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特開2023-156943ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体の製造方法
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  • 特開-ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156943
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/785 20220101AFI20231018BHJP
【FI】
C01F7/785
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066619
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】杉山 博行
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA10
4G076AA16
4G076AA18
4G076AA19
4G076AB04
4G076AB11
4G076BA13
4G076BB05
4G076BB06
4G076BB08
4G076BE11
4G076CA02
4G076CA08
4G076CA26
4G076CA40
4G076DA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、高いアスペクト比を有するハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体を、均一かつ効率よく製造することができる製造方法を提供するものである。
【解決手段】本開示は、ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体の製造方法である。上記複合体は、アスペクト比が85以上である。上記製造方法は、溶液調整工程と加熱工程を有する。上記溶液調整工程は、スラリー溶液を調製する工程である。上記スラリー溶液は、上記アミノ酸の水溶液と複合金属酸化物とを混合したものである。上記複合金属酸化物は、前駆体ハイドロタルサイト類化合物を焼成して得られる。上記加熱工程は、上記スラリー溶液を加熱する工程である。上記溶液調製工程における上記スラリー濃度は、30g/L未満である。上記スラリー濃度は上記スラリー溶液の濃度である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペクト比が85以上である、ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体の製造方法であって、
前記アミノ酸の水溶液と前駆体ハイドロタルサイト類化合物を焼成して得られる複合金属酸化物とを混合してスラリー溶液を調製する溶液調製工程と、
前記スラリー溶液を加熱する加熱工程と、
を有し、
前記溶液調製工程における前記スラリー溶液のスラリー濃度が30g/L未満であることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記アミノ酸が溶解度10g/100mLHO以上のアミノ酸であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アミノ酸がグリシンであることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ハイドロタルサイト類化合物が下記の式(1)で表されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
(M2+1-X(M3+(OH)(An-X/n・mHO・・・(1)
(式(1)中、M2+は2価の金属カチオンであり、M3+は3価の金属カチオンであり、An-はn価のアニオンであり、Xは0.17<X<0.36を満たす数であり、nは1~6の整数であり、mは0<m<1.80を満たす数である。)
【請求項5】
前記溶液調製工程における前記スラリー溶液のアミノ酸濃度が0.6mol/L未満であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロタルサイト又はその焼成物を示すハイドロタルサイト類化合物は、イオン交換能を有し、例えば、樹脂に配合させることで、樹脂の劣化を抑制するなど様々な用途に使われる。この種のハイドロタルサイト類化合物としては、アミノ酸を利用して、よりアスペクト比を高くする方法が知られている(特許文献1及び非特許文献1)。特許文献1及び非特許文献1に開示された方法では、ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/092453号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】NATURE COMMUNICATIONS(2019)10:2398, High gas barrier coating using non-toxic nanosheet dispersions for flexible food packaging film.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1及び非特許文献1に開示された方法では、ハイドロタルサイト類化合物を焼成して得られる複合金属酸化物とアミノ酸の一種であるグリシン水溶液との混合物を加熱処理する際に、混合物がゲル化してしまい、さらには着色が発生することがあった。