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特開2023-157010繊維機械の電力制御のための方法、電力制御ユニット、ならびに精紡機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157010
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】繊維機械の電力制御のための方法、電力制御ユニット、ならびに精紡機
(51)【国際特許分類】
   D01H 4/44 20060101AFI20231018BHJP
   D01H 13/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
D01H4/44
D01H13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023064762
(22)【出願日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】10 2022 109 107.4
(32)【優先日】2022-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】518264859
【氏名又は名称】ザウラー スピニング ソリューションズ ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Saurer Spinning Solutions GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Carlstr. 60, 52531 Uebach-Palenberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル シュピッツァー
(72)【発明者】
【氏名】ローベルト ガイスラー
【テーマコード(参考)】
4L056
【Fターム(参考)】
4L056AA08
4L056BD19
4L056BD69
4L056DA02
4L056DA04
4L056DA09
4L056DA52
4L056EB18
4L056EC70
4L056EC75
4L056EC85
4L056ED01
4L056ED03
4L056ED11
4L056FB20
4L056FC06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】繊維機械の迅速な立ち上げを可能にさせ、動作シーケンスにおける相応の遅延および機能停止時間を最小化する、繊維機械の電力制御のための方法、電力制御ユニット、ならびに精紡機を提供する。
【解決手段】まず作業ステーションの各々の所要電力を求めるステップを含み、次いで、求められた所要電力ならびに電源部の最大電力に基づいて、同時に実行可能な動作過程、特に同時に始動もしくは立ち上げ可能な作業ステーションを求めるステップを含むことが想定される。さらに、電源部の最大電力を可及的に最良に活用するために、1つの電源部を用いてともに供給される複数の作業ステーションの最適化された動作データが作成され、この場合、所要電力を求めるステップおよび/または同時に実行可能な動作過程を求めるステップおよび/または最適化された動作データを作成するステップが、現下のロットデータを考慮に入れて行われる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同時に動作する複数の作業ステーションを備え且つ複数の前記作業ステーションの共通の電力供給のための少なくとも1つの電源部を備えた繊維機械の電力制御のための方法であって、
-前記作業ステーションの各々の所要電力を求めるステップと、
-求められた前記所要電力ならびに前記電源部の最大電力に基づいて、同時に実行可能な動作過程を求めるステップと、
-前記電源部の最大電力を可及的に最良に活用するために、1つの前記電源部を用いてともに供給される複数の前記作業ステーションの最適化された動作データを作成するステップとを含み、
-前記所要電力を求める前記ステップおよび/または最適化された前記動作データを作成する前記ステップが、現下のロットデータを考慮に入れて実行される、方法。
【請求項2】
考慮に入れる現下の前記ロットデータには、
織物を製造するために使用される材料の種類、組成および/または寸法、
駆動モーターおよび/または紡糸ロータの回転数、ならびに/または
