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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157058
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】電力取引システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20231019BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066714
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】720005046
【氏名又は名称】Digital Platformer 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122563
【弁理士】
【氏名又は名称】越柴 絵里
(72)【発明者】
【氏名】山中 直明
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳幸
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】電力供給における同時同量制度に対応し且つ需給バランスにあわせて柔軟に電力取引を行える電力取引システムを提供することを目的とする。
【解決手段】電力需給をブロックチェーンなどの仮想コインに紐づけ、仮想コインの使用有効期限を同時同量の制限時間に対応させる。発電量に従い生成した仮想コインを需給バランスに基づき有効/無効化させることが可能であって、30分という制限時間を経過すると生成された仮想コインは無効になる。このため、仮想コインを購入した需要者は、制限時間以内に仮想コインを使用、すなわち電力取引を行う必要が生じるので、同時同量での電力使用を確実に遂行することになる。また、再生可能エネルギーの種類、発電場所等の追加情報が仮想コインに更に紐づけられているため、これらに基づき仮想コインの価額をダイナミックに変動させ、需要者が選択的に所望の仮想コインの取引を行うことを可能にする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギーにより発電された電力を供給するための電力取引システムであって、
前記発電した電力量に対応して仮想コインを生成する手段と、
前記仮想コインが生成された時刻を識別するタイムスタンプ付与手段と、
前記仮想コインに前記時刻を紐づけてブロックチェーンにするブロックチェーン生成部と、
前記仮想コインを制御するコイン制御手段であって、
(1)前記仮想コインを購入した需要者に対して前記仮想コインに対応する電力量の電力を供給する信号を前記需要者の電力制御器に送信し、
(2)前記需要者の電力使用量に応じて、購入された前記仮想コインを仮想的に消却し、
(3)前記時刻を起算として所定時間内であるか否かを判定し、前記所定時間経過後に前記仮想コインの使用ができないよう無効化する、前記コイン制御手段と、
を備えた電力取引システム。
【請求項2】
前記ブロックチェーン生成部は、前記再生可能エネルギーの種類、前記再生可能エネルギーの発電場所、前記再生可能エネルギーの発電場所と前記仮想コインの購入を予定する需要者の場所の離間距離、前記再生可能エネルギーの発電コスト及び供給コストの少なくとも何れかを追加情報として前記仮想コインに更に紐づけてブロックチェーンにする、請求項1に記載の電力取引システム。
【請求項3】
前記仮想コインの価額は、前記時刻及び前記追加情報の少なくとも何れかに基づき変動する、請求項2に記載の電力取引システム。
【請求項4】
前記仮想コインの価額、前記時刻、及び前記追加情報は、前記仮想コインの購入をした又は購入を予定する任意の需要者に提供され、前記需要者による前記仮想コインの購入又は売却の要求を受け付ける、請求項1~3の何れか1項に記載の電力取引システム。
【請求項5】
前電力が充電器に蓄電された場合、前記コイン制御手段は、
前記所定時間経過しても前記仮想コインを無効化せず前記充電器からの電力使用を可能にして、前記電力使用量に応じた前記仮想コインの消却を行い、
前記仮想コインの売却の要求を受け付けた場合は、売却対象の前記仮想コインを戻すとともに、前記仮想コインの売却時価に対応する対価の支払いをする、請求項4に記載の電力取引システム。
【請求項6】
前記充電器が前記コイン制御手段の機能を実行するよう構成されている、請求項5に記載の電力取引システム。
【請求項7】