特に、混合物がゲル化してしまうと、ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体を均一かつ効率よく生産することができず、場合によってはハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体の品質が安定しないなどの問題が生じる恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、高いアスペクト比を有するハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体を、均一かつ効率よく生産することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体の製造方法において、アミノ酸の水溶液と前駆体ハイドロタルサイト類化合物を焼成して得られる複合金属酸化物とを混合して得られる、スラリー溶液の濃度(スラリー濃度)を特定の範囲内にすることで、複合金属酸化物とアミノ酸の水溶液との混合物を加熱処理する際に、混合物がゲル化するのを抑制することができることを見出した。
本開示は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、以下の各態様を含むものである。
【0008】
(第1の開示)
本第1の開示は、ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体の製造方法である。上記複合体は、アスペクト比が85以上である。上記製造方法は、溶液調整工程と加熱工程を有する。上記溶液調整工程は、スラリー溶液を調製する工程である。上記スラリー溶液は、上記アミノ酸の水溶液と複合金属酸化物とを混合したものである。上記複合金属酸化物は、前駆体ハイドロタルサイト類化合物を焼成して得られる。上記加熱工程は、上記スラリー溶液を加熱する工程である。上記溶液調製工程における上記スラリー濃度は、30g/L未満である。上記スラリー濃度は上記スラリー溶液の濃度である。
【0009】
(第2の開示)
本第2の開示は、第1の開示において、上記アミノ酸が溶解度10g/100mLHO以上のアミノ酸である。
【0010】
(第3の開示)
本第3の開示は、第1の開示又は第2の開示において、アミノ酸がグリシンである。
【0011】
(第4の開示)
本第4の開示は、第1の開示から第3の開示いずれかにおいて、上記ハイドロタルサイト類化合物が下記の式(1)で表される。
(M2+1-X(M3+(OH)(An-X/n・mHO・・・(1)
(式(1)中において、M2+は、2価の金属カチオンである。式(1)中において、M3+は、3価の金属カチオンである。式(1)中において、An-は、n価のアニオンである。式(1)中において、Xは、0.17<X<0.36を満たす数である。式(1)中において、nは、1~6の整数であり、mは、0<m<1.80を満たす数である。)
【0012】
(第5の開示)
本第5の開示は、第1の開示から第4の開示いずれかにおいて、上記アミノ酸濃度が0.6mol/L未満である。上記アミノ酸濃度は、上記スラリー溶液のアミノ酸濃度である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法は、高いアスペクト比を有するハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体を、均一かつ効率よく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施例1から実施例3及び比較例1から比較例3の加熱工程後のスラリー溶液の写真並びに比較例4から比較例6の加熱工程において昇温させて100℃に到達した際のスラリー溶液の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書においては、「ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体の製造方法」を、単に「複合体の製造方法」と称することがある。また、本明細書において「ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体」とは、アミノ酸がハイドロタルサイト類化合物に化学修飾している状態のことを意味し、以降においては、単に「複合体」等と称することがある。
【0016】
[複合体の製造方法]
本発明の一実施形態では、複合体の製造方法は、アスペクト比が85以上であるハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体の製造方法である。本実施形態の複合体の製造方法は、アミノ酸の水溶液と前駆体ハイドロタルサイト類化合物を焼成して得られる複合金属酸化物とを混合してスラリー溶液を調製する溶液調製工程と;スラリー溶液を加熱する加熱工程と;を有する。そして、本実施形態の複合体の製造方法は、溶液調製工程におけるスラリー溶液のスラリー濃度が30g/L未満である。
【0017】
本実施形態の複合体の製造方法は、上述の溶液調製工程において、剥離剤であるアミノ酸(例えば、グリシン等)の水溶液と前駆体ハイドロタルサイト類化合物を焼成して得られる複合金属酸化物とを混合して得られる、スラリー溶液の濃度(スラリー濃度)を30g/L未満という特定の範囲内にする。これにより、本実施形態の複合体の製造方法は、複合金属酸化物とグリシン水溶液との混合物を加熱する加熱工程において、混合物がゲル化するのを抑制することができる。その結果、本実施形態の複合体の製造方法は、高いアスペクト比を有するハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体を、均一かつ効率よく生産することができる。
【0018】