作業ステーションの始動の際の駆動モーターの加速度が含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
1つの作業ステーションの前記所要電力を求める前記ステップは、現下の前記ロットデータを用いた前記作業ステーションの試験的始動および/または試験的動作によって実行される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
1つの作業ステーションの前記所要電力を求める前記ステップは、現下の前記ロットデータを用いてそれぞれの前記作業ステーションの立ち上げおよび/または正規の動作を監視することによって行われる、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記所要電力の求められたデータは、結果として最適化された動作データを作成することができるように、それぞれの前記ロットデータに結合されてデータベースに記憶される、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
それぞれの前記ロットデータおよび/またはそれぞれの機械設定、ならびにデータベースに格納された前記所要電力のデータに基づいて、それぞれ計画された動作シーケンスについての電力予測が作成され、最適化された動作データの作成の枠内で、共通の前記電源部が、同時にさらなる動作過程を可能にするのに十分な高い電力を提供できるかどうかが検査される、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
各作業ステーションの前記所要電力を求める前記ステップは、前記データベースに格納された類似のロットデータについてのデータに基づいて実行される、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記電力制御の最適化が、繊維機械の動作期間中の前記電源部の実際の電力を、最適化された動作データで捕捉し、その後、求められた前記所要電力および/または前記電力予測の結果と比較し、ならびに補正データを前記データベースに記憶し、かつ/またはさらなる最適化された動作データを作成時に補正することによって行われる、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
作成され最適化された前記動作データによる前記繊維機械の動作期間中に、前記電源部のまだ使用可能な電力が呼び出され、その後、動作パラメータのさらなる最適化の際に考慮に入れられ、さらなる作業ステーションの立ち上げが許容されるかどうか、かつ/またはさらなる前記作業ステーションが動作可能であるかどうかが検査される、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
作成され最適化された前記動作データによる前記繊維機械の動作期間中に、実際の電力消費が連続的に監視され、前記電力予測の値を超えた場合および/または確定された最大電力を超えた場合、最適化された前記動作データの適合化が行われ、かつ/または作業ステーションがシャットダウンもしくは動作不能にされる、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
同時に動作する複数の作業ステーションを備え、ならびに複数の作業ステーションの共通の電力供給のための少なくとも1つの電源部を備えた繊維機械のための電力制御ユニットであって、該電力制御ユニットは、
-前記作業ステーションの各々の所要電力を求め、
-求められた前記所要電力ならびに前記電源部の最大電力に基づいて、同時に実行可能な動作過程を求め、
-前記電源部の最大電力を可及的に最良に活用するために、1つの電源部を用いてともに供給される複数の前記作業ステーションの最適化された動作データを生成するように構成されており、
-前記所要電力を求めることおよび/または前記最適化された動作データを作成することが、現下のロットデータを考慮に入れて行われる、電力制御ユニット。
【請求項12】
