(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157258
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】電動ローラ
(51)【国際特許分類】
E01C 19/28 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
E01C19/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067047
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000182384
【氏名又は名称】酒井重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 房義
(72)【発明者】
【氏名】伏見 哲行
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大地
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悠一郎
【テーマコード(参考)】
2D052
【Fターム(参考)】
2D052AB01
2D052AC01
2D052BB01
2D052DA31
(57)【要約】
【課題】速度制御及びトルク制御を容易に行うことができるとともに、脱炭素社会への貢献、作業環境の改善及びメンテナンス性の向上を図ることができる電動ローラを提供する。
【解決手段】前後にそれぞれ設置された一対の転圧輪と、転圧輪を回転可能に支持する車体フレームと、転圧輪を駆動させ、同一軸上で左右対称に配置される複数の電動モータと、基準モータM2の回転数を制御する第1インバータJ2と、追従モータM3のトルクを制御する第2インバータJ3と、基準モータM2、追従モータM3、第1インバータJ2、及び、第2インバータJ3にそれぞれ電力を供給するバッテリと、第1インバータJ2及び第2インバータJ3に対してそれぞれ制御信号を出力する制御部3と、を有し、内燃機関を備えておらず、転圧輪の動力源をバッテリのみとすることを特徴とする。
【選択図】
図27
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後にそれぞれ設置された一対の転圧輪と、
前記転圧輪を回転可能に支持する車体フレームと、
前記転圧輪を駆動させ、同一軸上で左右対称に配置される複数の転圧輪用電動モータと、
前記転圧輪用電動モータの回転数を制御する回転数制御用インバータと、
前記転圧輪用電動モータのトルクを制御するトルク制御用インバータと、
前記各転圧輪用電動モータ、前記回転数制御用インバータ、及び、前記トルク制御用インバータにそれぞれ電力を供給するバッテリと、
前記回転数制御用インバータ及び前記トルク制御用インバータに対してそれぞれ制御信号を出力する制御部と、を有し、
内燃機関を備えておらず、前記転圧輪の動力源を前記バッテリのみとすることを特徴とする電動ローラ。
【請求項2】
請求項1記載の電動ローラにおいて、
前記制御部は、前記回転数制御用インバータによって目標回転数に制御された一方の転圧輪用電動モータの実トルク値を取得し、前記取得した実トルク値に基づいて他方の転圧輪用電動モータのトルクを制御することを特徴とする電動ローラ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の電動ローラにおいて、
前記一方の転圧輪用電動モータは、基準モータからなり、
前記他方の転圧輪用電動モータは、前記基準モータに追従させる追従モータからなることを特徴とする電動ローラ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電動ローラにおいて、
前記バッテリは、前記車体フレームの前部スペース及び後部スペースの少なくとも一方に設置されていることを特徴とする電動ローラ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の電動ローラにおいて、
前記車体フレームの前部スペース及び後部スペースの少なくとも他方にギヤボックスが設置されていることを特徴とする電動ローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、路面の締め固めを行う転圧車両(転圧ローラ)が開示されている。従来の転圧ローラは、一対の転圧輪と、車体フレームと、エンジンと、油圧ポンプと、走行用油圧モータと、を備えている。従来の転圧ローラは、エンジンにより油圧ポンプを駆動させ、その油圧によって走行用油圧モータを回転させて走行している。また、前後進レバーの入力量に応じて油の吐出力を調整することで、車両が加速、減速又は停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量ゼロを目指す脱炭素社会に向けた取り組みが世界的に行われている。しかし、従来の転圧ローラでは、エンジンを使用するため、化石燃料が消費され、CO2等の温室効果ガスも排出される。また、エンジンを使用することで騒音や排熱が大きくなるため、例えば、トンネル等の閉所でのオペレーターへの負担が増大するとともに、施工現場の作業環境(人、構造物、樹木等)へ与える悪影響も大きくなる。さらに、従来の転圧ローラでは、作動油漏れが発生したり、作動油の交換頻度が増加したりなどメンテナンス性が悪いという問題がある。また、転圧ローラは、速度制御及びトルク制御を容易に行うことが好ましい。
【0005】