なお、本実施形態の複合体の製造方法は、上述の溶液調製工程において、前駆体ハイドロタルサイト類化合物を焼成して得られる複合金属酸化物を、アミノ酸の水溶液を用いて水和させている。アミノ酸の水溶液は、例えば、グリシン水溶液が挙げられる。水和の際に、溶液中のアミノ酸分子が陰イオンとしてハイドロタルサイト類化合物の層間に取り込まれることにより、ハイドロタルサイト類化合物の層間が剥離する。ハイドロタルサイト類化合物の層間が剥離することで、厚みの薄い粒子が形成される。厚みの薄い粒子は、加熱工程で加熱され、幅方向の粒子成長が促進されたハイドロタルサイト類化合物として複合体が形成される。言い換えれば、アスペクト比が高い粒子が形成される。このようにして得られる複合体は、高いアスペクト比を有していることで、ポリマー等とともに塗工液に配合されて基材上に被覆層を形成したときに、当該被覆層内において複数の複合体が被覆層の面方向に対して平行となるように配列し、優れたガスバリア性を発揮することができる。
【0019】
以下、本実施形態の複合体の製造方法における各工程について説明する。
【0020】
(溶液調製工程)
溶液調製工程では、まず、前駆体ハイドロタルサイト類化合物を焼成して複合金属酸化物を得る。この前駆体ハイドロタルサイト類化合物を焼成する際の焼成時間は特に限定されないが、例えば、焼成炉を用いて焼成する場合、0.1時間以上24時間以下の時間である。同様に焼成温度も特に限定されず、例えば、焼成炉を用いて焼成する場合、300℃以上700℃以下の温度である。前駆体ハイドロタルサイト類化合物を焼成する際の焼成時間は、例えば、マイクロ波を用いて焼成する場合、1分以上12時間以下の時間である。マイクロ波を用いて焼成する場合、例えば、300℃以上700℃以下の温度とすることもできる。
【0021】
次いで、前駆体ハイドロタルサイト類化合物を焼成して得られた複合金属酸化物の粉末に、所定濃度のアミノ酸水溶液を添加して混合することで、スラリー溶液を得る。このとき、スラリー溶液のスラリー濃度は、30g/L未満である。通常、このような剥離剤を用いて得られるハイドロタルサイト類化合物は、1次粒子の厚みが数nmと薄いため、スラリー濃度が高いと剥離過程でゲル化してしまい、不均質なサンプルとなる場合がある。そこで、本実施形態の製造方法では、溶液調製工程におけるスラリー濃度を30g/L未満にすることで、ハイドロタルサイト類化合物の粒子間相互作用を低減させ、剥離過程におけるゲル化を抑制することができる。これにより、上記製造方法は、スラリー溶液のスラリー状態を維持することができるため、複合体を均一かつ効率よく生産することができる。
【0022】
なお、溶液調製工程におけるスラリー濃度は、生産性などの点から、10g/L~28g/Lの範囲内であることが更に好ましい。ここで、スラリー濃度は、次式により求めることができる。
スラリー濃度(g/L)=複合金属酸化物の重量(g)/スラリーの容量(L)
【0023】
(ハイドロタルサイト類化合物)
本実施形態の複合体の製造方法に用いられる、前駆体ハイドロタルサイト類化合物は特に限定されず、例えば、下記の式(1)で表されるハイドロタルサイト類化合物が挙げられる。
(M2+1-X(M3+(OH)(An-X/n・mHO ・・・(1)
(式(1)中において、M2+は2価の金属カチオンであり、M3+は3価の金属カチオンであり、An-はn価のアニオンである。Xは0.17<X<0.36を満たす数である。nは1~6の整数であり、mは0<m<1.80を満たす数である。)
【0024】
上記式(1)において、好ましいM2+はMg2+であり、好ましいM3+はAl3+である。これらのハイドロタルサイト類化合物は、生体に対する安全性が高く、また、ポリプロピレンやポリエチレン等の樹脂との屈折率が近いことにより、このような樹脂からなる基材上に被覆層を形成したときに、透明性を維持しやすいという利点がある。さらに、Mg/Alのモル比は、ハイドロタルサイト構造がより確実に得られるという点から、4~8の範囲内であることが好ましい。
【0025】
また、上記式(1)において、An-のアニオンの種類は特に限定されず、例えば、炭酸イオン(CO 2-)や水酸化物イオン(OH)などが挙げられる。前駆体ハイドロタルサイト類化合物、すなわち、焼成前のハイドロタルサイト類化合物の焼成時に塩素ガスや二酸化窒素ガスのような腐食性ガスが発生しない等の点から、好ましくは炭酸イオンである。
【0026】
なお、上述のハイドロタルサイト類化合物は、本実施形態の複合体の製造方法に用いられる、原料としての前駆体ハイドロタルサイト類化合物であるが、当該製造方法によって得られる複合体に含まれるハイドロタルサイト類化合物についても同様である。アスペクト比の高い複合体が得られるとの点から、好ましくは水酸化物イオンなどが挙げられる。
【0027】
(アミノ酸)
本実施形態の複合体の製造方法に用いられる、アミノ酸は特に限定されず、例えば、α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸等の各種アミノ酸が挙げられる。更に具体的には、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グリシン、β-アラニン、β-アミノ酪酸、γ-アミノ酪酸、β-ロイシンなどが挙げられる。これらのアミノ酸は、1種類のアミノ酸を単独で用いても、2種類以上のアミノ酸を併用してもよい。
【0028】
上記の各種アミノ酸の中でも、本実施形態の複合体の製造方法に用いられるアミノ酸は、溶解度10g/100mLHO以上のアミノ酸が好ましく、特にグリシンが好ましい。このようなアミノ酸、特にグリシンは、高い誘電率を有するため、1次粒子の厚みの薄い複合体が得られる点で有利である。さらに、グリシンは、静菌作用を有していて、サプリメントや着色料、香料等にも利用されており、生体安全性の点からも有利である。
【0029】
