IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シンワ株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人愛媛大学の特許一覧 ▶ 愛媛県の特許一覧

特開2023-157251合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法
<>
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図1
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図2
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図3
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図4
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図5
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図6
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図7
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図8
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図9
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図10
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図11
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図12
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図13
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図14
  • 特開-合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157251
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/263 20060101AFI20231019BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20231019BHJP
   D06M 15/233 20060101ALI20231019BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20231019BHJP
【FI】
D06M15/263
D01D5/04
D06M15/233
D04H1/728
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067036
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】595031775
【氏名又は名称】シンワ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(71)【出願人】
【識別番号】592134583
【氏名又は名称】愛媛県
(74)【代理人】
【識別番号】100142217
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 宜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100119367
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 理
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大道
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀教
(72)【発明者】
【氏名】永峰 圭
(72)【発明者】
【氏名】塩見 健太
【テーマコード(参考)】
4L033
4L045
4L047
【Fターム(参考)】
4L033AA05
4L033AB01
4L033AC15
4L033CA13
4L033CA18
4L045AA01
4L045AA08
4L045BA34
4L047AA13
4L047AA17
4L047AA19
4L047AB08
(57)【要約】
【課題】合成樹脂における後処理が不要な新たな表面修飾技術を提案し、当該技術を適用した、合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法を提供する。
【解決手段】溶液から溶媒を気化させて溶質成分からなる合成繊維を製造する工程を含む合成繊維の製造方法において、溶液は、溶媒に対して溶解しやすい性質を有する第1の成分と溶媒に対して溶解しにくい性質を有する第2の成分とが結合した第3の成分を含み、第3の成分が繊維表面近傍に局在するよう、且つ、第1の成分が第2の成分の繊維表面からの離脱を防ぐアンカーとして機能するよう、溶液から溶媒を気化させるようにする。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液から溶媒を気化させて溶質成分からなる合成繊維を製造する工程を含む合成繊維の製造方法であって、
前記溶液は、
前記溶媒に対して溶解しやすい性質を有する第1の成分と前記溶媒に対して溶解しにくい性質を有する第2の成分とが結合した第3の成分を含み、
前記第3の成分が繊維表面近傍に局在するよう、且つ、前記第1の成分が前記第2の成分の繊維表面からの離脱を防ぐアンカーとして機能するよう、前記溶液から前記溶媒を気化させることを特徴とする合成繊維の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の合成繊維の製造方法であって、
前記第3の成分がブロック共重合体であることを特徴とする合成繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の合成繊維の製造方法であって、
前記第2の成分の重合度を調整することで表面修飾の機能を制御することを特徴とする合成繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の合成繊維の製造方法であって、
前記第3の成分の前記溶液における濃度を調整することで表面修飾の機能を制御することを特徴とする合成繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の合成繊維の製造方法であって、
前記ブロック共重合体を構成する、第1の成分がポリスチレンであり、第2の成分がポリアクリル酸であり、
前記溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミドであり、
前記溶液は、ポリフッ化ビニリデンを含むことを特徴とする合成繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載の合成繊維の製造方法であって、
エレクトロスピニング法を用いて、前記溶液から前記溶媒を気化させて合成繊維を製造することを特徴とする合成繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一に記載の合成繊維の製造方法によって製造された合成繊維。
【請求項8】
請求項7に記載の合成繊維からなる不織布。
【請求項9】
溶媒に対して溶解しやすい性質を有する第1の成分と前記溶媒に対して溶解しにくい性質を有する第2の成分とが結合した第3の成分を含む溶液から、前記第3の成分が樹脂表面近傍に局在するよう、且つ、前記第1の成分が前記第2の成分の樹脂表面からの離脱を防ぐアンカーとして機能するよう、前記溶媒を気化させることを特徴とする合成樹脂の表面修飾方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面修飾が施された合成繊維の製造方法、表面修飾が施された合成繊維、表面修飾が施された不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙や不織布、ナノファイバー(以下、「NF」と表記することがある。)、フィルム等は、多くの場合、加工適性向上や機能性付与のために、表面修飾処理が行われている。例えば特許文献1には、NFに親水性を付与するために、プラズマ処理、コロナ放電、電子線照射、又は、レーザー照射により、表面修飾処理を行うことが開示されている。これらの方法は、合成樹脂素材を形成後に行うもので、大掛かりな設備が必要で作業工程が多く非効率であった。
