(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156975
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】銅イオンを含む自己組み立て複合体
(51)【国際特許分類】
C07H 19/20 20060101AFI20231018BHJP
C07F 1/08 20060101ALI20231018BHJP
A01N 59/20 20060101ALI20231018BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20231018BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231018BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20231018BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20231018BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20231018BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20231018BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20231018BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231018BHJP
A61K 31/7076 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C07H19/20
C07F1/08 B
A01N59/20 Z
A61K33/34
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/12
A61K9/00
A61K9/70 401
A61K47/24
A61P43/00 121
A61K31/7076
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183804
(22)【出願日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】10-2022-0046025
(32)【優先日】2022-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0097807
(32)【優先日】2022-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】518107501
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145,Anam-ro,Seongbuk-gu,Seoul,Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】カン,ヒミン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ソン-ギュ
(72)【発明者】
【氏名】カン,ナ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユ-リ
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ヒュン-シク
(72)【発明者】
【氏名】リ,サン-ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】キム,チョ-ウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン-ヨル
【テーマコード(参考)】
4C057
4C076
4C086
4H011
4H048
【Fターム(参考)】
4C057AA30
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD03
4C057LL21
4C057LL22
4C057LL29
4C057LL41
4C076AA73
4C076BB31
4C076CC32
4C076CC35
4C076FF31
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA18
4C086HA01
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA63
4C086NA12
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC75
4H011AA02
4H011AA03
4H011AA04
4H011BB16
4H048AA01
4H048AB03
4H048VA20
4H048VA22
4H048VA30
4H048VA32
4H048VA45
4H048VB10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】銅イオンを含む自己組み立て複合体であって、該複合体の構成成分を調節して該複合体の自己分解速度を調節し、それによって有効成分の伝達速度を制御することができる自己組み立て複合体を提供する。
