(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156946
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/02 20060101AFI20231018BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20231018BHJP
H01J 49/40 20060101ALI20231018BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
H01J49/02
H01J49/42 400
H01J49/40 600
H01J49/16 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066628
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】三浦 宏之
(72)【発明者】
【氏名】古橋 治
【テーマコード(参考)】
5C038
【Fターム(参考)】
5C038HH30
(57)【要約】
【課題】
真空槽の壁面が変形した場合でも、真空槽内に配置された質量分離手段の全体又はその一部に応力が加わることを抑制し、質量分解能の低下を抑制した質量分析装置を提供すること。
【解決手段】
真空槽CHと、該真空槽内に配置される質量分離手段UNとを有する質量分析装置において、該真空槽CHの内面に形成される複数の段差部6、6’と、該段差部に載置されると共に、該段差部の間に架け渡して配置される基礎部FPと、該質量分離手段UNの全体又はその一部は、該基礎部FPに固定された支持手段SPに支持されている質量分析装置である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、該真空槽内に配置される質量分離手段とを有する質量分析装置において、
該真空槽の内面に形成される複数の段差部と、
該段差部に載置されると共に、該段差部の間に架け渡して配置される基礎部と、
該質量分離手段の全体又はその一部は、該基礎部に固定された支持手段に支持されている質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析装置において、該段差部と該基礎部とを固定する手段の少なくとも一部は、該段差部分と該基礎部とが相対的に移動可能なように設定されている質量分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の質量分析装置において、複数の該基礎部を設け、各基礎部の間には、各基礎部の相対的位置を保持するスペーサーが配置されている質量分析装置。
【請求項4】
請求項1又は2のいずれかに記載の質量分析装置において、該質量分離手段は、マルチターン型の飛行時間型質量分離器である質量分析装置。
【請求項5】
請求項1又は2のいずれかに記載の質量分析装置において、質量分離手段の前段には、イオン源及びイオントラップ手段とが配置されている質量分析装置。
【請求項6】
請求項1又は2のいずれかに記載の質量分析装置において、質量分離手段の前段には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化方式のイオン源が配置されている質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置に関し、特に、真空槽と、該真空槽内に配置される質量分離手段とを有する質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置では、イオン源において試料中に含まれる化合物からイオンを生成し、その生成された各種イオンを飛行させ電極等を利用して質量電荷比(m/z)に応じて分離し、その分離されたイオンをイオン検出器で検出するよう構成されている。質量分析装置に導入される試料としては、液体クロマトグラフやガスクロマトグラフから導出される試料が利用される。
【0003】
図1又は
図2は、特許文献1又は2に開示される質量分析装置の一例である。
図1の質量分析装置では、イオン源1から放出されたイオンは、イオントラップ手段2で捕捉され、更に飛行時間型質量分離手段3に供給される。質量分離手段3では、イオンを電場によって折り返すリフレクトロン30と、直進してきたイオンを検出するための第1検出器31とリフレクトロンで折り返されたイオンを検出するための第2検出器32を配置している。
【0004】
図2では、イオン源100から供給されるイオンを、ゲート電極301で複数の扇型電極302で形成する周回軌道に導入し、所定の回数を周回した後に検出器303に向かって放出される。また、特許文献3では、イオンの飛行軌道が、繰返し反射される3次元的な軌道を描き、例えば円盤状やドーナッツ状などの軌道を描くものも提案されている。このように、より長い飛行距離を実現するため、複数の周回や複数の反射を繰り返す軌道を有する質量分析装置を、多重周回(マルチターン型)飛行時間質量分析装置(Multi Turn Time of Flight Mass Spectrometer)という。
【0005】
質量分析装置では、一般に飛行距離が長いほど、質量分解能が向上する。このため、
図1の直線状にイオンを飛行させるリニア型よりも、同じ
図1に示すようなイオンを往復飛行させるリフレクトロン型の方が、高い質量分解能が得られる。また、
図2や特許文献3のように、マルチターン型の構成では、質量分離手段の構成を小型化しながら飛行距離を長くして、質量分解能も高めることができる。
【0006】
質量分離手段を構成する各種の電極は、複数の電極が絶縁性のブロックで絶縁しながら組み立てられている。これらの電極を含む各部品は高精度に設計され、高精度に位置決めされている。
図3は、真空槽CH内の一部を示す断面図である。電極には高電圧が印加されており、電極を含む各部品UNは、真空槽CHの壁面から離し、底面に配置された絶縁性の支柱SPを介して保持されている。
【0007】