【0003】
本発明者らが知っている文献の一つに特許文献2がある。特許文献2には、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と表記することがある。)を選択肢の一つとして有する溶媒に、ポリビニリデンフッ化物、ポリスチレン(以下、「PS」と表記することがある。)、ポリアクリル酸(以下、「PAA」と表記することがある。)の組み合わせを選択肢の一つとして有する溶質を混合した溶液からエレクトロスピニング法により紡糸する工程が開示されている。しかし、この文献には、表面修飾機能の発現やブロック共重合体についての言及はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/212544号
【特許文献2】中国特許出願公開第105568556号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一の目的は、合成樹脂における後処理が不要な新たな表面修飾技術を提案し、当該技術を適用した、合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法を提供することにある。特に、繊維径や機械的特性を殆ど変化させずに効率よく表面修飾機能を付与できる合成繊維の製造方法及び合成樹脂の表面修飾方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述した目的を達成するために、様々な観点から鋭意研究を重ねてきた。その結果、定量可能で構造が明確な分散安定剤を開発した経験を元に、(1)DMFとポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」と表記することがある。)とPS-PAAブロック共重合体(PS成分とPAA成分とのブロック共重合体)との混合溶液から、エレクトロスピニング法によりNFを紡糸することが可能であること、そして、(2)得られたNFにおいて、PS及びPAAのそれぞれを単体で添加した場合には見られない表面修飾機能(接触角の変化)が発現することを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。なお、エレクトロスピニング法によりNFを紡糸するには、紡糸適性を高めるために溶媒に溶質が溶けた状態の溶液を使用して紡糸するのが通常であり、PAAがDMFに溶けにくい成分であること、及び、これに起因して、PS-PAAブロック共重合体の添加量が増えるにつれて溶液が白濁化(完全に溶解していないことを示す)していくことから、この溶液を使用してエレクトロスピニング法によりNFを紡糸することを着想することは容易ではない。
【0007】
本発明の第1の側面に係る合成繊維の製造方法は、溶液から溶媒を気化させて溶質成分からなる合成繊維を製造する工程を含む合成繊維の製造方法であって、前記溶液は、前記溶媒に対して溶解しやすい性質を有する第1の成分と前記溶媒に対して溶解しにくい性質を有する第2の成分とが結合した第3の成分を含み、前記第3の成分が繊維表面近傍に局在するよう、且つ、前記第1の成分が繊維表面からの前記第2の成分の離脱を防ぐアンカーとして機能するよう、前記溶液から前記溶媒を気化させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第2の側面に係る合成繊維の製造方法は、前記第3の成分がブロック共重合体であることを特徴とする。
【0009】
さらにまた、本発明の第3の側面に係る合成繊維の製造方法は、前記第2の成分の重合度を調整することで表面修飾の機能を制御することを特徴とする。
【0010】
さらにまた、本発明の第4の側面に係る合成繊維の製造方法は、前記第3の成分の前記溶液における濃度を調整することで表面修飾の機能を制御することを特徴とする。
【0011】
さらにまた、本発明の第5の側面に係る合成繊維の製造方法は、前記ブロック共重合体を構成する、第1の成分がポリスチレンであり、第2の成分がポリアクリル酸であり、前記溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミドであり、前記溶液は、ポリフッ化ビニリデンを含むことを特徴とする。
【0012】
さらにまた、本発明の第6の側面に係る合成繊維の製造方法は、エレクトロスピニング法を用いて、前記溶液から前記溶媒を気化させて合成繊維を製造することを特徴とする。
【0013】
さらにまた、本発明の第7の側面に係る合成繊維は、前記本発明の第1の側面から第6の側面のいずれか一に係る合成繊維の製造方法によって製造されていることを特徴とする。
【0014】
さらにまた、本発明の第8の側面に係る不織布は、前記本発明の第7の側面に係る合成繊維からなることを特徴とする。
【0015】
さらにまた、本発明の第9の側面に係る合成樹脂の表面修飾方法は、溶媒に対して溶解しやすい性質を有する第1の成分と前記溶媒に対して溶解しにくい性質を有する第2の成分とが結合した第3の成分を含む溶液から、前記第3の成分が樹脂表面近傍に局在するよう、且つ、前記第1の成分が樹脂表面からの前記第2の成分の離脱を防ぐアンカーとして機能するよう、前記溶媒を気化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、合成樹脂における後処理が不要な新たな表面修飾技術を適用した、合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法、特に、繊維径や機械的特性を殆ど変化させずに効率よく表面修飾機能を付与できる合成繊維の製造方法及び合成樹脂の表面修飾方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】得られた生成物の形態観察の結果を示す、(A)(PVDF)NF不織布、(B)(PVDF+PS38-PAA120(15wt%))NF生成物、(C)(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF生成物の走査型電子顕微鏡(以下、略語として「SEM」と表記することがある。)写真である。なお、以下においても、例えばA成分とB成分とのブロック共重合体を単にA-Bと表記することがある。また、例えばC成分とD成分とからなるNFを「(C+D)NF」と表記することがあり、NFからなる不織布であることが未確認のものを「NF生成物」と表記することがある。さらに、重合度がmのポリマーA成分のことを「A」と表記することがある。
図2】接触角測定の結果であって、(A)は、未処理及びアルカリ(pH11)処理後での、(PVDF+PS38-PAA120)NF不織布及び(PVDF+PS38-PAA210)NF不織布におけるPS-PAAの添加量と接触角との相関を示すグラフであり、(B)は、グラフ上のその位置におけるNFの説明に供する、液滴の模式図と、NFの表面から露出したPAAの官能基の化学式を示す図であり、(C)は、グラフ上のその位置におけるNFの説明に供する、液滴の模式図と、NFの表面から露出したPAAの官能基の化学式を示す図である。以下においても、pH11のアルカリ水溶液に浸漬する処理を「アルカリ(pH11)処理」と表記することがある。
図3】フーリエ変換赤外分光法(以下、略語として「FT-IR」と表記することがある。)分析の結果であって、(A)は、上から順に、(PVDF)NF不織布のFT-IRスペクトル、(PS38-PAA210)粉末のFT-IRスペクトル、未処理の(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトル、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトルであり、(B)(C)は、それぞれ、スペクトル上のその位置における、表面から露出したPAAの官能基の化学式を示す図である。
