(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157234
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】有機EL表示装置
(51)【国際特許分類】
H05B 33/02 20060101AFI20231019BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20231019BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20231019BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20231019BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20231019BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
H05B33/02
H01L27/32
H05B33/14 A
G09F9/30 365
G09F9/00 313
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067011
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 暢
【テーマコード(参考)】
2H149
3K107
5C094
5G435
【Fターム(参考)】
2H149AA18
2H149AB05
2H149BA02
2H149BA13
2H149CA02
2H149DA02
2H149DA12
2H149EA02
2H149EA12
2H149EA22
2H149FA02X
2H149FA03W
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2H149FA66
2H149FA67
2H149FA69
2H149FA70
2H149FC03
2H149FD01
2H149FD09
2H149FD10
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC31
3K107EE26
3K107FF06
3K107FF13
5C094AA01
5C094BA27
5C094ED14
5C094JA11
5G435AA01
5G435BB05
5G435FF05
5G435HH02
5G435KK07
(57)【要約】
【課題】反射光の色付きの少ない有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】有機EL表示装置(100)は、一対の電極(73,77)間に有機発光層(75)を備える有機EL素子(70)と、有機EL素子の第一主面に配置された円偏光板(10)とを備える。有機EL素子は、第一主面からの入射光に対する反射スペクトルにおいて、波長410nmの反射率R
410と波長510nmの反射率R
510の比R
410/R
510が、0.6以下である。円偏光板は、偏光子(11)と少なくとも1層の位相差層(13)とを含む。偏光子は、波長410nmの直交透過率T
410と波長510nmの直交透過率T
510の比T
410/T
510が、7以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に有機発光層を備える有機EL素子と、前記有機EL素子の第一主面に配置された円偏光板とを備える有機EL表示装置であって、
前記円偏光板は、偏光子と少なくとも1層の位相差層とを含み、
前記有機EL素子は、第一主面からの入射光に対する反射スペクトルにおいて、波長410nmの反射率R410と波長510nmの反射率R510の比R410/R510が、0.6以下であり、
前記偏光子は、波長410nmの直交透過率T410と波長510nmの直交透過率T510の比T410/T510が、7以上である、
有機EL表示装置。
【請求項2】
前記有機EL素子は、第一主面からの入射光に対する反射スペクトルにおいて、波長410nmの反射率R410が、35%以下である、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記有機EL素子は、第一主面からの入射光に対する反射スペクトルにおいて、波長510nmの反射率R510が、40%以上である、請求項1または2に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記円偏光板側からの反射光のCIELAB表色系のクロマティクネス指数b*が、-1.0以下である、請求項1または2に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記円偏光板側からの反射光のCIELAB表色系のクロマティクネス指数a*が0以上である、請求項1または2に記載の有機EL表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の表面に円偏光板を備える有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を表示体とする有機EL表示装置は、有機EL素子(有機ELセル)の視認側表面に円偏光板を配置することにより、金属電極等により反射した外光が再出射して視認されることを防止している(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-211761号公報
