(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157012
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】防腐剤無添加の眼科用薬エマルション及びその応用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5575 20060101AFI20231018BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20231018BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20231018BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20231018BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231018BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20231018BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231018BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20231018BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
A61K31/5575
A61K9/107
A61K47/44
A61K47/14
A61K47/10
A61K47/18
A61P27/02
A61P27/06
A61P43/00 112
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023064996
(22)【出願日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】63/330,324
(32)【優先日】2022-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】523138035
【氏名又は名称】新眼耀生技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蘇 蔚文
(72)【発明者】
【氏名】李 建宏
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD05F
4C076DD09F
4C076DD23Z
4C076DD30Z
4C076DD38
4C076DD49
4C076EE23F
4C076FF12
4C076FF16
4C076FF43
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA22
4C086MA58
4C086NA20
4C086ZA33
4C086ZC12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】防腐剤無添加の眼科用薬エマルション及びその応用を提供する。
【解決手段】本発明は、一酸化窒素供与体のプロスタグランジンF2α誘導体を活性成分として含む防腐剤無添加の眼科用薬エマルションを提供する。本発明は、視神経乳頭(ONH)の血流速度を促進して緑内障患者を治療し、例えば網膜中心静脈閉塞症(CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)を含む網膜静脈閉塞症(RVO)、及び網膜中心動脈閉塞症(CRAO)と網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)を含む網膜動脈閉塞症(RAO)などの虚血性網膜症及び開放隅角緑内障のリスクを軽減するための応用も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01%w/v~0.1%w/vのラタノプロステンブノド(LBN、Latanoprostene bunod)又はその薬学的に許容される塩、
0.2%w/v~0.7%w/vの油、
0.4%w/v~1.4%w/vの界面活性剤、及び
少なくとも1種の賦形剤
を含む防腐剤無添加の眼科用薬エマルションであって、
前記油及び前記界面活性剤のHLB値は、10~16の範囲にある所望の親水性-親油性バランス(rHLB)値を形成するため一緒に計算される防腐剤無添加の眼科用薬エマルション。
【請求項2】
前記油は、ヒマシ油、オリーブ油及びゴマ油からなる群から選択される請求項1に記載の防腐剤無添加の眼科用薬エマルション。
【請求項3】
前記界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tweens)、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ソルビタンモノラウレート(Spans)及びポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレートからなる群から選択される請求項1に記載の防腐剤無添加の眼科用薬エマルション。
【請求項4】
前記少なくとも1種の賦形剤は、共溶媒、キレート剤、pH調整剤及び溶媒からなる群から選択される請求項1に記載の防腐剤無添加の眼科用薬エマルション。
【請求項5】
前記キレート剤は、EDTA又はその塩である請求項4に記載の防腐剤無添加の眼科用薬エマルション。
【請求項6】
前記共溶媒は、1.6%w/v~2.0%w/vの範囲の濃度を有するプロピレングリコールである請求項4に記載の防腐剤無添加の眼科用薬エマルション。
【請求項7】
0.024%w/v~0.04%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、
0.5%w/vのオリーブ油、
0.4%w/v~1.0%w/vのポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレート、
1.8%w/vのプロピレングリコール、
0.5%w/vのEDTA二ナトリウム塩、及び
十分量な水
を含む請求項1に記載の防腐剤無添加の眼科用薬エマルション。
【請求項8】
0.024%w/v~0.04%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、
0.7%w/vのゴマ油、
0.4%w/v~1.4%w/vのポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレート、
2.0%w/vのプロピレングリコール、
0.5%w/vのEDTA二ナトリウム塩、及び
十分量な水
を含む請求項1に記載の防腐剤無添加の眼科用薬エマルション。
【請求項9】