図4】(A)は、サンプルの説明図であり、(B)は、FT-IR分析の結果であって、上から順に、未処理の(PVDF+PAA70(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトル、未処理の(PVDF+PAA350(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトル、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PAA350(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトルである。
図5】(A)は、サンプルの説明図であり、(B)は、FT-IR分析の結果であって、上から順に、未処理の(PVDF+PS45(7.5wt%)+PAA350(7.5wt%))NF不織布のFT-IRスペクトル、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PS45(7.5wt%)+PAA350(7.5wt%))NF不織布のFT-IRスペクトルである。
図6】未処理及びアルカリ(pH11)処理後における接触角測定の結果であって、(A)は、PSの重合度と接触角の変化量との相関を示すグラフであり、(B)は、PAAの重合度と接触角の変化量との相関を示すグラフである。
図7】接触角測定の結果であって、(A)は、未処理の(PVDF+PS-PAA)NF不織布のPS-PAAの添加量と接触角の変化量との相関を示すグラフであり、(B)は、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PS-PAA)NF不織布のPS-PAAの添加量と接触角の変化量との相関を示すグラフである。
図8】湿度条件を変えて作製した(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布の形態観察の結果を示す、(A)相対湿度30%で作製したNFのSEM写真であり、(B)相対湿度50%で作製したNF不織布のSEM写真であり、(C)相対湿度70%で作製したNF不織布のSEM写真である。
図9】30%、50%、70%の湿度条件で作製したNF不織布の接触角測定の結果であって、左から順に、酸(pH3)処理後の接触角、未処理の接触角、アルカリ(pH11)処理後の接触角を示すグラフである。
図10】(A)(B)は、FT-IR分析の結果であって、(A)は、未処理の(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトルであり、(B)は、未処理、酸(pH3)処理、中性(pH6)処理、アルカリ(pH11)処理、アルカリ(pH11)⇒酸(pH3)処理、及び、アルカリ(pH11)⇒酸(pH3)⇒アルカリ(pH11)処理を行った、(A)の丸印箇所を拡大して示すFT-IRスペクトルであり、(C)(D)は、それぞれ、(B)のスペクトル上のその位置における、表面から露出したPAAの官能基の化学式を示す図である。以下においても、pH3の酸性水溶液に浸漬する処理を「酸(pH3)処理」と表記し、pH6の蒸留水に浸漬する処理を「中性(pH6)処理」と表記することがある。
図11】pH処理後の(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布の形態観察の結果を示す、(A)未処理のNF不織布のSEM写真であり、(B)酸(pH3)処理後のNF不織布のSEM写真であり、(C)中性(pH6)処理後のNF不織布のSEM写真であり、(D)アルカリ(pH11)処理後のNF不織布のSEM写真である。
図12】(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布の形態観察の結果を示す、(A)アルカリ(pH11)処理のみでCuSO処理を行わなかったNF不織布のSEM写真であり、(B)アルカリ(pH11)処理後にCuSO処理を行ったNF不織布のSEM写真であり、(C)アルカリ(pH11)処理を行わないでCuSO処理のみを行ったNF不織布のSEM写真である。以下においても、硫酸銅水溶液に浸漬する処理を「CuSO処理」と表記することがある。
図13】エネルギー分散型X線分析装置による元素分析の結果であって、図12に対応する、(A)アルカリ(pH11)処理のみでCuSO処理を行わなかったNF不織布の定性分析チャートであり、(B)アルカリ(pH11)処理後にCuSO処理を行ったNF不織布の定性分析チャートであり、(C)アルカリ(pH11)処理を行わないでCuSO処理のみを行ったNF不織布の定性分析チャートである。
図14】引張圧縮試験機による引張試験の結果を示すグラフである。
図15】(PVDF+PS-PAA)NFにおいて表面修飾が実現するメカニズムの説明図であって、(A)は、表面修飾機能を発現しない(PVDF)NFの説明図であり、(B)は、表面修飾機能を発現する(PVDF+PS-PAA)NFの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(概要)
本発明は、溶液から溶媒を気化させて溶質成分からなる合成繊維を製造する工程を含む合成繊維の製造方法において、溶液が、溶媒に対して溶解しやすい性質を有する第1の成分と溶媒に対して溶解しにくい性質を有する第2の成分とが結合した第3の成分を含み、第3の成分が繊維表面近傍に局在するよう、且つ、第1の成分が繊維表面からの第2の成分の離脱を防ぐアンカーとして機能するよう、溶液から溶媒を気化させるようにすることで、合成樹脂における後処理が不要な新たな表面修飾技術を適用した、合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法、特に、繊維径や機械的特性を殆ど変化させずに効率よく表面修飾機能を付与できる合成繊維の製造方法及び合成樹脂の表面修飾方法を提供することができるというものである。
【0019】
このような製造方法によって表面修飾機能を発現する合成繊維及び合成樹脂を提供できる根拠は、主として、DMFを溶媒として、PS-PAAブロック共重合体及びPVDFを含む溶質を添加してなる溶液でエレクトロスピニング法によってNFを作製し、そのNFを評価することで帰納的に導くことができる。そのため、本明細書においては、その根拠となる以下に示す1.~6.の実験結果及び評価を示したうえで、帰納的に導かれる、合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法について説明する。
【0020】
1.DMFとPVDFとPS-PAAブロック共重合体との混合溶液から、エレクトロスピニング法により、(PVDF+PS-PAA)NFを紡糸できること
2.(PVDF+PS-PAA)NFでは、(PVDF+PAA)NFや(PVDF+PS+PAA)NFでは見られない表面修飾が実現すること
3.PS-PAA添加による表面修飾において、接触角の変化量はPAAの重合度及び添加量に依存すること
4.紡糸時の湿度条件が、形成されるNF表面に露出する官能基(表面修飾機能の発現)に影響すること
5.PS-PAA添加による表面修飾において、表面修飾機能を高機能化できること
6.PS-PAA添加による表面修飾によって、NF不織布の機械的特性への悪影響は見られないこと
【0021】
なお、PVDFは、次式で示される化合物である。
【0022】
【化1】
【0023】
また、PSは、次式で示される化合物である。
【0024】
【化2】
【0025】
また、PAAは、次式で示される化合物である。
【0026】
【化3】
【0027】
また、PS-PAAブロック共重合体は、次式で示される化合物である。
【0028】
【化4】
【0029】
(1.DMFとPVDFとPS-PAAブロック共重合体との混合溶液から、エレクトロスピニング法により、(PVDF+PS-PAA)NFを紡糸できること)
【0030】
以下の実験方法及び評価により、DMFとPVDFとPS-PAAブロック共重合体との混合溶液から、エレクトロスピニング法により、(PVDF+PS-PAA)NFを紡糸できることが明らかとなった。
[実験方法]
〈サンプルの作製〉
【0031】
13mL容のガラス瓶にDMF(富士フイルム和光純薬株式会社製)9.0gを量り取り、テトラブチルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社製)0.010g、合成したPS-PAAブロック共重合体を所定量加え、ポリテトラフルオロエチレン被覆撹拌子を入れて500rpmにて撹拌・溶解した。