一方、排気ポンプVPを用いて真空槽CH内の気体を排出すると、真空槽の壁面には外部から大気圧荷重が掛かり、
図3の一点鎖線5(底面の外側の形状を示す。)のように、壁面自体が変形する。
図3の真空槽CHの底面が変形すると、支柱SPが傾き、保持している部品の応力が加わる。これにより部品の形状や位置が変化し、質量分析装置の質量分解能が低下する原因となる。
【0008】
真空槽CH自体の変形を抑制するため、電極等を支持する支持手段である支柱SPを固定する面を厚くしたり、真空槽の底面等の壁面に梁を設け、真空槽の機械的強度を高めることも考えられるが、いずれの場合も真空槽の重量が増加し、組立や搬送の作業性を悪化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2008/072377号
【特許文献2】国際公開WO2010/049972号
【特許文献3】特表2014-531119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、真空槽の壁面が変形した場合でも、真空槽内に配置された質量分離手段の全体又はその一部に応力が加わることを抑制し、質量分解能の低下を抑制した質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置の一態様は、次のとおりである。
真空槽と、該真空槽内に配置される質量分離手段とを有する質量分析装置において、該真空槽の内面に形成される複数の段差部と、該段差部に載置されると共に、該段差部の間に架け渡して配置される基礎部と、該質量分離手段の全体又はその一部は、該基礎部に固定された支持手段に支持されている質量分析装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る質量分析装置の上記態様によれば、真空槽内が減圧されて真空槽の壁面が変形した場合でも、真空槽の内面に形成された段差部に載置された基礎部は変形しない。これにより、該基礎部に支持手段で支持された質量分離手段の全体又はその一部に応力が加わることが抑制され、質量分解能の低下も発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】本発明の質量分析装置の断面を示す図である。
【
図5】本発明の質量分析装置に使用される基礎部の一例を示す図である。
【
図6】本発明の質量分析装置に複数の基礎部を用いた場合の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の質量分析装置について、
図1、2及び4乃至6を用いて詳細に説明する。
図4は本発明が適用される質量分析装置の一例であり、その質量分析装置の要部の構成を示す図である。本発明の特徴は、真空槽CHと、該真空槽内に配置される質量分離手段UNとを有する質量分析装置において、該真空槽CHの内面に形成される複数の段差部6、6’と、該段差部に載置されると共に、該段差部の間に架け渡して配置される基礎部FPと、該質量分離手段UNの全体又はその一部は、該基礎部FPに固定された支持手段SPに支持されている質量分析装置である。
【0015】
本発明の質量分析装置は、
図1又は
図2などに示すような質量分析装置として構成することが可能である。
図1では、イオン源1及びイオントラップ手段2の後段に質量分離手段を配置している。
図1及び2のイオン源(1,100)では、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフで分離した試料をイオン化して供給するよう構成することも可能である。
気体分子をイオン化するには、電子衝撃イオン化法や化学イオン化法が利用される。また、液体に含まれる分子をイオン化するには、大気圧化学イオン化法やエレクトロスプレイイオン化法が利用される。さらに、また、分析対象分子がタンパク質などの高分子化合物である場合には、マトリックス支援レーザ脱離イオン化法(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization、MALDI)が利用される。
【0016】
イオントラップ手段2は、
図1に示すように、1個のリング電極20と2個一対のエンドキャップ電極21、22から構成される。リング電極20には主電圧発生部が接続され、エンドキャップ電極(21、22)には補助電圧発生部が接続される。入口側エンドキャップ電極21のほぼ中央に穿孔された入射口が設けられ、出口側エンドキャップ電極22における、入射口とほぼ一直線上の位置に出射口が設けられている。
【0017】
リング電極21に高周波電圧が印加され、エンドキャップ電極21,22が接地又は同一電位の場合には、イオンは点線4の領域に捕捉される。リング電極20への高周波電圧の印加を遮断し、エンドキャップ電極(21,22)に電位差を形成することで、捕捉されたイオンをエンドキャップ電極22の出射口から質量分離手段3の方向に放出する。
このようなイオントラップ手段を用いることで、より多くのイオンを分析することができ、検出感度を高めることが可能となる。
【0018】
図2の質量分離手段300では、マルチターン型の飛行時間型質量分離器が利用されている。高分子などの高い分子量を持つ分子を分析するには、長い飛行距離が必要となるため、
図2や特許文献3に開示されているような、複数の周回や複数の反射を繰り返す軌道を有する質量分離手段が利用される。
【0019】
本発明の質量分析装置の特徴は、真空槽の中に収容される質量分離手段に対して、仮に真空槽の壁面が変形した際にも、当該変形の応力が質量分離手段に加わらないように防止することである。本発明で使用する「質量分離手段」とは、
図1のリフレクトロン30や、
図2の扇型電極302及びその集合体だけでなく、イオンを検出する、
図1の第1検出器31や第2検出器32、
図2の検出器303を含む概念である。
【0020】
図4では、質量分離手段を構成する部品の集合体(ユニット)UNが、真空槽CN内に配置される。真空槽CNの内面には、複数の段差部6,6’が形成される。