【解決手段】銅イオン、および1種以上のリガンドを含み、前記リガンドと銅イオンが可逆的に自己組み立てまたは自己分解され、前記リガンドの種類、または前記リガンドが複数個である場合、リガンドの配合比によって前記自己組み立て複合体の形状が異なるように形成される、銅イオンを含む自己組み立て複合体とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンを含む自己組み立て複合体であって、
銅イオン、および
1種以上のリガンドを含み、
前記リガンドと銅イオンが可逆的に自己組み立てまたは自己分解され、
前記リガンドの種類、または前記リガンドが複数個である場合、リガンドの配合比によって前記自己組み立て複合体の形状が異なるように形成される、
銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項2】
前記リガンドの配合比によって前記自己組み立て複合体の形状が順次にニードル形態(needle shape)、ウニ形態(sea urchin shape)および球形態(sphere shape)に変形される、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項3】
前記ニードル形態は、長軸および短軸を有し、前記長軸の長さは、短軸の長さに比して1.5倍~100倍以上大きく延びた形態を含み、
前記ウニ形態は、表面および内部のうち少なくともいずれか一つに複数個の気孔を有する3次元構造体の形態を含み、表面に一つ以上のニードルを有する針状形であり、
前記球形態は、平均直径が0.1μm~10μmであるものを含む、
請求項2に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項4】
前記リガンドは、
ホスフェートおよびホスホネートのうち少なくともいずれか一つを含む、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項5】
前記リガンドは、
AMP、ADP、ATP、TMP、TDP、TTP、CMP、CDP、CTP、GMP、GDP、GTP、UMP、UDP、UTP、DNA、RNA、AEP(2-アミノエチルホスホン酸、2-aminoethylphosphonic acid)、TNA(Threose nucleic acid)、GNA(glycol nucleic acid)、HNA(1,5-anhydrohexitol nucleic acid)、ANA(1,5-anhydroatritol nucleic acid)、FANA(2’-deoxy-2’-fluoroarabino nucleic acid)およびCeNA(cyclohexenyl nucleic acid)のうち少なくともいずれか一つを含む、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項6】
前記リガンドは、AMPおよびATPのうち少なくとも一つを含み、
前記自己組み立て複合体は、長軸および短軸を有するニードル形態を含み、
前記ATP配合比が増加するほど、前記ニードル形態の長軸および短軸の縦横比が減少する、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項7】
前記縦横比は、5~50を含む、
請求項6に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項8】
前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、
前記AMPおよびATPが99.99:0.01~85:15のモル濃度で含まれ、
前記自己組み立て複合体は、ウニ形態に形成される、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項9】
前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、
前記AMPおよびATPが85:15~50:50のモル濃度で含まれ、
前記自己組み立て複合体は、球形態に形成される、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項10】
隣り合う前記リガンドの間のπ-π相互作用、および水素結合のうち少なくともいずれか一つ、または
前記銅イオンとリガンドとの間の配位結合および水素結合のうち少なくともいずれか一つによって自己組み立て複合体を形成する、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項11】
前記銅イオンおよびリガンドは、5:1~1:1のモル濃度で含まれる、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項12】
1日~30日間自己分解される、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項13】
有効成分をさらに含み、
前記有効成分は、前記自己組み立て複合体に担持される、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項14】