電力制御ユニット、特に請求項11記載の電力制御ユニットを備え、それぞれ1つの紡糸ロータを有する同時に動作する複数の作業ステーションを備え、ならびに複数の作業ステーションの共通の電力供給のための少なくとも1つの電源部を備えた精紡機であって、前記電力制御ユニットは、前記作業ステーションの各々の所要電力を求め、求められた前記所要電力ならびに前記電源部の最大電力に基づいて、同時に立ち上げるべきかつ/または動作させるべき前記紡糸ロータを求め、前記電源部の最大電力を可及的に最良に活用するために、1つの電源部を用いてともに供給される複数の前記作業ステーションの最適化された動作データを作成するように構成され、前記所要電力を求めることおよび/または前記最適化された動作データを作成することが、現下のロットデータを考慮に入れて行われる、精紡機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同時に動作する複数の作業ステーションを備え、ならびに複数の作業ステーションの共通の電力供給のための少なくとも1つの電源部を備えた繊維機械の電力制御のための方法、そのような繊維機械のための電力制御ユニット、ならびにそのような電力制御ユニットを備えた精紡機に関する。
【0002】
繊維機械、特に精紡機は、多岐にわたる手法で従来技術から公知であり、ここでは通常、繊維材料から糸を製造するために使用される。ここで、精紡機は、慣用的に、多数の作業ステーションを備え、これらの作業ステーションはそれぞれ、糸を紡ぐための電気動作式の紡糸ロータを有している。精紡機、特に紡糸ロータの電気モーターの電力供給は、ここでは、少なくとも1つの電源部を介して行われ、この場合、それぞれ複数の作業ステーション、例えば4つの作業ステーションが、共通の1つの電源部によって電力を供給される。
【0003】
正規の精紡運転では、この電源部の電力を精紡機の複数の作業ステーションに分配することは、多くの場合、試練とはならない。しかしながら、これらの紡糸ロータは、通常、毎分20万回転を超える非常に高い回転数で動作しており、ここでは、紡糸ロータの立ち上げの際の紡糸ロータの加速すべき質量体に基づき大きな電力が必要であり、そのため、共通の電源部では、全ての紡糸ロータを同時に立ち上げるのに十分な電力を提供することができない。
【0004】
それゆえ、1つの電源部を用いてともに動作する紡糸ロータを順次連続して始動するのが一般的であり、ここでは、先の紡糸ロータが完全に立ち上がった場合にのみ次の紡糸ロータがそれぞれ始動される。このことは、典型的には、紡糸ロータ毎に1分よりも明らかに長い持続時間となるため、精紡機全体では、長引く起動プロセスの後でのみ動作可能状態となり、このことは、故障後の複数の作業ステーションの紡糸開始の際ならびに立ち上げの際の動作シーケンスを遅延させる。
【0005】
したがって、本発明が基礎とする課題は、繊維機械の迅速な立ち上げを可能にさせ、動作シーケンスにおける相応の遅延および機能停止時間を最小化する、繊維機械の電力制御のための方法、そのような繊維機械のための電力制御ユニット、ならびにそのような電力制御ユニットを備えた精紡機を提供することである。
【0006】
この課題は、本発明により、請求項1記載の繊維機械の電力制御のための方法、請求項11記載のそのような繊維機械のための電力制御ユニット、ならびに請求項12記載のそのような電力制御ユニットを備えた精紡機によって解決される。本発明の好適なさらなる発展形態は、従属請求項に示されている。
【0007】
同時に動作する複数の作業ステーションを備え且つ複数の作業ステーションの共通の電力供給のための少なくとも1つの電源部を備えた繊維機械の電力制御のための本発明による方法は、方法ステップとして、まず作業ステーションの各々の所要電力を求めるステップを含み、次いで、求められた所要電力ならびに電源部の最大電力に基づいて、同時に実行可能な動作過程、特に同時に始動もしくは起動可能な作業ステーションを求めるステップを含む。さらに、電源部の最大電力を可及的に最良に活用するために、1つの電源部を用いてともに供給される複数の作業ステーションの最適化された動作データが作成され、この場合、所要電力を求めるステップおよび/または同時に実行可能な動作過程を求めるステップおよび/または最適化された動作データを作成するステップが、現下のロットデータを考慮に入れて実行される。
【0008】
同時に動作する複数の作業ステーションを備え、ならびに複数の作業ステーションの共通の電力供給のための少なくとも1つの電源部を備えた繊維機械のための本発明による電力制御ユニットは、作業ステーションの各々の所要電力を求め、求められた所要電力に基づいてならびにさらに電源部の最大電力に基づいて、特に同時に始動もしくは起動可能な作業ステーションの同時に実行可能な動作過程を求め、電源部の最大電力を可及的に最良に使用するために、1つの電源部を用いてともに供給される複数の作業ステーションの最適化された動作データを生成するように構成されており、この場合、所要電力を求めることおよび/または同時に実行可能な動作過程を求めることおよび/または最適化された動作データを作成することが、現下のロットデータを考慮に入れて行われる。
