(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157154
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】無機材料層の保護膜及びエッチング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20231019BHJP
H01L 21/306 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
H01L21/308 E
H01L21/308 F
H01L21/306 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066881
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】望田 憲嗣
(72)【発明者】
【氏名】三木 翼
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA22
5F043AA31
5F043AA35
5F043BB22
5F043BB23
5F043DD07
5F043DD10
(57)【要約】
【課題】無機材料層に対して十分な付着性を示す保護膜を提供する。また、ウェットエッチング工程において、2種以上の無機材料層を有する被処理面に対して十分なエッチング選択性を示し、かつ、エッチング後の除去が容易である保護膜を形成する処理液を用いる、エッチング方法を提供する。
【解決手段】本開示の保護膜は、無機材料層の保護膜であり、水溶性セルロースを含む。
また、本開示のエッチング方法は、2種以上の無機材料層を有する被処理面に、水溶性セルロースを含む処理液の存在下、及び/又は、水溶性セルロースを含む処理液を供給した後に、ウェットエッチング液を供給することによって、少なくとも1種の無機材料層をエッチングする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性セルロースを含む、無機材料層の保護膜。
【請求項2】
前記水溶性セルロースが、ヒドロキシル基含有水溶性セルロースである、請求項1に記載の保護膜。
【請求項3】
前記無機材料層が、金属、金属酸化物、金属窒化物及び半導体からなる群より選択される少なくとも1種により形成される、請求項1又は2に記載の保護膜。
【請求項4】
前記無機材料層が、金属酸化物及び金属窒化物から形成された隣接領域を表面に有する、請求項1又は2に記載の保護膜。
【請求項5】
2種以上の無機材料層を有する被処理面に、水溶性セルロースを含む処理液の存在下、及び/又は、水溶性セルロースを含む処理液を供給した後に、ウェットエッチング液を供給することによって、少なくとも1種の無機材料層をエッチングするエッチング方法。
【請求項6】
前記水溶性セルロースが、ヒドロキシル基含有水溶性セルロースである、請求項5に記載のエッチング方法。
【請求項7】
前記無機材料層が、金属、金属酸化物、金属窒化物及び半導体からなる群より選択される少なくとも1種により形成される、請求項5又は6に記載のエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無機材料層の保護膜及びエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばシリコーンウエハ等から半導体素子に加工する際、集積回路を形成した半導体基板表面を保護するために、例えばポリビニルピロリドンによって構成される保護膜を用いることが開示されている(特許文献1)。
【0003】
一方、熱燐酸溶液をウェットエッチング液として用い、シランカップリング剤を熱燐酸耐性材料として用いて、熱燐酸耐性材料によりシリコン酸化膜を保護してシリコン窒化膜を選択的にエッチングする、エッチング方法が開示されている(特許文献2)。
【0004】
また、パターン形成における現像に用いられる有機溶剤を含む現像液から、有機半導体膜を保護する保護膜を形成するために、ヒドロキシ基を有する主鎖構造が相違する2種以上の樹脂を用いることが開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/101938号
【特許文献2】特開2013-062278号公報