本明細書において、「溶解度10g/100mLHO以上」とは、25℃の水100gに溶解する対象物(すなわち、アミノ酸)の質量が10g以上である、という溶解度を意味する。
【0030】
なお、上述のアミノ酸は、本実施形態の複合体の製造方法に用いられる、原料としてのアミノ酸であるが、当該製造方法によって得られる複合体に含まれるアミノ酸についても同様である。但し、複合体に含まれるアミノ酸は、製造過程で生成し得る、複数個のアミノ酸が結合してなる多量体(すなわち、ペプチド)が含まれていてもよい。本明細書においては、このようなアミノ酸と、アミノ酸の多量体とを含む物質を「アミノ酸類化合物」と称することがある。例えば、グリシンとポリグリシンとを含む物質は、「グリシン類化合物」と称することがある。
【0031】
溶液調製工程において、スラリー溶液のアミノ酸濃度は特に限定されないが、0.6mol/L未満であることが好ましい。スラリー溶液のアミノ酸濃度がこのような範囲内にあると、アスペクト比が85以上であるだけでなく、複合体の黄色度を示すY.I.値が0~5である複合体が得られやすくなる。このような複合体は、ポリマー等とともに塗工液に配合されて基材上に被覆層を形成したときに、高いガスバリア性を有するだけでなく、黄褐色等の着色のない透明性の高い被覆層を形成することができる。なお、スラリー溶液のアミノ酸濃度は、0.2mol/L~0.5mol/Lの範囲内であることが更に好ましい。
【0032】
溶液調製工程において、スラリー溶液中のアミノ酸とハイドロタルサイト類化合物の3価の金属カチオンとのモル比、すなわち、アミノ酸/(M3+のモル比は、2~6の範囲内であることが好ましい。例えば、アミノ酸がグリシンであり、ハイドロタルサイト類化合物の3価の金属カチオンがAl3+である場合、グリシン/Alのモル比は、2~6の範囲内であることが好ましい。かかるモル比がこのような範囲内にあると、アスペクト比が85以上であるだけでなく、複合体の黄色度を示すY.I.値が0~5である複合体が得られやすくなる。このような複合体は、ポリマー等とともに塗工液に配合されて基材上に被覆層を形成したときに、高いガスバリア性を有するだけでなく、黄褐色等の着色のない透明性の高い被覆層を形成することができる。
【0033】
(加熱工程)
加熱工程では、上述の溶液調製工程で得られたスラリー溶液を加熱することで、ハイドロタルサイト類化合物の粒子成長が促進される。このとき、溶液中のアミノ酸分子が陰イオンとしてハイドロタルサイト類化合物の層間に取り込まれることにより、ハイドロタルサイト類化合物の層間が剥離し、厚みの薄い粒子(すなわち、アスペクト比が高い粒子)としてハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体が生成される。
【0034】
加熱工程においては、スラリー溶液を撹拌しながら加熱することが好ましい。撹拌手段は特に限定されないが、スラリー溶液の流動性を保ちつつ、均一に撹拌することができるものが好ましい。
【0035】
加熱工程において、加熱温度は特に限定されないが、20℃~250℃の範囲内の温度であることが好ましく、特に好ましい加熱温度の上限は170℃である。より確実にアミノ酸が変性することを抑制できる。加熱時間は特に限定されないが、1分~100時間の範囲内の時間であることが好ましい。また、加熱工程は、スラリー溶液の濃度が変動しにくい等の点から、閉鎖系で実施することが好ましい。
【0036】
(その他の工程)
加熱工程後の工程は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されない。加熱工程後の工程としては、例えば、加熱工程後のスラリー溶液をアルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム溶液)で洗浄する洗浄工程、該洗浄工程後に固液分離処理を行って固形物を得る固液分離工程、該固液分離工程で得られた固形物を乾燥させて複合体の粉末を得る乾燥工程、複合体の粒子の表面を各種表面処理剤で処理する表面処理工程などが挙げられる。
【0037】
さらに、上記の洗浄工程の前に、加熱工程後のスラリーをイオン交換水で希釈する希釈工程を行ってもよく、また、上記の乾燥工程の代わりに、ポリマー溶液等と混合することで塗工液を調製する塗工液調製工程を行ってもよい。
【0038】
以上のような本実施形態の製造方法によって得られる複合体は、ポリマー溶液等と混合することで、塗工液を調製することができる。さらに、かかる塗工液は、基材上に塗工して乾燥させることで、高いガスバリア性を有する被覆層を形成することができる。
【0039】
以下、本実施形態の製造方法によって得られる複合体について説明する。
【0040】
[複合体]
本実施形態の製造方法によって得られる複合体は、アスペクト比が85以上である、ハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体である。さらに、複合体は、製造時のスラリー溶液のアミノ酸濃度等を調整することにより、黄色度を示すY.I.値が0~5であり、複合体の全質量に対するアミノ酸の含有量が0質量%より大きく10.0質量%以下であることが好ましい。アミノ酸の含有量については、高いガスバリア性と透明性とを兼ね備えた被覆層を形成しやすいという点から、より好ましくは1.0質量%以上8.0質量%以下であり、更に好ましくは1.5質量%以上6.0質量%以下である。
【0041】
複合体のY.I.値が5以下という特定の範囲内にあり、且つアミノ酸の含有量が10.0質量%以下という特定の範囲内にあると、当該複合体を塗工液に用いて被覆層を形成したときに、黄褐色等の着色のない透明性の高い被覆層を形成することができる。このような透明性の高い被覆層が得られる作用機序については、いかなる理論にも拘束されるものではないが、次のように考えられる。
【0042】
