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特開2023-157033烏骨鶏卵の品質改善方法、抗酸化活性が増強された烏骨鶏卵、烏骨鶏用飼料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157033
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】烏骨鶏卵の品質改善方法、抗酸化活性が増強された烏骨鶏卵、烏骨鶏用飼料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/75 20160101AFI20231019BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20231019BHJP
   A23L 15/00 20160101ALI20231019BHJP
   A23L 33/00 20160101ALI20231019BHJP
【FI】
A23K50/75
A23K10/30
A23L15/00 Z
A23L33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066665
(22)【出願日】2022-04-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年7月25日 J-STAGE ホームページ https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpsa/advpub/0/advpub_0210032/_article/-char/ja/
(71)【出願人】
【識別番号】506015085
【氏名又は名称】公益財団法人東京都農林水産振興財団
(71)【出願人】
【識別番号】391022614
【氏名又は名称】学校法人幾徳学園
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 禎夫
(72)【発明者】
【氏名】大澤 絢子
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B018
4B042
【Fターム(参考)】
2B005DA02
2B150AA05
2B150AB08
2B150CE23
2B150DA02
2B150DD42
4B018MD72
4B018ME06
4B018MF14
4B042AC04
4B042AG07
4B042AH09
4B042AH10
(57)【要約】
【課題】烏骨鶏の卵質改善を図る方法を提供すること。抗酸化活性が増強された烏骨鶏卵を提供すること。
【解決手段】烏骨鶏に、パプリカ由来のカロテノイドを8.5mg/kg以上、及び/又は、マリーゴールド花弁由来のカロテノイドを24.4mg/kg以上含有する飼料を、少なくとも7日間以上経口給与することを特徴とする、烏骨鶏卵の品質改善方法。本方法により、卵黄が、一般鶏卵に比べて2倍以上高い抗酸化活性を有することを特徴とする、抗酸化活性が増強された烏骨鶏卵が提供される。また本発明は、烏骨鶏用飼料及びその製造方法も提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
烏骨鶏に、パプリカ由来のカロテノイドを8.5mg/kg以上、及び/又は、マリーゴールド花弁由来のカロテノイドを24.4mg/kg以上含有する飼料を、少なくとも7日間以上経口給与することを特徴とする、烏骨鶏卵の品質改善方法。
【請求項2】
卵黄の抗酸化活性が一般鶏卵に比べて2倍以上高い烏骨鶏卵を得ることができる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
卵黄中のゼアキサンチン含有量が1mg/100g卵黄以上である、かつ/又は、ルテイン含有量が4mg/100g卵黄以上である烏骨鶏卵を得ることができる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
烏骨鶏が、東京うこっけいである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
烏骨鶏が、東京うこっけいである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
卵黄が、一般鶏卵に比べて2倍以上高い抗酸化活性を有することを特徴とする、抗酸化活性が増強された烏骨鶏卵。
【請求項7】
卵黄中のゼアキサンチン含有量が1mg/100g卵黄以上である、かつ/又は、ルテイン含有量が4mg/100g卵黄以上である、請求項6に記載の烏骨鶏卵。
【請求項8】
パプリカ由来のカロテノイドを8.5mg/kg以上、及び/又は、マリーゴールド花弁由来のカロテノイドを24.4mg/kg以上含有することを特徴とする、烏骨鶏用飼料。
【請求項9】
卵黄の抗酸化活性を増強するためのものである、請求項8に記載の飼料。
【請求項10】
飼料に、パプリカ由来のカロテノイドを8.5mg/kg以上、及び/又は、マリーゴールド花弁由来のカロテノイドを24.4mg/kg以上配合することを特徴とする、烏骨鶏用飼料の製造方法。
【請求項11】
烏骨鶏用飼料が、卵黄の抗酸化活性を増強するためのものである、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、烏骨鶏(うこっけい)卵の品質改善方法および抗酸化活性が増強された烏骨鶏卵に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産卵鶏用飼料には、卵黄色の差別化を目的としてカロテノイド類を多く含むパプリカやマリーゴールドなどが添加されていることが多い。これらに含まれるルテイン、ゼアキサンチンやアスタキサンチンは、卵黄の着色効果以外にも、近年その抗酸化作用が注目されているカロテノイドである。
【0003】
一方、烏骨鶏は、江戸時代初期に中国から我が国へ渡来したと考えられており、中国の本草書「本草綱目」によれば、烏骨鶏の卵や肉には、薬効があるとの記述がされている。実際、中国や韓国では、古くから薬膳料理の素材として烏骨鶏が珍重されてきた。
【0004】
本出願人である公益財団法人東京都農林水産振興財団は、以前から烏骨鶏の改良に取り組み、通常、年間50~80個程度しか産卵しなかった烏骨鶏を、年間200個程度までに改良した、高産卵系烏骨鶏「東京うこっけい」を生み出している。
【0005】
また、本出願人である公益財団法人東京都農林水産振興財団は、烏骨鶏の代謝が一般の鶏に比べて異なることを明らかにした(非特許文献1参照)。さらに、烏骨鶏にアシタバを給与することにより、烏骨鶏の肉中の過酸化脂質の生成を抑制する方法について、特許を保有している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kojima S,ら, Food Science and Technology Research, 20: 621-628. 2014.