そこで本発明は、速度制御及びトルク制御を容易に行うことができるとともに、脱炭素社会への貢献、作業環境の改善及びメンテナンス性の向上を図ることができる電動ローラを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電動ローラは、前後にそれぞれ設置された一対の転圧輪と、前記転圧輪を回転可能に支持する車体フレームと、前記転圧輪を駆動させ、同一軸上で左右対称に配置される複数の転圧輪用電動モータと、前記転圧輪用電動モータの回転数を制御する回転数制御用インバータと、前記転圧輪用電動モータのトルクを制御するトルク制御用インバータと、前記各転圧輪用電動モータ、前記回転数制御用インバータ、及び、前記トルク制御用インバータにそれぞれ電力を供給するバッテリと、前記回転数制御用インバータ及び前記トルク制御用インバータに対してそれぞれ制御信号を出力する制御部と、を有し、内燃機関を備えておらず、前記転圧輪の動力源を前記バッテリのみとすることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、電動化により燃料の消費量及び温室効果ガスの排出量を実質的に無くすことができる。また、電動化により騒音を小さくすることができるとともに温室効果ガスの排出を実質的に無くすことができるため、オペレーターへの負担を軽減するとともに、作業環境の改善を図ることができる。また、作動油の交換等が不要になりメンテナンス性に優れる。また、本発明によれば、回転数制御用インバータ及びトルク制御用インバータを備えているため、速度制御及びトルク制御を容易に行うことができる。
【0008】
また、制御部は、回転数制御用インバータによって目標回転数に制御された一方の転圧輪用電動モータの実トルク値を取得し、この取得した実トルク値に基づいて他方の転圧輪用電動モータのトルクを制御することが好ましい。
【0009】
本発明によれば、左右対称に配置された2台の誘導モータ(基準モータ、追従モータ)を同期制御した場合、エネルギ効率が改善されると共に、バッテリの充電サイクルを向上させることができる。
【0010】
また、一方の転圧輪用電動モータは、基準モータからなり、他方の転圧輪用電動モータは、基準モータに追従させる追従モータからなることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、基準モータと追従モータとによって簡便に制御することで、エネルギ効率の改善を図ることができる。
【0012】
また、バッテリは、車体フレームの前部スペース及び後部スペースの少なくとも一方に設置されていることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、スペースを有効に利用することで小型化を図ることができる。
【0014】
また、車体フレームの前部スペース及び後部スペースの少なくとも他方にギヤボックスが設置されていることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、スペースを有効に利用することができると共に、ギヤボックスを介して効率的に電動モータの駆動力を転圧輪に伝達することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、速度制御及びトルク制御を容易に行うことができると共に、脱炭素社会への貢献、作業環境の改善及びメンテナンス性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る電動ローラの側面図である。
【
図2】第一実施形態に係る電動ローラの平面図である。
【
図3】第一実施形態に係る電動ローラの背面図である。
【
図4】第一実施形態に係る電動ローラの構成を示すブロック図である。
【
図5】第一実施形態に係る電動ローラの動作概略図である。
【
図6】第一実施形態に係る電動ローラの電源系及び制御系を示すブロック図である。
【
図7】第一実施形態に係る電動ローラのダッシュボードを示す背面図である。
【
図8】第一実施形態に係る電動ローラのダッシュボードを示す側面図である。
【
図9】第一実施形態に係る電動ローラにおいて、前進時のブレーキペダルを示す側面図である。
【
図10】第一実施形態に係る電動ローラにおいて、ブレーキペダルを踏み込んだ時を示す側面図である。
【
図11】第一実施形態に係る電動ローラの一部透過側面図である。
【
図12】第一実施形態に係る電動ローラの一部透過平面図である。
【
図13】第一実施形態に係る電動ローラの前輪を示す断面図である。
【
図14】第一実施形態に係る電動ローラの第一ギヤボックスを示す平面図である。
【
図17】第一実施形態に係る電動ローラの後輪周りを示す断面図である。
【
図19】第一実施形態に係る電動ローラのステアリングシステムを示す側面図である。
【
図20】第一実施形態に係る電動ローラのステアリングシステムを示す平面図である。
【
図21】始動時において、比較例の時間と回転数との関係を示すグラフである。
【
図22】停止時において、比較例の時間と回転数との関係を示すグラフである。
【
図23】比較例及び実施例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を、時間と回転数との関係で示すグラフである。
【
図24】始動時において、実施例の時間と回転数との関係を示すグラフである。
【
図25】停止時において、実施例の時間と回転数との関係を示すグラフである。
【
図26】変形例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を、時間と回転数との関係で示すグラフである。
【
図27】本発明の第四実施形態に係る電動ローラの制御ブロック図である。
【
図28】本出願人が案出した比較例に係る電動ローラの制御ブロック図である。
【
図29】
図28に示す比較例において、モータ回転数とモータトルクとの関係を示すグラフである。
【
図30】
図27に示す本実施形態において、モータ回転数とモータトルクとの関係を示すグラフである。
【
図31】
図28に示す比較例において、走行中の各誘導モータの消費電流を示すグラフである。
【
図32】
図27に示す本実施形態において、走行中の基準モータ及び追従モータの消費電流を示すグラフである。