0.024%w/v~0.04%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、
0.2%w/v~0.6%w/vのヒマシ油、
0.4%w/vのポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレート、
1.6%w/vのプロピレングリコール、
0.5%w/vのEDTA二ナトリウム塩、及び
十分量な水
を含む請求項1に記載の防腐剤無添加の眼科用薬エマルション。
【請求項10】
2~8℃の下で2ヶ月保管した場合、D10が20nm~30nm、D50が45nm~80nm、D90が125nm~500nmである粒度分布を有する請求項9に記載の防腐剤無添加の眼科用薬エマルション。
【請求項11】
個体の眼に防腐剤無添加の眼科用薬エマルションを投与することを含む個体の虚血性網膜症を予防又は治療するための方法であって
前記防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、
0.01%w/v~0.1%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、
0.2%w/v~0.7%w/vの油、
0.4%w/v~1.4%w/vの界面活性剤、及び
少なくとも1種の賦形剤を含み、
前記油及び前記界面活性剤のHLB値は、10~16の範囲にある所望の親水性-親油性バランス(rHLB)値を形成するため一緒に計算される方法。
【請求項12】
前記油は、ヒマシ油、オリーブ油及びゴマ油からなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tweens)、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ソルビタンモノラウレート(Spans)及びポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレートからなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1種の賦形剤は、共溶媒、キレート剤、pH調整剤及び溶媒からなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記キレート剤は、EDTA又はその塩である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、眼に接触させる、又は眼内注射によって個体に投与される請求項11に記載の方法。
【請求項17】
個体の眼に防腐剤無添加の眼科用薬エマルションを投与することを含む個体の開放隅角緑内障を治療するための方法であって
前記防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、
0.01%w/v~0.1%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、
0.2%w/v~0.7%w/vの油、
0.4%w/v~1.4%w/vの界面活性剤、及び
少なくとも1種の賦形剤を含み、
前記油及び前記界面活性剤のHLB値は、10~16の範囲にある所望の親水性-親油性バランス(rHLB)値を形成するため一緒に計算される方法。
【請求項18】
前記油は、ヒマシ油、オリーブ油及びゴマ油からなる群から選択される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記開放隅角緑内障の治療は、患者の眼圧を下げ、網膜血管領域のブレ率を増加することである請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、眼に接触させる、又は眼内注射によって個体に投与される請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化窒素供与体のプロスタグランジンF2α誘導体又はその薬学的に許容される塩或いはエステルを活性成分として含み、視神経乳頭(ONH)の血流速度を促進して緑内障患者又は例えば網膜中心静脈閉塞症(CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)を含む網膜静脈閉塞症(RVO)、及び網膜中心動脈閉塞症(CRAO)と網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)を含む網膜動脈閉塞症(RAO)などの虚血性網膜症関連眼疾患を治療する防腐剤無添加の眼科用薬エマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
開放隅角緑内障(OAG)は、進行性の神経網膜リム消失及び視野障害を特徴とする不可逆的失明の主要な原因であるが、眼圧の上昇は疾患進行の主要な危険因子である。従って眼圧を下げることで、開放隅角緑内障患者の視野消失の進行を遅らせることができ、眼圧が高い患者が開放隅角緑内障を発症するリスクも減らすことができる。眼圧下降の点眼薬は、開放隅角緑内障又は高眼圧症の大部分の患者にとって第一選択の治療法となっている。
【0003】
これまでの研究により、原発開放隅角緑内障(POAG)及び正常眼圧緑内障(NTG)の患者における血管内皮細胞の機能が損なわれており、前記原発開放隅角緑内障(POAG)及び前記正常眼圧緑内障(NTG)の患者の一酸化窒素(NO)が異なり、エンドセリン-1のバランスも異なることが判明している。なお、他の以前の報告では、房水中のNO濃度が緑内障患者と非緑内障患者の間で異なることが示されている。従ってNOは、血流と眼圧の調節に関与するだけでなく、緑内障の神経節細胞のアポトーシス過程にも関与する。
【0004】
ラタノプロステンブノド(LBN、Latanoprostene bunod)は、一酸化窒素供与体のプロスタグランジンF2α類似体で、眼内に投与後、in situで急速に代謝されてラタノプロスト酸と一硝酸ブタンジオールになる。ラタノプロスト酸は、房水のぶどう膜強膜流出経路からの房水の流出を促進することにより眼圧を下降させる。一方で一硝酸ブタンジオールによって放出されるNOは、線維柱帯とシュレム管を弛緩させ、房水の流出を増加させることで眼圧を低下させる。
【0005】
ラタノプロスト点眼液0.024%(以下、LBN0.024%という)は、眼圧下降効果が高いことが複数の研究で示されており、例えばAraieらは、LBN0.024%が日本人の健康な目を維持するために24時間の眼圧下降効果を提供することを開示した(非特許文献1)。Kawaseらは、更にOAG又はOHTを患う患者の眼圧下降効果が1年間継続した(非特許文献2)。Sforzoliniらは、OAG又はOHTを患う患者の眼圧下降において、LBN0.024%がラタノプロスト0.005%よりも効果的であることを発見した(非特許文献3)。Liuらは、チモロールマレイン酸塩(timolol maleate)0.5%と比較して、OAGまたはOHTを患う患者の夜間の眼圧下降にLBN0.024%がより効果的であることを実証した(非特許文献4)。Weinrebら及びMedeirosらは、OAG又はOHTを患う患者において、LBN0.024%がチモロール0.5%と比較して眼圧を有意に下降させることを示した(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Japanese subjects. Adv Ther.,2015;32:1128-1139
