(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157105
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】同軸電気コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 24/50 20110101AFI20231019BHJP
【FI】
H01R24/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066792
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】390005049
【氏名又は名称】ヒロセ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138140
【弁理士】
【氏名又は名称】藤岡 努
(72)【発明者】
【氏名】岸 修人
(72)【発明者】
【氏名】金子 翼
【テーマコード(参考)】
5E223
【Fターム(参考)】
5E223AA13
5E223AB43
5E223AB65
5E223AB72
5E223AC21
5E223AC37
5E223BA17
5E223BA48
5E223CA13
5E223CC09
5E223CD01
5E223DB08
5E223DB34
5E223DB38
5E223GA08
5E223GA11
5E223GA52
5E223GA63
5E223GA72
(57)【要約】
【課題】十分な高周波特性を確保しつつ、同軸コネクタの使用環境の温度変化が生じても中心導体を正規位置に維持しやすい同軸電気コネクタを提供する。
【解決手段】中心導体20は、誘電体30に対して下方から接面する当接部22Aを有し、誘電体30は、第一誘電体31と、第一誘電体31に対して下方から接触して設けられる第二誘電体32とを有し、第一誘電体31は、第二誘電体32の誘電正接よりも低い誘電正接を有しており、第二誘電体32は、第一誘電体31よりも荷重たわみ温度が高く、第一誘電体31の下面に接面する上面の面積が、第二誘電体32の下面に接面する当接部22Aの上面の面積よりも大きくなっている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板に接続される同軸電気コネクタであって、
前記回路基板の実装面に対して直角な上下方向に延びる軸線をもつ内部空間が上下方向に貫通して形成された金属製の外部導体と、
前記内部空間内で前記外部導体に保持される誘電体と、
前記内部空間内で前記誘電体に保持され、下端部で前記実装面に接触する金属製の中心導体とを有する同軸電気コネクタにおいて、
前記中心導体は、前記誘電体に対して下方から接面する当接部を有し、
前記誘電体は、第一誘電体と、前記第一誘電体に対して下方から接触して設けられる第二誘電体とを有し、
前記第一誘電体は、前記第二誘電体の誘電正接よりも低い誘電正接を有しており、
前記第二誘電体は、前記第一誘電体よりも荷重たわみ温度が高く、前記第一誘電体の下面に接面する上面の面積が、前記第二誘電体の下面に接面する前記当接部の上面の面積よりも大きくなっていることを特徴とする同軸電気コネクタ。
【請求項2】
前記第一誘電体は、前記第二誘電体よりも上下方向で大きく形成されていることとする請求項1に記載の同軸電気コネクタ。
【請求項3】
前記第一誘電体は、ポリテトラフルオロエチレン製であり、前記第二誘電体は、ポリエーテルイミド製であることとする請求項1または請求項2に記載の同軸電気コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板に接続される同軸電気コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の同軸電気コネクタとして、外部導体の内部空間内に誘電体(絶縁部材)、中心導体および環状金具が設けられた同軸コネクタが、例えば特許文献1に開示されている。外部導体の内部空間は、回路基板の実装面に対して直角な上下方向で外部導体を貫通して形成されている。該内部空間内では、下端寄りの位置に樹脂製の誘電体が配置されており、上下方向に延びる中心導体が誘電体の保持孔に挿通された状態で該誘電体に保持され、さらに、環状金具が下方から取り付けられることにより誘電体および中心導体の抜けが防止されている。