【0032】
その後、撹拌子を取り除いてPVDF(SOLVAY社製 SOLEF21216)1.0gを加え、回転架台(日陶科学株式会社製 ANZ-10S)にて一晩回転・溶解し、紡糸溶液を調製した。
【0033】
調製した溶液をプラスチック製シリンジに充填し、ナノファイバー不織布製造装置(株式会社メック製 NF-103)にて、供給量1.5mL/h(使用ノズル内径0.41mm)、印加電圧25kV、ノズル-コレクター間距離160mm、ノズル移動速度30mm/s及び移動幅100mmとし、帯電防止処理を施したポリプロピレン製スパンボンド不織布(目付60g/m)を表面に固定したドラムコレクター(回転数120rpm)上に2時間紡糸し、PS-PAAを添加した生成物を得た。
【0034】
また、PS-PAAを加えないこと以外は同じ方法にて溶液を調製して紡糸し、PVDF NF不織布(BLANK)を得た。
【0035】
サンプルは、PS-PAAブロック共重合体の添加量が、PVDF(1.0g)に対して、1wt%(0.010g)、5wt%(0.050g)、15wt%(0.15g)となる3種類、重合度の組み合わせパターンの観点から、次の表1に示す2種類を用意し、合計6種類作製した。なお、以下において、PSの重合度がn、PAAの重合度がmのPS-PAAブロック共重合体をPS-PAAブロック共重合体と表記する。
【表1】
【0036】
PVDFを使用したのは、紡糸実績がある(紡糸適性が良い)という点で、少なくともPVDFだけであれば、NFが形成できることが明らかであるからである。なお、PAAは溶媒であるDMFに溶解しにくいという性質がある一方、PSは溶媒であるDMFに溶解しやすい性質を有する。また、PAAを選択したのは、酸解離定数pKaが4.58であり、PAAによる表面修飾が実現した場合、NF表面に露出したPAAの次式で示されるカルボキシ基(以下、「COOH」という。)が、
【0037】
【化5】
塩基性条件ではイオン化し、次式で示されるカルボキシラートアニオン(以下、「COO」という。)になるため、疎水性を示す生成物のアルカリ処理による親水性への変化を以て、表面修飾が実現できたかを評価できるからである。
【0038】
【化6】
〈SEMによる形態観察〉
【0039】
形態観察として、得られた生成物に予め白金蒸着を施した後に低真空走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JSM-IT300LA、以下、「SEM」という。)にて観察した。
[結果及び評価]
【0040】
図1は、得られた生成物の形態観察の結果を示す、(A)(PVDF)NF不織布、(B)(PVDF+PS38-PAA120(15wt%))NF生成物、(C)(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF生成物のSEM写真である。図1に示すように、(B)(PVDF+PS38-PAA120(15wt%))NF生成物、(C)(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF生成物のSEM写真は、NF不織布であることが明らかな(A)(PVDF)NF不織布のSEM写真と同様のものとなった。このことから、DMFとPVDFとPS-PAAブロック共重合体からなる溶液から、エレクトロスピニング法により、(PVDF+PS-PAA)NFを紡糸できることが確認できた。
【0041】
(2.(PVDF+PS-PAA)NFでは、(PVDF+PAA)NFや(PVDF+PS+PAA)NFでは見られない表面修飾が実現すること)
[実験方法]
〈接触角測定〉
【0042】
得られたNF不織布((PVDF+PS-PAA)NF不織布)をスライドガラス(大きさ:26×76mm)に両面テープで固定し、200mL容のトールビーカーに1.0×10-3mol/L水酸化ナトリウム水溶液(pH11)を加えてスライドガラスを全面浸漬し、5分間静置した。その後に取り出し、50℃で1時間乾燥後、NF不織布表面の接触角を固液界面解析システム(協和界面科学株式会社製 DropMaster300)により、液滴を滴下して5秒後に測定した。
〈FT-IR分析〉
【0043】
表面修飾剤であるブロック共重合体PS-PAA単体や得られたPVDF NF不織布、PS-PAAを添加したPVDF NF不織布、及びPS-PAAを添加したPVDF NF不織布をアルカリ(pH11)処理したものの構造解析として、フーリエ変換赤外分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製 Nicolet6700)を用いてATR法により測定した。
〈(PVDF+PAA)NF不織布の接触角測定及びFT-IR分析〉
【0044】
ブロック共重合体であるPS-PAAの代わりにホモポリマーであるPAA(富士フイルム和光純薬株式会社製 平均分子量約5,000(重合度70)及び富士フイルム和光純薬株式会社製 平均分子量約25,000(重合度350))を0.15g(対PVDF 15wt%)加えること以外は[0031]~[0033]段落記載のサンプルの作製方法と同じ方法にて溶液を調製して2時間紡糸し、PAAを添加したPVDF NF不織布を得た。
【0045】
また、得られたNF不織布について、[0042]段落記載の接触角測定方法と同じ方法でアルカリ(pH11)処理を行い、接触角を測定した。
【0046】
さらに、得られたNF不織布について、PAA(平均分子量約5,000(重合度70)及び平均分子量約25,000(重合度350)の2種類)を添加したPVDF NF不織布、及びPAAを添加したPVDF NF不織布をアルカリ(pH11)処理したものの構造解析として、[0043]段落記載のFT-IR分析方法と同じ方法で測定した。
〈(PVDF+PS+PAA)NF不織布の接触角測定及びFT-IR分析〉
【0047】
ブロック共重合体であるPS-PAAの代わりにホモポリマーである合成したPS(分子量4,700(重合度45))及びPAA(富士フイルム和光純薬株式会社製 平均分子量約25,000(重合度350))を、それぞれの添加量が、PVDF(1.0g)に対して、5wt%(0.050g)、7.5wt%(0.075g)となるよう加えること以外は[0031]~[0033]段落記載のサンプルの作製方法と同じ方法にて溶液を調製して2時間紡糸し、PS及びPAAを添加したPVDF NF不織布を得た。
【0048】
また、得られたNF不織布について、[0042]段落記載の接触角測定方法と同じ方法でアルカリ(pH11)処理を行い、接触角を測定した。
【0049】
さらに、得られたNF不織布について、PS(分子量4,700(重合度45))及びPAA(平均分子量約25,000(重合度350))を添加したPVDF NF不織布、及びPS及びPAAを添加したPVDF NF不織布をアルカリ(pH11)処理したものの構造解析として、[0043]段落記載のFT-IR分析方法と同じ方法で測定した。
[結果及び評価]
〈(PVDF+PS-PAA)NF不織布〉
【0050】
図2は、接触角測定の結果であって、(A)は、未処理及びアルカリ(pH11)処理後での、(PVDF+PS38-PAA120)NF不織布及び(PVDF+PS38-PAA210)NF不織布におけるPS-PAAの添加量と接触角との相関を示すグラフであり、(B)(C)は、それぞれ、グラフ上のその位置における液滴の模式図と、NFの表面から露出したPAAの官能基の化学式を示す図である。
【0051】
図2に示すように、(PVDF+PS38-PAA120)NF不織布、(PVDF+PS38-PAA210)NF不織布のどちらも、アルカリ(pH11)処理後に、接触角が小さくなった。また、どちらも、PS-PAAの添加量が多くなるにつれて、接触角が小さくなった。特に、(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布については、接触角が大きく減少した。図2(A)において、グラフ上の位置(B)、すなわち、アルカリ(pH11)処理前の(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布は、図2(B)に示すように、接触角が大きく、疎水性を示した。一方、図2(A)において、グラフ上の位置(C)、すなわち、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NFは、図2(C)に示すように、接触角が大きく減少し、親水性の性質が表れた。
