(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157005
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】摩耗状況計測装置およびダイカストマシン
(51)【国際特許分類】
B22D 17/32 20060101AFI20231018BHJP
B22D 17/20 20060101ALI20231018BHJP
B29C 45/84 20060101ALI20231018BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
B22D17/32 J
B22D17/20 F
B22D17/20 G
B29C45/84
B29C45/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063411
(22)【出願日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2022066401
(32)【優先日】2022-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】宇佐見 兵衛
(72)【発明者】
【氏名】樋口 有孝
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM04
4F206AM23
4F206AP20
4F206AQ02
4F206AR07
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL07
4F206JL09
4F206JP13
4F206JP14
4F206JP15
4F206JQ06
4F206JQ31
4F206JQ88
4F206JQ90
(57)【要約】
【課題】プランジャチップおよび射出スリーブの摩耗を高精度に把握することが可能な摩耗状況計測装置を提供する。
【解決手段】この摩耗状況計測部8(摩耗状況計測装置)は、金型2を保持する金型保持部3と、溶湯Mが供給される筒形状の射出スリーブ5と、射出スリーブ5内に摺動可能に配置され、射出スリーブ5に供給された溶湯MをキャビティC内に射出するプランジャチップ6aと、射出スリーブ5内でプランジャチップ6aを進退移動させる射出駆動部7と、を備えたダイカストマシン1における射出スリーブ5およびプランジャチップ6aの摩耗状況を計測する摩耗状況計測装置である。摩耗状況計測部8は、プランジャチップ6aの移動時に射出スリーブ5を伝搬する弾性波EWを計測する弾性波計測部8aと、弾性波計測部8aの出力信号に基づいて射出スリーブ5およびプランジャチップ6aの少なくとも一方における摩耗状況を判定する判定部8bとを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティを有する金型を保持する金型保持部と、溶湯が供給される筒形状の射出スリーブと、前記射出スリーブ内に摺動可能に配置され、前記射出スリーブに供給された溶湯をキャビティ内に射出するプランジャチップと、前記射出スリーブ内で前記プランジャチップを進退移動させる射出駆動部と、を備えたダイカストマシンにおける前記射出スリーブおよび前記プランジャチップの摩耗状況を計測する摩耗状況計測装置であって、
前記プランジャチップの移動時に前記射出スリーブを伝搬する弾性波を計測する弾性波計測部と、
前記弾性波計測部の出力信号に基づいて前記射出スリーブおよび前記プランジャチップの少なくとも一方における摩耗状況を判定する判定部とを備える、摩耗状況計測装置。
【請求項2】
前記弾性波計測部は、
前記射出スリーブと接触する一端と、前記射出スリーブから離れた他端とを有する伝搬部材と、
前記伝搬部材の前記他端側に取り付けられ、前記伝搬部材を介して前記射出スリーブから伝搬する弾性波を計測する弾性波検出センサと、を含む、請求項1に記載の摩耗状況計測装置。
【請求項3】
前記射出スリーブを保持した状態で前記金型保持部に固定するスリーブ保持部と、
前記伝搬部材を保持する保持部材と、をさらに備え、
前記保持部材は、前記射出スリーブとは非接触で前記スリーブ保持部または前記金型保持部に取り付け可能であり、前記伝搬部材の前記一端を前記射出スリーブに付勢するように構成されている、請求項2に記載の摩耗状況計測装置。
【請求項4】
前記プランジャチップの移動時に取得された前記弾性波計測部の前記出力信号に基づいて、単位時間当たりの弾性波の強度指標を算出する信号処理部をさらに備え、
前記判定部は、算出された前記強度指標に基づいて、前記射出スリーブおよび前記プランジャチップの少なくとも一方における摩耗の程度を判定するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の摩耗状況計測装置。
【請求項5】
前記判定部は、
前記射出駆動部による移動時の前記プランジャチップの位置情報を取得し、
前記プランジャチップの移動中の前記弾性波計測部の前記出力信号と前記位置情報とに基づいて、前記射出スリーブの摩耗箇所を推定するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の摩耗状況計測装置。
【請求項6】
前記弾性波計測部の前記出力信号のうち、超音波領域の周波数の弾性波に対応する信号成分を抽出する抽出処理部をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の摩耗状況計測装置。
【請求項7】
前記保持部材は、
前記スリーブ保持部または前記金型保持部に取り付けられるとともに、前記伝搬部材を保持する第1ブラケットと、
前記第1ブラケットと前記伝搬部材との間に設けられ、前記伝搬部材の前記一端を前記射出スリーブに付勢する付勢部材と、を含む、請求項3に記載の摩耗状況計測装置。
【請求項8】
前記付勢部材は、前記伝搬部材の前記一端を前記射出スリーブに付勢する変形状態で前記第1ブラケットと前記伝搬部材との間に配置された板ばね、または、前記伝搬部材の前記一端を前記射出スリーブに付勢する圧縮状態で前記第1ブラケットと前記伝搬部材との間に配置された圧縮コイルばねである、請求項7に記載の摩耗状況計測装置。
【請求項9】
前記射出スリーブを保持した状態で前記金型保持部に固定するスリーブ保持部をさらに備え、
前記弾性波計測部は、
前記射出スリーブと接触する一端を有する伝搬部材と、
前記スリーブ保持部または前記金型保持部に取り付けられるとともに、前記伝搬部材を直接保持して前記伝搬部材の前記一端を前記射出スリーブに当接させる第2ブラケットと、
前記第2ブラケットに取り付けられ、前記伝搬部材を介して前記射出スリーブから伝搬する弾性波を計測する弾性波検出センサと、を含む、請求項1に記載の摩耗状況計測装置。
【請求項10】
前記第2ブラケットは、前記弾性波検出センサが取り付けられる部分の厚みよりも、前記伝搬部材を保持する側の部分の厚みの方が小さくなるように形成されている、請求項9に記載の摩耗状況計測装置。
【請求項11】
キャビティを有する金型を保持する金型保持部と、
溶湯が供給される筒形状の射出スリーブと、
前記射出スリーブ内に摺動可能に配置され、前記射出スリーブに供給された溶湯をキャビティ内に射出するプランジャチップと、
前記射出スリーブ内で前記プランジャチップを進退移動させる射出駆動部と、
前記プランジャチップの移動時に前記射出スリーブを伝搬する弾性波を計測する弾性波計測部と、
前記弾性波計測部の出力信号に基づいて前記射出スリーブおよび前記プランジャチップの少なくとも一方における摩耗状況を判定する判定部とを備える、ダイカストマシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、摩耗状況計測装置およびダイカストマシンに関し、特に、射出スリーブ内の溶湯をプランジャチップにより金型内に射出するダイカストマシンにおける摩耗状況計測装置および摩耗状況計測装置を備えたダイカストマシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出スリーブ内の溶湯をプランジャチップにより金型内に射出するダイカストマシンが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、溶湯を射出スリーブ内に供給し、射出スリーブ内に摺動自在に設けたプランジャチップをシリンダにより低速及び高速で前進することにより溶湯を金型のキャビティに射出するダイカストマシンが開示されている。
【0004】
上記特許文献1には、溶湯の射出を繰り返すと、プランジャチップに摩耗が生じ、又、射出スリーブ内に固化した金属粒が存在することが生じ、射出速度が波打つように変化する等のいわゆるかじりが発生することが記載されている。そこで、上記特許文献1では、プランジャチップの移動範囲内に複数の評価区間を設定し、評価区間毎の鋳造圧力平均値と鋳造圧力最大値とを算出し、これらの値と予め設定された値との隔たりを比較することにより評価区間毎に点数を付けることで、かじり度合いを評価することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された「かじり」の発生は、摺動面であるプランジャチップの外周面と射出スリーブの内周面との一方または両方に生じる摩耗が主たる原因となる。かじりの発生以外にも、摺動面の摩耗によりプランジャチップと射出スリーブとの間の隙間が大きくなると、隙間から圧力が抜けてしまうバックフラッシュとよばれる現象が発生する。かじりやバックフラッシュといった摺動部品の異常は、製品の品質低下の要因となるため、摩耗したプランジャチップおよび射出スリーブは交換される。製品の品質に影響するまで摩耗が進行する前に、適切なタイミングで摺動部品の交換の要否を判断できるように、プランジャチップおよび射出スリーブの摩耗を精度良く検知することが望まれている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された評価手法は、かじりの発生による摺動抵抗の変化を、射出圧力の変化として計測することで間接的に検知するものであり、射出圧力を変動させないような僅かな変化をとらえることは困難である。つまり、実際にかじりの発生に起因する射出圧力の変化を検知できた時には品質が低下した製品あるいは品質基準を満たさない不良品が発生してしまっている可能性が高い。