【0003】
中心導体は、誘電体の保持孔に挿通されて保持される部分に、該中心導体の径方向外方へ突出する傾斜突部を有しており、保持孔の内周面に形成された段部(窪み)に傾斜突部が下方から当接した状態で誘電体に保持されている。中心導体は、その下端部が外部導体の下面から若干突出しており、同軸コネクタが回路基板に実装されたときに、回路基板の実装面上の回路部に上方から接圧をもって接触するようになっている。このとき、中心導体は回路基板の実装面から上方へ向けた反力を常に受けているが、誘電体の段部が中心導体の傾斜突部を上方から支持して上記反力に対抗することで、中心導体と回路基板の回路部との接圧を生じさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、誘電体は1種類の樹脂材料で一部材として構成されている。この誘電体を構成する樹脂材料の具体的な種類については特許文献1に明記されていないが、一般的に、高周波特性に優れ、かつ適切な弾性を得やすいPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が採用されることが多い。しかし、PTFEは荷重たわみ温度が十分に高いとは言えない。したがって、同軸コネクタの使用環境が高温になった場合に誘電体が塑性変形しやすく、このとき、上記反力に対抗できなくなって中心導体が正規位置よりも上方へ変位してしまい、中心導体と回路基板の回路部とを適切な接圧で接触させることが困難となる。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑み、十分な高周波特性を確保しつつ、同軸コネクタの使用環境の温度変化が生じても中心導体を正規位置に維持しやすい同軸電気コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る同軸電気コネクタは、回路基板に接続される同軸電気コネクタであって、前記回路基板の実装面に対して直角な上下方向に延びる軸線をもつ内部空間が上下方向に貫通して形成された金属製の外部導体と、前記内部空間内で前記外部導体に保持される誘電体と、前記内部空間内で前記誘電体に保持され、下端部で前記実装面に接触する金属製の中心導体とを有する。
【0008】
かかる同軸電気コネクタにおいて、本発明では、前記中心導体は、前記誘電体に対して下方から接面する当接部を有し、前記誘電体は、第一誘電体と、前記第一誘電体に対して下方から接触して設けられる第二誘電体とを有し、前記第一誘電体は、前記第二誘電体の誘電正接よりも低い誘電正接を有しており、前記第二誘電体は、前記第一誘電体よりも荷重たわみ温度が高く、前記第一誘電体の下面に接面する上面の面積が、前記第二誘電体の下面に接面する前記当接部の上面の面積よりも大きくなっていることを特徴としている。
【0009】
本発明では、誘電体は第一誘電体と第二誘電体とを有しており、第二誘電体が中心導体の当接部を上方から支持することにより、中心導体の下端部が回路基板から受ける上方へ向けた力(反力)に対抗している。第二誘電体は、第一誘電体と比べて荷重たわみ温度が高いので、同軸電気コネクタの使用環境が高温となっても塑性変形しにくい。したがって、第二誘電体によって上方から支持されることにより、中心導体が正規位置から上方へ移動するおそれがなく、第二誘電体の支持力によって上記反力に十分に対抗できる。その結果、中心導体の接触部と回路基板との適切な接圧をもった接触状態を維持しやすくなる。
【0010】
また、第二誘電体において、第一誘電体の下面に接面する上面の面積が、第二誘電体の下面に接面する当接部の上面の面積よりも大きくなっているので、第二誘電体を介して第一誘電体の下面に伝達される上記反力は広範囲に分散される。したがって、同軸電気コネクタの使用環境が高温となっても、第一誘電体には上記反力が狭い範囲に集中して作用することがない。したがって、第一誘電体が塑性変形しにくくなるので、中心導体を正規位置に維持しやすくなる。また、誘電体は、第二誘電体だけでなく、第二誘電体よりも誘電正接が低い第一誘電体も有しているので、誘電体が第二誘電体のみで構成される場合と比べて、同軸コネクタの高周波特性が高くなる。