【0052】
図3は、FT-IR分析の結果であって、(A)は、上から順に、(PVDF)NF不織布のFT-IRスペクトル、(PS38-PAA210)粉末のFT-IRスペクトル、未処理の(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトル、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトルであり、(B)(C)は、それぞれ、スペクトル上のその位置における、表面から露出したPAAの官能基の化学式を示す図である。
【0053】
図3に示すように、(PVDF)NF不織布のFT-IRスペクトルでは見られなかったPAAの官能基であるCOOHの存在を示す1710cm-1付近のピーク(図3(B)の位置)が、(PS38-PAA120)粉末のFT-IRスペクトル、未処理の(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトル、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトルには表れた。また、未処理の(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトル、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトルには、PAAの官能基が変化したCOOの存在を示す1570cm-1付近のピーク(図3(C)の位置)が表れた。さらに、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトルにおけるCOOの存在を示すピークは、未処理の対応するピークよりも深くなっており、アルカリ(pH11)処理によって、COOHピークの一部がCOOのピーク位置にシフトしたと考えられる。
【0054】
これらのことから、少なくとも(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布では、PAA成分がNFの表面から露出しており、このPAA成分の官能基が、アルカリ処理により、COOH(図2(B)又は図3(B)の状態)から、COO図2(C)又は図3(C)の状態)に変化したために、接触角測定では接触角が大きく減少し、FT-IR分析ではCOOHピークの一部がCOOのピーク位置にシフトしたと考えられる。仮に、PAA成分がNFの中に埋没しているのであれば、アルカリ(pH11)処理によっても、接触角測定で接触角が大きく減少したり、FT-IR分析でCOOHピークの一部がCOOのピーク位置にシフトしたりすることは見込めない。
【0055】
したがって、[0031]~[0033]段落記載のサンプルの作製方法により、(PVDF+PS-PAA)NFにおいて、PAAによる表面修飾が実現したものと考えられる。
〈(PVDF+PAA)NF不織布〉
【0056】
表2は、(PVDF+PAA)NF不織布における接触角測定の結果である。なお、表2には、対比のため、(PVDF)NF不織布の接触角測定の結果も掲載している。
【表2】
【0057】
表2に示すように、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PAA70(15wt%))NF不織布の接触角及び(PVDF+PAA350(15wt%))NF不織布の接触角は、(PVDF)NF不織布の接触角と同程度であった。
【0058】
図4(A)は、サンプルが、PS-PAAブロック共重合体ではなく、PAA単体を添加したものであることを示す説明図であり、図4(B)は、FT-IR分析の結果であって、上から順に、未処理の(PVDF+PAA70(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトル、未処理の(PVDF+PAA350(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトル、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PAA350(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトルである。
【0059】
図4に示すように、PAA単体を添加したことにより、PAAの官能基であるCOOHの存在を示す1710cm-1付近のピークが、いずれのスペクトルにおいても表れた。また、アルカリ(pH11)処理をしても、(PVDF+PS-PAA)NF不織布において確認された、COOHピークの一部がCOOのピーク位置(1570cm-1付近)にシフトすることはなかった。
【0060】
これらのことから、NFの形成過程において、PAAはNF表面には存在せず、NFの中に埋没したものと考えられる。
【0061】
したがって、[0031]~[0033]段落記載のサンプルの作製方法において、PS-PAAブロック共重合体の代わりにPAA単体を添加するだけでは、表面修飾は実現できないと考えられる。
〈(PVDF+PS+PAA)NF不織布〉
【0062】
表3は、(PVDF+PS+PAA)NF不織布における接触角測定の結果である。なお、表3には、対比のため、(PVDF)NF不織布の接触角測定の結果も掲載している。
【表3】
【0063】
表3に示すように、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PS45(5wt%)+PAA350(5wt%))NF不織布の接触角及び(PVDF+PS45(7.5wt%)+PAA350(7.5wt%))NF不織布の接触角は、(PVDF)NF不織布の接触角と同程度であった。
【0064】
図5(A)は、サンプルが、PS-PAAブロック共重合体ではなく、PS単体とPAA単体を添加したものであることを示す説明図であり、図5(B)は、FT-IR分析の結果であって、上から順に、未処理の(PVDF+PS45(7.5wt%)+PAA350(7.5wt%))NF不織布のFT-IRスペクトル、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PS45(7.5wt%)+PAA350(7.5wt%))NF不織布のFT-IRスペクトルである。
【0065】
図5に示すように、PS単体を添加したことにより、PSの官能基であるベンゼン環の存在を示す700cm-1付近のピークが、PAA単体を添加したことにより、PAAの官能基であるCOOHの存在を示す1710cm-1付近のピークが、いずれのスペクトルにおいても表れた。また、アルカリ(pH11)処理をしても、(PVDF+PS-PAA)NF不織布において確認された、COOHピークの一部がCOOのピーク位置(1570cm-1付近)にシフトすることはなかった。
【0066】
これらのことから、NFの形成過程において、PAAはNF表面には存在せず、NFの中に埋没したものと考えられる。
【0067】
したがって、[0031]~[0033]段落記載のサンプルの作製方法において、表面修飾を実現するためには、ブロック共重合体の構造を有することが重要であることが明らかとなった。
【0068】
総合的に評価すると、(PVDF+PS-PAA)NFでは表面修飾が実現するのに対して、(PVDF+PAA)NFや(PVDF+PS+PAA)NFでは表面修飾機能が発現しないことから、図15(B)に示すように、PVDFを主成分とするNFの中で、PS-PAAブロック共重合体を構成する成分の各ポリマーのうち、PSがPAAを表面から離脱させないためのアンカーとして作用し、PAAをNFの表面に留まらせることにより、PAAによる表面修飾が実現したものと考えられる。
【0069】
(3.PS-PAA添加による表面修飾において、接触角の変化量はPAAの重合度及び添加量に依存すること)
【0070】
PAAによる表面修飾機能とPAAの重合度及びPS-PAAの添加量との相関に関する知見を得るため、以下の実験を行った。
[実験方法]
【0071】
PS-PAAブロック共重合体として、PS及びPAAのそれぞれの重合度が次の表4に示す組み合わせとなるよう、PS-PAAを合成し、それらを所定量添加して調製した溶液を2時間紡糸して得られたNF不織布について、[0042]段落記載の接触角測定方法と同じ方法でアルカリ(pH11)処理を行い、接触角を測定した。
【表4】