【非特許文献2】Adv Ther.,2016;33(9):1612-1627
【非特許文献3】Br J Ophthalmol.,2015;99:738-745
【非特許文献4】Am J Ophthalmol., 2016;169:249-257
【非特許文献5】Clin Ophthalmol.,2014;8:1097-1104;Am J Ophthalmol.,2016;168:250-259
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
眼圧を下げることは緑内障治療の原則であるが、視神経への血流の減少が緑内障の発症及び進行の要因と考えられる証拠がますます増えている。したがって、これらの緑内障患者を治療するため、眼の血流を改善する必要がある。なお、網膜静脈閉塞症又は網膜動脈閉塞症の既知の眼科の危険因子には、高眼圧症と緑内障、眼灌流圧の低下、及び先天性と後天性の網膜動脈変化が含まれる。したがって、緑内障の発症と進行を制御することで、虚血性網膜症の眼科の危険因子を効果的に減らすことができる。
【0008】
上述したように、局所適用LBNは、房水の流出量を増加させることによって眼圧を低下させることができる。しかし、LBNが視神経乳頭(ONH)の血流速度或いは血流を促進することをこれまでに記載した文献はない。これにより本発明者らは、プロスタグランジンF2α誘導体であるLBNの新たな医薬の応用を見出すために鋭意研究を行った。LBNは、緑内障患者のONH血流速度を促進し、緑内障の進行防止に役立つことが判明した。一方、眼への血流を改善することは、RVO又はRAOのリスクも軽減させることができる。換言すれば、局所適用LBNは、緑内障患者及びRVO又はRAO患者のONH或いは眼底に直接作用することができる。なお従来の併用薬には、塩化ベンザルコニウム(BAK)又はベンジルアルコールなどの防腐剤が含まれているため、神経感覚網膜に毒性影響を与える可能性がある。従って本発明は、防腐剤の使用を排除することで、薬物使用の安全性及び注射剤形態での臨床応用可能性を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、0.01%w/v~0.1%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、0.2%w/v~0.7%w/vの油、0.4%w/v~1.4%w/vの界面活性剤及び少なくとも1種の賦形剤を含む防腐剤無添加の眼科用薬エマルションを提供し、前記油及び前記界面活性剤のHLB値は、10~16の範囲にある所望の親水性-親油性バランス(rHLB)値を形成するため一緒に計算される。
【0010】
本発明の別の態様は、個体の眼に有効量の防腐剤無添加の眼科用薬エマルションを投与することを含む個体の虚血性網膜症を予防又は治療するための方法を提供する。前記防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、0.01%w/v~0.1%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、0.2%w/v~0.7%w/vの油、0.4%w/v~1.4%w/vの界面活性剤及び少なくとも1種の賦形剤を含み、前記油及び前記界面活性剤のHLB値は、10~16の範囲にある所望の親水性-親油性バランス(rHLB)値を形成するため一緒に計算される。
【0011】
本発明の別の態様は、個体の眼に有効量の防腐剤無添加の眼科用薬エマルションを投与することを含む個体の開放隅角緑内障を治療するための方法を提供する。前記防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、0.01%w/v~0.1%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、0.2%w/v~0.7%w/vの油、0.4%w/v~1.4%w/vの界面活性剤及び少なくとも1種の賦形剤を含み、前記油及び前記界面活性剤のHLB値は、10~16の範囲にある所望の親水性-親油性バランス(rHLB)値を形成するため一緒に計算される。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記油は、ヒマシ油、オリーブ油及びゴマ油からなる群から選択される。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tweens)、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ソルビタンモノラウレート(Spans)及びポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレートからなる群から選択される。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の賦形剤は、共溶媒、キレート剤、pH調整剤及び溶媒からなる群から選択される。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記キレート剤は、EDTA又はその塩である。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記共溶媒は、1.6%w/v~2.0%w/vの範囲の濃度を有するプロピレングリコールである。