まず、本実施形態の複合体の製造方法は、剥離剤としてアミノ酸を用いることによってハイドロタルサイト類化合物の層間剥離が生じるため、1次粒子の厚みの薄いハイドロタルサイト類化合物を得る点で有利である。しかしながら、ハイドロタルサイト類化合物を剥離させるための加熱工程では、アルカリ条件下でアミノ酸同士のペプチド結合が促進されて、ポリアミノ酸(例えば、ポリグリシン等のペプチド)が生成する。ポリグリシン等のペプチドは、長鎖になると黄変が生じ、分子鎖が長くなるほど黄色味が増すことが知られている。そのため、このような長鎖のペプチド(ポリペプチド)が含まれるハイドロタルサイト類化合物とアミノ酸との複合体をポリマー等とともに塗工液に配合すると、得られる被覆層の透明性や美観を損なう恐れがある。
【0043】
そこで、上述の溶液調製工程において、スラリー溶液のスラリー濃度を30g/L未満にしつつ、アミノ酸濃度を0.6mol/L未満という特定の範囲内にすることで、アルカリ条件下においてもアミノ酸同士のペプチド結合の形成を抑制し、ポリアミノ酸(ペプチド)の生成を阻害することができる。その結果、得られる複合体の黄変が抑制できると考えられる。このようにスラリー溶液のスラリー濃度及びアミノ酸濃度を調整することで、アスペクト比が85以上という高いアスペクト比を有しながらも、黄色度を示すY.I.値が0~5であり、アミノ酸の含有量が0質量%より大きく10.0質量%以下である複合体を得ることができる。そして、このような複合体は、ポリマー等とともに塗工液に配合されて被覆層を形成するときに、高いガスバリア性と透明性とを兼ね備えた被覆層を形成することができる。このように、本実施形態の製造方法によって得られる複合体は、透明性や美観を損なうことなく、ガスバリア性を必要とする多種多様の用途に使用することができる。例えば、このような複合体を含有する塗工液をフィルムに適用した場合には、透明性を損なうことなく高いガスバリア性をフィルムに付与することができる。
【0044】
上述のとおり複合体は、黄色度を示すY.I.値が0~5であることが好ましい。このY.I.値は、黄変等の着色に影響を及ぼす「ポリアミノ酸含量」の指標となる。このY.I.値が5を超えると、黄褐色等の着色が生じた状態となるため、このような着色した複合体を塗工液の一成分として用いて被覆層を形成すると、透明性や美観を損なう恐れがある。Y.I.値の更に好ましい範囲は、4以下であり、より好ましくは3以下である。Y.I.値がこのような範囲内にあると、より透明性の高い被覆層を形成することができる。
【0045】
また、本実施形態の製造方法によって得られる複合体は、85以上という高いアスペクト比を有しているため、ポリマー等とともに塗工液に配合されて基材上に被覆層を形成したときに、優れたガスバリア性を発揮することができる。かかる複合体のアスペクト比は、より高いガスバリア性が得られる等の点から、好ましくは90以上であり、更に好ましくは100以上である。複合体のアスペクト比の上限は特に限定されないが、例えば500以下である。
【0046】
なお、本明細書において、複合体のアスペクト比は、層状構造を有する複合体の1次粒子の幅(直径)と厚みとの比であり、複合体の1次粒子の幅を厚みで割ることにより求めることができる。
【0047】
本実施形態の製造方法によって得られる複合体は、85以上のアスペクト比を有するものであれば、1次粒子の厚みは特に限定されず、例えば20nm以下の厚みが挙げられる。複合体は、ポリマー等とともに塗工液に配合されて基材上に被覆層を形成したときに、より優れたガスバリア性が得られる点から、複合体の1次粒子の厚みが20nm以下であり且つアスペクト比が100以上であることが好ましい。
【0048】
なお、複合体の1次粒子の厚みは、0.7nm~10nmの範囲内であることが更に好ましい。複合体の1次粒子の厚みがこのような範囲内にあると、ハイドロタルサイト類化合物が十分に剥離した状態となり、ポリマー等とともに塗工液に配合されて基材上に被覆層を形成したときに、より高いガスバリア性を発揮することができる。
【0049】
[塗工液]
本実施形態の製造方法によって得られる複合体と、ポリマーとを含有する塗工液は、後述する基材上に塗工して乾燥させることで、被覆層を形成することができる。塗工液に含まれる複合体の濃度は特に限定されないが、基材への塗工性などの点から、20質量%以下の濃度が好ましく、10質量%以下の濃度がより好ましい。
【0050】
(ポリマー)
塗工液に含有されるポリマーは、水やアルコール等の溶媒に溶解された溶液の形態で用いられる。なお、溶液中のポリマー濃度は特に限定されないが、基材への塗工性などの点から、20質量%以下の濃度が好ましく、10質量%以下の濃度がより好ましい。
【0051】
塗工液に含有されるポリマーの種類は、特に限定されず、形成する被覆層やフィルムの用途等に応じた任意のポリマーを採用することができる。そのようなポリマーとしては、例えば、水溶性ポリマーなどが挙げられ、更に具体的には、ポリビニルアルコール、ビニルアルコールを含むコポリマー(例えば、ポリエチレンビニルアルコール等)、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。これらの水溶性ポリマーは、1種類のポリマーを単独で用いても、2種類以上のポリマーを併用してもよい。水溶性ポリマーを用いることで、基材と塗工層との分離がしやすく、リサイクル性が高くなるため、国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献することができる。
【0052】
これらの水溶性ポリマーの中でも、ガスバリア性、透明性及び塗工性などの点から、ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0053】
(その他の成分)