前記有効成分は、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジン、ドキソルビシン、薬物、タンパク質、有機酸、有機塩基、香料および染料のうち少なくともいずれか一つである、
請求項13に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項15】
前記有効成分は、前記自己組み立て複合体が自己分解されることで排出され、
前記有効成分は、放出時間の間持続的に放出される、
請求項13に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項16】
前記放出時間は、1日~30日である、
請求項15に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項17】
前記自己組み立て複合体が自己分解されて前記銅イオンおよびリガンドのうち少なくともいずれか一つが放出時間の間放出され、
前記放出時間は、前記リガンドの種類および配合比のうち少なくともいずれか一つによって調節される、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項18】
物質伝達キャリアとして使用される、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項19】
前記リガンドの種類および配合比のうち少なくともいずれか一つによって、前記自己組み立て複合体は、ニードル形態(needle shape)およびウニ形態(sea urchin shape)のうち少なくともいずれか一つに備えられ、
前記自己組み立て複合体は、抗菌剤、殺菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤およびマイクロニードルパッチ用ニードルのうち少なくともいずれか一つとして利用される、
請求項1に記載の銅イオンを含む自己組み立て複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅イオンを含む自己組み立て複合体に関し、より詳細には、物質を担持して伝達できる複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、全世界的なcovid-19の大流行で抗ウイルス、抗菌への関心が高くなっており、銅を利用した抗ウイルス、抗菌技術が発展している。銅は、細胞あるいはウイルスに代謝に影響を及ぼして細胞死、ウイルス破壊を起こす。
【0003】
人々がよく接触する所に銅を塗布し、銅イオン放出で抗菌、抗ウイルス効果を享受する製品、技術が主になっている。
【0004】
持続的な銅イオンの放出は限界があり、持続的な銅イオンの放出のための技術が必要である。
【0005】
特許文献1のような銅を含む抗菌用フィルムについての技術が開示されているが、このような技術を銅イオンが一定の濃度を維持しながら持続的に供給できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】大韓民国公開特許第10-2021-0124077号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、銅イオンを含む自己組み立て複合体を形成し、複合体の構成成分を調節して複合体の自己分解速度を調節し、それによって有効成分の伝達速度を制御するためのことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、本発明の実施例は、銅イオンを含む自己組み立て複合体であって、銅イオン、および1種以上のリガンドを含み、前記リガンドと銅イオンが可逆的に自己組み立てまたは自己分解され、前記リガンドの種類、または前記リガンドが複数個である場合、リガンドの配合比によって前記自己組み立て複合体の形状が異なるように形成される、銅イオンを含む自己組み立て複合体を含むことができる。
【0009】
一実施例において、前記リガンドの配合比によって前記自己組み立て複合体の形状が順次にニードル形態(needle shape)、ウニ形態(sea urchin shape)および球形態(sphere shape)に変形されるものであってよい。
【0010】
一実施例において、前記ニードル形態は、長軸および短軸を有し、前記長軸の長さは、短軸の長さに比して1.5倍~100倍以上大きく延びた形態を含み、前記ウニ形態は、表面および内部のうち少なくともいずれか一つに複数個の気孔を有する3次元構造体の形態を含み、表面に一つ以上のニードルを有する針状形であり、前記球形態は、平均直径が0.1μm~10μmであるものを含むものであってよい。
【0011】
一実施例において、前記リガンドは、ホスフェートおよびホスホネートのうち少なくともいずれか一つを含むものであってよい。
【0012】