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6124400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、食餌性カロテノイドが卵黄色を改善することはよく知られているが、鶏卵の他の品質(例えば、抗酸化機能)に与える影響は十分に調査されていない。
【0009】
また、一般の鶏に比べて代謝が異なる烏骨鶏においては、食餌性カロテノイドが卵質に与える影響は不明である。烏骨鶏卵のさらなる利用拡大を図るために、より一層高い付加価値を有する烏骨鶏卵の開発が求められていた。
【0010】
本発明は、烏骨鶏の卵質改善を図る方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、抗酸化活性が増強された烏骨鶏卵を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、烏骨鶏にカロテノイドを経口給与することによって、一般の鶏卵に比べて多くのカロテノイド(特にルテイン及びゼアキサンチン)が烏骨鶏卵に移行することを発見した。また、カロテノイドの経口給与によって、烏骨鶏卵の抗酸化活性が、一般鶏卵に比べてより増強されることがわかった。本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成するにいたった。
【0012】
すなわち、本発明は、烏骨鶏に、パプリカ由来のカロテノイドを8.5mg/kg以上、及び/又は、マリーゴールド花弁由来のカロテノイドを24.4mg/kg以上含有する飼料を、少なくとも7日間以上経口給与することを特徴とする、烏骨鶏卵の品質改善方法を提供するものである。
【0013】
ここで、「品質改善」とは、卵黄のカロテノイド含有量の増強、及び/又は、卵黄の抗酸化活性(特に一重項酸素消去活性)の増強、を含むものである。
【0014】
したがって、本発明の烏骨鶏卵の品質改善方法は、烏骨鶏卵のカロテノイド含有量を増強する方法であってもよい。また、本発明の烏骨鶏卵の品質改善方法は、烏骨鶏卵の抗酸化活性(特に一重項酸素消去活性)を増強する方法であってもよい。
【0015】
烏骨鶏卵のカロテノイド含有量を増強する方法によれば、卵黄中のゼアキサンチン含有量が1mg/100g卵黄以上である、かつ/又は、ルテイン含有量が4mg/100g卵黄以上である烏骨鶏卵を得ることができる。
【0016】
烏骨鶏卵の抗酸化活性を増強する方法によれば、卵黄の抗酸化活性が一般鶏卵に比べて2倍以上高い烏骨鶏卵を得ることができる。
【0017】
また、烏骨鶏は「東京うこっけい」であってもよい。
【0018】
本発明は、卵黄が、一般鶏卵に比べて2倍以上高い抗酸化活性を有することを特徴とする、抗酸化活性が増強された烏骨鶏卵を提供するものである。
【0019】
ここで、「抗酸化活性」は、一重項酸素消去活性であってもよい。
【0020】
烏骨鶏卵は、さらに、卵黄中のゼアキサンチン含有量が1mg/100g卵黄以上である、かつ/又は、ルテイン含有量が4mg/100g卵黄以上であるものであってもよい。
【0021】
本発明は、パプリカ由来のカロテノイドを8.5mg/kg以上、及び/又は、マリーゴールド花弁由来のカロテノイドを24.4mg/kg以上含有することを特徴とする、烏骨鶏用飼料を提供するものである。
【0022】
本発明は、また、飼料に、パプリカ由来のカロテノイドを8.5mg/kg以上、及び/又は、マリーゴールド花弁由来のカロテノイドを24.4mg/kg以上配合することを特徴とする、烏骨鶏用飼料の製造方法を提供するものである。
【0023】
ここで、烏骨鶏用飼料は、卵黄の抗酸化活性を増強するためのものであってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、烏骨鶏卵の品質改善を図る方法を提供することができる。すなわち、烏骨鶏に、パプリカ及び/又はマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを所定の割合で含有する飼料を給与して飼育することにより、一般鶏に比べてカロテノイド(特にルテイン、ゼアキサンチン)を効率よく卵へ移行することができる。このようにして卵中に多く蓄積したカロテノイドの抗酸化機能により、一般鶏卵に比べて2倍以上高い抗酸化活性(特に一重項酸素消去活性)を有する烏骨鶏卵を得ることが可能となる。
【0025】
本発明によれば、抗酸化活性が増強された烏骨鶏卵を提供することができる。高い抗酸化機能を有する烏骨鶏卵を摂取すれば、生体内での脂質の酸化抑制に繋がり、健康に悪影響を及ぼす過酸化脂質の生成量を低下させることが期待される。また、高い抗酸化機能により、発がんや老化促進との関与が指摘されている活性酸素を消去することで、健康の維持又は増進に効果があることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】卵黄中の総カロテノイド含有量を表すグラフである(試験例1)。データは平均値±SE(n=3)で表す。a~c同じグラフ内の異符号間に有意差あり(P<0.05)。Cont=基礎飼料;PA=基礎飼料にパプリカ由来のカロテノイドを30mg/kg添加;MA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを60mg/kg添加;AX=基礎飼料にパラコッカス菌体末由来のカロテノイドを28mg/kg添加をそれぞれ表す。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏をそれぞれ表す。
図2】卵黄中の(A)ゼアキサンチン、(B)ルテインおよび(C)アスタキサンチンの含有量を表すグラフである(試験例1)。データは平均値±SE(n=5)で表す。a~c同じグラフ内の異符号間に有意差あり(P<0.05)。Cont=基礎飼料;PA=基礎飼料にパプリカ由来のカロテノイドを30mg/kg添加;MA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを60mg/kg添加;AX=基礎飼料にパラコッカス菌体末由来のカロテノイドを28mg/kg添加をそれぞれ表す。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏をそれぞれ表す。
図3】卵黄による一重項酸素消去活性(50%阻害濃度;IC50)を示すグラフである(試験例1)。データは平均値±SE(n=3)で表す。a~c同じグラフ内の異符号間に有意差あり(P<0.05)。Cont=基礎飼料;PA=基礎飼料にパプリカ由来のカロテノイドを30mg/kg添加;MA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを60mg/kg添加;AX=基礎飼料にパラコッカス菌体末由来のカロテノイドを28mg/kg添加をそれぞれ表す。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏をそれぞれ表す。
図4】(A)ロードアイランドレッドおよび(B)烏骨鶏の卵黄色の経時変化を表すグラフである(試験例1)。データは平均値(n=12)で表す。Cont=基礎飼料;PA=基礎飼料にパプリカ抽出物由来のカロテノイドを30mg/kg添加;MA=基礎飼料にマリーゴールド花弁抽出物由来のカロテノイドを60mg/kg添加;AX=基礎飼料にパラコッカス菌体末由来のカロテノイドを28mg/kg添加をそれぞれ表す。
