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特開2023-157164イソシアヌル酸骨格を有するポリイミド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157164
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】イソシアヌル酸骨格を有するポリイミド
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066898
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 誠
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA08
4J043PC015
4J043PC016
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB01
4J043TA14
4J043TA22
4J043TB02
4J043UA022
4J043UA131
4J043UA152
4J043UA391
4J043UB011
4J043UB022
4J043UB132
4J043XA16
4J043XB03
4J043YA08
4J043ZA43
4J043ZA60
4J043ZB47
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、有機溶媒に可溶であって、高価なフッ素原子含有モノマーを用いることなく、低誘電率を有するポリイミド材料を提供することである。
【解決手段】少なくとも4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含む酸二無水物と、少なくとも一般式(1)に示される化合物を含むジアミンを重合してなるポリイミドによって上記課題を解決できる。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含む酸二無水物と、少なくとも一般式(1)に示される化合物を含むジアミンを重合してなるポリイミド。
【化1】
【請求項2】
全酸二無水物のうち、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物の含有率が65mol%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド。
【請求項3】
温度23°C、湿度50%、10GHzにおける誘電率が2.6以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミド。
【請求項4】
N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、1-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトン、2-ブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-へプタノン、酢酸エチル、アセト酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、エチルセロソルブアセテート、ピルビン酸エチル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブチルアセテート、メチル3-メトキシプロピオネート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれる少なくとも1つの溶剤に1wt%以上の濃度で溶解することを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミド。
【請求項5】
フッ素原子を含まないことを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミド。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソシアヌル酸骨格を有するポリイミドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、機械強度、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性に優れた樹脂材料であり、電子材料分野で利用されてきた。例えば、ポリイミドフィルムを基板材料とし、基板上に回路を作成したフレキシブルプリント基板が製造され、各種電子機器に使用されている。またポリイミドに感光性能を持たせた感光性ポリイミド材料は、半導体素子の表面保護膜や再配線部分の層間絶縁膜として利用されている。
【0003】
「高速大容量」「低遅延通信」「多接続」を特徴とする第5世代移動体通信システム (5G)では、高周波帯域の信号周波数を利用するが、この信号高周波化に伴い、電気信号の伝送損失抑制および電気信号の伝搬速度低下の抑制が望まれている。伝送損失のうち、誘電体(樹脂材料)が寄与する誘電損失は式(A)で表され、これより、伝送損失を低減するために、ポリイミド材料の誘電正接および誘電率の低減が要求されている。低遅延通信の実現のため、ポリイミド材料の低誘電率化が要求されている。すなわち、電気信号の伝搬速度は式(B)で表され、樹脂材料の誘電率が低いほど、伝搬速度が大きくなる。(なお、式(A)、(B)においてkは定数である。)