一実施例において、前記リガンドは、AMP、ADP、ATP、TMP、TDP、TTP、CMP、CDP、CTP、GMP、GDP、GTP、UMP、UDP、UTP、DNA、RNA、AEP(2-アミノエチルホスホン酸、2-aminoethylphosphonic acid)、TNA(Threose nucleic acid)、GNA(glycol nucleic acid)、HNA(1,5-anhydrohexitol nucleic acid)、ANA(1,5-anhydroatritol nucleic acid)、FANA(2’-deoxy-2’-fluoroarabino nucleic acid)およびCeNA(cyclohexenyl nucleic acid)のうち少なくともいずれか一つを含むものであってよい。
【0013】
一実施例において、前記リガンドは、AMPおよびATPのうち少なくとも一つを含み、前記自己組み立て複合体は、長軸および短軸を有するニードル形態を含み、前記ATP配合比が増加するほど、前記ニードル形態の長軸および短軸の縦横比が減少するものであってよい。
【0014】
一実施例において、前記縦横比は、5~50を含むものであってよい。
【0015】
一実施例において、前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、前記AMPおよびATPが99.99:0.01~85:15のモル濃度で含まれ、前記自己組み立て複合体は、ウニ形態に形成されるものであってよい。
【0016】
一実施例において、前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、前記AMPおよびATPが85:15~50:50のモル濃度で含まれ、前記自己組み立て複合体は、球形態に形成されるものであってよい。
【0017】
一実施例において、隣り合う前記リガンドの間のπ-π相互作用、および水素結合のうち少なくともいずれか一つ、または前記銅イオンとリガンドとの間の配位結合および水素結合のうち少なくともいずれか一つによって自己組み立て複合体を形成するものであってよい。
【0018】
一実施例において、前記銅イオンおよびリガンドは、5:1~1:1のモル濃度で含まれるものであってよい。
【0019】
一実施例において、1日~30日間自己分解されるものであってよい。
【0020】
一実施例において、有効成分をさらに含み、前記有効成分は、前記自己組み立て複合体に担持されるものであってよい。
【0021】
一実施例において、前記有効成分は、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジン、ドキソルビシン、薬物、タンパク質、有機酸、有機塩基、香料および染料のうち少なくともいずれか一つであってよい。
【0022】
一実施例において、前記有効成分は、前記自己組み立て複合体が自己分解されることで排出され、前記有効成分は、放出時間の間持続的に放出され得る。
【0023】
一実施例において、前記放出時間は、1日~30日であってよい。
【0024】
一実施例において、前記自己組み立て複合体が自己分解されて前記銅イオンおよびリガンドのうち少なくともいずれか一つが放出時間の間放出され、前記放出時間は、前記リガンドの種類および配合比のうち少なくともいずれか一つによって調節されるものであってよい。
【0025】
一実施例において、物質伝達キャリアとして使用され得る。
【0026】
一実施例において、前記リガンドの配合比によって、前記自己組み立て複合体は、ニードル形態(needle shape)およびウニ形態(sea urchin shape)のいずれか一つ以上に備えられ、前記自己組み立て複合体は、抗菌剤、殺菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤およびマイクロニードルパッチ用ニードルのうち少なくともいずれか一つとして使用され得る。
【発明の効果】
【0027】
以上、検討したような本発明によれば、銅イオンを含む自己組み立て複合体を形成し、複合体の構成成分を調節して複合体の自己分解速度を調節し、それによって有効成分の伝達速度を制御するための自己組み立て複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施例による銅イオンとリガンドが自己組み立て複合体を形成することを模式的に示した図である。
【
図2】本発明の一実施例によってAMPとATPの配合比を異なるようにして製造した自己組み立て複合体のSEMイメージおよび縦横比を示したものである。
【
図3】本発明の一実施例によってAMPとATPの配合比を異なるようにして製造した自己組み立て複合体のSEMイメージおよび縦横比を示したものである。
【
図4】本発明の一実施例によってAMPとATPの配合比を異なるようにして製造した自己組み立て複合体のSEMイメージおよび縦横比を示したものである。
【
図5】本発明の一実施例によってAMPとATPの配合比を異なるようにして製造した自己組み立て複合体の薬物放出実験結果である。
【
図6】本発明の一実施例によってAMPとATPの配合比を異なるようにして製造した自己組み立て複合体の薬物放出実験結果である。
【
図7】本発明の一実施例によってAMPとATPの配合比を異なるようにして製造した自己組み立て複合体の薬物放出実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
その他の実施例の具体的な事項は、詳細な説明および図面に含まれている。
【0030】
