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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157243
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】建造物検体採取装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
G01N1/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067025
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】沼田 和也
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA16
2G052AB22
2G052AD12
2G052AD32
2G052BA29
2G052EC07
2G052JA07
2G052JA26
(57)【要約】
【課題】動力を要さず、安全に、複数の現場でも容易に持ち運んで効率よく検体を採取することが可能になる建造物検体採取装置を提供する。
【解決手段】装置全体が容易に持ち運び可能な幅200mm程度×高さ500mm程度の大きさであって、その装置固定用第2外筒部30を三脚部(サクションリフタ)37a~37cにより検体採取の対象とする対象物T上に固定し、装置固定用第2外筒部30が有する水噴射部35を操作して対象物Tを湿潤化Wpさせる。掘削用内筒部10のハンドル12を下方Dへ押し下げながら回転Rさせることで掘削部11により対象物Tを掘削Hし、検体収集用第1外筒部20に囲まれる密閉空間に検体としての掘削物Saを発生させる。掘削Hにより発生した掘削物(検体)Saは、掘削部11から放射状に飛散すると共に、検体収集用第1外筒部20の内周面に沿って検体受け皿24に落下して採取される。
【選択図】 図5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒体の長さ方向の一端に前記円筒体の中心軸に対応して設けられ、前記円筒体を前記中心軸を中心に回転させることで前記中心軸の前記一端の方向にあって接触する対象物を掘削するドリル状の掘削部と、前記円筒体の他端に設けられ前記円筒体を前記中心軸を中心に回転させるためのハンドルと、を備える掘削用内筒部と、
前記掘削用内筒部の少なくとも前記掘削部から前記円筒体の一部に至る範囲を挿し抜き可能な前記円筒体の外周面に沿った第1内周面を有し、前記掘削用内筒部の前記掘削部に対応する側の一端の前記第1内周面に沿って環状に設けられる検体受け皿を備える第1外筒部と、
前記第1外筒部を挿し抜き可能な前記第1外筒部の外周面に沿った第2内周面を有し、前記掘削用内筒部の前記掘削部に対応する側の一端を前記対象物に密着させて手動で固定するための脚部と、前記固定により前記第2内周面の一端に囲まれた範囲の前記対象物を湿潤化するための手動の水噴射部と、を備える第2外筒部と、
を備え、前記掘削部の回転に応じて掘削された前記対象物の掘削物を、前記第1外筒部の前記検体受け皿に落下させ検体として採取する建造物検体採取装置。
【請求項2】
前記掘削用内筒部は、前記円筒体の外周に沿って設けられ、前記第1外筒部の前記第1内周面との隙間を密閉するOリングを備える、請求項1に記載の建造物検体採取装置。
【請求項3】
前記脚部は、前記第2外筒部の外周から放射状に延設された複数の脚部を備え、サクションリフタを用いて前記対象物の表面に吸着して固定される、請求項1または請求項2に記載の建造物検体採取装置。
【請求項4】
前記第2外筒部は、その一端に前記対象物の表面に密着する密着台を備える、請求項1または請求項2に記載の建造物検体採取装置。
【請求項5】
前記第1外筒部の他端に設けられ、前記第1外筒部の外径を広げるように形成した取手を備える、請求項1または請求項2に記載の建造物検体採取装置。
【請求項6】
前記水噴射部は、水を溜める貯水部と、手動のピストン部と、前記ピストン部の動きに応じて前記貯水部に溜められた水を噴射するノズルと、を備え、前記ノズルの先端は前記第2外筒部の一端側の前記第2内周面に露出される、請求項1または請求項2に記載の建造物検体採取装置。
【請求項7】