【
図33】
図28に示す比較例において、走行中の各誘導モータ及び各インバータの温度変化を示すグラフである。
【
図34】
図27に示す本実施形態において、走行中の基準モータ、追従モータ、及び、第1、第2インバータの温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第一実施形態]
本発明の電動ローラについて、図面を参照して詳細に説明する。以下に記載する実施形態、変形例等は、あくまで例示であって、各実施形態、変形例を適宜組み合わせて使用することができる。図面に示す、上下、左右、前後は電動ローラの進行方向に従う。
【0019】
<全体概略構成>
図1~4に示すように、電動ローラ1は、前輪R1と、後輪R2と、車体フレーム2と、電動モータM(M1~M4)と、インバータJ(J1~J4)と、バッテリK(K1~K3)と、制御部3と、を主に備えている。
【0020】
前輪R1は、車体フレーム2の前部に設けられた一対の前輪用サイドプレートSP1,SP2に回転可能に支持されている。前輪R1は、路面を転圧する転圧輪であって、本実施形態では一体の鉄輪で構成されている。前輪R1は、複数のタイヤで構成されていてもよいし、複数の鉄輪で構成されていてもよい。
【0021】
後輪R2は、車体フレーム2の後部に回転可能に支持されている。後輪R2は、路面を符号の相転圧する転圧輪であって、本実施形態では4つのタイヤ(R2A,R2B,R2C,R2D)で構成されている。後輪R2は、単数又は複数の鉄輪で構成されていてもよい。
【0022】
車体フレーム2は、前輪R1,R2を回転可能に支持する車体である。車体フレーム2は、前部フレーム11と、後部フレーム12と、運転席13と、ダッシュボード14とを備えている。前部フレーム11は、前部に前輪用サイドプレートSP1,SP2が固定されている。前部フレーム11の内部には、インバータJ及びバッテリKを収容する前部スペース15が形成されている。後部フレーム12は、運転席13,ダッシュボード14を備えるとともに、内部に電動モータM、インバータJ1、ギヤボックス等を収容する後部スペース16が形成されている。後部スペース16は、運転席13の足元の下方に形成された第一後部スペース16aと、運転席13の下方に形成された第二後部スペース16bと、を備えている。前部フレーム11と、後部フレーム12とは鉛直方向に平行な関節ピンを介して連結されている。本実施形態の電動ローラ1はアーティキュレート式であるが、リジッド式であってもよい。
【0023】
図4に示すように、前輪用電動モータM1は、前輪R1を駆動させる電動モータである。前輪用電動モータM1は、制御部3から前輪用インバータJ1に入力される駆動指示値に応じて駆動する。
後輪右用電動モータM2は、後輪R2を駆動させる電動モータである。後輪右用電動モータM2は、制御部3から後輪右用インバータJ2に入力される駆動指示値に応じて駆動する。
【0024】
後輪左用電動モータM3は、後輪R2を駆動させる電動モータである。後輪左用電動モータM3は、制御部3から後輪左用インバータJ3に入力される駆動指示値に応じて駆動する。
なお、前輪用電動モータM1、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3を総称して「転圧輪用電動モータ」と言う。
また、前輪用インバータJ1、後輪右用インバータJ2及び後輪左用インバータJ3を総称して「転圧輪用インバータ」と言う。
【0025】
図4に示すように、振動用電動モータM4は、起振軸130を駆動させる電動モータである。振動用電動モータM4は、制御部3から振動用インバータJ4に入力される駆動指示値に応じて駆動する。
【0026】
バッテリKは、
図6に示すように、電動モータM及びインバータJ等の各部品に電力を供給する部品である。バッテリKは、本実施形態では、48VバッテリK1、24VバッテリK2、12VバッテリK3を備えており、前部スペース15に配置されたバッテリケースKA(
図11参照)に収納されている。48VバッテリK1及び24VバッテリK2は、リチウムイオン二次電池である。12VバッテリK3は、鉛畜電池である。バッテリKは、本実施形態では電圧の異なるバッテリを三種類設けたが、何種類であってもよいし、単一の電圧で構成してもよい。バッテリ管理部71は、例えば、BMU(Battery Management Unit)を用いている。制御部3は、各部品を制御するコントローラである。制御部3は、例えば、VCU(Vehicle Control Unit)を用いている。バッテリK、バッテリ管理部71及び制御部3は、バッテリ情報を送信するためのCAN通信で連携可能になっている。
【0027】
図5に示すように、電動ローラ1は、オペレーターOPによる前後進レバー17の傾倒角度に応じ、制御部3がインバータJ(J1~J3)へ駆動指示値を出力する。各インバータJに入力された駆動指示値に応じて電動モータM(M1~M3)が回転することにより、前方又は後方に車両が走行する。従来は、ガソリン等の燃料を燃焼させて内燃機関(エンジン等)を用いて油圧ポンプを稼働させ、転圧輪を駆動させていたのに対し、本実施形態の電動ローラ1では、内燃機関を備えず、転圧輪の動力源をバッテリKのみとする点で相違する。また、従来は、車両の走行速度の加減速は、油圧制御によって調整していたのに対し、本実施形態の電動ローラ1では制御部3からインバータJへ出力される駆動指示値で制御する点で相違する。
【0028】
<走行システム>
次に、走行システムについて詳細に説明する。
図1及び
図2に示すように、運転席13は、オペレーターOPが座る部位であって、ダッシュボード14と対向している。ダッシュボード14は、運転席13の前方に設置された箱状体であって、後方に突出するブレーキペダルBPが設けられるとともに、上面にはディスプレイ18が配置されている。ステアリング19は、車両の進行方向を定める機器であり、ダッシュボード14の上面に設けられている。ステアリング19は、ダッシュボード14の内部に設けられたオービットロール(登録商標、以下同じ。
