(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157209
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子、及び窒化物半導体発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/343 20060101AFI20231019BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20231019BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20231019BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
H01S5/343 610
H01S5/183
H01L33/32
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066965
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小林 憲汰
(72)【発明者】
【氏名】柴田 夏奈
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】上山 智
(72)【発明者】
【氏名】倉本 大
【テーマコード(参考)】
5F045
5F173
5F241
【Fターム(参考)】
5F045AA04
5F045AB09
5F045AB14
5F045AB17
5F045AC08
5F045AC12
5F045AC19
5F045AD14
5F045AD15
5F045AE29
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5F173AF65
5F173AF76
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5F173AP05
5F173AQ12
5F173AR14
5F173AR96
5F241AA04
5F241AA44
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA65
(57)【要約】
【課題】品質の良好な窒化物半導体発光素子、及び品質の良好な窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物半導体発光素子1は、Al及びInを組成に含むn-AlInN層12と、n-AlInN層12の表面に積層され、Gaを組成に含むGaNキャップ層13と、GaNキャップ層13の表面に積層され、Al及びGaを組成に含むn-AlGaN組成傾斜層14と、を備え、GaNキャップ層13の表面に積層するn-AlGaN組成傾斜層14の界面におけるAlNのモル分率は、0.36以上、且つ0.44以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al及びInを組成に含む第1層と、
前記第1層の表面に積層され、Gaを組成に含むキャップ層と、
前記キャップ層の表面に積層され、Al及びGaを組成に含む第2層と、
を備え、
前記キャップ層の表面に積層する前記第2層の界面におけるAlNのモル分率は、0.36以上、且つ0.44以下である窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記第2層の表面に積層され、AlNのモル分率が前記第1層よりも小さく、Gaを組成に含む第3層を更に備え、
前記第2層におけるAlNのモル分率は、前記第3層との界面に向かうにつれて徐々に減少するように組成傾斜している請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記キャップ層の積層方向の厚みは、0よりも大きく、且つ1nm以下である請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記第2層の積層方向の厚みは、4nm以上、且つ15nm以下である請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
有機金属気相成長法を用いた窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
Al及びInを組成に含む第1層を結晶成長させる第1層積層工程と、
前記第1層積層工程を実行後、前記第1層の表面にGaを組成に含むキャップ層を結晶成長させるキャップ層積層工程と、
前記キャップ層積層工程を実行後、前記キャップ層の表面にAl及びGaを組成に含む第2層を結晶成長させる第2層積層工程と、
前記第2層積層工程を実行後、前記第2層の表面にGaを組成に含む第3層を結晶成長させる第3層積層工程と、
を備え、
前記第2層積層工程において前記第2層を結晶成長させる温度は、前記第3層積層工程において前記第3層を結晶成長させる温度以上である窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体発光素子、及び窒化物半導体発光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バンドギャップや屈折率が異なる窒化物半導体薄膜を積層して半導体多層膜を製造する場合、特にInを含む窒化物半導体薄膜による多層膜反射鏡において、貫通転位などの欠陥が高密度に存在することが問題となっていた。具体的には、AlInNなどのInを含む窒化物半導体薄膜上に、GaNなどのInを含まない窒化物半導体薄膜を形成するヘテロ接合において欠陥が発生する懸念が存在する。
【0003】