【0011】
本発明において、前記第一誘電体は、前記第二誘電体よりも上下方向で大きく形成されていてもよい。このように、第二誘電体よりも誘電正接が低い第一誘電体を第二誘電体よりも上下方向で大きく形成することにより、同軸コネクタの高周波特性をさらに向上させることができる。
【0012】
本発明において、前記第一誘電体は、ポリテトラフルオロエチレン製であり、前記第二誘電体は、ポリエーテルイミド製であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、十分な高周波特性を確保しつつ、同軸コネクタの使用環境の温度変化が生じても中心導体を正規位置に維持しやすい同軸電気コネクタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態の同軸電気コネクタを回路基板とともに示した斜視図であり、斜め上方から見た状態を示している。
【
図2】
図1の同軸電気コネクタを斜め下方から見た状態で示した斜視図である。
【
図3】(A)は
図1の同軸電気コネクタの断面図であり、同軸電気コネクタの軸線を含む面での断面を示しており、(B)は(A)の一部を拡大して示した断面図である。
【
図4】
図1の同軸電気コネクタの周波数特性を比較例の同軸電気コネクタの周波数特性と比較して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面にもとづき、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の同軸電気コネクタ1(以下、「同軸コネクタ1」という)を回路基板Pとともに示した斜視図であり、斜め上方から見た状態を示している。
図1では、回路基板Pは、その一部のみが図示されており、実際には、X軸方向およびY軸方向の両方向でさらに広がって形成されている。
図2は、同軸コネクタ1を斜め下方から見た状態で示した斜視図である。
図3(A)は、同軸コネクタ1の断面図であり、同軸コネクタ1の軸線を含む面での断面を示している。
図3(B)は、
図3(A)の一部を拡大して示した断面図である。
【0017】
同軸コネクタ1が実装される回路基板Pは、ICチップ等の電子部品(図示せず)の性能試験に使用される、いわゆるテストボードである。また、同軸コネクタ1は、回路基板Pに実装され、電子部品の電気的特性を測定するための測定機器(図示せず)に相手同軸コネクタ(図示せず)および同軸ケーブル(図示せず)を介して接続される、いわゆるテストポートコネクタである。回路基板Pの実装面には、
図1に示されているように、実装面上でY軸方向に延びる信号パターンP1と、信号パターンP1を挟んでX軸方向での両側に広がるグランドパターンP2が形成されている。信号パターンP1のY2側の端部近傍には、性能試験の対象である電子部品が実装され、信号パターンP1のY1側の端部近傍(テストポート)には、同軸コネクタ1が実装される。同軸コネクタ1には、同軸ケーブル(図示せず)に接続された相手同軸コネクタ(図示せず)が上方から嵌合接続される。
【0018】
同軸コネクタ1は、回路基板Pの実装面に対して直角な上下方向(Z軸方向)に延びる軸線を有しており、X軸方向およびY軸方向の両方向において対称な形状をなしている。同軸コネクタ1は、
図3に示されているように、金属製の外部導体10と、外部導体10の後述の内部空間16と同心をなすように該内部空間16内に配置される金属製の中心導体20、樹脂製の誘電体30および金属製の支持体40とを有している。また、誘電体30は、互いに異なる材料で成形された第一誘電体31と第二誘電体32とを有している。
【0019】
外部導体10は、回路基板Pに対して平行に広がる板状の基部11と、基部11の上面から上方へ延びる円筒状の円筒部12とを有している。基部11は、
図1に示されるように、信号パターンP1が延びるY軸方向に対して直角なコネクタ幅方向(X軸方向)を長手方向とする板状をなしている。コネクタ幅方向で円筒部12を挟んだ両端側には、基部11を上下方向に貫通するねじ孔である取付孔部13が1つずつ設けられている。本実施形態では、取付孔部13および該取付孔部に対応して回路基板Pに設けられたねじ孔(図示せず)にねじ部材(図示せず)が上方から螺合されることにより、同軸コネクタ1が回路基板Pに取り付けられる。