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、0.024%w/v~0.04%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、0.5%w/vのオリーブ油、0.4%w/v~1.0%w/vのポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレート、1.8%w/vのプロピレングリコール、0.5%w/vのEDTA二ナトリウム塩、及び十分量な水を含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、0.024%w/v~0.04%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、0.7%w/vのゴマ油、0.4%w/v~1.4%w/vのポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレート、2.0%w/vのプロピレングリコール、0.5%w/vのEDTA二ナトリウム塩、及び十分量な水を含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、0.024%w/v~0.04%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、0.2%w/v~0.6%w/vのヒマシ油、0.4%w/vのポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレート、1.6%w/vのプロピレングリコール、0.5%w/vのEDTA二ナトリウム塩、及び十分量な水を含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、2~8℃の下で2ヶ月保管した場合、D10が20nm~30nm、D50が45nm~80nm、D90が125nm~500nmである粒度分布を有する。
【0021】
いくつかの実施形態において、開放隅角緑内障の治療は、患者の眼圧を下げ、網膜血管領域のブレ率を増加することである。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、眼に接触させるか、又は眼内注射によって個体に投与される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の目的を開示されている具体的な実施形態により、以下の詳細説明から明らかになるだろう。しかし、1つ以上の実施形態は、これら詳細説明がなくても実施できることは明らかであろう。
【0024】
本明細書で使用されるとき、用語「含む」、「含んでいる」、「備える」又は「含有する」は包括的で非限定的な意味で使用される。用語「一」及び「該」は、複数形と単数形の両方を含むものと理解される。用語「1つ以上」は、「少なくとも1つ」を意味するため、単一の特徴或いは混合物/組み合わせを含み得る。
【0025】
本発明は、一酸化窒素供与体のプロスタグランジンF2α誘導体又はその薬学的に許容される塩或いはエステルを活性成分として含む薬剤を提供し、前記一酸化窒素供与体のプロスタグランジンF2α誘導体は、好ましくはラタノプロステンブノド(LBN)である。より具体的に本発明は、0.01%w/v~0.1%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、0.2%w/v~0.7%w/vの油、0.4%w/v~1.4%w/vの界面活性剤及び少なくとも1種の賦形剤を含む防腐剤無添加の眼科用薬エマルションを提供し、前記油及び前記界面活性剤のHLB値は、10~16の範囲にある所望の親水性-親油性バランス(rHLB)値を形成するため一緒に計算される。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「防腐剤」は、微生物の増殖或いは望ましくない化学変化による分解を防ぐために製品に添加される物質又は化学物質をいう。細菌及び真菌に対して十分な抗菌効果を示す防腐剤は、伝統的に眼科用組成物に使用されてきた。本発明における防腐剤には、BAK又はその類似体及び他の第4級アンモニウム塩が含まれ、例えば塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、蒲生、セトリミド、クロルヘキシジン、クロロブタノール、水銀系防腐剤、或いは硝酸フェニル水銀、酢酸フェニル水銀、チメロサール、フェニルエチルアルコールなどである。
【0027】
本明細書で使用する場合、用語「エマルション」とは、通常混合しない2つの液相の均一な混合物をいい、例えば油と水である。
【0028】
本明細書で使用する場合、用語「一酸化窒素供与体のプロスタグランジンF2α誘導体」とは、ラタノプロスト酸の骨格から抽出されたプロスタグランジンF2α関連化合物(例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト及びカルボプロスト)で、代謝されてNOを放出することができるものをいう。好ましくは、前記プロスタグランジンF2α誘導体は、好ましくは次の化合物(I)のLBNである。
【0029】
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容される塩或いはエステル」とは、本発明の化合物の薬学的に許容される有機又は無機の塩及びエステルをいう。塩としては、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、重硫酸塩、リン酸塩酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ピメリン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、糖酸鹽、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩及びパモ酸塩(すなわち、1,1-メチレンビス(2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸))塩が挙げられるが、これらに限定されない。エステルとしては、酸性基(カルボン酸、リン酸、ホスホン酸、スルホン酸、亜硫酸、ホウ酸、硝酸、及び亜硝酸)アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル及びシクロアルキルのエステル類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
薬学的に許容される塩或いはエステルには、酢酸塩イオン、コハク酸イオン、又は他の対イオンなどの別の分子が含まれていてもよい。対イオンは、親化合物の電荷を安定化するため、任意の有機或いは無機分子にすることができる。なお、薬学的に許容される塩或いはエステルは、その構造内に1つ以上の荷電原子を有し得る。複数の荷電原子が薬学的に許容される塩或いはエステルの一部である場合、複数の対イオンを有し得る。したがって、薬学的に許容される塩或いはエステルは、1つ以上の荷電原子及び/又は1つ以上の対イオンを有し得る。
【0032】
本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容される」とは、物質或いは組成物が、製剤を構成する他の成分及び/又はそれで治療される哺乳動物と化学的及び/又は毒性学的に適合しなければならないことをいう。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「活性成分」は、ヒト有機体又は動物有機体などの個体、特に好ましくはヒト有機体の個体に投与される場合、本発明の一酸化窒素供与体のプロスタグランジンF2α誘導体又はその薬学的に許容される塩は、ONHの血流速度の急速な加速を引き起こし、或いは誘発することをいう。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「親水性-親油性バランス(HLB)値」とは、界面活性剤分子の親水性分子と親油性分子のサイズと強度のバランスを指す。HLB値は、従来技術に基づいて求めることもでき、次の2つの計算式によって求めることもできる。