特許文献1では、AlInN層の上部と、GaN層の下部と、の界面におけるInの組成が減少する割合をAlの組成が減少する割合より大きくする、すなわち、実質Inが少ない層がAlInN層とGaN層との界面に存在する構造によって貫通転位などの欠陥の発生を抑制することを開示している。具体的には、AlInN層を形成した直後に0nmより大きく1nm以下のInを含まないキャップ層を形成し、その後、基板温度を昇温する昇温工程を実行することによって、AlInN層の表面に存在するInのクラスタを除去し、欠陥の発生を抑制することを開示している。ここで、キャップ層は、AlInN層の表面を満遍なく覆った状態に加え、AlInN層の表面に島状に形成された状態も含む。また、特許文献2では、キャップ層上にAlの組成(AlNモル分率)が20%(0.2)未満のAlGaN層を数nm設けることによって実効的な屈折率段差を大きくして、その反射率を高めることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】:特開2018-98347号公報
【特許文献2】:特開2018-98340号公報
【非特許文献1】:Schulz, et al., "Composition dependent band gap and band edge bowing in AlInN: A combined theoretical and experimental study"Appl. Phys. Express 6, 121001 (2013)
【非特許文献2】:Coughlan, et al., "Band gap bowing and optical polarization switching in Al1-xGaxN alloys"Phys. Stat. Sol. B 252,879 (2015)
【非特許文献3】:Bernardini, et al., "Spontaneous polarization and piezoelectric constants of III-V nitrides"Phys. Rev. B 56, R10024 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、素子構造の形成を目的として、電流注入の観点で有利となる導電性を有する窒化物半導体薄膜多層膜反射鏡構造を検討した結果、以下の新たな課題が見いだされた。具体的には、n-AlInN層上にSiを添加したn-AlGaInN組成傾斜層を設けて導電性を有する多層膜反射鏡構造を形成する場合である。まず、n-AlInN層上に5nmのn-AlGaInN組成傾斜層、すなわちn-AlInNからn-GaNへと組成を次第に変化させる層を、必要なInが含まれるように成長温度をn-AlInN層と同じ温度で形成した。その後に、特許文献1に従って、0.3nmのGaNキャップ層を形成し、その後、基板温度を昇温する昇温工程を実行した。
【0006】
このような工程で作製した多層膜反射鏡は良好な導電性を示したものの、n-AlGaInN組成傾斜を用いない場合の非導電性多層膜反射鏡に比べ、表面にピット(穴)が多く発生することがわかった。これは、n-AlGaInN組成傾斜層をn-AlInN層と同じ温度(すなわち、低い温度)で5nm形成するため、表面側には厚み1nm相当以上のGaN層が実質的に存在し、ピットや貫通転位を低減する効果が薄れてしまったためと考えられる。一方、特許文献2に従って、AlNモル分率が20%(0.2)以下のn-AlGaN層を設けつつ、n型不純物であるSiを添加しても、良好な導電性は得られなかった。このように、特許文献1、2に開示された技術だけでは、転位発生が抑制され、かつ良好な導電性を有する多層膜反射鏡が得られないことが明らかとなった。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、表面のピット密度が低い、すなわち欠陥が少なく、かつ良好な導電性を有する多層膜反射鏡を得ることによって、高出力かつ長寿命の窒化物半導体発光素子、及び窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の窒化物半導体発光素子は、
Al及びInを組成に含む第1層と、
前記第1層の表面に積層され、Gaを組成に含むキャップ層と、
前記キャップ層の表面に積層され、Al及びGaを組成に含む第2層と、
を備え、
前記キャップ層の表面に積層する前記第2層の界面におけるAlNのモル分率は、0.36以上、且つ0.44以下である。
【0009】
この構成によれば、第1層と第2層との間に生じるエネルギー障壁を小さくし、第1層と第2層との間で電子のやり取りを良好にすることができる。
【0010】
第2発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、
有機金属気相成長法を用いた窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
Al及びInを組成に含む第1層を結晶成長させる第1層積層工程と、
前記第1層積層工程を実行後、前記第1層の表面にGaを組成に含むキャップ層を結晶成長させるキャップ層積層工程と、
前記キャップ層積層工程を実行後、前記キャップ層の表面にAl及びGaを組成に含む第2層を結晶成長させる第2層積層工程と、
前記第2層積層工程を実行後、前記第2層の表面にGaを組成に含む第3層を結晶成長させる第3層積層工程と、
を備え、
前記第2層積層工程において前記第2層を結晶成長させる温度は、前記第3層積層工程において前記第3層を結晶成長させる温度以上である。
【0011】
この構成によれば、第2層積層工程においてAlのマイグレーションを活発にすることができるので、第2層の表面を平坦にし易くでき、その後に結晶成長する第3層における品質の向上につながる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】窒化物半導体発光素子の製造方法によって製造される窒化物半導体発光素子の構造の一例を示す模式図である。
【
図2】GaNからAlN、AlNからInNに組成を変化させた場合におけるエネルギー障壁の変化を示すグラフである。
【
図3】n-AlInN層とn-AlGaN組成傾斜層との界面における分極電荷密度と、n-AlGaN組成傾斜層における開始AlNモル分率との関係を示すグラフである。
【
図4】n-AlInN層とn-AlGaN組成傾斜層との界面に生じるエネルギー障壁と、開始AlNモル分率との関係を示すグラフである。
【
