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  • 特開-抗菌効果を有する人工皮膚 図1
  • 特開-抗菌効果を有する人工皮膚 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157117
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】抗菌効果を有する人工皮膚
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/60 20060101AFI20231019BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20231019BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
A61L27/60
A61L27/54
A61L27/44
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066810
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】松村 一
(72)【発明者】
【氏名】高見 綾子
(72)【発明者】
【氏名】倉田 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】寺井 博
(72)【発明者】
【氏名】征矢 真理子
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB19
4C081BA14
4C081BB02
4C081CA272
4C081CD121
4C081CE01
4C081DA02
4C081DB03
4C081DC04
(57)【要約】
【課題】菌の増殖を防止する。
【解決手段】人工皮膚1は、コラーゲンを主成分とするコラーゲン層2と、シリコーンを主成分とし、コラーゲン層2の一方の表面を覆うシリコーン層3とを備え、コラーゲン層2およびシリコーン層3の内、シリコーン層3のみが抗菌剤6を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンを主成分とするコラーゲン層と、
シリコーンを主成分とし、前記コラーゲン層の一方の表面を覆うシリコーン層とを備え、
前記コラーゲン層および前記シリコーン層の内、該シリコーン層のみが抗菌剤を含む、人工皮膚。
【請求項2】
前記抗菌剤が、銀を含み、好ましくは、硫酸銀、硝酸銀およびスルファジアジン銀の中から選択される、請求項1に記載の人工皮膚。
【請求項3】
前記シリコーン層が、シリコーンを主成分とする第1層と、メッシュ構造を有する第2層とを含み、
前記第2層の引張強度が、前記第1層の引張強度よりも高い、請求項1または請求項2に記載の人工皮膚。
【請求項4】
前記コラーゲン層および前記シリコーン層を厚さ方向に貫通するドレーン孔を有する、請求項1または請求項2に記載の人工皮膚。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌効果を有する人工皮膚に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コラーゲンスポンジを備える人工皮膚が知られている(例えば、特許文献1参照。)。皮膚の欠損部に移植されたコラーゲンスポンジに周囲から細胞が侵入し真皮様組織を構築することによって、欠損部が修復される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2610471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
欠損部では、皮膚のバリア機能が低下または損失しているので、細菌が増殖し易い。したがって、人工皮膚の移植において、欠損部における細菌の増殖防止が重要な課題の1つとなる。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、菌の増殖を防止することができる人工皮膚を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、コラーゲンを主成分とするコラーゲン層と、シリコーンを主成分とし、前記コラーゲン層の一方の表面を覆うシリコーン層とを備え、前記コラーゲン層および前記シリコーン層の内、該シリコーン層のみが抗菌剤を含む、人工皮膚である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、菌の増殖を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係る人工皮膚の斜視図である。