【0035】
大部分のポリオール脂肪酸エステルの場合、次の式で近似値を算出できる。
【0036】
【数1】
式中、Sは、エステルのケン化価を、Aは酸の酸価を表す。
【0037】
多くの脂肪酸エステルは良好なケン化価を提供できない。これらの脂肪酸エステルのケン化価は、次の式により計算できる。
【0038】
【数2】
式中、Eは、オキシエチレン含有量の重量%を、Pはポリオール含有量の重量%を表す。
【0039】
本発明において、所望の親水性-親油性バランス(rHLB)値を形成するため、前記油及び前記界面活性剤のHLB値を一緒に計算し、式は、次の通りである。
【0040】
【数3】
式中、「HLBo」は、油のHLB値を、「Wo」は油の重量(単位)を、「HLBs」は界面活性剤のHLB値を、「Ws」は界面活性剤の重量(単位)を表す。
【0041】
1つ以上の実施形態において、本発明のLBNの量は、例えば0.001%w/v~約1.0%w/vであり、具体的には次の値のいずれかの範囲内にあり、例えば0.001%w/v、0.005%w/v、0.01%w/v、0.015%w/v、0.02%w/v、0.025%w/v、0.03%w/v、0.035%w/v、0.04%w/v、0.045%w/v、0.05%w/v、0.055%w/v、0.06%w/v、0.065%w/v、0.07%w/v、0.075%w/v、0.08%w/v、0.085%w/v、0.09%w/v、0.095%w/v及び0.1%w/vである。好ましい実施形態において、LBNの量は、0.01%w/v~約0.1%w/vである。
【0042】
1つ以上の実施形態において、本発明のエマルションは、油、界面活性剤、乳化剤、キレート剤、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤、増粘剤、共溶媒及び眼科用組成物の調製に使用できる他の成分などの少なくとも1種の賦形剤を包括する薬学的に許容される担体を含む。好ましくは、前記賦形剤は、共溶媒、キレート剤、pH調整剤、溶媒又はこれらの組み合わせである。
【0043】
防腐剤を含有する点眼液の長期使用は、哺乳動物の眼表面細胞(角膜上皮及び結膜を含む)に中毒を起こし、角膜上皮細胞死、角膜点状潰瘍、角膜創傷治癒遅延、結膜炎/結膜下の線維化、涙液層の不安定化、ドライアイ症状、アレルギー反応、目の不快感などが生じることを考慮して、本発明は好ましくは防腐剤の添加を排除する。
【0044】
前記界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tweens)、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ソルビタンモノラウレート(Spans)及びポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレートが挙げられるが、これらに限定されない。本発明における界面活性剤としては、ポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレートが好ましい。本発明における界面活性剤の用量は好ましくは約0.0005%w/v~5.0%w/vである。例えば次の値のいずれかの範囲内にあり得、例えば0.0005%w/v、0.001%w/v、0.005%w/v、0.01%w/v、0.05%w/v、0.1%w/v、0.3%w/v、0.4%w/v、0.5%w/v、0.6%w/v、0.7%w/v、0.8%w/v、0.9%w/v、1.0%w/v、1.3%w/v、1.4%w/v、1.5%w/v、1.6%w/v、1.7%w/v、1.9%w/v、2.0%w/v、2.3%w/v、2.5%w/v、2.7%w/v、3.0%w/v、3.2%w/v、3.5%w/v、3.8%w/v、4.0%w/v、4.1%w/v、4.2%w/v、4.3%w/v、4.4%w/v、4.5%w/v、4.6%w/v、4.7%w/v、4.8%w/v、4.9%w/v及び5.0%w/vである。好ましい実施形態において、界面活性剤の量は、約0.01%w/v~約2.0%w/vであり、最も好ましくは約0.4%w/v~約1.4%w/vである。
【0045】
前記油としては、ヒマシ油、オリーブ油及びゴマ油が挙げられるが、これらに限定されない。本発明における油の用量範囲は、約0.001%w/v~約2.0%w/vである。例えば次の値のいずれかの範囲にあり得、例えば0.001%w/v、0.005%w/v、0.01%w/v、0.02%w/v、0.03%w/v、0.04%w/v、0.05%w/v、0.06%w/v、0.07%w/v、0.08%w/v、0.09%w/v、0.1%w/v、0.2%w/v、0.3%w/v、0.4%w/v、0.5%w/v、0.6%w/v、0.7%w/v、0.8%w/v、0.9%w/v、1.0%w/v、1.5%w/v及び2.0%w/vである。好ましい実施形態において、油の量は約0.02%w/v~約1.0%w/vであり、最も好ましくは約0.2%w/v~約0.7%w/vである。
【0046】
本明細書で使用する場合、用語「乳化剤」とは、エマルションの形成を促進する物質をいう。乳化剤は、ノニオン性、カチオン性及びアニオン性乳化剤からなる群から選択することができる。本発明における乳化剤の用量は、約0.001%w/v~約5.0%w/vである。例えば次の値のいずれかの範囲内にあり得、例えば0.001%w/v、0.005%w/v、0.01%w/v、0.05%w/v、0.1%w/v、0.2%w/v、0.3%w/v、0.5%w/v、0.7%w/v、0.9%w/v、1.0%w/v、1.3%w/v、1.5%w/v、1.7%w/v、2.0%w/v、2.3%w/v、2.5%w/v、2.7%w/v、3.0%w/v、3.2%w/v、3.5%w/v、3.8%w/v、4.0%w/v、4.1%w/v、4.2%w/v、4.3%w/v、4.4%w/v、4.5%w/v、4.6%w/v、4.7%w/v、4.8%w/v、4.9%w/v及び5.0%w/vである。好ましい実施形態において、乳化剤の量は、約0.02%w/v~約2.0%w/v、より好ましくは約0.5%w/v~約1.0%w/vである。
【0047】