【0009】
最後に、本発明はさらに、電力制御ユニット、特に本発明による電力制御ユニットを備え、それぞれ1つの紡糸ロータを有する同時に動作する複数の作業ステーションを備え、ならびに複数の作業ステーションの共通の電力供給のための少なくとも1つの電源部を備えた精紡機に関しており、この場合、電力制御ユニットは、作業ステーションの各々の所要電力を求め、求められた所要電力ならびに電源部の最大電力に基づいて、同時に立ち上げるべきかつ/または動作させるべき紡糸ロータを求め、電源部の最大電力を可及的に最良に使用するために、1つの電源部を用いてともに供給される複数の作業ステーションの最適化された動作データを作成するように構成され、この場合、所要電力を求めることおよび/または同時に立ち上げるべきもしくは動作させるべき紡糸ロータを求めることおよび/または最適化された動作データを作成することが、現下のロットデータを考慮に入れて行われる。
【0010】
本発明者らは、各紡糸ロータの立ち上げ時間は、バッチパラメータおよびロットデータに依存するため、バッチに依存しない電力制御を首尾よく実施することができないことを認識している。それに対して、紡糸ロータの立ち上がりの制御の際、ならびに場合によっては作業ステーションのさらなるコンポーネントの始動の際にもロットデータを考慮することにより、好適には機械の立ち上げ時間、すなわち全ての作業ステーションが完全に動作可能になるまでの時間を最適化することが可能となり、それによって、繊維機械を著しくより迅速に動作可能にすることができる。ただし、繊維機械の連続動作中においても、個々の作業ステーションの機能停止時間を低減することが可能である。なぜなら、本発明による方法を用いれば、残りの作業ステーションの動作期間中に一時停止された作業ステーションのより迅速な立ち上がりが可能になるからである。
【0011】
繊維機械は、基本的に、繊維製品を加工および/または製造する任意の機械であり得る。好適には、繊維機械は精紡機であり、特に好適にはロータ精紡機であり、特に最も好適にはオープンエンドロータ精紡機である。
【0012】
繊維機械は、本発明によれば、好適には相互に同一に形成されている複数の作業ステーションを備える。各作業ステーションは、少なくとも1つの、好適には複数の電気負荷を有し、この場合、特に好適には、全ての作業ステーションが、少なくとも自身の電気負荷に関して同一に形成されている。しかしながら、基本的には、複数の作業ステーションの電気負荷は、相互に異なることも可能であり、あるいは作業ステーションが追加の負荷を有することも可能である。精紡機の作業ステーションでは、重要な電気負荷は、電気モーター、特に紡糸ロータの電気駆動モーターである。
【0013】
個々の作業ステーションに割り当てられる電気負荷の他に、さらに例えば負圧を発生させるための手段、サービスワゴン、制御ユニット、クリーニングユニットなどの電気負荷が特定の作業ステーションに割り当てられるのではなく、複数の作業ステーションにともに割り当てられて存在する可能性もある。この場合、そのような共通の負荷は、固有の電源部もしくは作業ステーションの電源部から独立した電源部を用いて動作させることもできるが、作業ステーションの電力供給部に組み込んでもよく、さらに特に、複数の作業ステーションに割り当てられた1つの電源部を用いて動作させることも可能である。この場合は、さらに本発明による電力制御のための方法の対応する実施形態における共通の負荷も考慮に入れる必要がある。
【0014】
しかしながら、好適には、全ての作業ステーションは、少なくとも1つの電気負荷、特に、共通の電力供給を用いて動作させる電気駆動式紡糸ロータを有する。共通の電力供給とは、この場合、少なくとも複数の作業ステーションのそれぞれ1つの負荷が共通の電源部に接続され、それによって電源部の使用可能な総電力もしくは定格電力を用いてともに動作しなければならないことを意味するものと理解される。この場合、電源部は、任意の電力供給ユニットであってよい。この電源部は、好適には、精紡機の複数の作業ステーションのための、好適には精紡機の2~10個の紡糸ステーションのための、特に好適には2~6個の紡糸ステーションのための、特に最も好適には4個の紡糸ステーションのための1つの紡糸ステーション電源部である。
【0015】