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、プランジャチップおよび射出スリーブの摩耗を高精度に把握することが可能な摩耗状況計測装置およびダイカストマシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願発明者らが鋭意検討した結果、プランジャチップが射出スリーブ内を摺動する際には摺動音が発生し、空気中では検出できないような摺動音であっても、射出スリーブ内を伝搬する高周波(超音波領域)の弾性波として検出できることを見出した。そして、本願発明者らは、射出圧力変化として検出できるほどの大きな摺動抵抗の変化を生じさせないような段階の摩耗状況であっても、摺動時に射出スリーブを伝搬する弾性波には、その摩耗状況を反映した変化が現れることを見出した。この知見に基づいて、本願発明者らは、以下の発明をするに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の局面における摩耗状況計測装置は、キャビティを有する金型を保持する金型保持部と、溶湯が供給される筒形状の射出スリーブと、射出スリーブ内に摺動可能に配置され、射出スリーブに供給された溶湯をキャビティ内に射出するプランジャチップと、射出スリーブ内でプランジャチップを進退移動させる射出駆動部と、を備えたダイカストマシンにおける射出スリーブおよびプランジャチップの摩耗状況を計測する摩耗状況計測装置であって、プランジャチップの移動時に射出スリーブを伝搬する弾性波を計測する弾性波計測部と、弾性波計測部の出力信号に基づいて射出スリーブおよびプランジャチップの少なくとも一方における摩耗状況を判定する判定部とを備える。なお、本発明において、「摩耗」とは、射出スリーブおよびプランジャチップの摺動面のすり減りのみならず、摺動面に形成される傷(損傷)に起因する摺動抵抗の増大箇所の形成を含む広い概念である。
【0011】
この発明の第1の局面による摩耗状況計測装置では、上記のように、プランジャチップの移動時に射出スリーブを伝搬する弾性波を計測する弾性波計測部を備える。これにより、プランジャチップと射出スリーブとの摺動により発生して射出スリーブを伝搬する高周波の弾性波(アコースティックエミッション、AE波)を計測することで、摺動面における摩耗の程度に応じた弾性波の変化を把握することができる。摺動によって生じる弾性波は、射出スリーブを伝播するので、空気中を伝わる摺動音や、射出圧力の変化としては計測されないような僅かな変化でも捉えることができる。そして、弾性波計測部の出力信号に基づいて射出スリーブおよびプランジャチップの少なくとも一方における摩耗状況を判定する判定部を備えることにより、弾性波計測部の出力信号から摩耗状況(摩耗の進行具合)を把握することができる。これにより、プランジャチップおよび射出スリーブの摩耗を高精度に把握することができる。
【0012】
上記第1の局面による摩耗状況計測装置において、好ましくは、弾性波計測部は、射出スリーブと接触する一端と、射出スリーブから離れた他端とを有する伝搬部材と、伝搬部材の他端側に取り付けられ、伝搬部材を介して射出スリーブから伝搬する弾性波を計測する弾性波検出センサと、を含む。このように構成すれば、たとえば射出スリーブを保持する金型保持部側に伝搬した弾性波を計測するのではなく、プランジャチップと射出スリーブとの摺動に伴い発生する弾性波を、伝搬部材を用いることで射出スリーブから直接的に計測できる。また、射出スリーブは、溶湯が供給されることによって非常に高温(数百℃)となるため、耐熱型のセンサであっても射出スリーブに直接取り付けることは困難である。そこで、射出スリーブに接触させた伝搬部材に弾性波を伝搬させることによって、弾性波検出センサへの熱の影響を抑制しつつ弾性波を計測できる。
【0013】
この場合、好ましくは、射出スリーブを保持した状態で金型保持部に固定するスリーブ保持部と、伝搬部材を保持する保持部材と、をさらに備え、保持部材は、射出スリーブとは非接触でスリーブ保持部または金型保持部に取り付け可能であり、伝搬部材の一端を射出スリーブに付勢するように構成されている。このように構成すれば、保持部材の付勢力によって伝搬部材と射出スリーブとの接触状態を確実に維持できる。また、保持部材がダイカストマシンの一部であるスリーブ保持部または金型保持部に取り付け可能であるので、保持部材を所定位置に固定するための台座などを別途設ける必要がない。そして、保持部材が射出スリーブと非接触となるため、摩耗した射出スリーブを交換する場合にも、保持部材が交換作業の邪魔になることを抑制できる。
【0014】
上記第1の局面による摩耗状況計測装置において、好ましくは、プランジャチップの移動時に取得された弾性波計測部の出力信号に基づいて、単位時間当たりの弾性波の強度指標を算出する信号処理部をさらに備え、判定部は、算出された強度指標に基づいて、射出スリーブおよびプランジャチップの少なくとも一方における摩耗の程度を判定するように構成されている。このように構成すれば、プランジャチップの移動(摺動)中の単位時間当たりの強度指標の変化に基づいて、たとえば急激なスパイク状の強度ピークが現れたことや、ベースラインの顕著な変位が現れたことなどから、摩耗の進行度合いを精度良く判定できる。
【0015】
上記第1の局面による摩耗状況計測装置において、好ましくは、判定部は、射出駆動部による移動時のプランジャチップの位置情報を取得し、プランジャチップの移動中の弾性波計測部の出力信号と位置情報とに基づいて、射出スリーブの摩耗箇所を推定するように構成されている。このように構成すれば、射出スリーブのどの箇所で摩耗が進行しているかを把握できる。そのため、摩耗の進行を抑制するための、射出スリーブや射出駆動部の組み付け角度の調整や射出動作制御の最適化を検討するための有用な情報を得ることができる。
【0016】
上記第1の局面による摩耗状況計測装置において、好ましくは、弾性波計測部の出力信号のうち、超音波領域の周波数の弾性波に対応する信号成分を抽出する抽出処理部をさらに備える。ここで、超音波領域の周波数とは、20kHz以上の周波数である。このように構成すれば、たとえば射出動作に伴って発生する振動(変位、びびりなど)や、ダイカストマシンの他の部位から伝わる振動などは、超音波領域よりも十分に低い周波数の振動であるため、そのような振動成分を除去して、プランジャチップと射出スリーブとの摺動に起因する信号成分を抽出することができる。その結果、摩耗状況の判定に関わる信号成分のSN比を改善できる。
【0017】
上記保持部材を備える構成において、好ましくは、保持部材は、スリーブ保持部または金型保持部に取り付けられるとともに、伝搬部材を保持する第1ブラケットと、第1ブラケットと伝搬部材との間に設けられ、伝搬部材の一端を射出スリーブに付勢する付勢部材と、を含む。このように構成すれば、第1ブラケットにより伝搬部材を安定して保持することができるとともに、付勢部材により第1ブラケットに対して伝搬部材を付勢して伝搬部材の一端と射出スリーブとの接触状態を容易に確保することができる。
【0018】
この場合、好ましくは、付勢部材は、伝搬部材の一端を射出スリーブに付勢する変形状態で第1ブラケットと伝搬部材との間に配置された板ばね、または、伝搬部材の一端を射出スリーブに付勢する圧縮状態で第1ブラケットと伝搬部材との間に配置された圧縮コイルばねである。このように構成すれば、付勢部材が板ばねである場合、比較的剛性の高い板ばねを介して第1ブラケットが伝搬部材をより安定して保持することができる。付勢部材が圧縮コイルばねである場合、第1ブラケットと伝搬部材との間に比較的剛性の高い付勢部材が介在する場合と比較して、第1ブラケットと伝搬部材との間で振動が伝わりにくくすることができるので、第1ブラケットが取り付けられたダイカストマシンのスリーブ保持部側または金型保持部側から伝わる振動(ノイズ)が、伝搬部材に取り付けられた弾性波検出センサに伝わりにくくすることができる。
【0019】
上記第1の局面による摩耗状況計測装置において、好ましくは、射出スリーブを保持した状態で金型保持部に固定するスリーブ保持部をさらに備え、弾性波計測部は、射出スリーブと接触する一端を有する伝搬部材と、スリーブ保持部または金型保持部に取り付けられるとともに、伝搬部材を直接保持して伝搬部材の一端を射出スリーブに当接させる第2ブラケットと、第2ブラケットに取り付けられ、伝搬部材を介して射出スリーブから伝搬する弾性波を計測する弾性波検出センサと、を含む。このように構成すれば、第2ブラケットにより伝搬部材を直接保持することができるとともに、第2ブラケットに、スリーブ保持部または金型保持部に取り付ける機能、弾性波検出センサを取り付ける機能、および、伝搬部材を保持する機能という複数の機能を持たせることができる。したがって、第2ブラケットにより伝搬部材を間接的に保持する場合や、上記各機能を複数の部材に分けて持たせる場合と比較して、摩耗状況計測装置の装置構成を簡素化することができる。
【0020】
この場合、好ましくは、第2ブラケットは、弾性波検出センサが取り付けられる部分の厚みよりも、伝搬部材を保持する側の部分の厚みの方が小さくなるように形成されている。このように構成すれば、伝搬部材から第2ブラケットの伝搬部材を保持する側の部分の厚みを比較的薄くすることができるので、伝搬部材から第2ブラケットに伝わる弾性波により第2ブラケットの薄い部分を比較的大きく振動させて、弾性波検出センサによる弾性波の検出精度を向上させることができる。
【0021】
本発明の第2の局面におけるダイカストマシンは、キャビティを有する金型を保持する金型保持部と、溶湯が供給される筒形状の射出スリーブと、射出スリーブ内に摺動可能に配置され、射出スリーブに供給された溶湯をキャビティ内に射出するプランジャチップと、射出スリーブ内でプランジャチップを進退移動させる射出駆動部と、プランジャチップの移動時に射出スリーブを伝搬する弾性波を計測する弾性波計測部と、弾性波計測部の出力信号に基づいて射出スリーブおよびプランジャチップの少なくとも一方における摩耗状況を判定する判定部とを備える。
【0022】
