(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157153
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】操船システム、船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 21/21 20060101AFI20231019BHJP
B63B 49/00 20060101ALI20231019BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20231019BHJP
B63H 21/14 20060101ALI20231019BHJP
B63H 25/04 20060101ALI20231019BHJP
B63B 79/40 20200101ALI20231019BHJP
B63B 43/18 20060101ALI20231019BHJP
B63H 25/46 20060101ALI20231019BHJP
G05D 1/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
B63H21/21
B63B49/00 Z
B63H20/00 803
B63H21/14
B63H25/04 D
B63B79/40
B63B43/18
B63H25/46
G05D1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066879
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏
(72)【発明者】
【氏名】内藤 克俊
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA04
5H301CC03
5H301CC06
5H301GG07
5H301GG09
5H301GG17
5H301LL03
5H301LL08
(57)【要約】
【課題】物体との衝突を回避する。
【解決手段】制御部21は、船舶10に対する物体の衝突可能性の有無を判定し、衝突可能性が有ると判定されたことに応じて、減速制御として定点保持制御を実行する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に対する物体の衝突可能性の有無を判定する判定部と、
前記判定部により衝突可能性が有ると判定されたことに応じて、減速制御を実行する制御部と、を有する、操船システム。
【請求項2】
前記判定部は、前記船舶から所定距離内に前記物体が有る場合に衝突可能性が有ると判定する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項3】
前記判定部は、前記船舶の進行方向において前記船舶から所定距離内に前記物体が有る場合に衝突可能性が有ると判定する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記減速制御として定点保持制御を開始した後、シフト位置を切り替える操作子を中立位置にする操作が検出されたことに応じて、前記定点保持制御を終了する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記減速制御として定点保持制御を開始する前に、スロットル開度を全閉にする、請求項1に記載の操船システム。
【請求項6】
前記制御部は、衝突可能性が有ると判定された場合に警告を実行し、前記警告を実行した後、所定時間が経過した場合は、スロットル開度を全閉にする、請求項5に記載の操船システム。
【請求項7】
前記制御部は、スロットル開度を全閉にした後、船速が第1の所定速度未満になったら、シフト位置を後進に切り替えると共にスロットル開度を大きくする、請求項5に記載の操船システム。
【請求項8】
前記制御部は、スロットル開度を全閉にした後、前記船速が前記第1の所定速度より遅い第2の所定速度未満になったら、前記定点保持制御を開始する、請求項7に記載の操船システム。
【請求項9】
前記判定部は、前記船舶の方位を維持する自動操船モードにおいては、前記船舶の予測移動経路上で前記物体との衝突が生じるか否かにより衝突可能性の有無を判定する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項10】
前記判定部は、設定した航行コースを前記船舶が辿る自動操船モードにおいては、前記航行コース上で前記物体との衝突が生じるか否かにより衝突可能性の有無を判定する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項11】
前記制御部は、衝突可能性が有ると判定された場合は、前記自動操船モードを中断して前記減速制御として定点保持制御を開始する、請求項9または10に記載の操船システム。
【請求項12】
前記制御部は、前記定点保持制御を開始した後、衝突可能性が無くなったと判定された場合は、前記定点保持制御を終了して前記自動操船モードを再開する、請求項11に記載の操船システム。
【請求項13】