本発明による方法は、第1の方法ステップとして、作業ステーションの各々の所要電力を求めることを想定し、この場合、この所要電力を求めることは、ここでは特に、現下の電力測定および/または先の電力測定により実用的に行うことができ、また、特にデータベースに格納されている電力需要の値を用いて負荷の定格データに基づき、かつ/または電力計算に基づき理論的に実施することもできる。この目的のために、値の測定ならびに記憶されているデータの使用を組み合わせることも考えられる。全体として、作業ステーションの各々の所要電力を求めることは、実行すべき動作過程の所要電力、例えば精紡ロータの立ち上げに要する所要電力がどれだけ高いかを決定することを目的としている。この目的のために、基本的にはいくつかの特性値、例えば最大の電力消費などを求めることで十分であるが、ここで好適には、電力消費の時間経過特性全体が捕捉および/または評価される。
【0016】
所要電力が求められ、電源部の最大電力が既知となった後では、本発明によれば、同時に実行可能な動作過程を求めることが、計画された動作過程の任意の時点で電源部の最大電力を超えることなく行われる。電源部の最大電力として、好適には、電源部の定格電力または実際に提供可能な最大電力が使用される。
【0017】
さらに本発明によれば、同時に実行可能な動作過程を求める方法ステップにおいて、またはその直後に、電源部の最大電力を可及的に最良に活用するために、1つの電源部を用いてともに供給される複数の作業ステーションの最適化された動作データを作成することが行われる。
【0018】
動作データは、ここでは、作業ステーションの、好適には電源部を用いて動作する少なくとも1つの電気負荷の、特に好適には電源部を用いて動作する全ての電気負荷の、特に最も好適には作業ステーションの全ての電気負荷の動作に対する任意のデータであってよい。この場合、動作データは、特に、動作過程の時間シーケンス、例えば1つまたは複数の電気負荷の始動開始時点、起動持続時間、および/または動作モードを含むことができる。特に最も好適には、動作データは、精紡機の紡糸ロータモーターの紡糸開始および/または立ち上げの時点および/または持続時間を含む。複数の動作過程を相互に時間にシフトさせることは、例えば動作過程の電力ピークを電源部の最大電力に達するもしくはそれを超える時点の存在がないように相互に時間的にシフトさせるための最適化の一部であってもよい。
【0019】
それに応じて、最適化された動作データは、好適には、少なくとも1つの作業ステーションもしくは少なくとも1つの電気負荷の、好適にはそれぞれの電源部に接続された全ての作業ステーションの、特に最も好適には繊維機械全体の、特に精紡機全体の、運転開始および/または動作の最適化された制御シーケンスを含む。
【0020】
作成され最適化された動作データは、その後、電気負荷の駆動制御のために提供することができ、かつ/または対応する制御ユニットに伝送することができる。その際、最適化された動作データを作成することは、既に制御ユニット、上位の制御ユニットにおいて行うことができるが、別個のデータ処理ユニットにおいて行うこともできる。一般に、好適には、本発明による方法は、繊維機械の情報提供機器内で実行される。
【0021】
所要電力を求めることおよび/または同時に実行可能な動作過程を求めることおよび/または最適化された動作データを作成することは、本発明により、現下のロットデータを考慮に入れて行われる。なぜなら、これらのロットデータは、それぞれの作業ステーションの所要電力もしくは電力消費に影響を与え、それゆえ動作データの良好な最適化においては必ず考慮に入れる必要があるからである。特に、現下のロットに基づき、作業ステーションの電力消費が平均を上回って高くなり、そのためにロットに依存しない最適化された動作データを用いた駆動制御が、電源部の過負荷、作業ステーションの誤機能につながり、最悪の場合には、繊維機械の損傷につながりかねない恐れがある。
【0022】
したがって、本発明によれば、それぞれのロットを参照して最適化された動作データを作成することが必ず必要である。それに応じて好適には、本発明による方法は、少なくともロットが入れ替わったとき、および/または現下のロットデータが先のロットのデータおよび/または全ての先行するロットのデータから著しく逸脱したときに実行される。それに応じて、所要電力および/または同時に実行可能な動作過程は、好適には必ずロットデータの少なくとも一部に依存して、特に好適には全ての重要なロットデータに依存して求められ、もしくは最適化された動作データがそれに応じて作成される。
【0023】