この発明の第2の局面によるダイカストマシンでは、上記第1の局面と同様に、プランジャチップの移動時に射出スリーブを伝搬する弾性波を計測する弾性波計測部を備える。これにより、プランジャチップと射出スリーブとの摺動により発生して射出スリーブを伝搬する高周波の弾性波(アコースティックエミッション、AE波)を計測することで、摺動面における摩耗の程度に応じた弾性波の変化を把握することができる。そして、弾性波計測部の出力信号に基づいて射出スリーブおよびプランジャチップの少なくとも一方における摩耗状況を判定する判定部を備えることにより、弾性波計測部の出力信号から摩耗状況(摩耗の進行具合)を把握することができる。これにより、プランジャチップおよび射出スリーブの摩耗を高精度に把握することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、上記のように、プランジャチップおよび射出スリーブの摩耗を高精度に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】摩耗状況計測部を備えたダイカストマシンの全体構成を示した模式図である。
【
図2】摩耗状況計測部およびダイカストマシンの制御装置を説明するためのブロック図である。
【
図3】ダイカストマシンの射出工程におけるプランジャチップの移動制御を説明するための模式的なグラフである。
【
図4】摺動部品に生じる摩耗と、摺動部品の摺動に伴い発生する弾性波とを説明するための模式図である。
【
図5】第1実施形態の弾性波計測部の構造を示した射出スリーブ付近の模式的な拡平面図である。
【
図6】射出スリーブと接触する伝搬部材の一端の形状を説明するための模式図である。
【
図7】周波数フィルタ処理後のAEセンサの出力信号を模式的に示したグラフである。
【
図8】AEセンサの出力信号から生成された強度指標データを模式的に示したグラフである。
【
図9】強度指標データとプランジャチップの位置情報とから生成された強度指標-位置変化データのグラフであって、(A)摺動部品の摩耗が進行した時のグラフ、(B)正常時のグラフ、の模式図である。
【
図10】摺動部品の摩耗状況計測処理を説明するためのフロー図である。
【
図11】第2実施形態の弾性波計測部の構造を示した射出スリーブ付近の模式的な拡大平面図である。
【
図12】第3実施形態の弾性波計測部の構造を示した射出スリーブ付近の模式的な拡大平面図である。
【
図13】ダイカストマシンとは独立した摩耗状況計測装置の構成例を示した模式図である。
【
図14】伝搬部材の一端の形状の変形例(A)および(B)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
(第1実施形態)
図1~
図9を参照して、第1実施形態による摩耗状況計測部8を備えたダイカストマシン1の構成について説明する。摩耗状況計測部8は、特許請求の範囲の「摩耗状況計測装置」の一例である。なお、図面では、Z方向を上下方向とし、Z方向のうちのZ1方向を上方向、Z方向のうちのZ2方向を下方向としている。また、X方向およびY方向を水平面内において互いに直交する2つの方向とし、X方向のうちのX1方向を後述するプランジャチップ6aの前進方向とし、X方向のうちのX2方向をプランジャチップ6aの後進方向としている。
【0027】
(ダイカストマシンの構成)
図1に示すように、ダイカストマシン1は、移動金型2aが水平方向に移動される横型のマシンである。また、ダイカストマシン1は、コールドチャンバ方式のマシンであり、ダイカストマシン1に取り付けられた金型2内(移動金型2aと固定金型2bとにより形成されるキャビティC)に、液状の金属材料である溶湯を射出することによりダイカスト製品(成形品)を製造するように構成されている。
【0028】
ダイカストマシン1は、金型保持部3と、射出部4と、スリーブ保持部40と、摩耗状況計測部8とを備える。また、
図1のダイカストマシン1は、給湯装置9と、蓋機構10と、型締部11と、制御装置12と、表示部13と、報知器14と、を備えている。
【0029】
金型保持部3は、キャビティCを有する金型2を保持する。金型保持部3は、固定ダイプレート3aと、移動ダイプレート3bとを含む。
【0030】
金型2は、移動金型2aと、固定金型2bとを含む。固定金型2bは、固定ダイプレート3aに固定されている。移動金型2aは、固定金型2bに当接または離間する方向(X方向)に移動可能な移動ダイプレート3bに取り付けられている。キャビティCは、固定金型2bに移動金型2aを当接させることにより形成されている。キャビティCは、ダイカスト製品(成形品)を成形するための空洞部分である。
【0031】
移動ダイプレート3bは、型締部11によってX方向に移動される。型締部11は、移動ダイプレート3bを駆動する駆動部11aを備えている。駆動部11aは、たとえば電動モータであり、ボールねじ軸などの伝達機構11bにより移動ダイプレート3bをX方向に駆動する。駆動部11aは、電動式に限らず、トグル機構からなる伝達機構を駆動する油圧式の駆動部であってもよく、電動式と油圧式とを組み合わせたハイブリッド型の駆動部であってもよい。
【0032】
射出部4は、射出スリーブ5と、プランジャ6と、射出駆動部7とを含む。
【0033】
射出スリーブ5は、両端が開口した筒形状を有している。射出スリーブ5は、X方向に直線状に延びている。射出スリーブ5は、スリーブ保持部40を介して金型保持部3に固定されている。スリーブ保持部40は、筒形状を有しており、射出スリーブ5が挿通されることにより射出スリーブ5を保持している。スリーブ保持部40は、射出スリーブ5を保持した状態で金型保持部3に固定されている。射出スリーブ5は、金属材料の溶湯を注湯可能に構成されている。射出スリーブ5は、射出スリーブ5内にプランジャチップ6aを摺動可能に収容するように構成されている。摺動とは、接触状態で相対移動することである。
【0034】
具体的には、射出スリーブ5は、注湯口5aと、溶湯通路5bとを含む。注湯口5aは、給湯装置9により溶湯を溶湯通路5b内に注湯するために設けられている。注湯口5aは、射出スリーブ5の上側(Z1方向側)の部分をZ方向に貫通している。溶湯通路5bは、射出スリーブ5をX方向に貫通する貫通孔である。溶湯通路5bは、X1方向端部においてキャビティCに連通している。
【0035】
プランジャ6は、プランジャチップ6aと、プランジャロッド6bとを含む。プランジャチップ6aは、射出スリーブ5内に摺動可能に配置される。プランジャチップ6aは、プランジャロッド6bの一端(X1方向側の端部)に取り付けられている。プランジャロッド6bは、X方向に沿って延びる柱形状を有する。プランジャロッド6bの他端(X2方向側の端部)が射出駆動部7(液圧シリンダ7a)のピストンロッドに取り付けられている。プランジャチップ6aは、プランジャロッド6bを介して射出駆動部7により射出スリーブ5内を進退移動されることにより、射出スリーブ5に供給された溶湯をキャビティC内に射出するように構成されている。
【0036】
射出駆動部7は、射出スリーブ5内でプランジャチップ6aを進退移動させるように構成されている。射出駆動部7は、液圧(油圧)により動作する液圧シリンダ(油圧シリンダ)7aと、油圧回路7bを含む。液圧シリンダ7aは、油圧回路7bに接続されており、油圧回路7bにより動作されるように構成されている。液圧シリンダ7aにより移動されるプランジャチップ6aの位置(X方向位置)は、位置センサ7cによって検出される。
【0037】
位置センサ7cは、プランジャチップ6aの位置(液圧シリンダ7aのストローク量)を検知するように構成されている。位置センサ7cは、たとえば、ストロークセンサ、磁気式または光学式のリニアエンコーダ、または、レーザ式の測長器である。
【0038】
給湯装置9は、保持炉(図示せず)から液状の金属材料である溶湯を汲み取って、射出スリーブ5に供給(注湯)するように構成されている。具体的には、給湯装置9は、ラドル9aと、アーム9bとを備えている。ラドル9aは、保持炉から液状の金属材料である溶湯を汲み取る容器である。アーム9bは、射出スリーブ5の注湯口5aまでラドル9aを移動させるとともに、ラドル9aを傾けて溶湯を射出スリーブ5内に注湯するように構成されている。
【0039】
蓋機構10は、給湯装置9により射出スリーブ5内に溶湯が注湯された後、注湯口5aを塞ぐように構成されている。具体的には、蓋機構10は、蓋部10aと、アーム10bとを含んでいる。蓋部10aは、Z1方向から視て、注湯口5aの形状に沿った形状を有している。蓋部10aは、アーム10bの先端部に配置されている。アーム10bは、蓋部10aを注湯口5aまで移動させるように構成されている。
【0040】
摩耗状況計測部8は、弾性波計測部8aと、判定部8bとを含む。
【0041】
弾性波計測部8aは、プランジャチップ6aの移動時に射出スリーブ5を伝搬する弾性波EW(
図4参照)を計測するように構成されている。
【0042】
判定部8bは、弾性波計測部8aの出力信号に基づいて射出スリーブ5およびプランジャチップ6aの少なくとも一方における摩耗状況を判定するように構成されている。以下、射出スリーブ5およびプランジャチップ6aをまとめて、摺動部品SP(
図3参照)という。
【0043】
制御装置12は、ダイカストマシン1の各部の駆動を制御するように構成されている。制御装置12は、ダイカストマシン1の各部に電気的に接続されている。
図2に示すように、制御装置12は、制御部12aと、記憶部12bと、を含む。制御部12aは、たとえば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリとを含むコンピュータにより構成されている。記憶部12bは、フラッシュメモリなどの不揮発性の記録媒体を含む。また、制御装置12は、表示部13を含む。
【0044】
記憶部12bは、制御部12a(プロセッサ)が実行するためのプログラムを記憶している。記憶部12bは、弾性波計測部8aによる計測データ(後述する強度指標-位置変化データ22d)を記憶するように構成されている。また、記憶部12bは、弾性波計測部8aによる計測データから摺動部品SPの摩耗状況を判定するための判定閾値などの設定情報を予め記憶している。
【0045】
表示部13は、液晶モニタなどの表示媒体を含み、ダイカストマシン1に関わる各種の情報を表示するように構成されている。報知器14は、たとえば表示灯である。表示灯は、ランプなどの発光部を含み、点灯または点滅することにより、ユーザへの報知を行うように構成されている。また、報知器14は、ブザー音を出力するスピーカを含む。
【0046】
(射出工程の概要)
次に、
図3および
図1を参照して、ダイカストマシン1による射出工程の動作の概要を説明する。射出工程は、制御部12aがダイカストマシン1の各部を制御することにより実行される。
【0047】
まず、制御部12aは、
図1に示した射出スリーブ5の注湯口5aから射出スリーブ5内に溶湯を注湯するように給湯装置9を制御し、注湯後、注湯口5aを塞ぐように蓋機構10を制御する。
【0048】
注湯口5aが塞がれた後、制御部12aは、射出工程を行うように射出駆動部7を制御する。
図3に示すように、射出工程は、大別して、
図3(A)の射出前進工程と、
図3(B)の射出戻り工程とを含む。
図3(A)および(B)のグラフの横軸は、図中上部に示した射出スリーブ5内の模式図と対応させたプランジャチップ6aのX方向位置を示す。グラフの縦軸はプランジャチップ6aの移動速度を表す。縦軸は、正方向(図中の上方向)がX1方向(前進方向)の速度を表し、負方向(図中の下方向)がX2方向(後退方向)の速度を表す。
【0049】
図3(A)の射出前進工程は、射出スリーブ5内においてプランジャチップ6aをX1方向へ前進させて、金型2内に溶湯を射出する工程である。また、
図3(B)の射出戻り工程は、射出前進工程において前進させたプランジャチップ6aを射出スリーブ5内においてX2方向へ後進させて、プランジャチップ6aを次の溶湯の射出のための待機位置に移動させる工程である。
【0050】
図3(A)の射出前進工程は、低速前進工程と、高速前進工程とを含む。制御部12aは、プランジャチップ6aを低速で移動させる低速射出工程と、プランジャチップ6aを高速で移動させる高速射出工程とを切り替えるように、射出駆動部7を制御する。低速射出工程は、第1速度V1を目標速度として、プランジャチップ6aを移動させる工程である。また、高速射出工程は、第1速度V1よりも大きい速度である第2速度V2を目標速度として、プランジャチップ6aを移動させる工程である。低速前進工程から高速前進工程に切り替わる位置(高速切替位置Cp)は、プランジャチップ6aが、射出スリーブ5内の圧力が注湯口5aから逃げないように射出スリーブ5を塞ぐ位置である。具体的には、高速切替位置Cpは、プランジャチップ6aのX1方向側の面が、注湯口5aのX1方向側の端部よりもX1方向側に到達する位置に設定される。なお、低速前進工程は、射出スリーブ5内における溶湯の充填率を高めるために行われる。また、高速前進工程は、溶湯を金型2(キャビティC)内に行き渡らせるために行われる。高速前進工程の後、キャビティC内の圧力を高めた状態を維持して溶湯を固化させる保持工程等の後、型開き(移動金型2aと固定金型2bとの分離)が行われて成形品が金型2から排出される。
【0051】
その後、制御部12aは、射出戻り工程を行うように射出駆動部7を制御する。射出戻り工程は、第3速度V3を目標速度として、プランジャチップ6aを待機位置までX2方向に移動させる工程である。1回の射出工程は、1回の射出前進工程と、1回の射出戻り工程とを含む。なお、1回の射出工程のことを、「1ショット」とも称する。制御部12aは、位置センサ7c(
図2参照)により取得されるプランジャチップ6aの位置情報PI(
図2参照)に基づいて、射出工程におけるプランジャチップ6aの位置および速度(射出駆動部7の動作)を制御する。
【0052】
(摩耗状況計測部の構成)
次に、摩耗状況計測部8の詳細について説明する。
【0053】
〈摺動に伴い発生する弾性波の説明〉
図4に示すように、プランジャチップ6aは、射出スリーブ5の内面と密着せずに摺動可能であり、かつ、射出圧力を漏らさずに溶湯Mを押し出し可能な嵌め合い寸法で射出スリーブ5内に配置されている。射出動作を行う度に、プランジャチップ6aと射出スリーブ5とが接触(摺動)し、互いの摺動面(プランジャチップ6aの外表面および射出スリーブ5の内表面)が摩耗する。摩耗により摺動面間の隙間CLが大きくなると、
図4のように隙間CLから圧力が漏れるバックフラッシュと呼ばれる現象が発生する。また、たとえばアルミダイカストの溶湯Mは700℃前後の高温になるため、溶湯Mと接触している状態の射出スリーブおよびプランジャチップ6aには変形が生じる。変形によって、射出動作中にプランジャチップ6aと射出スリーブ5とが衝撃的に接触すると、摺動面に傷DGができて「かじり」の原因となる。摺動部品SPに生じるこれらの摩耗(隙間CLの増大や傷DGの発生)は、射出工程を繰り返すことによって徐々に進行(拡大)する。
【0054】
プランジャチップ6aが射出スリーブ5内を摺動すると、摺動抵抗に応じた音波が生じる。発生した音波は、射出スリーブ5中を、弾性波EWとして伝搬する。このような弾性波EWは、アコースティックエミッション(AE波)と呼ばれ、数十kHz~数MHzの超音波領域の周波数帯に属する。弾性波EWは、プランジャチップ6aと射出スリーブ5との摺動によって発生するため、摺動部品SP(プランジャチップ6aと射出スリーブ5)の摩耗状況を反映する。第1実施形態の摩耗状況計測部8は、射出スリーブ5内を伝搬する弾性波EWを計測することで、これらの摺動部品SP(プランジャチップ6aおよび射出スリーブ5)の摩耗状況を把握するものである。
【0055】
〈弾性波計測部〉
図5に示すように、弾性波計測部8aは、伝搬部材21と、アコースティックエミッションセンサ(以下、AEセンサ22という)と、を含む。アコースティックエミッションセンサ(AEセンサ)22は、特許請求の範囲の「弾性波検出センサ」の一例である。
【0056】
伝搬部材21は、射出スリーブ5と接触して射出スリーブ5から伝搬部材21へ弾性波EW(
図4参照)を伝搬させる棒状(細板状)部材である。伝搬部材21は、射出スリーブ5と接触する一端21aと、射出スリーブ5から離れた他端21bとを有する。射出スリーブ5内を伝搬する弾性波EWは、一端21aから伝搬部材21に伝わり、他端21bへ伝搬する。伝搬部材21は、射出スリーブ5と同じ鉄系材料により構成されている。射出スリーブ5は、工具鋼などの鋼材(鉄材)で形成されており、伝搬部材21は、射出スリーブ5と同じく鋼材(鉄材)で形成されている。これにより、伝搬部材21における弾性波EWの伝搬特性を、射出スリーブ5の伝搬特性と近づけることができる。
【0057】
伝搬部材21の一端21aの端面形状(射出スリーブ5との接触面形状)は特に限定されないが、たとえば
図6に示すように、伝搬部材21の一端21aは、射出スリーブ5の外周面に沿って湾曲した凹面形状を有する。これにより、射出スリーブ5と伝搬部材21の一端21aとの境界面を密着させることができるので、境界面における弾性波EWの損失を低減できる。
図5に示す例では、伝搬部材21は、ダイカストマシン1の射出スリーブ5付近の構造と干渉しないように、一端21aと他端21bとの間で曲がっているが、伝搬部材21は、直線状に延びていてもよい。
【0058】
AEセンサ22は、伝搬部材21の他端21b側に取り付けられている。
図5では、AEセンサ22は、伝搬部材21の他端21bに取り付けられ、射出スリーブ5から距離D1だけ離れている。AEセンサ22は、伝搬部材21を介して射出スリーブ5から伝搬する弾性波EW(
図4参照)を検出する。AEセンサ22は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの圧電素子を有し、弾性波EWがAEセンサ22に伝搬することにより生じる圧電素子に作用する圧力変動(ひずみ)に応じた信号を出力する。なお、圧電素子を有するセンサとしては、加速度センサがあるが、加速度センサでは圧電素子に錘を取り付けて錘の変位に応じた信号を出力するのに対して、AEセンサには錘がなく、圧電素子に直接作用する圧力変動を検出する点が異なる。錘の有無に起因する共振周波数の相違によって、加速度センサではたとえば数Hz~数十kHzの周波数帯域に感度を有するのに対して、AEセンサ22は数十kHz~1MHzの周波数帯域に感度を有する。
【0059】
図5の例では、摩耗状況計測部8(弾性波計測部8a)は、伝搬部材21を保持する保持部材23を備えている。保持部材23は、射出スリーブ5とは非接触でスリーブ保持部40に取り付け可能であり、伝搬部材21の一端21aを射出スリーブ5に付勢するように構成されている。
【0060】
具体的には、保持部材23は、スリーブ保持部40に取り付けられるブラケット24と、付勢部材25と、調整部材26とを含む。ブラケット24は、特許請求の範囲の「第1ブラケット」の一例である。ブラケット24は、L字形状を有し、ブラケット24の一方端部がボルト27によってスリーブ保持部40に固定されている。ブラケット24は、スリーブ保持部40に取り付けられるとともに、伝搬部材21を保持している。具体的には、ブラケット24は、スリーブ保持部40において、射出スリーブ5が取り付けられるスリーブ挿入口40cの縁部に、射出スリーブ5とは非接触で固定されている。
図5では、ブラケット24は、スリーブ保持部40に取り付けられている。射出スリーブ5が、中間プレート(図示せず)を介して固定ダイプレート3aに取り付けられる場合、ブラケット24は中間プレートに取り付けられてもよい。ブラケット24の他方端部は射出スリーブ5と概ね平行に延びている。
【0061】
付勢部材25は、L字形状のブラケット24の他方端部で、かつ、ブラケット24と伝搬部材21との間に設けられている。付勢部材25は、調整部材26によって、射出スリーブ5とは非接触でブラケット24に取り付けられている。付勢部材25は、伝搬部材21の一端21aを射出スリーブ5に付勢する変形状態でブラケット24と伝搬部材21との間に配置されている。付勢部材25は、U字状に曲げられた板ばねであり、付勢部材25の一方端部がブラケット24に固定され、付勢部材25の他方端部側に伝搬部材21が固定されている。
【0062】
調整部材26は、ブラケット24の他方端部に形成されたねじ孔に噛み合うボルト(ねじ部材)である。調整部材26は、U字状の付勢部材25の一方端部側および他方端部側の両方を貫通して射出スリーブ5に向けて延び、ブラケット24の他方端部に取り付けられている。そのため、付勢部材25は、ブラケット24と調整部材26のねじ頭との間に挟まれている。調整部材26を回転させてねじ頭をブラケット24に近づける程、付勢部材25の他方端部が射出スリーブ5に向けて近づけられる。この調整部材26の回転量により、付勢部材25の他方端部に取り付けられた伝搬部材21の一端21aを射出スリーブ5に押し付ける押圧力が調整される。
【0063】
このような構成により、伝搬部材21は、一端21aが射出スリーブ5と常時接触した状態を維持するように、保持部材23(付勢部材25)によって射出スリーブ5に向けて付勢されている。
【0064】
