IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有限会社スクロール技研の特許一覧

<>
  • 特開-オイルシール構造 図1
  • 特開-オイルシール構造 図2
  • 特開-オイルシール構造 図3
  • 特開-オイルシール構造 図4
  • 特開-オイルシール構造 図5
  • 特開-オイルシール構造 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157069
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】オイルシール構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/18 20060101AFI20231019BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20231019BHJP
【FI】
F16J15/18 C
F16J15/3232 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066728
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】506423165
【氏名又は名称】有限会社スクロール技研
(74)【代理人】
【識別番号】100069073
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 和保
(72)【発明者】
【氏名】川添 新二
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
【Fターム(参考)】
3J006AE50
3J006CA05
3J043AA16
3J043BA08
3J043CA02
3J043CB14
3J043DA03
3J043DA10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の課題は、いろいろな条件に対応可能であり、また小型化を可能にしたオイルシール構造を提供する。
【解決手段】本発明に係るオイルシール構造1A,1Bは、ハウジング101に回転自在に固定される回転軸107,109の軸方向に位置する2つの圧力空間の間に配置され、一方の圧力空間から他方の圧力空間への圧力漏れを防止するものであって、前記回転軸107,109の外径よりも小さい内径を有する環状のリップシールと、前記回転軸107,109の外径よりも大きい内径を有し、前記リップシールを軸方向に固定し、回転軸107,109に対するリップシールの傾き具合を規制し、かつ一定空間を保持するためのワッシャとを交互に複数段配し、リングでオイルシール受け115に圧入固定したもので、さらにオイルシール受け115には、回転軸107,109が挿入され、ハウジング101に固定されるものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに回転自在に固定される回転軸の軸方向に位置する2つの圧力空間の間に配置され、一方の圧力空間と他方の圧力空間との間を圧力的に遮断するオイルシール構造において、
ハウジングの回転軸周縁に固定されるオイルシール受けに、前記回転軸の外径よりも小さい内径を有する環状のリップシールと、前記回転軸の外径よりも大きい内径を有し、前記リップシールを軸方向に固定するためのワッシャとを、交互に複数段設けることによって構成され、回転軸を装着することでリップシールの先端形状を変形させてシール効果を得ることを特徴とするオイルシール構造。
【請求項2】
前記オイルシール構造は、前記ハウジングの回転軸周縁に装着されるオイルシール受けに装着固定されることを特徴とする請求項1記載のオイルシール構造。
【請求項3】
前記2つの圧力空間の圧力差に対応して、前記リップシールの軸方向の厚さ又はリップシール及びワッシャの段数を変化させることを特徴とする請求項1又は2記載のオイルシール構造。
【請求項4】