【特許文献3】特開2014-098889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示のポリビニルピロリドンを含む保護膜には、被対象物に対して付着性が十分でないため、例えば熱リン酸溶液を用いるウェットエッチングでは保護が不十分という問題があった。また、特許文献2に開示のエッチング方法には、熱燐酸耐性材料としてシランカップリング剤を保護膜とすることによってエッチング選択性を実現できるものの、保護膜のエッチング後の除去が容易でないという問題があった。また、特許文献3に開示の保護膜は、無機材料の保護を目的とするものではなかった。
【0007】
従って、本開示の目的は、無機材料層に対して十分な付着性を示す保護膜を提供することにある。また、本開示の他の目的は、ウェットエッチング工程において、2種以上の無機材料層を有する被処理面に対して十分なエッチング選択性を示し、かつ、エッチング後の除去が容易である保護膜を形成する処理液を用いる、エッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、水溶性セルロースを含むことによって無機材料層に対して十分な付着性を示す保護層を得られること、水溶性セルロースを含む処理液を用いることによって、2種以上の無機材料層を有する被処理面の少なくとも1種の無機材料層をエッチングでき、かつ、処理液の除去が容易になることを見出した。本開示は、これらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本開示は、水溶性セルロースを含む、無機材料層の保護膜を提供する。
【0010】
上記水溶性セルロースは、ヒドロキシル基含有水溶性セルロースであることが好ましい。
【0011】
上記無機材料層は、金属、金属酸化物、金属窒化物及び半導体からなる群より選択される少なくとも1種により形成されることが好ましい。
【0012】
上記無機材料層は、金属酸化物及び金属窒化物から形成された隣接領域を表面に有することが好ましい。
【0013】
本発明は、また、2種以上の無機材料層を有する被処理面に、水溶性セルロースを含む処理液の存在下、及び/又は、水溶性セルロースを含む処理液を供給した後に、ウェットエッチング液を供給することによって、少なくとも1種の無機材料層をエッチングするエッチング方法を提供する。
【0014】
上記水溶性セルロースは、ヒドロキシル基含有水溶性セルロースであることが好ましい。
【0015】
上記無機材料層は、金属、金属酸化物、金属窒化物及び半導体からなる群より選択される少なくとも1種により形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本開示の無機材料層の保護膜は、水溶性セルロースを含むので無機材料層に対して十分な付着性を示す。また、本開示のエッチング方法では、水溶性セルロースを含む処理液を用いることによって、2種以上の無機材料を有する被処理面に対して十分なエッチング選択性が実現し、かつ、エッチング後の処理液の容易な除去が実現する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[保護膜]
本開示の保護膜は、水溶性セルロースを含み、無機材料層の表面に付着してこれを保護する膜である。上記保護膜は、何に対する保護膜であるかについて特に限定されないが、例えば、ウェットエッチング、メッキ、有機膜剥離、化学気相成長法、原子層堆積法に対する保護膜であることが好ましい。上記保護膜の厚さは、特に限定されないが、通常、5~200nmである。
【0018】
本開示の保護膜に係る水溶性セルロースは、好ましくは0~100℃(より好ましくは20~60℃)において水溶性を示す。上記水溶性セルロースとしては、例えば、ヒドロキシル基含有水溶性セルロース、カルボキシル基含有水溶性セルロース等が挙げられる。上記水溶性セルロースは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0019】
上記水溶性セルロースとしては、例えば、下記式(1)で表される構成単位を有するセルロース誘導体が挙げられる。式(1)中、3つのRは同一又は異なって、水素原子、又は、下記式(2)で表される基を示す。但し、3つのRは少なくとも一つは式(2)で表される基である。式(2)中、nは0以上の数、L1及びL2は同一又は異なって直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を示し、Xはヒドロキシル基又はカルボキシル基を示す。
【0020】
【0021】
上記アルキレン基の炭素数は1~5であることが好ましく、より好ましくは炭素数2~3である。上記アルキレン基の具体例としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、1-メチルエチレン基、1,1-ジメチルメチレン、エチレン基等が挙げられる。