前記掘削用内筒部を前記第1外筒部に挿し込み、前記第1外筒部を前記第2外筒部に挿し込んで組み合わせた全体の大きさは、作業者が持ち運び可能な大きさで構成される、請求項1または請求項2に記載の建造物検体採取装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、建造物検体採取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ビル、トンネル、橋などの建築物および船などを含む建造物を対象に、補修、改修あるいは解体を行なう場合、例えばアスベストによる工事作業者への健康被害を未然に防ぐため、予め、壁、床、天井などの建材に何が使用されているかの確認が行われる。
【0003】
従来、建造物の建材から検体を採取する場合、検体が飛散するのを防ぐため、ビニールシートによる現場周辺の養生、霧吹きなどを使用した採取対象物の湿潤化を行なった後に、ハンマー、ノミ、カッターナイフなどの工具を使用して建材を砕き検体を採取している。
【0004】
しかしながら、このように建材から検体を採取する従来の手法では、工事作業者が工具を使用することによる怪我の発生や疲労の蓄積、異なる建材が使用されている複数の現場毎にビニールシート、霧吹き、工具などの個別の道具を持ち運んで作業を行なうことによる作業効率の低下が問題がとなる。
【0005】
既存建築物の建材から検体を飛散させずに容易に採取することが可能なサンプリング装置が考えられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
アスベスト層を安全に除去して回収することが可能なアスベスト除去回収装置が考えられている(例えば、特許文献2、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-096156号公報
【特許文献2】特開2021-025224号公報
【特許文献3】特開2008-200549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のサンプリング装置あるいはアスベスト除去回収装置は、気体の吸引や水の噴射、回収に動力を要するため、装置全体の構成が大掛かりになるばかりでなく、その動力源を装置本体とは別に持ち運ぶ必要がある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、動力を要さず、安全に、複数の現場でも容易に持ち運んで効率よく検体を採取することが可能になる建造物検体採取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の建造物検体採取装置は、
円筒体の長さ方向の一端に前記円筒体の中心軸に対応して設けられ、前記円筒体を前記中心軸を中心に回転させることで前記中心軸の前記一端の方向にあって接触する対象物を掘削するドリル状の掘削部と、前記円筒体の他端に設けられ前記円筒体を前記中心軸を中心に回転させるためのハンドルと、を備える掘削用内筒部と、
前記掘削用内筒部の少なくとも前記掘削部から前記円筒体の一部に至る範囲を挿し抜き可能な前記円筒体の外周面に沿った第1内周面を有し、前記掘削用内筒部の前記掘削部に対応する側の一端の前記第1内周面に沿って環状に設けられる検体受け皿を備える第1外筒部と、
前記第1外筒部を挿し抜き可能な前記第1外筒部の外周面に沿った第2内周面を有し、前記掘削用内筒部の前記掘削部に対応する側の一端を前記対象物に密着させて手動で固定するための脚部と、前記固定により前記第2内周面の一端に囲まれた範囲の前記対象物を湿潤化するための手動の水噴射部と、を備える第2外筒部と、
を備え、前記掘削部の回転に応じて掘削された前記対象物の掘削物を、前記第1外筒部の前記検体受け皿に落下させ検体として採取することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の建造物検体採取装置1の全体の構成を示す図であり、同図(A)は側面から見て示す部分透過図、同図(B)は同図(A)に対応する部分断面図、同図(C)は同図(A)(B)のA-A線矢視図。
図2】建造物検体採取装置1の外観構成を示す図であり、同図(A)は側面図、同図(B)は平面図。
図3】建造物検体採取装置1が備える掘削用内筒部10と検体収集用第1外筒部20とを抜き出して示す図であり、同図(A)は掘削用内筒部10の外観構成を示す側面図、同図(B)は検体収集用第1外筒部20を側面から見て示す縦断面図。
図4】建造物検体採取装置1の装置固定用第2外筒部30の下部に設けられた水噴射部35の構成を拡大して示す部分断面図。
図5】建造物検体採取装置1の動作を示す部分断面図であり、同図(A)は対象物Tの湿潤化Wpに伴う動作を示す図、同図(B)は対象物Tの掘削Hに伴う動作を示す図。
