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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157076
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】出汁の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20231019BHJP
   H05B 6/64 20060101ALI20231019BHJP
   H05B 6/80 20060101ALI20231019BHJP
   A23L 5/30 20160101ALI20231019BHJP
【FI】
A23L27/10 A
H05B6/64 J
H05B6/80 Z
A23L5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066744
(22)【出願日】2022-04-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年12月7日に http://agingbooster.com/lab/02/index.htmlにて公開
(71)【出願人】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】國井 勝之
(72)【発明者】
【氏名】野村 名都
【テーマコード(参考)】
3K090
4B035
4B047
【Fターム(参考)】
3K090AA02
3K090AB02
3K090BA01
3K090EB22
4B035LC01
4B035LE03
4B035LG38
4B035LG42
4B035LP01
4B035LP16
4B035LP22
4B047LB03
4B047LE01
4B047LG42
4B047LG55
4B047LP01
4B047LP05
4B047LP20
(57)【要約】
【課題】低温で抽出する場合でも、抽出時間を短くすることができ、かつ、雑味が増すことなく旨味成分がより抽出された出汁を製造することができる、出汁の製造方法を提供する。
【解決手段】出汁原料を40℃以下の液体に浸漬させて旨味成分を抽出する出汁の製造方法において、出汁原料を液体に浸漬させた浸漬液にマイクロ波を一定時間照射することにより、マイクロ波を照射しない場合と比べ短時間かつ高効率に旨み成分を抽出することを特徴とする出汁の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出汁原料を40℃以下の液体に浸漬させて旨味成分を抽出する出汁の製造方法において、前記出汁原料を前記液体に浸漬させた浸漬液にマイクロ波を一定時間照射することにより前記マイクロ波を照射しない場合と比べ短時間かつ高効率に旨み成分を抽出することを特徴とする、出汁の製造方法。
【請求項2】
前記浸漬液の内部温度よりも前記浸漬液の外部温度が低くなるように、前記マイクロ波の照射と同時に前記浸漬液の冷却も行う、請求項1に記載の出汁の製造方法。
【請求項3】
前記浸漬液の内部温度が、0℃より高く、かつ、25℃よりも低い範囲となるように、前記マイクロ波照射を行う、請求項1または2に記載の出汁の製造方法。
【請求項4】
前記浸漬液の外部温度が、-5℃以上、かつ、20℃よりも低い範囲となるように、前記マイクロ波照射を行う、請求項1または2に記載の出汁の製造方法。
【請求項5】
前記浸漬液の内部温度と外部温度との差が、5℃より高く、かつ、20℃よりも低い範囲となるように、前記マイクロ波の照射と同時に前記浸漬液の冷却も行う、請求項2に記載の出汁の製造方法。
【請求項6】
前記マイクロ波の照射を30分以上、かつ、4時間以下で行う、請求項1または2に記載の出汁の製造方法。
【請求項7】
前記出汁原料が、昆布類、および、節類または煮干しを合わせた出汁原料である、請求項1または2に記載の出汁の製造方法。
【請求項8】
前記出汁原料における前記節類または煮干しと昆布類との割合(前記節類または煮干しの重量/昆布類の重量)が2未満である、請求項7に記載の出汁の製造方法。
【請求項9】
昆布類に旨味調味料を添加した前記出汁原料を前記液体に浸漬させた浸漬液にマイクロ波を一定時間照射する、請求項1または2に記載の出汁の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出汁原料にマイクロ波を照射して出汁を製造する、出汁の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雑味を抑えた出汁の製造方法が開示されている。たとえば、出汁原料を60℃以上の熱水で抽出した抽出液を1.1倍以上に濃縮し、濃縮した抽出液を20℃以下に急冷することで、渋味が増すことなく後味の旨味に優れる出汁の製造方法が開示されている(特許文献1参照)。さらに、0~20℃の溶媒に昆布を浸漬し、10~30時間抽出することで、昆布だしを冷水で抽出する方法が開示されている(特許文献2参照)。
また、出願人は、食品にマイクロ波を照射して熟成させることで、食品の熟成感を向上させることができるとともに、熟成期間を短縮することができるマイクロ波熟成方法を開示している(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-208394号公報
【特許文献2】特許第6570193号公報
【特許文献3】特開2020-182456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、出汁原料を60℃以上の熱水で加熱する場合、雑味や苦みなどの旨味成分以外の成分も溶出してしまうという問題があった。また、特許文献2のように、水などの低温で旨味成分を抽出する場合、抽出に長い時間がかかってしまい、さらに、微生物により出汁が傷んでしまうという問題があった。
また、従来より、出汁原料から旨味成分をより効率的に抽出することができる抽出方法が希求されている。
このような状況において、発明者は、特許文献3に示すようなマイクロ波熟成技術を応用することで、今までにはない出汁の製造方法を検討し、鋭意研究の末、本発明を創作した。
【0005】
本発明は、低温で出汁原料から旨味成分を抽出する場合でも、抽出時間を短くすることができ、かつ、雑味を増すことなく旨味成分がより抽出された出汁を製造することができる、出汁の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の(1)ないし(9)に記載の出汁の製造方法を要旨とする。