前記制御部は、衝突可能性が有ると判定された場合に警告を実行し、前記警告を実行した後、所定時間が経過した場合は、前記減速制御を開始する、請求項9または10に記載の操船システム。
【請求項14】
船舶の進行方向における前記船舶に対する物体の衝突可能性の有無を判定する判定部と、
前記判定部により衝突可能性が有ると判定されたことに応じて、減速制御を実行する制御部と、を有する、操船システム。
【請求項15】
前記減速制御には、スロットル開度を全閉にする制御が含まれる、請求項14に記載の操船システム。
【請求項16】
前記制御部は、衝突可能性が有ると判定された場合に警告を実行し、前記警告を実行した後、所定時間が経過した場合は、スロットル開度を全閉にする、請求項15に記載の操船システム。
【請求項17】
前記制御部は、スロットル開度を全閉にした後、船速が第1の所定速度未満になったら、シフト位置を後進に切り替えると共にスロットル開度を大きくする、請求項15に記載の操船システム。
【請求項18】
前記制御部は、スロットル開度を全閉にした後、前記船速が前記第1の所定速度より遅い第2の所定速度未満になったら、定点保持制御を開始する、請求項17に記載の操船システム。
【請求項19】
前記制御部は、前記減速制御を開始した後、シフト位置を切り替える操作子を中立位置にする操作が検出されたことに応じて、通常運転制御に移行する、請求項14に記載の操船システム。
【請求項20】
前記制御部は、衝突可能性が有ると判定された場合、前記減速制御を開始した後に定点保持制御を実行する、請求項14に記載の操船システム。
【請求項21】
請求項1、14のいずれか1項に記載の操船システムを有する、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操船システム、船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の分野では、車両に衝突しそうな障害物を発見すると、自動でブレーキを作動させて停止させる等の衝突回避処置をとる技術が知られている。(例えば、特許文献1)
一方、船舶には一般にブレーキが存在しない。操船者は、他の船舶や物体と衝突する可能性があると判断すると、手動により旋回や減速などを行うことによって衝突を未然に回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-114081号公報
【特許文献2】特開2003-48524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、操船者の技量によっては、衝突可能性がある物体を発見しにくい場合がある。
【0005】
本発明は、物体との衝突を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一態様による操船システムは、船舶に対する物体の衝突可能性の有無を判定する判定部と、前記判定部により衝突可能性が有ると判定されたことに応じて、減速制御を実行する制御部と、を有する。
【0007】
この構成によれば、船舶に対する物体の衝突可能性の有無が判定され、衝突可能性が有ると判定されたことに応じて、減速制御として例えば定点保持制御が実行される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、物体との衝突を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】操船システムが適用される船舶の側面図である。
【
図2】船舶が備える各構成要素を概略的に説明するためのブロック図である。
【
図3】第1の自動操船モード時の船舶の移動の様子を示す図である。
【
図4】第2の自動操船モード時の船舶の移動の様子を示す図である。
【
図5】通常操船モード処理を示すフローチャートである。
【
図6】自動操船モード処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係る操船システムが適用される船舶の側面図である。この船舶10は、滑走艇であり、船体11と、船体11に搭載される船舶推進機としての複数の船外機12と、複数のトリムタブ13とを備えている。船体11の操船席付近にはステアリングホイール14が備えられる。
【0012】
各船外機12は船体11の船尾に並べて取り付けられている。船外機12は各々、対応するエンジン42(
図2)の駆動力によって回転されるプロペラ18(推進翼)によって推進力を得る。船外機12の数は問わない。
【0013】
各船外機12は、取付ユニット19を介して船体11に取り付けられ、ステアリングホイール14の操作に応じて取付ユニット19における略垂直なステアリング軸まわりに回動する。これにより、船舶10が操舵される。各トリムタブ13は船体11の船尾に取り付けられ、船尾における略水平な揺動軸まわりに揺動する。これにより、船体11の船尾に発生する揚力を調整して船体11の姿勢が制御される。
【0014】
取付ユニット19は、PTT(パワートリム&チルト)ユニット15を含む。PTTユニット15は、船体11に対して船外機12をチルト軸まわりに回動させ、船体11に対する船外機12の傾斜角度(トリム角またはチルト角)を変化させる。
【0015】