図4,19参照)51に接続されている。
【0029】
図1に示すように、ブレーキペダルBPは、ダッシュボード14の後側の下部に設けられ、オペレーターOPの踏み込みによってブレーキが作動するように構成されている。前後進レバー17,17は、ダッシュボード14の両側に設けられ、中立位置、前進位置、後進位置に傾倒可能なレバーである。前後進レバー17は、ダッシュボード14の片側だけに設けられる構成であってもよい。
【0030】
前後進レバー17,17は、
図7に示すように、シャフト21の両端部に連結されている。シャフト21は、ダッシュボード14の内部に車両の幅方向に沿って配置されている。
図8に示すように、シャフト21には、シャフト21と同期して回動する板状のベースプレート22が設けられ、シャフト21に対して垂直に固定されている。
【0031】
ブレーキペダルBPは、
図9に示すように、シャフト21と連動するように構成されている。ベースプレート22には、車両の幅方向に突出する第一ピン22a及び第二ピン22bが形成されている。第一ピン22a及び第二ピン22bは、シャフト21から概ね等距離で配置されている。ブレーキペダルBPは、本体プレート23と、ペダル部24と、回動支点部25と、連結支点部26と、を備えている。
【0032】
本体プレート23は、後方にペダル部24を備えた板状部材である。本体プレート23の前端は、ダッシュボード14の前壁に固定されたブラケット27を介して回動可能に固定されている。回動支点部25は、ブレーキペダルBPの回動中心になっている。連結支点部26は、本体プレート23の上部に形成されている。
【0033】
連結支点部26は、第一ブレーキペダル用ロッド28及び第二ブレーキペダル用ロッド29を介してベースプレート22に連結されている。第一ブレーキペダル用ロッド28及び第二ブレーキペダル用ロッド29は、棒状の部材である。第一ブレーキペダル用ロッド28及び第二ブレーキペダル用ロッド29の下端は、連結支点部26にピン結合により連結されている。
【0034】
第一ブレーキペダル用ロッド28の上端部には、第一ピン22aが遊嵌する長孔28aが形成されている。第二ブレーキペダル用ロッド29の上端部には、第二ピン22bが遊嵌する長孔29aが形成されている。側面視すると、第一ブレーキペダル用ロッド28及び第二ブレーキペダル用ロッド29は側面視V字状を呈する。
【0035】
初期位置(前後進レバー17が中立位置)において、ベースプレート22は概ね水平となる。また、第一ピン22a及び第二ピン22bは、長孔28a,29aにおいて高さ方向の真ん中やや上側に位置する。
【0036】
図9は、前後進レバー17を前進方向に最も傾倒させた場合のベースプレート22周りの作用図である。
図9に示すように、前後進レバー17を前方に傾倒させるとそれに伴って、シャフト21及びベースプレート22がシャフト21を中心に反時計回りに回動する。この時、第一ピン22aは、第一ブレーキペダル用ロッド28の長孔28aの上端に位置する。一方、第二ピン22bは、第二ブレーキペダル用ロッド29の長孔29aの高さ方向の真ん中やや下側に位置する。前後進レバー17を前方に傾倒させても、長孔28a,29a内を第一ピン22a及び第二ピン22bがそれぞれ移動するため、ブレーキペダルBPの位置は変わらない。
【0037】
なお、具体的な図示は省略するが、前後進レバー17を後方に傾倒させて車両を後進させる場合は、ベースプレート22がシャフト21と同期して時計回りに回動する。この場合も、前進と同様に、前後進レバー17を後方に傾倒させても、長孔28a,29a内を第一ピン22a及び第二ピン22bがそれぞれ移動するため、ブレーキペダルBPの位置は変わらない。
【0038】
図10は、ブレーキペダルBPを踏み込んだ場合のベースプレート22周りの作用図である。
図10に示すように、オペレーターOPがブレーキペダルBPを踏み込むと、回動支点部25を中心にブレーキペダルBPが下側に回動する。これに伴い、第一ブレーキペダル用ロッド28及び第二ブレーキペダル用ロッド29が下側に引っ張られるため、第一ピン22a及び第二ピン22bがそれぞれ長孔28a,29aの上端に位置し、ベースプレート22が所定の角度で回動するとともにベースプレート22が概ね水平になる。これらと同期して、シャフト21及び前後進レバー17も回動して中立位置に位置するため、ブレーキが作動して制動する。
【0039】
以上説明したように、オペレーターOPが、前後進レバー17を中立位置に戻すこと、若しくは、ブレーキペダルBPを踏み込むことによって、前後進レバー17が中立位置に位置し、車両を制動させることができる。ブレーキシステムの詳細については後記する。
【0040】
図4及び
図7に示すように、ダッシュボード14の内部には、ポテンショメータ31が設置されている。ポテンショメータ31は、前後進レバー17の傾倒角度を検知する機器である。シャフト21には、軸方向と直交する方向に張り出す連結プレート34が設けられている。一方、ポテンショメータ31には、ポテンショメータ31に連結されるとともに、連結プレート34と同期して回動する連結プレート35が設けられている。また、連結プレート34,35同士を連結する連結ロッド33が設けられている。連結プレート34,35及び連結ロッド33で構成されたリンク機構により、前後進レバー17を傾倒させると、ポテンショメータ31で傾倒角度を検知することができる。ポテンショメータ31の検知結果は制御部3に出力される。
【0041】
また、
図7に示すように、ダッシュボード14の内部において、シャフト21の近傍にリミットスイッチ(中立センサ)32が設置されている。リミットスイッチ32は、前後進レバー17の中立位置を検知する機器である。リミットスイッチ32の検知結果は、制御部3に出力される。
【0042】