【0072】
サンプルは、PS-PAAブロック共重合体の添加量が、PVDF(1.0g)に対して、5wt%(0.050g)、15wt%(0.15g)となる2種類、前述の重合度の組み合わせパターンの観点から、6種類を用意し、合計12種類作製した。
[結果及び評価]
〈PS及びPAAの重合度と接触角との相関〉
【0073】
図6は、未処理及びアルカリ(pH11)処理後における接触角測定の結果であって、(A)は、PSの重合度と接触角の変化量との相関を示すグラフであり、(B)は、PAAの重合度と接触角の変化量との相関を示すグラフである。
【0074】
まず、PS-PAAブロック共重合体の添加量が5wt%及び15wt%のいずれも、アルカリ(pH11)処理によって接触角は小さくなったが、15wt%の方が、アルカリ(pH11)処理による接触角の変化量が大きくなった。
【0075】
アルカリ(pH11)処理による接触角の変化量が大きい、PS-PAAブロック共重合体の添加量が15wt%であってPSの重合度が共に38で同一である、(PVDF+PS38-PAA120(15wt%))NF不織布と(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布とを比較すると、PAAの重合度が大きい方が、アルカリ(pH11)処理による接触角の変化量が大きくなった。
【0076】
アルカリ(pH11)処理による接触角の変化量は、図6(A)に示すように、PSの重合度には依存せず、図6(B)に示すように、専ら、PAAの重合度に依存した。
〈PS-PAAの添加量と接触角との相関〉
【0077】
図7は、接触角測定の結果であって、(A)は、未処理の(PVDF+PS-PAA)NF不織布のPS-PAAの添加量と接触角の変化量との相関を示すグラフであり、(B)は、アルカリ(pH11)処理後の(PVDF+PS-PAA)NF不織布のPS-PAAの添加量と接触角の変化量との相関を示すグラフである。
【0078】
未処理では、図7(A)に示すように、PS-PAAの添加量によらず接触角が大きく、接触角の変化量はPS-PAAの添加量には依存しなかった。
【0079】
アルカリ(pH11)処理後では、図7(B)に示すように、PS-PAAの添加量が5wt%では無添加と差は見られないが、PS-PAAの添加量がそれより多くなると接触角は徐々に小さくなった。また、接触角の変化量は、PAAの重合度が大きくなるにつれて大きくなった。
【0080】
図7(B)に示すように、PS13-PAA450とPS29-PAA610との対比において、添加量と接触角との相関は同じような傾向となった。
【0081】
以上の結果から、アルカリ(pH11)処理による接触角の変化量がPAAの重合度及びPS-PAAの添加量に依存することが明らかとなった。言い換えると、前述した表面修飾が実現するメカニズムとも整合し、(PVDF+PS-PAA)NFにおいて、表面修飾機能の発現の程度をPAAの重合度及びPS-PAAの添加量によって調整できることが確認できた。
【0082】
(4.紡糸時の湿度条件が、形成されるNF表面に露出する官能基(表面修飾機能の発現)に影響すること)
【0083】
紡糸時の湿度条件がPAAによる表面修飾機能に与える影響を評価するため、以下の実験を行った。
[実験方法]
【0084】
[0031]~[0033]段落記載のサンプルの作製方法と同じ方法で、PS29-PAA610を0.15g(対PVDF 15wt%)添加して溶液を調製し紡糸した。その際、ナノファイバー不織布製造装置内を除湿器あるいは加湿器を用いて湿度を調整し、相対湿度30%(25~30%で調整)、50%(45~55%で調整)、70%(65~70%で調整)それぞれにおいて1時間紡糸(温度は21~23℃の範囲)し、NF不織布を得た。
【0085】
[0039]段落記載のSEMによる形態観察と同様に、得られたNF不織布について、SEMにて形態観察を行った。
【0086】
また、この不織布に対し、1.0×10-3mol/L塩酸(pH3)、1.0×10-3mol/L水酸化ナトリウム水溶液(pH11)を用い、[0042]段落記載の接触角測定と同じ方法で、酸(pH3)処理及びアルカリ(pH11)処理を行った後、接触角を測定した。
[結果及び評価]
【0087】
図8は、湿度条件を変えて作製した(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布の形態観察の結果を示す、(A)相対湿度30%で作製したNF不織布のSEM写真であり、(B)相対湿度50%で作製したNF不織布のSEM写真であり、(C)相対湿度70%で作製したNF不織布のSEM写真である。
【0088】
図8に示すように、若干の繊維径の増大は見られるものの、湿度が変わっても、NFの形態に大きな違いは見られなかった。
【0089】
図9は、30%、50%、70%の湿度条件で作製したNFの接触角測定の結果であって、左から順に、酸(pH3)処理後の接触角、未処理の接触角、アルカリ(pH11)処理後の接触角を示すグラフである。
【0090】
図9に示すように、接触角は、pH3、未処理では、湿度による違いは見られなかったが、pH11では、湿度30%においてのみ小さくなった。
【0091】
このことは、紡糸時の湿度条件がPAAによる表面修飾機能に大きく影響を与えることを意味する。紡糸の際、湿度が低いときに表面修飾機能が発現したことから、表面修飾には溶媒が揮発する動きが効いていると考えられる。例えば、溶媒が揮発してNFが形成される過程において、湿度条件によっては、PS-PAAブロック共重合体がNF外に移動する流れができ、PS-PAAブロック共重合体のうち、溶媒であるDMFに溶けやすい性質を有するPS成分がNFの表面近傍においてアンカーとして機能するため、PS-PAAブロック共重合体がNFの表面から離脱することはないが、DMFの揮発の流れに伴ってNFの表面近傍に局在したPS-PAAブロック共重合体のDMFに溶けにくいPAA成分が表面から露出して表面修飾が実現すると考えられる。言い換えると、PS-PAAブロック共重合体がNFの表面近傍に局在するよう、且つ、PSがPAAのNFの表面からの離脱を防ぐアンカーとして機能するよう、DMFを気化させることでPAAによる表面修飾を実現できると考えられる。
【0092】
(5.PS-PAA添加による表面修飾において、表面修飾機能を高機能化できること)
【0093】
PS-PAA添加によって発現した表面修飾に対して、後工程によって付与できる表面修飾機能に関する知見を得るため、以下の実験を行った。
[実験方法]
〈pH処理及び接触角測定並びにFT-IR分析〉
【0094】
[0031]~[0033]段落記載のサンプルの作製方法と同じ方法で、PS29-PAA610を0.15g(対PVDF 15wt%)添加して溶液を調製し、20分間紡糸してNF不織布を得た。
【0095】
この不織布に対し、1.0×10-3mol/L塩酸(pH3)、蒸留水(pH6)、1.0×10-3mol/L水酸化ナトリウム水溶液(pH11)を用い、[0042]段落記載の接触角測定と同じ方法で、未処理、酸(pH3)処理、中性(pH6)処理、アルカリ(pH11)処理、アルカリ(pH11)処理+酸(pH3)処理(以下、11⇒3と表記する。)、及び、アルカリ(pH11)処理+酸(pH3)処理+アルカリ(pH11)処理(以下、11⇒3⇒11と表記する。)を行った後、接触角を測定した。
【0096】
11⇒3では、アルカリ(pH11)処理後に50℃で1時間乾燥し、その後に酸(pH3)処理を行い、その後50℃で1時間乾燥した。
【0097】
11⇒3⇒11では、アルカリ(pH11)処理後に50℃で1時間乾燥し、その後に酸(pH3)処理を行い、その後50℃で1時間乾燥した後、アルカリ(pH11)処理後に50℃で1時間乾燥した。
【0098】
さらに、得られたNF不織布について、構造解析として、[0043]段落記載のFT-IR分析方法と同じ方法で測定した。
〈pH処理及び繊維径計測〉
【0099】
[0031]~[0033]段落記載のサンプルの作製方法と同じ方法で、PS29-PAA610を0.15g(対PVDF 15wt%)添加して得られたNF不織布をSEMにて倍率2万倍で観察し、撮影した画像内の繊維を無作為に10本抽出して、SEM付属の計測ツールを用いて繊維径を計測した(5視野で計50本)。観察対象のNF不織布は、[0095]段落記載の方法にて各pHで浸漬処理後のものを用いた。
〈金属イオン吸着試験〉
【0100】