【特許文献2】特開2020-3520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
円偏光板により反射光を完全に遮蔽することは困難であり、一部の反射光は円偏光板を透過して外部から視認される。有機EL素子の構成によっては、円偏光板で遮蔽されずに外部から視認される反射光が色付いて見える場合があり、画面の視認性低下や、デバイスの意匠性低下の原因となっている。かかる課題に鑑み、本発明は反射光の色付きの少ない有機EL表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の有機EL表示装置は、一対の電極間に有機発光層を備える有機EL素子と、有機EL素子の光取り出し面である第一主面に配置された円偏光板とを備える。円偏光板は、偏光子と少なくとも1層の位相差層とを含む。
【0006】
有機EL素子は、第一主面からの入射光に対する反射スペクトルにおいて、波長410nmの反射率R410と波長510nmの反射率R510の比R410/R510が、0.6以下である。偏光子は、波長410nmの直交透過率T410と波長510nmの直交透過率T510の比T410/T510が、7以上である。
【0007】
有機EL素子は、第一主面からの入射光に対する反射スペクトルにおいて、波長410nmの反射率R410が35%以下であってもよく、波長510nmの反射率R510が40%以上であってもよい。
【0008】
有機EL表示装置は、円偏光板側からの反射光のCIELAB表色系のクロマティクネス指数b*が、-1.0以下であってもよく、クロマティクネス指数a*が0以上であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
有機EL素子の反射スペクトルにおいて、可視光の短波長の反射率が低い場合は、反射光が色付いて見えるが、有機EL素子の表面に配置される円偏光板において、偏光子の波長410nmにおける直交透過率T410が相対的に大きいことにより、有機EL表示装置の反射光(円偏光板を透過する反射光)のb*が小さくなり、色付きが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態にかかる有機EL表示装置の断面図である。
【
図4】有機ELセルの反射スペクトルと偏光板の直交透過スペクトルの積から算出した有機EL表示装置の反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、一実施形態の画像表示装置の断面図であり、有機EL素子70の視認側に、円偏光板10が配置されている有機EL表示装置100を示している。
【0012】
[有機EL素子]
有機EL素子は、一対の電極間に有機発光層を備える。
図1では、有機EL素子70(以下、「有機ELセル」と称する場合がある)として、トップエミッション型の有機ELセルを示している。トップエミッション型の有機ELセルは、基板71上に、陰極73、有機発光層75および陽極77を順に備え、陽極77側から光を取り出す構成である。陽極77上には、封止材79が積層されている。図示を省略しているが、封止材79は、電極73,77、および有機発光層75の側面を覆うように設けられていることが好ましい。
【0013】
基板71としては、ガラス基板またはプラスチック基板が用いられる。トップエミッション型の有機ELセルでは、基板71は透明である必要はなく、基板71としてポリイミドフィルム等の高耐熱性フィルムを用いてもよい。陰極73は、一般には金属電極である。有機発光層75は、それ自身が発光層として機能する有機層の他に、電子輸送層、正孔輸送層等を備えていてもよい。陽極77は、金属酸化物層または金属薄膜であり、有機発光層75からの光を透過する。基板71の裏面側には基板の保護や補強を目的としてバックシート(不図示)が設けられていてもよい。
【0014】
有機ELセルは、基板上に、陽極(透明電極)、有機発光層および陰極(金属電極)を順に積層したボトムエミッション型でもよい。ボトムエミッション型の有機ELセルは、基板側から光を取り出す構成であり、透明基板が用いられる。
【0015】
上記のように、有機ELセル70の陰極73は、一般に金属電極であり、光反射性である。有機発光層75は、厚みが10nm程度と極めて薄いため、外光が有機ELセルの内部に入射すると、有機発光層を透過して裏面電極である陰極(金属電極)に到達し、電極で反射した外光が視認側(光取り出し側)へ再出射するため、画面が鏡面のように見えてしまう。後述のように、有機ELセル70の視認側表面に、円偏光板10を配置することにより、電極での反射光を遮蔽して画面の視認性や意匠性を向上できる。