図5】(A)は、実施例1から4、及び比較例1、2のサンプルの構造を示す模式図であり、(B)は、実施例1から4、及び比較例1、2における、開始AlNモル分率、成長温度、及び微分抵抗値を示す表である。
【
図6】実施例1から4、及び比較例1、2のサンプルにおける、電圧と電流との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例1から4、及び比較例1のサンプルにおける、微分抵抗値に対する開始AlNモル分率の関係をプロットしたグラフである。
【
図8】実施例1から4、及び比較例1のサンプルの各々において複数個所の微分抵抗値をプロットしたグラフである。
【
図9】最大反射率とn-AlGaN組成傾斜層の厚みとの関係を示すグラフである。
【
図10】n-AlInN層とn-AlGaN組成傾斜層との界面に生じるエネルギー障壁と、n-AlGaN組成傾斜層の厚みとの関係を示すグラフである。
【
図11】実施例5、比較例3、4の各々の表面を10μm×10μmの範囲にわたって測定したAFM像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0014】
第1発明において、第2層の表面に積層され、AlNのモル分率が第1層よりも小さく、Gaを組成に含む第3層を更に備え、第2層におけるAlNのモル分率は、第3層との界面に向かうにつれて徐々に減少するように組成傾斜し得る。この構成によれば、第2層と第3層との界面に生じるエネルギー障壁を小さく抑えることができるので、第2層と第3層との導電性を良好にすることができ、これによって、第1層から第3層までの間における電子のやり取りを良好にすること(すなわち、導電性を良好にすること)ができる。
【0015】
第1発明において、キャップ層の積層方向の厚みは、0よりも大きく、且つ1nm以下であり得る。この構成によれば、第1層の表面を良好に保護することができる。
【0016】
第1発明において、第2層の積層方向の厚みは、4nm以上、且つ15nm以下であり得る。この構成によれば、微分抵抗値の低さと、高反射とを両立することができる。
【0017】
<実施例1~4、比較例1~2>
次に、本発明の窒化物半導体発光素子を具体化した一例について、図面を参照しつつ説明する。具体的には、n-AlInN層12の表面側にn-AlGaN組成傾斜層14を有する、n-AlInN/GaN多層膜反射鏡構造の形成と、この構造を用いた面発光レーザー(以下、窒化物半導体発光素子1ともいう)の製造方法の一例である。n-AlInN/GaN多層膜反射鏡構造は、面発光レーザーのみならず、発光ダイオードや太陽電池など様々な光デバイス構造において利用できる。この構造を用いた面発光レーザー(窒化物半導体発光素子1)の構造の一例の断面模式図を
図1に示す。
【0018】
窒化物半導体発光素子1は、
図1に示すように、n-GaN基板10、n-GaNバッファ層11、n-AlInN/GaN多層膜反射鏡M、第2n-GaN層16、GaInN量子井戸活性層17、p-AlGaN層18、p-GaN層19、p-GaNコンタクト層20、p側電極22A、及びn側電極22Bを備えている。n-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mは、第1層であるn-AlInN層12、キャップ層であるGaNキャップ層13、第2層であるn-AlGaN組成傾斜層14、第3層である第1n-GaN層15、の4層を40回繰り返して形成されている。n-GaN基板10は、n型の特性を有したGaNの単結晶の基板である。窒化物半導体発光素子1は、n-GaN基板10の表面、すなわちGa面(
図1における上側の面)に、有機金属気相成長法(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)を用いてエピタキシャル成長を行うことによって製造し得る。
【0019】
窒化物半導体発光素子1を製造する際には、III族材料(MO原料)としてTMA(トリメチルアルミニウム)、TMGa(トリメチルガリウム)、TEGa(トリエチルガリウム)、TMI(トリメチルインジウム)を用いる。また、V族材料の原料ガスには、アンモニア(NH3)を用いる。ドナー不純物の原料ガスには、SiH4(シラン)を用いる。アクセプタ不純物のMO原料には、CP2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用いる。
【0020】
先ず、n-GaN基板10の表面に、バッファ層としてn-GaNバッファ層11を結晶成長させる。n-GaNバッファ層11の積層方向の厚みは、500nmである。ここで、積層方向は、
図1における上下方向である。以下、積層方向の厚みを、単に厚みともいう。具体的には、n-GaN基板10をMOVPE装置の反応炉内(以下、単に反応炉内ともいう)に配置する。そして、n-GaN基板10の温度(成長温度)が1050℃となるように反応炉内の温度を調整し、反応炉内にキャリアガスとしてH
2(水素)を供給する。n-GaNバッファ層11におけるSi(ケイ素)の濃度は、5×10
18cm
-3になるように反応炉内へのSiH
4の供給量を調整する。
【0021】
[第1層積層工程]
次に、第1層積層工程を実行する。具体的には、n-GaNバッファ層11の表面に、Al及びInを組成に含むn-AlInN層12をエピタキシャル成長させる。詳しくは、n-GaN基板10の温度(成長温度)が840℃になるように反応炉内の温度を調整し、反応炉内にキャリアガスとしてN2(窒素)を供給する。また、TMA、TMI、SiH4、及びNH3を反応炉内に供給し、積層方向における厚みが38nmのn-AlInN層12を結晶成長させる。n-AlInN層12におけるAlNのモル分率は約81%(0.81)であり、InNのモル分率は約19%(0.19)である。
【0022】