(1)出汁原料を40℃以下の液体に浸漬させて旨味成分を抽出する出汁の製造方法において、前記出汁原料を前記液体に浸漬させた浸漬液にマイクロ波を一定時間照射することにより前記マイクロ波を照射しない場合と比べ短時間かつ高効率に旨み成分を抽出することを特徴とする、出汁の製造方法。
(2)前記浸漬液の内部温度よりも前記浸漬液の外部温度が低くなるように、前記マイクロ波を照射すると同時に、前記浸漬液の冷却も行う、上記(1)に記載の出汁の製造方法。
(3)前記浸漬液の内部温度が、0℃より高く、かつ、25℃よりも低い範囲となるように、前記マイクロ波を照射する、上記(1)または(2)に記載の出汁の製造方法。
(4)前記浸漬液の外部温度が、-5℃以上、かつ、20℃よりも低い範囲となるように、前記マイクロ波照射を行う、上記(1)または(2)に記載の出汁の製造方法。
(5)前記浸漬液の内部温度と外部温度との差が、5℃より高く、かつ、20℃よりも低い範囲となるように、前記マイクロ波を照射すると同時に、前記浸漬液の冷却も行う、上記(2)に記載の出汁の製造方法。
(6)前記マイクロ波の照射を30分以上、かつ、4時間以下で行う、上記(1)または(2)に記載の出汁の製造方法。
(7)前記出汁原料が、昆布類、および、節類または煮干しを合わせた出汁原料である、上記(1)または(2)に記載の出汁の製造方法。
(8)前記出汁原料における前記節類または煮干しと昆布類との割合(前記節類または煮干しの重量/昆布類の重量)が2未満である、上記(7)に記載の出汁の製造方法。
(9)昆布類に旨味調味料を添加した前記出汁原料を前記液体に浸漬させた浸漬液にマイクロ波を一定時間照射する、上記(1)または(2)に記載の出汁の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、出汁原料を浸漬させた浸漬液にマイクロ波を一定時間照射することで、低温で出汁原料から旨味成分を抽出する場合でも、抽出時間を短くすることができ、かつ、雑味が増すことなく旨味成分がより抽出された出汁を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係るマイクロ波熟成装置の構成図である。
図2】本実施例における出汁の抽出条件と、イノシン酸およびグルタミン酸の濃度との関係を示す表である。
図3】実施例1において測定した光吸収スペクトルを示すグラフである。
図4】実施例2において測定した光吸収スペクトルを示すグラフである。
図5】実施例3において測定した光吸収スペクトルを示すグラフである。
図6】実施例4において測定した光吸収スペクトルを示すグラフである。
図7】実施例5において測定した光吸収スペクトルを示すグラフである。
図8】実施例7,9において測定した光吸収スペクトルを示すグラフである。
図9】実施例10において測定した光吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(熟成の対象となる食品)
本発明は、出汁原料を水などの液体に浸漬させて出汁原料から旨味成分を抽出する際に、出汁原料を浸漬させた浸漬液にマイクロ波を一定時間照射することで、出汁原料から旨味成分を低温かつ短時間でより効率的に抽出することを可能とする出汁の製造方法である。出汁原料としては、一般的に用いられている材料であれば特に限定されないが、昆布類などグルタミン酸を豊富に含む食材、節類や煮干しなどイノシン酸を豊富に含む食材、または、椎茸などグアニル酸を豊富に含む食材などが挙げられる。出汁原料として、昆布類、または、節類もしくは煮干しをそれぞれ単独で用いる構成としてもよいが、この構成に限定されず、昆布類、並びに、節類および/または煮干しを合わせて用いる構成としてもよい。同様に、椎茸についても、単独で用いる構成としてもよいが、この構成に限定されず、椎茸を、昆布類、並びに/または、節類および/若しくは煮干しと合わせて用いる構成としてもよい。
【0010】
(出汁の製造方法)
従来、出汁原料から旨味成分を抽出し出汁を取る場合、熱湯で出汁原料を煮て旨味成分を煮出す方法と、比較的低温の水(常温の水や常温よりも低い冷水)に出汁原料を長時間浸漬させて旨味成分を抽出する方法とがある。熱湯で出汁原料を煮て旨味成分を煮出す方法では、旨味成分に加えて、苦味や渋味などの雑味も抽出されてしまうという問題があった。また、比較的低温の水に出汁原料を浸漬させて旨味成分を抽出する方法では、出汁の抽出に長時間かかってしまい、また微生物の繁殖により出汁が傷みやすいという問題もあった。
【0011】
本発明は、発明者が、出汁原料を浸漬させた浸漬液にマイクロ波を一定時間照射することで、比較的低温ながらも、短時間で効率的に出汁を抽出することができることを発見し、完成させたものである。また、発明者は、浸漬液にマイクロ波を照射して旨味成分を抽出することで、マイクロ波を照射しないで旨味成分を抽出する場合と比べて、雑味が増すことなく旨味成分をより多く抽出できることも発見した。以下、本発明の出汁の製造方法の実施形態を説明する。
【0012】
本実施形態に係るマイクロ波照射では、後述するマイクロ波熟成装置1を用いて、容器に入れた浸漬液にマイクロ波を比較的長時間(30分以上)照射し、出汁原料から旨味成分を抽出し出汁を取る。照射するマイクロ波の波長は、浸漬液の水分子を誘電加熱することができる波長であればよく、たとえば、2.4~2.5GHzなどとすることができる。また、本実施形態では、比較的低温で出汁原料から旨味成分を抽出するため、浸漬液の内部温度(浸漬液を構成する液体および出汁原料の温度)が0℃より高くかつ25℃よりも低い範囲内、より好ましくは5℃以上かつ20℃以下の範囲内となるように、マイクロ波照射の強度が制御される。また、後述するように、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、浸漬液を静置する庫内が冷却可能となっており、マイクロ波照射時の浸漬液の外部温度(庫内温度)が浸漬液の内部温度よりも低い温度となるように、好ましくは浸漬液の外部温度が-5℃以上かつ20℃よりも低い範囲内となるように、より好ましくは浸漬液の外部温度が0℃以上かつ10℃以下の範囲内となるように、庫内の冷却が行われ、この環境下で旨味成分の抽出が行われる。特に、本実施形態では、浸漬液の内部温度と外部温度との温度差が5℃より高くかつ20℃よりも低くなるように、より好ましくは10℃以上かつ15℃以下となるように、マイクロ波照射による浸漬液の加熱と庫内の冷却が行われる。また、本実施形態では、マイクロ波の照射が、通常の熱水抽出よりも長時間かつ通常の冷水抽出よりも短時間で行われる。具体的には、マイクロ波の照射を、30分以上かつ4時間以下で、より好ましくは1時間以上かつ2時間以下で行い、旨味成分を抽出する。なお、使用する出汁原料の量は、特に限定されないが、イリコと昆布との割合(イリコの重量/昆布の重量)を2未満、より好ましくは1.7未満とすることが望ましい。