【0016】
本発明において、有機ELセル70は、視認側(
図1の上側)から光を入射した際の反射スペクトルにおいて、波長410nmの反射率R
410と波長510nmの反射率R
510の比R
410/R
510が、0.6以下である。反射スペクトルは、入射角8°で光を入射した際の波長380nm~780nmの範囲の8°反射光の絶対反射率を測定することにより得られる。
【0017】
画像表示装置に用いられている有機ELセルでは、陰極の金属材料としてAgやAlが用いられる場合が多く、反射光のR410/R510は0.8程度であり、着色が少なく、反射光は銀色(無彩色)に見える。一方、陰極材料の選択や、素子の構成によっては、可視光短波長の反射率が相対的に低く、R410/R510が0.6以下となる場合がある。R410/R510が0.6以下の場合、白色光が入射しても、可視光短波長(青色・紫色)の反射が少ないため、有機ELセル70からの反射光は黄色く色付いて見える。
【0018】
有機ELセルのR410/R510は、0.55以下または0.5以下であり得る。R410/R510が小さいほど、有機ELセルの反射光のb*が大きくなる傾向がある。R410/R510は、一般に0.1以上であり、0.2以上、0.25以上、または0.3以上であってもよい。
【0019】
b*は、CIELAB表色系のクロマティクネス指数であり、b*が小さいと、光は青色に着色して視認され、b*が大きいと、光は黄色に着色して視認される。なお、CIELAB表色系のもう1つのクロマティクネス指数a*が小さいと光は緑色に着色して視認され、a*が大きいと光は赤色に着色して視認される。
【0020】
有機ELセル70の波長410nmの反射率R410は、35%以下、30%以下、25%以下または20%以下であってもよく、5%以上、10%以上または15%以上であってもよい。有機ELセル70の波長510nmの反射率R510は、40%以上または45%以上であってもよく、80%以下、70%以下または60%以下であってもよい。
【0021】
[円偏光板]
有機ELセル70の視認側表面には、円偏光板10が配置される。円偏光板10は、偏光子11の一方の面に位相差層13を備え、位相差層13が偏光子11よりも有機ELセル70に近い側に配置される。
【0022】
円偏光板10は、視認側(
図1の上側)から入射する外光を、円偏光として有機ELセル70側(
図1の下側)に射出する。具体的には、外光が偏光子11を透過する際に、偏光子11の吸収軸方向に振動する光が吸収されるため、直線偏光となり、位相差層13に入射する。位相差層13は典型的には1/4波長板であり、位相差層13を透過する際に、位相差層13の遅相軸方向に振動する光の位相が、進相軸方向に振動する光の位相よりもπ/2遅れる。そのため、偏光子11の吸収軸方向と位相差層13(1/4波長板)の遅相軸方向のなす角が45°である場合、偏光子11からの直線偏光は、位相差層13により円偏光に変換される。
【0023】
円偏光板10により円偏光に変換された外光は、有機ELセル70に入射する。有機ELセルでの反射光は、再び円偏光板10に到達し、位相差層13により円偏光が直線偏光に変換される。有機ELセルでの反射光(主に裏面電極である陰極73で反射された光)は、反射時に位相がπ反転しているため、入射時とは逆回りの円偏光となっている。そのため、反射光は、位相差層13で円偏光から直線偏光に変換される際に、入射時とは振動方向が直交する直線偏光となり、偏光子11により吸収される。このように、有機ELセル70の視認側表面に円偏光板10を配置することにより、有機ELセル70での反射光が円偏光板10により遮蔽されるため、表示装置の画面の視認性および意匠性が向上する。
【0024】
<偏光子>
偏光子11としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。中でも、高い偏光度を実現可能であることから、ポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素を吸着させた偏光子が好ましい。
【0025】
偏光子の製造工程においては、必要に応じて、水洗、膨潤、架橋等の処理が行われてもよい。延伸は、ヨウ素染色の前後いずれに行われてもよく、染色しながら延伸が行われてもよい。延伸は、空中での延伸(乾式延伸)、あるいは、水中や、ホウ酸、ヨウ化カリウム等を含む水溶液中での延伸(湿式延伸)のいずれでもよく、これらを併用してもよい。偏光子の厚みは特に制限されないが、一般的に、1~50μm程度である。
【0026】
偏光子11は、厚みが10μm以下の薄型偏光子であってもよい。薄型の偏光子としては、例えば、特開昭51-069644号公報、特開2000-338329号公報、WO2010/100917号、特許第4691205号、特許第4751481号、特開2012-73580号公報に記載されている偏光子が挙げられる。薄型偏光子は、例えば、延伸用樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成した積層体を、ヨウ素染色および延伸することにより得られる。この製法では、ポリビニルアルコール系樹脂層が薄くても、延伸用樹脂基材に支持されているため、延伸による破断等の不具合なく延伸することが可能となる。