基本的に、後述するn-AlGaN組成傾斜層14の格子定数を基板であるn-GaN基板10の格子定数に一致させることが好ましいが、本実施例におけるn-AlGaN組成傾斜層14の格子定数は、n-GaN基板10の格子定数よりも小さくなるように設定し、その分を補うために、n-AlInN層12におけるInNのモル分率を僅かに(1%(0.01)未満)増やして約19%(0.19)とする。これによって、多層膜反射鏡構造全体の累積格子歪を打ち消している。なお、n-AlInN層12におけるAlNのモル分率、及びInNのモル分率は本実施例に開示された数値に限らず、多層膜反射鏡構造全体の累積格子歪を打ち消し得る値であればよい。n-AlInN層12におけるSiの濃度は、1.5×1019cm-3になるように反応炉内へのSiH4の供給量を調整する。キャリアガスは、N2以外に、ArやNe(ネオン)などの不活性ガス、又はこれらを混合した混合ガスとしてもよい。
【0023】
[キャップ層積層工程]
次に、第1層積層工程を実行後、キャップ層積層工程を実行する。具体的には、n-GaN基板10の温度(成長温度)、反応炉内へのキャリアガス(N2)、NH3の供給を維持したまま、TMA、TMI、及びSiH4の供給を停止するとともに、TEGaを反応炉内に供給してn-AlInN層12の表面にGaNキャップ層13を結晶成長させる。GaNキャップ層13は、Gaを組成に含む。GaNキャップ層13の積層方向における厚みは、0.6nmとする。GaNキャップ層13の厚みが1nm未満の場合には、SiH4を添加しなくても大きな影響はないが、SiH4を供給してもよい。SiH4を供給する場合には、Siの濃度が5×1018cm-3程度になるように調整する。
【0024】
また、以下に記載するように、キャップ層積層工程の次の工程における結晶成長の際の基板温度に応じて、GaNキャップ層13の厚みを調整することが好ましい。例えば、キャップ層積層工程の次の工程における結晶成長の際の基板温度をキャップ層積層工程における基板温度よりも高い温度とする場合には、GaNキャップ層13の厚みをより厚くする。これによって、次の工程における高い基板温度によるn-AlInN層12の表面へのダメージを低減し、n-AlInN層12の表面をより平坦に形成することができる。具体的には、次の工程における基板温度が1050℃程度であれば、GaNキャップ層13の厚みは、0.3nmから0.6nmが好ましい。また、次の工程における基板温度が1100℃以上であれば、GaNキャップ層13の厚みは、0.6nmから1nmが好ましい。すなわち、基板温度に関わらず、GaNキャップ層13の積層方向の厚みは、0よりも大きく、且つ1nm以下であればよい。
【0025】
[昇温工程]
次に、昇温工程を実行する。具体的には、TEGaの供給を停止した後、反応炉内へのNH3の供給を保持しつつ、反応炉内に供給するキャリアガスをN2からH2に徐々に切り替えながら、n-GaN基板10の温度(成長温度)をn-AlGaN組成傾斜層14の成長温度である1100℃まで上昇させる。このとき、反応炉内へのTMA、TMGa、TEGa、TMI、及びSiH4の供給を停止しているので、結晶の成長は中断している。このように、Inを含まない薄いGaNキャップ層13を形成した後に、GaNキャップ層13の表面においてn-GaN基板10の温度を上昇させる昇温工程を実行する。これによって、特許文献1に開示されているように、n-AlInN層12の表面に存在するInのクラスタを除去して、欠陥の発生を抑制することができる。ただし、次の工程において、結合エネルギーの大きいAlを組成に含むn-AlGaN組成傾斜層14を結晶成長することから、基板の表面におけるAlのマイグレーションを活発にさせる必要がある。このため、第2層積層工程における成長温度を、n-AlGaN組成傾斜層14の表面に積層する第1n-GaN層15における成長温度以上にすることによって、より平坦なn-AlGaN組成傾斜層14の表面が得られる。
【0026】
[第2層積層工程]
次に、第2層積層工程を実行する。具体的には、n-GaN基板10の温度が1100℃に到達した後、反応炉内へのTMGa、TMAl、SiH4の供給を開始し、Al及びGaを組成に含み、Inを含まないn-AlGaN組成傾斜層14を結晶成長させる。n-AlGaN組成傾斜層14の積層方向の厚みは、5nmである。n-AlGaN組成傾斜層14は、GaNキャップ層13の表面に積層される。n-AlGaN組成傾斜層14は、以下の要領で結晶成長させる。
【0027】
先ず、所定の供給量のTMA、TMGaにて結晶成長を開始する。TMAとTMGaの供給量の比率を変えることによって、n-AlGaN組成傾斜層14の結晶成長の開始時におけるAlNのモル分率(以下、単に開始AlNモル分率ともいう)を調整することができる。n-AlGaN組成傾斜層14の結晶成長の開始後、直ちに反応炉内へのTMAの供給量を徐々に減少させるとともに、TMGaの供給量を徐々に増加させる。そして、最終的に、反応炉内へのTMAの供給を完全に停止させるとともに、n-AlGaN組成傾斜層14の成長の開始時の成長速度と同程度の成長速度になる供給量までTMGaを増加させる。これによって、積層方向に結晶成長が開始する際にはn-AlGaNであり、結晶成長が終了する際にはn-GaNへと組成が傾斜しながら変化するn-AlGaN組成傾斜層14を結晶成長させる。つまり、n-AlGaN組成傾斜層14におけるAlNのモル分率は、後述する第1n-GaN層15との界面に向かうにつれて徐々に減少するように組成傾斜している。n-AlGaN組成傾斜層14の厚みは、5nmである。n-AlGaN組成傾斜層14には、好ましい厚みが存在するが、それについては後述する。また、n型の特性を得るために、n-AlGaN組成傾斜層14におけるSiの濃度は、6×1019cm-3になるように反応炉内へのSiH4の供給量を調整する。
【0028】
TMGaとSiH4の供給を停止して、n-AlGaN組成傾斜層14の成長が終了した後に、n-GaN基板10の温度を次の第1n-GaN層15の結晶成長させる適切な温度である1050℃まで降下させる。つまり、第2層積層工程においてn-AlGaN組成傾斜層14を結晶成長させる温度(1100℃)は、次に実行される第3層積層工程において第1n-GaN層15を結晶成長させる温度(1050℃)よりも高いのである。
【0029】
[第3層積層工程]