また、ダッシュボード14の上面に設けられたディスプレイ18には、例えば、速度メータ、バッテリKの残量、走行距離、アワメータ、アラート情報等、制御部3が保有する各種車両情報が表示されている。ディスプレイ18には、タッチ式の操作パネルが表示されるようにしてもよい。また、ディスプレイ18には、施工現場の締め固め状況、転圧エリアの地図情報、位置情報等の転圧に関する情報が表示されるようにしてもよい。
【0043】
また、
図4及び
図6に示すように、ダッシュボード14の上面には、走行H/Lスイッチ36、パーキングボタン37、振動ボタン39、灯火器ボタン40、報知器ボタン41等が設置されている。
【0044】
走行H/Lスイッチ36は、高速走行モード又は低速走行モードを選択できるスイッチである。前後進レバー17を最も傾倒させたとき(フルスロットル)に、例えば、高速走行モードは10km/hに設定され、低速走行モードは5km/hに設定されている。これらの速度は適宜設定することができる。
【0045】
パーキングボタン37は、パーキングブレーキの作動又は解除を選択できるボタンである。振動ボタン39は、前輪R1の振動のON又はOFFを選択できるボタンである。振動ボタン39と連動し、振動の強度(回転数)を制御できるボタンを設けてもよい。灯火器ボタン40は、例えば、停車する際に点滅するハザードランプのON又はOFFを選択できるボタンである。報知器ボタン41は、例えば、バックする際のバックブザーのON又はOFFを選択できるボタンである。これらの機能スイッチ(ボタン)のON又はOFFの状態をディスプレイ18に表示させるようにしてもよい。
【0046】
インバータJは、
図4に示すように、前輪用インバータJ1、後輪右用インバータJ2、後輪左用インバータJ3及び振動用インバータJ4を備えている。インバータJは、制御部3から出力される駆動指示値に基づいて周波数を制御し、各電動モータMの回転数を変化させる装置である。
【0047】
電動モータMは、
図4に示すように、前輪用電動モータM1、後輪右用電動モータM2、後輪左用電動モータM3、振動用電動モータM4を備えている。電動モータMの種類は適宜選定すればよいが、本実施形態ではいずれも誘導モータを用いている。
【0048】
<前輪R1の構造(振動システム)>
前輪R1は、
図13に示すように、ロール111を備えており、車両の幅方向の両端に前輪用電動モータM1及び振動用電動モータM4がそれぞれ設置されている。ロール111は、中空円筒形状を呈し、その内面に第1鏡板112及び第2鏡板113が間隔をあけて設けられている。第1鏡板112と第2鏡板113との間には、中空円筒形状の起振機ケース114が固設されている。起振機ケース114の内部には、潤滑油が充填されている。第1鏡板112には第1ホルダ115が、第2鏡板113には第2ホルダ116がそれぞれ取り付けられている。第1ホルダ115は、軸受117を介して筒状のハウジング118に支承されている。ハウジング118は、車体フレーム2の左側面から垂下され、その下端回りがロール111の内部に位置するサイドプレートSP1に対して、防振ゴム121及び支持部材122を介して取り付けられている。
【0049】
第2ホルダ116は、第2鏡板113に固定されている。車体フレーム2の右側面から垂下され、その下端回りがロール111に位置するサイドプレートSP2には、モータ取付板124を介して前輪用電動モータM1が取り付けられている。前輪用電動モータM1の出力部M1aには、減速ギヤ機構125が設置されている。出力部M1aは、防振ゴム123及び支持部材126を介して第2鏡板113に接続されている。第2ホルダ116には、右側端部を覆うカバー127が取り付けられている。
【0050】
以上により、前輪用電動モータM1が回転すると、その回転力は減速ギヤ機構125で減速されるとともにディスク126及び第2鏡板113に伝達され、ロール111は、第1ホルダ115がハウジング118によって支承されつつ走行回転する。
【0051】
一方、振動用電動モータM4は、サイドプレートSP1に接続されたモータ取付板128を介して取り付けられている。ジョイント部材(例えば、等速ジョイント)129は、振動用電動モータM4の出力軸と起振軸130とを連結している。
【0052】
起振軸130は、起振機ケース114内において、ロール111と同軸の軸心を中心として、車幅方向に延設されている。起振軸130は、本体部131と、本体部131の両端に設けられた支軸部132,133と、偏心錘134とを備えている。本体部131は、軸状部位であって、その両端に本体部131より小径となる支軸部132,133が設けられている。支軸部132は、軸受135を介して第1ホルダ115に支承されている。また、支軸部133は、軸受136を介して第2ホルダ116に支承されている。本体部131の外周面には、偏心錘134が設けられている。
【0053】
以上により、振動用電動モータM4が回転すると、その回転力はジョイント部材129を介して起振軸130に伝達され、第1ホルダ115及び第2ホルダ116に対して起振軸130が回転する。その際、起振軸130が偏心錘134を備えているためロール111が振動する。
【0054】
オペレーターOPが、振動ボタン39(
図4参照)を操作すると、制御部3から振動用インバータJ4に振動信号が出力され、振動用インバータJ4の駆動指示値に基づいて振動用電動モータM4が作動する。なお、操作ボタンを新たに設け、例えば、高振動モード又は低振動モードを設けてもよい。振動用電動モータM4を高速で回転させると振動が大きくなり、低速で回転させると振動は小さくなる。また、オペレーターOPの操作に応じて、振動用電動モータM4の回転数を自在に制御できるようにして、振動の強弱を調整できるようにしてもよい。
【0055】
なお、本実施形態では、前輪R1にのみ起振軸130(振動システム)を設けたが、後輪R2にも設けてもよいし、後輪R2のみに設けてもよい。
【0056】
<減速機構>