【0020】
図2に示されるように、基部11の底面には、コネクタ幅方向(X軸方向)における中央部で基部11の短手方向(Y軸方向)に延びる底溝部14が形成されている。底溝部14は、
図3(A)に示されるように、Y軸方向に見て基部11の底面から四角形状に没しているとともに、
図2に示されるように、Y軸方向で基部11の全域にわたって延びて基部11を貫通している。底溝部14の溝幅寸法(X軸方向での寸法)は、信号パターンP1(
図1参照)の幅寸法(X軸方向での寸法)および中心導体20の外径よりも大きくなっている(
図1および
図3(A)参照)。また、底溝部14の両側の側縁(Y軸方向に延びる縁部)は、
図2に示されているように、Y軸方向での中央部を除く範囲では直状となっているが、中央域では、中心導体20および後述の内部空間16と同心をなす円弧状となっている。したがって、底溝部14は、側縁が円弧状をなす範囲での溝幅寸法が、側縁が直状をなす範囲での溝幅寸法よりも大きくなっている。
【0021】
また、基部11の底面で中央に広がる領域には、
図2に示されるように、他の領域よりも若干突出した突部15が形成されている(
図3(A)も参照)。突部15は、コネクタ幅方向(X軸方向)における底溝部14の両側で略半円状に広がって形成されている。突部15は、下方から見て中心導体20と同心をなす円の一部をなしている。本実施形態では、同軸コネクタ1が回路基板Pにねじ止めされて取り付けられると、突部15の底面が回路基板PのグランドパターンP2の上面に押し付けられる。したがって、このように基部11の底面に突部15が設けられていることにより、外部導体10とグランドパターンP2とを確実に接面させて良好な電気的な導通状態を確保しやすくなる。
【0022】
円筒部12は、上下方向に延びる中心軸線をもち、基部11の上面から上方へ向けて起立した円筒状をなしている。円筒部12は、上下方向での中間部が他部よりも大径となっている。
【0023】
外部導体10には、上下方向に延びる中心軸線をもち、
図3(A)に示されるように、基部11および円筒部12を上下方向に貫通する内部空間16が形成されている。内部空間16は、大径空間16Aと、大径空間16Aよりも下方に形成された小径空間16Bとを有している。
【0024】
大径空間16Aは、円筒部12の上端位置から下端寄り位置にわたる上下方向での範囲に形成された円筒状の空間である。大径空間16Aは、
図3(A)に示されるように、上部の空間が下部の空間よりも若干大径となっている。下部の空間には、
図3(A)に示されるように、中心導体20の後述の接続部21および支持体40が収容されている。上部の空間および支持体40の後述の内部空間41は、同軸コネクタ1に相手同軸コネクタ(図示せず)が上方から嵌合接続される際に相手同軸コネクタを受け入れるための空間となっている。相手同軸コネクタが嵌合接続されたとき、大径空間16Aの上部の空間を形成する外部導体10の内周面が、相手同軸コネクタの相手外部導体(図示せず)の外周面に接触して電気的に導通可能となる。
【0025】
小径空間16Bは、大径空間16Aよりも小径となっており、大径空間16Aの下端位置から基部11の底溝部14の上端位置にわたる上下方向での範囲に形成されている。小径空間16Bは、
図3(A)に示されるように、上部の空間が下部の空間よりも若干大径となっている。
【0026】
中心導体20は、上下方向に延びるピン状をなしており、上下方向に見て内部空間16と同心をなす位置に設けられている。中心導体20は、
図3(A)に示されているように、上部に設けられ相手同軸コネクタの相手中心導体(図示せず)が接続される接続部21と、下部に設けられ回路基板Pの信号パターンP1(
図1参照)に接触可能な接触部22と、接続部21と接触部22との間に設けられ両者を連結する連結部23とを有している。
【0027】
接続部21は、