前記一方の圧力空間に滞留する流体の種類に対応して、前記リップシールの材質を変化させることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載のオイルシール構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクルの一部を構成するスクロール冷凍圧縮機又は膨張機または空気圧縮機、真空ポンプなどの回転軸の周囲に配され、圧縮機又は膨張機の内外の冷媒漏れやオイル漏れ、空気漏れなどを防止するためのオイルシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2009-108688号公報)は、圧縮機の回転軸回りに、ハウジング側に固定されたメイティングリングと、回転軸とともに回転し前記メイティングリングと側面同士が摺動可能に当接されて両リング間にシール部を形成するシールリングとからなるメカニカルシールを用いた圧縮機の軸封装置において、前記メイティングリングの内周面と前記回転軸の外周面との間に、メイティングリングの軸方向両側間に対しオイルをシールする機能を有するオイルシール部材を装着した軸封装置を開示する。さらに、前記オイルシール部材が、前記メイティングリングの軸方向片側に圧縮機内部最高圧がかかった際の、メイティングリングの軸方向他端の圧縮機外大気圧との差圧発生時に、メイティングリングの軸方向両側間に対しオイルをシールする機能を有する部材からなることが開示され、さらに、オイルシール部材が、前記メイティングリングの内周面側に、前記回転軸の外周面に摺接可能に保持されたO-リング、角リング、円筒状シール、リップシールのいずれかからなることが開示されている。
【0003】
特許文献2(特開2018-17161号公報)において、リップシールは、駆動軸の軸方向に沿う断面視で、駆動軸の外周面に接触する内周シール部が、軸穴側への固定部よりもハウジングの駆動軸方向内部側に位置する第1シールリップおよび第2シールリップ(内側シールリップ)と、内周シール部が軸穴側への固定部よりもハウジングの駆動軸方向外部側に位置する第3シールリップ(外側シールリップ)とを備え、第2シールリップと第3シールリップとの間には潤滑油を保持可能な潤滑油保持空間が形性されており、また、第2シールリップの緊迫力よりも第3シールリップの緊迫力が弱く設定されていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-108688号公報
【特許文献2】特開2018-17161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献に開示されるようなオイルシール構造は、特殊な形状及び構造を有することから、実際に使用する前に試作してその機能効果を確認する必要が生じるが、モールド型などが必要で試作自体が高価となるという不具合が生じる。また、試作自体に不具合がある場合の仕様変更に時間と費用がかかる。
【0006】
また、装置に使用される流体の特性に対応するようにシール構造を製造する場合、シール構造自体が大型化してしまうという問題点も生じる。
【0007】
このように、流体の特性、いわゆる冷媒の種類、潤滑油の有無や種類または圧力、回転数などのPV値、温度などにより、オイルシールの材質や形状が異なるため、条件が変わるたびに新たな選定が必要となり、再度、長時間かけ高価格な対応品を手配する必要がある。
【0008】
以上の課題を解決するために、本発明は、いろいろな条件に対応可能であり、また小型化を可能にしたオイルシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかるオイルシール構造は、ハウジングに回転自在に固定される回転軸の軸方向に位置する2つの圧力空間の間に配置され、一方の圧力空間と他方の圧力空間との間を圧力的に遮断するオイルシール構造において、前記ハウジングの回転軸周縁に固定されるオイルシール受けに、前記回転軸の外径よりも小さい内径を有する環状のリップシールと、前記回転軸の外径よりも大きい内径を有し、前記リップシールを軸方向に固定するためのワッシャとを、交互に複数段設けることによって構成され、回転軸を装着することでリップシールの先端形状を変形させてシール効果を得ることにある。さらに、前記オイルシール構造は、前記ハウジングの回転軸周縁に装着されるオイルシール受けに装着固定されることが好ましい。
【0010】
このように、本発明にかかるオイルシール構造は、リップシールとリップシールとの空間を形成しリップシールの折れ曲がり寸法を規制するためのワッシャが交互に複数段設けられて構成されるものであり、交互に配されたリップシールとワッシャによってワッシャが配される位置に、圧力小空間が形成されるものである。これによって、前記一方の圧力空間から他方の圧力空間に向けて複数の圧力小空間が形成されるものである。また、リップシールの内径が回転軸の外径よりも小さいことから、リップシールの内径側は、回転軸が挿入されることで軸方向にワッシャに規制された寸法で一方の側に傾くものであり、この傾き方向については、諸条件に対応して高圧側又は低圧側に決定されることが好ましい。
【0011】