図5の例では、伝搬部材21は、X方向において、射出スリーブ5の注湯口5aと重なる位置(伝搬部材21のX方向位置が注湯口5aのX方向の形成範囲内にある)に配置されている。伝搬部材21は、射出スリーブ5に対して水平方向側方(Y方向)に離れた位置から、射出スリーブ5の水平方向(Y方向)の側面に接触するように、Y方向に向けて配置されている。なお、
図1に示した側面図では、そのままでは伝搬部材21を含む弾性波計測部8aを図示できないため、
図1では便宜的に、弾性波計測部8aを射出スリーブ5に対して下方側に図示している。
【0065】
(摩耗状況計測部の信号処理)
図2に示すように、摩耗状況計測部8は、アンプユニット8cと、演算ユニット8dと、上記した判定部8bとを含む。AEセンサ22は、アンプユニット8c、演算ユニット8dを介して、判定部8b(ダイカストマシン1の制御部12a)に接続されている。AEセンサ22から出力される出力信号22aは、出力電圧の時間変化信号である。
【0066】
アンプユニット8cは、増幅部31と、抽出処理部32と、AD変換部33とを含む。増幅部31は、AEセンサ22から出力信号22aを取得し、取得した出力信号22aを予め設定された増幅率で増幅する。
【0067】
抽出処理部32は、弾性波計測部8aの出力信号22aのうち、超音波領域の周波数の弾性波EWに対応する信号成分を抽出する。すなわち、抽出処理部32は、増幅部31において増幅された出力信号(出力電圧)を取得し、取得した出力信号に周波数フィルタ処理を施すことにより、予め設定された超音波領域の周波数の信号成分を抽出する。周波数フィルタ処理は、低周波数閾値よりも低い周波数成分を除去するハイパスフィルタ処理を少なくとも含む。第1実施形態の周波数フィルタ処理は、バンドパスフィルタ処理(ハイパスフィルタとローパスフィルタとの組み合わせ)である。
【0068】
抽出処理部32は、出力信号22aのうちから、少なくとも、20kHz以上(超音波領域)の信号成分を抽出し、20kHz未満の信号成分を除去する。第1実施形態では、抽出処理部32は、たとえば、50kHz以上、500kHz未満の超音波領域の周波数の信号成分を抽出する(50kHz未満の信号成分および500kHz以上の信号成分を除去する)。これにより、摺動部品SPの摺動に起因する弾性波EWに対応する周波数帯域の信号成分を残して、摺動部品SPの摩耗状況の判定に不要な周波数帯域の信号成分が除去される。
【0069】
AD変換部33は、増幅部31および抽出処理部32を経た出力信号(増幅および信号成分が抽出された信号)に、A/D変換処理を行う。これにより、アンプユニット8cは、デジタル変換された出力信号22bを演算ユニット8dに出力する。出力信号22bは、抽出処理部32による周波数フィルタ処理後の出力電圧値(デジタル値)の時間変化信号である。
図7は、出力信号22bを示したグラフであり、横軸が時間を表し、縦軸が出力電圧値を表す。
【0070】
図2に戻り、演算ユニット8dは、プロセッサおよびメモリを備えたコンピュータにより構成され、アンプユニット8cおよび制御部12aとそれぞれ通信可能に接続されている。演算ユニット8dは、アンプユニット8cから、デジタル変換されたAEセンサ22の出力信号22bを、弾性波計測部8aの計測データとして取得する。
【0071】
演算ユニット8dは、メモリに記憶されたプログラムを実行することによるソフトウェア処理の機能ブロックとして、信号処理部34を備える。信号処理部34は、プランジャチップ6aの移動時に取得された弾性波計測部8a(AEセンサ22)の出力信号22bに基づいて、単位時間当たりの弾性波EWの強度指標を算出するように構成されている。
【0072】
弾性波EWの強度指標は、単位時間における出力信号の最大振幅、単位時間における出力信号のエネルギー、または、単位時間における出力信号の実効値でありうる。第1実施形態では、信号処理部34は、出力信号22bの時間変化波形(
図7参照)から、単位時間における出力信号のエネルギーを算出する。
【0073】
具体的には、信号処理部34は、出力信号(出力電圧値)の時間変化波形の面積を出力信号22bのエネルギーとして算出する。これにより、信号処理部34は、弾性波計測部8a(AEセンサ22)の出力信号22bの時間変化に基づいて、強度指標データ22cを生成し、生成した強度指標データ22cを判定部8bへ出力する。強度指標データ22cは、AEセンサ22の出力信号をエネルギー(強度指標)の時間変化波形に変換したデータである。
図8は、強度指標データ22cを示したグラフであり、横軸が時間を表し、縦軸が強度指標(エネルギー)を表す。
【0074】
図2に示すように、第1実施形態では、判定部8bは、記憶部12bに記憶されたプログラムを制御部12aが実行することによるソフトウェア処理の機能ブロックとして、制御部12aと同一のプロセッサによって構成されている。言い換えると、ダイカストマシン1の制御部12aが、プログラムを実行することにより、摩耗状況計測部8の判定部8bとしても機能する。制御装置12が、制御部12a用のプロセッサと、判定部8b用のプロセッサとを別個に備えていてもよい。
【0075】
判定部8bは、弾性波計測部8aの出力信号(強度指標データ22c)に基づいて射出スリーブ5およびプランジャチップ6aの少なくとも一方における摩耗状況を判定する。具体的には、判定部8bは、弾性波計測部8aの出力信号(強度指標データ22c)に基づいて、射出スリーブ5およびプランジャチップ6aの少なくとも一方における摩耗の程度を判定するように構成されている。
【0076】
ここで、第1実施形態では、判定部8bは、射出駆動部7による移動時のプランジャチップ6aの位置情報PIを取得する。すなわち、判定部8bは、射出駆動部7の位置センサ7cの出力信号に基づいて、射出工程におけるプランジャチップ6aのX軸方向位置を経時的に取得する。取得される位置情報PIは、プランジャチップ6aのX軸方向位置の時間変化データである。
【0077】
そして、判定部8bは、プランジャチップ6aの移動中の弾性波計測部8aの出力信号(強度指標データ22c)と位置情報PIとに基づいて、射出スリーブ5の摩耗箇所を推定するように構成されている。具体的には、判定部8bは、強度指標データ22c(つまり、エネルギー値の時間変化)と、位置情報PI(各時刻におけるプランジャチップ6aのX軸方向位置)とに基づいて、プランジャチップ6aのX軸方向位置毎の強度指標の変化を示す強度指標-位置変化データ22dを生成する。
図9に示すように、強度指標-位置変化データ22dは、横軸をプランジャチップ6aのX軸方向位置座標とし、縦軸を強度指標(エネルギー)としたグラフ(グラフ41a、41b)として表すことができる。そして、判定部8bは、強度指標-位置変化データ22dから、プランジャチップ6aの位置毎の摩耗の程度を推定する。
【0078】
判定部8bは、ダイカストマシン1の1ショット(1回の射出工程)毎に、強度指標-位置変化データ22dを取得し、強度指標-位置変化データ22dを取得する毎に摺動部品SPの摩耗状況の判定を行う。判定部8bは、摺動部品SPの摩耗状況に基づいて、報知を行うか否かを判断する。判定部8bは、摺動部品SPの摩耗状況が報知条件を満たす場合、制御装置12の表示部13への情報表示および報知器14による報知などを行う。報知を受けた作業者は、摺動部品SPの交換を行うか否かを検討し、必要と判断した場合には射出スリーブ5およびプランジャチップ6aの少なくとも一方の交換作業を実行することができる。
【0079】
〈摩耗状況の判定手法の一例〉
以下、判定部8bによる摺動部品SPの摩耗状況の判定手法の一例を説明する。
【0080】
図9(A)に示したグラフ41aは、摺動部品SPの摩耗が進行し部品交換を要する状態での射出前進工程で取得された強度指標-位置変化データ22dをプロットしたものである。
図9(B)に示したグラフ41bは、摺動部品SPの交換直後など、摺動部品SPの摩耗が進行していない正常な状態での射出前進工程で取得された強度指標-位置変化データ22dをプロットしたものである。
【0081】
まず、正常時のグラフ41bを用いて、強度指標-位置変化データ22dの全体的な傾向を説明する。射出前進工程では、待機位置(グラフ41a、41bの右端)での静止状態からプランジャチップ6aの前進を開始する際、静止摩擦の状態から動摩擦の状態に変化するため、強度指標が一時的にスパイク状に上昇する。その後、低速前進工程では、プランジャチップ6aが低速の一定速で移動するため、強度指標は低いレベルで概ね一定となる。プランジャチップ6aが高速切替位置Cpに達して高速前進工程に切り替わるタイミングで、プランジャチップ6aの移動速度の変化に伴い、強度指標が上昇し始める。高速前進工程では、プランジャチップ6aの前進に伴い射出スリーブ5内の圧力が上昇することもあり、強度指標が大きくなる傾向にある。高速前進工程の最後には、キャビティCから溶湯Mを介して伝わる反力が急上昇するため、強度指標が急激に上昇する。
【0082】
摺動部品SPの摩耗が進行しているグラフ41aでは、グラフ41bと比べて明らかに高い強度のスパイク状(とげ状)のピーク42が、X方向の複数位置で生じている。このことから、射出スリーブ5におけるピーク42の発生箇所において、「かじり」またはそれに類似する局所摩耗が形成されていることが分かる。そのため、正常時のグラフ41bにおける最大強度よりも高値で、グラフ41aのピーク42を判別可能な強度指標値に閾値Th1を設定することによって、射出スリーブ5の局所摩耗を検出できる。
【0083】
判定部8bは、強度指標-位置変化データ22dに、予め設定された閾値Th1以上のピーク42が存在するか否かに基づいて、射出スリーブ5の摩耗状況(局所摩耗が生じているか否か、局所摩耗の発生位置)を判定する。
【0084】
また、摺動部品SPの摩耗が進行しているグラフ41aでは、グラフ41bと比べて、強度波形のベースライン43が上昇している。つまり、グラフ41aでは、プランジャチップ6aのストロークの全範囲で、グラフ41bよりも高い強度の弾性波EWが生じている。このようにプランジャチップ6aのX方向位置に依存しない強度指標の上昇は、射出スリーブ5ではなくプランジャチップ6aの摺動面側に摩耗が生じていると考えられる。そのため、グラフ41bにおけるベースライン43の強度と、グラフ41aにおけるベースライン43の強度とを区別可能な強度指標値に閾値Th2を設定することによって、プランジャチップ6aの摩耗を検出できる。
【0085】