図6】建造物検体採取装置1により建材から掘削して採取した掘削物(検体)Saを検査用の密封バッグBAを使用して収集する手順を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態の建造物検体採取装置について、図面を参照して説明する。
【0013】
(建造物検体採取装置1の構成)
図1は、実施形態の建造物検体採取装置1の全体の構成を示す図であり、同図(A)は側面から見て示す部分透過図、同図(B)は同図(A)に対応する部分断面図、同図(C)は同図(A)(B)のA-A線矢視図である。
【0014】
図2は、建造物検体採取装置1の外観構成を示す図であり、同図(A)は側面図、同図(B)は平面図である。
【0015】
図3は、建造物検体採取装置1が備える掘削用内筒部10と検体収集用第1外筒部20とを抜き出して示す図であり、同図(A)は掘削用内筒部10の外観構成を示す側面図、同図(B)は検体収集用第1外筒部20を側面から見て示す縦断面図である。
【0016】
ここで、図1(A)(B)、図2(A)および図3による図示の下方を、建造物検体採取装置1の下、同図示の上方を同装置1の上、同図示の正面を同装置1の側面と定義する。
【0017】
建造物検体採取装置1は、図1(A)(B)および図2(A)に示すように、検体採取の対象である建材などの対象物Tの表面上に、同装置1の下端を固定して使用する。
【0018】
建造物検体採取装置1は、全体を円筒状に形成し、その円筒の中心に位置する掘削用内筒部10と、当該掘削用内筒部10の外周を囲んで位置する検体収集用第1外筒部20と、当該検体収集用第1外筒部20の外周をさらに囲んで位置する装置固定用第2外筒部30とを備える。
【0019】
建造物検体採取装置1は、掘削用内筒部10を中心とし、検体収集用第1外筒部20と装置固定用第2外筒部30とを、それぞれその円筒の側面に沿って順次外側に且つ挿し抜き可能に重なるように組み合わせて構成する。
【0020】
掘削用内筒部10と、検体収集用第1外筒部20と、装置固定用第2外筒部30とを、図1および図2に示すように組み合わせた建造物検体採取装置1の全体の大きさは、作業者が容易に持ち運び可能な幅200mm程度×高さ500mm程度の大きさに構成する。
【0021】
掘削用内筒部10の外径と検体収集用第1外筒部20の内径との間および検体収集用第1外筒部20の外径と装置固定用第2外筒部30の内径との間には、何れも相互に挿し抜き(スライド)可能な最低限の隙間を設定する。
【0022】
掘削用内筒部10は、図1(A)(B)および図3(A)に示すように、その円筒体の下端に、当該円筒体の中心軸に対応して下方へ向けて設けた、例えばアースオーガドリル状の掘削部11を備える。
【0023】
また、掘削用内筒部10は、その円筒体の上端に、当該円筒体の中心から半径方向へ例えば装置固定用第2外筒部30の外径に対応する程度の長さで設けた、ハンドル12を備える。ハンドル12の先端には、その上方に向けて立設したピンを中心に回転自在に支持される円筒形のグリップ13を設ける。グリップ13には、作業者が掴んでハンドル12を回しても手が滑り難いゴムなどの材料を用いる。
【0024】
すなわち、ハンドル12を回すことで、掘削部11を有する掘削用内筒部10は、その全体が円筒体の円の中心を軸にして回転し、ハンドル12を介して掘削用内筒部10に加える押し下げ力に応じて、掘削部11の先端が接する対象物Tを掘削する。
【0025】
また、掘削用内筒部10の円筒体には、その下端から5分の1程度の高さと5分の3程度の高さとの2箇所の外周に沿って環状の溝14a,14bを形成し、その溝14a,14bには、同環状のOリング15a,15bを嵌め込んで設ける。
【0026】
Oリング15a,15bには、その表面が滑り易いシリコンゴムなどの材料を用い、Oリング15a,15bの外径は、溝14a,14bに嵌め込まれた状態で、検体収集用第1外筒部20の内径と等しいか僅かに大きく、同Oリング15a,15bは、掘削用内筒部10の外周面と検体収集用第1外筒部20の内周面(第1内周面)との隙間を密閉する機能を有する。
【0027】
検体収集用第1外筒部20は、図1(A)(B)および図3(B)に示すように、掘削用内筒部10の下端すなわち掘削部11の先端から少なくとも上方のOリング15bを超える高さを有し、その上部を構成する上段外筒部21の下端と、下部を構成する下段外筒部22の上端とを、外周面に突出しない平ネジ23a,23bにより接続して一体化する。
【0028】