【0022】
上記nは0以上の数であり、好ましくは0~10、より好ましくは1.5~7、更に好ましくは1.6~5、特に好ましくは1.7~3である。
【0023】
上記Xは、ヒドロキシル基又はカルボキシル基であり、好ましくはヒドロキシル基である。
【0024】
上記水溶性セルロース中のヒドロキシル基又はカルボキシル基は、アルカリ金属等と塩を形成していてもよい。塩は、上記のヒドロキシル基又はカルボキシル基の全部について形成されていてもよいし、一部について形成されていてもよい。
【0025】
上記塩としては、例えば、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩など)などの一価金属塩、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)などの二価金属塩、第四級アンモニウム塩、アミン塩、置換アミン塩又はこれらの複塩などが挙げられる。中でも、アルカリ金属塩(ナトリウム塩等)、第四級アンモニウム塩が好ましい。ヒドロキシル基又はカルボキシル基が、例えばナトリウム塩を形成している場合、ヒドロキシル基(-OH)は-ONaとなり、カルボキシル基(-COOH)は-COONaとなる。
【0026】
上記水溶性セルロースの具体例としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース及びこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。中でも、無機材料層に対する付着性に優れる点から、ヒドロキシエチルセルロースが好ましい。
【0027】
上記水溶性セルロースのエーテル化度(上記のRに係るアルキル基又はポリアルキレンオキシ基による置換度)は、例えば0.1~3.0の範囲から選択することができる。中でも、付着性に優れる点から、0.5以上が好ましく、より好ましくは1.1以上である。エーテル化度の上限は、好ましくは2.5、より好ましくは1.6である。なお、上記エーテル化度とは、セルロースを構成するグルコース単位の2位、3位、及び6位のヒドロキシル基についてのエーテル化度(置換度)の平均値である。
【0028】
上記水溶性セルロースの重量平均分子量(Mw)は、例えば3×104~200×104が好ましく、より好ましくは5×104~70×104、更に好ましくは10×104~50×104、特に好ましくは20×104~30×104である。
【0029】
上記保護膜中における、上記水溶性セルロースの含有量は、50重量%以上が好ましく、より好ましくは80重量%以上、更に好ましくは95重量%以上である。
【0030】
上記保護膜における揮発成分を除いた不揮発成分中の上記セルロースの含有量は、95重量%以上が好ましく、より好ましくは97重量%以上、更に好ましくは99重量%以上である。
【0031】
上記保護膜は、本開示の目的を妨げない範囲において、上記水溶性セルロース以外の、他の水溶性ポリマー、及び/又は、他の成分を含んでいてもよい。
【0032】
上記他の水溶性ポリマーとしては、例えば、ビニル系樹脂(ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(N-アルキルアクリルアミド)、ポリアリルアミン、ポリ(N-アルキルアリルアミン)、部分アミド化ポリアリルアミン、ポリ(ジアリルアミン)、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール-ポリアクリル酸ブロック共重合体、ポリビニルアルコール-ポリアクリル酸エステルブロック共重合体等)、ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール等)、ポリグリセリン、及び水溶性ナイロン等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0033】
上記保護膜中における、上記他の水溶性ポリマーの含有量は、上記水溶性セルロースと上記他の水溶性ポリマーの合計100重量%に対して、50重量%以下が好ましく、より好ましくは20重量%以下、更に好ましくは5重量%以下、特に好ましくは3重量%以下、最も好ましくは1重量%以下である。
【0034】
上記他の成分としては、例えば、分散剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0035】