判定部8bは、強度指標-位置変化データ22dのベースライン43が、予め設定された閾値Th2以上か否かに基づいて、プランジャチップ6aの摩耗状況(摩耗が生じているか否か)を判定する。
【0086】
なお、上記した一例では、判定部8bは、射出前進工程の強度指標-位置変化データ22dから摩耗状況を判定する。この他、
図3に示した射出戻り工程における強度指標-位置変化データ22dから摩耗状況を判定してもよい。射出戻り工程では、射出スリーブ5内に溶湯M(
図4参照)が収容されていないため、溶湯温度による摺動部品SPの変形が抑制されるとともに、溶湯Mによる反力がプランジャチップ6aに作用しない。そのため、射出戻り工程で取得される強度指標-位置変化データ22dの波形は、
図9に示したものとは異なるものとなる。そこで、他の一例では、判定部8bは、射出前進工程の強度指標-位置変化データ22dに加えて、射出戻り工程における強度指標-位置変化データ22dにも基づいて、摺動部品SPの摩耗状況を判定する。これにより、射出前進工程の強度指標-位置変化データ22dだけでは把握できない摩耗状況を検出することや、摩耗状況の検知精度の向上を図ることができる。
【0087】
また、摺動部品SPの摩耗状況の判定手法は、上記したものには限られない。たとえば、摺動部品SPの摩耗が進行していない正常な状態のデータ(グラフ41b)を記憶部12bに記憶しておいて、記憶された正常なデータ(グラフ41b)と、1ショット毎に取得される強度指標-位置変化データ22dとを比較することにより、摩耗状況を判定してもよい。摺動部品SPの摩耗は、1ショット毎に徐々に進行する。そのため、取得される強度指標-位置変化データ22dは、射出回数の増大に伴って、正常な状態のグラフ41bの波形に近い波形から、徐々に摩耗が進行したグラフ41aの波形に近付く。そこで、判定部8bは、たとえば正常状態のグラフ41bの波形と、取得された強度指標-位置変化データ22dから得られた波形との差分、乖離度(類似度)、または相関関数などを算出して、摩耗状況の程度を判定してもよい。
【0088】
(摺動部品の摩耗状況計測処理)
図10を参照して、判定部8bによる、摺動部品SPの摩耗状況の計測処理について説明する。摩耗状況の計測処理は、ダイカストマシン1による成形動作の1ショット毎に実施される。以下のフローは、前提として、射出スリーブ5内に溶湯Mが注湯され、注湯後、注湯口5aが蓋機構10によって塞がれたタイミングからスタートするものとする。
【0089】
ステップS1において、判定部8bは、ダイカストマシン1の射出工程の開始とともに、弾性波計測を開始する。すなわち、制御部12aが、射出前進工程を実行するように射出スリーブ5の制御を開始すると、判定部8bが、演算ユニット8dに対して、弾性波計測部8aのAEセンサ22からの出力信号の収集開始を指示する。AEセンサ22からの出力信号は、アンプユニット8c、演算ユニット8dの各々における処理を経て、強度指標データ22c(強度指標の時間変化、
図8参照)の形態で判定部8bに出力される。
【0090】
ダイカストマシン1において射出前進工程が完了し、型開きにより成形品が金型2から取り出された後、ダイカストマシン1では射出戻り工程が実行される。判定部8bは、射出戻り工程における強度指標データ22cについても演算ユニット8dから取得する。
【0091】
ステップS2において、判定部8bは、ダイカストマシン1の射出戻り工程の終了とともに、弾性波計測を終了する。なお、厳密には、判定部8bは、射出前進工程での弾性波計測と、射出戻り工程での弾性波計測との2回の計測を実行するか、または、射出前進工程の開始から射出戻り工程の終了までの1回の計測を実行する。
【0092】
ステップS3において、判定部8bは、弾性波EWの計測データ(強度指標データ22c)と、位置センサ7cにより取得されたプランジャチップ6aの位置情報PIとに基づいて、強度指標-位置変化データ22d(
図9参照)を生成する。
【0093】
ステップS4において、判定部8bは、強度指標-位置変化データ22dに基づいて、摺動部品SPの摩耗状況を判定する。上記の通り、摩耗状況の判定は、射出スリーブ5の摩耗箇所と、その摩耗箇所における摩耗の程度(閾値以上のピーク42か否か)との判定を含む。また、摩耗状況の判定は、プランジャチップ6aに摩耗が生じているか否かの判定を含む。
【0094】
ステップS5において、判定部8bは、摺動部品SPの摩耗状況の判定結果に基づいて、報知を行うか否かを判断する。報知条件は、設定情報として予め記憶部12bに記憶されている。報知条件としては、たとえば閾値以上のピーク42が設定数(1以上の所定数)以上検出されたことや、ベースライン43の強度が閾値Th2を越えたこと、などがありうる。計測データ以外の情報として、摺動部品SPの前回交換時からの経過時間または累積ショット数などの他の情報を組み合わせて報知条件を設定してもよい。
【0095】
判定部8bは、ステップS5で報知条件を満たしたと判断した場合、ステップS6に処理を進めて、表示部13および報知器14の一方または両方による報知処理を行った後、判定処理を終了する。判定部8bは、ステップS5で報知条件を満たしていないと判断した場合、報知処理を行うことなく、判定処理を終了する。
【0096】
以上の各ステップが、ダイカストマシン1の射出工程毎に実行されることにより、摺動部品SPの摩耗状況が予め設定された報知条件に該当したタイミングで、作業者に対して摩耗状況の報知が実施される。
【0097】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態の効果について説明する。
【0098】
第1実施形態では、上記のように、プランジャチップ6aの移動時に射出スリーブ5を伝搬する弾性波EWを計測する弾性波計測部8aを備える。これにより、プランジャチップ6aと射出スリーブ5との摺動により発生して射出スリーブ5を伝搬する高周波の弾性波EWを計測することで、摺動面における摩耗の程度に応じた弾性波EWの変化を把握することができる。摺動によって生じる弾性波EWは、射出スリーブ5を伝播するので、空気中を伝わる摺動音や、射出圧力の変化としては計測されないような僅かな変化でも捉えることができる。そして、弾性波計測部8aの出力信号に基づいて射出スリーブ5およびプランジャチップ6aの少なくとも一方における摩耗状況を判定する判定部8bを備えることにより、弾性波計測部8aの出力信号から摩耗状況(摩耗の進行具合)を把握することができる。これにより、プランジャチップ6aおよび射出スリーブ5の摩耗を高精度に把握することができる。
【0099】
また、第1実施形態では、上記のように、弾性波計測部8aは、射出スリーブ5と接触する一端21aと、射出スリーブ5から離れた他端21bとを有する伝搬部材21と、伝搬部材21の他端21b側に取り付けられ、伝搬部材21を介して射出スリーブ5から伝搬する弾性波EWを計測するAEセンサ22と、を含む。これにより、たとえば射出スリーブ5を保持する金型保持部3側に伝搬した弾性波EWを計測するのではなく、プランジャチップ6aと射出スリーブ5との摺動に伴い発生する弾性波EWを、伝搬部材21を用いることで射出スリーブ5から直接的に計測できる。また、射出スリーブ5は、溶湯Mが供給されることによって非常に高温(第1実施形態では700℃前後)となるため、耐熱型のセンサであっても射出スリーブ5に直接取り付けることは困難である。そこで、射出スリーブ5に接触させた伝搬部材21に弾性波EWを伝搬させることによって、AEセンサ22への熱の影響を抑制しつつ弾性波EWを計測できる。
【0100】
また、第1実施形態では、上記のように、保持部材23は、射出スリーブ5とは非接触でスリーブ保持部に取り付け可能であり、伝搬部材21の一端21aを射出スリーブ5に付勢するように構成されている。これにより、保持部材23によって伝搬部材21と射出スリーブ5との接触状態を確実に維持できる。また、保持部材23がダイカストマシン1の一部であるスリーブ保持部に取り付け可能であるので、保持部材23を所定位置に固定するための台座などを別途設ける必要がない。そして、保持部材23が射出スリーブ5と非接触となるため、摩耗した射出スリーブ5を交換する場合にも、保持部材23が交換作業の邪魔になることを抑制できる。
【0101】
また、第1実施形態では、上記のように、プランジャチップ6aの移動時に取得された弾性波計測部8aの出力信号に基づいて、単位時間当たりの弾性波EWの強度指標(強度指標データ22c)を算出する信号処理部34をさらに備え、判定部8bは、算出された強度指標に基づいて、射出スリーブ5およびプランジャチップ6aの少なくとも一方における摩耗の程度を判定するように構成されている。これにより、プランジャチップ6aの移動(摺動)中の強度指標の変化に基づいて、たとえば急激なスパイク状のピーク42が現れたことや、ベースライン43の顕著な変位が現れたことなどから、摩耗の進行度合いを精度良く判定できる。
【0102】
また、第1実施形態では、上記のように、判定部8bは、射出駆動部7による移動時のプランジャチップ6aの位置情報PIを取得し、プランジャチップ6aの移動中の弾性波計測部8aの出力信号と位置情報PIとに基づいて、射出スリーブ5の摩耗箇所を推定するように構成されている。これにより、射出スリーブ5のどの箇所で摩耗が進行しているかを把握できる。そのため、摩耗の進行を抑制するための、射出スリーブ5や射出駆動部7の組み付け角度の調整や射出動作制御の最適化を検討するための有用な情報を得ることができる。
【0103】
また、第1実施形態では、上記のように、弾性波計測部8aの出力信号のうち、超音波領域の周波数の弾性波EWに対応する信号成分を抽出する抽出処理部32をさらに備える。これにより、たとえば射出動作に伴って発生する振動(変位、びびりなど)や、ダイカストマシン1の他の部位から伝わる振動などは、超音波領域よりも十分に低い周波数の振動であるため、そのような振動成分を除去して、プランジャチップ6aと射出スリーブ5との摺動に起因する信号成分を抽出することで、摩耗状況の判定に関わる信号成分のSN比を改善できる。
【0104】
また、第1実施形態では、上記のように、保持部材23は、スリーブ保持部40に取り付けられるとともに、伝搬部材21を保持するブラケット24と、ブラケット24と伝搬部材21との間に設けられ、伝搬部材21の一端21aを射出スリーブ5に付勢する付勢部材25と、を含む。これにより、ブラケット24により伝搬部材21を安定して保持することができるとともに、付勢部材25によりブラケット24に対して伝搬部材21を付勢して伝搬部材21の一端21aと射出スリーブ5との接触状態を容易に確保することができる。