図3(A)に示されるように、外部導体10の大径空間16A内、より詳細には、大径空間16A内に配置された支持体40の後述の内部空間41内に収容されている。接続部21の上部は、円筒状をなし、周方向での複数位置にスリット21Aが形成されており、隣接するスリット21Aの間には接続片21Bが形成されている。複数の接続片21Bで囲まれた空間には、相手同軸コネクタの相手中心導体(図示せず)が上方から挿入されるようになっている。このとき、複数の接続片21Bは、相手中心導体によって接続部21の径方向外方へ押し広げられて弾性変形した状態となり、相手中心導体の外周面に接圧をもって接触することにより、相手中心導体と電気的に導通可能となる。
【0028】
連結部23は、接続部21および接触部22よりも小径の円柱状をなし、
図3(A)に示されているように、誘電体30に挿通された状態で、内部空間16に収容されている。具体的には、連結部23は、上下方向で大径空間16Aおよび小径空間16Bの両者を跨ぐ範囲にわたって延びている。連結部23は、
図3(A),(B)に示されているように、上端位置から下端寄り位置までの範囲にわたって延びる第一被保持部23Aと、下端寄り位置から下端位置までの範囲にわたって延びる第二被保持部23Bとを有している。第一被保持部23Aは、その外周面で第一誘電体31に保持されている。第二被保持部23Bは、第一被保持部23Aよりも若干小径となっており、その外周面で第二誘電体32に保持されている。
【0029】
接触部22は、接続部21よりも小径の円柱状をなしており、
図3(A)に示されているように、上下方向で基部11とほぼ同じ範囲にわたって延びている。接触部22は、その下端側部分が底溝部14内に突出しており、その他の部分は小径空間16B内に収容されている。また、接触部22の下端側部分の先端部(下端部)は、その先端面(下端面)が突部15の下面よりも若干下方に位置している。このように接触部22の下端部が突部15の下面よりも若干突出していることにより、同軸コネクタ1が回路基板Pに実装された状態で、この下端部で信号パターンP1に確実に接触するようになっている。
【0030】
また、接触部22は、連結部23よりも大径となっており、
図3(B)に示されるように、接触部22の上部には、連結部23の第二被保持部23Bよりも径方向外方に位置する当接部22Aが形成されている。当接部22Aは、第二誘電体32の下面に対して下方から接面することで当接している。換言すると、第二誘電体32が当接部22Aを上方から支持している。
【0031】
第一誘電体31は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、円筒状に成形されて作られている。本実施形態では、第一誘電体31の材料であるポリテトラフルオロエチレンは、誘電正接が約0.0002、荷重たわみ温度が約55℃となっている。第一誘電体31は、上下方向で第二誘電体32よりも大きく形成されており、
図3(A),(B)に示されるように、下部をなす大径部31Aと、上部をなす小径部31Bとを有している。
【0032】
大径部31Aは、外部導体10の小径空間16Bの上部の空間の内径とほぼ同じ外径で形成されており、この上部の空間内に圧入されて収容されている。
図3(B)に示されているように、大径部31Aの上部には、小径部31Bよりも径方向外方に位置する肩部31Cが形成されている。肩部31Cの上面は、内部空間16の大径空間16Aの底面(下側の内壁面)と同じ高さに位置している。小径部31Bは、大径空間16Aの底面よりも上方に突出しており、支持体40の後述の内部空間41の下部に収容されている。また、小径部31Bの上端部は、支持体40の後述の支持部42よりも上方へ突出している。
【0033】
図3(B)に示されているように、第一誘電体31には、第一誘電体31を上下方向に貫通する第一貫通孔部31Dが形成されている。第一貫通孔部31Dは、中心導体20の第一被保持部23Aの外径とほぼ同じ内径で形成されている。
【0034】
また、第一誘電体31には、周方向での1箇所で上下方向全域にわたって切込部(図示せず)が形成されている。この切込部は、径方向で第一誘電体31の外周面の位置から内周面(第一貫通孔部31Dを形成する周壁面)の位置にわたって形成されている。つまり、第一誘電体31は、周方向における上記切込部の位置で不連続となっている。
【0035】