図5】卵黄中の(A)ゼアキサンチン、(B)ルテインおよび(C)アスタキサンチン含有量を示すグラフである(試験例2)。データは平均値±SEで表す(n=4)。a~c同じグラフ内の異符号間に有意差あり(P<0.05)。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏、をそれぞれ表す。Cont=基礎飼料;PA=パプリカ由来のカロテノイドを60mg/kg添加;MA=マリーゴールド花弁由来のカロテノイドを120mg/kg添加;AX=パラコッカス菌体末由来のカロテノイドを56mg/kg添加、をそれぞれ表す。
図6】卵黄による一重項酸素消去活性(50%阻害濃度;IC50)を示すグラフである(試験例2)。データは平均値±SEで表す(n=3)。a~d同じグラフ内の異符号間に有意差あり(P<0.05)。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏、をそれぞれ表す。Cont=基礎飼料;PA=パプリカ由来のカロテノイドを60mg/kg添加;MA=マリーゴールド花弁由来のカロテノイドを120mg/kg添加;AX=パラコッカス菌体末由来のカロテノイドを56mg/kg添加、をそれぞれ表す。
図7】卵黄中の(A) ルテイン、(B) ゼアキサンチンおよび(C)アスタキサンチン含有量を示すグラフである(試験例3)。データは平均値±SEで表す(n=5)。a~c同じグラフ内の異符号間に有意差あり(P<0.05)。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏、をそれぞれ表す。Cont=基礎飼料;MA+PA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを30mg/kg+パプリカ由来のカロテノイドを15mg/kg添加;MA+AX=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを30mg/kg+パラコッカス菌体末由来のカロテノイドを14mg/kg添加、をそれぞれ表す。
図8】卵黄による一重項酸素消去活性(50%阻害濃度;IC50)を示すグラフである(試験例3)。データは平均値±SEで表す(n=3)。a~c同じグラフ内の異符号間に有意差あり(P<0.05)。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏、をそれぞれ表す。Cont=基礎飼料;MA+PA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを30mg/kg+パプリカ由来のカロテノイドを15mg/kg添加;MA+AX=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを30mg/kg+パラコッカス菌体末由来のカロテノイドを14mg/kg添加、をそれぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
本実施の形態に係る烏骨鶏卵の品質改善方法は、烏骨鶏に、パプリカ由来のカロテノイド及び/又はマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを、少なくとも7日間以上経口給与することを特徴とする。
【0029】
「烏骨鶏」は、ニワトリ(鶏)の一品種である。しかし、烏骨鶏は、一般的なニワトリと異なり、足指の数が多く、羽毛が綿毛であるなどの特異な外見的特徴を有するほか、その皮の色や肉の色、さらには骨に至るまで黒色であるという特徴がある。
【0030】
烏骨鶏として具体的には、例えば本出願人である公益財団法人東京都農林水産振興財団が生み出した高産卵系烏骨鶏「東京うこっけい」を挙げることができる。この「東京うこっけい」は、産卵能力に優れた系統である。
【0031】
烏骨鶏は、採卵用の雌の烏骨鶏が用いられる。一般的に、採卵用鶏は、孵化から約5ヶ月後(5ヶ月齡)くらいから、性成熟に達して産卵を開始し、それから1~1年半ほど採卵に供される。したがって、孵化後5ヶ月~2年ほどの採卵用の雌の烏骨鶏が好適に用いられる。
【0032】
「パプリカ由来のカロテノイド」とは、ナス科植物であるパプリカの果実に含まれるカロテノイドを指す。カロテノイドの給与形態は、烏骨鶏への給与に際し支障がなければ特に限定されず、パプリカ果実を乾燥、粉砕したパプリカ粉末や、パプリカ抽出物などの形態であってもよい。
【0033】
「パプリカ抽出物」とは、パプリカの果実から、ゼアキサンチンを含むカロテノイドを抽出したものであり、その抽出方法は限定されない。また、パプリカ抽出物は、有機溶媒でカロテノイドを抽出した後にケン化処理を行って得られた、パプリカ抽出処理物であってもよい。
【0034】
また、パプリカ粉末やパプリカ抽出物に複数種の飼料原料を混合して調製した粉末状の配合飼料も、「パプリカ由来のカロテノイド」として用いることができる。このような配合飼料として具体的には、ランレッド(登録商標)(エランコジャパン(株))、カラーアップ(コーキン化学(株))、チリレッド10、ピクサフィルレッドHY-C15(大和化成(株))、カプサレッド(あすかアニマルヘルス(株))などが挙げられる。
【0035】
「マリーゴールド花弁由来のカロテノイド」とは、キク科植物であるマリーゴールドの花弁に含まれるカロテノイドを指す。カロテノイドの給与形態は、烏骨鶏への給与に際し支障がなければ特に限定されず、マリーゴールド花弁を乾燥、粉砕したマリーゴールド花弁粉末や、マリーゴールド花弁抽出物などの形態であってもよい。
【0036】
「マリーゴールド花弁抽出物」とは、マリーゴールドの花弁から、ルテインを含むカロテノイドを抽出したものであり、その抽出方法は限定されない。また、マリーゴールド花弁抽出物は、有機溶媒でカロテノイドを抽出した後にケン化処理を行って得られた、マリーゴールド花弁抽出処理物であってもよい。
【0037】
また、マリーゴールド花弁粉末やマリーゴールド花弁抽出物に複数種の飼料原料を混合して調製した粉末状の配合飼料も、「マリーゴールド花弁由来のカロテノイド」として用いることができる。このような配合飼料として具体的には、キサンイエロー(登録商標)(エランコジャパン(株))、カラーアップ・イエローS(コーキン化学(株))、ダインフィルS20(大和化成(株))などが挙げられる。マリーゴールド花弁抽出物にはゼアキサンチンも含まれ得る。
【0038】
通常、パプリカ及び/又はマリーゴールド花弁由来のカロテノイドは、基礎飼料中に添加・混合され、経口給与される。基礎飼料には特別な制限はなく、採卵用鶏の飼育に通常用いられる飼料であればよく、市販の配合飼料を任意に使用することができる。
【0039】
基礎飼料中におけるパプリカ由来カロテノイドの配合量は、総カロテノイドとして8.5mg/kg以上、好ましくは8.5~90mg/kg、より好ましくは15~60mg/kg、特に好ましくは30~60mg/kgとすることができる。あるいは、基礎飼料中におけるパプリカ由来カロテノイドの配合量は、ゼアキサンチンとして0.714mg/kg以上、好ましくは0.714~7.56mg/kg、より好ましくは1.26~5.04mg/kg、特に好ましくは2.52~5.04mg/kgとすることができる。
【0040】
基礎飼料中におけるマリーゴールド花弁由来カロテノイドの配合量は、総カロテノイドとして24.4mg/kg以上、好ましくは24.4~160mg/kg、より好ましくは30~120mg/kg、特に好ましくは60~120mg/kgとすることができる。あるいは、基礎飼料中におけるマリーゴールド花弁抽出物の配合量は、ルテインとして14.52mg/kg以上、好ましくは14.52~95.2mg/kg、より好ましくは17.85~71.4mg/kg、特に好ましくは35.7~71.4mg/kgとすることができる。
【0041】