塗工液は、上述の複合体及びポリマーのほかに、その他の添加成分を含有していてもよい。そのような添加成分としては、特に限定されないが、例えば、酸化防止剤、補強剤、紫外線吸収剤、顔料、架橋剤、難燃剤などが挙げられる。これらの添加成分は、1種類の添加成分を単独で用いてもよく、2種類以上の添加成分を併用してもよい。
【0054】
[フィルム]
本実施形態の製造方法によって得られる複合体と、ポリマーとを含有する塗工液は、基材上に塗工して乾燥させることで、被覆層を形成することができる。乾燥の条件は、例えば、常温から160℃の温度範囲で1秒から24時間の間で適宜に設定することができる。ここで、基材としてフィルム状の基材(以下、「フィルム状基材」と称することがある。)を用いた場合は、フィルム状基材が被覆層によって覆われた複層構造のフィルムを得ることができる。また、基材上の被覆層を剥離することにより、当該被覆層からなる単層構造のフィルムを得てもよい。このようにして得られる複層構造又は単層構造のフィルムは、例えば、各種包装用フィルムとして好適に用いることができる。
【0055】
(基材)
フィルムの形成に用いられる基材は特に限定されず、形成するフィルムの用途等に応じた任意の基材を用いることができる。そのような基材としては、例えば、上述のフィルム状基材などが挙げられ、更に具体的には、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルムなどの樹脂製フィルム;紙;織布や不織布、編布等の繊維シートなどが挙げられる。
【0056】
基材としてフィルム状基材を用いる場合、その厚さは特に限定されないが、例えば、0.01μm~250μmが好ましく、1μm~100μmの範囲内の厚さがより好ましい。なお、上述の塗工液によって形成される被覆層の厚さも特に限定されないが、例えば0.01μm~100μmの範囲内の厚さである。
【0057】
本発明の製造方法によって得られる複合体を用いたフィルムは、例えば、食品包装用フィルム、飲料包装用フィルム、飲料用ボトル、医薬品包装フィルム、工業用ガスバリアフィルム、ガス分離用フィルム、紙製バリア材などの幅広い分野において、利用が可能である。
【0058】
なお、本発明は、上述の実施形態や後述する実施例等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。
【実施例0059】
以下、実施例及び比較例を例示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
実施例1
(前駆体ハイドロタルサイト類化合物の製造)
1L容積の反応槽にイオン交換水を入れ、ここに、撹拌しながら1.5mol/Lの塩化マグネシウム水溶液160mLと、1mol/Lの塩化アルミニウム水溶液120mLと、8mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液90mL及び1mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液60mLの混合溶液と、を同時に滴下して反応物を得た。反応時のpHは9.5であった。得られた反応物を水洗した後、イオン交換水を加えて再乳化スラリー700mLを得た。得られた再乳化スラリーを170℃で13時間水熱処理を行った。その後、得られた固形物を水洗し、105℃で16時間乾燥を行い、粉砕した。得られた粉末の化学式は、Mg0.67Al0.33(OH)(CO0.17・0.50HOで表されるハイドロタルサイト類化合物であった。このハイドロタルサイト類化合物を前駆体ハイドロタルサイト類化合物として、複合体の製造に用いた。
【0061】
(前駆体ハイドロタルサイト類化合物の焼成)
得られた前駆体ハイドロタルサイト類化合物を、電気炉にて450℃で12時間焼成を行い、焼成物(複合金属酸化物)を得た。
【0062】
(溶液調製工程)
得られた焼成物17.5gをガラスビーカーに投入し、2mol/Lのグリシン水溶液175mL(グリシン粉体26.3g相当)を添加し、均一になるまで撹拌した。この時、得られたスラリー溶液のグリシン/Alのモル比は5.26であった。その後、イオン交換水を加えて全量を700mLとし、均一になるまで再度撹拌した。このときのスラリー濃度は、25g/Lであった。また、このときのグリシン濃度は0.5mol/Lであった。
【0063】
(加熱工程)
続いて、スラリー溶液を700rpmで撹拌しながら、100℃で48時間水熱処理を行った。得られたサンプル(スラリー溶液)はスラリー状で白色であり、特段の臭気は感じられなかった。なお、加熱工程後のスラリー溶液の写真を図1に示す。
【0064】
(洗浄工程~乾燥工程)
次に、得られたスラリー溶液にイオン交換水を加えて全量を1750mLとし、撹拌機を用いて常温において400rpmで16時間撹拌した。スラリー溶液の撹拌を維持しつつ、該スラリー溶液に3.96mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液88.4mLを徐々に滴下した。得られたスラリー溶液を固液分離して固形物を得た。さらに、得られた固形物を60℃で16時間乾燥させることにより、実施例1のサンプル(複合体)を得た。得られたサンプルの特徴は、下記の表1に示す。
【0065】
実施例2
溶液調製工程において、焼成物を14.0g用いたこと、及び2mol/Lのグリシン水溶液を140mL(グリシン粉体21.0g相当)用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のサンプルを得た。溶液調製工程におけるスラリー溶液のスラリー濃度は20g/Lであり、グリシン濃度は0.4mol/Lであった。
【0066】
実施例3