前記仮想コインを生成する手段及び前記タイムスタンプ付与手段は、前記電力取引システムと再生可能エネルギーの発電設備との間のゲートウェイに設けられる、請求項1に記載の電力取引システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力取引システムおよび電力取引プログラムに関するものであって、電力の需給バランスを維持するための同時同量ルールに即応可能な電力取引を実現する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスの排出量は年々増加しており、2013年度には過去最高の排出量を記録した。こうした中、2016年に発効したパリ協定の下、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量のバランスをとることなどが合意されている。温室効果ガスの排出量を削減していくことが急務となっている中、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーの積極的な活用方法が提案されている。
【0003】
温室効果ガス排出量の低減を推進させる方策の一つとして排出権取引制度がある。日本でも既に導入されている地域があり、特に、国内排出量取引制度とも呼ばれているのがキャップアンドトレードである。これは、企業に排出枠(限度を意味するキャップ)を設け、その排出枠(余剰排出量や不足排出量)を企業間などで取引する制度である。単純に排出量を規制するのではなく、余剰した排出枠を売買することで排出削減を行うという仕組みである。
【0004】
自主的に排出削減に取り組めない、もしくは取り組んでも決められた排出枠内に抑えることができない企業は、他の事業者やオークションなどを介して排出枠を購入し、排出削減の義務履行をすることが認められている。また、排出削減が実現できた期間の義務超過分(余力)を次の期間に繰り越して削減義務の不足量に充当したり、実際の排出量が基準を下回った場合にその削減分をクレジットとして認証する方式の取引も存在する。排出権取引制度は、様々な柔軟性のある手段を通じて義務履行をし易くしている。
【0005】
一方で、再生可能エネルギーが主力電源として使用される場合には、電力の需給バランスがとれていないと電気の周波数(品質)が乱れてしまい、安定した電気の供給ができない。つまり、電気の供給量と消費量が同じ時に同じ量になっているという「同時同量」の必要がある。そこで、電力小売の全面自由化に伴い、2016年4月より計画値同時同量制度が導入された。計画値同時同量制度とは、発電量調整供給契約の契約者となる発電契約者(例えば、発電事業者)が事前に策定した発電計画と発電契約者の実際の発電実績とを管理時間(例えば、30分)単位で一致させると共に、託送供給契約の契約者となる需要契約者(例えば、小売電気事業者)の事前に策定した需要計画(電力需要計画)と需要契約者の実際の需要実績とを30分単位で一致させるという制度である。
「同時同量」に基づき電力の需給管理をするシステムの例は、下記特許文献1、2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許6803596号公報
【特許文献2】特開6963239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電気は大量に貯めることができず、その瞬間に使用している電気は、その瞬間にどこかで発電した電気なはずである。基本的には安定した電気の供給を実現する上で「同時同量」は欠かせない制約といえる。したがって、30分程度という短時間の猶予を大きく超えて、義務履行が果たせない排出削減分を前の期間から繰り越した余力分で充当するといった排出権取引は、「同時同量」の原則から逸脱しており、削減目標値の辻褄合わせを都合よく行っているに過ぎない。
【0008】
そこで、本発明は、電力供給における同時同量制度に対応し且つ需給バランスにあわせて柔軟に電力取引を行える電力取引システム、電力取引方法および電力取引プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明に係る再生可能エネルギーにより発電された電力を供給するための電力取引システムは、前記発電した電力量に対応して仮想コインを生成する手段と、前記仮想コインが生成された時刻を識別するタイムスタンプ付与手段と、前記仮想コインに前記時刻を紐づけてブロックチェーンにするブロックチェーン生成部と、前記仮想コインを制御するコイン制御手段であって、(1)前記仮想コインを購入した需要者に対して前記仮想コインに対応する電力量の電力を供給する信号を前記需要者の電力制御器に送信し、(2)前記需要者の電力使用量に応じて、購入された前記仮想コインを仮想的に消却し、(3)前記時刻を起算として所定時間内であるか否かを判定し、前記所定時間経過後に前記仮想コインの使用ができないよう無効化する、前記コイン制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る電力取引システムの前記ブロックチェーン生成部は、前記再生可能エネルギーの種類、前記再生可能エネルギーの発電場所、前記再生可能エネルギーの発電場所と前記仮想コインの購入を予定する需要者の場所の離間距離、前記再生可能エネルギーの発電コスト及び供給コストの少なくとも何れかを追加情報として前記仮想コインに更に紐づけてブロックチェーンにすることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明に係る電力取引システムの場合、前記仮想コインの価額は、前記時刻及び前記追加情報の少なくとも何れかに基づき変動し、前記仮想コインの価額、前記時刻、及び前記追加情報は、前記仮想コインの購入をした又は購入を予定する任意の需要者に提供され、前記需要者による前記仮想コインの購入又は売却の要求を受け付けることを特徴とする。また、前電力が充電器に蓄電された場合、前記コイン制御手段は、前記所定時間経過しても前記仮想コインを無効化せず前記充電器からの電力使用を可能にして、前記電力使用量に応じた前記仮想コインの消却を行い、前記仮想コインの売却の要求を受け付けた場合は、売却対象の前記仮想コインを戻すとともに、前記仮想コインの売却時価に対応する対価の支払いをすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る決済システムは、再生可能エネルギーの発生量をリアルタイムでブロックチェーン上に取り込むと、これをトリガーにして電力安定供給のために課される同時同量条件を維持する所定の処理を自動的に実行するスマートコントラクトに基づいている。スマートコントラクトの具体的例は、電力需給をブロックチェーン上で用いられる仮想コインに紐づけ、仮想コインの使用有効期限を同時同量の制限時間に対応させる。すなわち、発電量に従い生成した仮想コインを需給バランスに基づき有効/無効化させることが可能であって、30分という制限時間を経過すると生成された仮想コインは実際の利用の有無にかかわらず無効になる。このため、仮想コインを購入した需要者は、制限時間以内に仮想コインを使用、すなわち電力取引を行う必要が生じるので、同時同量での電力使用を確実に遂行することになる。
【0013】
また、再生可能エネルギーの種類、再生可能エネルギーの発電場所、再生可能エネルギーの発電場所と仮想コインの購入を予定する需要者の場所の離間距離、再生可能エネルギーの発電コスト及び供給コスト等の追加情報が仮想コインに更に紐づけられているため、これらの情報に基づき仮想コインの価額をダイナミックに変動させ、需要者が選択的に所望の仮想コインの取引を行うことを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本願発明の電力取引システムと、電力供給側の電力網を含む再生可能エネルギー及び電力消費側の需要者設備とを示した全体の概念図である。
図2】電力取引システムと需要者設備との間でグリーンコインが取引されることを説明するための概念図である。
図3】再生可能エネルギー発電設備と電力取引システム間のゲートウェイの構成を示す概念図である。
図4】電力取引システムの構成を説明するための図である。
図5】コインに付加されるタイムスタンプを説明するための図である。
図6】エネルギー需給により自動的にコイン価額が変動することを説明するための図である。
図7】ブロック化されたグリーンコインの例示を示す図である。
図8】需要者と発電設備との位置関係でコインの価額が変化することを説明するための図である。
図9】バッテリー構成の一例を示した図である。
図10】バッテリーの利用方法の一例を示した図である。
図11】コイン再利用の一形態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照しながら、本発明に係る電力取引システムの一実施形態について説明する。図1は、本実施形態における電力取引システム100を介して再生可能エネルギーの供給側と消費側を連携する概念の全体を示す図である。電力取引システム100が対象とする再生可能エネルギーとしては、太陽光発電、風力発電、地熱発電、バイオマス発電、及び水力発電等が含まれる。本実施形態では、再生可能エネルギーの供給設備が太陽光発電所10であるとし、この太陽光発電を例にして電力の需給の仕組みについて説明する。他の再生可能エネルギーも同様に電力取引システム100を介して消費である需要者との間で発電電力の取引を行う。
なお、送配電網で構築された電力系統は主として大規模電源と需要地を結ぶ形で作られてきており、再生可能エネルギーの太陽光等による発電はこの電力系統に接続することで使用可能になる。以下では太陽光電力が電力系統に接続されていることを前提に説明する。
【0016】