前記キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びその塩(例えばEDTA二ナトリウム塩)からなる群から選択することができる。本発明におけるキレート剤の用量は、約0.001%w/v~約10%w/vで、最も好しくは約0.1%w/v~約3%w/vである。例えば次の値のいずれかの範囲内にあり得、例えば0.001%w/v、0.005%w/v、0.01%w/v、0.05%w/v、0.1%w/v、0.5%w/v、1.0%w/v、1.5%w/v、2.0%w/v、2.5%w/v、3.0%w/v、3.5%w/v、4.0%w/v、4.5%w/v、5.0%w/v、5.5%w/v、6.0%w/v、6.5%w/v、7.0%w/v、7.5%w/v、8.0%w/v、8.5%w/v、9.0%w/v、9.5%w/v及び10%w/vである。
【0048】
生理的液体と等張であるため液体は、225~375mOsmol/L、特に300mOsmol/Lの浸透圧を有さなければならないことはよく知られている。従って薬学的に許容される担体は等張化剤を含み得る。
【0049】
エマルションのpH値を約5.0~約8.0の範囲に調整するため、本発明の薬学的に許容される担体はpH値調整剤を含み得る。本発明の薬剤におけるpH値は、約pH5.0、約pH5.5、約pH6.0、約pH6.5、約pH7.0、約pH7.5及び約pH8.0であり得る。
【0050】
増粘剤は、エマルションの粘度を増加させ、眼内での滞留時間を長くし、薬物の吸収および作用時間を長くすることができる。薬学的に許容される担体は、増粘剤を含み得る。
【0051】
界面活性剤の効果を高めるため、エマルションに共溶媒を添加することができる。前記共溶媒は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、又はグリセリンであり得る。1つ以上の実施形態において、共溶媒の用量は、約0.1%w/v~約3%w/vである。例えば次の値のいずれかの範囲内にあり得、例えば0.1%w/v、0.2%w/v、0.3%w/v、0.4%w/v、0.5%w/v、0.6%w/v、0.7%w/v、0.8%w/v、0.9%w/v、1.0%w/v、1.2%w/v、1.3%w/v、1.4%w/v、1.5%w/v、1.6%w/v、1.7%w/v、1.8%w/v、1.9%w/v、2.0%w/v、2.1%w/v、2.2%w/v、2.3%w/v、2.4%w/v、2.5%w/v、2.6%w/v、2.7%w/v、2.8%w/v、2.9%w/v及び3%w/vである。好ましい実施形態において、共溶媒の量は、約0.5%w/v~約2.5%w/v、より好ましくは約1.6%w/v~約2.0%w/vである。
【0052】
1つ以上の実施形態において、本発明におけるエマルションは、眼に接触させるか、又は眼内注射の手段で個体に投与される。好ましくは、眼に接触させる手段は点眼剤の使用である。
【0053】
具体的に前記エマルションは、経口又は非経口的に投与することができる。投与剤形としては、点眼剤、眼軟膏、注射剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等が挙げられるが、特に点眼剤が好ましい。
【0054】
例えば、点眼剤においては、塩化ナトリウム又は濃グリセリンなどの等張化剤、リン酸ナトリウム或いは酢酸ナトリウムなどの緩衝剤、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレン40ステアラート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレートなどの界面活性剤、クエン酸ナトリウム又はエデト酸ナトリウムなどの安定剤等が挙げられる。前記点眼剤のpHが眼科用薬の許容範囲内である限り、使用できる。好ましくは、pH範囲は5~8、例えばpH5、6、7及び8、特にpH7である。
【0055】
必要に応じて、白色軟パラフィン、液体パラフィンなどの汎用の基剤を用いて眼軟膏を調製することができる。
【0056】
錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤などの経口製剤は、乳糖、結晶セルロース、デンプン或いは植物油などのエクステンダー、ステアリン酸マグネシウム或いはタルクなどの滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース又はポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム或いは低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スペクチノマイシンまたはシリコーン樹脂などのコーティング剤、ゼラチンフィルムなどのフィルム形成剤、若しくはその他必要に応じたものを使用できる。
【0057】
用量は、症状、年齢、剤形などにより適宜選択することができる。点眼剤は、0.00001%w/v~1%w/v、好ましくは0.0001%w/v~1%w/vの濃度で、1日に1回~数回点眼することができる。経口剤は1回又は数回投与することができ、投与量は通常1日当たり0.01mg~5000mg、好ましくは1日当たり0.1mg~1000mgである。
【0058】
本発明の好ましい実施形態によれば、防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、0.024%w/v~0.04%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、0.5%w/vのオリーブ油、0.4%w/v~1.0%w/vのポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレート、1.8%w/vのプロピレングリコール、0.5%w/vのEDTA二ナトリウム塩及び十分量な水を含む。
【0059】
本発明の好ましい実施形態によれば、防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、0.024%w/v~0.04%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、0.7%w/vのゴマ油、0.4%w/v~1.4%w/vのポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレート、2.0%w/vのプロピレングリコール、0.5%w/vのEDTA二ナトリウム塩、及び十分量な水を含む。
【0060】
本発明の好ましい実施形態によれば、防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、0.024%w/v~0.04%w/vのLBN又はその薬学的に許容される塩、0.2%w/v~0.6%w/vのヒマシ油、0.4%w/vのポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレート、1.6%w/vのプロピレングリコール、0.5%w/vのEDTA二ナトリウム塩、及び十分量な水を含む。
【0061】