【0027】
偏光子11は、波長410nmの直交透過率T410と波長510nmの直交透過率T510の比T410/T510が、7以上である。直交透過率は、同一の偏光子2枚をクロスニコルに配置した際の光透過率であり、直交透過率が小さいほど偏光度が高くなる。偏光子が単独のフィルムとして取り扱いが困難な場合(例えば、偏光子の厚みが小さい場合)は、偏光子の片面または両面に、偏光子保護フィルム(透明フィルム)を貼り合わせた偏光板をクロスニコルに配置して透過スペクトル(直交透過率)を測定すればよい。
【0028】
一般には、偏光子は、可視光の広い波長範囲にわたって直交透過率が小さく、透過光の色相がニュートラルであることが要求されるため、T410/T510が小さい方が好ましい。一方、本発明の実施形態では、有機ELセル70の視認側に配置される円偏光板10の偏光子11として、波長410nmの直交透過率T410が大きく、T410/T510が7以上であるものを用いる。
【0029】
上記のように、有機ELセル70は、可視光短波長の反射率が低く、反射光が黄色く色付いている。偏光子11のT410が相対的に大きいことにより、円偏光板10による可視光短波長の反射光の遮蔽率が低くなるため、円偏光板10で遮蔽されずに外部に漏れる反射光の色相がニュートラル化される。また、T510が相対的に小さく、比視感度の高い波長領域の反射光の遮蔽率が高いため、有機EL表示装置は、反射光の視感反射率が低く、視認性に優れる。
【0030】
偏光子11のT410/T510は、8以上、9以上または10以上であってもよい。T410/T510が大きいほど、有機EL表示装置の反射光のb*が小さくなる傾向がある。一方、偏光子11のT410/T510が過度に大きい場合は、反射光が青色に強く色付いて視認され視感が低下する。そのため、偏光子11のT410/T510は、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下、17以下または15以下であってもよい。
【0031】
偏光子11の波長410nmと波長510nmの直交透過率の比T410/T510は、偏光子の製造条件等を調整することにより、上記範囲内とすることができる。例えば、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を吸着させた偏光子では、ポリビニルアルコールの分子鎖と錯体を形成しているポリヨウ素イオンの比率により、T410/T510が変化する。
【0032】
偏光子において、ヨウ素は、ヨウ素イオン(I-)、ヨウ素分子(I2)、ポリヨウ素イオン(I3
-およびI5
-)等の形態で存在する。これらのうち、ポリヨウ素イオンであるI3
-およびI5
-が、ポリビニルアルコール(PVA)のポリマー鎖と錯体を形成しており、二色性の発現に寄与している。
【0033】
PVAと三ヨウ化物イオンI3
-との錯体は470nm付近に吸光ピークを有し、PVAと五ヨウ化物イオンI5
-との錯体は600nm付近に吸光ピークを有する。そのため、偏光子は可視光の広い波長領域において二色性を示すが、直交透過スペクトルは、410nm付近および510nm付近に透過率の極大(吸光度の極小)を有する。偏光子におけるI3
-とI5
-の比率に応じて、直交透過率のスペクトル形状が変化し、I3
-の比率が相対的に大きくなると、可視光の短波長側の直交透過率が小さくなり、偏光子のT410/T510は小さくなる傾向がある。I5
-の比率が相対的に大きくなると、可視光の長波長側の直交透過率が小さくなり、偏光子のT410/T510は大きくなる傾向がある。
【0034】
偏光子におけるI3
-とI5
-の比率を調整する方法としては、ヨウ素染色条件の調整、延伸条件の調整、還元処理、加熱処理等が知られており、詳細については、特開2004-341503号公報、特開2010-91811号公報、特開2010-117516号公報、特開2013-101301号公報、特開2013-210516号公報、特開2016-148830号公報、WO2016/117659号、特開2017-167517号公報、特開2019-53279号公報等を参照できる。
【0035】
偏光子11は、波長470nmの直交透過率T470と波長600nmの直交透過率T600の比T470/T600が、23以下、20以下または18以下であってもよい。上記の通り、波長470nmはPVAとI3
-との錯体の吸収極大(透過率の極小)であり、波長600nmはPVAとI5
-との錯体の吸収極大である。そのため、I5
-の比率が相対的に大きいと、T470/T600が大きくなる傾向がある。
【0036】