図1に示すとおり、太陽光発電設備10により発電された電力は、送配電網(電力グリッド)20によって、家庭30、オフィス/工場40、電動車両(例えば電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車等)50に供給される。単に、太陽光発電設備10が発電した電力を送配電網20によって家庭30や電動車両50に供給するのではなく、電力取引システム100が介在して太陽光から生じた電力の供給をダイナミックに制御するものである。実際には、石油や原子力などを利用した発電設備を由来とする電力も同じ送配電網20を経由して送電されるが、電力取引システム100により再生可能エネルギーの需要者に対する供給がデータ管理されるため、使用時間及び使用量を含む再生可能エネルギーの使用実績が保証されることになる。
【0017】
本実施形態の電力取引システム100は、図1に示すようにコイン生成部1とコイン制御部2、さらに図4に関連して後述するタイムスタンプ付与部3、ブロックチェーン生成部4を少なくとも含む。コイン生成部1は、太陽光発電設備10による発電量が常時電流計で計測されているので、計測値を受信するとその発電量に比例した仮想コインを生成する機能を有する。なお、再生可能エネルギー量に基づく仮想コインであることから、以下、「グリーンコイン」と称する。本実施形態の場合、電力取引システム100がグリーンコインを生成するが、必ずしもこれに限定するものではなく、図3に示すように、電力取引システム100のコイン生成部1をゲートウェイ22で実行させる構成であってもよい。ゲートウェイ22でグリーンコイン生成する場合、電力取引システム100はゲートウェイ22からグリーンコインを受け取り、ネットワーク6を介した需要者側との間でグリーンコイン取引を行う。
【0018】
生成されるコインは、太陽光発電設備10の発電量に比例したものであるため、コイン生成部1は、発電単位量(例えば、1whや10whなど)に1枚のグリーンコインを割当てることで需要者が必要とする電力量に相当する枚数のグリーンコインを発行したり、或いは需要者が必要とする総電力量を1枚のグリーンコインに割当てる。図1が電力自体の供給を示すのに対し、グリーンコインの受け渡しという観点から示しているのが図2である。図2に示すように、電力取引システム100からのグリーンコインは通信ネットワーク6を介して需要者側に渡されることになる。図1で説明したように電力取引システム100が太陽光発電設備10からの発電情報を受け取っているので、図2に示すように電力取引システム100は需要者との間の電力取引をグリーンコインを用いながら行うものである。
なお、グリーンコインは仮想コインであるため、当然ながら実物コインが譲渡及び譲受されるのではなくデータの書換によって実行される。書き換えられるデータの記憶を電力取引システム100のブロックチェーン上で行っていることになる。
【0019】
本願発明の特徴は、コイン生成部1で生成したグリーンコインの有効期間、言い換えればグリーンコインの寿命が、30分に限定されているということである。再生可能エネルギーによる電力量に応じてブロックチェーン上で電力量に相当するコインを生成することは例えば上記特許文献1、2にも記載され、同時同量を遂行する試みがされている。しかしながら、従来の手法は、電力の需要が高まり電力供給が逼迫すると、供給側の運営業者が家庭30やオフィス/工場40などの需要者に節電を促すアナウンスをして消費を抑える応答を要求したり、需要者同士が余剰電力を融通したりして、30分以内の同時同量の制約を満たしている。本願発明は、先行文献のアイデアとは異なり、コイン自体の寿命を30分にして、需要者が有効期限のあるコインを取り合うという仕組みであって、これにより運営業者に課される同時同量処理を実現することができる。
【0020】
本願発明の場合、いま使用可能なグリーンコインは、いまから過去に遡って最大30分前に生成したものであり、いま生成したグリーンコインはこれから30分間のみ使用可能ということである。そこで、コイン制御部2は、生成したグリーンコインの有効化/無効化を制御する。ゲートウェイ22が生成して電力取引システム100に渡した又はコイン制御部2によって生成し、且つ生成してから30分以内のコインのみが有効にされる。言い換えれば、ゲートウェイ22又はコイン生成部1で生成されたグリーンコインは、その生成から30分を経過するとコイン制御部2によって自動的に無効化され、当該グリーンコイン量に割当てられていた電力量(すでに使用していた分があれば残りの電力量)の充電装置60,70,80に対する充電が停止する。この充電を停止するには、家庭30、オフィス/工場40、電動車両50などに設置される電力供給切替回路8に対して、電力取引システム100からグリーンコインの非アクティブ信号7を送信して充電動作を自動的にOFFする(図2参照)。これにより、30分単位の同時同量という電力の需給管理を実現することができる。なお、電力系統の送配電網には再生可能ネルギー以外の火力発電など従来の発電設備からの電力供給があるので、グリーンコインの無効化後であっても、実際には電力供給が停止することにならないよう構成されている。