誘電損失=k×周波数×光速-1×誘電正接×誘電率1/2 (A)
信号の伝搬速度=k×光速×誘電率-1/2 (B)
【0004】
上記の実情に鑑み、低誘電率ポリイミド材料が求められている。一般的にはポリイミドの誘電率を低下させる技術として、フッ素含有モノマーの使用や、ポリイミド樹脂へのフッ素樹脂の配合が知られている。例えば、特許文献1には、フッ素含有モノマーである2 , 2 - ビス( 4 - アミノフェニル) - ヘキサデカフルオロオクタンを使用したポリイミドが開示されている。また、特許文献2には、主に、フレキシブル金属張積層板用絶縁樹脂層の低誘電率化を目的としており、具体的に、90モル%のピロメリット酸二無水物、10モル%の4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、100モル%の2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンから誘導されるポリイミドにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉を含有させた絶縁層が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示されるようなフッ素含有モノマーは高価である場合や、工業的に製造・入手が困難である場合があり、実用性の観点からは課題が残る。特許文献2に開示されるようなポリイミド樹脂へのフッ素樹脂の配合では、フッ素樹脂の均一分散化が難しい場合があり、フィルムの場所により特性がばらつきやすいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-146077号公報
【特許文献2】特表2014-526399号公報
【特許文献3】特表2014-058452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者は、誘電率に影響する極性構造が、対称的であって、誘電率低減に寄与できる可能性があるイソシアヌル酸骨格に着目し、当該骨格を有するポリイミドについて検討した。特許文献3にはシアヌル酸骨格を有するポリイミドに関する記載があるが、誘電特性に関する記述はない。
【0008】
従来の低誘電率ポリイミドの設計において誘電率2.6以下を達成しようとすると、フッ素含有率の高いモノマーを使用することにより、一定の効果は発現する。しかしながら、高フッ素原子含有モノマーは高価である場合や、工業的な製造が困難である場合があり、低誘電率ポリイミドの設計には大きな制限があった。そこで、本発明が解決しようとする課題は、フッ素を含有しないモノマーのみを用いて、低誘電率ポリイミドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の新規なシアヌル酸骨格を含有するポリイミドにより上記課題を解決しうる。
【0010】
(1).少なくとも4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含む酸二無水物と、少なくとも一般式(1)に示される化合物を含むジアミンを重合してなるポリイミド。
【化1】
【0011】
(2).全酸二無水物のうち、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物の含有率が65mol%以上であることを特徴とする(1)に記載のポリイミド。
【0012】
(3).温度23°C、湿度50%、10GHzにおける誘電率が2.6以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリイミド。
【0013】
(4).N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、1-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトン、2-ブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-へプタノン、酢酸エチル、アセト酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、エチルセロソルブアセテート、ピルビン酸エチル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブチルアセテート、メチル3-メトキシプロピオネート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれる少なくとも1つの溶剤に1wt%以上の濃度で溶解することを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のポリイミド。
【0014】
(5).フッ素原子を含まないことを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のポリイミド。
【発明の効果】
【0015】
本発明のイソシアヌル酸骨格を有するポリイミドは、フッ素含有モノマーを使用することなく、低誘電率を発現するポリイミドを与える。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0017】
本発明のシアヌル酸骨格を有するポリイミドは、少なくとも4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含む酸二無水物と、少なくとも一般式(1)に示される化合物を含むジアミンを重合してなるポリイミドである。