上記保護膜中における、上記他の成分の含有量は、上記水溶性セルロース100重量部に対して、5重量部以下が好ましく、より好ましくは3重量部以下、更に好ましくは1重量部以下である。
【0036】
本開示に係る無機材料層は、無機材料から形成される。上記無機材料層は、例えば、上記無機材料により形成される基材自体の表面部であってよいし、該表面部上に基材とは異なる無機材料により形成される膜であってもよい。
【0037】
上記無機材料層は、例えば、1種の無機材料により形成される基材の表面上の一部に他の無機材料による膜を形成することによって、表面に異なる2種以上の無機材料から形成された隣接領域を有するものであってもよい。
【0038】
上記無機材料としては、例えば、金属(金、銀、銅、白金、パラジウム等)、金属酸化物(酸化シリコン、酸化スズ、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化アルミニウム等、好ましくは酸化シリコン)、金属窒化物(窒化シリコン、窒化ガリウム等、好ましくは窒化シリコン)及び半導体(シリコン等)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。上記無機材料は、中でも、本開示の保護膜の厚さが均一になりやすい点から、金属酸化物及び/又は金属窒化物であることが好ましい。また、上記無機材料層は、上記保護膜が付着選択性を示すことから、金属酸化物及び金属窒化物から形成された隣接領域を表面に有することが特に好ましい。
【0039】
上記基材の形状は、特に限定されず、平板状、湾曲した板状、柱状、球状、円盤状等、種々の形状であってよく、また、例えば所望のウェットエッチングに応じて、溝や凹凸等を有する等の複雑な構造を有する形状であってもよい。
【0040】
上記保護膜は、30℃以上(好ましくは40℃以上、より好ましくは40~85℃)、pH6~8(好ましくはpH6.5~7.5)の水(より好ましくはpH7の超純水)、又は、10~40℃(好ましくは20~30℃)で、pH8以上(好ましくはpH10以上、より好ましくはpH12以上)のアルカリ水溶液を用いて洗浄することによって、容易に除去することができる。なお、アルカリ水溶液は、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の強アルカリを水に溶解させることによって容易に調製することができる。
【0041】
上記保護膜は、上記水溶性セルロース、水、必要に応じて、上記他の水溶性ポリマー及び上記他の成分を含む処理液によって無機材料層を処理し、無機材料層の表面に上記水溶性セルロースを付着させることによって作製することができる。
【0042】
上記処理液中における上記水溶性セルロースの含有量は、0.001~3重量%が好ましく、より好ましくは0.005~1重量%、更に好ましくは0.01~0.5重量%である。水溶性セルロースの含有量が0.001重量%以上であると保護膜が十分に形成されやすく、3重量%以下であると保護膜の厚さが均一となりやすい。
【0043】
上記処理液に用いられる水としては、特に限定されないが、例えば、蒸留水、イオン交換水、及び超純水等が挙げられる。
【0044】
上記処理液は、また、例えばウェットエッチング液の成分である酸性物質(過酸化水素、フッ酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、バッファードフッ酸、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等)又は塩基性物質(アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、コリン、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等)を含んでいてもよい。
【0045】
上記処理液は、水溶性の有機溶媒を含有していてもよい。上記有機溶媒としては、例えば、アルキレングリコール類(プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ケトン類(アセトン等)が挙げられる。上記処理液中における上記有機溶媒の含有量は、5重量%以下が好ましく、より好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下であり、下限は、特に限定されないが、0重量%、0.1重量%又は0.5重量%である。
【0046】