また、前記2つの圧力空間の圧力差に対応して、前記リップシールの軸方向の厚さ又はリップシール及びワッシャの段数を変化させることが好ましい。これによって、2つの圧力空間の圧力差が大きい場合には、リップシールの軸方向の厚さを大きくして対応することが可能であり、さらにリップシール及びワッシャの段数を増加させることによって対応することが可能である。さらに、本発明によれば、圧縮機のように、回転軸の一方の側、例えば圧縮機吐出側が高圧となり、回転軸の他方の側、例えばモータとの連結側が大気側(低圧)となる場合、真空ポンプのように、回転軸の一方の側、例えば真空ポンプの内側が低圧となり、回転軸の他方の側が大気圧(高圧)となる場合にも対応することができるものである。
【0012】
さらに、前記一方の圧力空間に滞留する流体の種類に対応して、前記リップシールの材質を変化させることが好ましい。リップシールは、フッ素樹脂、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(テフロン(登録商標))を主成分とし各種充填剤を含ませることによって形成されることが望ましい。フッ素樹脂の材質は、耐油、耐冷媒、温度、相手材質、対応圧力、摺動速度などを考慮して最適な材質が選定されることが望ましい。
【0013】
前記オイルシール構造は、オイルシール受けに装着されるもので、このオイルシール受けに形成された装着孔に、ワッシャ、リップシールを交互に複数段配置する。リングは最後に、前記装着孔に圧入され、リップシールとワッシャを装着孔の軸方向の一方の側に押しつけて固定する。尚、固定手段としてのリングの代わりにオイルシール構造を軸方向の一方に付勢するバネ等の付勢手段を設けても良いものである。そして、前記オイルシール構造に構成されたオイルシール受けには、ハウジングに設けられた回転自在に保持される回転軸が挿入され、ハウジングに同心で固定される。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、圧力差を有する2つの圧力空間の間に配されるオイルシール構造において、リップシールとリップシールを固定するためのワッシャとを交互に配してリップシール間に圧力小空間を形成し、高圧側から低圧側への圧力差による流体の漏れを簡易内構造で防止できると共に、流体の特性や圧力等の条件に簡易に対応できるものである。
【0015】
また、本発明のオイルシール構造によれば、装置内が高圧となる圧縮機にも、装置内が低圧となる膨張機や真空ポンプにも対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のオイルシール構造が設けられるスクロール型流体機械の一例を示した説明図である。
図2】本発明の実施例に係る一方の側のオイルシール構造を示した拡大断面図である。
図3】本発明の実施例に係る他方の側のオイルシール構造を示した拡大断面図である。
図4】本発明に係るオイルシール構造のリップシールを示したものであり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
図5】本発明に係るオイルシール構造のワッシャを示したものであり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
図6】本発明に係るオイルシール構造のリップシールの摩耗した場合の状態を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施例について図面により説明する。
【0018】
本発明の実施例に係るオイルシール構造1が用いられるスクロール流体機械100は、例えば図1に示すような冷凍機用圧縮機であり、膨張機である。
【0019】
スクロール流体機械100は、筒状のハウジングと、該筒状のハウジングの開口側をふさぐハウジング蓋部からなるハウジング101を具備する。
【0020】
スクロール流体機械100が冷凍機用圧縮機である場合、前記ハウジング101によって画成された空間102は、流体の吸入口103と連通する低圧空間であり、駆動スクロール部材104と、該駆動スクロール部材104の回転に伴って回転し前記駆動スクロール部材104に対して相対的に旋回運動を行う従動スクロール部材105とによって画成される圧縮空間106と前記駆動スクロール部材104及び前記従動スクロール部材105の最外周において適宜連通する。
【0021】
前記圧縮空間106は、駆動スクロール部材104の回転に伴って相対的に旋回運動する従動スクロール部材105によって最外周から中心に向かってその容積が減少して吸入された流体を圧縮し、駆動スクロール部材104の中心部分において、前記駆動スクロール部材104をハウジング101に対して回転自在に保持する一方の回転軸107の中心を貫通する吐出口108と連通し、圧縮されて高圧となった流体を吐出するものである。
【0022】