【0013】
(マイクロ波熟成装置)
図1は、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1の構成図である。本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1は、図1に示すように、冷却部10、マイクロ波発振部20、マイクロ波熟成部30、制御部50、およびUVランプ60を備える。マイクロ波熟成装置1は、冷却部10の内部にマイクロ波熟成部30を内蔵している。本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1においては、出汁の製造のみならず、牛肉などの肉類(ハムなどの加工肉食品を含む)、魚介類、チーズなどの乳製品、枝豆(大豆)、コーヒー豆などの豆類、野菜類、果物類、麺類、パン類、ワインなどの酒類、発酵食品(味噌や醤油などの発酵調味料を含む)などの熟成も行うことができる。
【0014】
冷却部10は、冷却部10の内部空間を冷却する装置である。冷却部10は、図1に示すように、冷却器11、第1ファン12、冷却室13、および不図示の冷却室扉14を有している。本実施形態では、冷却器11が外部との熱交換を行うことで冷気を発生させ、発生した冷気を第1ファン12により冷却部10の内部の冷却室13内に送風する。これにより、冷却室13内を低温とすることがきできる。なお、後述するように、本実施形態では、出汁原料を浸漬した浸漬液の内部温度よりも、浸漬液の外部温度(庫内温度)が低くなるように、制御部50により、マイクロ波発振部20の動作や冷却室13内の温度が適宜制御されている。また、ユーザは、冷却室扉14を開くことで、冷却室13内に設置されているマイクロ波熟成部30に、容器に入れた浸漬液を出し入れすることができる。
【0015】
マイクロ波発振部20は、容器に入れた浸漬液に照射するためのマイクロ波を発振する。マイクロ波発振部20として、マグネトロンを使用した発振器を用いることもできるが、本実施形態では、マグネトロンと比べて高い周波数および出力安定度が得られる、半導体素子を用いたソリッドステート方式の発振器を用いる。マイクロ波発振部20は、周波数を2.4~2.5GHzの間で連続的に変化させて、マイクロ波を発振する。マイクロ波発振部20で発振されたマイクロ波は、ケーブル21を介して、マイクロ波熟成部30の照射口31から照射される。なお、マイクロ波の周波数を2.4~2.5GHzの間で連続的に変化させることでマイクロ波熟成部30での電磁界の分布が均一化されるため、浸漬液にも均一な分布でマイクロ波が照射され、浸漬液の均一加熱による旨味成分の抽出を促進することができる。
【0016】
マイクロ波熟成部30は、図1に示すように、照射口31、第2ファン32、熟成室33、および不図示の熟成室扉34を備える。ユーザは、熟成室扉34を開けることで、容器に入れた浸漬液を熟成室33に出し入れすることができる。
【0017】
熟成室33は、内面(内壁)の全ての面にマイクロ波を反射するための反射板が設置されたキャビティである。熟成室33の内面には、マイクロ波発振部20により発振されたマイクロ波を、熟成室33内に照射する照射口31が設置されている。本実施形態においては、照射口31に、小型で利得が高いパッチアンテナ(平面アンテナ)が取り付けられ、これによりマイクロ波発振部20により発振されたマイクロ波が熟成室33内に照射される。熟成室33には、テフロン(登録商標)やポリプロピレンなどのマイクロ波透過性材により構成された任意の形状の棚を設置してもよい。またステンレスなどの金属材料を使用する場合は、間隔が20mm以上の格子状の棚や、直径20mm以上の開口部を持つパンチングメタル形状の棚を設置しても良い。
【0018】
第2ファン32は、冷却室13内の冷気を熟成室33に送風する。本実施形態では、図1に示すように、第2ファン32が熟成室33の外側に取り付けられており、第2ファン32が取り付けられた熟成室33の側壁には、第1微小開口35が設けられている。第1微小開口35は、マイクロ波の波長よりも短い大きさで開口されており、たとえば本実施形態では、第1微小開口35の大きさを直径10mm以下としている。第1微小開口35により、熟成室33内に照射されたマイクロ波は遮断され、第2ファン32により送風された冷気のみが通過される。また、第1微小開口35と対向する熟成室33の側壁には、第1微小開口35と同様の径の、第2微小開口36が設けられている。第2微小開口36により、熟成室33に照射されたマイクロ波は遮断されるが、浸漬液との熱交換により温められた熟成室33内の空気が、第2微小開口36を通過して、冷却室13内へと排出される。第1微小開口35および第2微小開口36を、1または複数の側壁の大部分を占める面積に設け、通気性を高めてもよい。また、熟成室33を第1微小開口35および第2微小開口36が予め形成されたパンチングメタルを用いて構成することもでき、このようなパンチングメタルとして、φ10mmのステンレス板を用いることもできる。
【0019】
制御部50には、浸漬液の外部温度および内部温度がそれぞれ所定の温度となるように温度制御を行うプログラムが組み込まれている。具体的には、制御部50は、マイクロ波発振部20、冷却器11、第1ファン12、第2ファン32の動作を制御することで、マイクロ波発振部20によるマイクロ波の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32の風量を制御して温度制御を行う。たとえば、制御部50は、マイクロ波発振部20のマイクロ波の出力を高くすることで浸漬液の内部温度を高くすることができ、また、冷却器11による冷気の温度を低くし、あるいは、第1ファン12および第2ファン32の風量を高くすることで浸漬液の外部温度を低くすることができる。
【0020】