基礎飼料中におけるパプリカ及び/又はマリーゴールド花弁由来カロテノイドの配合量が、上記範囲未満であると、十分な卵質改善効果が得られない。一方、基礎飼料中におけるパプリカ及び/又はマリーゴールド花弁由来カロテノイドの配合量が上記範囲を超えると、一般鶏に対する烏骨鶏の優位性が失われるだけでなく、添加量に見合った卵質改善効果が得られず、経済的でないため、好ましくない。また、パプリカ由来のカロテノイドとマリーゴールド花弁由来のカロテノイドは、上記の配合量の範囲で併用することができる。
【0042】
パプリカ及び/又はマリーゴールド花弁由来のカロテノイドの給与期間は、少なくとも7日間以上、好ましくは10日間以上、より好ましくは14日間以上とすることができる。給与期間が短過ぎると、十分な卵質改善効果が得られない。
【0043】
以上に述べた烏骨鶏卵の品質改善方法によれば、烏骨鶏卵の卵黄中のカロテノイド(特に、ルテイン及びゼアキサンチン)含有量を増強することができ、これにより高い抗酸化活性を有する烏骨鶏卵を提供することができる。
【0044】
したがって、本実施の形態によれば、烏骨鶏に、パプリカ由来カロテノイド及び/又はマリーゴールド花弁由来カロテノイドを、少なくとも7日間以上経口給与することを特徴とする、烏骨鶏卵のカロテノイド含有量の増強方法が提供される。
【0045】
烏骨鶏卵のカロテノイド含有量を増強する方法によれば、卵黄中のゼアキサンチン含有量が1mg/100g卵黄以上、好ましくは1.2mg/100卵黄g以上である、かつ/又は、ルテイン含有量が4mg/100g卵黄以上、好ましくは5mg/100g卵黄以上である烏骨鶏卵を得ることができる。カロテノイド含有量は、実施例(試験例1)に記載の方法により測定することができる。
【0046】
また、本実施の形態によれば、烏骨鶏に、パプリカ由来カロテノイド及び/又はマリーゴールド花弁由来カロテノイドを、少なくとも7日間以上経口給与することを特徴とする、烏骨鶏卵の抗酸化活性を増強する方法が提供される。
【0047】
本明細書において「抗酸化活性」とは、具体的には活性酸素に対する消去活性であり、好ましくは一重項酸素消去活性を指す。
【0048】
烏骨鶏卵の抗酸化活性を増強する方法によれば、卵黄の抗酸化活性が一般鶏卵に比べて2倍以上高い烏骨鶏卵を得ることができる。卵黄による抗酸化活性(一重項酸素消去活性)は、実施例(試験例1)に記載の方法により測定することができる。
【0049】
本実施の形態の烏骨鶏卵は、カロテノイド(特にルテイン及びゼアキサンチン)含有量が増強されているため、卵黄色が改善されている。さらに、本実施の形態の烏骨鶏卵は、抗酸化活性が増強されているため、これを摂取することで生体内での過酸化脂質の生成の抑制や、活性酸素の消去といった機能性が期待される。
【0050】
また、本実施の形態によれば、前記パプリカ由来のカロテノイド及び/又は前記マリーゴールド花弁由来のカロテノイドを、前述の量に従い含有する烏骨鶏用飼料が提供される。この烏骨鶏用飼料は、飼料に、前記パプリカ由来のカロテノイド及び/又は前記マリーゴールド花弁由来のカロテノイドを、前述の量に従い配合することによって製造することができる。ここで「飼料」とは、前述の基礎飼料と同様である。
【0051】
前述のように、この烏骨鶏用飼料を烏骨鶏に経口給与することにより、卵黄のカロテノイド含有量を増強できるため、卵黄の抗酸化活性、特に一重項酸素消去活性を増強することができる。したがって、前記烏骨鶏用飼料は、烏骨鶏卵の品質改善のため、又は烏骨鶏卵の卵黄におけるカロテノイド含有量を増強するため、又は烏骨鶏卵の卵黄の抗酸化活性を増強するための飼料とすることができる。
【実施例0052】
以下に実施例、および比較例を挙げて本実施の形態を具体的に説明する。
【0053】
(試験例1)
産卵鶏を用いて食餌性カロテノイドが卵黄に及ぼす影響について調べた。60週齢のロードアイランドレッドと烏骨鶏(「東京うこっけい」)のそれぞれ40羽を、ランダムに下記の各4つのグループに分け、5羽ずつ2反復とした。飼育は1羽ずつ開放鶏舎のケージにて28日間行い、水と基礎飼料は自由に摂取させた。
【0054】
・対照群(Cont):基礎飼料として市販の鶏用配合飼料(粗蛋白質17%、代謝エネルギー2800kcal/kg、JA東日本くみあい飼料(株))のみを給与した。
・パプリカ抽出物群(PA):基礎飼料に、粉末状のパプリカ抽出物入り混合飼料(ランレッド(登録商標)、エランコジャパン(株);カロテノイド含有量:5g/kg)を添加したものを給与した。添加量は、飼料中の総カロテノイドとして30mg/kg(ゼアキサンチンとして2.5mg/kg)となるようにした。
・マリーゴールド花弁抽出物群(MA):基礎飼料に、粉末状のマリーゴールド花弁抽出物入り混合飼料(キサンイエロー(登録商標)、エランコジャパン(株);カロテノイド含有量:20g/kg)を添加したものを給与した。添加量は、飼料中の総カロテノイドとして60mg/kg(ルテインとして36mg/kg)となるようにした。
・パラコッカス菌体末群(AX):基礎飼料に、パラコッカス菌を用いて生産した粉末状のアスタキサンチン含有混合飼料(Panaferd(登録商標)-P、エネオス(株);カロテノイド含有量:35g/kg)を添加したものを給与した。添加量は、飼料中の総カロテノイドとして28mg/kg(アスタキサンチンとして16mg/kg)となるようにした。
【0055】
卵黄色、卵黄中の総カロテノイド含量および一重項酸素消去活性は、試験開始から22~28日目(4週目)の卵を用いて測定した。
【0056】
(卵黄色の測定方法)
卵黄色は、分光測色計(CM-508b;コニカミノルタ(株))を使用して測定し、CIELAB系における明度(L値)、赤色度(a値)、黄色度(b値)、及び黄色度に対する赤色度の比率(a/b)を算出した。また、ロッシュヨークカラーファン(RYCF)スコアを用いた卵黄色の測定も行った。
【0057】
(総カロテノイド含量および一重項酸素消去活性の測定方法)
卵黄中の総カロテノイドの定量には、4週間の試験終了後に産まれた卵を使用した。卵黄の重量を測定した後、15mLのアセトンを卵黄に加え、室温26±2℃の室内で15分間撹拌した。上清を回収し、30mLのジクロロメタン-メタノール(2:1、v/v)を加え、室温で30分間撹拌することによりカロテノイドを抽出した(このプロセスを3回繰り返した)。得られた各抽出物100mLに、ヘキサン100mLと水100mLを添加混合し、当該混合物を分液漏斗にて分離した。上層(黄色)を採取して硫酸ナトリウム無水物で脱水し、λmax=450~470nmの光学密度を用いて総カロテノイド含量を算出した。なお、定量には以下の吸光係数と1%濃度の吸光度を用いた:対照区は2400、PA区は2072、MA区は2500、AX区は2100(Britton et al., Carotenoids Handbook, Birkhauser, 2004.参照)。
【0058】
次に、一重項酸素消去活性を調べるために、上記で得られた各抽出物を濃縮乾固し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60、関東化学(株); 10mm i.d.×150mm;溶媒:ヘキサン)に供試した。展開は、ヘキサン(50mL)、ヘキサン-アセトン1:1(40mL)、アセトン(50mL)を使用して段階的に行った。カロテノイドを含むヘキサン-アセトン(フラクションI)およびアセトン(フラクションII)の溶離液を回収し、濃縮して黄色い油分を得た。
【0059】