[0031]~[0033]段落記載のサンプルの作製方法と同じ方法で、PS29-PAA610を0.15g(対PVDF 15wt%)添加して溶液を調製し、120分間紡糸してNF不織布を得た。
【0101】
この不織布に対し、[0042]段落記載の接触角測定と同じ方法で、1.0×10-3mol/L水酸化ナトリウム水溶液(pH11)を用い、アルカリ(pH11)処理を行った。その後、このアルカリ処理後の不織布を0.1mol/L硫酸銅水溶液に浸漬して水洗後50℃で乾燥した(以下、「CuSO処理」という。)。また、対照として、(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布に対して、アルカリ(pH11)処理のみでCuSO処理を行わない処理、及び、アルカリ(pH11)処理を行わないでCuSO処理のみを行う処理を行った。
【0102】
[0039]段落記載のSEMによる形態観察と同様に、得られたNF不織布について、SEMにて形態観察を行った。
【0103】
また、得られた不織布に対して、SEM付属のエネルギー分散型X線分析装置を用いて、元素分析を行った。
[結果及び評価]
〈pH処理及び接触角測定並びにFT-IR分析の結果及び評価〉
【0104】
表5は、(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布における接触角測定の結果である。
【表5】
【0105】
表5に示すように、(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布の接触角は、酸(pH3)処理後及び中性(pH6)処理後では大きく、アルカリ(pH11)処理後では小さくなった。
【0106】
また、アルカリ(pH11)処理後に小さくなった(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布の接触角は、酸(pH3)処理後には大きくなった。
【0107】
さらにまた、アルカリ(pH11)処理後に小さくなった(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布の接触角は、酸(pH3)処理後には大きくなり、再度アルカリ(pH11)処理後には小さくなった。
【0108】
図10(A)(B)は、FT-IR分析の結果であって、(A)は、未処理の(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布のFT-IRスペクトルであり、(B)は、未処理、酸(pH3)処理、中性(pH6)処理、アルカリ(pH11)処理、11⇒3処理、及び、11⇒3⇒11処理を行った、(A)の丸印箇所を拡大して示すFT-IRスペクトルであり、(C)(D)は、それぞれ、(B)のスペクトル上のその位置における、表面から露出したPAAの官能基の化学式を示す図である。
【0109】
(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布におけるFT-IR分析の結果、図10に示すように、11⇒3処理ではpH3処理と同様のスペクトルとなり、PAAの官能基がアルカリ(pH11)処理によって変化したCOOの存在を示す1570cm-1付近のピーク(図10(B)の(D)の位置)は表れず、PAAの官能基であるCOOHの存在を示す1710cm-1付近のピーク(図10(B)の(C)の位置)が表れた。
【0110】
また、図10に示すように、11⇒3⇒11処理ではpH11処理と同様のスペクトルとなり、PAAの官能基であるCOOHの存在を示す1710cm-1付近のピーク(図10(C)の位置)が消失し、PAAの官能基がアルカリ処理によって変化したCOOの存在を示す1570cm-1付近のピーク(図10(D)の位置)が表れた。なお、アルカリ(pH11)処理後のFT-IRスペクトルについて、図3(A)と図10(B)とを比較すると、図10(B)に示す(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布では、図3(A)に示す(PVDF+PS38-PAA210(15wt%))NF不織布よりも、COOHからCOOへの変化がより顕著になっているが、これは、目付の差異が影響していると考えられる。図10(B)に示すNF不織布は、20分間紡糸してなる目付が小さいサンプルを使用しているため、アルカリ(又は酸)処理による官能基の変化が速やかに進行するのに対して、図3(A)に示すNF不織布は、120分間紡糸してなる目付が大きいサンプルを使用しているため、アルカリ処理による官能基の変化がサンプルの表面では速やかに進行するものの、サンプル内部の深いところでは変化が速やかに進行せず、このような違いになったと考えられる。
【0111】
以上の結果から、繰り返しpH処理による官能基の互換性を有すること、すなわち、PS-PAA添加による表面修飾において、可逆なpH応答性を備えることが明らかとなった。
〈pH処理及び繊維径計測の結果及び評価〉
【0112】
図11は、pH処理後の(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布の形態観察の結果を示す、(A)未処理のNF不織布のSEM写真であり、(B)酸(pH3)処理後のNF不織布のSEM写真であり、(C)中性(pH6)処理後のNF不織布のSEM写真であり、(D)アルカリ(pH11)処理後のNF不織布のSEM写真である。
【0113】
図11に示すように、pH処理後のNF不織布はいずれも、pH処理前のものと比べて、形態に大きな違いは見られなかった。
【0114】
表6は、pH処理後の(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布における繊維径計測の結果である。
【表6】
【0115】
表6に示すように、pH処理後のNF不織布はいずれも、pH処理前のものと比べて、繊維径に大きな違いは見られなかった。
【0116】
したがって、繰り返しpH処理によってもNFの繊維径は変化しないことから、NFの機械的特性を大きく変化させずに表面修飾機能だけを狙って高機能化させることが可能と考えられる。
〈金属イオン吸着試験の結果及び評価〉
【0117】
図12は、(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布の形態観察の結果を示す、(A)アルカリ(pH11)処理のみでCuSO処理を行わなかったNF不織布のSEM写真であり、(B)アルカリ(pH11)処理後にCuSO処理を行ったNF不織布のSEM写真であり、(C)アルカリ(pH11)処理を行わないでCuSO処理のみを行ったNF不織布のSEM写真である。
【0118】
図13は、エネルギー分散型X線分析装置による元素分析の結果であって、図12に対応する、(A)アルカリ(pH11)処理のみでCuSO処理を行わなかったNF不織布の定性分析チャートであり、(B)アルカリ(pH11)処理後にCuSO処理を行ったNF不織布の定性分析チャートであり、(C)アルカリ(pH11)処理を行わないでCuSO処理のみを行ったNF不織布の定性分析チャートである。
【0119】
図13に示すように、アルカリ(pH11)処理後にCuSO処理を行った(PVDF+PS29-PAA610(15wt%))NF不織布でのみ、銅(Cu)が検出された。
【0120】
以上のことから、PS-PAA添加による表面修飾において、表面修飾機能を高機能化できることが明らかになった。実際、アルカリ処理したPS-PAA添加NF不織布では除菌作用を有する銅の吸着が確認できた。
【0121】
(6.PS-PAA添加による表面修飾によって、NF不織布の機械的特性への悪影響は見られないこと)
【0122】
PS-PAA添加による表面修飾によるNF不織布の機械的特性への影響に関する知見を得るため、以下の実験を行った。
[実験方法]
〈引張試験〉
【0123】
[0031]~[0033]段落記載のサンプルの作製方法と同じ方法で、PS29-PAA610及びPS42-PAA920を0.15g(対PVDF 15wt%)ずつ添加して2種類の溶液を調製し、2時間紡糸してNF不織布を得た。
【0124】
サンプルとして、JIS K 6251(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方)に準拠して、打抜刃(高分子計器株式会社製)を用いてダンベル状2号形試験片を作製した。引張試験は、引張圧縮試験機(株式会社エー・アンド・デイ製 RTE-1210)を用いて、つかみ間隔50mm、引張速度10mm/minの条件で行った。