したがって、前記スクロール流体機械100が冷凍機用圧縮機の場合、前記駆動スクロール部材104の一方の回転軸107の軸方向には、第1のオイルシール構造1Aを挟んで、吐出口108と連通する高圧側空間110と、前記空間102と連通する第1の低圧側空間111とが位置し、高圧側空間110と第1の低圧側空間111の間に本発明にかかる第1のオイルシール構造1Aが配置される。この場合、前記高圧側空間110の圧力は、例えばゲージ圧で0.8MPaであり、吸入口103と連通する前記空間102とつながる低圧側空間111の圧力は、例えばゲージ圧で0.2MPaであることから、第1のオイルシール構造1Aは、0.6MPaの差圧をシールするものである。
【0023】
前記第1のオイルシール構造1Aは、図2に示すように、第1のオイルシール受け114を介してハウジング101に固定され、この第1のオイルシール受け114に形成される装着溝116に、ワッシャ2とリップシール3とが軸方向に交互に複数段装着されて、バネワッシャ等の弾性手段4を介してリング5によって固定される。
【0024】
これによって、前記高圧側空間110と低圧側空間111との間を圧力的に遮断することができ、吐出口108を通過する高圧の流体の漏れを防止することができるものである。また、前記リップシール3に挟まれたワッシャ2によって複数の圧力小空間1.P2,P3,P4が画成され、P1>P2>P3>P4と段階的に減圧されて漏れが防止される。
【0025】
前記リップシール3は、例えば図4に示すもので、フッ素樹脂、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(テフロン(登録商標))を主成分とし各種充填剤を含ませることによって形成されることが望ましい。フッ素樹脂の材質は、耐油、耐冷媒、温度、相手材質、対応圧力、摺動速度などを考慮して最適な材質が選定されることが好ましい。また、リップシール3は、回転軸の直径Dよりも小さい内径D1を有するもので、回転軸107が挿通された場合に、その内周部分は一方側又は他方の側に傾斜する。
【0026】
ワッシャ2は、例えば図5に示すもので、その材質は、ステンレス、特にSUSによってプレス成形によって形成されるもので、その内径は、前記回転軸107の直径Dよりも大きい内径D2を有するものである。回転軸が挿入されたときリップシールの傾きを規制する役割もある。
【0027】
また、前記駆動スクロール104の他方の回転軸109の軸方向には、大気側(0MPa)と連通する大気圧側空間112と、前記空間102と連通する第2の低圧側空間113(ゲージ圧0.2MPa)とが位置し、高圧側の大気圧空間112と第2の低圧側空間113との間に本発明にかかる第2のオイルシール構造1Bが配置される。このオイルシール構造1Bは、例えば図3に示すように、他方の駆動軸109では、第2のオイルシール受け115を介して前記ハウジング101に固定され、他方の駆動軸109の外周部分において圧力を遮断する。
【0028】
これによって、前記大気圧空間112と低圧側空間113との間を圧力的に遮断することができるものである。また、前記リップシール3に挟まれたワッシャ2によって複数の圧力小空間1.P2,P3,P4が画成され、P1>P2>P3>P4と段階的に減圧されて遮断される。
【0029】
図6は、1つのリップシール3’が、摩耗によりその内径D1が回転軸109の外径Dと略等しくなった状態を示したものである。この場合、このリップシール3’での漏れ防止は、ここでラビリンス効果が発生することから漏れ防止となるものである。
【0030】
以上の構成のオイルシール構造1A,1Bにおいて、その両側の圧力差が大きい場合には、リップシール3の厚さを大きくしたり、段数を多くしたりして対応することが可能であり、またその両側の圧力差が小さい場合には、リップシール3の厚さを薄くしたり、段数を少なくしたりして材料費を節約することが可能となるものである。
【0031】
以上のように、本発明に係るオイルシール構造1A,1Bによれば、リップシール3とワッシャ2の2種類のみの構成として組み替えが容易であり、段数が少ない場合にはバネワッシャや圧入固定するためのリングの厚さ等を変化させることでいろいろな条件、特に条件の変更に対して直ぐ対応できるという効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0032】
1A,1B オイルシール構造
2 ワッシャ
3 リップシール
4 弾性手段
5 リング
100 スクロール型流体機械
101 ハウジング
102 空間
103 吸入口
107 一方の回転軸
108 吐出口
109 他方の回転軸
110 高圧側空間
111 低圧側空間
112 大気圧空間
113 低圧側空間
114 第1のオイルシール受け
115 第2のオイルシール受け
116 装着溝

図1
図2
図3
図4
図5
図6