溶液調製工程において、焼成物を7.0g用いたこと、及び2mol/Lのグリシン水溶液を70mL(グリシン粉体10.5g相当)用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のサンプルを得た。溶液調製工程におけるスラリー溶液のスラリー濃度は10g/Lであり、グリシン濃度は0.2mol/Lであった。
【0067】
比較例1
溶液調製工程において、焼成物を70.0g用いたこと、2mol/Lのグリシン水溶液を700mL(グリシン粉体105.1g相当)用いたこと、及び加熱工程において撹拌を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のサンプルを得た。溶液調製工程におけるスラリー溶液のスラリー濃度は100g/Lであり、グリシン濃度は2mol/Lであった。
【0068】
比較例2
溶液調製工程において、焼成物を70.0g用いたこと、2mol/Lのグリシン水溶液を266mL(グリシン粉体39.9g相当)用いたこと、及び加熱工程において撹拌を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のサンプルを得た。溶液調製工程におけるスラリー溶液のスラリー濃度は100g/Lであり、グリシン濃度は0.76mol/Lであった。
【0069】
比較例3
溶液調製工程において、焼成物を70.0g用いたこと、グリシン水溶液を用いなかったこと、加熱工程において撹拌を行わなかったこと、及び洗浄工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3のサンプルを得た。溶液調製工程におけるスラリー溶液のスラリー濃度は100g/Lであり、グリシン濃度は0mol/Lであった。
【0070】
比較例4
溶液調製工程において、焼成物を35.0g用いたこと、及び2mol/Lのグリシン水溶液を350mL(グリシン粉体52.5g相当)用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4のサンプルを得た。溶液調製工程におけるスラリー溶液のスラリー濃度は50g/Lであり、グリシン濃度は1mol/Lであった。
【0071】
比較例5
溶液調製工程において、焼成物を28.0g用いたこと、及び2mol/Lのグリシン水溶液を280mL(グリシン粉体42.0g相当)用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5のサンプルを得た。溶液調製工程におけるスラリー溶液のスラリー濃度は40g/Lであり、グリシン濃度は0.8mol/Lであった。
【0072】
比較例6
溶液調製工程において、焼成物を21.0g用いたこと、及び2mol/Lのグリシン水溶液を210mL(グリシン粉体31.5g相当)用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例6のサンプルを得た。溶液調製工程におけるスラリー溶液のスラリー濃度は30g/Lであり、グリシン濃度は0.6mol/Lであった。
【0073】
実施例4
(塗工液の作製)
実施例1のサンプル及びポリビニルアルコール(PVA)水溶液(シグマアルドリッチ社製、Mw67,000、Mowiol(登録商標) 8-88)の固形分濃度を測定し、実施例1のハイドロタルサイト類化合物とグリシン類化合物との複合体が3wt%、PVAが2wt%となるようにイオン交換水を加えて調整し、これを撹拌しながら混合することにより塗工液を得た。
【0074】
(フィルムの作製)
まず、フィルム状基材である、縦55mm×横105mmにカットしたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)、フィルム厚み50μm、品番タイプ#50-U483)を、自動塗工装置(テスター産業株式会社製、PI-1210型)のガラス板上に固定した。次に、ベーカーアプリケーター(ヨシミツ精機株式会社製、YBA型)を自動塗工装置のガラス板上にセットし、厚みが均一に50μmとなるように塗工液をPETフィルム上に塗工した。塗工した塗工液によって形成された被覆層を常温で16時間乾燥させることにより、実施例4のフィルムを得た。
【0075】
比較例7
実施例1のサンプルの代わりに比較例1のサンプルを用いたこと以外は、実施例4と同様にして、比較例7のフィルムを得た。
【0076】
比較例8
実施例1のサンプル(ハイドロタルサイト類化合物とグリシン類化合物との複合体)の代わりに、実施例1の「前駆体ハイドロタルサイト類化合物の製造」工程で得られた前駆体ハイドロタルサイト類化合物を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、比較例8のフィルムを得た。すなわち、比較例8のフィルムは、ハイドロタルサイト類化合物とグリシン類化合物との複合体の代わりに、未剥離のハイドロタルサイト類化合物(未剥離HT)を用いたものである。
【0077】
比較例9
塗工液を塗工しなかったこと以外は、実施例4と同様にして、比較例9のフィルムを得た。すなわち、比較例9のフィルムは、塗工液による被覆層が形成されていないPETフィルム(フィルム状基材)単体である。
【0078】
比較例10
PVAのみを含む塗工液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、比較例10のフィルムを得た。
【0079】
実施例5
(フィルムの作製)
フィルム状基材としてポリプロピレン(PP)フィルム(東洋紡株式会社製、パイレン(登録商標)フィルム-OT、フィルム厚み50μm、銘柄P2261)を用いたこと、及び厚みが均一に25μmとなるように塗工液を塗工したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例5のフィルムを得た。
【0080】
実施例6
厚みが均一に12.5μmとなるように塗工液を塗工したこと以外は、実施例5と同様にして、実施例6のフィルムを得た。