第二誘電体32は、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)製であり、円環板状に成形されて作られている。本実施形態では、第二誘電体32の材料であるポリエーテルイミドは、誘電正接が第一誘電体31の誘電正接よりも高く(約0.0013)、荷重たわみ温度が第一誘電体31の荷重たわみ温度よりも高い(約197~200℃)。第二誘電体32は、第一誘電体31とは別体をなし、第一誘電体31よりも下方に設けられており、第二誘電体32の上面が第一誘電体31の下面に接触している。第二誘電体32は、第一誘電体31の外径と同じ外径で形成されている。つまり、第二誘電体32は、外部導体10の小径空間16Bの上部の空間の内径とほぼ同じ外径で形成されており、この上部の空間内に圧入されて収容されている。第二誘電体32には、該第二誘電体32を上下方向に貫通する第二貫通孔部32Aが形成されている。第二貫通孔部32Aは、第一誘電体31の第一貫通孔部31Dよりも若干小さい内径、かつ、中心導体20の第二被保持部23Bの外径とほぼ同じ内径で形成されている。
【0036】
また、第二誘電体32には、既述した第一誘電体31と同様に、周方向での1箇所で上下方向全域にわたって切込部(図示せず)が形成されている。この切込部は、径方向で第二誘電体32の外周面の位置から内周面(第二貫通孔部32Aを形成する周壁面)の位置にわたって形成されている。つまり、第二誘電体32は、周方向における上記切込部の位置で不連続となっている。
【0037】
支持体40は、円筒状をなしており、外部導体10の大径空間16Aの下部に収容されている。支持体40は、上部に、他部よりも若干大径となっている部分を有しており、この部分で外部導体10に圧入保持されている。支持体40には、外部導体10の内部空間16と共通の軸線をもち支持体40を貫通する内部空間41が形成されている。支持体40の下部には、内部空間41へ向けて径方向内方へ張り出す支持部42が設けられている。支持部42は、内部空間41の周方向全域にわたり形成されており、
図3(B)に示されるように、第一誘電体31の肩部31Cに上方から接面して肩部31Cを支持している。
【0038】
同軸コネクタ1は次の要領で製造される。まず、第一誘電体31の第一貫通孔部31Dに中心導体20を下端側、すなわち接触部22側から挿通させることにより、第一誘電体31を第一被保持部23Aに取り付ける。本実施形態では、第一貫通孔部31Dは、接触部22よりも小径となっているが、第一誘電体31には切込部が形成されており、接触部22が第一貫通孔部31Dに挿通される際、第一誘電体31が切込部の位置で周方向に開くように弾性変形することにより、接触部22の挿通が許容される。そして、第一誘電体31が接触部22の範囲を通過して第一被保持部23Aの範囲に達すると、第一誘電体31は、切込部の位置で閉じるように、すなわち弾性変形量が減少するように変形する。この結果、第一誘電体31の内周面が第一被保持部23Aの外周面に接面し、第一誘電体31が第一被保持部23Aを保持した状態となる。この状態において、第一誘電体31が切込部は完全に閉じていてもよいし、若干開いていてもよい。
【0039】
次に、第二誘電体32の第二貫通孔部32Aに中心導体20を下端側、すなわち接触部22側から挿通させることにより、第二誘電体32を第二被保持部23Bに取り付ける。本実施形態では、第二貫通孔部32Aは、接触部22よりも小径となっているが、既述した第一誘電体31の取付けの場合と同様に、第二誘電体32がその切込部の位置で周方向に開くように弾性変形することにより、接触部22の挿通が許容される。また、第二誘電体32の内周面が第二被保持部23Bの外周面に接面した状態、すなわち第二誘電体32が第二被保持部23Bを保持した状態において、第二誘電体32の切込部は完全に閉じていても若干開いていてもよいことも第一誘電体31の場合と同様である。
【0040】
図3(B)に示されているように、第二誘電体32が第二被保持部23Bに取り付けられた状態にあるとき、第二誘電体32の上面は第一誘電体31の下面に接面しており、中心導体20の当接部22Aの上面は第二誘電体32の下面に接面している。本実施形態では、第一誘電体31の下面に接面する第二誘電体32の上面の面積は、第二誘電体32の下面に接面する中心導体20の当接部22Aの上面の面積よりも大きくなっている。
【0041】