【0105】
また、第1実施形態では、上記のように、付勢部材25は、伝搬部材21の一端21aを射出スリーブ5に付勢する変形状態でブラケット24と伝搬部材21との間に配置された板ばねである。これにより、比較的剛性の高い板ばねを介してブラケット24が伝搬部材21をより安定して保持することができる。
【0106】
(第2実施形態)
次に、
図11を参照して、第2実施形態の摩耗状況計測部208について説明する。第2実施形態では、AEセンサ22が、伝搬部材21に取り付けられた第1実施形態とは異なり、AEセンサ22が、伝搬部材221ではなく、ブラケット224に取り付けられる例について説明する。なお、第1実施形態と同様の部分は同一の符号を付し、説明を省略する。ブラケット224は、特許請求の範囲の「第2ブラケット」の一例である。摩耗状況計測部208は、特許請求の範囲の「摩耗状況計測装置」の一例である。
【0107】
摩耗状況計測部208は、弾性波計測部208aと、判定部8b(
図2参照)と、を備える。弾性波計測部208aは、射出スリーブ5のY方向の一方側に配置されている。なお、弾性波計測部は、射出スリーブの直下などに配置されてもよい。判定部8bは、弾性波計測部208aの出力信号(強度指標データ22c(
図2参照))に基づいて射出スリーブ5およびプランジャチップ6aの少なくとも一方における摩耗状況を判定する。
【0108】
弾性波計測部208aは、伝搬部材221と、AEセンサ22と、ブラケット224と、調整部材226と、を含む。
【0109】
伝搬部材221は、棒状の部材により構成されている。たとえば、伝搬部材221はボルトによって構成され、調整部材226は伝搬部材221であるボルトに螺合するナットにより構成されている。伝搬部材221であるボルトは、一端21aが射出スリーブ5に当接しており、筒形状の射出スリーブ5の外表面に直交する方向に延びるように配置されている。
【0110】
ブラケット224は、スリーブ保持部40に直接取り付けられるとともに、伝搬部材221を直接保持して伝搬部材221の一端21aを射出スリーブ5に当接させるように構成されている。伝搬部材221は、伝搬部材221であるボルトおよびナットの螺合位置を調整することによって、射出スリーブ5に当接する伝搬部材221を射出スリーブ5に付勢することが可能なように構成されている。
【0111】
詳細には、調整部材226は、ブラケット224に対して射出スリーブ5側から当接して、ブラケット224を射出スリーブ5から離間する方向に押圧して弾性変形させている。その結果、ブラケット224は、復元力によって、伝搬部材221に対して射出スリーブ5に向けた付勢力を発生させる。伝搬部材221(ボルト)に対する調整部材226(ナット)の螺合位置を調整することによって、伝搬部材221の付勢力の大きさを調整することが可能である。
【0112】
ブラケット224は、L字形状に曲げられた板部材である。ブラケット224は、射出スリーブ5の長手方向(X方向)に沿って直線状に延びる直線部224aと、射出スリーブ5の短手方向(Y方向)に直線状に延びる直線部224bと、を有する。ブラケット224の直線部224aには、AEセンサ22が取り付けられている。X方向において、AEセンサ22は、直線部224aの直線部224b寄りに配置されている。直線部224bには、ブラケット224をスリーブ保持部40に固定するためのボルト27が取り付けられている。
【0113】
ブラケット224は、AEセンサ22が取り付けられる部分224cの厚みT1よりも、伝搬部材221を保持する側の部分224dの厚みT2の方が小さくなるように形成されている(T1>T2)。
【0114】
すなわち、ブラケット224の直線部224aは、AEセンサ22が取り付けられる厚肉の部分224cと、伝搬部材221を保持する側の薄肉の部分224dとを有する。ブラケット224の直線部224bは、AEセンサ22が取り付けられる厚肉の部分224cと同じ厚みに形成されている。
【0115】
たとえば、AEセンサ22が取り付けられる厚肉の部分224cの厚みT1の半分よりも、伝搬部材221を保持する側の薄肉の部分224dの厚みT2は小さい。具体的な一例として、厚みT1は6mmであり、厚みT2は1.2mmである。したがって、伝搬部材221を保持する側の薄肉の部分224dは、AEセンサ22が取り付けられる厚肉の部分224cよりも弾性変形しやすい形状を有している。
【0116】
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0117】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態の効果について説明する。
【0118】
第2実施形態では、上記のように、プランジャチップ6aの移動時に射出スリーブ5を伝搬する弾性波を計測する弾性波計測部208aを備える。これにより、上記第1実施形態と同様に、プランジャチップ6aおよび射出スリーブ5の摩耗を高精度に把握することができる。
【0119】
また、第2実施形態では、上記のように、射出スリーブ5を保持した状態で金型保持部3に固定するスリーブ保持部40をさらに備え、弾性波計測部208aは、射出スリーブ5と接触する一端21aを有する伝搬部材221と、スリーブ保持部40に取り付けられるとともに、伝搬部材221を直接保持して伝搬部材221の一端21aを射出スリーブ5に当接させるブラケット224と、ブラケット224に取り付けられ、伝搬部材221を介して射出スリーブ5から伝搬する弾性波を計測するAEセンサ22と、を含む。これにより、ブラケット224により伝搬部材221を直接保持することができるとともに、ブラケット224に、スリーブ保持部40に取り付ける機能、AEセンサ22を取り付ける機能、および、伝搬部材221を保持する機能という複数の機能を持たせることができる。したがって、ブラケットにより伝搬部材を間接的に保持する場合や、上記各機能を複数の部材に分けて持たせる場合と比較して、摩耗状況計測部208の装置構成を簡素化することができる。
【0120】
また、第2実施形態では、上記のように、ブラケット224は、AEセンサ22が取り付けられる部分224cの厚みT1よりも、伝搬部材221を保持する側の部分224dの厚みT2の方が小さくなるように形成されている。これにより、伝搬部材221からブラケット224の伝搬部材221を保持する側の部分224dの厚みT2を比較的薄くすることができるので、伝搬部材221からブラケット224に伝わる弾性波によりブラケット224の薄い部分224dを比較的大きく振動させて、AEセンサ22による弾性波の検出精度を向上させることができる。
【0121】
第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0122】
(第3実施形態)
次に、
図12を参照して、第3実施形態の摩耗状況計測部308について説明する。第3実施形態では、付勢部材25を板ばねにより構成した第1実施形態とは異なり、付勢部材325を圧縮コイルばねにより構成する例について説明する。なお、第1実施形態と同様の部分は同一の符号を付し、説明を省略する。摩耗状況計測部308は、特許請求の範囲の「摩耗状況計測装置」の一例である。
【0123】
摩耗状況計測部308は、弾性波計測部308aと、判定部8b(
図2参照)と、を備える。弾性波計測部308aは、射出スリーブ5のY方向の一方側に配置されている。なお、弾性波計測部は、射出スリーブの直下などに配置されてもよい。判定部8bは、弾性波計測部308aの出力信号(強度指標データ22c(
図2参照))に基づいて射出スリーブ5およびプランジャチップ6aの少なくとも一方における摩耗状況を判定する。
【0124】
弾性波計測部308aは、伝搬部材21と、AEセンサ22と、保持部材323と、を含む。
【0125】
保持部材323は、ブラケット24と、付勢部材325と、調整部材26と、を含む。
【0126】
伝搬部材21およびブラケット24は、ともにL字形状に曲げられた部材である。付勢部材325は、圧縮コイルばねにより構成されている。付勢部材325は、伝搬部材21の一端21aを射出スリーブ5に付勢する圧縮状態でブラケット24と伝搬部材21との間に配置されている。付勢部材325は、調整部材26(ボルトおよびナット)によって、射出スリーブ5とは非接触でブラケット24に取り付けられている。
【0127】
ブラケット24と伝搬部材21とは、調整部材26(ボルトおよびナット)によって、所定の離間距離の最大値が規定されている。弾性波EW(
図4参照)が発生した際の付勢部材325の伸縮に伴い、ブラケット24と伝搬部材21との間の距離は、所定の離間距離の最大値以下の範囲で変動する。
【0128】
伝搬部材21は、射出スリーブ5の長手方向(X方向)に沿って直線状に延びる直線部21cと、一端21aを含み射出スリーブ5の短手方向(Y方向)に直線状に延びる直線部21dと、を有する。ブラケット24は、射出スリーブ5の長手方向(X方向)に沿って直線状に延びる直線部24aと、一端21aを含む射出スリーブ5の短手方向(Y方向)に直線状に延びる直線部24bと、を有する。AEセンサ22は、伝搬部材21の直線部21cに取り付けられている。伝搬部材21の直線部21cと、ブラケット24の直線部24aとは、互いに平行に配置されている。直線部24bには、ブラケット24をスリーブ保持部40に固定するためのボルト27が取り付けられている。
【0129】
Y方向において、伝搬部材21の全体は、ブラケット24の直線部24aよりも射出スリーブ5側に配置されている。付勢部材325は、伝搬部材21の直線部21cとブラケット24の直線部24aとの間に配置され、Y方向に伸縮するように構成されている。X方向において、付勢部材325は、直線部21cの一端21a寄りに配置されている。X方向において、AEセンサ22は、直線部21cの他端21b寄りに配置されている。
【0130】
第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0131】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態の効果について説明する。
【0132】
第3実施形態では、上記のように、プランジャチップ6aの移動時に射出スリーブ5を伝搬する弾性波を計測する弾性波計測部308aを備える。これにより、上記第1実施形態と同様に、プランジャチップ6aおよび射出スリーブ5の摩耗を高精度に把握することができる。