一般に好適には、考慮に入れるロットデータには、精紡パラメータ、織物を製造するために使用される材料の値、および/または機械データが含まれる。特に好適には、考慮に入れる現下のロットデータには、織物を製造するために使用される材料の種類、組成および/または寸法、駆動モーターおよび/または紡糸ロータの回転数、ならびに/または作業ステーションの始動の際の、特に紡糸ロータの起動の際もしくは紡糸開始の際の駆動モーターの加速度が含まれる。特に、使用される繊維材料の化学組成および/または物理的特性、例えば繊維長、繊維径および/または異なる繊維材料の乱混合物などをロットデータとして考慮に入れることが特に最も好適である。
【0024】
現下のロットデータとは、現在繊維機械で処理されているロットに関するデータを意味するものと理解され、この場合、ロットデータは、好適には、それぞれの繊維機械もしくはそれぞれの作業ステーションおよび/またはそれぞれの製造すべき織物に依存する。
【0025】
さらに、所要電力は、ロット毎に異なる可能性がある作業ステーションのさらなる電気負荷およびそれらの駆動制御もしくは動作モードにも依存しており、特にその場合にはそれらも考慮に入れた方が好適であろう。
【0026】
本発明による電力制御のための方法の好適な発展形態では、作業ステーション、特に電源部を用いて供給される各作業ステーションの所要電力を求めることは、特に現下のロットデータを用いた作業ステーションの試験的始動および/または試験的動作によって行われる。試験的始動は、この場合好適には、それぞれの作業ステーションの試験的紡糸開始もしくは試験的立ち上げ、および特に作業ステーションの紡糸ロータの試験的紡糸開始もしくは試験的立ち上げである。この場合は一般に、個々の1つの作業ステーションのみが試験的始動および/または試験的動作を実施し、特に、作業ステーションの各々について標準的条件下での電力消費もしくは通常動作における電力消費が既知であるのならば十分であり、したがって好適には、個々の作業ステーション間の動作中に生じる電力差も数学的に求めて相応に考慮に入れることができる。
【0027】
ただし、特に好適には、電源部を用いて供給される個々の作業ステーションの各々について、試験的始動および/または試験的動作が行われ、この場合、このことは、電源部が十分な電力を提供することができる限り、順次連続して行うことも、複数のもしくは全ての作業ステーションに対して同時に行うことも可能である。そのような試験的動作では、不十分な電力供給に基づき個々の作業ステーションが機能停止に陥るかどうかはここでは重要ではないので、同時に全ての作業ステーションで試験を試みることも可能である。
【0028】
電力制御のための本方法のさらなる好適な発展形態では、作業ステーション、特に電源部を用いて供給される各作業ステーションの所要電力を求めるステップは、特に現下のロットデータを用いたそれぞれの作業ステーションの立ち上げもしくは始動および/または正規の動作を監視することによって行われる。特に、動作期間中の個々の作業ステーションの各々の紡糸開始もしくは立ち上げの際、電力データ、特に駆動モーターおよび/または作業ステーション全体の電力消費が、少なくとも1回、好適には各紡糸開始もしくは立ち上げの際に監視および記録され、評価されて好適には記憶もされる。特に好適には、ここでは、電源部を用いて供給される全ての作業ステーションもしくは紡糸ステーションの全ての紡糸ロータの従来の大抵は順次連続する立ち上げが監視され、電力消費、特にその時間経過特性が記録および/または評価される。代替的または付加的に、最大電力もしくは最大電力消費の監視も行うことができる。
【0029】
本発明による電力制御のための方法の好適な発展形態では、所要電力の求められたデータは、結果として最適化された動作データを作成することができるように、それぞれのロットデータに結合されて記憶されることが想定される。これらのデータの記憶は、ここでは好適には、データベースにおいて行われる。その際、特に、各特定の作業ステーションのデータ、全ての作業ステーションに関する一般化されたデータ、および/またはそれぞれの動作パラメータ、ならびに/または試験的始動の結果、試験的動作の結果、および/または立ち上げの監視の結果が、データベースに記憶もしくは格納される。最適化された動作データの作成は、ここでは、所要電力を求めた直後に行うことができるが、その後の任意の時点でデータベースからのデータの呼び出しによって行うこともできる。好適には、データベースは、繊維機械の情報提供機器内または制御ユニット内に格納される。その上さらに、ただし、付加的または代替的に、繊維機械と外部データベースとの通信も考えられる。
【0030】