一重項酸素消去活性の測定は、メチレンブルーを増感剤に用いたリノール酸の光酸化反応の測定により実施した(Kobayashi M and Sakamoto Y, Biotechnology Letters, 21: 265-269, 1999参照)。卵黄のカロテノイド抽出物を評価するため、0.025mMメチレンブルー-エタノール溶液 80μL、240mMリノール酸-エタノール溶液 100μL、および抽出液40μL添加又は無添加のエタノール140μL(総カロテノイド50μM、200μM、および400μMのジクロロメタン溶液、総カロテノイドの最終濃度がそれぞれ5μM、20μM、および40μMになるように)をミクロガラスバイアル(5.0 mL)に入れた。バイアルをスクリューキャップとセプタムでしっかりと封止し、段ボールの中で混合物に7000ルクス、22℃で3時間照射した。
【0060】
次に、100μLの反応混合物をエタノールで3.0mLに希釈し、235nmでの吸光度を測定することで、共役リノール酸の生成量を推定した(Hirayama et al., Lipids, 29: 149-150, 1994参照)。カロテノイド無添加の場合の値を決定し、この参照値に基づいて一重項酸素消去活性を計算した。活性は、リノール酸から発生する共役リノール酸の50%発生抑制作用を示す卵黄濃度(μg/mL)により評価し、3回の実験データの平均値で表した。これは、数値が低いほど一重項酸素消去活性が高いことを示す。
【0061】
(卵黄中のカロテノイドの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析)
4週間の試験終了後に産まれた卵の卵黄を使用して、ゼアキサンチン、ルテイン、およびアスタキサンチンの含有量を分析した。ゼアキサンチンおよびルテインの分析は、以下にのように実施した。まず、3%ピロガロール-エタノール溶液(10mL)、1%塩化ナトリウム溶液(0.5mL)および60%水酸化カリウム溶液(1.0mL)を各卵黄サンプル(0.5g)と混合し、70℃で30分間撹拌することで、サンプル中の油脂を鹸化した。次に、この混合物を冷却し、1%塩化ナトリウム溶液(22.5mL)および酢酸エチル-ヘキサン(1:9、v/v;15mL)を加えた後、5分間振とうした。
【0062】
溶液の上層を回収し、下層に15mLの酢酸エチル-ヘキサン(1:9、v/v)を加えた。混合物を5分間振とうし、その上層を回収する、という操作を2回繰り返した。前記で抽出した上層を混合して濃縮乾固することで、黄色い油分を得た。この黄色い油分を10mLのエタノールに溶解し、孔径0.45μmのミリポアフィルターディスク(メルク社)でろ過した。得られた溶液10μLを、カロテノイド含有量を分析するためのフォトダイオードアレイ検出器(1260ダイオードアレイ検出器HS、アジレント社)を備えたHPLC(1260 Infinity II LCシステム、アジレント社)に供試した。カラムは(Inertsil(登録商標)ODS-3V、ジーエルサイエンス社; 4.6mm i.d.×150mm)を用い、98%メタノールにより流速0.5 mL/min、40℃で展開した。ゼアキサンチン及びルテインは、それぞれ7.7分及び6.8分の保持時間(Rt)で溶出された。
【0063】
アスタキサンチンの分析は、以下のように実施した。各卵黄サンプル1.0gを、1mLの脱イオン水と、1.2mMのブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含む5mLのアセトンに溶解した。混合物にさらに1.2mM BHT含有アセトンを10mL添加し、十分に撹拌した後、3000rpmで10分間遠心分離して、溶液の上層を回収した。次いで、当該下層に1.2mM BHT含有アセトン5mLを加えて十分に撹拌し、さらにそれに1.2mM BHT含有アセトン10mLを添加した。混合物を3000rpmで10分間遠心分離し、溶液の上層を回収した。前記で抽出した上層を混合し、さらに1.2mM BHT含有アセトンを加えて50mLの溶媒を得た。この溶媒を、35℃でシリカゲルHPLC(COSMOSIL(登録商標)Cholester、ナカライテスク社;4.6mm i.d.×250mm)に供試した。移動相としてアセトン、脱イオン水、およびテトラヒドロフラン(770:215:15、v/v)の混合溶媒を用い、流速1.0mL/minで展開した。
【0064】
アスタキサンチンは13.9分と14.8分のRtで溶出された。カロテノイド含有量は、ゼアキサンチンおよびルテインについては455nm、アスタキサンチンについては480nmにおける吸光度と検量線を用いて計算した。
【0065】
(統計分析)
結果は平均値±SEとして表した。卵黄中の総カロテノイド含有量、各カロテノイド含有量、卵黄色および一重項酸素消去活性について、二元配置の分散分析を行い、品種と飼料の交互作用を分析した。多重比較としてはTukey法を用いた。すべての統計分析はRソフトウェア(http://www.R-project.org/; Ihaka and Gentleman、1996)を使用して行い、有意水準はP<0.05とした。
【0066】
(結果)
表1に卵黄色の値を示す。飼料はすべての項目で有意な効果が認められた(P<0.001)。品種は、L、bおよびa/b値において有意な効果が認められた(P<0.001)。aおよびa/b値について、品種と飼料の間の有意な交互作用が観察された。さらに、カロテノイドの添加によりa値とRYCFスコアが増加した。つまり、処理群のa値とRYCFスコアは、対照群よりも有意に高かった(P<0.05)。さらに、烏骨鶏のLおよびb値は、ロードアイランドレッドの値よりも高かった。
【0067】
【表1】
データは平均値±SEで表す(n=12)。
a~e同じ列の異符号間に有意差あり(P<0.05)、*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.001、NS:有意差なし。
L=明度;a=赤色度;b=黄色度;RYCFスコア=ロッシュヨークカラーファンスコア(1~15)。
RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏。
Cont=基礎飼料;PA=パプリカ抽出物;MA=マリーゴールド花弁抽出物;AX=パラコッカス菌体末。
【0068】
図1は卵黄中の総カロテノイド含有量を表すグラフである。データは平均値±SE(n= 3)で表す。a~c異符号間に有意差あり(P<0.05)。Cont=基礎飼料;PA=基礎飼料にパプリカ由来のカロテノイドを30mg/kg添加;MA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを60mg/kg添加;AX=基礎飼料にパラコッカス菌体末由来のカロテノイドを28mg/kg添加をそれぞれ表す。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏をそれぞれ表す。
【0069】
卵黄中の総カロテノイド含有量についても、ロードアイランドレッドよりも烏骨鶏の方が高かった。具体的には、烏骨鶏では、PA群、MA群およびAX群において対照群よりも有意に多くのカロテノイドが蓄積したが(P<0.05)、ロードアイランドレッドの卵では異なる処理群間に有意差は認められなかった(図1)。さらに、烏骨鶏のMA群の卵には、ロードアイランドレッドのPA群、AX群の卵、および両方の対照群の卵よりも多くのカロテノイドが含まれていた(P<0.05;図1)。
【0070】
図2は卵黄中の(A)ゼアキサンチン、(B)ルテインおよび(C)アスタキサンチンの含有量を表すグラフである。データは平均値±SE(n=5)で表す。a~c異符号間に有意差あり(P<0.05)。Cont=基礎飼料;PA=基礎飼料にパプリカ由来のカロテノイドを30mg/kg添加;MA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを60mg/kg添加;AX=基礎飼料にパラコッカス菌体末由来のカロテノイドを28mg/kg添加をそれぞれ表す。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏をそれぞれ表す。
【0071】
卵黄中のゼアキサンチン、ルテインおよびアスタキサンチンの含有量は、それぞれ両方の品種のPA群、MA群およびAX群で増加した(図2)。PA群とMA群におけるゼアキサンチンとルテインそれぞれの含有量は、烏骨鶏の方がロードアイランドレッドよりも有意に高かった(図2(A)及び(B);P<0.05)。逆に、アスタキサンチン含有量については品種間差は示されなかった。
【0072】
表2は、卵黄中のカロテノイド含量及び卵黄による一重項酸素消去活性における品種並びに飼料の影響を示す。飼料の効果は、総カロテノイド含有量、ゼアキサンチン含有量、ルテイン含有量、アスタキサンチン含有量、および一重項酸素消去活性において有意差が認められた(P<0.001)。品種の効果は、総カロテノイド含有量、ゼアキサンチン含有量、ルテイン含有量及び一重項酸素消去活性において有意差が認められた(それぞれP<0.001、P<0.01、P<0.001およびP<0.05)。さらに、ルテイン含有量に対する品種と飼料の効果の間には有意な交互作用が示された(P<0.01)。
【0073】
【表2】
品種=ロードアイランドレッド、烏骨鶏。
飼料=基礎飼料、パプリカ抽出物、マリーゴールド花弁抽出物、パラコッカス菌体末。
*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.001、NS:有意差なし。
【0074】
図3は、卵黄による一重項酸素消去活性(50%阻害濃度;IC50)を示すグラフである。データは平均値±SE(n=3)で表す。a~c異符号間に有意差あり(P<0.05)。Cont=基礎飼料;PA=基礎飼料にパプリカ由来のカロテノイドを30mg/kg添加;MA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを60mg/kg添加;AX=基礎飼料にパラコッカス菌体末由来のカロテノイドを28mg/kg添加をそれぞれ表す。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏をそれぞれ表す。
【0075】
すべての処理群は、ロードアイランドレッドの対照群と比べて一重項酸素消去活性が有意に異なっていた(図3;P<0.05)。処理群間における有意差は認められなかった(図3)。烏骨鶏のAX群は、対照群との間に有意差が認められた(図3;P<0.05)。
【0076】
図4は、1週間おきに卵黄色(RYCFスコア)を測定した結果を示すグラフである。(A)はロードアイランドレッド、(B)は烏骨鶏について、卵黄色の経時変化を表す。データは平均値(n=12)で表す。Cont=基礎飼料;PA=基礎飼料にパプリカ由来のカロテノイドを30mg/kg添加;MA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを60mg/kg添加;AX=基礎飼料にパラコッカス菌体末由来のカロテノイドを28mg/kg添加をそれぞれ表す。
【0077】
すべての処理群は、給与開始後1週間で卵黄色が上昇し、その後安定した(図4)。卵黄色と卵黄中のカロテノイド(ルテイン、ゼアキサンチン、アスタキサンチン)量の間には相関があると考えられる(Akiba Y,ら, Japanese poultry science, 37: 77-85. 2000; Islam KMS,ら, Journal of Poultry Science, 54: 271-277, 2017)ため、少なくとも7日間以上経口給与することにより十分な効果(卵黄への移行量ならびに卵黄における抗酸化活性の増強)を発揮すると考えられる。
【0078】
(考察)
本試験例では、食餌性カロテノイドが産卵鶏の卵質に与える影響を調査した。烏骨鶏の卵黄における総カロテノイドの蓄積は、ロードアイランドレッドのそれを上回った。この結果は、食餌性カロテノイドが一般産卵鶏であるロードアイランドレッドの卵黄と比較して、烏骨鶏の卵黄に移行する可能性が高いことを示す。特に、ルテイン含有量に対する品種と飼料の効果の間には有意な交互作用が認められた。このことから、マリーゴールド花弁抽出物含有飼料と烏骨鶏の組み合わせにより、卵黄におけるルテインの蓄積がより促進されることがわかった。
【0079】
食餌性カロテノイドの給与は卵黄による一重項酸素消去活性を増強し、烏骨鶏は一般産卵鶏であるロードアイランドレッドよりも卵黄に多くのカロテノイドを蓄積した。これは対照群においても同様であった。なお、パラコッカス菌体末には、アスタキサンチンに匹敵する高い抗酸化能を有するアドニルビン、アドニキサンチンも含まれている。したがって、アドニルビンとアドニキサンチンも、AX群の一重項酸素消去活性に影響を及ぼした可能性がある。
【0080】
RYCFスコアとa値は、両方の品種において、対照群に対してマリーゴールド花弁抽出物群で有意に高かった(P<0.05)。パプリカ抽出物群では、RYCFスコアとa値及びa/b値が有意に高かった(P<0.05)が、L値は両方の品種で対照群よりも低かった。両方の品種でパラコッカス菌体末群のRYCFスコアは14以上であった。パラコッカス菌体末群では、a値とa/b値も有意に高かったが、L値は対照群よりも低かった。RYCFスコアとa/b値は卵黄色の評価に用いられている。
【0081】
したがって、これらの結果から、食餌性カロテノイドが卵黄色の改善及び卵黄の一重項酸素消去活性を高める効果を有することがわかった。また、烏骨鶏は、食餌性カロテノイドによる卵質改善方法において特に効果的な品種であることが示唆された。
【0082】
(試験例2)
本試験例では、産卵鶏に対する食餌性カロテノイドの給与量を増やし、卵質への影響を調べた。
【0083】
(方法)
55週齢の烏骨鶏(東京うこっけい)および一般産卵鶏であるロードアイランドレッドをそれぞれ40羽供試した。40羽をランダムに下記の各4つのグループに分け、5羽ずつ2反復とした。各処理群におけるカロテノイド給与量は、試験例1の2倍とした。
【0084】
・対照群(Cont):基礎飼料として市販の鶏用配合飼料(粗蛋白質17%、代謝エネルギー2800kcal/kg、JA東日本くみあい飼料(株))のみを給与した。
・パプリカ抽出物群(PA):基礎飼料に、粉末状のパプリカ抽出物入り混合飼料(ランレッド(登録商標)、エランコジャパン(株))を添加したものを給与した。添加量は、飼料中の総カロテノイドとして60mg/kg(ゼアキサンチンとして5.04mg/kg)となるようにした。
・マリーゴールド花弁抽出物群(MA):基礎飼料に、粉末状のマリーゴールド花弁抽出物入り混合飼料(キサンイエロー(登録商標)、エランコジャパン(株))を添加したものを給与した。添加量は、飼料中の総カロテノイドとして120mg/kg(ルテインとして71.40mg/kg)となるようにした。
・パラコッカス菌体末群(AX):基礎飼料に、パラコッカス菌を用いて生産した粉末状のアスタキサンチン含有混合飼料(Panaferd(登録商標)-P、エネオス(株))を添加したものを給与した。添加量は、飼料中の総カロテノイドとして56mg/kg(アスタキサンチンとして31.04mg/kg)となるようにした。
【0085】
試験期間は4週間とし、カロテノイド添加量を除き、飼育方法は試験例1と同様とした。供試鶏の体重は試験開始日および試験終了時に測定し、残飼は7日ごとに測定した。試験期間中に産卵されたすべての卵重を測定し、卵質は7日ごとに検査した。卵黄中のゼアキサンチン、ルテインおよびアスタキサンチン量をHPLC法により測定した。また、一重項酸素消去活性については、リノール酸から発生する共役リノール酸の50%発生抑制作用を示す卵黄濃度により評価した。これは、数値が低いほど一重項酸素消去活性が高いことを示す。上記の測定方法及び統計分析は試験例1と同様に行った。