【化2】
【0018】
本発明者はイソシアヌル酸から誘導されるジアミン化合物と特定の酸二無水物をモノマーに用いたポリイミドで低誘電率を実現できることを見出した。本発明の特徴は、前記ジアミン化合物に、酸二無水物として4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物(以下、BISDAと称する)および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下、CBDAと称する)を共重合することで低誘電率を達成した点である。
【0019】
さらに低誘電率ポリイミドには欠かせないフッ素原子含有モノマーの存在なしに、温度23°C、湿度50%、10GHzにおける誘電率が2.6以下という低い値を達成したのは驚くべきことである。また、第二の特徴として、該ポリイミドが有機溶媒に可溶である点が挙げられる。
【0020】
一般にポリイミドは有機溶媒に不溶であることが多いが、共重合させるモノマーの最適化によって有機溶媒に可溶になることが知られている。本発明においても、特定のモノマーを特定の比率で使用することで有機溶媒可溶性ポリイミドになることが分かった。これにより、高価なフッ素原子含有モノマーを用いることなく、有機溶媒可溶であって加工性の高い、低誘電率ポリイミドを提供することができる。以下に、本発明のシアヌル酸含有ポリイミド、それを構成するモノマーの順により詳しく説明する。
【0021】
(ポリイミド)
まず、ポリイミドの重合について説明する。ポリイミドの重合方法としては公知のあらゆる方法を用いることができ、通常、実質的等モル量の芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中に溶解させた溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによってポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を得る。本ポリアミド酸を公知のイミド化の手段を用いてイミド化することで、ポリイミドを得る。ポリアミド酸溶液は通常5~35重量%、好ましくは10~30重量%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を有する。
【0022】
重合方法としてはあらゆる公知の方法及びそれらを組み合わせた方法を用いることができる。代表的な重合方法として次のような方法が挙げられる。1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法、2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法、3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここに芳香族ジアミン化合物を追加添加後、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法、4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法、5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。これら方法を単独で用いても良いし、部分的に組み合わせて用いることもできる。
【0023】
原料であるジアミンと酸二無水物の添加順序についても特に限定されないが、原料の化学構造だけでなく、添加順序を制御することによっても、得られるポリイミドの特性を制御することが可能である。
【0024】
一般にポリイミドは有機溶媒に不溶であり、そのため、ポリアミド酸溶液の状態で成形し、後述するイミド化を行ってポリイミドとすることが多い。しかしながら、モノマーの構造を最適化することで、有機溶媒に可溶なポリイミドを製造することもできる。その場合は、ポリアミド酸を反応容器中、溶液状態でイミド化し、ポリイミドを単離・取得することができる。
【0025】
(ジアミン)
本発明では、低誘電率を実現するために、一般式(1)で表されるジアミンを必ず使用するが、該ジアミンに加えて異種のジアミンと共重合してもよい。異種のジアミンとしては、特に限定されるものでなく、一般的にポリイミド合成に用いられるジアミンモノマーであれば使用可能である。一般式(1)で表されるジアミンの合成方法は特に制限はないが、公知のあらゆる有機合成法を用いることができる。例えば後述する合成例のように合成することができる。
【0026】
(酸二無水物)
本発明では、低誘電率を実現するために4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物(以下、BISDAと表現することがある)および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下、CBDAと表現することがある)を酸二無水物モノマーとして使用する。特に、全酸二無水物のうち、BISDAの含有率が65mol%以上であることが好ましく、65mol%以上95mol%以下がより好ましい。CBDAの含有率が高すぎると、有機溶剤不溶になることがある。誘電率等の物性を損なわない範囲で上記2種酸二無水物に加えて他の酸二無水物を共重合させてもよく、その場合は使用できるモノマーの種類は特に限定されるものでなく、一般的にポリイミド合成に用いられる酸二無水物モノマーであれば使用可能である。