上記処理液の、温度25℃、せん断速度100(1/s)における粘度は、保護膜の厚さが均一となりやすい点から、100mPa・s以下が好ましく、より好ましくは10mPa・s以下、更に好ましくは5mPa・s以下である。粘度の下限は特に限定されないが、例えば0.1mPa・s、0.3mPa・s又は0.5mPa・sである。
【0047】
上記水溶性セルロースを無機材料層に付着させる方法としては、例えば、無機材料層を表面部に有する基材を上記処理液に浸漬する方法、又は、無機材料層に上記処理液を塗布し乾燥する方法等が挙げられる。
【0048】
上記浸漬する方法としては、例えば、浸漬用容器に満たされた上記処理液に無機材料層を浸漬する方法(ディップ法)等が挙げられる。
【0049】
上記塗布する方法としては、例えば、コーティング法等により行うことができる。具体的には、回転塗布法(スピンコート)、スタンピング、ディスペンス、スキージ法、噴霧、刷毛塗り等が挙げられる。中でも、均一な保護膜が得られやすい点から、回転塗布法により塗布することが好ましい。
【0050】
乾燥する方法としては、例えば、自然乾燥、通風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。中でも、保護膜の均一性が向上しやすい点から、加熱乾燥が好ましい。加熱乾燥における温度条件は、好ましくは70~320℃、より好ましくは80~180℃、更に好ましくは90~150℃である。
【0051】
[エッチング方法]
本開示のエッチング方法は、2種以上の無機材料層を有する被処理面(表面に異なる2種以上の無機材料から形成された隣接領域を有する被処理面)に、水溶性セルロースを含む処理液の存在下、及び/又は、水溶性セルロースを含む処理液を供給した後に、ウェットエッチング液を供給することによって、少なくとも1種の無機材料層をエッチングするエッチング方法である。
【0052】
上記水溶性セルロースが被処理面の異なる無機材料層のいずれにも付着することによって、ウェットエッチング液に対して比較的エッチングされにくい無機材料層が更にエッチングされにくい難エッチング層となる一方で、比較的エッチングされやすい無機材料層は、保護膜が形成されても、なお難エッチング層に対して比較的エッチングされやすい易エッチング層となるにとどまる。
【0053】
すなわち、本開示のエッチング方法は、(A)上記水溶性セルロース及び上記ウェットエッチング液を同時に上記被処理面に供給する場合、及び/又は、(B)上記水溶性セルロースを上記被処理面に供給した後にウェットエッチング液を上記被処理面に供給する場合において、上記水溶性セルロースの付着によって異なる無機材料層に難エッチング層及び易エッチング層を生じさせて、易エッチング層を優先的にエッチングしてエッチング選択性を実現する、エッチング方法である。
【0054】
上記(A)のエッチング方法は、保護膜を有しない被処理面に、上記処理液と上記ウェットエッチング液の混合液を供給するものであってよい。
【0055】
上記混合液における、上記処理液に対する上記ウェットエッチング液の重量割合(ウェットエッチング液/処理液)は、1~1000が好ましく、より好ましくは10~500、更に好ましくは100~300である。
【0056】
上記混合液中における上記水溶性セルロースの含有量は、0.001~3重量%が好ましく、より好ましくは0.005~1重量%、更に好ましくは0.01~0.5重量%である。
【0057】
上記(B)のエッチング方法は、予め上記処理液を供給し乾燥した被処理面に、上記ウェットエッチング液を供給するものであってよいし、予め上記処理液を供給した被処理面について、乾燥せずに、上記ウェットエッチング液を供給するものであってよい。
【0058】
上記(A)のエッチング方法には、処理液及びウェットエッチング液を同時に供給できるのでエッチングする工程を簡便にできるという利点があり、上記(B)のエッチング方法には、予め難エッチング層を形成できるのでエッチングの選択性を一層高くできるという利点がある。
【0059】
上記2種以上の異なる無機材料層を形成する無機材料は、例えば、金属(金、銀、銅、白金、パラジウム等)、金属酸化物(酸化シリコン、酸化スズ、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化アルミニウム等、好ましくは酸化シリコン)、金属窒化物(窒化シリコン、窒化ガリウム等、好ましくは窒化シリコン)及び半導体(シリコン等)からなる群より、それぞれ選択し、組み合わせることができる。中でも、エッチング選択性が顕著になりやすい点から、金属酸化物及び金属窒化物の組合せを含むことが好ましく、酸化シリコン及び窒化シリコンの組合せを含むことがより好ましい。
【0060】