図2図1の人工皮膚の使用方法を説明する皮膚または粘膜の欠損部の断面図であり、(a)人工皮膚の移植前、(b)人工皮膚の移植後、(c)真皮様組織の形成後、(d)シリコーン層の除去後をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の一実施形態に係る人工皮膚について図面を参照して説明する。
図1に示されるように、本実施形態に係る人工皮膚1は、シート状の部材であり、コラーゲンを主成分とするコラーゲン層2と、シリコーンを主成分とするシリコーン層3とを備える。人工皮膚1は、人工皮膚1の厚さ方向に積層されたコラーゲン層2およびシリコーン層3からなる2層構造を有し、シリコーン層3はコラーゲン層2の一方の表面を覆っている。
【0009】
人工皮膚1は、真皮Bが欠損した皮膚または粘膜の欠損部Aを修復するために欠損部Aに適用される(図2(a)参照。)。人工皮膚1のサイズは、適用される欠損部Aに応じて設計される。
【0010】
コラーゲン層2は、架橋されたコラーゲンからなるスポンジであり、グルコサミノグリカンを含まない。コラーゲンは、熱架橋のみによって架橋されている。
コラーゲン層2を構成するコラーゲンは、線維化アテロコラーゲンと熱変性アテロコラーゲンとの混合物である。
【0011】
シリコーン層3は、シリコーンゴムからなる2つの第1層4と、2つの第1層4の間に配置されメッシュ構造を有する第2層5とを有する。
第1層4は、抗菌剤6として銀を含み、好ましくは、0.01質量%~10質量%の硫酸銀を含む。銀は、粒子の形態でシリコーン内に分散した状態で第1層4に担持される。
【0012】
第2層5は、PET(ポリエチレンテレフタレート)等のプラスチック製のメッシュシートからなる。第2層5の引張強度は、第1層4の引張強度よりも高い。第2層5を設けることによって、人工皮膚1の引張強度を高め、人工皮膚1が使用中に破れることを防止することができる。
【0013】
人工皮膚1は、コラーゲン層2およびシリコーン層3を厚さ方向に貫通する1以上のドレーン孔7を有する。ドレーン孔7は、欠損部Aに溜まる滲出液および血腫を体外に排出する通路である。図1の例において、同一方向に延びるスリットからなる複数のドレーン孔7が設けられている。ドレーン孔7は、スリット以外の形状であってもよい。
【0014】
次に、人工皮膚1の製造方法について説明する。
線維化アテロコラーゲンと熱変性アテロコラーゲンとを含む溶液を凍結乾燥することによって、これらアテロコラーゲン同士が架橋されていない未架橋のコラーゲンスポンジを得る。線維化アテロコラーゲンおよび熱変性アテロコラーゲンは、公知の方法(例えば、特許第2610471号公報に記載の方法)によって得られる。
【0015】
次に、液状のシリコーンからなる主剤と、硬化剤と、抗菌剤6である銀(例えば、主剤、硬化剤および硫酸銀の総重量に対して0.01wt%~10wt%の硫酸銀)とを混合し、得られたシリコーン混合物を、約200μmの厚さのシート状に成形する。次に、シート状のシリコーン混合物にメッシュシート5を埋め込み、次いで、シリコーン混合物を未架橋のコラーゲンスポンジと複合化させる。これにより、シリコーン混合物とコラーゲンスポンジとの複合体を得る。
次に、刃物を使用して、複合体にドレーン孔7を開ける。
次に、複合体を真空中にて約110℃で加熱処理してアテロコラーゲンを熱架橋することによって、人工皮膚1を得る。
【0016】
次に、人工皮膚1の使用方法について説明する。
図2(a),(b)に示されるように、人工皮膚1は、皮膚または粘膜の欠損部Aに移植される。具体的には、人工皮膚1は、コラーゲン層2が創面Cに接触するように欠損部Aに貼り付けられ、人工皮膚1の縁部が、縫合糸またはステープラ等を使用して欠損部Aの周囲の皮膚に縫合される。シリコーン層3内のメッシュシート5によって人工皮膚1は十分な引張強度を有するので、縫合時に人工皮膚1が裂けてしまうことが防止される。
【0017】
人工皮膚1の移植後、コラーゲン層2の外側を覆うシリコーン層3によって欠損部A内のコラーゲン層2は湿潤状態に維持される。湿潤状態において、図2(c)に示されるように、欠損部Aの周囲からコラーゲン層2へ細胞および毛細血管が侵入して細胞が欠損部Aに真皮様組織Dを構築し、その一方で、コラーゲン層2は次第に生体に吸収される。これにより、コラーゲン層2が次第に真皮様組織Dに置換される。また、欠損部Aに溜まる滲出液および血腫は、ドレーン孔7を経由してシリコーン層3の外側へ排出される。また、シリコーン層3に含まれる銀が滲出液に接触することによって銀イオンを放出し、銀イオンがコラーゲン層2および/またはシリコーン層3において抗菌効果を発揮する。