次に、第2層積層工程を実行後、第3層積層工程を実行する。具体的には、n-GaN基板10の温度が1050℃に到達した後、反応炉内へのTMGaの供給を開始し、積層方向における厚みが43nmであり、Gaを組成に含む第1n-GaN層15を結晶成長させる。第1n-GaN層15におけるAlNのモル分率は、0である(すなわち、n-AlInN層12よりも小さい)。第1n-GaN層15におけるSiの濃度は、5×1018cm-3になるように反応炉内へのSiH4の供給量を調整する。n-AlInN層12、GaNキャップ層13、n-AlGaN組成傾斜層14、及び第1n-GaN層15は、多層膜反射鏡構造のうちの1つのペアPに相当する。
【0030】
第1n-GaN層15を結晶成長した後、第1n-GaN層15の表面に再びn-AlInN層12を結晶成長させる(すなわち、ペアPを繰り返して結晶成長させる)ために、反応炉内へのTMGaの供給を停止して結晶の成長を中断する。そして、結晶の成長が中断しているときに、n-GaN基板10の温度を1050℃から840℃まで降下させる。このとき、キャリアガスをH2からN2に徐々に切り替える。こうして多層膜反射鏡構造のうちの1つのペアP(n-AlInN層12、GaNキャップ層13、n-AlGaN組成傾斜層14、及び第1n-GaN層15)を40回繰り返して結晶成長させることによって40個のペアPが積層するn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mを結晶成長する。
【0031】
[AlGaN組成傾斜層の開始AlNモル分率の検証]
ここで、窒化物半導体発光素子1は、n-AlInN層12と、n-AlGaN組成傾斜層14とを用いている。このため、GaNキャップ層13を介してn-AlInN層12の上部と、n-AlGaN組成傾斜層14の下部(すなわち成長開始時のn-AlGaN組成傾斜層14)と、によって形成されるヘテロ界面におけるバンド構造の接続が多層膜構造の導電性に大きな影響を与える。
【0032】
すなわち、n-AlInN層12やn-AlGaN組成傾斜層14のようなn型伝導の性質を持つ層においては電子が移動するため、伝導帯下端のヘテロ界面におけるエネルギー準位に余計な障壁が生じないような開始AlNモル分率を選択することが極めて重要である。ちなみに、n-AlGaN組成傾斜層14に代えて、AlN、GaN、InNの各モル分率を結晶成長とともに連続的に変化させてn-AlInN層12の組成から第1n-GaN層15の組成に合わせるAlGaInN組成傾斜層を用いる場合には、n-AlInN層12から第1n-GaN層15へと連続的にバンドギャップが変化するため、上記のような課題は生じない。
【0033】
伝導帯下端のヘテロ界面におけるエネルギー準位に余計な障壁が生じないような開始AlNモル分率を求めるには、AlInN層とAlGaN層のバンドギャップの違いに基づく伝導帯のバンドオフセットと、分極電荷の違いに基づく分極電荷オフセットと、の双方を考慮することが重要である。具体的には、AlInN層とAlGaN層のバンドギャップの違いに基づく伝導帯のバンドオフセットと、分極電荷の違いに基づく分極電荷オフセットと、がともにゼロとなるAlNのモル分率がそれぞれ存在すると考えられる。
【0034】
ここで、非特許文献1、2に開示された物性値を用いて、n-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mで用いるn-AlInN層12(AlNのモル分率が0.81)と伝導帯下端が一致するAlGaNのAlNのモル分率を算出したところ、その値が0.25であることがわかった(
図2参照)。一方、非特許文献3に開示された物性値を用いて、n-AlInN層12の上部における分極電荷に一致してオフセットがゼロになるAlGaNのAlNのモル分率を算出したところ、その値が0.45であることも見出した(
図3参照)。
【0035】
こうして得たこれら二つの物性値に基づいて伝導帯下端に生じるポテンシャル障壁をシミュレーションした。その結果は、
図4に示すように、n-AlInN層12に積層するAlGaN層の開始AlNモル分率を0.27としたときに、n-AlInN層12とAlGaN層との伝導帯下端に生じるポテンシャル障壁が最小値(およそ0.18eV)になることがわかった。さらに、ポテンシャル障壁は、開始AlNモル分率が0.27より小さくなると上昇し、且つ開始AlNモル分率が0.27より大きくなると上昇することがわかった。すなわち、
図4は、n-AlGaN組成傾斜層14において結晶成長の開始時におけるAlNのモル分率を0.27にすることによって素子としての抵抗を最も小さくすることができ、このAlNのモル分率が0.27より大きくても小さくても素子としての抵抗が大きくなり得ることを示唆している。そして、開始AlNモル分率が0.36以上では、ポテンシャル障壁が単調に増加し、それに伴って素子としての抵抗が増加することが
図4から見て取れる。
【0036】
開始AlNモル分率と、n-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mの抵抗と、の関係を把握するために、
図5に示すように、ペアPを10回繰り返して形成した多層膜反射鏡Mtを有する実施例1から4、及び比較例1の5種類のサンプルを作成した。これらサンプルは、表面がc面(0001)のサファイア基板Sにおける表面に、u-GaN層30、及びn-GaN層31をこの順に積層し、n-GaN層31の表面に多層膜反射鏡Mtを積層している。これらサンプルの多層膜反射鏡Mtにおける1つのペアPは、n-AlInN層12(厚みが45nm)、GaNキャップ層13(厚みが0.6nm)、n-AlGaN組成傾斜層14(厚みが5nm)、及び第1n-GaN層15(厚みが35nm)がこの順に積層されている。また、これらサンプルは、開始AlNモル分率の値を0.36、0.39、0.42、0.44、及び0.47と変化させている。なお、各サンプルにおける開始AlNモル分率は、同じ成長条件でGaN/AlGaN超格子を別途作製し、そのX線回折曲線から同定した値である。
【0037】