偏光子11の偏光度は、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましく、99.9%以上であってもよい。偏光度Pは、平行透過率Tpおよび直交透過率Tcから、下記式により求められる。なお、ここでの平行透過率Tpおよび直交透過率Tcは、平行透過スペクトルおよび直交透過スペクトルから、JIS Z8701の2度視野(C光源)による視感度補正を行なったY値である。
P(%)=100×{(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}/2
【0037】
<位相差層>
上記の通り、偏光子11の一方の面に位相差層13を配置することにより、円偏光板10が構成される。位相差層13は、1層の位相差層からなるものでもよく、2層以上からなるものでもよい。
【0038】
位相差層13は、好ましくは1/4波長板である。1/4波長板は、波長550nmにおける正面レターデーションRe(550)が100~180nmである。1/4波長板のRe(550)は、110nm~165nmが好ましく、120nm~155nmがより好ましく、127.5nm~147.5nmがさらに好ましい。
【0039】
位相差層13は、長波長ほど大きなレターデーションを有する特性(いわゆる「逆波長分散」)を有するものでもよい。位相差層13が逆波長分散を有する場合、可視光の広い波長範囲にわたって、位相差層の正面レターデーションと1/4波長との差が小さいため、円偏光板が広帯域化され、優れた反射防止特性を実現できる。
【0040】
逆波長分散特性を有する位相差層は、波長450nmにおける正面レターデーションRe(450)と波長550nmにおける正面レターデーションRe(550)の比Re(450)/Re(550)が、1未満である。Re(450)/Re(550)は、0.65~0.99が好ましく、0.70~0.95がより好ましく、0.75~0.90がさらに好ましく、0.80~0.85であってもよい。
【0041】
特に、Re(450)/Re(550)が0.80~0.85である場合は、波長λが450~550nmの範囲において、Re(λ)とλ/4の差が小さい(理想の1/4波長に近い)ため、当該波長範囲の光漏れが少ない。そのため、有機EL表示装置では、比視感度の高い波長450~550nmの反射率が低く、反射光の視感反射率が低いため、視認性に優れる。一方、波長λが450nmよりも短波長の範囲では、Re(λ)<λ/4であり、当該波長範囲の光漏れが生じやすい。そのため、偏光子11のT410/T510が大きいことと相俟って、有機EL表示装置の反射光のb*が小さくなる傾向がある。位相差層13のRe(450)/Re(550)は、0.80~0.84、または0.81~0.83であってもよい。
【0042】
位相差層は、例えば、延伸フィルムである。フィルムの樹脂材料としては、ポリカーボネート系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、フェニルマレイミド樹脂等が挙げられる。位相差層は液晶化合物が所定方向に配向した配向液晶層であってもよい。位相差層の厚みは、例えば、1~300μm程度である。
【0043】
上記の通り、位相差層13は、2以上の位相差層の積層体として構成されていてもよい。例えば、複数の位相差層を積層することにより、1/4波長板のレターデーションの波長分散を調整して、円偏光板を広帯域化できる。また、複数の位相差層を積層して、三次元の屈折率異方性(屈折率楕円体)を調整することにより、視認方向によるレターデーションの変化を低減することもできる。
【0044】
偏光子11と位相差層13の積層形態は特に限定されない。偏光子11の表面に偏光子保護フィルムが貼り合わせられ、偏光子保護フィルムを介して位相差層13が積層されていてもよい。また、位相差層13が偏光子保護フィルムとしての機能を兼ねていてもよい。偏光子11と位相差層13は必ずしも積層一体化されている必要はなく、離間して配置されていてもよい。
【0045】
偏光子11の吸収軸方向と位相差層13としての1/4波長板の遅相軸方向とのなす角は、例えば、35°~55°であり、好ましくは40°~50°、より好ましくは43°~47°、さらに好ましくは44°~46°である。なお、複数の位相差層を積層して1/4波長板のレターデーションの波長分散を調整する場合(例えば、1/4波長板と1/2波長板を、平行でも直交でもない角度で積層する場合)は、一定の遅相軸を観念できないため、偏光子と位相差層との配置角度は上記の限りではなく、偏光子と位相差層との積層体が円偏光板として機能し得るように各光学層の配置角度を設定すればよい。
【0046】
<偏光子保護フィルム>
偏光子11の視認側表面(位相差層13が配置されている面の反対側の面)には、偏光子保護フィルムとして透明フィルム15が貼り合わせられていてもよい。透明フィルム15の厚みは、1~300μm程度である。透明フィルム15の樹脂材料の例としては、位相差層13の樹脂材料として前述したものが挙げられる。
【0047】
[有機EL表示装置]
有機ELセル70の視認側表面に円偏光板10を配置することにより、有機EL表示装置100が形成される。