図14~18に示すように、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3の回転力は、減速機構を介して後輪R2に伝達される。減速機構は、第一ギヤボックス200A及び第二ギヤボックス200Bで構成され、後部スペース16の第二後部スペース16bから後輪R2にかけて設けられている。
図14に示すように、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3は、互いの出力軸が対向しつつ、当該出力軸が車幅方向と平行となるように配置されている。
【0057】
第一ギヤボックス200Aは、第一ギヤ201、第二ギヤ204、第三ギヤ205及び第四ギヤ207を備えている。第一ギヤボックス200Aは、直方体を呈する箱状体であって第二後部スペース16bの内部に配置されている。第一ギヤ201、第二ギヤ204、第三ギヤ205及び第四ギヤ207は、いずれも回転軸が車幅方向と平行に配置されている。第一ギヤボックス200Aの内部には潤滑油が充填されている。
【0058】
第一ギヤ201は、軸部201aと、軸部201aに設けられたギヤ部201bとを備えている。軸部201aは、その両端が後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3の出力軸にそれぞれ連結されるとともに、第一ギヤボックス200Aに設けられたベアリング202,202に支承されている。
【0059】
第二ギヤ204は、軸部204aと、軸部204aに設けられた大径ギヤ204b及び小径ギヤ204cとを備えている。軸部204aは、その両端が第一ギヤボックス200Aに設けられたベアリング203,203に支承されている。大径ギヤ204bは、第一ギヤ201のギヤ部201b及び第三ギヤ205のギヤ部205bにそれぞれ噛合されている。小径ギヤ204cは、第四ギヤ207のギヤ部207bに噛合されている。
【0060】
第三ギヤ205は、軸部205aと、軸部205aに設けられたギヤ部205bとを備えている。軸部205aは、第一ギヤボックス200Aに設けられたベアリング206に支承されている。軸部205aの先端には、無励磁ブレーキ(ネガティブブレーキ)62が接続されている。つまり、無励磁ブレーキ62は、第一ギヤボックス200Aの外部に軸部205aを介して接続されている。
【0061】
第四ギヤ207は、軸部207aと、軸部207aに設けられた大径ギヤ207b及び小径ギヤ207cとを備えている。軸部207aは、第一ギヤボックス200Aと第二ギヤボックス200Bを連通するとともに、第二ギヤボックス200Bに設けられたベアリング209,209で支承されている。第一ギヤボックス200Aと軸部207aの外周との間には、シール部材208が介設されている。大径ギヤ207bは、第一ギヤボックス200A内に配置され、第二ギヤ204の小径ギヤ204cに噛合されている。小径ギヤ207cは、第二ギヤボックス200B内に配置されている。
【0062】
図17に示すように、第二ギヤボックス200Bは、第一ギヤボックス200Aに並設されており、第二後部スペース16bから後輪R2にかけて配置された縦長の箱状体である。第五ギヤ210は、軸部210aと、軸部210aに設けられたギヤ部210bとを備えている。軸部210aは、第二ギヤボックス200Bに設けられたベアリング211で支承されている。ギヤ部210bは、第四ギヤ207の小径ギヤ207c及び第六ギヤ213のギヤ部213bにそれぞれ噛合されている。
【0063】
第六ギヤ213は、軸部213aと、軸部213aに設けられたギヤ部213bとを備えている。軸部213aは、後輪R2のタイヤR2A~R2Dに亘って延設されるシャフトである。第二ギヤボックス200Bの下部には、車幅方向の左右に延び、ベアリング214を介して軸部213aを支承するホルダ218A,218Bがそれぞれ延設されている。軸部213aの左側の先端は、締結部217Aを介してハブ216Aに締結されている。また、ハブ216Aは、タイヤR2A,R2Bの内部に配置されるディスクホイールDWA,DWBを支持している。
【0064】
同様に、軸部213aの右側の先端は、締結部217Bを介してハブ216Bに締結されている。また、ハブ216Bは、タイヤR2C,R2Dの内部に配置されるディスクホイールDWC,DWDを支持している。
【0065】
以上のように構成された減速機構では、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3の回転力は、第一ギヤ201、第二ギヤ204、第四ギヤ207、第五ギヤ210及び第六ギヤ213を介して軸部(シャフト)213aに伝達されるとともに、ハブ216A,216Bを介して後輪R2に伝達される。
【0066】
<ステアリングシステム>
次にステアリングシステムについて説明する。
図19に示すように、ステアリングシステムは、オービットロール51と、電動油圧ポンプ52と、フィルタ53と、アキュームレータ54と、油圧シリンダ55,55、圧力スイッチ56(
図4参照)とを備えている。ステアリングシステムは、これらの部品が配管で接続されて油圧回路を構成している。
【0067】
オービットロール51は、ステアリング19に連結されており、ダッシュボード14の内部に配置されている。電動油圧ポンプ52は、24VバッテリK2と電気的に接続されており、第一後部スペース16aに配置されている。フィルタ53は、配管の一部に接続されており、作動油に含まれる塵埃や鉄分等の不純物を取り除く部材である。アキュームレータ54は、配管の一部に接続されており、作動油の流体エネルギーを蓄えたり、放出したりする装置である。フィルタ53及びアキュームレータ54は、第二後部スペース16bに配置されている。
図20に示すように、油圧シリンダ55,55は、前部フレーム11と後部フレーム12とを連結するシリンダであって、車幅方向両側に一対配置されている。油圧シリンダ55,55の伸縮により車両が左右方向に旋回可能となる。