下段外筒部22の下端には、その下端の内径を一定の幅で狭めると共に、狭めた内周縁を上方へL字に折り返すように形成した環状の検体受け皿24を設ける。検体受け皿24は、掘削用内筒部10の掘削部11により対象物Tを掘削することで、下段外筒部22に囲まれる密閉空間に発生した掘削物を、検体として載せて収集する機能を有する。
【0029】
なお、掘削用内筒部10の掘削部11の外径は、少なくとも当該掘削用内筒部10の円筒体の外径よりも小さく且つ検体収集用第1外筒部20の下端に環状に設ける検体受け皿24の内径よりも小さい寸法に設定する。
【0030】
一方、上段外筒部21の上端には、その上端の外径を例えば装置固定用第2外筒部30の外径に対応する程度の幅まで広げるように形成した環状の取手25を設ける。取手25は、検体収集用第1外筒部20を装置固定用第2外筒部30に対し挿し抜きする方向にスライドさせるのに利用される。
【0031】
検体収集用第1外筒部20の外周面と装置固定用第2外筒部30の内周面(第2内周面)との隙間には、図1(C)に示すように、その相互を円滑にスライドさせるためのグリス20gを介在させる。
【0032】
装置固定用第2外筒部30は、図1に示すように、その外周面と内周面との間であって、当該第2外筒部30の上端から下部に至る長さで内蔵させた給水管31を備える。装置固定用第2外筒部30の上端に露出する給水管31の給水口(開口)には、開閉可能なゴムキャップ31aで蓋をする。
【0033】
給水管31の下端には、水噴射用ピストン部32、水噴射用貯水部33およびノズル34を含む水噴射部35を接続して設ける。
【0034】
実施形態の水噴射部35は、水噴射用ピストン部32を装置固定用第2外筒部30の外周面に突出させて設け、ノズル34の先端を当該第2外筒部30の下端部に近い内周面に露出させて設ける。
【0035】
給水管31は、水噴射部35の水噴射用ピストン部32および水噴射用貯水部33に対して給水するための水を溜め、水噴射用ピストン部32の動きに応じて給水する機能を有する。また、水噴射部35は、水噴射用ピストン部32および水噴射用貯水部33に給水された水を、水噴射用ピストン部32の動きに応じてノズル34から装置固定用第2外筒部30の下端に囲まれた空間へ噴射し、対象物Tを湿潤化する機能を有する。
【0036】
また、装置固定用第2外筒部30は、その下端に、対象物Tの表面に対して滑り難く且つ多少の凹凸を吸収して密着する、一定の厚みのゴムなどを用いた密着台36を備える。
【0037】
なお、実施形態の給水管31と水噴射部35の水噴射用貯水部33およびノズル34は、装置固定用第2外筒部30の外周面と内周面との間に内蔵させて設けているが、ノズル34の先端が当該第2外筒部30の下端部に近い内周面に露出すれば、同第2外筒部30の側面に沿わせた外側に設けてよい。水噴射部35の詳細な構成については後述する。
【0038】
また、装置固定用第2外筒部30は、その外周面の下部から図2(B)に示すように放射状の3方向に延設させた、サクションリフタ(吸着盤)を用いた三脚部37a~37cを備える。
【0039】
三脚部(サクションリフタ)37a~37cは、その頭部のレバー38a~38cを一方に傾倒操作することで対象物Tの表面に吸着し、図1(A)(B)および図2(A)に示すように、装置固定用第2外筒部30の密着台36を当該対象物Tの表面に密着させた状態で固定する機能を有する。レバー38a~38cを他方に反転操作すると、三脚部(サクションリフタ)37a~37cの対象物Tに対する吸着は開放され、その固定も解除される。
【0040】
なお、建造物検体採取装置1の掘削用内筒部10、検体収集用第1外筒部20および装置固定用第2外筒部30それぞれの構造体は、前述した掘削部11、三脚部(サクションリフタ)37a~37cの吸着部およびゴムなどの材料を用いた部分を除いて、硬質プラスチックなど、作業者が容易に持ち運び可能な軽量で強固な材料を用いて構成してよい。
【0041】
図4は、建造物検体採取装置1の装置固定用第2外筒部30の下部に設けられた水噴射部35の構成を拡大して示す部分断面図である。
【0042】
給水管31の下端の水噴射用貯水部33との隔壁には、給水弁33aを介して水噴射用貯水部33を接続し、水噴射用貯水部33の下端のノズル34と隔壁には、吐出弁33bを介してノズル34を接続する。
【0043】
給水弁33aは、平時、水噴射用貯水部33側から上方へ向けた図示しないばね力により給水管31から下ろうとする水Wを止水するように付勢され、吐出弁33bは、平時、ノズル34側から上方へ向けた図示しないばね力により水噴射用貯水部33から下ろうとする水Wを止水するように付勢される。
【0044】