【0021】
30分の時間制限を実現させるために必要なのが、各グリーンコインに対するタイムスタンプである。図4は、生成されたグリーンコインにタイムスタンプが付与されることを示している。本実施形態の場合、ゲートウェイ22やコイン生成部1で生成されたグリーンコインに対して、タイムスタンプ付与部3が時刻情報(TS)を付与する。そして、ブロックチェーン生成部4は、グリーンコインに時刻情報を紐づけたものを有効グリーンコイン5としてブロック化し、電力取引システム100内のブロックチェーン上に記憶する。その上で、有効グリーンコイン5は通信ネットワーク6上で取引の対象として流通し、家庭30やオフィス/工場40がこれを購入することで太陽光発電所が発電した電気を使用できることになる。なお、本実施形態では、コイン生成部1、タイムスタンプ付与部3、ブロックチェーン生成部4が電力取引システム100内に具備されているとしているが、必ずしもこれに限定するものではない。例えば、上述したようにグリーンコインを生成するゲートウェイ22であれば、電力取引システム100内のタイムスタンプ付与部3から時刻情報をゲートウェイ22へ送信し、ゲートウェイ22が時刻情報をグリーンコインとあわせてブロック化の処理を実行し、電力取引システム100へブロック化したグリーンコインを返信するようにしてもよい。
【0022】
なお、グリーンコインやタイムスタンプをブロック化するのは、ブロックチェーンが改ざんされるリスクが極めて少なく且つ情報のトレーサビリティに優れているためである。グリーンコインに付随する発電量や時刻などを含む情報は半永久的に追跡可能であるため、どこでいつ発電された電力であって、これを誰が購入してどの需要者によって使用されたのかが、再生可能エネルギーを使用した実績を検証することで確実に把握できる。
【0023】
図5は、有効グリーンコイン5の無効化を説明するための図である。コイン制御部2は、ブロックチェーン生成部4が生成したばかりのグリーンコインを使用可能(つまり、有効グリーンコイン5)にするため、例えば有効化を示す“1”をコインに紐づけてブロック内に記憶する。なお、“0”は無効化をあらわすとする。コイン制御部2は、グリーンコイン生成部1によるコイン生成時刻(タイムスタンプ)を基準に30分経過したことを判定すると、有効化を示す“1”から無効化を示す“0”に更新する。これにより、有効グリーンコインは無効グリーンコインとなる。
なお、30分を1分単位に識別して、分情報の1~30を分経過ごとに設定するようにしてもよい。さらに細かく30秒単位、15秒単位などで識別できるようにしてもよい。
【0024】
或いは、“1”や“0”をコインに付加せず、コイン制御部2が常に時刻情報(TS)から30分経過しているかを計算しながら無効化を判定することでもよい。
【0025】
また、太陽光発電の電気の利用は需要者間でのグリーンコインの取り合いを意味するので、本実施形態の場合、コイン価値の変動を生じさせることになる。コイン価値を一定にするやり方もあるが、需要が供給よりも大きければ取引されるコインの価値が高くなることは経済原理の法則から明らかである。そこで、本実施形態の電力取引システム100は、有効グリーンコイン5の需給バランスにあわせてコイン価値(コイン額)を自動的に変化させる(図6参照)。一例を挙げれば、高い電力需要が見込まれる夏季、一日のうちでも昼間時間帯はグリーン電力不足になり易く、冬季や夜間よりも相対的に高く設定されるものである。発電事業者が100円以上で売ることを電力取引システム100に要求して120円(売却時価)で取引ができた場合、電力取引システムの所定の手数料を控除して発電事業者に返すことになる。図6に示すようなコストカーブに基づき、コインの価額を決定する需給バランス変動型のコインは、従来の排出権取引における固定的価額の排出権を高値で売ることができるようになる。
また、充電装置60,70,80などを用いたバッテリー充電のように、即時性が不要な使用態様の場合はコイン額が安い時に充電を行うようになるため、需給のバランスをとり易くなる。
【0026】
なお、コイン額は、発電コスト及び送電コスト及び運営業者の諸経費を含む価額である。図7(A)に示すように、単位量1wh当たり20円の発電コストを要している場合、さらに送電コストとして例えば5円/1whを加算する必要がある。これら各種コストは、ブロックチェーン生成部4が有効グリーンコイン5を形成する際に、自動的に各ブロックチェーンに設定し、図示するように時刻情報とあわせて格納しておけばよい。
【0027】