図2は、船舶10が備える各構成要素を概略的に説明するためのブロック図である。船体11は、制御部21、リモコン22、ステアリング23、船速センサ24、Gセンサ25、GPS26、シフト操作位置センサ27、方位センサ28、記憶部29、設定操作部30、表示部31、撮影部32、通信I/F(インターフェース)33、距離センサ35を有する。
【0016】
船外機12は、ECU41、エンジン42、回転数センサ43、スロットル開度センサ44、吸気圧センサ45、前後進切替機構46、シフト位置センサ47を有する。
【0017】
制御部21は、例えばBCU(Boat Control Unit)である。制御部21は、各種のプログラムに従って船舶10の各構成要素の動作を制御する。制御部21は、CPU、ROM、RAM、タイマ等を有し(いずれも図示せず)、CPUにより実行される制御プログラムがROMに格納されている。RAMは、CPUが制御プログラムを実行する際のワークエリアを提供する。
【0018】
リモコン22は、各船外機12に対応するレバー(不図示)を有する。操船者は、各レバーを操作することによって、対応する船外機12が発生する推力の方向を前進方向と後進方向とに切り換えると共に、対応する船外機12の出力を調整して船速を調整することができる。
【0019】
ステアリング23は、操船者が船舶10の針路を定めるための装置であり、操船者は、ステアリング23を左右に回転操作することによって船舶10の進路を左右に変更することができる。船速センサ24は船舶10の速度(船速)を計測する。Gセンサ25は、船体11に作用する3軸方向の加速度を計測する。GPS26は船舶10の地球座標系における位置を計測する。なお、制御部21は、GPS信号から船速を取得してもよい。あるいは、制御部21は、船速をエンジン回転数等から予測により取得してもよい。
【0020】
シフト操作位置センサ27は、前後進切替機構46に指示するシフト操作位置を検出する。このシフト操作位置はリモコン22の操作によって発せられる。方位センサ28は、船舶10の方位を検出する。記憶部29は、不揮発メモリである。設定操作部30は、操船に関する操作をするための操作子、PTT操作スイッチのほか、各種設定を行うための設定操作子、各種指示を入力するための入力操作子を含む(いずれも図示せず)。表示部31は、各種情報を表示するディスプレイであり、操船者の入力を受け付けるタッチパネルとしても機能する。撮影部32は、動画および静止画を撮影可能なカメラである。通信I/F33はインターネット等による通信機能を有し、外部装置と無線で通信する。なお、通信I/F33は、有線通信機能を有してもよい。
【0021】
距離センサ35は、検出対象の物体との距離を検出する無接触方式のセンサである。距離センサ35の構成は問わず、例えば、光学式、電波(ミリ波)式、超音波式などを採用することができる。
【0022】
ECU41は、エンジン42のコントローラであり、制御部21が発する制御信号に従ってエンジン42を制御する。回転数センサ43はエンジン42の回転数を計測する。スロットル開度センサ44は、エンジン42の不図示のスロットルバルブの開度(スロットル開度)を検出する。吸気圧センサ45はエンジン42の吸気圧を計測する。
【0023】
前後進切替機構46は、いずれも不図示のシフトリンク機構およびクラッチ機構を含み、エンジン42とクラッチ機構とがドライブシャフトで連結されている。ECU41は、リモコン22の操作によるシフト操作位置に応じて、前後進切替機構46のシフト位置を、前進状態(F)と、後進状態(R)と、中立状態(N)とに切り替える。シフト位置センサ47は、前後進切替機構46の現在のシフト位置を検出する。
【0024】
船舶10において、上述した各構成要素21~33、35、41~47は、バスに複数のノードが個別に接続されるネットワークであるCAN(Control Area Network)によって互いに接続される。構成要素24~28、35、43~45、47での検出乃至計測の結果は制御部21に送られる。なお、船舶10の各構成要素は、CANではなく、各構成要素を互いに直接、若しくはネットワーク機器を介して接続するイーサネット(登録商標)等のLAN(Local Area Network)によって接続されてもよい。
【0025】
このほか、船体11または船外機12は、各種アクチュエータを備える。各種アクチュエータは、各船外機12をステアリング軸まわりに回動させる機構、前後進切替機構46のシフト位置を切り替える機構、スロットル開度を調節する機構、トリムタブ13を駆動する機構などを含む。各種アクチュエータは自動運転を実現するためのアクチュエータも含む。
【0026】
本実施の形態では、設定可能な操船モードとして、通常操船モード(通常運転制御)と自動操船モードとがある。通常操船モードは、操船者の操作に従って航行するモードである。自動操船モードには、第1の自動操船モードと第2の自動操船モードとがある。なお、ここで示す自動操船モードは一例であり、採用可能な自動操船モードの種類は問わない。
【0027】
図3、
図4はそれぞれ、第1、第2の自動操船モード時の船舶10の移動の様子を示す図である。第1の自動操船モード(