本開示のエッチング方法に用いる水溶性セルロースを含む処理液としては、上記保護膜に係る処理液と同じものを使用することができる。
【0061】
本開示のエッチング方法で用いるウェットエッチング液としては、被処理面が有するエッチングされる無機材料層の種別に応じて選択され、特に限定されないが、例えば、公知の酸性物質又は塩基性物質を含むウェットエッチング液等が挙げられる。
【0062】
上記酸性物質としては、例えば、過酸化水素、フッ酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、バッファードフッ酸、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。中でも、酸化シリコンのエッチングに優れる点でフッ酸が好ましく、窒化シリコンのエッチングに優れる点でリン酸が好ましい。
【0063】
上記酸性物質がフッ酸、塩酸、硝酸、硫酸である場合、ウェットエッチング液中の上記酸性物質の含有量は、0.05~30重量%であることが好ましい。上記含有量が0.05重量%以上であると濃度制御が容易でエッチングが均一となりやすく、30重量%以下であると例えばフッ酸の場合に濃度が安定しやすくなる。
【0064】
上記酸性物質がリン酸である場合、ウェットエッチング液中の上記酸性物質の含有量は、70~99重量%であることが好ましく、より好ましくは72~90重量%、更に好ましくは75~85重量%である。上記含有量が70重量%以上であるとエッチング不良によるパーティクル発生が起こりにくく、99重量%以下であると、エッチング選択性が得られやすくなる。
【0065】
上記塩基性物質としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、コリン、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等が挙げられる。
【0066】
本開示のエッチング方法は、2種の無機材料層として酸化シリコン層と窒化シリコン層とを有する被処理面に対し、ウェットエッチング液としてリン酸エッチング液を用い、易エッチング層である窒化シリコン層をエッチングするエッチング方法であることが好ましい。
【0067】
本開示のエッチング方法は、また、2種の無機材料層として酸化シリコン層と窒化シリコン層とを有する被処理面に対し、ウェットエッチング液としてフッ酸エッチング液を用い、易エッチング層である酸化シリコン層をエッチングするエッチング方法であることが好ましい。
【0068】
上記処理液及び/又は上記ウェットエッチング液を被処理面に供給する方法としては、例えば、被処理面を上記処理液及び/又は上記ウェットエッチング液に浸漬する方法、又は、被処理面に上記処理液及び/又は上記ウェットエッチング液を塗布する方法等が挙げられる。
【0069】
上記浸漬する方法としては、例えば、浸漬用容器に満たした上記処理液及び/又は上記ウェットエッチング液に被処理面を浸漬する方法(ディップ法)等が挙げられる。
【0070】
上記塗布する方法としては、例えば、コーティング法等により行うことができる。具体的には、回転塗布法(スピンコート)、スタンピング、ディスペンス、スキージ法、噴霧、刷毛塗り等が挙げられる。
【0071】
本開示のエッチング方法は、難エッチング層に付着した水溶性セルロースを、30℃以上(好ましくは40℃以上、より好ましくは40~85℃)、pH6~8(好ましくはpH6.5~7.5)の水(より好ましくはpH7の超純水)、又は、10~40℃(好ましくは20~30℃)で、pH8以上(好ましくはpH10以上、より好ましくはpH12以上)のアルカリ水溶液を用いて洗浄することによって容易に除去できることから、エッチング後の被処理面の洗浄が容易という利点を有する。
【0072】
以上、本開示に係る発明の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示に係る発明の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。また、本開示に係る発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【実施例0073】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0074】
実施例において使用した水溶性セルロース、他の水溶性ポリマー及び無機材料層は以下の通りである。
(水溶性セルロース)
・HEC:ヒドロキシエチルセルロース(商品名「SE400」、ダイセルミライズ株式会社製、エーテル化度1.2~1.4、重量平均分子量25×104)