【0081】
比較例11
塗工液を塗工しなかったこと以外は、実施例5と同様にして、比較例11のフィルムを得た。すなわち、比較例11のフィルムは、塗工液による被覆層が形成されていないPPフィルム(フィルム状基材)単体である。
【0082】
比較例12
PVAのみを含む塗工液を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、比較例12のフィルムを得た。
【0083】
[各種測定]
実施例1から実施例3及び比較例1から比較例6のサンプルについて、下記に示す各種物性等の測定を行った。これらの測定結果は、下記の表1に示す。また、実施例1から実施例3及び比較例1から比較例3の加熱工程後のスラリー溶液並びに比較例4から比較例6の加熱工程において昇温させて100℃に到達した際のスラリー溶液について写真を撮影した。この写真については、図1に示す。
【0084】
(加熱工程後の粘度測定)
スラリー溶液を25℃の温度に調節した後、B型粘度計(Brookfield社製、DV2T型)を用いて、同温度で粘度を測定した。
【0085】
(複合体の1次粒子の厚みとアスペクト比の測定)
走査型プローブ顕微鏡(株式会社島津製作所製、SPM-9700HT型)を用いて、1次粒子の幅と厚みを測定した。アスペクト比は、下記式により求めた。
(1次粒子のアスペクト比)=(1次粒子の幅)/(1次粒子の厚み)
なお、アスペクト比は、任意の1次粒子20個に対してそれぞれアスペクト比を算出し、その平均値をサンプルのアスペクト比とした。
【0086】
(グリシン類化合物含量の測定)
60℃で16時間乾燥させた粉末試料0.5gと、硫酸カリウム5gと、硫酸銅(II)5水和物2gとをよく混合してサンプルチューブに入れ、濃硫酸15mlを添加した。続いて、ケルダール分析システム(Buchi社製、KjelFlex K-360/K-425 SpeedDigester)を用いて、470℃で90分処理した。さらに、イオン交換水10mLと、30%水酸化ナトリウム水溶液と、2%ホウ酸水溶液40mLとを用いて、水蒸気蒸留を240秒間行った。得られた蒸留液にメチルレッドとメチレンブルーの混合指示薬を3滴滴下し、0.1mol/Lの塩酸水溶液を用いて蒸留液が紫色になるまで滴定した。粉末試料を用いないブランクについても同様に滴定を行い、下記の式(I)及び(II)より、グリシン類化合物含量を算出した。
(窒素N含量)[wt%]=((0.1mol/L塩酸水溶液のファクター)×(滴下量[ml]-ブランク[ml])×1.401[mg/ml])×100/粉末試料量[mg] ・・・(I)
(グリシン類化合物含量)[wt%]=(窒素N含量)[wt%]×(75.07[g/mol]/14.01[g/mol]) ・・・(II)
【0087】
(黄色度(Y.I.値)測定)
60℃で16時間乾燥させた粉末試料を粉砕し、目開き150μmの篩過網にて篩過した後、それをガラス製試薬瓶に0.2g入れた。続いて、10Φの見口及び試料台を用いて、予め標準白板で標準校正を行った測色色差計(日本電色工業株式会社製、Color meter ZE6000型)で測定を行った。合計3回の測定を実施し、各測定の前には試薬瓶を10回振とうした。得られる3回分の測定値から平均値を算出し、Yellow Index値(Y.I.値)を得た。
【0088】
[フィルムの評価]
実施例4から実施例6及び比較例7から実施例12のフィルムについて、下記に示す各種物性等の測定を行った。これらの測定結果は、下記の表2ないし表3に示す。
【0089】
(全光線透過率及びHaze(曇り度)測定)
フィルムの塗工終点より20mmをカットし、塗工面を入射光側にして曇り度計(日本電色工業株式会社製、NDH4000型)で測定を行い、全光線透過率及びHaze(曇り度)を得た。
【0090】
(酸素ガス透過度測定)
フィルムを直径約55mmの円形に切り抜き、ガス透過度測定装置(GTRテック株式会社製、GTR-11AET型)を用いて、ガス透過度を測定した。測定方法は、JIS K 7126-1 第1部(差圧法)に準じ、以下の条件で測定を行った。
・測定温度:23.0℃
・相対湿度:ゼロ
・透過面積:15.2cm
・測定ガス:酸素ガス
フィルムを透過した酸素ガスを、キャピラリガスクロマトグラフシステム(株式会社島津製作所製、GC-2014型)で分析することで、酸素ガス透過度を得た。なお、酸素ガス透過度測定では、フィルムのガス透過性に応じて、測定分析時間を適度に調整することができる。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
表1から表3及び図1に示すように、本発明の実施例では、加熱工程において均一に撹拌することができ、また、ゲル化せずに、高いアスペクト比を有するハイドロタルサイト類化合物とグリシン(アミノ酸)類化合物との複合体を得ることができた。したがって、実施例の製造方法は、高いアスペクト比を有する複合体を均一かつ効率よく製造することができることがわかった。さらに、本発明の製造方法によって得られた複合体は、高いガスバリア性と透明性を有するフィルム(被覆層)を形成し得ることがわかった。一方、比較例では、加熱工程において均一に撹拌できなかったり、ゲル化したり、或いは、得られる複合体のアスペクト比が低下したりして、本発明のような高いアスペクト比を有する複合体を均一かつ効率よく製造することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の複合体の製造方法は、例えば、食品包装用フィルム、飲料包装用フィルム、飲料用ボトル、医薬品包装フィルム、工業用ガスバリアフィルム、ガス分離用フィルム、紙製バリア材、塗料、耐傷材、化粧品、添加剤などの幅広い分野の製品の製造に、好適に利用することができる。
図1