【0133】
また、第3実施形態では、上記のように、保持部材323は、スリーブ保持部40に取り付けられるとともに、伝搬部材21を保持するブラケット24と、ブラケット24と伝搬部材21との間に設けられ、伝搬部材21の一端21aを射出スリーブ5に付勢する付勢部材325と、を含む。これにより、ブラケット24により伝搬部材21を安定して保持することができるとともに、付勢部材325によりブラケット24に対して伝搬部材21を付勢して伝搬部材21の一端21aと射出スリーブ5との接触状態を容易に確保することができる。
【0134】
また、第3実施形態では、上記のように、付勢部材325は、伝搬部材21の一端21aを射出スリーブ5に付勢する圧縮状態でブラケット24と伝搬部材21との間に配置された圧縮コイルばねである。これにより、ブラケット24と伝搬部材21との間に比較的剛性の高い付勢部材が介在する場合と比較して、ブラケット24と伝搬部材21との間で振動が伝わりにくくすることができるので、ブラケット24が取り付けられたダイカストマシン1のスリーブ保持部40側から伝わる振動(ノイズ)が、伝搬部材21に取り付けられたAEセンサ22に伝わりにくくすることができる。
【0135】
第3実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0136】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0137】
たとえば、上記第1~第3実施形態では、ダイカストマシン1を横型に構成した例を示したが本発明はこれに限られない。本発明では、ダイカストマシンを縦型に構成してもよい。
【0138】
また、上記第1~第3実施形態では、ダイカストマシン1の制御部12aが実行するソフトウェアの制御ブロックとして、判定部8bを構成した(つまり、制御部12aと判定部8bとが同一のハードウェアによって構成された)例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、判定部8bは、判定処理を実行するプロセッサを備えた単独の判定処理装置(コンピュータ)として構成されていてもよい。判定部8bは、演算ユニット8dに設けられていてもよい。
【0139】
特に、上記第1~第3実施形態では、判定部8bがダイカストマシン1の制御装置12に組み込まれていることにより、摩耗状況計測部8がダイカストマシン1の一部として構成された例を示したが、判定部8bをダイカストマシン1の制御装置12とは別個に設けることによって、ダイカストマシン1とは独立した摩耗状況計測装置を構成してもよい。たとえば、
図13に示す摩耗状況計測装置107は、弾性波計測部8aと判定部8bとを備えることにより、摩耗状況に関する判定機能を有しない既存のダイカストマシン101に対して、後付けの計測装置として設置することができる。判定部8bは、摩耗状況をダイカストマシン101の制御装置110に出力するか、または摩耗状況計測装置107が備える報知器(図示せず)によって、摩耗状況に応じた報知を実行してもよい。
【0140】
また、上記第1~第3実施形態では、摩耗状況計測部8(
図2参照)が、アンプユニット8cと演算ユニット8dと判定部8bとを別々に備えた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、摩耗状況計測部8は、たとえばアンプユニット8cと演算ユニット8dと判定部8bとを備えた単一の装置として構成されていてもよい。また、アンプユニット8cと演算ユニット8dとを単一のユニットとして構成してもよい。
【0141】
また、上記第1~第3実施形態では、弾性波EWの強度指標を算出する信号処理部34(演算ユニット8d)を設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、信号処理部34(演算ユニット8d)を設けなくてもよい。判定部8bは、弾性波EWの強度指標ではなく、弾性波EWの計測データそのものであるAEセンサ22の出力信号22a(出力電圧値)から、摺動部品SPの摩耗状況を判定してもよい。
【0142】
また、上記第1~第3実施形態では、弾性波計測部8a(208a、308a)の出力信号22aのうち、超音波領域の周波数の弾性波EWに対応する信号成分を抽出する抽出処理部32を設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、抽出処理部32を設けなくてもよい。
【0143】
また、上記第1~第3実施形態では、弾性波計測部8a(208a、308a)が伝搬部材21とAEセンサ22とを含む例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、弾性波計測部8aに伝搬部材21を設けなくてもよい。また、本発明では、保持部材23によって伝搬部材21を射出スリーブ5に付勢しなくてもよい。たとえば、射出スリーブ5に、
図4に示した伝搬部材21と同様の形状の伝搬片を射出スリーブ5の外周面から突出するように設けて、その伝搬片にAEセンサ22を取り付けてもよい。また、AEセンサ22を、射出スリーブ5を保持するスリーブ保持部40に取り付けてもよい。たとえば、スリーブ保持部40において、射出スリーブ5が取り付けられるスリーブ挿入口40cの縁部にAEセンサ22を取り付けて、射出スリーブ5を保持する部分に伝搬した弾性波EWをAEセンサ22によって検出するようにしてもよい。
【0144】
また、上記第1~第3実施形態では、伝搬部材21の一端21aが、射出スリーブ5の外周面に沿って湾曲した凹面形状を有する例を示したが、本発明はこれに限られない。伝搬部材21の一端21aは、
図14(A)に示すように平面でもよいし、
図14(B)に示すように凸状の湾曲面であってもよい。
【0145】
また、上記第1~第3実施形態では、伝搬部材21が射出スリーブ5のY方向側面に接触する例を示したが、本発明はこれに限られない。射出スリーブ5における伝搬部材21の接触位置は任意であり、伝搬部材21は射出スリーブ5の上面または下面に接触してもよい。X方向における接触位置も任意であり、伝搬部材21は注湯口5a付近以外の位置に接触してもよい。
【0146】
また、上記第1~第3実施形態では、弾性波計測部8a(208a、308a)を1つだけ設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、弾性波計測部8aを複数設けてもよい。
【0147】
また、上記第1~第3実施形態では、判定部8bが、低速前進工程および高速前進工程を含む射出前進工程全体の強度指標-位置変化データ22dから摺動部品SPの摩耗状況を判定する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、射出前進工程の一部のデータから摩耗状況を判定してもよい。射出スリーブ5の摩耗は、経験上、低速前進工程でプランジャチップ6aが移動する領域よりも、高速前進工程でプランジャチップ6aが移動する領域の方が進行しやすい。つまり、高速前進工程でプランジャチップ6aが移動する領域の方で、先に、閾値以上の摩耗箇所が発生する可能性が高いため、判定部8bは、高速前進工程における強度指標-位置変化データ22dのみから摩耗状況を判定してもよい。
【0148】
また、上記第1~第3実施形態では、判定部8bによる摩耗状況の判定手法の一例として、強度指標が閾値を越えるか否かによって摩耗状況を判定する手法や、摩耗が発生していない正常な強度指標-位置変化データ22d(グラフ41b)との比較によって摩耗状況を判定する手法を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、判定部8bが、機械学習によって作成された学習済モデルを用いて、摩耗状況を判定してもよい。具体的には、弾性波計測部8a(208a、308a)の計測データを、摺動部品SPの摩耗状況毎に実験的に収集し、収集された摩耗状況毎のデータ群を学習データとして、入力データについての摩耗状況を出力する処理を機械学習させた学習済モデルを予め作成しておく。判定部8bが、この学習済モデルを用いて、1ショット毎に弾性波計測部8aから取得される最新の計測データから把握される摩耗状況を判定するようにしてもよい。弾性波計測部8aにより取得される弾性波EWの計測データは、基本的に同一の射出工程の動作を単位として、ダイカストマシン1の稼働に伴って数千回、数万回と反復して取得されるものであり、機械学習用の学習データとして収集、処理するのに適している。
【0149】
また、上記第1~第3実施形態では、ブラケット24、224を、スリーブ保持部40に取り付けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ブラケットをスリーブ保持部ではなく、金型保持部の固定ダイプレートなどの他の構成に取り付けてもよい。
【0150】
また、上記実施形態では、説明の便宜上、判定部8bの処理動作を処理フローに沿って順番に処理を行うフロー駆動型のフローチャートを用いて説明したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部の処理動作を、イベント単位で処理を実行するイベント駆動型(イベントドリブン型)の処理により行ってもよい。この場合、完全なイベント駆動型で行ってもよいし、イベント駆動およびフロー駆動を組み合わせて行ってもよい。
【符号の説明】
【0151】
1 ダイカストマシン
2 金型
3 金型保持部
5 射出スリーブ
6a プランジャチップ
7 射出駆動部
8、208、308 摩耗状況計測部(摩耗状況計測装置)
8a、208a、308a 弾性波計測部
8b 判定部
21 伝搬部材
21a 一端
21b 他端
22 AEセンサ(弾性波検出センサ)
22a、22b 出力信号
22c 強度指標データ
22d 強度指標-位置変化データ
23、323 保持部材
24 ブラケット(第1ブラケット)
25、325 付勢部材
32 抽出処理部
34 信号処理部
40 スリーブ保持部
107 摩耗状況計測装置
224 ブラケット(第2ブラケット)
224c (AEセンサが取り付けられる)部分
224d (伝搬部材を保持する側の)部分
C キャビティ
EW 弾性波
M 溶湯
PI 位置情報
T1 (AEセンサが取り付けられる部分の)厚み
T2 (伝搬部材を保持する側の部分の)厚み