【0027】
(溶媒)
ポリイミド重合にかかる溶媒は、特に限定されないが、ジアミンや酸二無水物と反応せず、ポリアミド酸を溶解できるものであることが求められる。例えばポリアミド酸の溶解性が高いアミド系溶媒である1-メチルピロリドン、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メトキシ-N.N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-N,N-ジブチルプロパンアミド、が好ましく用いられる。1-メチルピロリドン、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドから選択される1種以上のアミド系溶媒であることが好ましい。通常、これらを単独、または必要に応じて組み合わせて用いる。中でも、溶解性、重合性の観点から1-メチルピロリドン、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドから選択される1種以上のアミド系溶媒が好ましい。必要によっては2種以上の溶媒を混合して使用することもできる。溶媒混合の方法は特に限定されない。
【0028】
(イミド化について)
一般的にポリイミドは、ポリイミドの前駆体、即ちポリアミド酸からの脱水転化(脱水閉環)反応により得られる。当該転化反応を行う方法としては、熱によってのみ行う熱キュア法と、イミド化反応剤・イミド化触媒を使用する化学キュア法の2法が最も広く知られている。本発明では、いずれの手法を用いても構わない。しかし、ポリアミド酸溶液にイミド化反応剤・イミド化触媒を添加し、溶液中でイミド化を進行させた後、ポリイミドを単離する化学キュア法が、高温での加熱を必要としないことから好ましい。溶液でのイミド化では、化学キュアによって得られたポリイミド溶液を貧溶媒と混合して、ポリイミドを析出、単離した後、ポリイミドの成形用の溶媒にポリイミドを溶解することにより、成形用ポリイミド溶液を得ることができる。ポリイミドを一度析出させる方法の利点は、イミド化時のイミド化反応剤やイミド化触媒等を貧溶媒で洗浄・除去することができる点や、ポリイミドの成形条件に応じた溶媒や電子デバイス製造プロセスに負荷を与えない溶媒を適用できる点である。
【0029】
ここでいうイミド化反応剤とは、ポリアミド酸に対する脱水閉環剤であり、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N′-ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族酸無水物、アリールスルホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物またはそれら2種以上の混合物を好ましく用いることができる。その中でも脂肪族酸無水物及び芳香族酸無水物がより良好に作用する。特に好ましいのは無水酢酸である。脱水反応剤の好適な導入量は、溶液に含まれるポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して1.0~4.0モル、好ましくは1.0~3.0モル、特に好ましくは1.0~2.0モルである。前記範囲を超えると、過剰添加になり、イミド化反応剤にかかるコストが増大する。また、前記範囲を下回ると、イミド化反応の進行が充分でなくなることがある。
【0030】
また、イミド化触媒とはポリアミド酸に対する脱水閉環作用を促進する効果を有する成分であるが、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミンを用いることができる。そのうち、ピリジン、イミダゾ-ル、ベンズイミダゾ-ル、イソキノリン、キノリン、β位および/またはγ位にアルキル基が置換したピリジン化合物などの含窒素複素環化合物であることが好ましい。特に、ピリジン、イソキノリン、β位および/またはγ位にアルキル基が置換したピリジン化合物であることが好ましい。イミド化触媒の好適な導入量は、イミド化触媒を含有させる溶液に含まれるポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して1.0~3.0モル、好ましくは1.0~2.0モル、特に好ましくは1.0~1.5モルである。前記範囲を超えると、貧溶媒による洗浄で除去しきれないことがある。また、前記範囲を下回るとイミド化反応が完結しないことがある。
【0031】
ポリイミドを成形加工する場合、単離したポリイミドを有機溶剤に溶解させて、ポリイミド溶液を調製し、成形加工する方法が望ましい。ここで、成形加工とは、特に限定されないが、例えば、基板にポリイミド溶液を塗布・乾燥後、剥離してフィルム化することや、半導体素子にポリイミド溶液を塗布・乾燥させて保護膜や層間絶縁膜とすることである。ポリイミド樹脂を溶解させる有機溶媒としては、ポリイミド樹脂を溶解可能なものであれば特に限定されないが、溶解性や電子デバイス分野でのプロセス適合性の観点から、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、1-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、2-ブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-へプタノン、酢酸エチル、アセト酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、エチルセロソルブアセテート、ピルビン酸エチル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブチルアセテート、メチル3-メトキシプロピオネート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれる少なくとも1つの溶剤に1wt%以上の濃度で溶解することが好ましい。