本発明の利点および特徴、そして、それらを達成する方法は、添付の図面と共に詳細に後述されている実施例を参照すると明確になるだろう。しかし、本発明は、以下において開示される実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態に具現され得、以下の説明において別に明示されない限り、本発明に成分、反応条件、成分の含量を表現する全ての数字、値および/または表現は、このような数字が本質的に異なるものの中でこのような値を得るのに発生する測定の多様な不確実性が反映された近似値であるので、全ての場合、「約」という用語により修飾されるものと理解されるべきである。また、本記載において数値範囲が開示される場合、このような範囲は連続的であり、別に指摘されない限り、このような範囲の最小値から最大値が含まれた前記最大値までの全ての値を含む。さらには、このような範囲が整数を指す場合、別に指摘されない限り、最小値から最大値が含まれた前記最大値までを含む全ての整数が含まれる。
【0031】
また、本発明において範囲が変数について記載される場合、前記変数は、前記範囲の記載された終了点を含む記載された範囲内の全ての値を含むものと理解されるだろう。例えば、「5~10」の範囲は、5、6、7、8、9、および10の値だけではなく、6~10、7~10、6~9、7~9等の任意の下位範囲を含み、5.5、6.5、7.5、5.5~8.5および6.5~9等のような記載された範囲の範疇に妥当な整数の間の任意の値も含むものと理解されるだろう。例えば、「10%~30%」の範囲は、10%、11%、12%、13%等の値と30%までを含む全ての整数だけではなく、10%~15%、12%~18%、20%~30%等の任意の下位範囲を含み、10.5%、15.5%、25.5%等のように記載された範囲の範疇内の妥当な整数の間の任意の値も含むものと理解されるだろう。
【0032】
図1は、本発明の一実施例による銅イオンを含む自己組み立て複合体が自己組み立てされる過程を模式的に示した図である。
【0033】
例えば、前記銅イオン(Cu2+)がリガンドであるAMPまたはATPのリン酸基と配位結合して金属錯体を形成することができる。また、図面に示されてはいないが、前記リガンドの塩基部分が芳香族環を含んでおり、芳香族環の間にπ-π相互作用を形成するか水素結合を形成することができる。また、図面に示されてはいないが、前記カルシウムイオンに水分子が結合でき、前記水分子が塩基部分の窒素と水素結合を形成することができる。
【0034】
前記自己組み立て複合体は、このようにカルシウムイオンとリガンドとの間に配位結合、水素結合およびπ-π相互作用を含んで形成され得、これらのうち少なくともいずれか一つの結合によって複合体を形成することができる。
【0035】
本発明の一側面によれば、本発明の実施例は、銅イオンを含む自己組み立て複合体であって、銅イオン、および1種以上のリガンドを含み、前記リガンドと銅イオンが可逆的に自己組み立てまたは自己分解され、前記リガンドの種類、または前記リガンドが複数個である場合、リガンドの配合比によって前記自己組み立て複合体の形状が異なるように形成される、銅イオンを含む自己組み立て複合体を含むことができる。
【0036】
前記リガンドの配合比によって、前記自己組み立て複合体の形状が順次にニードル形態(needle shape)、ウニ形態(sea urchin shape)および球形態(sphere shape)に変形されるものであってよい。例えば、前記リガンドの配合比の程度によってニードル形態およびウニ形態が共存でき、また前記ウニ形態および球形態が共存できる。
【0037】
前記ニードル形態は、長軸および短軸を有し、前記長軸の長さは、短軸の長さに比して1.5倍~100倍以上大きく延びた形態を含むことができる。前記ウニ形態は、表面および内部のうち少なくともいずれか一つに複数個の気孔を有する3次元構造体の形態を含むことができる。また、前記ウニ形態は、表面に一つ以上のニードルを有する針状形に備えられ得る。前記球形態は、平均直径が0.1μm~10μmであるものを含むものであってよい。
【0038】
前記自己組み立て複合体がニードル形態である場合、前記自己組み立て複合体は、長軸および短軸を有し、前記リガンドの配合比によって前記長軸および短軸の縦横比が変化し得る。具体的に、前記ニードル形態は、長軸および短軸を有し、例えば、マイクロニードルのような形態に備えられ得る。
【0039】
前記自己組み立て複合体がウニ形態(sea urchin shape)である場合、前記自己組み立て複合体は、例えば、とげが立っている球形の形態であってよい。前記ウニ形態は、前記ニードル形態が組み立て体を形成して備えられるものであってよい。前記ウニ形態は、前記ニードル形態の複数個が凝集した形態であり、具体的には、複数個のニードル形態が中心部に向かう方向に配向して略球形の形態に備えられ得る。
【0040】
前記自己組み立て複合体が球形である場合、前記自己組み立て複合体の表面は、前記ウニ形態とは異なり比較的に滑らかに形成され得る。前記リガンドの配合比が変化することで前記ウニ形態の自己組み立て複合体が分離されて前記球形態を形成することができる。
【0041】
前記リガンドの配合比によって、前記ニードル形態とウニ形態は、それぞれ存在するか同時に存在し得る。また、前記リガンドの配合比によって、前記ウニ形態と球形態は、それぞれ存在するか同時に存在し得る。
【0042】