また、需給バランスのみならず、上述した有効グリーンコインの有効使用時間によっても変化するようにしてもよい。例えば、コイン生成直後で有効使用時間がほぼ30分残っているコイン額は、有効使用時間が残りわずかな有効グリーンコインのコイン額よりも相対的に高く設定されるようにする。このようにして、電力取引システム100は、有効時間及び電力市場における需給バランスなどに応じて、グリーンコインの有効化/無効化を判定し、電力供給を制御する。
【0028】
さらに、充電装置60,70,80に貯めておいた電気がある場合、市場における電力の需給が逼迫した時には、需要者が購入済の有効グリーンコインを、供給側の運営業者が買い戻しできるようにする。これにより買い戻しの需要者は電力を使用できなくなるが、インセンティブが付与されていれば、購入したコイン額よりも高く(売却時価で)払い戻すことになるので買い戻しを希望する需要者は存在する。むしろ、インセンティブを期待して買い戻しをすることを前提として有効グリーンコインを購入しておく需要者が出現することもあり得る。買い戻しの際、法定通貨で返金されてもよいし、次に電力を購入するために代替可能なポイント等が戻るようにしてもよい。
このように需要者が充電装置への充電のために購入しておいたコインを運営業者が買い戻しすることで、電力需要を抑えることができ、且つ需要者間の融通がしやすくなる。この場合も、有効グリーンコインの有効時間の残時間によってコイン額を設定してよい。
【0029】
ところで、上述したようなコイン額がリアルタイム変動し、需要者がその変動に基づきコインの売買が行うようにするためには、需要者側がコイン額や有効使用時間を判別できるよう見える化しておく必要がある。つまり、通信ネットワーク6上で流通する現在利用可能な有効グリーンコイン5のリアルタイムなコイン額が需要者側の情報端末上で確認できるようにする。そのために、コイン額は各有効グリーンコイン5のブロックチェーンに格納させてもよいし、コイン制御部2で管理する構成でもよい。
【0030】
コインの見える化に関し、コイン額や有効使用時間のみならず、風力電力や太陽光電力などに由来する再生可能エネルギー種別や、発電場所の座標情報(X,Y)も各グリーンコインに紐づけてブロックチェーンとして記憶し、需要者が識別できるようにしてもよい。これは発電主体および電力源の選定を可能にすることを意味する。需要者が近隣地に風力発電設備があるのでその風力電力を希望できるようにしたり、需要者の所在地に近い発電設備に関係するコインを選択したいという再生可能エネルギーの選択の自由度をもたせることになる。
【0031】
また、各コインに発電場所の座標情報(X,Y)を紐づけることは、需要者の所在地に近いコインを優先的に運営業者が割り振ることを可能にする。送配電網の実際の運用においては、需要者から近場の発電場所より電力供給することがコスト面及び安定面で有利である。再生可能エネルギーを電力系統に接続する際に、系統に繋げなかったり、費用が高くなったり、時間がかかってしまうなどの系統制約の問題があるためである。これを解消するには系統を増強すればよいが、実際には新規の系統の増加は多額の費用と時間が伴うため、既存の系統を最大限に活用していくことが有効である。そこで、需要者に近接する発電設備からのグリーン電力に由来するコインをコインに紐づいた座標情報(X,Y)を基に自動的に検出し、見つけ出したコインは近隣の需要者に使用してもらうようにすることがあり得る。
【0032】
座標情報(X,Y)を基に需要者に近接する発電設備からのグリーン電力に由来するコインを探索する方法は、例えば図8に示すように、需要者のポイント(位置)から所定の半径(図示するように円に限らず、長軸半径及び短軸半径で定義される楕円をベースに決定してもよい)に存在する発電所Xであれば、送電コストの単価を例えば5円/1kwhとし、より遠くの発電所Yであれば単価を例えば7円/1kwhと設定する。発電所Xと発電所Yそれぞれの発電コストに各送電コストを加算して発電単価を決定して両者を比較する。単価が低い方の発電所を選び、当該発電所で生成された電力に対応するグリーンコインを最適なコインとして決定すればよい。ブロックチェーンとしてこれらの情報を記憶したときの一例を図7(B)に示す。ブロックチェーン内の情報から、コインのベースとなった発電所の種類や所在場所や発電時刻を含む様々な情報を把握でき、これが需要者側に見える化されることで最適なエネルギー源の電力を利用できる。
【0033】
実際には、生成されたグリーンコインの売れ残りが発生する。その間にも発電に応じて順次新たなコインが生成するので、古いコインと新しいコインが各時点で混在する状態が常に生じる。いま、グリーンコインが生成されたが購入されずに時間が経過してしまい古いコインになったものよりも、生成されたばかりの新しいコインを先に販売してしまった場合、古いコインは売れ残りとなってやがて廃棄される。多くの需要者にグリーン電力を供給しようと思えば、売れ残りを減らすために古いコインから先に購入してもらうことが望ましい。新しいコインの数が十分になければ、購入できない需要者が出てくることもある。一方で、新しいコインを購入した需要者はすぐにそのコインを転売できるが、古いコインを購入してもらうことは時間経過に伴い難しくなる。古いコインを完売するには30分では足りず、何倍もの時間を前提とした同時同量にする必要があるが、これでは電力網の安定化にならない。できるだけ新しいコインが購入されることが電力安定化に貢献する。