図3)は、船舶10の方位を維持する操船モードである。第1の自動操船モードでは、船舶10は、同じ方位を向きつつ、潮流によって移動する。例えば制御部21が船舶10の方位を一定に維持した結果、船舶10は移動経路51上を移動する。
【0028】
第2の自動操船モード(
図4)は、設定した航行コースを船舶10が辿る操船モードである。操船者は、予め複数の中継点53を設定することで経路52が航行コースとして決定される。制御部21は、経路52に沿って船舶10を移動させる。なお、航行コースの設定手法は問わない。
【0029】
図5は、通常操船モード処理を示すフローチャートである。この処理は、制御部21において、ROMに格納されたプログラムをCPUがRAMに展開して実行することにより実現される。この処理は、例えば、船舶10のメインスイッチのオンにより起動される。あるいは、この処理は、操船モードを通常操船モードにする指示を受け付けると開始される。
【0030】
ステップS101では、制御部21は、通常操船モードにおける衝突可能性判定処理を実行する。この衝突可能性判定処理では、制御部21は、船舶10に対する物体の衝突可能性の有無を判定する。
【0031】
一例として、まず、制御部21は、検出対象の物体(船舶を含む)を特定する。検出対象の物体は、撮影部32により撮影された画像から画像解析によって特定される。あるいは、距離センサ35で発した波信号に対応する反射波信号などに基づいて検出対象の物体を特定してもよい。なお、検出対象の特定手法は問わず、公知の手法を用いることができる。
【0032】
そして、判定部としての制御部21は、船舶10を中心とする半径所定距離内に物体が有ると判定される場合に、衝突可能性が有ると判定する。あるいは、制御部21は、船舶10の進行方向において船舶10から所定距離内に物体が有ると判定される場合に、衝突可能性が有ると判定してもよい。
【0033】
なお、この衝突可能性判定処理には、自動車の分野で採用されている公知の手法を適用してもよい。例えば、船舶10から物体までの距離と、物体の推定移動速度と、船舶10自身の速度とから、衝突可能性の有無を判定してもよい。一例として、船舶10から物体までの距離を微分することにより物体と船舶10自身との相対速度を取得できる。そして、相対速度と船舶10自身の速度とから、物体の移動速度を推定することができる。なお、AI(artificial intelligence)を用いて衝突可能性の有無を判定してもよい。
【0034】
ステップS102では、制御部21は、衝突可能性判定処理(S101)の結果に基づいて、衝突可能性が有るか否かを判別する。そして制御部21は、衝突可能性がない場合はステップS113に進み、衝突可能性が有る場合はステップS103に進む。
【0035】
ステップS103では、制御部21は警告を実行する。この警告では、例えば、メッセージやマークを表示部31に表示させたり、音声を発したりする等によって、衝突可能性が有る旨を報知する。この警告によって、操船者に対して手動での減速が促される。そこで、ステップS104では、制御部21は、スロットル開度を小さくするスロットル減速操作があったか否かを判別する。このスロットル減速操作は例えばリモコン22の操作によってなされる。そして制御部21は、スロットル減速操作がない場合は、ステップS105に進む。
【0036】
ステップS105では、制御部21は、衝突可能性が有ると判定してから所定時間(例えば、1秒)が経過したか否かを判別する。そして制御部21は、衝突可能性が有ると判定してから所定時間が経過していない場合は、ステップS104に戻る。衝突可能性が有ると判定してから所定時間が経過するまでにステップS104でスロットル減速操作があった場合は、制御部21は、ステップS107に進む。一方、スロットル減速操作がないまま、衝突可能性が有ると判定してから所定時間が経過した場合は、ステップS106に進む。
【0037】
ステップS106では、制御部21は、スロットル開度を全閉(ゼロ)にする。従って、衝突可能性が有ると判定されたことに応じて、スロットル開度を全閉することによる減速制御が実行される。これにより、物体との衝突を回避することができる。
【0038】
ステップS107では、制御部21は、現在の船速Vが第1の所定速度V1(例えば、10Km/h)未満となる(V<V1が成立する)まで待機する。そしてV<V1が成立すると、制御部21は、ステップS108に進み、前後進切替機構46におけるシフト位置を後進(R)に切り替えると共にスロットル開度を大きくする。これにより、減速作用を強めることができる。ここで、V<V1が成立するのを待つのは、前後進切替機構46に大きな負荷を与えないようにするためである。なお、スロットル開度は所定値だけ大きくするが、この所定値は限定されない。
【0039】
ステップS109では、制御部21は、現在の船速Vが第2の所定速度V2未満となる(V<V2が成立する)まで待機する。第2の所定速度V2は、第1の所定速度V1より遅い速度であり、例えば、1Km/hである。なお、V1値、V2値は予めROMに格納されている。そしてV<V2が成立すると、制御部21は、ステップS110に進み、定点保持制御を開始する。ここで、V<V2が成立するのを待つのは、十分に減速した状態で定点保持制御へ円滑に移行するためである。