また、比較例2として、GaNキャップ層13、及びn-AlGaN組成傾斜層14の代わりに、転位が多く含まれたn-AlGaInN組成傾斜層114(厚みが5nm)を用いたサンプルも作製した。n-AlGaInN組成傾斜層114は、原理的にn-AlInN層12の上部との界面、及び第1n-GaN層15の下部との界面がヘテロ界面にならないので導電性が良好である。各サンプルにおいて、多層膜反射鏡Mtの縦方向における微分抵抗値を測定するために、多層膜反射鏡Mtをメサ状にエッチングし、多層膜反射鏡Mtの表面と、多層膜反射鏡Mtの周囲におけるエッチングした表面とにn電極Eを形成し、縦方向の電流電圧特性を測定した。
【0038】
作製した各サンプルの電流電圧特性において、最も良好な結果(微分抵抗値が最も小さい値)をプロットしたグラフを
図6に示す。また、開始AlNモル分率と微分抵抗値との依存性を示すため、開始AlNモル分率に対する微分抵抗値の依存性を示すグラフを
図7に示す。理論値を用いてシミュレーションで得た値(0.27が最小)とは異なり、開始AlNモル分率が0.39のサンプル(実施例2のサンプル)において微分抵抗値の最小値が得られた。開始AlNモル分率が0.39より大きくても小さくても微分抵抗値は大きくなる。さらに、この開始AlNモル分率が0.39のサンプル(実施例2のサンプル)の微分抵抗値は、n-AlInN層12と、n-AlGaInN組成傾斜層114と、の界面におけるバンドオフセットによるポテンシャル障壁が形成されず、良好な導電性を示すn-AlGaInN組成傾斜層114を用いた比較例2のサンプルの微分抵抗値とほぼ同じ値を示した。
【0039】
具体的には、
図5に示すように、実施例1(開始AlNモル分率0.36)のサンプルの微分抵抗値は30.6Ωであった。実施例2(開始AlNモル分率0.39)のサンプルの微分抵抗値は22.3Ωであった。実施例3(開始AlNモル分率0.42)のサンプルの微分抵抗値は25.6Ωであった。実施例4(開始AlNモル分率0.44)のサンプルの微分抵抗値は33.7Ωであった。比較例1(開始AlNモル分率0.47)のサンプルの微分抵抗値は36.1Ωであった。また、比較例2(n-AlGaInN組成傾斜層114を用いたサンプル)の微分抵抗値は21.5Ωであった。このことから、開始AlNモル分率0.39(実施例2)の場合に、バンドオフセットと分極電荷オフセットの影響が最小になり、理想的なn-AlGaInN組成傾斜層114とほぼ同等の低い微分抵抗値となることがわかった。換言すると、開始AlNモル分率が0.39(実施例2)の場合に、伝導帯下端のエネルギー準位のポテンシャル障壁が最小になることがわかった。
【0040】
さらに、微分抵抗値の最小値だけでなく、実施例1から4、比較例1の5種類のサンプルの各々における測定位置を変更して微分抵抗値を32回測定した結果、及びこれら測定結果の平均値をプロットしたグラフを
図8に示す。すなわち、
図8に示す測定結果は、各サンプルにおけるウエハ内の分布を含めた結果である。各サンプルにおける微分抵抗値の平均値を見ても、開始AlNモル分率が0.39において最小の微分抵抗値が得られることがわかった。
【0041】
図4に示すシミュレーションの結果では、開始AlNモル分率を0.27以上、すなわち0.36以上にした場合、開始AlNモル分率の増加に伴い微分抵抗値が単調に大きくなることが示唆されている。一方で、
図8に示す検討結果では、開始AlNモル分率が0.36よりも大きくなると微分抵抗値が減少し、開始AlNモル分率が0.39で最小値を取る。さらに、開始AlNモル分率が0.39を超えておよそ0.44まで、微分抵抗値は、0.36の場合と同等の低い値を示す。そして、0.47以上の開始AlNモル分率では、0.36の場合よりも微分抵抗値が大きくなることがわかった。
【0042】
以上の検証結果から、開始AlNモル分率が、0.36以上、且つ0.44以下の範囲において、シミュレーションの結果(理論値)からは予測不可能な微分抵抗値が低くなる低抵抗領域が存在し、開始AlNモル分率をこの範囲に設定することによって低抵抗なn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mを作製できることがわかった。なお、より好ましくは、開始AlNモル分率を0.39以上、0.42以下と設定することによって、より低抵抗なn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mを作製できることもわかった。すなわち、複数のペアPが積層したn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mの縦方向の微分抵抗値を小さくするには、適切な開始AlNモル分率の範囲(0.36以上、且つ0.44以下)が存在することがわかった。つまり、GaNキャップ層13の表面に積層するn-AlGaN組成傾斜層14の界面におけるAlNのモル分率は、0.36以上、且つ0.44以下であることが好ましい。
【0043】
なお、この検証では、ペアPを10回繰り返して結晶成長したサンプルを用いているが、ペアPを積層する数が11以上であっても開始AlNモル分率をこの範囲(0.36以上、0.44以下)にすることによって、縦方向の微分抵抗値を低減する効果を発揮し得ると考えられる。換言すると、n-AlGaN組成傾斜層14を用いたn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mにおいて、n-AlGaN組成傾斜層14の開始AlNモル分率を0.36以上、且つ0.44以下の間の値に設定することによって複数のペアPが積層したn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mの縦方向の微分抵抗値を良好に低減させ得る。
【0044】
[n-AlGaN組成傾斜層の好ましい厚みについて]
n-AlGaN組成傾斜層14の積層方向における厚みをより厚くするとポテンシャル障壁が減少して低抵抗が得られる一方、屈折率段差が実質的に少なくなるため、反射率が低下する。そして、n-AlGaN組成傾斜層14の厚みをより薄くすると、逆の結果が得られる。ここで、最大反射率におけるn-AlGaN組成傾斜層14の厚みに対する依存性の計算結果を
図9に示す。そして、n-AlInN層12とn-AlGaN組成傾斜層14との界面に生じるエネルギー障壁(以下、単にエネルギー障壁ともいう)におけるn-AlGaN組成傾斜層14の厚みに対する依存性の計算結果を
図10に示す。