【0068】
圧力スイッチ56は、
図4に示すように、油圧回路内の圧力チェック及び電動油圧ポンプ52の起動又は停止の判定を行うものである。制御部3が圧力スイッチ56から検知信号を受け、油圧回路内の圧力が所定値よりも低下すると電動油圧ポンプ52を起動させ、所定値以上であると電動油圧ポンプ52を停止させる。また、圧力スイッチ56は、油圧回路内の圧力のエラーも検知することができる。
【0069】
ステアリングシステムは、電動油圧ポンプ52と、この電動油圧ポンプ52から吐出される圧油により駆動される油圧シリンダ55,55と、電動油圧ポンプ52から油圧シリンダ55,55に供給される圧油の方向と流量を制御するステアリングバルブ(図示省略)とを備えている。ステアリング19の回転方向と回転量に応じてステアリングバルブを切り換え、油圧シリンダ55,55を駆動制御している。ステアリング19の回転方向と回転量に応じたステアリングバルブの切り換えは、オービットロール51で行っている。
【0070】
<ブレーキシステム>
本実施形態では、以下の(1)~(3)のブレーキシステムを設けている。なお、ブレーキの種類は下記に限定されるものではなく、適宜増減させてもよい。
(1)ニュートラルブレーキ
ニュートラルブレーキは、
図4に示すように、オペレーターOPの操作により前後進レバー17を中立位置に位置させた時に作動するブレーキである。停止動作時において、転圧輪用電動モータの回生運動及び逆制動をかけることで車両が減速し、0回転数保持ブレーキ(励磁ブレーキ61)により電気的に停車する。励磁ブレーキ61は、通電時にブレーキが作動し、非通電時にブレーキが解除されるブレーキである。
【0071】
前後進レバー17が中立位置に位置した時、リミットスイッチ32は、検知信号を制御部3に出力する。制御部3は、前輪用インバータJ1、後輪右用インバータJ2及び後輪左用インバータJ3に、前輪用電動モータM1、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3がそれぞれ0回転となるよう駆動指示値を出力する。また、制御部3は、励磁ブレーキ61にブレーキ信号を出力する。また、制御部3は、各インバータJに駆動指示値(0回転保持)を出力してから所定時間経過後、作動リレーにより無励磁ブレーキ62(
図4及び
図14)を作動させつつ、励磁ブレーキ61のブレーキを解除する。当該所定時間については、適宜設定することができる。無励磁ブレーキ62は、制御部3に接続された作動リレーにより制御されている。
【0072】
(2)フットブレーキ(非常停止)
フットブレーキは、
図4及び
図8に示すように、ブレーキペダルBPを踏み込むことで作動するブレーキである。オペレーターOPが、ブレーキペダルBPを踏み込むと、制御部3にフットブレーキ信号が出力される。すると、制御部3は、各電動モータMへの電力を遮断する。また、ブレーキペダルBPが踏み込まれると、前記したように
図9,10の機構により傾いていたベースプレート22が水平位置に戻る。つまり、シャフト21(前後進レバー17)が中立位置に位置するため、前記したニュートラルブレーキが作動する。
【0073】
(3)パーキングブレーキ
パーキングブレーキは、
図4に示すように、パーキングボタン37を押下することで作動するブレーキである。オペレーターOPが、パーキングボタン37を押下すると、制御部3にパーキングブレーキ信号が出力される。制御部3は、無励磁ブレーキ62を作動させる。
【0074】
無励磁ブレーキ62は、
図16に示すように、非通電時にブレーキが作動する機械式のディスクブレーキである。無励磁ブレーキ62は、24VバッテリK2と電気的に接続されている。無励磁ブレーキ62は、通電時には第三ギヤ205の軸部205aに同期して回転するロータ64が回転可能になっている。これにより、第三ギヤ205も回転し、走行可能となる。一方、非通電時にはロータ64が挟持されることで軸部205aの回転が阻止され、ブレーキが作動する。なお、無励磁ブレーキ62には、解除レバー63が設けられている。オペレーターOP又は作業員が、解除レバー63を操作することにより、無励磁ブレーキ62を解除することができる。
【0075】
<電装システム>
図6に示すように、本実施形態のバッテリKは、48VバッテリK1、24VバッテリK2及び12VバッテリK3を備えている。48VバッテリK1及び24VバッテリK2は、リチウムイオン電池である。バッテリ管理部(BMU:Battery Management Unit)71は、各電池セルの電圧値、電流値、温度等を測定し、バッテリ(リチウムイオン二次電池)Kを監視・制御する装置である。また、バッテリ管理部71は、測定されたデータの表示機能、各セル間の電圧を一定に保つバランス機能、過充電・過放電の検出機能も有している。バッテリ管理部71と制御部3とはCAN通信を介してバッテリ情報を通信可能になっている。
【0076】
12VバッテリK3は、鉛蓄電池である。12VバッテリK3は、電動ローラ1を始動させるスタータスイッチ38に電気的に接続されている。また、12VバッテリK3は、灯火器(例えば、ハザードランプ)40及び報知器(例えば、バックブザー、アラートブザー)41を含む電装品に電気的に接続されている。12VバッテリK3は、例えば、制御部3がシステムダウンした時にも、電動ローラ1の始動作業(再起動)や、各種電装品に電気を供給することができる。
【0077】
48VバッテリK1は、各インバータJ及び各電動モータMに電気的に接続されている。48VバッテリK1と12VバッテリK3との間には、DCDCコンバータ42が介設されている。DCDCコンバータ42は、48VバッテリK1から12VバッテリK3へ給電を行うために、降圧させる装置である。24VバッテリK2は、電動油圧ポンプ52及び無励磁ブレーキ62に電気的に接続されている。
【0078】