また、制御部50は、マイクロ波発振部20によるマイクロ波の発振を制御することができる。たとえば、制御部50は、マイクロ波発振部20を一定の出力値および一定の周波数に固定して発振させる固定照射に加えて、短い周期(たとえば数ミリ秒周期)でマイクロ波発振部20に発振と停止とを繰り返させる間欠照射や、マイクロ波発振部20の周波数を経時的に変化させる掃引照射や、マイクロ波発振部20の出力値を経時的に変化させる連続照射を行わせることができる。また、制御部50は、浸漬液で旨味成分を抽出している間、マイクロ波を連続して照射する必要もなく、少なくとも30分以上マイクロ波の照射が行なわれる構成とすることができる。さらに、制御部50は、マイクロ波の照射のON-OFFを一定時間(たとえば数時間)ごとに切り替えるように(間欠照射の場合は、間欠照射を行う期間と間欠照射を行わない期間とを一定時間ごとに切り替えるように)、マイクロ波発振部20を制御する構成とすることもできる。
【0021】
また、制御部50は、浸漬液の内部温度や外部温度を測定する温度センサ(例えば、マイクロ波環境下においても接触式で温度計測が可能な蛍光式光ファイバー温度計(安立計器株式会社製)や、非接触により赤外線や可視光線の強度を測定する放射型温度センサ)と接続し、温度センサの計測結果に基づいて、適宜温度制御を行う構成とすることもできる。
【0022】
さらに、制御部50は、熟成室33内に設置した非接触式の分光光度計から得た、浸漬液の特定の波長(たとえば旨味成分であるイノシン酸やグアニル酸などの核酸に対応する250nmあるいは260nmの波長)での吸光度に応じて、マイクロ波発振部20のマイクロ波の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32の風量を制御する構成とすることもできる。また、ユーザが操作ボタンやタッチパネル等の入力装置である操作部40を操作して、出汁原料の種類(たとえば、昆布類、節類、煮干しなど)や大きさなどの出汁原料の情報を入力することで、制御部50は、浸漬液の内部温度および外部温度の調整を自動で行う構成とすることもできる。
【0023】
このように、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、加熱機構(マイクロ波発振部20およびマイクロ波熟成部30)による浸漬液の加熱と、冷却機構(冷却部10および第2ファン32)による浸漬液の表面の冷却とを同時に行うことで、浸漬液の外部温度を低くしながらも、浸漬液の内部温度を高くすることができる。具体的には、浸漬液の外部温度よりも、浸漬液の内部温度を高くすることができる。特に、マイクロ波照射により浸漬液を誘電加熱することで、浸漬液の内部まで均一に加熱することができ、旨味成分の抽出を促進することができる。また、冷却部10および第2ファン32の動作により浸漬液を表面から冷却することで、浸漬液の表面における菌の増殖を抑制することもできる。
【0024】
なお、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1は、ユーザが操作するための操作部40を備えており、ユーザは操作部40を操作することで、上述した出汁の抽出温度よりも高い温度で出汁を抽出させる高温抽出モードを指示することもできる。ユーザにより高温抽出モードが指示された場合、制御部50は、浸漬液の内部温度を、たとえば25℃を超えた温度とすることもできる。
【0025】
UVランプ60は、紫外線を発生させる装置である。本実施形態では、冷却室13や熟成室33を循環する冷気に紫外線を照射することで、冷気中に浮遊する菌を殺菌することができ、浸漬液の表面や冷却室13や熟成室33に存在する菌の増殖をより抑制することができる。また、熟成室33の一部(少なくともUVランプ60側の一部)の壁部において紫外線が通過する構成としたり、UVランプを熟成室33に直接設置したりすることもでき、その場合は、出汁の抽出中に、UVランプ60で発生させた紫外線を、熟成室33内に置かれた浸漬液の表面に直接照射することができる。このように、出汁の抽出中に、紫外線を浸漬液の表面に照射することで、浸漬液の表面に存在する菌の増殖をより抑制することができる。なお、制御部50は、UVランプ60の動作も制御することができる。たとえば、制御部50は、熟成を開始したタイミングまたは熟成室扉34を(開けた後に)閉じたタイミングから、一定時間(たとえば数時間)、UVランプ60に紫外線を照射させるように制御を行うことができる。
【0026】
(実施例)
次に、本発明に係る出汁の製造方法の実施例について説明する。
本実施例(実施例1~13)では、出汁原料として、イリコ(伊吹産煮干イリコ(特)大羽、頭とワタは除く)、および/または、昆布(日高昆布、北海道産、ヒロコンフーズ株式会社)を用い、出汁原料を水道水に浸漬させた浸漬液に、上述したマイクロ波熟成装置1を用いてマイクロ波の照射を行うことで旨味成分の抽出を行った。
そして、旨味成分が抽出された浸漬液(出汁)を攪拌し、フィルタ濾過した後に希釈し、希釈した出汁について、旨味成分であるグルタミン酸やイノシン酸の濃度を測定した。なお、グルタミン酸濃度の測定は、L-グルタミン酸測定キット「ヤマサ」NEO(ヤマサ醤油株式会社製)を用いて行い、また、イノシン酸濃度の測定は、UV検出器を備えたHPLCを用いて行った。
また、本実施例では、イノシン酸の濃度を推定するために、マイクロ波を照射して旨味成分を抽出した実施例の出汁と、マイクロ波を照射しないで旨味成分を抽出した比較例の出汁を用い、イノシン酸が吸光する250nmの波長での吸光度を測定した。
さらに、本実施例では、実施例の出汁と比較例の出汁について、220~320nmの波長域での吸光度を測定した。なお、本実施例では、精度の高い光吸収スペクトルを作成するために、所定の希釈倍数で希釈した実施例および比較例の出汁を用いて220~320nmの波長域で吸光度を測定し、実施例および比較例の光吸収スペクトルを作成した。なお、220~320nmの吸光度を測定したのは、出汁原料から溶出した複数種類の核酸、アミノ酸、水溶性高分子などの大まかな濃度を把握するためである。
【0027】
図2に、本実施例(実施例1~13)での出汁の抽出条件と、抽出されたグルタミン酸およびイノシン酸の濃度を示す。なお、本実施例においては、標準抽出条件として、イリコ4gおよび昆布4gを合わせた出汁原料を400mlの水道水400mlに浸漬させた浸漬液を、内部温度が15℃、外部温度が5℃となるように、マイクロ波を照射するとともに冷却部10および第2ファン32による冷却を行って、1時間、旨味成分の抽出を行った。以下の実施例では、特に言及する場合を除いて、標準抽出条件で旨味成分の抽出を行った。なお、図2においては、標準抽出条件と異なる条件をグレーで表示している。
【0028】
(実施例1)