【0034】
そこで、電力取引システム100は、あらかじめ作成した発電計画や気象予測データなどから発電状況が現在と大差ない状態がしばらく継続すると判断できるときは、できるだけ古いコインから消費されるよう需要者への販売を行い(この場合、コイン額を低くする)、多くの需要者に電力供給がされるようにする。一方、冷房が多く使われる夏季の午後時間帯や電力消費が大きな工場が密集した工業地帯という地域的要因がある電力供給の場合には、電力の需給バランスが一定に調整されることを第一に考慮して新しいコインも最初から積極的に消費されるようにして(この場合、コイン額を高くする)同時同量を維持する。これらを実現する上で、コインの価格を意図的に変動されることは非常に重要である。
【0035】
<他の実施形態>
次に、再生可能エネルギーにより生成した電力の充電についての実施形態についてさらに説明する。
図9は、充電装置60,70,80の構造を示した図である。家庭30、オフィス/工場40、電動車両50で使用するこれら充電装置の基本的な考え方は同じであり、ここでは電動車両50の充電装置80であるとして説明する。電動車両50への電力供給と同じように、充電装置80には送配電網20を経由した太陽光発電所10からの電流が供給可能に接続されているが、制御回路81がグリーンコインを購入するという指令を電力取引システム100に出力しない限り、切断器82は充電装置80への電力供給を遮断にしている。グリーンコインを購入できた場合、切断器82は電力供給に切り替えて充電を行う。
【0036】
図10は、充電装置60,70,80の別の利用方法を示した図である。図9との違いは、グリーンコインプール65が存在することである。上述してきたように、グリーンコインは同時同量の規制より有効使用時間は30分であるが、充電装置内のグリーンコインプール65のみに貯めることができる。図10の例の場合、例えば、10時に購入した3個のグリーンコインは、10時30分を経過した後でも無効化されず使用可能である。なお、いつまでも無制限に使用できないようにするため、グリーンコインプール65内での貯蓄できる最長貯蓄時間をあらかじめ設定して各グリーンコインのブロックに格納しておき、最長貯蓄時間を超過すれば消却するようにしてもよい。
図11は、電動車両50に備えられる充電装置80の利用例を示す。電動車両50に充電する場合は、制御部8を通して充電装置80にチャージする。電動車両50の走行に伴い、制御部8が管理するグリーンコインプール85内のグリーンコインが消費されていく。つまり、制御部8内の消却回路86が走行に要した電気量分のグリーンコインを不活性にする。また、グリーンコインプール85内のグリーンコインが一部残っていて、家庭30内の電力消費に使用したい場合は、充電装置80と家庭30間で電気を送配できるよう接続し、グリーンコインプール85内のグリーンコインを消費する。
【0037】
充電装置60,70,80は、グリーンコインプール65,85の充電状況をみて、例えば充電総量の50%未満の充電量の場合は少なくとも50%になるまで充電を行う。一方、充電総量の50%を超えている場合は、通信ネットワーク6内の需給状況を電力取引システム100に問い合わせをして、通信ネットワーク全体で30分の同時同量が不足していれば、充電処理を自動的に止めて系統の安定性に貢献するようにするし、30分の同時同量が余っていればそのまま充電処理を行うようにする。つまり、充電装置60,70,80は、通信ネットワーク6内の需給状況を電力取引システム100から把握し、充電する量を自動的に制御するチャージ量制御部を設けている。
【0038】
なお、グリーンコインプール85や消却回路86は電動車両50に備えるとして図示しているが、これらは仮想的なものとして存在し、電力取引システム100とグリーンコインの消費を処理できるとして扱うことにしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 コイン生成部
2 コイン制御部
3 タイムスタンプ付与部
4 ブロックチェーン生成部
5 有効グリーンコイン
6 通信ネットワーク
8 制御部
10 太陽光発電設備
22 ゲートウェイ
30 家庭
40 オフィス/工場
50 電動車両
60 充電装置
65 グリーンコインプール
82 切断器
100 電力取引システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11