また、水噴射用貯水部33の側面の水噴射用ピストン部32との隔壁には、当該ピストン部32をそのシリンダとの連通孔32dを介して横向きに接続する。
【0045】
水噴射用ピストン部32のシリンダの内部には、水噴射用貯水部33との連通孔32dの側からピストンばね32aを介してピストン32bが配置され、当該ピストン32bは、シリンダの先端から外部に突出させたプッシュ式の噴射ボタン32cを押し込む動きに連動して、ピストンばね32aのばね力に抗し水噴射用貯水部33との連通孔32dに向けてスライドし、噴射ボタン32cの押し込みを開放することで、ピストンばね32aのばね力によりシリンダの先端に向けて反転してスライドする。
【0046】
すなわち、給水管31に水Wが溜められた状態であって、水噴射用貯水部33に未だ水Wが給水されていない初期の状態において、水噴射用ピストン部32の噴射ボタン32cを押し込んで開放すると、ピストンばね32aのばね力によるピストン32bの反転した動きに応じて、水噴射用貯水部33内の空気が水噴射用ピストン部32との連通孔32dを介して吸引されることで、給水弁33aが開き、給水管31内の水Wが水噴射用貯水部33および水噴射用ピストン部32のシリンダに渡って給水される(図4(A)参照)。
【0047】
この後、図4(B)に示すように、水噴射用ピストン部32の噴射ボタン32cを押し込むと、ピストン32bの水噴射用貯水部33との連通孔32dに向けた動きに応じて、シリンダ内の水Wが水噴射用貯水部33との連通孔32dを介して押し出されることで、吐出弁33bが開き、水噴射用貯水部33内の水Wがノズル34を介して噴射Wsされる。
【0048】
続いて、水噴射用ピストン部32の噴射ボタン32cの開放と押し込みとを繰り返すことで、給水管31から水噴射用貯水部33および水噴射用ピストン部32に対する水Wの給水と、水噴射用ピストン部32および水噴射用貯水部33からノズル34を介した水Wの噴射Wsとが繰り返される。
【0049】
(建造物検体採取装置1の動作)
図5は、建造物検体採取装置1の動作を示す部分断面図であり、同図(A)は対象物Tの湿潤化に伴う動作を示す図、同図(B)は対象物Tの掘削に伴う動作を示す図である。
【0050】
図6は、建造物検体採取装置1により建材から掘削して採取した掘削物(検体)Saを検査用の密封バッグBAを使用して収集する手順を説明する図である。
【0051】
(1)建造物検体採取装置1を、図1および図2で示したように、装置固定用第2外筒部30の三脚部(サクションリフタ)37a~37cを操作して建材などの対象物Tの表面上に密着させて固定する。
【0052】
(2)掘削用内筒部10および検体収集用第1外筒部20を、図5(A)に示すように、取手25を操作して装置固定用第2外筒部30から引き抜く方向の上方Uに引き上げ、検体収集用第1外筒部20の下端(検体受け皿24)を対象物Tから離間させ、当該対象物Tとの間に空間を作る。
【0053】
(3)水噴射部35の噴射ボタン32cを操作して、給水管31から給水された水Wを、ノズル34を介して対象物T上の空間に噴射Wsし、当該対象物Tを湿潤化Wpさせる。
【0054】
(4)掘削用内筒部10および検体収集用第1外筒部20を、図5(B)に示すように、取手25を操作して装置固定用第2外筒部30に挿し込む方向の下方Dに押し下げ、検体収集用第1外筒部20の下端(検体受け皿24)を、湿潤化Wpされた対象物Tの表面に当接(密着)させる。
【0055】
(5)掘削用内筒部10のハンドル12のグリップ13を、下方Dへ押し下げながら連続的に回転Rさせ、掘削部11により対象物Tを掘削Hし、検体収集用第1外筒部20の下段外筒部22に囲まれる密閉空間に検体としての掘削物Saを発生させる。
【0056】
この際、掘削Hにより発生した掘削物(検体)Saは、例えば微小な欠片でも湿潤化Wpされて質量が増しているので、その多くが掘削部11の回転とその遠心力とに応じて上方に引き上げられながら当該掘削部11から放射状に飛散すると共に、下段外筒部22の内周面(第1内周面)に沿って検体受け皿24に落下し、同検体受け皿24に採取される。
【0057】
なお、検体受け皿24まで到達しない掘削物(検体)Saは、掘削部11ないし下段外筒部22の内周面(第1内周面)に付着した状態で保持(採取)される。
【0058】
また、検体収集用第1外筒部20の下段外筒部22に囲まれる密閉空間は、その下方側では、当該下段外筒部22の下端(検体受け皿24)が対象物T上に当接(密着)し、その上方側では、掘削用内筒部10の外周面との隙間を二段のOリング15a,15bが密閉し、その密閉状態が維持されるので、掘削により飛散した掘削物(検体)Saが外部に漏れ出るのは確実に防止される。