【0075】
(他の水溶性ポリマー)
・PGL:ポリグリセリン(商品名「PGL XPW」、株式会社ダイセル製)
・PEG1000:ポリエチレングリコール(商品名「PEG#1000」、日油株式会社製)
・PEG4000:ポリエチレングリコール(商品名「PEG#4000」、日油株式会社製)
・PEG6000:ポリエチレングリコール(商品名「PEG#6000」、日油株式会社製)
・PVA:ポリビニルアルコール(商品名「ゴーセノール KL-05」、日本合成化学工業株式会社製)
・PVP:ポリビニルピロリドン(商品名「ポリビニルピロリドン K-30」、株式会社日本触媒製)
【0076】
(無機材料層)
・Th-SiO2:SiO2膜(熱酸化により成膜、厚さ1.5μm)付きSi基板、アドバンテック社製
・LP-SiO2:SiO2膜(LP-CVDにより成膜、厚さ200nm)付きSi基板、アドバンテック社製
・LP-SiN:SiN膜(LP-CVDにより成膜、厚さ200nm)付きSi基板、アドバンテック社製
【0077】
実施例1
超純水100gに対し、0.2gのHECを配合し、ボールミルで終夜攪拌することによって、HECを含有する処理液を調製した。
【0078】
得られた処理液について、QCM-D測定装置(商品名「QSense Exploer」、Biolin Scientific社製)を用いた水晶振動子マイクロバランス法(Quartz Crystal Microbalance)によって、SiO2膜又はSiN膜に対する付着性を評価した。付着性の評価は、基準振動数5MHzの水晶振動子にSiO2を成膜したセンサー(商品名「QSX303」、Biolin Scientific社製)又はSiNを成膜したセンサー(商品名「QSX328」、Biolin Scientific社製)に対して、100μL/sの速度で、超純水を周波数が安定するまで通液してから、得られた処理液を900秒間通液し、更に超純水を600秒間通液して非付着の成分を除去する処理を行った後に、処理後のセンサーの周波数から処理前のセンサーの周波数を除した周波数変化(倍音数3)について評価することよって行った。センサー表面へのHECの付着量が多いほどセンサーが重くなって周波数が低下することから、周波数変化が負の値として大きいほど付着量が多いことを表す。
【0079】
(付着性評価基準)
○(良) :周波数変化が-5Hz以下
×(不可):周波数変化が-5Hz超0Hz以下
【0080】
比較例1~6
HECを、PGL、PEG1000、PEG4000、PEG6000、PVA又はPVPに変更した以外は実施例1と同様にして処理液を得、得られた処理液について、実施例1と同様にして付着性を評価した。
【0081】
上記の評価結果を表1に示す。
【0082】
【0083】
上記表1から、HECを含有する処理液を用いると、無機材料層(SiO2膜、SiN膜)の表面にHECが付着して保護膜が形成されることがわかった(実施例1:付着性(〇))。一方、PGL、PEG1000、PEG4000、PEG6000、PVA及びPVPを含有する処理液を用いる場合、無機材料層(SiO2、SiN)の表面にこれらは付着しにくく、保護膜が形成されにくいことがわかった(比較例1~6:付着性(×))。
【0084】
実施例2
実施例1の処理液をSiO2膜付き基板(LP-SiO2)又はSiN膜付き基板(LP-SiN)にスピンコーター(ミカサ株式会社製)を用いてスピンコートした後、ホットプレートにて150℃で90秒間加熱を行い、厚さ15nmの保護膜を得た。膜厚は、分光エリプソメーター(商品名「FE-5000」、大塚電子株式会社製)により測定した。得られた保護膜に、剥離液として温水(超純水、40℃×pH7)を滴下し、3分間静置した後、エアブローにて超純水を除去してから、無機材料層上の保護膜の有無を、目視にて又は赤外分光装置(商品名「Spectrum One」、Perkin Elmer社製)を用いて保護膜の有無を確認することによって、除去性を評価した。
【0085】
(除去性評価基準)
○(良) :保護膜なし
×(不可):保護膜あり
【0086】
実施例3~5
剥離液である超純水(40℃×pH7)を、超純水(60℃×pH7)、超純水(80℃×pH7)又は水酸化カリウム(KOH)水溶液(25℃×pH12)に変更した以外は実施例2と同様にして除去性を評価した。
【0087】
比較例7~9
超純水(40℃×pH7)を、超純水(25℃×pH7)、塩酸(HCl)水溶液(25℃×pH1)又はイソプロピルアルコール(IPA)に変更した以外は実施例2と同様にして除去性を評価した。