本実施例による自己組み立て複合体は、前記ニードル形態に備えられる場合、パッチ等の形態で利用され得る。具体的には、ポリマー、不織布等のようなシート形態に、前記ニードル形態の自己組み立て複合体は垂直に固定させることができ、これは、マイクロニードルパッチ等として利用され得る。
【0043】
前記自己組み立て複合体がウニ形態に備えられる場合、3次元の形態であるマイクロニードルのような用途に利用され得る。
【0044】
前記自己組み立て複合体がニードル形態またはウニ形態に備えられる場合、皮膚の表皮層を貫通するように剛性を有するように備えられ、マイクロニードルパッチ用に利用され得る。前記自己組み立て複合体がマイクロニードルパッチ用に利用される場合、美容機器または医療機器等に適用でき、薬物の伝達効率を向上させることができる。
【0045】
前記リガンドは、前記銅イオンと配位結合(coordination bond)して自己組み立てされ得る物質であってよい。前記リガンドは、前記銅イオンと結合して金属錯化合物を形成することができる。
【0046】
前記リガンドは、ホスフェートおよびホスホネートのうち少なくともいずれか一つを含むものであってよい。前記ホスフェート(phosphate)またはホスホネート(phosphonate)は、前記銅イオンと配位結合できる部分であってよい。
【0047】
例えば、前記リガンドは、AMP(アデノシン一リン酸、Adenosine monophosphate)、ADP(アデノシン二リン酸、Adenosine diphosphate)、ATP(アデノシン三リン酸、Adenosine triphosphate)、TMP(チミジン一リン酸、Thymidine monophosphate)、TDP(チミジン二リン酸、Thymidine diphosphate)、TTP(チミジン三リン酸、Thymidine triphosphate)、CMP(シチジン一リン酸、Cytidine monophosphate)、CDP(シチジン二リン酸、Cytidine diphosphate)、CTP(シチジン三リン酸、Cytidine triphosphate)、GMP(グアノシン一リン酸、Guanosine monophosphate)、GDP(グアノシン二リン酸、Guanosine diphosphate)、GTP(グアノシン三リン酸、Guanosine triphosphate)、UMP(ウリジン一リン酸、Uridine monophosphate)、UDP(ウリジン二リン酸、Uridine diphosphate)、UTP(ウリジン三リン酸、Uridine triphosphate)、DNA、RNA、AEP(2-アミノエチルホスホン酸、2-aminoethylphosphonic acid)、TNA(トレオース核酸、Threose nucleic acid)、GNA(グリコール核酸、glycol nucleic acid)、HNA(1,5-アンヒドロヘキシトール核酸、1,5-anhydrohexitol nucleic acid)、ANA(1,5-アンヒドロアトリトール核酸、1,5-anhydroatritol nucleic acid)、FANA(2’-デオキシ-2’-フルオロアラビノ核酸、2’-deoxy-2’-fluoroarabino nucleic acid)およびCeNA(シクロヘキシニル核酸、cyclohexenyl nucleic acid)のうち少なくともいずれか一つであるものであってよい。
【0048】
前記銅イオンは、例えば、前記リガンドのリン酸基部位等、電子が豊富な部位と配位結合して金属錯化合物を形成することができる。
【0049】
例えば、前記リガンドは、AMPおよびATPのうち少なくとも一つを含み、前記自己組み立て複合体は、長軸および短軸を有するニードル形態を形成することができる。ここで、前記リガンドは、AMPだけがあってよく、AMPとATPを全て含むことができる。前記ATP配合比が増加するほど、前記ニードル形態の長軸および短軸の縦横比が減少するものであってよい。ここで、前記AMPおよびATPは、100:0~99:1の配合比で混合され得る。
【0050】
前記縦横比は、5~50を含むものであってよい。
【0051】
例えば、前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、前記AMPおよびATPが99.99:0.01~85:15の配合比で含まれ、前記自己組み立て複合体は、ウニ形態に形成されるものであってよい。前記リガンドは、好ましくは、前記AMPおよびATPが99:1~90:10の配合比で含まれ得、前記自己組み立て複合体は、繊維質に形成され得る。
【0052】
例えば、前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、前記AMPおよびATPが85:15~50:50の配合比で含まれ、前記自己組み立て複合体は、球形態に形成されるものであってよい。前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、前記AMPおよびATPが75:25~50:50の配合比で含まれ、前記自己組み立て複合体は、球形態に形成されるものであってよい。
【0053】
前記リガンドの配合比は、モル濃度を基準とすることができる。
【0054】