特に正確な電力制御を達成するために、本発明による方法の好適な実施形態では、それぞれのロットデータおよび/またはそれぞれの機械設定、ならびにデータベースに格納された所要電力のデータに基づいて、それぞれ計画された動作シーケンスについての電力予測が作成され、最適化された動作データを作成する枠内で、共通の電源部が、さらなる動作過程、例えばさらなる作業ステーションの立ち上げを同時に可能にさせるのに十分な高い電力を提供することができるかどうかが検査されることが想定される。それに応じて、最適化された動作データは、使用可能な総電力が可及的に最良に使用されるように作成されるが、同時に、時間経過特性において、電源部の使用可能な総電力もしくは定格電力よりも高い電力が必要になる時点の存在がないことも保証される。
【0031】
その上さらに好適には、各作業ステーションの所要電力を求めることが、データベースに格納された類似のロットデータについてのデータに基づいて排他的または付加的に行われ、それにより、これまでに使用されなかったロットデータのセットについても、類似のロットデータのセットに基づいて動作データの最適化が既に可能となる。
【0032】
本発明による方法を用いて非常に正確な制御が既に可能であるにもかかわらず、本方法の好適な実施形態では、帰還結合もしくはフィードバックが想定され、この場合特に好適には、電力制御の最適化が、繊維機械の動作期間中の電源部の実際の電力を最適化された動作データで捕捉することによって行われ、その後、求められた所要電力および/または電力予測の結果と比較することによって行われ、ならびに補正データがデータベースに記憶され、かつ/またはさらなる最適化された動作データを補正することによって行われる。
【0033】
本発明による電力制御のための方法の好適な実施形態では、作成され最適化された動作データによる繊維機械の動作期間中に、電源部のまだ使用可能な電力が呼び出され、このまだ使用可能な電力が、その後、動作パラメータのさらなる最適化の際に考慮に入れられ、この場合好適には、さらなる作業ステーションの立ち上げが許容されるかどうか、かつ/またはさらなる作業ステーションが動作可能であるかどうかが検査される。電源部のまだ使用可能な電力は、この場合特に、各時点における現下の実際に呼び出されたもしくは提供された電力と、電源部の定格電力もしくは最大電力との差分である。
【0034】
その上さらに、好適には、作成され最適化された動作データによる繊維機械の動作期間中に、実際の電力消費が連続的に監視され、好適には、電力予測の値を超えた場合および/または確定された最大電力を超えた場合、最適化された動作データの適合化が行われ、かつ/または作業ステーションがシャットダウンもしくは動作不能にされ、それによって、使用可能な電力の不足に基づく動作不良、故障、または損傷でさえも回避することができる。
【0035】
以下では、繊維機械の電力制御のための方法の複数の実施例をより詳細に説明する。
【0036】
そのような方法の第1の実施形態では、精紡機の紡糸ステーションの立ち上げが最適化され、この場合、それぞれ4つの紡糸ステーションがともに紡糸ステーション電源部を介して電力供給可能である。ここでは、紡糸ステーション電源部の連続電力は、4×300Wであり、ならびに付加的出力を用いてさらに350Wになる。この紡糸ステーション電源の定格電力は、回転数の高い紡糸ロータを駆動するための電気モーターを含む4つの紡糸ステーションを動作させるのに十分である。
【0037】
それに対して、紡糸開始過程、すなわちロータモーター立ち上げについては、正規の動作についてよりも著しく高い電力が必要とされ、そのため、従来技術では、順次連続する立ち上げが行われ、この場合、最初の紡糸ロータは70秒の持続時間にわたって立ち上げられ、その動作回転数に達した場合にのみ次の紡糸ロータの立ち上げが許容され、次いで、この立ち上げは再度70秒持続するため、4つ全ての紡糸ロータの立ち上げ時間全体では少なくとも280秒が費やされる。
【0038】
精紡機の特に紡糸ロータ立ち上げのための立ち上げ時間ならびに全体の動作シーケンスを最適化するために、紡糸ロータの各々が個別に順次連続して立ち上げられ、その際、電力の時間経過特性が捕捉される。次いで、この立ち上げのために要する電力は、ロットデータとともに、すなわち紡糸パラメータおよび機械データとともに精紡機の情報機器内のデータベースに記憶され、それによって、各紡糸ステーションについては現下のロットデータに依存して所要電力が既知となる。ここでは、捕捉がロットデータに依存して行われることが重要である。なぜなら、所要電力は、ロットデータの変化に伴って著しく変動し、その際には特に使用される紡糸ロータ、ロータモーター、選択された紡糸ロータの回転数、ならびにさらなる紡糸パラメータに依存するからである。これらの紡糸パラメータも、処理すべき繊維材料および/または製造すべき糸に依存して選択されなければならず、そのため、例えば、達成すべき糸厚、糸強度、糸の材料組成ならびに糸の構造が、所要電力に与える影響も大きくなる。