次に、誘電体30、すなわち第一誘電体31および第二誘電体32が取り付けられた中心導体20を外部導体10の内部空間16へ上方から収容する。具体的には、内部空間16の小径空間16B内へ誘電体30を上方から圧入する。その結果、誘電体30とともに中心導体20の接触部22および連結部23が小径空間16Bに収容される。このとき、
図3(A)に示されるように、接触部22の下端側部分は、小径空間16Bから下方へ突出して外部導体10の底溝部14内に位置し、第一誘電体31の小径部31Bおよび該小径部31Bに保持される連結部23の上端側部分は小径空間26Bから上方へ突出して大径空間16A内に位置する。
図3(B)に示されているように、第一誘電体31の肩部31Cの上面は、内部空間16の大径空間16Aの底面(下側の内壁面)と同じ高さに位置する。また、
図3(A)に示されているように、中心導体20の接続部21は、大径空間16A内に収容される。
【0042】
次に、支持体40を外部導体10の大径空間16Aへ上方から圧入して収容する。支持体40は、その下面が大径空間16Aの底面に当接するまで圧入され、その結果、支持部42が第一誘電体31の肩部31Cに上方から接面して肩部31Cを上方から支持した状態となる。このように支持部42が肩部31Cを上方から支持することにより、第一誘電体31がその下面で第二誘電体32を上方から支持し、さらに、第二誘電体32の下面が中心導体20の当接部22Aを上方から支持した状態が維持される。このようにして支持体40を外部導体10に取り付けることにより、同軸コネクタ1が完成する。
【0043】
次に、同軸コネクタ1の使用要領について説明する。本実施形態では、同軸コネクタ1は、性能試験の対象となる電子部品(ICチップ等)が実装された回路基板P(テストボード)のテストポートに実装されて使用される。まず、同軸コネクタ1は、外部導体10の取付孔部13が回路基板Pのねじ孔(図示せず)に位置合わせされて回路基板Pに配置される。本実施形態の同軸コネクタ1は、X軸方向およびY軸方向の両方向において対称な形状となっているので、これらの両方向での向きを気にすることなく簡単に回路基板Pに配置することができる。このようにして回路基板Pに配置された同軸コネクタ1は、ねじ部材(図示せず)を取付孔部13および回路基板Pのねじ孔に上方から螺合することにより、回路基板Pに取り付けられる。
【0044】
同軸コネクタ1が回路基板Pに取り付けられると、中心導体20の接触部22の下端面が回路基板Pの信号パターンP1に上方から押し付けられるともに、外部導体10の突部15の下端面が回路基板PのグランドパターンP2に上方から押し付けられる。この結果、中心導体20と信号パターンP1、外部導体10とグランドパターンP2が、それぞれ接圧をもって接触して電気的に導通可能な状態となる。
【0045】
また、同軸コネクタ1には、同軸ケーブル(図示せず)の一端に取り付けられた相手同軸コネクタ(図示せず)が上方から嵌合接続される。この結果、同軸コネクタ1の中心導体20の接続部21に相手同軸コネクタの相手中心導体(図示せず)が接続され、同軸コネクタ1の外部導体10の円筒部12に相手同軸コネクタの相手外部導体(図示せず)が接続される。また、同軸ケーブルの他端は、電気的特性を測定するための測定機器(図示せず)に接続される。電子部品の性能試験では、テストボードに実装された電子部品に電圧が印加されて、測定機器で電気的特性が測定される。
【0046】
中心導体20の接触部22が、回路基板Pの信号パターンP1に上方から接圧をもって接触すると、接触部22は信号パターンP1から上方へ向けた力(反力)を常に受けることとなる。本実施形態では、既述したように、支持部42が第一誘電体31の肩部31Cを上方から支持し、第一誘電体31がその下面で第二誘電体32を上方から支持し、さらに、第二誘電体32の下面が中心導体20の当接部22Aを上方から支持している。これらの上方からの支持力によって信号パターンP1からの上記反力に対抗することにより、中心導体20と信号パターンP1との接圧をもった接触状態が良好に維持される。
【0047】
