルブ(3)の凸部(3l)に摩耗が発生し、動作回数がN1から増加し、それにより、バルブ(3)の凸部(3l)の摩耗が進行すると、摩耗の進行にしたがってバルブ(3)の凹部(3k)と油室(4)の湾曲面(4c)との間の隙間(6)の断面積が縮小するため、バルブ(3)の背面(3c)と油室(4)の湾曲面(4c)との間を通過するオイルの流量が減少する。流量の減少は、動作回数がN2に達するまで、すなわち、バルブ(3)の凸部(3l)が摩耗し尽くすまで継続する。
【0031】
その結果、
図15に示したように、比較例では、バルブ(3’)に摩耗が発生した後は、動作回数がN1から増加するにしたがってトルクが低下する。
【0032】
これに対し、実施例は、
図18に示したように、バルブ(3)に摩耗が発生した後も、動作回数がN2に達するまでは、すなわち、バルブ(3)の凸部(3l)が摩耗し尽くすまでは、トルクが初期値から低下しない。したがって、本発明は、バルブ(3)の摩耗によるロータリーダンパのトルクの低下を効果的に防止することができる。