実施例1では、出汁原料として昆布4gのみを水道水400mlに浸漬させ、この浸漬液に、浸漬液の内部温度が10℃、浸漬液の外部温度が0℃となるように、1時間、マイクロ波を照射するとともに冷却部10および第2ファン32による冷却を行った。また、比較例1として、出汁原料として昆布4gのみを水道水400mlに浸漬させ、この浸漬液を、マイクロ波を照射せずに外部温度10℃の環境で1時間静置した(この場合、浸漬液の内部温度も10℃となる)。
【0029】
そして、抽出開始から1時間後に浸漬液を攪拌し、フィルタ濾過した後に8倍に希釈した浸漬液(出汁)について、昆布の旨味成分であるグルタミン酸の濃度を測定した。下記表1に、実施例1および比較例1におけるグルタミン酸濃度の測定結果を示す。
【表1】
表1に示すように、マイクロ波照射を行って旨味成分を抽出した実施例1では、マイクロ波照射を行わずに旨味成分を抽出した比較例1と比べて、旨味成分であるグルタミン酸が44%増加した(1.44倍となった)。
【0030】
また、希釈した実施例1および比較例1の出汁について、220~320nmにおける吸光度を測定し光吸収スペクトルの作成も行った。図3は、実施例1および比較例1において測定した光吸収スペクトルを示すグラフである。また、図3に示す例では、参考例1として、グルタミン酸ナトリウムの濃度が125ppmとなるように、グルタミン酸ナトリウムのみを水道水に溶解させたグルタミン酸ナトリウム水溶液の光吸収スペクトルも例示している。図3に示すように、実施例1では、比較例1と比べて、220~260nmの波長域における吸光度が低くなっており、出汁原料からの核酸、アミノ酸、水溶性高分子などの溶出が抑制されているとの結果が得られた。なお、参考例1に示すように、グルタミン酸は220~320nmの波長域での光の吸収が少なく、グルタミン酸の量が光吸収スペクトルにほぼ影響しないため、図3における光吸収スペクトルは、雑味成分を含むグルタミン酸以外の成分に起因するものと考えられる。そのため、昆布のみを出汁原料として、マイクロ波を照射して旨味成分を抽出した場合には、マイクロ波を照射しない場合と比べて、グルタミン酸の抽出量を増加させることができるとともに、雑味などの成分の溶出を抑えられることがわかった。
【0031】
(実施例2)
実施例2では、出汁原料としてイリコ4gのみを水道水400mlに浸漬させ、この浸漬液に、浸漬液の内部温度が15℃、浸漬液の外部温度が5℃となるように、1時間、マイクロ波を照射するとともに冷却部10および第2ファン32による冷却を行った。また、比較例2として、出汁原料としてイリコ4gのみを水道水400mlに浸漬させて、この浸漬液にマイクロ波を照射せずに、外部温度15℃の環境で1時間静置した(この場合、浸漬液の内部温度も15℃となる)。
【0032】
そして、抽出開始から1時間後に浸漬液を攪拌し、フィルタ濾過した後に8倍に希釈した浸漬液(出汁)について、イリコの旨味成分であるイノシン酸の濃度を測定した。下記表2に、実施例2および比較例2におけるイノシン酸濃度の測定結果を示す。
【表2】
表2に示すように、マイクロ波照射を行って旨味成分を抽出した実施例2では、マイクロ波照射を行わずに旨味成分を抽出した比較例2と比べて、旨味成分であるイノシン酸が31%増加したことがわかった。
また、希釈した実施例2および比較例2の出汁について、イノシン酸が吸光する250nmにおける吸光度を測定した結果、比較例2では0.56、実施例2では0.65との結果が得られ、出汁原料がイリコだけの場合には、マイクロ波を照射することで、イノシン酸濃度が増加することが裏付けられた。
【0033】
さらに、希釈した実施例2および比較例2の出汁について、220~320nmにおける吸光度を測定し光吸収スペクトルの作成も行った。図4は、希釈した実施例2および比較例2において測定した光吸収スペクトルを示すグラフである。また、図4に示す例では、参考例2として、イノシン酸ナトリウムの濃度が100ppmとなるように、イノシン酸ナトリウムのみを水道水に溶解させたイノシン酸ナトリウム水溶液の光吸収スペクトルも例示している。図4に示すように、実施例2では、比較例2と比べて、220~280nmの波長域における吸光度が高くなっており、出汁原料から核酸、アミノ酸、水溶性高分子が多く溶出したとの結果が得られた。ただ、参考例2に示すように、イノシン酸は核酸の一種であり250nm付近の光を吸収する性質があるため、図4に示す光吸光スペクトルでは、イリコから溶出したイノシン酸の量が光吸収スペクトルに現れたと考えられる。すなわち、図4に示す光吸収スペクトルの測定結果は上記表2のイノシン酸濃度の測定結果と相関しており、イリコにおいては、マイクロ波の照射を行うことでイノシン酸の抽出量を増加させる効果があることがわかったが、雑味などの成分の溶出を抑制する効果までは確認できなかった。
【0034】
(実施例3)
実施例3では、標準抽出条件で出汁の製造を行った。具体的には、出汁原料としてイリコ4gおよび昆布4gを水道水400mlに浸漬させて、この浸漬液に、浸漬液の内部温度が15℃、浸漬液の外部温度が5℃となるように、1時間、マイクロ波を照射するとともに冷却部10および第2ファン32による冷却を行った。また、比較例3として、出汁原料としてイリコ4gおよび昆布4gを水道水400mlに浸漬させて、この浸漬液を外部温度15℃の環境で1時間静置した(この場合、浸漬液の内部温度も15℃となる)。
【0035】
そして、抽出開始から1時間後に浸漬液を攪拌し、フィルタ濾過した後に9倍に希釈した浸漬液(出汁)についてイノシン酸濃度およびグルタミン酸濃度を測定した。下記表3に、実施例3および比較例3におけるイノシン酸濃度およびグルタミン酸濃度の測定結果を示す。
【表3】
表3に示すように、マイクロ波を照射した実施例3では、マイクロ波の照射を行わなかった比較例3に対して、イリコに多く含まれる旨味成分であるイノシン酸は19%増加し、また、昆布に多く含まれる旨味成分であるグルタミン酸は231%増加した(3.31倍となった)。特に、昆布だけで出汁を取った実施例1と比べた場合、昆布とイリコで合わせ出汁を取った実施例3では、グルタミン酸の抽出効率が大きく向上(1.44倍から3.31倍への向上)した。
なお、希釈した実施例3および比較例3の出汁について、イノシン酸が吸光する250nmにおける吸光度を測定した結果、比較例3では0.33、実施例3では0.39との結果が得られ、吸光度の面からも、昆布とイリコとの合わせ出汁の場合に、マイクロ波を照射することで、イノシン酸が増加することが確認された。
【0036】