上述の電子部品(ICチップ等)の性能試験は、広い温度範囲(例えば-55℃~105℃)の使用環境を想定して実施される。したがって、性能試験に用いられる同軸コネクタ1においても、回路基板Pとの接触状態が上記温度範囲での温度変化による影響を極力受けないことが好ましい。本実施形態では、誘電体30は、材質が異なる2つの部材、すなわち第一誘電体31と第二誘電体32とを有している。中心導体20の当接部22Aを直接支持している第二誘電体32は、ポリエーテルイミド製であり、ポリテトラフルオロエチレン製の第一誘電体31と比べて、荷重たわみ温度が高い。したがって、第二誘電体32は温度環境が高温となっても塑性変形しにくいので、回路基板Pからの反力を受けている中心導体20が正規位置から上方へ移動するおそれがなく、第二誘電体32の支持力により上記反力に十分に対抗できる。その結果、中心導体20の接触部22と回路基板Pの信号パターンP1との適切な接圧をもった接触状態を維持しやすくなる。
【0048】
また、本実施形態では、第二誘電体32において、第一誘電体31の下面に接面する上面の面積が、第二誘電体32の下面に接面する中心導体20の当接部22Aの上面の面積よりも大きくなっているので、第二誘電体32を介して第一誘電体31の下面に伝達される上記反力は広範囲に分散される。したがって、温度環境が高温となっても、第一誘電体31には上記反力が狭い範囲に集中して作用することがないので、第一誘電体31が塑性変形しにくくなり、その結果、中心導体20を正規位置に維持しやすくなる。
【0049】
また、本実施形態では、誘電体30は、第二誘電体32だけでなく、第二誘電体32よりも誘電正接が低い第一誘電体31も有しているので、誘電体30が第二誘電体32のみで構成される場合と比べて、同軸コネクタ1の高周波特性が高くなる。また、本実施形態では、第二誘電体32よりも誘電正接が低い第一誘電体31を第二誘電体32よりも上下方向で大きく形成しているので、同軸コネクタ1の高周波特性をさらに向上させることができる。
【0050】
図4は、本実施形態の同軸コネクタ1および比較例の同軸コネクタのそれぞれについて、周波数特性(高周波特性)を測定する試験を行い、その結果を示したグラフである。このグラフは、周波数(GHz)を横軸とし、電圧定在波比、すなわちVSWRを縦軸として、各同軸コネクタの周波数特性を示している。このグラフでは、本実施形態の同軸コネクタ1の周波数特性が実線、比較例の同軸コネクタの周波数特性が点線で示されている。上記試験は、回路基板に形成された信号パターンの各端部に同種の同軸コネクタを1つずつ実装し、0~65GHzの周波数帯の信号を伝送させた場合の電圧定在波比を測定することに行われた。電圧定在波比はその値が1に近づくほど周波数特性が良好であることを意味している。
【0051】
また、比較例の同軸コネクタにおいて、中心導体を保持する誘電体は、ポリテトラフルオロエチレン製で一部材として構成されており、この点で、ポリテトラフルオロエチレン製の第一誘電体31およびポリエーテルイミド製の第二誘電体32の2つの部材により構成されている本実施形態の誘電体と異なっている。なお、比較例の同軸コネクタにおける、誘電体以外の構成は、本実施形態の同軸コネクタと同様である。
【0052】
図4に示されているように、比較例の同軸コネクタでは、伝送される信号の周波数が大きくなっていくと、電圧定在波比の値が「1」よりも大幅に大きくなっていくのに対し、本実施形態の同軸コネクタ1では、伝送される信号の周波数が大きくなっても、比較例と比べて、電圧定在波比の値が「1」よりも大きくなる程度が低い、つまり「1」に近い状態が維持されている。つまり、本実施形態の同軸コネクタ1は比較例の同軸コネクタよりも周波数特性が優れていることが分かる。また、
図4を見ると分かるように、本実施形態と比較例との電圧定在波比の差は、周波数が高いほど大きくなっており、本実施形態は、特に高周波特性が優れていると言える。
【0053】
本実施形態では、同軸コネクタ1は、いわゆるテストポートコネクタとして使用される例を説明したが、使用用途はこれに限られず、例えば、電気製品に設けられる回路基板に実装されてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 同軸コネクタ
10 外部導体
16 内部空間
20 中心導体
22A 当接部
30 誘電体
31 第一誘電体
32 第二誘電体
40 支持体
P 回路基板