【0059】
(6)掘削用内筒部10を回転Rさせながら下方Dへ押し下げたその押し下げ量に基づいて、対象物Tを掘削した掘削物(検体)Saがある程度の量で発生していることが確認されると、掘削物(検体)Saが採取ないしは付着している検体収集用第1外筒部20および掘削用内筒部10を、当該検体収集用第1外筒部20に掘削用内筒部10が組み合わされたままの状態で装置固定用第2外筒部30から上方へゆっくりと引き抜き、図6に示すように、その下端側を少なくとも検体収集用第1外筒部20の下段外筒部22が含まれるようにチャック(登録商標)J付きの検査用の密封バッグBAにゆっくりと格納する。
【0060】
(7)密封バッグBAのチャックJを閉めて掘削用内筒部10および検体収集用第1外筒部20の下端側を当該バッグBA内に密封し、検体受け皿24や下段外筒部22の内周面(第1内周面)および掘削部11に採取され付着している掘削物(検体)Saを、密封バッグBA内に振り落として収集する。
【0061】
なお、掘削用内筒部10の掘削部11を含む下端と、検体収集用第1外筒部20の下段外筒部22を含む下端とを、順次個別に密封バッグBAに格納し、その各々から掘削物(検体)Saを密封バッグBA内に振り落として収集してもよい。
【0062】
(8)この後、掘削用内筒部10および検体収集用第1外筒部20を装置固定用第2外筒部30に再び挿し込んで組み合わせ、対象物Tに対する三脚部(サクションリフタ)37a~37cの固定を解除することで、建造物検体採取装置1による一つの現場の検体Saの採取を終了する。
【0063】
(実施形態のまとめ)
実施形態の建造物検体採取装置1によれば、装置全体の大きさは、作業者が容易に持ち運び可能な幅200mm程度×高さ500mm程度の大きさであって、その装置固定用第2外筒部30を手動の三脚部(サクションリフタ)37a~37cにより検体採取の対象とする対象物T上に固定し、装置固定用第2外筒部30が有する手動の水噴射部35を操作して対象物Tを湿潤化Wpさせる。掘削用内筒部10のハンドル12を下方Dへ押し下げながら回転Rさせることで掘削部11により対象物Tを掘削Hし、検体収集用第1外筒部20に囲まれる密閉空間に検体としての掘削物Saを発生させる。掘削Hにより発生した掘削物(検体)Saは、掘削部11から放射状に飛散すると共に、検体収集用第1外筒部20の内周面(第1内周面)に沿って検体受け皿24に落下して採取される。
【0064】
そして、掘削物(検体)Saが採取ないしは付着している検体収集用第1外筒部20および掘削用内筒部10を、装置固定用第2外筒部30から引き抜き、その下端側をチャックJ付きの密封バッグBAに格納して密封する。検体収集用第1外筒部20の検体受け皿24やその内周面および掘削部11に付着している掘削物(検体)Saを、密封バッグBA内に振り落として収集する。
【0065】
従って、ハンマー、ノミ、カッターナイフ、霧吹き、ビニールシートなどの個別の道具を使用することなく、また掘削部11を露出させることなく、検体収集用第1外筒部20に囲まれる密閉空間にて対象物Tを湿潤化Wpし、ハンドル12の回転Rにより掘削物(検体)Saを発生させて採取できる。
【0066】
よって、怪我の発生や疲労の蓄積、複数の現場毎に個別の道具を持ち運んで作業を行なうことによる作業効率の低下を招くことなく、動力を要さず、容易且つ安全に検体を採取することが可能になる。
【0067】
なお、建造物検体採取装置1の検体収集用第1外筒部20および装置固定用第2外筒部30は、透明あるいは半透明の硬質プラスチックを用いて構成することで、給水管31における水Wの状態に加えて、検体収集用第1外筒部20の下段外筒部22に囲まれる密閉空間における対象物Tの湿潤化Wpに伴う水Wの噴射Wsの状態や対象物Tの掘削Hに伴う掘削物(検体)Saの発生の状態を、作業者が目視で確認できる構成としてもよい。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1…建造物検体採取装置、10…掘削用内筒部、11…掘削部、12…ハンドル、13…グリップ、15a,15b…Oリング、20…検体収集用第1外筒部、21…上段外筒部、22…下段外筒部、24…検体受け皿、25…取手、30…装置固定用第2外筒部、31…給水管、31a…ゴムキャップ、32…水噴射用ピストン部、33…水噴射用貯水部、34…ノズル、35…水噴射部、36…密着台、37a~37c…三脚部(サクションリフタ)、T…対象物、W…水、Ws…噴射、Wp…湿潤化、H…掘削、Sa…掘削物(検体)、BA…密封バッグ。

図1
図2
図3
図4
図5
図6