図1に示す様に、有機ELセル70と円偏光板10は、適宜の粘接着剤層21を介して貼り合わせられていてもよい。粘接着剤層21としては、硬化型の接着剤または粘着剤(感圧接着剤)が用いられる。粘接着剤層の厚みは、例えば、0.1~500μm程度である。
【0048】
取扱性等の観点から、粘接着剤層21としては、粘着剤が好ましい。粘着剤としては、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系ポリマー、ゴム系ポリマー等をベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤やゴム系粘着剤等の、透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性を示し、耐候性や耐熱性等に優れる粘着剤が好ましい。粘着剤層の厚みは、例えば、5~500μm程度である。
【0049】
有機EL表示装置100では、有機ELセル70の電極等により反射された外光が、円偏光板10により遮蔽されるため、画面の視認性に優れるとともに、画面が鏡面のように視認されることがなく、意匠性に優れる。ただし、有機ELセルの視認側表面に円偏光板を配置した場合でも、円偏光板により反射光を完全に遮蔽することはできないため、一部の反射光は円偏光板を透過する。
【0050】
有機ELセル70は、波長410nmの反射率R410と波長510nmの反射率R510の比R410/R510が、0.6以下であるため、円偏光板を設けていない状態で、有機ELセル70に外光(白色光)が入射すると、反射光は黄色く色付いて見える。上記のように、波長410nmの直交透過率T410が大きい(すなわち、可視光短波長の光漏れが大きい)偏光子11を含む円偏光板10を、有機ELセル70の視認側に配置し、意図的に可視光短波長の反射光の光漏れを大きくすることにより、有機EL表示装置100の反射光のb*が小さくなり、色相がニュートラル化される。
【0051】
色相のニュートラル化の観点において、有機EL表示装置の反射光は、理想的には、クロマティクネス指数a*およびb*が0に近いことが好ましい。一方、正面の反射光が、a*≒0、b*≒0である場合、斜め方向の反射光のカラーシフトによる色味の変化が複雑であり、特に、a*<0、b*>0となった場合に、緑色の着色が強く視認され、視感が損なわれやすい。
【0052】
斜め方向の反射光のカラーシフトによる色相変化が生じた際にも、色味(視感)の変化を小さくするためには、有機ELセル70上に円偏光板10を備える有機EL表示装置100の反射光(正面の反射光)のb*は、-1.0以下であることが好ましい。有機EL表示装置の反射光のb*は、-1.1以下または-1.2以下であってもよい。反射光のb*が過度に小さい場合は、青色の着色が強く視感が損なわれるため、有機EL表示装置の反射光のb*は、-3.0以上が好ましく、-2.5以上がより好ましく、-2.2以上、-2.1以上または-2.0以上であってもよい。前述した通り、偏光子11のT410/T510が大きいほど、有機EL表示装置100の反射光のb*が小さくなる傾向がある。
【0053】
カラーシフトによる反射光の緑色の着色を抑制する観点から、有機EL表示装置の反射光のa*は、0以上であることが好ましく、0より大きいことがより好ましい。反射光のa*は、0.1以上、0.3以上、0.4以上または0.5以上であってもよい。反射光のa*が過度に大きい場合は、赤色の着色が強く視感が損なわれるため、有機EL表示装置の反射光のa*は、2.5以下が好ましく、2.2以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましく、1.8以下または1.6以下であってもよい。
【0054】
有機EL表示装置は、有機ELセル70および円偏光板10に加えて、任意の光学部材を含んでいてもよい。例えば、円偏光板10の視認側表面には、ハードコート層、反射防止層、防汚層、表面保護層(カバーウインドウ)等が設けられていてもよい。また、有機EL表示装置は、タッチパネルセンサーを含んでいてもよい。タッチパネルセンサーは、有機ELセル70の裏面、有機ELセル70の内部、有機ELセル70と円偏光板10との間、円偏光板10よりも視認側のいずれに配置されていてもよい。
【実施例0055】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0056】
[偏光板の作製]
<偏光板A>
厚み100μmの非晶質ポリエステルフィルム(ポリエチレン-テレフタレート/イソフタレート;ガラス転移温度75℃)の片面にコロナ処理を施した。ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業製「ゴーセファイマーZ410」)を9:1の重量比で混合した樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加し、PVA水溶液を調製した。この水溶液を、非晶質ポリエステルフィルムのコロナ処理面に塗布し、60℃で乾燥して、非晶質ポリエステルフィルム基材上に厚み13μmのPVA系樹脂層が設けられた積層体を作製した。