【0039】
動作シーケンス、例えば立ち上げのための個々の紡糸ステーションの所要電力が、現下のロットデータのセットについて正確に既知となった後、それに続いて電力予測を作成することができ、特に、いくつの紡糸ステーションもしくはいくつの動作過程を同時に実行することができるかを計算することができる。次いで、この情報から、(例えば立ち上げの)動作シーケンスを決定する最適化された動作データを算出することができる。この目的のために、例えば、個々の紡糸ロータの始動時点、それらの加速度、ならびにそれらの立ち上げ時間を変化させることができ、それによって、紡糸ステーション電源部によって提供される持続電力もしくは定格電力が可及的に最良に使用され、精紡機は、各時点において理想的に紡糸ステーション電源部を高い稼働率で動作させることができる。
【0040】
これにより、典型的には、少なくとも2つの紡糸ステーションを同時に立ち上げさせ、ならびに場合によっては、既に加速された紡糸ステーションの立ち上げが完全に終了する前にさらなる紡糸ステーションの立ち上げを開始することが可能であり、これによって典型的には、立ち上げ時間を約25%~50%短縮させることができる。ただし、いずれの場合も、紡糸ステーション電源部の過負荷は回避されなければならず、これによって、所要電力の増加につながりかねないロットデータを電力予測の際に考慮に入れることが不可欠となる。
【0041】
本発明による方法の第2の実施形態が第1の実施形態と実質的に異なるのは、紡糸ステーションの各々の所要電力を求めることが、現下で実施されている試験的立ち上げを用いて行われるのではなく、同一のロットデータを有するこの紡糸ステーションの先の試験的動作のデータがデータベースにおいて検索される点のみである。そのような同一のロットデータのデータが存在するならば、それらのデータは自動的に使用される。同一のデータが存在しないならば、格納されたロットデータの可及的に類似したセットが検索され、次いで、ロットデータに十分な類似性が存在するかどうか、もしくはごく僅かなロットデータのずれのみが存在するかどうかが決定される。例えば、完全に同一の機械データが存在する場合、すなわち精紡機の紡糸ステーションが変更されなかった場合、および例えば、異なる色の繊維のみまたはごくわずかに異なるだけの化学組成または繊維長が使用されているために紡糸パラメータもほぼ同一である場合、ほぼ同一のロットデータセットについて捕捉されたこの紡糸ステーションの所要電力の値を使用することができるか、あるいは変更されたパラメータへの補間を特に多数のデータベースエントリを用いて行うことが可能である。しかしながら、現下のロットデータが、データベースに格納されている全てのロットデータと過度に異なる場合、試験的立ち上げもしくは順次連続する立ち上げが自動的に初期化され、その際、所要電力が捕捉される。さらに、これらのデータは、ここでは将来的な使用のための新規のエントリとしてデータベースに収容される。
【0042】
本方法の第3の実施形態では、先の実施形態の場合と正確に同じように、各紡糸ステーションの所要電力が求められ、ならびにロットデータに依存して、いくつの紡糸ステーションを同時に立ち上げることができるかが決定され、ならびに対応する最適化された動作データが作成される。次いで、これらの動作データは、4つの全ての紡糸ステーションを同時に立ち上げさせるために使用される。しかしながら、この場合、紡糸ステーションの実際に消費された電力は、本方法を実施する精紡機の情報提供機器に連続的にフィードバックされ、そこでは、実際に消費された電力が、事前に作成された予測と比較され、ならびに一致が評価され、同様に将来の予測を改善するためにデータベースに格納される。
【0043】
さらに、実際に消費される電力が、紡糸ステーション電源部の最大定格電力に対する安全距離を下回っているかどうかについて監視される。このことが当てはまる場合、修正され最適化された動作データが直ちに決定されて使用され、このことは、大抵の場合、紡糸ステーション電源部の過負荷を回避するために、紡糸ステーションのうちの少なくとも1つの高速紡糸が遅延、減速、あるいは中断されることに結び付く。
【外国語明細書】