【0040】
定点保持制御は、船舶10を一定の範囲にとどめる制御である。定点保持制御では、制御部21は、船舶10の位置、船速や進行方向に基づいて、必要な推力およびその方向を算出する。例えば、船舶10の現在位置と目標位置との差を解消するように船舶10を移動させるために必要な推力およびその方向を各船外機12について算出する。そして制御部21は、算出結果に従って各船外機12を制御する。
【0041】
ステップS111では、制御部21は、シフト操作位置センサ27によって検出されたシフト操作位置に基づき、リモコン22のレバー位置(シフト操作位置)を中立位置にする操作がある(検出される)まで待機する。ここで、リモコン22のレバーは、前後進切替機構46におけるシフト位置を切り替える操作子に該当する。リモコン22のレバー位置の中立位置は、前後進切替機構46におけるシフト位置としての中立位置(N:ニュートラル)に対応する。そしてレバー位置を中立位置にする操作があると、制御部21は、ステップS112に進み、定点保持制御を終了すると共に、通常操船モードに移行する。
【0042】
このように、制御部21は、定点保持制御を開始した後、シフト位置を中立位置にするレバー操作が検出されたことに応じて定点保持制御を終了させ、通常操船モードに復帰させる。レバー位置が中立位置でないまま定点保持制御を終了すると、船舶10が意図せずに動き出す可能性があるからである。すなわち、レバー位置が中立位置となったことが定点保持制御終了の条件とされることで、船舶10の不用意な動き出しを抑制することができる。
【0043】
ステップS113では、制御部21は、その他の処理を実行して、ステップS101に戻る。ここで、ステップS113でのその他の処理においては、制御部21は、例えば、ユーザ操作に応じた設定処理、設定変更処理(操船モードの切り替えを含む)のほか、
図5に示す処理を終了させる処理などを実行する。
【0044】
図6は、自動操船モード処理を示すフローチャートである。この処理は、制御部21において、ROMに格納されたプログラムをCPUがRAMに展開して実行することにより実現される。この処理は、例えば、操船モードを自動操船モードに移行させる指示を受け付けると開始される。なお、この処理は、第1、第2の自動操船モードのいずれにも適用できる。
【0045】
ステップS201では、制御部21は、自動操船モードにおける衝突可能性判定処理を実行する。この衝突可能性判定処理では、制御部21は、船舶10に対する物体の衝突可能性の有無を判定する。
【0046】
まず、ステップS101で述べたのと同様の物体の特定手法と衝突可能性の有無の判定手法を用いることができる。これに加えて、自動操船モードでは、制御部21は、船舶10の予測移動経路上で物体との衝突が生じるか否かにより衝突可能性の有無を判定してもよい。
【0047】
ここで、第1の自動操船モードでは、予測移動経路は、刻々と変化する船舶10の移動速度および移動方向を解析することにより特定される。また、第2の自動操船モードでは、設定された各中継点53を通る経路52で定まる航行コースが予測移動経路として特定される。制御部21は、船舶10の予測移動経路と、物体の移動状況から推定される物体の予測移動経路とに基づいて、衝突可能性の有無を判定する。例えば、船舶10を中心とする所定半径の仮想円と、物体を中心とする所定半径の仮想円とが重なる可能性があるか否かによって、衝突可能性の有無を判定してもよい。この衝突可能性判定処理にも、自動車の分野で採用されている公知の手法を適用してもよいし、AIを用いて衝突可能性の有無を判定してもよい。
【0048】
ステップS202では、制御部21は、衝突可能性判定処理(S201)の結果に基づいて、衝突可能性が有るか否かを判別する。そして制御部21は、衝突可能性がない場合は、ステップS210に進み、衝突可能性が有る場合はステップS203に進む。
【0049】
ステップS203では、制御部21は、ステップS103と同様に警告を実行する。ステップS204では、制御部21は、自動操船モードを中断する操作があったか否かを判別する。この操作は例えば設定操作子の操作によってなされる。そして制御部21は、自動操船モードを中断する操作がない場合は、ステップS205に進む。なお、リモコン22が操作された場合は、自動操船モードが解除され、本フローチャートが終了されて通常操船モードへ移行する。
【0050】
ステップS205では、制御部21は、衝突可能性が有ると判定してから所定時間(例えば、1秒)が経過したか否かを判別する。そして制御部21は、衝突可能性が有ると判定してから所定時間が経過していない場合は、ステップS204に戻る。衝突可能性が有ると判定してから所定時間が経過するまでにステップS204で自動操船モードを中断する操作があった場合は、制御部21は、ステップS206に進む。一方、自動操船モードを中断する操作がないまま、衝突可能性が有ると判定してから所定時間が経過した場合は、ステップS206に進む。
【0051】