また、希釈した実施例3および比較例3の出汁について、220~320nmにおける吸光度を測定し光吸収スペクトルの作成も行った。図5は、実施例3および比較例3において測定した光吸収スペクトルを示すグラフである。図5に示すように、実施例3では、比較例3と比べて、イノシン酸の溶解量が増えているにもかかわらず、240nm以下の波長域での吸光度が低くなっており、出汁原料からの雑味などの旨味成分以外の成分の溶出が抑制されていることがわかった。
【0037】
これらグルタミン酸濃度の測定結果および光吸収スペクトルの結果から、出汁原料としてイリコと昆布とを合わせた出汁原料を用いた場合、マイクロ波を照射することで、イノシン酸およびグルタミン酸の抽出が促進され、特に、グルタミン酸の抽出量が倍増する一方、雑味などを含む成分の溶出を抑制することができることがわかった。
【0038】
(実施例4~6)
上述した実施例3では、浸漬液の内部温度が15℃、外部温度が5℃となるようにマイクロ波照射を行った。これに対して、実施例4では、浸漬液の内部温度が20℃、外部温度が5℃となるようにマイクロ波照射を行ったこと以外は、実施例3と同じ条件で出汁の製造を行った。また、実施例5では、浸漬液の内部温度が20℃、浸漬液の外部温度が10℃となるようにマイクロ波照射を行ったこと以外は、実施例3と同じ条件(浸漬液の内部温度と外部温度の差も10℃と実施例3と同じ)で出汁の製造を行った。さらに、実施例6では、浸漬液の内部温度が5℃、浸漬液の外部温度が-5℃となるようにマイクロ波照射を行ったこと以外は、実施例3と同じ条件(浸漬液の内部温度と外部温度の差も10℃と実施例3と同じ)で出汁の製造を行った。なお、比較例4,5として、マイクロ波を照射せずに、浸漬液を外部温度20℃の環境で1時間静置し(この場合、浸漬液の内部温度も20℃となる)、比較例6として、マイクロ波を照射せずに、浸漬液を外部温度5℃の環境で1時間静置した(この場合、浸漬液の内部温度も5℃となる)。
【0039】
そして、実施例4~6および比較例4~6の浸漬液を、抽出開始から1時間後に攪拌し、フィルタ濾過した後に9倍に希釈した浸漬液(出汁)について、グルタミン酸およびイノシン酸の濃度を測定した。下記表4に、実施例4~6および比較例4~6におけるグルタミン酸およびイノシン酸の濃度の測定結果を示す。なお、下記表4においては、抽出条件として、抽出時の浸漬液の内部温度および外部温度についても併せて記載する。
【表4】
表4に示すように、マイクロ波を照射して旨味成分を抽出した実施例4~6では、マイクロ波の照射を行わず旨味成分を抽出した比較例4~6と比べて、グルタミン酸がそれぞれ70%、285%、43%上昇し、また、旨味成分であるイノシン酸もそれぞれ13%、13%、4%上昇した。
また、希釈した実施例4および比較例4の出汁について250nmにおける吸光度を測定した結果、比較例4では0.32、実施例4では0.37との結果が得られた。同様に、希釈した実施例5および比較例5の出汁について250nmにおける吸光度を測定した結果、比較例5では0.33、実施例5では0.39との結果が得られた。このように、実施例4,5では、イリコと昆布とを合わせた出汁原料を用い、マイクロ波を照射した場合でも、イノシン酸の抽出量が増加することが吸光度の点からも確認できた。
【0040】
さらに、浸漬液の外部温度と内部温度との温度差が同じ10℃である実施例5と実施例6とを比べると、浸漬液の内部温度が20℃と高い実施例5のほうが、マイクロ波を照射することで抽出されたグルタミン酸の増加率が高くなった。このことから、浸漬液の内部温度を20℃まで高くしても、マイクロ波照射によるグルタミン酸の抽出効率の向上は維持されることがわかった。なお、図示していないが、浸漬液の内部温度を25℃を超える温度とした場合、雑味などが多く抽出されてしまうため、浸漬液の内部温度は20℃以下とすることが好ましい。また、浸漬液の内部温度を0℃を下回る温度とした場合、旨味成分の抽出に長時間かかってしまうため、浸漬液の内部温度は0℃以上とすることが好ましい。
【0041】
さらに、浸漬液の内部温度を同じ20℃とした実施例5と実施例4とを比べると、浸漬液の内部温度と外部温度との温度差が10℃と小さい実施例5のほうが、マイクロ波を照射することで抽出されたグルタミン酸の増加率が高くなった。このことから、浸漬液の内部温度と外部温度との温度差を15℃を超える範囲まで大きくしてしまうと、マイクロ波照射によるグルタミン酸の抽出効率が低くなってしまうことがわかった。なお、図示していないが、浸漬液の内部温度と外部温度との温度差を5℃を下回る温度とした場合も、マイクロ波照射によるグルタミン酸の抽出効率が低くなることがわかった。
加えて、マイクロ波を照射して旨味成分を抽出した実施例4~6では、マイクロ波の照射を行わず旨味成分を抽出した比較例4~6と比べて、外気と接する面の温度が低いため、出汁が微生物により傷んでしまうことを抑制することもできる。
【0042】
また、希釈した実施例4,5および比較例4,5の出汁について、220~320nmにおける吸光度を測定し光吸収スペクトルの作成も行った。図6は、実施例4および比較例4において測定した光吸収スペクトルを示すグラフであり、図7は、実施例5および比較例5において測定した光吸収スペクトルを示すグラフである。図6に示すように、実施例4では、比較例4と比べて、240~280nmの波長域における吸光度が高く、出汁原料からの核酸、アミノ酸、水溶性高分子などの溶出が多くなったとの結果が得られた。同様に、図7に示すように、実施例5でも、比較例5と比べて、240~280nmの波長域における吸光度が高く、出汁原料からの核酸、アミノ酸、水溶性高分子などの溶出が多くなったとの結果が得られた。
【0043】
さらに、標準抽出条件で出汁を抽出した実施例3と比べると、内部温度が20℃と高い実施例5ではグルタミン酸濃度の上昇率が281%増と実施例3と同様に高くなったのに対して、内部温度と外部温度との温度差を15℃と大きくした実施例4では、グルタミン酸濃度の上昇率が70%増と低くなっており、このことから、内部温度と外部温度との温度差を10℃以下とすることでグルタミン酸の抽出がより促進されることがわかった。また、実施例3と比べて、実施例5では、外部温度および内部温度がそれぞれ5℃ずつ高いため、グルタミン酸の抽出効率は上昇したが、光吸収スペクトルを見ると240nm以下の吸光度も高くなっており、雑味などの成分の溶出も促進されたものと考えられる。このような結果から、実施例3の標準抽出条件のほうが、実施例4,5の抽出条件よりも、雑味を増やさないで旨味成分を抽出できることがわかった。
【0044】
(実施例7~9)