隣り合う前記リガンドの間のπ-π相互作用、および水素結合のうち少なくともいずれか一つ、または銅イオンと前記リガンドとの間の配位結合および水素結合のうち少なくともいずれか一つによって自己組み立て複合体を形成するものであってよい。
【0055】
前記自己組み立て複合体は、隣り合う前記銅イオンとリガンドとの間に配位結合、π-π相互作用および水素結合のうち少なくともいずれか一つによって形成され得る。前記自己組み立て複合体は、これらの相互作用または結合によってそれぞれの銅イオンおよびリガンドが密に密着し得る。従って、前記自己組み立て複合体は、前記銅イオンおよびリガンドが密に固まって形成されるものであってよい。
【0056】
前記自己組み立て複合体は、前記リガンドの種類または配合比率によってさらに密に形成されるか緩く形成され得る。
【0057】
例えば、前記リガンドでATPの配合比が増加するほど前記自己組み立て複合体で負電荷が大きくなり、前記自己組み立て複合体がさらに密に形成され得、さらに固まり得る。
【0058】
前記銅イオンおよびリガンドは、5:1~1:1のモル濃度で含まれるものであってよい。
【0059】
前記自己組み立て複合体は、自発的に自己組み立てされ、自己分解され得る。ただし、緩衝溶液を含む条件で自己分解が促進されるものであってよい。前記緩衝溶液は、生体内の環境と類似した環境を造成するものであってよい。前記緩衝溶液は、前記自己組み立て複合体の構成成分とイオンを交換することで前記自己組み立て複合体の分解を促進できる。
【0060】
前記緩衝溶液がある場合、前記自己組み立て複合体は、1日~30日間自己分解されるものであってよい。好ましくは、前記自己組み立て複合体は、1日~15日間自己分解されるものであってよい。
【0061】
前記自己組み立て複合体は、有効成分をさらに含み、前記有効成分は、前記自己組み立て複合体に担持されるものであってよい。前記有効成分は、前記自己組み立て複合体が自己組み立てされる時に共に組み立てされて前記自己組み立て複合体内に担持され得る。
【0062】
前記有効成分は、前記自己組み立て複合体が自己分解される時に放出され得る。従って、前記有効成分は、前記自己組み立て複合体が自己分解される時間を調節することで放出される時間および速度を調節できる。前記自己組み立て複合体は、リガンドの種類または配合比によって自己分解速度が異なり得、前記自己組み立て複合体は、表面から一定速度で順次に自己分解され得る。従って、前記有効成分は、前記自己組み立て複合体が自己分解される時間の間一定に持続的に放出され得る。即ち、前記有効成分は、放出時間の間一定に持続的に放出されるものであってよい。
【0063】
前記有効成分は、例えば、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジン、ドキソルビシン、薬物、タンパク質、有機酸、有機塩基、香料および染料のうち少なくともいずれか一つであってよいが、これに制限されなくてよい。
【0064】
また、前記自己組み立て複合体が自己分解される場合、前記有効成分の他にも前記銅イオンおよびリガンドのうち少なくともいずれか一つが放出時間の間放出され得る。そして前記放出時間は、前記リガンドの配合比によって調節されるものであってよい。従って、前記自己組み立て複合体は、生体内に前記銅イオンまたはリガンドを伝達するために使用され得る。
【0065】
例えば、前記放出時間は、1日~30日であってよく、好ましくは、1日~15日であってよい。
【0066】
前記自己組み立て複合体は、物質伝達キャリアとして使用され得る。
【0067】
前記自己組み立て複合体は、抗菌剤、殺菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤およびマイクロニードルパッチ用ニードルのうち少なくともいずれか一つとして利用され得る。
【0068】
以下、本発明の実施例および比較例を記載する。しかし、下記実施例は、本発明の好ましい一実施例であるだけで、本発明の権利範囲が下記実施例によって制限されるものではない。
【0069】
[製造例]
1.自己組み立て複合体の製造
超純水に銅クロリド(Copper chloride)、AMP(Adenosine monophosphate)、ATP(Adenosine triphosphate)をそれぞれ溶かして最終濃度が1Mになるように準備する。ストックソリューション(stock solution)をコニカルチューブ(conical tube)に入れ、超純水の量を計算して入れる。ここにアデノシンリン酸塩水溶液、カルシウムイオン水溶液の順に入れ、ボルテックシング(vortexing)してよく混合し、24時間の間反応させる。
【0070】
2.自己組み立て複合体に有効成分担持
前記自己組み立て複合体にアデノシンのような薬物を含有して合成する場合、カルシウムイオンを入れる前にアデノシンを入れて残りの過程を進行する。この後、1と同じ過程で実験を進行し、24時間の間の反応が終了すると、反応していない物質を除去し、自己組み立て体を収得するために、遠心分離機を通して10,000RPMで10分間遠心分離して自己組み立て体を沈め、上清液を除去する。超純水を本来の体積と同一に入れ、また遠心分離する。この過程を2回繰り返す。
【0071】
3.実験に使用された物質
Copper(II) chloride(CAS:10125-13-0、Sigma-Aldrich)