十分量の水とは、防腐剤無添加の眼科用薬エマルションの総重量が100部の場合、その他の成分の部分から差し引かれた残量は100部であることを意味する。
【0062】
好ましくは、本発明の防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、2~8℃の下で2ヶ月間保管した場合、D10が20nm~30nm、D50が45nm~80nm、D90が125nm~500nmである粒度分布を有する。
【0063】
本明細書で使用される場合、D10、D50、及びD90は、粒度分布を表す値である。前記数値は、特定の数のサンプルがそれ以下にあるサイズを表す粒度分布からのものである。例えばD10の粒度分布が20nm~30nmの場合は、サンプルの10%が20nm~30nm範囲にあることを意味する。
【0064】
本明細書で使用する場合、用語「安定性」とは、医薬品の専門知識又は個別に考慮される原材料さえも規定する限度内及び保管と使用期間を通じて製造時と同じ条件と特徴を維持すると定義される。製品の製造から効力が10%以内に低下するまでの期間に変更された製品は安全であると識別され、以前にその効果を認識したとも定義される。
【0065】
さらに、本発明は、一酸化窒素供与体的プロスタグランジンF2α誘導体又はその薬学的に許容される塩或いはエステルをONH血流速度の促進、又は緑内障患者の虚血性網膜症を治療或いは予防する活性成分として含む薬剤を提供する。具体的に本発明は、有効量の防腐剤無添加の眼科用薬エマルションを個体の眼に投与する(眼に接触させるか、又は眼内注射)ことを含む個体における虚血性網膜症を予防又は治療するための方法を提供する。防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、0.01%w/v~0.1%w/vのLBN又は薬学的に許容される塩、0.2%w/v~0.7%w/vの油、0.4%w/v~1.4%w/vの界面活性剤、及び少なくとも1種の賦形剤を含み、前記油及び前記界面活性剤のHLB値は、10~16の範囲にある所望の親水性親油性-バランス(rHLB)値を形成するために一緒に計算される。
【0066】
本明細書で使用する場合、用語「視神経乳頭(ONH)」とは、視神経が網膜と接続する眼の奥(眼底)にある円形の領域を指す。視神経乳頭は、篩状板(lamina cribosa)を含む。
【0067】
本明細書で使用する場合、用語「虚血性網膜症」とは、目の血管に影響を与える網膜血管障害に関連する眼疾患をいう。目の血管に影響を与える疾患及び症状は、視力障害と視力喪失を引き起こす可能性がある。虚血性網膜症は、高血圧(高血中脂肪)、動脈硬化及び血行不良などの他の医学的問題と関連している場合がある。よくある虚血性網膜症には、膜中心動脈閉塞症(CRAO)と網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)を含む網膜動脈閉塞症(RAO)、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)を含む網膜静脈閉塞症(RVO)が含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
さらに、本発明は、開放隅角緑内障を患う個体を治療する方法も提供し、より具体的に言えば、前記方法は個体の眼圧を下げ、網膜血管領域のブレ率を増加させることができる。前記方法は、有効量の防腐剤無添加の眼科用薬エマルションを個体の眼に投与(眼に接触させるか、又は眼内注射)することを含む。防腐剤無添加の眼科用薬エマルションは、0.01%w/v~0.1%w/vのLBN又は薬学的に許容される塩、0.2%w/v~0.7%w/vの油、0.4%w/v~1.4%w/vの界面活性剤、及び少なくとも1種の賦形剤を含み、前記油及び前記界面活性剤のHLB値は、10~16の範囲にある所望の親水性親油性-バランス(rHLB)値を形成するために一緒に計算される。
【0069】
以下の臨床例の描写を通じて本発明を説明する。本発明のさらなる特徴は、以下の臨床観察から明らかになるであろう。
【実施例0070】
[LBNの調製]
LBN及びヒマシ油を油相混合物としてガラスビーカーに取って混合し、LBNが完全に溶解するまで、混合物を乾燥ガラス棒で撹拌し続ける。
【0071】
ポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレートを個別のガラスビーカーに入れて65℃~70℃で溶けるまで加熱し、溶けた後ポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレートを上記油相混合物に移して油相溶液を形成し、乾燥ガラス棒で65℃~70℃にて撹拌する。
【0072】
完全に混合するまで、穏やかに撹拌しながら油相溶液の温度を60℃まで冷却する。前記温度を55℃~60℃程度に保持し、その後連続的に撹拌しながら油相溶液を55℃~60℃の水相注射液に滴下することで、透明なマイクロエマルションを形成する。
【0073】
次に、55℃~60℃でプロピレングリコールを加え、穏やかに撹拌しながら混合物を25℃~30℃に冷却させ、25℃~30℃にてさらに30~45分間撹拌し続ける。
【0074】
最後に、混合物のpHを確認し、塩酸又はNaOH溶液を添加して7.0に調整する。製造容器をWFI(注射用水)で洗い流して体積を100%に達させ、組成物を0.2μmのメンブレンフィルターを通してろ過滅菌する。エマルションを天然の低密度ポリエチレン容器に充填する。
【0075】
エマルションの成分及びHLB値は、以下の例に示される。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
[安定性研究]
このセクションにおいて、上記実施例1を例として安定性研究を行った。安定性研究は、ICH HARMONISED TRIPARTITE GUIDELINE-Topic Q1A(R2)<新薬物質及び製品の安定性試験>などの既知の一般慣行に従い実施され、USP第771章及び1771章に基づいて検査項目を選別した。安定性研究は温度5℃±3℃、無湿度及び温度25℃±2℃、相対湿度60%±5%の2つの条件下で実施された。
【0080】
[粒度分布(PSD)試験]
a.設備:ゼータ電位・粒子径・分子量測定システム(ELSZ-2000ZS)
b.サンプル:3mlを比色管に採る
c.条件は、以下の通りである。
【0081】
【0082】
実施例1の安定性研究及びPSD試験の結果を表5に示す。
【0083】
【0084】
研究は、長期保存条件及び加速条件の下で、0、1、2ヶ月時間ベースの方法に基づく全ての試験が安定であることを示した。
【0085】
長期保存条件及び加速条件下での安定性研究で得られた結果は、防腐剤無添加の眼科用薬エマルションが冷蔵庫でも室温でも安定であることを示している。データは、LBNのアッセイ結果が加速条件下で保存しても変化しないことを示した。
【0086】
[HPLC法]