【0032】
上記ポリイミド溶液には、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的でフィラーを添加することもできる。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としてはシリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。また、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としてレベリング剤、可塑剤、界面活性剤、密着性付与剤、架橋剤、感光剤、光重合開始剤、紫外線吸収剤、顔料などが挙げられる。
【0033】
(誘電率、含フッ素ポリイミド)
本発明では23℃、湿度50%の環境において測定した誘電率をいう。大容量高速通信において低伝送損失、低遅延通信の実現のためには、誘電率は低いことが好ましい。一般にポリイミドの誘電率は2.5~3.3程度であるが、2.6以下とするためには含フッ素モノマーの使用が必要になる。ポリイミドに用いられるフッ素含有モノマーとして4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物や2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンが知られているが、いずれも高価であるため、使用には制限があった。
【0034】
(用途)
本発明のイソシアヌル酸骨格含有ポリイミドは、種々の用途に用いることができる。例えば、接着剤、粘着剤、電子材料、絶縁材料(プリント基板、電線被覆等を含む)、高電圧絶縁材料、層間絶縁膜、TFT用パッシベーション膜、TFT用ゲート絶縁膜、TFT用層間絶縁膜、TFT用透明平坦化膜、絶縁用パッキング、絶縁被覆材、接着剤、高耐熱性接着剤、高放熱性接着剤、光学接着剤、LED素子の接着剤、各種基板の接着剤、ヒートシンクの接着剤、塗料、UV粉体塗料、インク、着色インク、UVインクジェット用インク、コーティング材料(ハードコート、シート、フィルム、剥離紙用コート、光ディスク用コートおよび光ファイバ用コート等を含む)、成形材料(シート、フィルムおよびFRP等を含む)、シーリング材料、ポッティング材料、封止材料、発光ダイオード用封止材料、液晶シール剤、表示デバイス用シール剤、電気材料用封止材料、各種太陽電池の封止材料、高耐熱シール材、レジスト材料、液状レジスト材料、着色レジスト、ドライフィルムレジスト材料、ソルダーレジスト材料、カラーフィルター用バインダー樹脂、カラーフィルター用透明平坦化材料、ブラックマトリクス用バインダー樹脂、液晶セル用フォトスペーサー材料、OLED素子用透明封止材料、光造形、太陽電池用材料、燃料電池用材料、表示材料、記録材料、防振材料、防水材料、防湿材料、複写機用感光ドラム、電池用固体電解質等が挙げられる。また、上記イソシアヌル酸骨格含有重合体は他樹脂等への添加剤として用いられてもよい。なお、用途は下記に限定されないことは言うまでもない。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
(誘電率の評価方法)
HEWLETTPACKARD社製のネットワークアナライザ8719Cと株式会社関東電子応用開発製の空洞共振器振動法誘電率測定装置CP511とを用いて測定した。ポリイミドのフィルムサンプルを2mm×100mmに切り出し、23°C/50%R.H.環境下で24時間調湿後に測定を行った。測定は10GHzで行った。
【0037】
(一般式(1)で示されるジアミンの合成例)
窒素雰囲気下、温度計とプロペラを備えた2Lフラスコに、1-アリルイソシアヌレート33.8g(0.20mol)、4-ニトロベンジルクロライド75.4g(0.44mol)、及びテトラヒドロフラン500mLを投入し、反応液を70℃に加温した。反応液を十分に攪拌し、急激な昇温に注意しながらトリエチルアミン44.5gをゆっくり滴下し、滴下終了後70℃で3時間攪拌した。
【0038】
放冷後、減圧下で濃縮乾固し、得られた濃縮乾固物に水1Lを加え、洗浄した。この洗浄操作をさらに2回行い、固体を取得した。酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒で再結晶を行い、1-アリル-3,5-ビス[(4-ニトロフェニル)メチル]イソシアヌレートを得た。
【0039】
温度計と攪拌機を取り付けた2Lオートクレーブに、1-アリル-3,5-ビス[(4-ニトロフェニル)メチル]イソシアヌレート10g(22.6mmol)、Pd/C1.0g、及びN,N-ジメチルアセトアミド500mLを投入し反応液を調製した。この反応液を水素雰囲気下80℃で24時間撹拌し室温まで冷却した。反応液からPd/Cをろ別し、ろ液を減圧下で濃縮乾固した。得られた濃縮乾固物に水100mLを添加し、クロロホルム300mLと混合し、分液ロートで振とうし、静置した後、有機層を分離した。この分液操作をさらに2回行って、有機層からクロロホルムを減圧留去した。クロロホルムとメタノールの混合溶媒で再結晶を行い、1,3-ビス[(4-アミノフェニル)メチル]-5-プロピルイソシアヌレートを得た。