[結果及び評価]
【0125】
引張圧縮試験機による引張試験の結果を表7及び図14に示す。
【表7】
【0126】
表7及び図14に示すように、いずれのブロック共重合体を添加したNF不織布においても、PVDFのみのNF不織布の場合と比べて最大点荷重が大きく、それぞれの目付で補正した値も同等以上であることから、ブロック共重合体を添加しても、NF不織布の機械的特性への悪影響は見られない。
(新たな表面修飾技術)
【0127】
図15は、前述した(PVDF+PS-PAA)NFにおいて表面修飾が実現するメカニズムの説明図であって、(A)は、表面修飾機能を発現しない(PVDF)NFの説明図であり、(B)は、表面修飾機能を発現する(PVDF+PS-PAA)NFの説明図である。
【0128】
図15に示すように、(A)(PVDF)NFでは、表面修飾を実現する成分が添加されていないため、表面修飾を実現することはできない。一方、(B)(PVDF+PS-PAA)NFでは、溶媒が揮発してNFが形成される過程において、湿度条件によっては、PS-PAAブロック共重合体がNF外に移動する流れができ、PS-PAAブロック共重合体のうち、溶媒であるDMFに溶けやすい性質を有するPS成分がNFの表面近傍においてアンカーとして機能するため、PS-PAAブロック共重合体がNFの表面から離脱することはないが、DMFの揮発の流れに伴ってNFの表面近傍に局在したPS-PAAブロック共重合体のDMFに溶けにくいPAA成分が表面から露出して表面修飾が実現すると考えられる。言い換えると、PS-PAAブロック共重合体がNFの表面近傍に局在するよう、且つ、PSがPAAのNFの表面からの離脱を防ぐアンカーとして機能するよう、DMFを気化させることでPAAによる表面修飾を実現できるものと考えられる。
【0129】
このことから、溶液から溶媒を気化させて溶質成分からなる合成繊維等を製造する工程において、溶液は、溶媒に対して溶解しやすい性質を有する第1の成分と溶媒に対して溶解しにくい性質を有する第2の成分とが結合した第3の成分を含み、第3の成分が繊維表面近傍に局在するよう、且つ、第1の成分が第2の成分の繊維表面からの離脱を防ぐアンカーとして機能するよう、溶液から溶媒を気化させることで、当該合成繊維等における表面修飾が繊維径や機械的特性を殆ど変化させずに効率よく実現できる、という発明及び作用効果を帰納的に導くことができる。
【0130】
すなわち、本発明に係る、合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法は、DMF、PVDF、PS-PAAの組み合わせに限られず、その組み合わせの設計如何で、表面修飾のさせ方を変化させることができる。また、単に表面修飾剤をNF中に均一に導入し、表面近傍で内部と均等な確率で存在する表面修飾剤によって表面修飾を実現するのではなく、本発明に係る、合成繊維の製造方法、合成繊維、不織布、及び、合成樹脂の表面修飾方法は、表面修飾機能を発現させたい分量の表面修飾剤を添加し、溶媒の気化条件を管理するだけで、当該表面修飾剤が表面近傍に局在し、表面修飾機能が発現するので効率的であり、NFの太さや成型加工性に影響を与えないという利点もある。
[第1の成分]
【0131】
第1の成分は、溶媒が気化する際にアンカーとして機能する成分であるから、溶媒に溶けやすい性質を有すること、溶質の主成分となる成分にも混ざりやすい性質を有すること、及び、第2の成分と結合できる性質を有することが必要である。例えば、DMFが溶媒、溶質の主成分となる成分がPVDFであって、第2の成分とブロック共重合体を形成できる可能性がある、第1の成分の候補としては、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸n-ブチル、ポリメタクリル酸t-ブチル、ポリメタクリル酸ベンジル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸n-ブチル、ポリアクリル酸t-ブチル、ポリアクリル酸ベンジル、ポリスチレン、ポリクロロメチルスチレンを挙げることができる。
[第2の成分]
【0132】
第2の成分は、溶媒が気化する際に表面から露出する成分であるから、溶媒に溶けにくく、溶質の主成分となる成分に混ざりにくい性質を有すること、並びに、第1の成分と結合できる性質を有することが必要である。例えば、DMFが溶媒、溶質の主成分となる成分がPVDFであって、第1の成分とブロック共重合体を形成できる可能性がある、第2の成分の候補としては、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸カリウム、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリルアミド、ポリ4-ビニルピリジン、ポリ2-ビニルピリジン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシドを挙げることができる。
【0133】
なお、第2の成分は、溶媒中において、ナノスコピックスケールからメゾスコピックスケールにかけて、例えばミセルやコロイド、エマルジョンが形成されるものを選択してもよい。
[第3の成分]
【0134】
第3の成分は、第1の成分と第2の成分を結合させることができればよく、ブロック共重合体に限定されない。
【0135】
第3の成分として、ブロック共重合体を選択する場合、ブロック共重合体の作製過程は特に限定されない。本実施形態においては、スチレンとアクリル酸とからATRP法によってPS-PAAブロック共重合体を作製したが、勿論その方法には限定されない。例えば、RAFT法やアニオン重合などのリビング重合法、マクロ開始剤やマクロ連鎖移動剤などを用いて作製してもよい。
[溶媒]
【0136】
溶媒は、NFの主成分となるポリマーが溶けやすく、第1の成分が溶解しやすく、第2の成分が溶解しにくく、紡糸や乾燥処理によって揮発するものであればよく、本実施形態で用いたDMFには限定されない。なお、本実施形態においては、エレクトロスピニング法によって紡糸を行ったため、紡糸しやすくするために(電荷を掛けやすいように)、TBAC(テトラブチルアンモニウムクロリド)を添加している。
[合成樹脂の主成分]
【0137】
合成樹脂の主成分は、溶媒に溶けやすく、第1の成分が混ざりやすく、第2の成分が混ざりにくい性質があればよく、本実施形態で用いたPVDFには限定されない。
【0138】
合成樹脂の主成分となり得て、DMFを溶媒として紡糸できるポリマーの例として、PVDFの他にも、ポリウレタン(PU)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルピロリドン(PVP)を挙げることができる。
[溶液の製造工程]
【0139】
本実施形態においては、PVDFがDMFに溶けやすい性質を有するので、DMFにTBACを添加後、PAAが溶媒に溶けにくい性質を有するので、PS-PAAブロック共重合体を添加後(最後)に、PVDFを添加した。なお、溶液は、PS-PAAがPVDFに対して少なくとも15wt%添加すると、目に見えて白濁した。
[合成樹脂の製造工程]
【0140】
本実施形態においては、エレクトロスピニング法によって紡糸したが、本発明は、第3の成分が繊維表面近傍に局在するよう、且つ、第1の成分が第2の成分の繊維表面からの離脱を防ぐアンカーとして機能するよう、溶液から溶媒を気化させることで、当該合成繊維等における表面修飾が実現できるため、気化(乾燥)条件を適切に管理できるのであれば、この方法に限定されない。つまり、本発明に係る表面修飾技術は、例えば、紡糸に限られず、気化(乾燥)条件を適切に管理できれば、形状を含む種々の形状の合成樹脂にも適用できる可能性がある。
【0141】
また、紡糸方法は、乾式紡糸か湿式紡糸のどちらかに大別でき、エレクトロスピニング法は、溶液を用いて乾式で紡糸を行うので溶液を用いる乾式紡糸に該当する。溶液を用いる乾式紡糸の方法には、エレクトロスピニング法の他にも、例えば、スパンボンド法やメルトブロー法、フラッシュ紡糸法等がある。したがって、本発明に係る表面修飾技術において、エレクトロスピニング法に代わる紡糸方法として、スパンボンド法やメルトブロー法、フラッシュ紡糸法を選択できる可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15