ステップS206では、制御部21は、自動操船モードを中断する。ステップS207では、制御部21は、減速制御として定点保持制御を開始する。これにより、物体との衝突を回避することができる。ステップS208では、制御部21は、衝突可能性が無くなるまで待機する。なお、ステップS201で開始された衝突可能性判定処理は継続して実行されている。そして、衝突可能性が無くなったと判定された場合は、制御部21は、ステップS209で、定点保持制御を終了すると共に、自動操船モードを再開する。
【0052】
ステップS210では、制御部21は、ステップS113と同様のその他の処理を実行して、ステップS201に戻る。
【0053】
本実施の形態によれば、船舶10に対する物体の衝突可能性が有ると判定されたことに応じて、減速制御として定点保持制御が実行される(S110、S207)ので、物体との衝突を回避することができる。
【0054】
また、通常操船モード処理において定点保持制御を開始した後、レバー位置を中立位置にする操作が検出されたことに応じて定点保持制御を終了する(S111、S112)ので、船舶10が意図せずに動き出すことを抑制することができる。
【0055】
また、通常操船モード処理において定点保持制御を開始する前に、スロットル開度を全閉にするので(S106)、衝突を回避しやすくなると共に、ステップS108でシフト位置を後進(R)に切り替える際のエンスト発生を抑制することができる。
【0056】
また、制御部21は、衝突可能性が有ると判定された場合に警告を実行し、警告を実行した後、スロットル減速操作がないまま所定時間が経過した場合にスロットル開度を全閉にする(S103~S106)。これにより、手動での減速を促す期間を確保すると共に、手動減速がなければ自動で減速することができる。また、警告を実行した後、モード中断操作がないまま所定時間が経過した場合に自動操船モードが中断される(S203~S206)。これにより、手動でのモード中断を促す期間を確保すると共に、中断操作がなければ自動で自動操船モードを中断することができる。なお、ステップS104、S204を設けることは必須でない。また、警告(S103、S203)を実行することも必須でない。また、所定時間の経過を待つこと(S105、S205)も必須でない。
【0057】
また、制御部21は、スロットル開度を全閉にした後、船速が第1の所定速度V1未満になったら、シフト位置を後進に切り替えると共にスロットル開度を大きくする(S108)。これにより、前後進切替機構46に大きな負荷を与えずに積極的に減速することができる。また、制御部21は、スロットル開度を全閉にした後、船速Vが第2の所定速度V2未満になってから、定点保持制御を開始する(S110)。これにより、定点保持制御へ円滑に移行することができる。
【0058】
また、衝突可能性が有ると判定された場合、定点保持制御以外の減速制御(S106)を開始した後に定点保持制御を実行するので、衝突の可能性をより低下させることができる。なお、通常操船モード処理において、衝突可能性が有ると判定されたことに応じて、スロットル全閉などによる減速動作を行うことなく定点保持制御へ移行してもよい。このようにしても、衝突可能性を十分に早く認知すれば、衝突回避効果を得ることができる。
【0059】
なお、船舶10の進行方向において物体の衝突可能性が有ると判定された場合は、減速制御をすることによる衝突回避効果が特に大きい。しかし、物体との衝突を回避する観点からは、衝突可能性が有ると判定されたことに応じて実施する減速制御は、例示したスロットル全閉や定点保持制御に限らない。例えば、減速制御として、トリムタブ13を下げてもよいし、2つの船外機12の左右方向の向きを互いに異ならせてもよい(例えば、上方から見てV字または逆V字)。あるいは、インターセプタを設け、インターセプタを駆動してもよい。このほか、シフト位置をRまたはNにしてもよい。また、いずれかの減速方法を複合的に組み合わせてもよい。
【0060】
なお、自動操船モード処理(
図6)においても、物体の衝突可能性が有ると判定された場合に、定点保持制御以外で上記例示した減速制御の少なくとも1つを実行してもよい。
【0061】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【0062】
本発明は、上記した実施形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワークや非一過性の記憶媒体を介してシステムや装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータの1以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能である。以上のプログラムおよび以上のプログラムを記憶する記憶媒体は、本発明を構成する。また、本発明は、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0063】
なお、船外機を有する船舶に限らず、船内機または船内外機によって推進する各種の船舶や、ジェットボートにも本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 船舶、 11 船体、 12 船外機、 21 制御部、 22 リモコン、 35 距離センサ、 41 ECU、 42 エンジン、 46 前後進切替機構