Adenosine-5’-monophosphate disodium salt(CAS:4578-31-8、Alfa Aesar)
Adenosine 5’-triphosphate disodium salt(51963-61-2、DAEJUNG試薬)
Adenosine(CAS:58-61-7、Sigma-Aldrich)
PBS solution(1X pH 7.4、ML 008-01、WELGENE)
Copper Assay Kit(MAK127、Sigma-Aldrich)
[実施例]
1.実施例1
超純水1ml内にAMPとATPの濃度を変化させながら混合溶液を製造した。この後、常温で24時間の間反応させて自己組み立て複合体が形成されるようにした。
【0072】
【表1】
2.実施例2
超純水5ml内にAMPとATPの濃度を変化させながら混合溶液を製造した。この後、常温で24時間の間反応させて自己組み立て複合体が形成されるようにした。
【0073】
【表2】
[実験例]
1.形態分析
図2および4は、実施例に対するSEM(scanning electron microscopy)イメージおよびニードル形態の縦横比を示す図である。
【0074】
図2において、自己組み立て複合体が全てニードル形態に形成されており、ATPの配合比が増加するほど自己組み立て複合体の大きさが小さくなり、縦横比が減少することを確認できる。
図3は、ATPの配合比増加による縦横比をグラフで示したものであり、ここで縦横比が減少することが確かに分かる。
【0075】
図4は、ATPの配合比をさらに増加させてウニ形態および球形態を形成した様子を含む。AMPとATPの配合比が90:10で含まれた場合、表面が尖った球形状(ウニ形態)を形成したことを確認でき、これはニードル形状と明確に区分される形態である。ウニ形態では、イメージでも内部に気孔が多数存在することを確認できる。
【0076】
また、
図4においてAMPとATPの配合比が75:25で含まれた場合からは自己組み立て複合体が略球形に形成されたことを確認できる。球形状は、表面が滑らかな球模様であり、これらはそれぞれ存在するか球形状同士で固まって構造体を形成することもある。この形状は、ウニ形態と明確に区分される。また、ニードル形状やウニ形状とは異なりATPの配合比を増加させても形状がそれ以上明確に変わらなかった。
【0077】
下記表3は、AMPとATPの配合比によるニードル形態の縦横比差を観察したものである。
【0078】
【表3】
表3によれば、ATPの配合比が増加するほど短軸および長軸の縦横比が明確に減少することを確認できる。
【0079】
2.薬物伝達
図5乃至7は、自己組み立て複合体が薬物を伝達および放出することを実験した結果である。
【0080】
AMPとATPの配合比を異なるようにして製造した自己組み立て複合体をPBS溶液を入れ、自己組み立て複合体が自己分解されて物質を放出する時間を観察した。自己組み立て複合体に担持される薬物は、アデノシンを利用した。
【0081】
自己組み立て複合体をPBS溶液に入れ、一定時間毎にPBS緩衝溶液を全て回収し、同量のPBS緩衝溶液を入れた。この緩衝溶液は、薬物伝達において生体環境と類似した環境を設定するためのものである。
【0082】
自己分解進行後、HPLC(高性能液体クロマトグラフィー、High Performance Liquid Chromatography)を通して溶出されたAMPとアデノシンの溶出量を確認し、銅は、copper assay kitを利用して確認した。
【0083】
図面において、自己組み立て複合体の自己分解が進行した後、約15日間、AMP、銅イオンおよびアデノシンの累積放出量が一定に持続的に増加することを確認できる。
【0084】
このような結果から自己組み立て複合体が一定の水準に継続的に自己分解される特性を有することを確認できる。
【0085】
また、リガンドの配合比率による差を見ると、AMPとATPを使用した場合に初期放出速度が速く、以降には緩やかな速度で放出されることを確認できる。また、AMPだけが含まれた場合、放出される速度が相対的に遅いが、一定の量で持続的に放出されることを確認できる。従って、リガンドの配合比率を調節して薬物等が伝達される速度および期間を調節できる。
【0086】
また、この実験結果は、生体内環境と類似した緩衝溶液で進行し、自己組み立て複合体がこれと同じ様相で生体内でも薬物等を伝達できることを示す。
【0087】
本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者は、本発明がその技術的思想や必須な特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施され得るということを理解できるだろう。それゆえ、以上において記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではないものと理解すべきである。本発明の範囲は、前記詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および範囲、そして、その均等概念から導出される全ての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。