LBNの含有量は、UV検出器を備えたHPLC及び2つの移動相の混合物を使用して測定した。HPLC条件を以下に示した。
【0087】
【0088】
[rHLBの範囲研究]
a.製備:使用各種rHLB,如16、14.83、12.49、10.15、8.98、6.64などの各種rHLBを使用し、
b.合剤後、外観の変化は、次のようになる。
【0089】
【表7】
注:rHLB10-16:室温で一晩保管しても相分離はなかった。
【0090】
[個体]
20人の患者のうち、開放隅角緑内障と診断された眼の総数は35眼であり、うちの10眼が原発開放隅角緑内障(POAG)と診断され、25眼が非原発開放隅角緑内障(NTG)と診断された。なお、2眼は角膜屈折矯正手術を受け、1眼が白内障手術及び有水晶体眼内レンズ移植を受けた。薬物使用に関しては、20眼は研究開始時に眼圧を下げる薬による治療を受けなかった(すなわち、IOP降圧薬を服用していなかった)が、15眼は以前にIOP降圧薬による治療を受けていた。IOP降圧薬による患者の治療は、実験誤差を排除するため、β遮断薬とプロスタグランジン類医薬品には4週間、α-アドレナリン受容体作動薬には、2~4週間、炭酸脱水酵素阻害剤には1週間の休薬期間を要する。
【0091】
全ての患者の人口統計学的、臨床的及び眼の特性を以下に列挙する。
【0092】
【表8】
注:IOPは、眼圧を、POAGは原発開放隅角緑内障を、NTGは正常眼圧緑内障を、CCTは中心角膜厚さを、RFNLは網膜神経線維層を、MDは平均偏差を示し、
注:記号「*」は、2眼がレーザー支援In-Situ角膜切削形成術を受け、1眼が白内障手術及び有水晶体眼内レンズ移植を受けたことを表す。
【0093】
[試験方法]
全ての患者は、最高矯正視力検査(BCVA)、眼圧測定、光干渉断層撮影(OCT)、レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)評価、眼底写真、視野検査、血圧(BP)及び心拍数の測定を受け、これらの検査を受け、得られたデータを実験のベースラインデータとして平均化させたが、OAG以外の眼内疾患、屈折異常又は視野結果に影響を与える重大な白内障、視野欠損を引き起こす全身性の疾患、及び信頼性の低いLSFG結果を除外した。
【0094】
LSFG評価において、クリニックでエマルジョンを被験者の目に1滴注入する。その後、LBN注入の30分後と2時間後にLSFG測定を繰り返した。患者は1ヶ月間毎晩エマルジョンを1回注入し続け、クリニックに再診してLSFG検査を受けた。レーザースペックルフローグラム(LSFG-NAVIバージョン3.1.39.2ソフトウェア、Softcare Ltd.社製、日本福岡)は、全ての患者のONH領域の平均ブレ率(mean blur rate、MBR)を測定して脈波波形を分析するために用いられる。LSFGの測定ごとに平均MBR及び脈波波形パラメータを記録して、ONH微小循環に対するLBNの影響を評価した。
【0095】
視野検査は、Humphrey Field Analyzer(Carl Zeiss Meditec Inc, Dublin, California, USA)の検査モード30-2、白色視標の刺激サイズIIIのスウェーデンインタラクティブ閾値アルゴリズム(SITA)標準プログラムで実施した。
【0096】
[結果]
表9によれば、ベースライン、30分、2時間および1ヶ月における平均眼圧(MIOP)は、それぞれ17.68±4.11、18.29±4.00、17.24±4.14及び12.02±5.31mmHgであった。30分及び2時間では、MIOPsはベースラインと変わらなかったが、1ヶ月のLBN使用後、MIOPは有意に減少した(P<0.05)。
【0097】
平均血圧(MBP)と平均眼灌流圧(MOPP)には、有意差はなかった。
【0098】
LBNの初回灌流の30分後、平均心拍数(MHR)は、有意に減少した(P<0.05)。
【0099】
【表9】
注:連続変数は平均値±SDで表される。ベースラインと各種治療後の時間との間の数値差を、ウィルコクソンの符号付き順位検定を使用して比較した。記号「*」は、P<0.05を示し、統計的有意性を示し、
注:MIOPは、平均眼圧を、MBPは平均血圧を、MOPPは平均眼灌流圧を、MHRは平均心拍数を表す。
【0100】
表10によれば、エマルション注入後血管領域の平均ブレ率(MBRv)が増加した。この差は、2時間及び1ヶ月の時に統計的有意性に達した(P<0.05)。2時間及び1ヶ月時のMBRvのパーセンテージ(%)はそれぞれ114.36±20.02%及び113.91±26.53%であった。組織領域の平均ブレ率(MBRt)には、有意差がなかった。
【0101】
【表10】
注:連続変数は平均値±SDで表される。ベースラインと各種治療後の時間との間の数値差を、ウィルコクソンの符号付き順位検定を使用して比較した。記号「*」は、P<0.05を示し、統計的有意性を示し、
注:MBRvは、血管領域の平均ブレ率、MBRtは組織領域の平均ブレ率である。
【0102】
表11によれば、ベースライン、30分、2時間及び1ヶ月の平均加速時間指数(MATI)は、それぞれ32.62±5.80、31.51±4.04、30.51±3.88、31.71±4.11であった。2時間のMATIは、有意に低かった(P=0.01)。その他の脈拍パラメータは、時間的に変わらなかった。
【0103】
【表11】
注:連続変数は平均値±SDで表される。ベースラインと各種治療後の時間との間の数値差を、ウィルコクソンの符号付き順位検定を使用して比較した。記号「*」は、P<0.05を示し、統計的有意性を示し、
注:MBOTは、平均息を吹きつける時間、MBOSは平均息を吹きつけるスコア、MSは平均傾き、MATIは平均加速時間指数、MFは平均変動である。
【0104】
上記の実験は、LBN灌流の2時間後及び1ヶ月後に、ONH領域周囲の相対血流速度が著しく増加し、ベースラインと比較してそれぞれ114.36±20.02%及び113.91±26.53%に達したことを示した。一方、1ヶ月のLBN使用後の平均眼圧は有意に下げたが、平均眼灌流圧は測定された全ての時点で差がなかった。
【0105】
要するに、本発明は、活性成分が一酸化窒素供与体のプロスタグランジンF2α誘導体又はその薬学的に許容される塩或いはエステルである防腐剤を含まない安定な眼科用薬エマルションを提供することで、防腐剤による正常眼表組織の損傷を防ぐ。なお、本発明は、新たな応用も提供し、すなわち、一酸化窒素供与体のプロスタグランジンF2α誘導体又はその薬学的に許容される塩或いはエステルは、ONHの血流速度を促進することで、開放隅角緑内障及び虚血性網膜症を治療又は預予防することができる。
【0106】
以上、本発明を詳細に説明したが、以上の述べるものは本発明の好ましい実施形態のみであって、本発明の実施範囲に限定されることなく、本発明に基づいて行う種々の変化及び修正をなし得ることは本発明の範囲内に収まる。