図9に示すように、n-AlGaN組成傾斜層14の厚みは、面発光レーザーに必須である99.9%以上の反射率が実現でき、且つ反射率の減少が緩やかである15nm以下が好ましい。
【0045】
一方、
図10に示すように、n-AlGaN組成傾斜層14の厚みが0nmから4nmになるまでエネルギー障壁の減少する度合いは急激である。しかし、n-AlGaN組成傾斜層14の厚みが4nm以上になるとエネルギー障壁の減少する度合いは緩やかである。ゆえに、微分抵抗値が良好に抑えられたn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mを得るためには、n-AlGaN組成傾斜層14の厚みを4nm以上に設定することが好ましい。従って、低い微分抵抗値と、高い反射率と、を両立したn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mを得るには、n-AlGaN組成傾斜層14の積層方向の厚みを4nm以上、且つ15nm以下に設定することが好ましい。なお、この値の範囲は、開始AlNモル分率の値の大きさに関わらず、n-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mにおいて、低い微分抵抗値と、高い反射率と、を両立し得る範囲であると考えられる。
【0046】
<実施例5、比較例3、4>
[n-AlGaN組成傾斜層を用いたn-AlInN/GaN多層膜反射鏡の表面状態についての検証]
次に、n-AlGaN組成傾斜層14を用いたn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mの表面状態を検証した結果について説明する。実施例5として、n-AlGaN組成傾斜層14の開始AlNモル分率を、最も低い微分抵抗値が得られる0.39として、GaN基板上に40ペア形成したサンプルを作製した。比較例3として、n-AlGaN組成傾斜層14を設けず、Siの添加もしていない非導電性の多層膜反射鏡をGaN基板上に40ペア形成したサンプルを作製した。比較例4として、n-AlGaInN組成傾斜層を有し、Siが添加された導電性を有する多層膜反射鏡をGaN基板上に40ペア形成したサンプルを作製した。実施例5、比較例3、4のサンプルの各々の表面を10μm×10μmの範囲にわたって測定したAFM像を
図11に示す。
【0047】
比較例3のサンプルの表面では、10μm×10μmの測定範囲内においてピットが観察されず、ピット密度は1×106cm-2未満と推定される。一方、比較例4のサンプルの表面では、1×107cm-2を超えるピットが観察された。そして、実施例5のサンプルの表面におけるピット密度は、3×106cm-2であった。この結果は、比較例3のサンプルのピット密度にほぼ匹敵する少なさである。これは、開始AlNモル分率が0.36以上、且つ0.44以下であるn-AlGaN組成傾斜層14を用いることによって、良好な導電性と結晶性、すなわち表面平坦性を有するn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mを作製できることを意味する。換言すると、n-AlGaN組成傾斜層14の開始AlNモル分率を0.36以上、且つ0.44以下とすることによって、良好な表面平坦性を有するn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mを作製し得る。
【0048】
続いて、
図1における窒化物半導体発光素子1の作製方法の説明に戻る。ペアPを40回繰り返して結晶成長してn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mを形成した後、n-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mの表面に、成長温度1050℃にて、厚みが400nmの第2n-GaN層16を結晶成長させる。第2n-GaN層16におけるSiの濃度は、5×10
18cm
-3になるように反応炉内へのSiH
4の供給量を調整する。
【0049】
次に、第2n-GaN層16の表面に、GaInN量子井戸層と、GaNバリア層との1ペアが5回積層されて構成されたGaInN量子井戸活性層17を成長させる。そして、GaInN量子井戸活性層17の表面に、厚みが20nmのp-AlGaN層18を結晶成長させる。p-AlGaN層18におけるAlNのモル分率は0.2であり、GaNのモル分率は0.8である。p-AlGaN層18におけるMgの濃度は、2×1019cm-3になるようにCp2Mgの供給量を調整する。
【0050】
次に、p-AlGaN層18の表面に、p型クラッド層として、厚みが70nmのp-GaN層19を結晶成長させる。p-GaN層19におけるMgの濃度は、2×1019cm-3になるようにCp2Mgの供給量を調整する。そして、p-GaN層19の表面に、p-GaNコンタクト層20を結晶成長させる。p-GaNコンタクト層20におけるMgの濃度は、2×1020cm-3になるようにCp2Mgの供給量を調整する。
【0051】
こうして、ペアPが40回繰り返して結晶成長された、開始AlNモル分率が0.39であるn-AlGaN組成傾斜層14を有するn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mと、pn接合に挟まれ、紫色領域で発光するGaInN量子井戸活性層17と、を有する共振器構造までが形成される。この共振器は、発光波長の整数倍を有しており、共振器長が4波長に相当する。
【0052】
図1に示すように、面発光レーザーは、n-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mと、共振器構造と、を有するウエハ上に絶縁膜21、p側電極22A、n側電極22B、そして、SiO
2/Nb
2O
5誘電体多層膜反射鏡Dを結晶成長することによって完成する。以下に、絶縁膜21、p側電極22A、n側電極22B、及びSiO
2/Nb
2O
5誘電体多層膜反射鏡Dを結晶成長させて面発光レーザー(窒化物半導体発光素子)を作製する工程について説明する。
【0053】