【0057】
この積層体を、130℃のオーブン内での空中補助延伸により長手方向に3.0倍に自由端一軸延伸した後、ロール搬送しながら、40℃の4%ホウ酸水溶液に30秒間、40℃の染色液(0.2%ヨウ素、1.4%ヨウ化カリウム水溶液)に60秒間、順次浸漬した。次いで、積層体をロール搬送しながら、40℃の架橋液(ヨウ化カリウム3%、ホウ酸5%水溶液)に30秒間浸漬して架橋処理を行い、70℃のホウ酸4%、ヨウ化カリウム5%水溶液に浸漬しながら、総延伸倍率が5.5倍となるように長手方向に自由端一軸延伸した。その後、積層体を20℃の洗浄液(4%ヨウ化カリウム水溶液)に浸漬した。
【0058】
積層体を60℃のオーブン内で1分間搬送して乾燥を行った。この間に、オーブン内に配置された表面温度が75℃のSUS製加熱ロールに約2秒間接触させた。上記の工程により、非晶質ポリエステルフィルム基材上に厚み約5μmのPVA系偏光子が設けられた積層体を得た。
【0059】
片面にハードコート層が形成されたトリアセチルセルロースフィルム(厚み32μm)のハードコート層非形成面を、上記の積層体の偏光子側に、紫外線硬化型接着剤を介して貼り合わせた。その後、偏光子から非晶質ポリエステルフィルム基材を剥離して、偏光子の片側にハードコートフィルムが貼り合わせられた偏光板Aを得た。
【0060】
<偏光板B>
偏光子(積層体)の乾燥時のオーブンの温度を60℃から80℃に変更した。それ以外は、偏光板Aの作製と同様にして、偏光子の片側にハードコートフィルムが貼り合わせられた偏光板Bを得た。
【0061】
[偏光板の直交透過スペクトル]
上記の偏光板Aおよび偏光板Bについて、紫外可視分光光度計(日本分光製「V-7100」)により直交透過スペクトルを測定した。スペクトルを
図2に示す。偏光板Aおよび偏光板Bの波長410nm、470nm、510nmおよび600nmにおける直交透過率T
410、T
470、T
510およびT
600、ならびにこれらの比は、表1に示す通りであった。
【0062】
【0063】
[有機ELセル]
<有機ELセルA>
参考例の有機ELセルとして、サムスン製のスマートフォン(GALAXY S5)の有機ELセルの表面に貼り付けられている円偏光板を剥がしたものを準備した。
【0064】
<有機ELセルB>
有機ELセルの反射光を疑似的に再現した試料として、ハードコートフィルム上に金属酸化物薄膜が形成された加飾フィルムを作製した。片面にウレタンアクリレート樹脂のUV硬化により形成されたハードコート層を備える厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを、スパッタ成膜装置にセットした。スパッタ成膜装置に、Nbターゲット(大同特殊鋼製)を取り付け、ArガスとO2ガスを導入しながら、交流スパッタ(AC:40Hz)により、ハードコートフィルムのハードコート層形成面に、厚み60nmの酸化ニオブ薄膜を形成して、加飾フィルムを得た。
【0065】
[有機ELセルの反射スペクトル]
上記の有機ELセルAおよび有機ELセルBについて、入射角8°で光を入射させ、波長380nm~780nmの範囲の絶対反射率を測定することにより、反射スペクトルを求めた。反射スペクトルを
図3に示す。有機ELセルAおよび有機ELセルBの波長410nmおよび510nmにおける反射率R
410およびR
510、ならびにその比は、表2に示す通りであった。
【0066】
【0067】
[有機EL表示装置の反射スペクトル]
有機ELセルAの反射スペクトルにおける各波長の反射率に、偏光板Aの直交透過スペクトルにおける各波長の透過率を乗じて、反射スペクトルを求めた。この反射スペクトルは、有機ELセルAの表面に、偏光板Aを備える円偏光板を配置した有機EL表示装置の疑似反射スペクトルに相当する。同様に、有機ELセルBと偏光板Aの組合せ、および有機ELセルBと偏光板Bの組合せについて、有機ELセルの反射率と偏光板の直交透過率を乗じて、疑似反射スペクトルを求めた。それぞれの疑似反射スペクトルを、
図4に示す。各有機ELセルと偏光板の組合せについて、波長410nmおよび510nmにおける反射率R
410およびR
510、ならびにその比は、表3に示す通りであった。
【0068】
【0069】
図3および表2から、有機ELセルBは、有機ELセルAに比べて反射率が低く、特に、500nmよりも短波長の領域における反射率の低下が顕著であるため、R
410/R
510が小さく、反射光は黄色く色付いていることが分かる。
【0070】
この有機ELセルBと偏光板Aの組み合わせでは、反射スペクトルにおけるR
410/R
510が2未満であった。有機ELセルBと、T
410/T
510が大きい偏光板Bとの組み合わせでは、有機ELセルAと偏光板Aの組合せと同様、反射スペクトルにおけるR
410/R
510が4以上であり、反射光のb
*が小さくなっていることが分かる。また、
図4に示す様に、有機ELセルBと偏光板Bの組み合わせでは、有機ELセルAと偏光板Aの組み合わせと比較して、可視光の広い波長範囲にわたって反射率が低く、画面の視認性に優れていることが分かる。