図4で真空槽CNの内面角部の近傍に段差部を設けているが、これに限らず、真空槽CNの内側の底面又は側面から突出する凸部であっても良い。
【0021】
当該段差部の上に載置され、異な段差部の間を架け渡して配置される基礎部FPを備えている。基礎部FPは、一つの板状体で構成しても良いし、棒状部材を組み合わせた骨格で形成することも可能である。なお、基礎部FPはできるだけ軽量に構成することが好ましく、アルミなどの軽量かつ機械的強度の高い材料が使用される。
【0022】
基礎部FPと段差部(6,6’)との結合については、理想的には、基礎部を段差部の上に載置するだけが好ましいが、機械的振動や衝撃により基礎部FPの位置がズレる場合もあるため、ネジ等の固着部材を用いて、基礎部を段差部に固定している。
【0023】
図5は、板状体で構成した基礎部FPの平面図であるが、板状体には、ネジ(S1~S4)に対応する開口部(H1~H4)が形成されている。段差部が形成されている位置が真空槽の変形の影響を受けにくい場所の場合は、開口部の形状は、符号H1のように、略円形で問題は無い。しかしながら、真空槽の変形で段差部の位置が変位する場合には、段差部の変位の影響が基礎部FPの変形を誘発させないようにするため、符号H2~H4のように、変形によりネジがズレる方向に長円状の開口を形成している。一点鎖線A~Cは、開口部H1(ネジS1)を起点として各ネジ(S2~S4)が変位する方向を示している。
【0024】
質量分離手段UNは、
図4に示すように、基礎部FPに設けられた絶縁性の支柱などの支持手段SPを介して、固定配置されている。一つの基礎部FPの上に載置される質量分離手段UNは、
図1の一点鎖線で囲まれた質量分離手段全体(3,UN1)でも良いし、質量分離手段を行使する一部の部品、例えばリフレクトロン(30,UN2)であってもよい。また、
図2の二点鎖線で囲まれた質量分離手段全体(300,UN1)でも良いし、一組の扇型電極(UN2)であってもよい。
【0025】
また、質量分離手段を構成する複数の部品を異なる基礎部の上に配置した場合は、
図6に示すように、第1の基礎部FP1と第2の基礎部FP2との相対的な位置関係が変化しないようスペーサーINを設けている。スペーサーINは、必要に応じて、第1又は第2の基礎部(FP1,FP2)に固定される。各基礎部に設けられた開口部(H10~H14)は、開口部H10を起点として段差部に固定されるネジが移動する方向を考慮した長円状となっている。
【0026】
本発明の質量分析装置に関する上述の説明は、実施形態の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、追加、修正を行っても本発明の技術的範囲に属することは明らかである。
【0027】
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが、当業者により理解される。
【0028】
(第1項)
真空槽と、該真空槽内に配置される質量分離手段とを有する質量分析装置において、
該真空槽の内面に形成される複数の段差部と、
該段差部に載置されると共に、該段差部の間に架け渡して配置される基礎部と、
該質量分離手段の全体又はその一部は、該基礎部に固定された支持手段に支持されている質量分析装置である。
【0029】
真空槽の壁面が変形した場合であっても、基礎部に変形応力が伝わり難いため、質量分離手段に応力が加わるのを抑制することが可能となる。これにより、質量分析装置の質量分解能の低下も抑制できる。
【0030】
(第2項)
上記第1項に記載の質量分析装置において、該段差部と該基礎部とを固定する手段の少なくとも一部は、該段差部分と該基礎部とが相対的に移動可能なように設定されている質量分析装置である。
【0031】
段差部と基礎部との間の相対的移動により、段差部側からの変形応力を基礎部に伝えるのを効果的抑制することが可能となる。
【0032】
(第3項)
上記第1項又は第2項に記載の質量分析装置において、複数の該基礎部を設け、各基礎部の間には、各基礎部の相対的位置を保持するスペーサーが配置されている質量分析装置である。
【0033】
質量分離手段が大きくなった場合であっても、それを構成する各部品を複数の基礎部に分けて配置することで、基礎部全体の重量増加を抑制することも可能となる。
【0034】
(第4項)
上記第1項乃至第3項のいずれかに記載の質量分析装置において、該質量分離手段は、マルチターン型の飛行時間型質量分離器である質量分析装置である。
【0035】
マルチターン型の飛行時間型質量分離器を採用することで、分析するイオンが長い飛行距離を飛ぶことができ、イオンの質量分解能を高めることが可能となる。
【0036】
(第5項)
上記第1項乃至第4項のいずれかに記載の質量分析装置において、質量分離手段の前段には、イオン源及びイオントラップ手段とが配置されている質量分析装置である。
【0037】
イオントラップ手段により、より多くのイオンを使用した分析が可能となるため、質量分析装置の分析能力を高めることが出来る。
【0038】
(第6項)
上記第1項乃至第5項のいずれかに記載の質量分析装置において、質量分離手段の前段には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化方式のイオン源が配置されている質量分析装置である。
【0039】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化方式をイオン源で採用することで、高分子の構造を破壊せず、効率的にイオン化を達成することが可能となる。このため、高分子にも適した質量分析装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
1,100 イオン源
2 イオントラップ手段
3,300 質量分離手段
6,6’ 段差部
30 リフレクトロン
302 扇形電極
31,32,303 検出器
CH 真空槽
FP,FP1,FP2 基礎部
SP 支持手段(支柱)
UN 質量分離手段の全体又はその一部
VP 排気ポンプ
S1~S4 ネジ
H1~H14 開口部