【0018】
図2(d)に示されるように、真皮様組織Dが構築された後、シリコーン層3は、真皮様組織Dの表面から剥がすことによって除去され、必要に応じて真皮様組織Dの表面に分層植皮が行われる。
【0019】
この場合において、人工皮膚1が移植された欠損部Aはシリコーン層3によって外部から遮蔽され、外部から欠損部Aへの菌の侵入がシリコーン層3によって防止される。
特に、シリコーン層3に抗菌剤6の銀が含まれ、銀から放出される銀イオンが抗菌作用を発揮する。これにより、外部からの欠損部Aの感染を効果的に防止することができる。
また、銀から放出される銀イオンの抗菌作用によって、コラーゲン層2および/またはシリコーン層3での菌の増殖を防止することができる。
【0020】
また、コラーゲン層とシリコーン層とからなる従来の人工皮膚の臨床現場での使用において、コラーゲン層とシリコーン層との間の界面付近で細菌が増殖し易いことが報告されている。本実施形態によれば、シリコーン層3に含まれる抗菌剤6によって、コラーゲン層2とシリコーン層3との間の界面付近での細菌の増殖を効果的に抑制することができる。
【0021】
また、生体吸収されるコラーゲン層2とは異なり、シリコーン層3およびこれに含まれる抗菌剤6は、シリコーン層3が除去されるまでの期間ずっと、欠損部Aの外側に安定的に存在し続ける。したがって、真皮様組織Dが形成されるまでの期間中ずっと抗菌作用を安定的に発揮し続けることができる。
【0022】
また、一般に銀等の抗菌剤は、細胞および組織に影響する可能性がある。抗菌剤6は、コラーゲン層2には含まれず、外側のシリコーン層3のみに含まれる。これにより、抗菌剤6が真皮様組織Dの形成に影響することを防ぐことができる。さらに、真皮様組織Dが形成された後、抗菌剤6は、シリコーン層3と共に修復された欠損部Aから除去され、生体に残らない。したがって、抗菌剤6の細胞および組織への影響をさらに抑制することができる。
【0023】
上記実施形態において、シリコーン層3が、抗菌剤6として硫酸銀を含むこととしたが、これに代えて、抗菌剤として一般に使用される他の種類の銀を含んでいてもよい。例えば、シリコーン層3は、硝酸銀またはスルファジアジン銀(SSD)を含んでいてもよい。
また、シリコーン層3は、銀に代えて、またはこれに加えて、他の種類の抗菌剤を含んでいてもよい。
【0024】
上記実施形態において、第2層5が、PET等のプラスチック製のメッシュシートからなることとしたが、第2層5は、生体適合性、柔軟性および高い引張強度を有する他の材料からなるメッシュシートであってもよい。
【0025】
上記実施形態において、コラーゲン層2が、線維化アテロコラーゲンおよび熱変性アテロコラーゲンからなることとしたが、コラーゲン層2を構成するコラーゲンは、人工皮膚において一般に使用される他の種類のコラーゲンであってもよい。例えば、コラーゲンは、線維化および熱変性のいずれもされていないアテロコラーゲンであってもよく、または、テロペプチドが除去されていないコラーゲンであってもよい。
【0026】
上記実施形態において、コラーゲン層2のコラーゲンが熱架橋のみによって架橋されることとしたが、コラーゲンは他の方法によって架橋されてもよい。例えば、コラーゲンは、熱架橋に代えて、またはこれに加えて、架橋剤による化学架橋によって架橋されていてもよい。
【0027】
上記実施形態において、人工皮膚1がドレーン孔7を有することとしたが、人工皮膚1は、ドレーン孔7を有していなくてもよい。この場合、医師等の使用者が、メス等の器具を使用して人工皮膚1にドレーン孔を開けてもよい。
上記実施形態において、シリコーン層3がメッシュ構造の第2層5を有することとしたが、第2層5を有していなくてもよい。この場合、シリコーン層3は、単一の第1層4のみから構成されていてもよい。
【0028】
上記実施形態において、コラーゲン層2は、主成分のコラーゲンに加えて、グルコサミノグリカン等の添加物を適宜含んでいてもよい。
また、シリコーン層3は、主成分のシリコーンと抗菌剤に加えて、任意の添加物を含んでいてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 人工皮膚
2 コラーゲン層
3 シリコーン層
4 第1層
5 第2層
6 銀、抗菌剤
7 ドレーン孔
A 欠損部
B 真皮
C 創面
D 真皮様組織
図1
図2