先ず、p-GaNコンタクト層20を結晶成長させた後、上記半導体ウエハのp型半導体層(p-AlGaN層18、p-GaN層19、p-GaNコンタクト層20)からHを脱離させ、p型半導体層に添加されたp型ドーパントであるMgの活性化を行う。次に、半導体ウエハの表面にフォトレジストによるパターニングを形成し、部分的にエッチングすることによって、素子となる直径40μmの円形状をなしたメサ構造を形成する。
【0054】
そして、p-GaNコンタクト層20の表面に、厚み20nmのSiO2膜を積層し、フォトリソグラフィとスパッタリング法によって直径10μmの円形状の開口Hが形成された絶縁膜21を形成する。そして、開口Hから露出するp-GaNコンタクト層20の表面に接触するようにITOによる透明なp側電極22Aをスパッタリング法により形成する。これとともに、n-GaN基板10の裏面にn側電極22Bを設ける。そして、p側電極22Aの表面の外周部にCr/Ni/Auによるパッド電極を形成する(図示せず)。
【0055】
最後に、フォトリソグラフィとスパッタリング法によってp側電極22Aの表面に、SiO2/Nb2O5誘電体多層膜反射鏡Dを結晶成長させる。こうして、GaInN量子井戸活性層17の上方にSiO2/Nb2O5誘電体多層膜反射鏡D、下方にn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mを有し、波長の整数倍に相当する共振器長を有する垂直共振器面発光型レーザーとして機能する窒化物半導体発光素子が完成する。
【0056】
この素子は良好な導電性と結晶性、表面平坦性を有する多層膜反射鏡を有することから、注入電流の面内における均一性が高く、素子抵抗が低いために高効率、高出力動作が可能である。また、ピットや欠陥が少ないために素子寿命も長く、信頼性も高い。
【0057】
次に、上記実施例における作用を説明する。
【0058】
窒化物半導体発光素子1は、Al及びInを組成に含むn-AlInN層12と、n-AlInN層12の表面に積層され、Gaを組成に含むGaNキャップ層13と、GaNキャップ層13の表面に積層され、Al及びGaを組成に含むn-AlGaN組成傾斜層14と、を備え、GaNキャップ層13の表面に積層するn-AlGaN組成傾斜層14の界面におけるAlNのモル分率は、0.36以上、且つ0.44以下である。この構成によれば、n-AlInN層12とn-AlGaN組成傾斜層14との間に生じるエネルギー障壁の差を小さくし、n-AlInN層12とn-AlGaN組成傾斜層14との間で電子のやり取りを良好にすることができる。
【0059】
n-AlGaN組成傾斜層14の表面に積層され、AlNのモル分率がn-AlInN層12よりも小さく、Gaを組成に含む第1n-GaN層15を更に備え、n-AlGaN組成傾斜層14におけるAlNのモル分率は、第1n-GaN層15との界面に向かうにつれて徐々に減少するように組成傾斜している。この構成によれば、n-AlGaN組成傾斜層14と第1n-GaN層15との界面に生じるエネルギー障壁を小さく抑えることができるので、n-AlGaN組成傾斜層14と第1n-GaN層15との導電性を良好にすることができ、これによって、n-AlInN層12から第1n-GaN層15までの間における電子のやり取りを良好にすること(すなわち、導電性を良好にすること)ができる。
【0060】
キャップ層の積層方向の厚みは、0よりも大きく、且つ1nm以下である。この構成によれば、n-AlInN層12の表面を良好に保護することができる。
【0061】
n-AlGaN組成傾斜層14の積層方向の厚みは、4nm以上、且つ15nm以下である。この構成によれば、微分抵抗値の低さと、高反射とを両立することができる。
【0062】
窒化物半導体発光素子の製造方法は、有機金属気相成長法を用いた窒化物半導体発光素子の製造方法であって、Al及びInを組成に含むn-AlGaN組成傾斜層14を結晶成長させる第1層積層工程と、第1層積層工程を実行後、n-AlGaN組成傾斜層14の表面にGaを組成に含むGaNキャップ層13を結晶成長させるキャップ層積層工程と、キャップ層積層工程を実行後、GaNキャップ層13の表面にAl及びGaを組成に含むn-AlGaN組成傾斜層14を結晶成長させる第2層積層工程と、第2層積層工程を実行後、n-AlGaN組成傾斜層14の表面にGaを組成に含む第1n-GaN層15を結晶成長させる第3層積層工程と、を備え、第2層積層工程においてn-AlGaN組成傾斜層14を結晶成長させる温度は、第3層積層工程において第1n-GaN層15を結晶成長させる温度よりも高い。この構成によれば、第2層積層工程においてAlのマイグレーションを活発にすることができるので、n-AlGaN組成傾斜層14の表面を平坦にし易くでき、その後に結晶成長する第1n-GaN層15における品質の向上につながる。
【0063】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
(1)上記実施例とは異なり、n型不純物として、Ge、Te等を用いても良い。
(2)上記実施例とは異なり、サファイア基板等の他の基板を用いて結晶成長しても良い。
(3)上記実施例とは異なり、GaNキャップ層にGaN以外の元素が含まれていてもよい。
(4)第2層積層工程における結晶成長させる温度、及び第3層積層工程における結晶成長させる温度は、上記実施例において開示された温度に限らない。また、第2層積層工程における結晶成長させる温度は、第3層積層工程における結晶成長させる温度と同じであってもよい。つまり、第2層積層工程における結晶成長させる温度は、第3層積層工程における結晶成長以上であればよい。
(5)上記実施例とは異なり、第1n-GaN層(第3層)にn-AlInN層(第1層)よりも低いモル分率でAlNを含んでいてもよい。つまり、第3層は、n-AlGaN組成傾斜層(第2層)の表面に積層され、AlNのモル分率が第1層よりも小さく、Gaを組成に含む層であればよい。
【符号の説明】
【0064】
1…窒化物半導体発光素子
12…n-AlInN層(第1層)
13…GaNキャップ層(キャップ層)
14…n-AlGaN組成傾斜層(第2層)
15…第1n-GaN層(第3層)