実施例7~9では、抽出時間を変えてマイクロ波照射を行ったこと以外は、実施例3と同じ抽出条件で出汁の製造を行った。具体的には、実施例7~9では、出汁原料としてイリコ4gおよび昆布4gを水道水400mlに浸漬させ、この浸漬液に、浸漬液の内部温度が15℃、浸漬液の外部温度が5℃となるように、30分(実施例7)、2時間(実施例8)または4時間(実施例9)、マイクロ波を照射するとともに、冷却部10および第2ファン32による冷却を行った。また、比較例7~9として、出汁原料としてイリコ4gおよび昆布4gを水道水400mlに浸漬させ、この浸漬液にマイクロ波を照射せずに、外部温度15℃の環境で30分(比較例7)、2時間(比較例8)、または4時間(比較例9)静置した。さらに、参考例3として、出汁原料としてイリコ4gおよび昆布4gを水道水400mlに浸漬させて、この浸漬液を沸騰後5分間保持し旨味成分を抽出した(以下、熱水抽出ともいう。)。
【0045】
そして、抽出開始から30分後、2時間後または4時間後に浸漬液を攪拌し、フィルタ濾過した後に9倍に希釈した浸漬液(出汁)について、グルタミン酸およびイノシン酸の濃度を測定した。下記表5に、抽出時間を30分とした実施例7および比較例7、抽出時間を2時間とした実施例8および比較例8、抽出時間を4時間とした実施例9および比較例9、および熱水抽出した参考例3における測定結果を示す。なお、下記表5においては、抽出条件として、抽出時間についても併せて記載している。
【表5】
表5に示すように、マイクロ波照射を行って旨味成分を30分抽出した実施例7では、マイクロ波の照射を行わずに旨味成分を30分抽出した比較例7と比べて、旨味成分であるグルタミン酸の抽出量が73%上昇したことがわかった。また、マイクロ波の照射を行って旨味成分を2時間抽出した実施例8では、マイクロ波の照射を行わずに旨味成分を2時間抽出した比較例8と比べて、旨味成分であるグルタミン酸の抽出量が53%上昇したことがわかった。さらに、マイクロ波の照射を行って旨味成分を4時間抽出した実施例9では、マイクロ波の照射を行わずに旨味成分を4時間抽出した比較例9と比べて、旨味成分であるグルタミン酸の抽出量が258%上昇したことがわかった。
また、希釈した実施例7および比較例7の出汁について、イノシン酸が吸光する250nmにおける吸光度を測定した結果、比較例7では0.26、実施例7では0.25との結果が得られた。同様に、希釈した実施例9および比較例9の出汁について、イノシン酸が吸光する250nmにおける吸光度を測定した結果、比較例9では0.48、実施例9では0.52との結果が得られた。
これらのことから、マイクロ波照射によるグルタミン酸の抽出では、少なくとも抽出時間が4時間まで抽出効率の向上が認められることがわかった。なお、実施例7~9および比較例7~9において、イノシン酸は、マイクロ波を照射したほうが、マイクロ波を照射しない場合よりも多く抽出されたが、その差は小さいものであった。
【0046】
また、希釈した実施例7,9、比較例7,9および参考例3の出汁について、220~320nmにおける吸光度を測定し光吸収スペクトルの作成も行った。ここで、図8(A)は、抽出時間を30分とした実施例7および比較例7における光吸収スペクトルを示し、図8(B)は、抽出時間を4時間とした実施例9および比較例9における光吸収スペクトルを示し、図8(C)は、熱水抽出した参考例3における光吸収スペクトルを示す。図8(A)に示すように、抽出時間を30分とした場合、マイクロ波を照射した実施例7では、マイクロ波を照射していない比較例7と比べて、220~320nmの波長域全体における吸光度が低く、出汁原料からの核酸、アミノ酸、水溶性高分子などの溶出が抑制されていることがわかった。一方、図8(B)に示すように、抽出時間を4時間とした場合、マイクロ波を照射した実施例9では、マイクロ波を照射していない比較例9と比べて、220~260nmの波長域全体における吸光度が高く、出汁原料からの核酸、アミノ酸、水溶性高分子などの溶出が多くなったとの結果が得られた。
【0047】
また、実施例7と実施例9とを比較すると、抽出時間が4時間の実施例9では、抽出時間が30分の実施例7と比べて、220~280nmの波長域において吸光度が高くなった。これらのことから、抽出時間を長くすることで、旨味成分であるグルタミン酸およびイノシン酸の抽出量は増加する一方、雑味などの旨味成分以外の成分の溶出も増大することがわかった。さらに、実施例9と参考例3とを比べると、マイクロ波照射を4時間行った実施例9と、熱水抽出を行った参考例3とで、光吸収スペクトルは類似した形となり、マイクロ波照射を4時間行うことで、出汁原料からの旨味成分の抽出はほぼ完了すると考えられる。
【0048】
(実施例10)
実施例10では、イリコに代えて、旨味調味料であるイノシン酸ナトリウムを添加してマイクロ波の照射を行ったこと以外は、実施例3と同じ抽出条件で出汁の製造を行った。具体的には、実施例10では、イノシン酸ナトリウムを100ppmとなるように水道水に添加した水溶液400mlに、昆布4gを浸漬させ、この浸漬液に、浸漬液の内部温度が15℃、浸漬液の外部温度が5℃となるように、1時間、マイクロ波を照射するとともに冷却部10および第2ファン32による冷却を行った。また、比較例10として、イノシン酸ナトリウムを100ppmとなるように水道水に添加した水溶液400mlに昆布4gを浸漬させた浸漬液を、外部温度15℃で1時間静置した。
【0049】
そして、抽出開始から1時間後に浸漬液を攪拌し、フィルタ濾過した後に9倍に希釈した浸漬液(出汁)のグルタミン酸の濃度を測定した。下記表6に、実施例10および比較例10におけるグルタミン酸の濃度の測定結果を示す。
【表6】
上記表6に示すように、マイクロ波照射を行って旨味成分を抽出した実施例10では、マイクロ波照射を行わずに旨味成分を抽出した比較例10と比べて、旨味成分であるグルタミン酸の抽出量が28%上昇した。このように、イリコの代わりにイノシン酸ナトリウムを添加した場合も、グルタミン酸の抽出量を増加させることができることがわかった。
また、希釈した実施例10および比較例10の出汁について250nmにおける吸光度を測定した結果、実施例10および比較例10でともに0.33となり、イノシン酸の濃度がほぼ同じであることがわかった。
【0050】
さらに、希釈した実施例10および比較例10の出汁について、220~320nmにおける吸光度を測定し光吸収スペクトルの作成も行った。図9は、実施例10および比較例10において測定した光吸収スペクトルを示すグラフである。図9に示すように、マイクロ波照射を行って旨味成分を抽出した実施例10では、マイクロ波照射を行わずに旨味成分を抽出した比較例10と比べて、225nmよりも短波長域での吸光度が低くなった。イノシン酸の溶解量がほぼ変化していないことを加味すると、実施例10では、比較例10と比べて、出汁原料からの雑味などの旨味成分以外の成分の溶出が抑制されていることがわかった。