【0088】
上記の評価結果を表2に示す。
【0089】
【0090】
上記表2から、無機材料層(SiO2膜、SiN膜)の表面に形成されたHECを含む保護膜は、温水、或いはアルカリ水溶液により除去されることがわかった(実施例2~5:除去性(〇))。一方、常温の超純水、塩酸水溶液又はIPAを用いる場合、HECを含む保護膜は除去されないことがわかった(比較例7~9:除去性(×))。
【0091】
実施例6
実施例1のHECを含有する処理液を用いて、実施例2と同様にして処理したSiO2Th膜付き基板(Th-SiO2)又はSiN膜付き基板(LP-SiN)を、150℃の85%リン酸水溶液に、それぞれエッチング時間として180分間、30分間浸漬した後の厚さを、分光エリプソ(商品名「FE-5000」、大塚電子株式会社製)を用いて測定した。そして、減少した厚さの値をエッチング時間で除した値を、SiO2膜及びSiN膜のエッチングレート(nm/分)とした。そして、SiO2膜のエッチングレートに対するSiN膜のエッチングレートの比の値(SiN/SiO2選択比)をエッチング選択性として評価した。SiN/SiO2選択比が大きいほど、SiNを選択的にエッチングするエッチング選択性に優れる。
【0092】
比較例10
SiO2膜及びSiN膜について、処理液によって処理しない以外は、実施例6と同様にしてエッチング選択性を評価した。
【0093】
比較例11~14
実施例1のHECを含有する処理液を、比較例1、2、5、6に用いた、PGL、PEG1000、PVA又はPVPを含有する処理液に変更する以外は、実施例6と同様にしてエッチング選択性を評価した。
【0094】
上記の評価結果を表3に示す。
【0095】
【0096】
上記表3から、HECを含む処理液を用いる実施例6では、SiN/SiO2選択比は398であり、SiN/SiO2選択比234~343である比較例10~14の場合よりも、SiN膜を易エッチング層とするエッチング選択性に優れることがわかった。
【0097】
実施例7
実施例1のHECを含有する処理液を用いて、実施例2と同様の手法で処理したSiO2膜付き基板(Th-SiO2、LP-SiO2)又はSiN膜付き基板(LP-SiN)に対して、バッファードフッ酸(商品名「BHF110」、ダイキン工業株式会社製)を3滴膜表面に滴下し、表4に記載の時間経過させた後の厚さを、分光エリプソ(商品名「FE-5000」、大塚電子株式会社製)を用いて測定した。そして、減少した厚さの値をエッチング時間で除した値を、SiO2膜及びSiN膜のエッチングレート(nm/分)とした。そして、SiN膜のエッチングレートに対するSiO2膜のエッチングレートの比の値(SiO2/SiN選択比)をエッチング選択性として評価した。SiO2/SiN選択比が大きいほど、SiO2を選択的にエッチングするエッチング選択性に優れる。
【0098】
比較例15
SiO2膜及びSiN膜について、処理液によって処理しない以外は、実施例7と同様にしてエッチング選択性を評価した。
【0099】
比較例16、17
実施例1のHECを含有する処理液を、比較例1、2に用いた、PGL又はPEG1000を含有する処理液に変更する以外は、実施例7と同様にしてエッチング選択性を評価した。
【0100】
上記の評価結果を表4に示す。
【0101】
【0102】
上記表4から、HECを含む処理液を用いる実施例7では、SiO2/SiN選択比は、(Th-SiO2)/(LP-SiN)について194、(LP-SiO2)/(LP-SiN)について500であり、それぞれ88~91、182~184である比較例15~17の場合よりも、SiO2膜を易エッチング層とするエッチング選択性に優れることがわかった。
【0103】
実施例8、比較例18~20
SiO2膜付き基板(Th-SiO2、LP-SiO2)又はSiN膜付き基板(LP-SiN)を実施例1のHECを含有する処理液に3分間浸漬させてから、超純水に3分間浸漬させた後、余分の水を除き乾燥させずに基板にバッファードフッ酸を滴下した以外は、実施例7及び比較例15~17と同様にして、エッチング選択性を評価した。
【0104】
上記の評価結果を表5に示す。
【0105】
【0106】
上記表5から、HECを含む処理液を用いる実施例8では、SiO2/SiN選択比は、(Th-SiO2)/(LP-SiN)について112、(LP-SiO2)/(LP-SiN)について322であり、それぞれ85~87、214~221である比較例18~20の場合よりも、SiO2膜を易エッチング層とするエッチング選択性に優れることがわかった。