【0040】
(実施例1)
窒素雰囲気下、室温にて、プロペラを装着した容量500mlのガラス製フラスコにDMFを28g投入して、合成例1で取得した1,3-ビス[(4-アミノフェニル)メチル]-5-プロピルイソシアヌレート(以下、MAICDAと称する)を5.26g溶解させた。BISDA6.47gとCBDA0.271gを順に投入して30分攪拌して溶解、反応させた。モノマーの完全溶解からさらに2時間攪拌して重合反応を完了させた。DMFを37.2g、ピリジンを3.40g、無水酢酸を4.39g添加して、90℃で3時間加熱攪拌し、イミド化反応を完結させた。この時、樹脂が析出せず、溶解したままイミド化反応が進行したものについては〇、樹脂が析出したものは×として重合性を評価し、結果を表1に示した。イミド化反応完結後、室温まで放冷して、反応溶液を1.00Lのイソプロプルアルコールにゆっくり投入して樹脂を析出させた。単離した樹脂は500mLのイソプロピルアルコールで洗浄して、樹脂を濾別した。さらに同様の洗浄・濾別をもう1回実施した。単離した樹脂は80℃の真空オーブンで6時間乾燥させた。取得した樹脂は各種有機溶剤への溶解性試験を実施した。その結果を表に示す。溶解性試験では、有機溶剤10gに対して樹脂1gを投入して室温で24時間放置後に樹脂が完全溶解したものを〇、そうでないものを×と評価した。溶解性試験の結果は表2に示す。誘電率評価用サンプル作製のために、樹脂5gをDMAc15gに溶解させ、10cm角のガラス板にアプリケータを用いて塗布し、熱風オーブンで50℃・1時間、100℃・1時間、150℃・1時間、200℃・1時間乾燥させた。塗膜をガラス基板から剥離することでポリイミドフィルムを取得した。フィルムの厚みは約50μmであった。フィルムは上述の誘電率測定を実施した。誘電率測定の結果を表1に示す。
【0041】
(実施例2)
ポリイミドの重合において、ジアミンとしてMAICDAを5.08g、酸二無水物としてBISDA5.97g、CBDA0.562gを使用し、イミド化反応において、ピリジンを3.40g、無水酢酸を4.39g使用したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂を重合し、溶解性試験とフィルムの誘電率評価を行った。その結果を表1、表2に示した。
【0042】
(実施例3)
ポリイミドの重合において、ジアミンとしてMAICDAを5.69g、酸二無水物としてBISDA5.43g、CBDA0.88gを使用し、イミド化反応において、ピリジンを3.54g、無水酢酸を4.57g使用したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂を重合し、溶解性試験とフィルムの誘電率評価を行った。その結果を表1、表2に示した。
【0043】
(実施例4)
ポリイミドの重合において、ジアミンとしてMAICDAを5.81g、酸二無水物としてBISDA5.15g、CBDA1.05gを使用し、イミド化反応において、ピリジンを3.61g、無水酢酸を4.66g使用したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂を重合し、溶解性試験とフィルムの誘電率評価を行った。その結果を表1、表2に示した。
【0044】
(比較例1)
ポリイミドの重合において、ジアミンとしてMAICDAを5.47g、酸二無水物としてBISDA6.93gを使用し、イミド化反応において、ピリジンを3.16g、無水酢酸を4.08g使用したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂を重合し、溶解性試験とフィルムの誘電率評価を行った。その結果を表1、表2に示した。
【0045】
(比較例2)
ポリイミドの重合において、ジアミンとしてMAICDAを7.93g、酸二無水物としてCBDA4.08gを使用し、イミド化反応において、ピリジンを4.93g、無水酢酸を6.36g使用したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂を重合したが、イミド化反応時に樹脂が不溶化・析出したため、そこで作業を打ち切った。有機溶剤への溶解性は表2記載の全ての溶剤で不溶と判断した。
【0046】
(比較例3)
ポリイミドの重合において、ジアミンとして2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMBと称する)を5.47g、酸二無水物として4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDAと称する)6.93gを使用し、イミド化反応において、ピリジンを3.73g、無水酢酸を4.81g使用したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂を重合し、溶解性試験とフィルムの誘電率評価を行った。その結果を表1、表2に示した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
以上、実施例、比較例のポリイミドの各種有機溶媒への溶解性と誘電率の値を表1および表2に示した。比較例に比べて実施例1~4の場合に良好な溶解性を示し、かつ誘電率の低下が確認できた。