【0086】
(結果)
表3に卵黄色の比較結果を示す。二元配置の分散分析の結果、卵黄色では、全ての項目で飼料の効果が認められ、L値(明度)、b値(黄色度)およびa/b(卵黄の色合いをよく反映するといわれている客観的な指標)では品種の効果が認められた。さらに、a/bでは交互作用が認められたことから鶏の品種によるカロテノイドの蓄積の違いだけでなく、品種と飼料の組み合わせ(交互作用)による効果が示唆された(表3)。
【0087】
【表3】
データは平均値±SEで表す(n=10)。
a~e同じ列の異符号間に有意差あり(P<0.05)、***:P<0.001、NS:有意差なし。
L=明度;a=赤色度;b=黄色度;RYCFスコア=ロッシュヨークカラーファンスコア(1~15)。
RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏。
Cont=基礎飼料;PA=パプリカ抽出物;MA=マリーゴールド花弁抽出物;AX=パラコッカス菌体末。
【0088】
図5は卵黄中の(A)ゼアキサンチン、(B)ルテインおよび(C)アスタキサンチン含有量を示すグラフである。データは平均値±SEで表す(n=4)。a~c同じグラフ内の異符号間に有意差あり(P<0.05)。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏、をそれぞれ表す。Cont=基礎飼料;PA=基礎飼料にパプリカ由来のカロテノイドを60mg/kg添加;MA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを120mg/kg添加;AX=基礎飼料にパラコッカス菌体末由来のカロテノイドを56mg/kg添加をそれぞれ表す。
【0089】
卵黄へのカロテノイドの移行では、3試験区ともに対照区より多くの移行がみられ、かつ2試験区(PAおよびMA)においてロードアイランドレッド(一般鶏)より烏骨鶏の方が多く移行した。烏骨鶏のPA区では卵黄中にゼアキサンチンを1mg/100g卵黄以上含有していた。また、烏骨鶏のMA区ではルテインを4mg/100g卵黄以上含有していた(図5)。
【0090】
表4は、卵黄中のカロテノイド含量および卵黄による一重項酸素消去活性における品種並びに飼料の影響を示す。二元配置の分散分析の結果、卵黄中の総カロテノイド含量では、試験例1で認められた品種による差がみられなかったことから、飼料へのカロテノイド添加量の上限が示唆された。ゼアキサンチンおよびルテインは飼料による差だけでなく、品種による差が認められた。特にルテインは品種と飼料の組み合わせ(交互作用)による効果があり、烏骨鶏におけるカロテノイド(ルテイン)給与の相乗効果を示している。また、一重項酸素消去活性において、飼料の効果だけでなく品種の効果に加えて品種と飼料の組み合わせ(交互作用)が認められたことも、烏骨鶏の優位性を示している(表4)。
【0091】
【表4】
品種=ロードアイランドレッド、烏骨鶏。
飼料=基礎飼料、パプリカ抽出物、マリーゴールド花弁抽出物、パラコッカス菌体末。
†:P<0.1、*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.001、NS:有意差なし。
【0092】
図6は卵黄による一重項酸素消去活性(50%阻害濃度;IC50)を示すグラフである。データは平均値±SEで表す(n=3)。a~d同じグラフ内の異符号間に有意差あり(P<0.05)。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏、をそれぞれ表す。Cont=基礎飼料;PA=基礎飼料にパプリカ由来のカロテノイドを60mg/kg添加;MA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを120mg/kg添加;AX=基礎飼料にパラコッカス菌体末由来のカロテノイドを56mg/kg添加をそれぞれ表す。
【0093】
卵黄の一重項酸素消去活性は、対照区より処理区の方が高かった(図6)。カロテノイドの給与によって烏骨鶏卵の付加価値が高められることが示された。
【0094】
表5に、産卵率、卵重、飼料摂取量及び飼料要求率を示す。烏骨鶏についても、卵重はすべての処理区で有意に増加し、産卵率と飼料摂取量はPA群において有意に増加した(P<0.05、表5)。
【0095】
【表5】
データは平均値±SEで表す(n=10)。
a~c同じ列の異符号間に有意差あり(P<0.05)。
RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏。
Cont=基礎飼料;PA=パプリカ抽出物;MA=マリーゴールド花弁抽出物;AX=パラコッカス菌体末。
【0096】
(考察)
本試験例の結果(卵黄へのゼアキサンチンやルテインの移行、一重項酸素消去活性の強化など)から、カロテノイドの給与上限(これ以上飼料中のカロテノイド濃度を高めて給与しても成績がパラレルに伴わず、烏骨鶏特有の優位性も低下すると考えられる量)は、パプリカ由来の総カロテノイドとして60mg/kg(ゼアキサンチンとして5.04mg/kg)、マリーゴールド花弁由来の総カロテノイドとして120mg/kg(ルテインとして71.40mg/kg)、パラコッカス菌体末由来の総カロテノイドとして56mg/kg(アスタキサンチンとして31.04mg/kg)であることが判明した。
【0097】
また、1日1羽あたりの各カロテノイドの摂取量(実際に鶏が食べた量)は、烏骨鶏では、ゼアキサンチンとして0.32mg(PA)、ルテインとして4.21mg(MA)、アスタキサンチンとして1.83mg(AX)であった。ロードアイランドレッド(一般鶏)では、ゼアキサンチンとして0.57mg(PA)、ルテインとして7.98mg(MA)、アスタキサンチンとして3.55mg(AX)であった。
【0098】
(試験例3)
本試験例では、産卵鶏に対する食餌性カロテノイドの併用給与による卵質への影響を調べた。
【0099】
(方法)
60週齢の烏骨鶏(東京うこっけい)及び一般産卵鶏であるロードアイランドレッドをそれぞれ30羽供試した。30羽をランダムに下記の各3つのグループに分けた。対照区には基礎飼料のみ給与した。試験区には、カロテノイドの併用給与による影響を調査するため、マリーゴールド花弁抽出物((登録商標)、エランコジャパン(株)、MA)、パプリカ抽出物(ランレッド(登録商標)、エランコジャパン(株)、PA)及びパラコッカス菌体末(Panaferd(登録商標)-P、エネオス(株)、AX)を、2種類ずつ組み合わせて基礎飼料に添加した。給与量は、試験例1のカロテノイド添加量を1とした場合、MA、PAおよびAXをそれぞれ0.5とした。
【0100】
・対照群(Cont):基礎飼料(市販の鶏用配合飼料;粗蛋白質17%、代謝エネルギー2800kcal/kg;JA東日本くみあい飼料(株))のみ給与した。
・MA+PA群:マリーゴールド花弁抽出物を総カロテノイドとして30mg/kg(ルテインとして17.85mg/kg)、パプリカ抽出物を総カロテノイドとして15mg/kg(ゼアキサンチンとして1.26mg/kg)となるようにそれぞれ基礎飼料に添加し、併用給与した。
・MA+AX群:マリーゴールド花弁抽出物を総カロテノイドとして30mg/kg(ルテインとして17.85mg/kg)、パラコッカス菌を用いて生産したアスタキサンチン含有混合飼料を総カロテノイドとして14mg/kg(アスタキサンチンとして7.76mg/kg)となるようにそれぞれ基礎飼料に添加し、併用給与した。