【0051】
このように、グルタミン酸濃度の測定結果および光吸収スペクトルの結果から、イリコの代わりにイノシン酸を添加した場合も、イリコを添加した実施例3と同様に、マイクロ波照射を行うことで、グルタミン酸の抽出を促進することができるとともに、雑味などの成分の溶出を抑制することができる効果があるものと考えられる。
【0052】
(実施例11~13)
実施例11~13では、使用する出汁原料の量を変えたこと以外は、実施例3と同じ抽出条件で出汁の製造を行った。具体的には、上述した実施例3では、出汁原料としてイリコ4gおよび昆布4gを水道水400mlに浸漬させて出汁の製造を行った。これに対し、実施例11では、出汁原料としてイリコ5gおよび昆布3gを水道水400mlに浸漬させた浸漬液に、浸漬液の内部温度が15℃、浸漬液の外部温度が5℃となるように、1時間、マイクロ波を照射するとともに冷却部10および第2ファン32による冷却を行った。また、実施例12では、出汁原料としてイリコ3gおよび昆布5gを水道水400mlに浸漬させた浸漬液に、浸漬液の内部温度が15℃、浸漬液の外部温度が5℃となるように、1時間、マイクロ波を照射するとともに冷却部10および第2ファン32による冷却を行った。さらに、実施例13では、出汁原料としてイリコ2gおよび昆布6gを水道水400mlに浸漬させた浸漬液に、浸漬液の内部温度が15℃、浸漬液の外部温度が5℃となるように、1時間、マイクロ波を照射するとともに冷却部10および第2ファン32による冷却を行った。なお、比較例11としてイリコ5gおよび昆布3gを水道水400mlに浸漬させた浸漬液を、比較例12としてイリコ3gおよび昆布5gを水道水400mlに浸漬させた浸漬液を、比較例13として出汁原料としてイリコ2gおよび昆布6gを水道水400mlに浸漬させた浸漬液を、それぞれ外部温度15℃の環境で1時間静置した(この場合、浸漬液の内部温度も15℃となる)。
【0053】
そして、抽出開始から1時間後に浸漬液を攪拌し、フィルタ濾過した後に9倍に希釈したグルタミン酸およびイノシン酸の濃度を測定した。下記表7に、実施例11~13および比較例11~13におけるグルタミン酸およびイノシン酸の濃度の測定結果を示す。
【表7】
上記表7に示すように、マイクロ波照射を行って旨味成分を抽出した実施例11~13では、マイクロ波照射を行わずに旨味成分を抽出した比較例11~13と比べて、旨味成分であるグルタミン酸の抽出量がそれぞれ20%、16%、41%上昇した。また、イノシン酸の抽出量も、マイクロ波照射を行って旨味成分を抽出した実施例11~13では、マイクロ波照射を行わずに旨味成分を抽出した比較例11~13と比べて、それぞれ8%、0%、18%上昇した。このように、イリコと昆布の割合を、イリコの重量/昆布の重量で2未満としている場合には、マイクロ波照射を行うことで、グルタミン酸およびイノシン酸の抽出量を増加させることができることがわかった。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る出汁の製造方法では、出汁原料を液体に浸漬させて旨味成分を抽出する場合に、出汁原料を浸漬させた浸漬液にマイクロ波を照射することで、比較的低温であっても、30分から4時間という短時間で、旨味成分をより高い抽出効率で抽出することが可能となる。特に、浸漬液の内部温度よりも浸漬液の外部温度が低くなるように、より好ましくは、浸漬液の内部温度を0℃より高く、かつ、25℃よりも低い範囲内とし、浸漬液の外部温度を-5℃以上、かつ、20℃よりも低い範囲内とし、浸漬液の内部温度と外部温度との差を5℃より高く、かつ、20℃よりも低い範囲となるようにして、マイクロ波の照射と同時に浸漬液の冷却も行うことで、旨味成分の抽出をより効率的に行うことが可能となる。また、上述した実施例1,3のように、本実施形態に係る出汁の製造方法では、昆布類を出汁原料として用いた場合、旨味成分であるグルタミン酸の抽出効率を高めることができるとともに、昆布類に含まれる雑味などの成分の溶出を抑制することができた。これは、昆布類に含まれる成分のうち、グルタミン酸についてはマイクロ波の吸収効率が相対的に高く、雑味などの成分(たとえば多糖など)ではマイクロ波の吸収効率が相対的に低いため、低温下においてもグルタミン酸の溶出が促進される一方、雑味などの旨味成分以外の成分は低温下であるため溶出が抑制されたためと考える。また、本実施形態では、節類または煮干しにマイクロ波を照射した場合に、グルタミン酸と比べると少ないが、イノシン酸の抽出効率の向上も確認できた。
【0055】
また、本実施形態では、出汁原料を昆布類、および、節類または煮干しを合わせて出汁を取ることで、昆布類単体で出汁を取る場合と比べて、グルタミン酸の抽出効率をより高くすることができた。特に、節類または煮干しと昆布類との割合(節類または煮干しの重量/昆布類の重量)を2未満とすることで、旨味成分の抽出をより効率的に行うことができた。これらのことから、イノシン酸はマイクロ波照射によるグルタミン酸の抽出を高める効果、あるいは、昆布からのグルタミン酸以外の成分の溶出を抑制する効果があるものと考えられ、グルタミン酸を多く含む出汁原料と、イノシン酸を多く含む出汁原料とを合わせて出汁を取ることで、グルタミン酸の抽出効率や雑味などの抑制効果を相乗的に高めることができると考えられる。また、上述した実施例では、出汁原料として、昆布類、および、節類または煮干しを用いたが、椎茸が主に含む旨味成分であるグアニル酸は、節類または煮干しに多く含まれるイノシン酸と同じ核酸であり、マイクロ波の吸収効率が同程度であるため、イノシン酸と同様に、マイクロ波を照射した場合にグアニル酸の抽出効率の向上も得られるものと考えられる。
【0056】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0057】
1…マイクロ波熟成装置
10…冷却部
11…冷却器
12…第1ファン
13…冷却室
20…マイクロ波発振部
21…ケーブル
30…マイクロ波熟成部
31…照射口
32…第2ファン
33…熟成室
34…熟成室扉
35…第1微小開口
36…第2微小開口
37…網皿
38…チョーク構造
39…照明部
40…操作部
50…制御部
60…UVランプ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9