【0101】
試験期間は4週間とし、カロテノイド添加量を除き、飼育方法は試験例1と同様とした。供試鶏の体重は試験開始日および試験終了時に測定し、残飼は7日ごとに測定した。試験期間中に産卵されたすべての卵重を測定し、卵質は7日ごとに検査した。卵黄中のゼアキサンチン、ルテインおよびアスタキサンチン量をHPLC法により測定した。また、一重項酸素消去活性については、リノール酸から発生する共役リノール酸の50%発生抑制作用を示す卵黄濃度により評価した。これは、数値が低いほど一重項酸素消去活性が高いことを示す。上記の測定方法及び統計分析は試験例1と同様に行った。
【0102】
(結果)
表6に卵黄色の比較結果を示す。二元配置の分散分析の結果、全ての項目で飼料の効果が認められ、L値(明度)、a値(赤色度)およびb値では品種の効果が認められた。卵黄色における品種の効果からは、品種の違いによる卵黄へのカロテノイドの移行能力の違いが示唆される。併用給与における品種と飼料の組み合わせによる卵黄色への交互作用は認められなかった(表6)。
【0103】
【表6】
データは平均値±SEで表す(n=6)。
a~c同じ列の異符号間に有意差あり(P<0.05)、†:P<0.1、*:P<0.05、***:P<0.001、NS:有意差なし。
L=明度;a=赤色度;b=黄色度;RYCFスコア=ロッシュヨークカラーファンスコア(1~15)。
RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏。
Cont=基礎飼料;PA=パプリカ抽出物;MA=マリーゴールド花弁抽出物;AX=パラコッカス菌体末。
【0104】
図7は卵黄中の(A) ルテイン、(B) ゼアキサンチンおよび(C)アスタキサンチン含有量を示すグラフである。データは平均値±SEで表す(n=5)。a~c同じグラフ内の異符号間に有意差あり(P<0.05)。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏、をそれぞれ表す。Cont=基礎飼料;MA+PA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを30mg/kg+パプリカ由来のカロテノイドを15mg/kg添加;MA+AX=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを30mg/kg+パラコッカス菌体末由来のカロテノイドを14mg/kg添加をそれぞれ表す。
【0105】
卵黄における各カロテノイド含量では、アスタキサンチンを除いて、一般鶏に比べ烏骨鶏が高い値を示した。烏骨鶏の処理区ではいずれも、卵黄中にゼアキサンチンを1mg/100g卵黄以上、ルテインを4mg/100g卵黄以上、それぞれ含有していた(図7)。
【0106】
表7に、卵黄中のカロテノイド含量および卵黄による一重項酸素消去活性における品種ならびに飼料の影響を示す。二元配置の分散分析の結果、全ての項目において品種と飼料による有意差が認められた。特に総カロテノイド含量では、試験例1の成績同様に、品種による有意差が認められた(P<0.01)。ゼアキサンチンおよびルテインにおいても、品種による有意差が認められた(P<0.001)。さらに、一重項酸素消去活性において、品種による有意差が認められた(P<0.001)ことも、烏骨鶏の優位性を示している(表7)。
【0107】
【表7】
品種=ロードアイランドレッド、烏骨鶏。
飼料=基礎飼料、マリーゴールド花弁抽出物+パプリカ抽出物、マリーゴールド花弁抽出物+パラコッカス菌体末。
*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.001、NS:有意差なし。
【0108】
図8は卵黄による一重項酸素消去活性(50%阻害濃度;IC50)を示すグラフである。データは平均値±SEで表す(n=3)。a~c同じグラフ内の異符号間に有意差あり(P<0.05)。RR=ロードアイランドレッド;SF=烏骨鶏、をそれぞれ表す。Cont=基礎飼料;MA+PA=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを30mg/kg+パプリカ由来のカロテノイドを15mg/kg添加;MA+AX=基礎飼料にマリーゴールド花弁由来のカロテノイドを30mg/kg+パラコッカス菌体末由来のカロテノイドを14mg/kg添加、をそれぞれ表す。
【0109】
卵黄の一重項酸素消去活性は、対照区に比べて処理区で高まった。また、烏骨鶏の卵黄は、一般鶏に比べて高い活性酸素消去活性を示した。烏骨鶏の処理区ではいずれも、一般鶏の対照区に比べてIC50値が1/2以下であり、したがって一般鶏卵に比べて烏骨鶏卵の一重項酸素消去活性は2倍以上であった(図8)。
【0110】
(考察)
本試験例のカロテノイド併用給与の成績では、試験例1同様に、卵黄へのカロテノイド(ルテイン及びゼアキサンチン)の移行ならびに卵黄による一重項酸素消去活性における烏骨鶏の優位性が示された。カロテノイド併用給与では、飼料中のゼアキサンチンとして1.26mg/kg(PA)、ルテインとして17.85mg/kg(MA)、アスタキサンチンとして7.76mg/kg(AX)の中から2つを組み合わせて実施した。また、1日1羽あたりの各カロテノイドの摂取量(実際に鶏が食べた量)は、烏骨鶏のMA+PAにおいて、ルテイン1.08mg+ゼアキサンチン0.08mg、MA+AXにおいてルテイン1.01mg+アスタキサンチン0.44mgだった。ロードアイランドレッド(一般鶏)のMA+PAにおいて、ルテイン1.82mg+ゼアキサンチン0.13mg、MA+AXにおいてルテイン1.90mg+アスタキサンチン0.82mgだった。
【0111】
本試験例では、基礎飼料へのパプリカ由来カロテノイドの配合量が15mg/kgであり、それぞれ試験例1及び2の1/2及び1/4であったにもかかわらず、烏骨鶏の卵黄へのゼアキサンチン移行量は1.25mg/100g卵黄と、Cont及び一般鶏のいずれの試験区に比べても有意に高くなった(図7(B))。卵黄中のゼアキサンチン含有量が1.0mg/100g卵黄以上である烏骨鶏卵を達成するためには、基礎飼料へのパプリカ由来カロテノイドの配合量としては、本試験例よりも少ない8.5mg/kg程度以上とすればよいと推測された。
【0112】
また、ルテインに関しては、本試験例における基礎飼料へのマリーゴールド花弁由来カロテノイドの配合量が30mg/kgであり、それぞれ試験例1及び2の1/2及び1/4であったにもかかわらず、烏骨鶏の卵黄へのルテイン移行量は4.64mg/100g卵黄とContに比べて有意に高くなった(図7(A))。卵黄中のルテイン含有量が4.0mg/100g卵黄以上である烏骨鶏卵を達成するためには、基礎飼料へのマリーゴールド花弁由来カロテノイドの配合量としては、本試験例よりも少ない24.4mg/kg程度以上とすればよいと推測された。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明により、産卵鶏にカロテノイドを豊富に含む飼料を与えると、卵黄の色が改善され、卵黄の抗酸化活性が向上することがわかった。特に、烏骨鶏は、一般鶏よりも卵黄に多くのカロテノイド(ルテイン及びゼアキサンチン)を蓄積することが判明した。よって、烏骨鶏は、飼料にカロテノイドを添加することで卵質を改善するのに適した品種であると考えられた。したがって、本発明は、烏骨鶏卵の利用を拡大し、食品又は健康食品産業に貢献することが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8