制御部(VCU)3は、走行中に変化する車両の状態を判断し、最適な状態を維持するために各部品を制御する装置である。制御部3は、電動モータM、インバータJ、バッテリKなどの相互に影響しあう各部品を、他の部品への影響を加味しつつ制御する。
【0079】
制御部3は、演算部(CPU:Central Processing Unit)、記憶部、通信部等を備えている。制御部3は、どこに配置されていてもよいが、本実施形態ではバッテリKのバッテリケースKA(
図11参照)の前部に取り付けられている。演算部は、記憶部に格納されたプログラムを読み出して、機能部として機能させる部位である。記憶部は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read only memory)、HDD(Hard Disk Drive)等を備えている。記憶部には、各種プログラムや、ポテンショメータ31の傾倒角度に対する各インバータJの駆動指示値などが駆動指示値ファイルとして格納されている。通信部は、例えば、CAN通信であって、各部品と通信可能になっている。
【0080】
また、制御部3は、GNSS(Global Navigation Satellite System)と連動させて、走行記録、位置情報、運転状況等を取得し、活用するようにしてもよい。また、制御部3は、路面の締固め情報を取得するセンサを備えた締固め管理装置と連動させて、リアルタイムに締固め情報を取得し、活用するようにしてもよい。また、制御部3は、自律走行装置と連動させて、遠隔操作による自律走行が実行できるようにしてもよい。また、制御部3は、車両運行情報(運転時間、異常情報、電池状況など)を技術センター、リース会社等に送信し、その情報を蓄積・管理することができる。
【0081】
<作用・効果について>
オペレーターOPが、前後進レバー17を前側に倒すと前進し、後側に倒すと後進する。前後進レバー17を傾倒させると、ポテンショメータ31がその傾倒角度を制御部3に出力する。制御部3は、前輪用インバータJ1、後輪右用インバータJ2及び後輪左用インバータJ3に駆動指示値を出力し、当該駆動指示値に基づいて転圧輪用電動モータを作動させる。前後進レバー17の傾倒角度を大きくすると速く走行し、小さくするとゆっくり走行する。前後進レバー17を中立位置に戻すと、前記したニュートラルブレーキが作動し、電動ローラ1が停止する。
【0082】
オペレーターOPが、振動ボタン39を操作すると、制御部3に振動信号が出力される。制御部3は、振動用インバータJ4に振動指示値を送信し、当該振動指示値に基づいて振動用電動モータM4を作動させる。これにより、起振軸130が回転し、前輪R1が振動する。
【0083】
以上説明した本実施形態に係る電動ローラ1によれば、電動化により燃料の消費量及び温室効果ガスの排出量を実質的に無くすことができる。また、電動化により騒音を小さくすることができるとともに温室効果ガスの排出を実質的に無くすことができるため、オペレーターOPへの負担を軽減するとともに、作業環境の改善を図ることができる。また、従来のように走行用の油圧ポンプや油圧回路を用いないため、作動油の交換等が不要になりメンテナンス性に優れる。
【0084】
また、本実施形態によれば、転圧輪用電動モータ(前輪用電動モータM1、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3)を複数備えている。転圧輪用電動モータは、一つでもよいが、複数備えることで転圧輪用電動モータの大型化を防ぎつつ、主力トルクを大きくすることができる。これにより、登板での停止、発進が可能となる。
【0085】
また、本実施形態によれば、ポテンショメータ31を備えているため、前後進レバー17の傾きに応じた細かな速度制御が可能となる。また、リミットスイッチ32を備えているため、中立位置を確実に検知することができる。ポテンショメータ31のみでも中立の検知は可能であるが、仮に、ポテンショメータ31からの入力にエラーが発生した場合、前後進レバー17が中立の状態でも車両が動き出すおそれがある。しかし、本実施形態によれば、リミットスイッチ32を備えているため、中立位置を確実に検知することができる。
【0086】
また、本実施形態によれば、灯火器40及び報知器41を含む電装品を備え、転圧輪用電動モータ及び電装品にそれぞれ電気的に接続され電圧の異なる複数のバッテリKを備えている。これにより、各部品の電圧に合わせて電力を供給することができる。また、48VバッテリK1及び24VバッテリK2は、リチウムイオンバッテリ(蓄電池)であるため、充電して繰り返し使用することができる。
【0087】
また、本実施形態によれば、車体フレーム2の前部スペース15にバッテリKが設置されているため、スペースを有効に利用することで小型化を図ることができる。換言すると、従前エンジンが設置されていた部分にバッテリKを配置することができる。また、バッテリKをバッテリケースKAに収容することで、バッテリKを保護することができる。なお、バッテリKは、後部スペース16のみに設置してもよいし、前部スペース15及び後部スペース16の両方に設置してもよい。
【0088】
また、本実施形態によれば、灯火器40及び報知器41を含む電装品が、鉛蓄電池からなる12VバッテリK3に電気的に接続されている。これにより、制御部3がシステムダウンした時、灯火器40を含んだ電装品が機能するように構成されている。よって、システムダウンしても周囲にアラート等を発することができるとともに、再起動、再始動もスムーズに行うことができる。
【0089】
また、本実施形態によれば、ダッシュボード14に設けられたディスプレイ18に速度メータを表示させるとともに、制御部3が有する車両情報をディスプレイ18に表示させることができる。これにより、オペレーターOPは、速度に加え、例えば、前進しているのか、後進しているのか、振動の有無、充電量、時刻、総走行距離等の制御部3が保有する車両情報も把握することができる。
【0090】
また、転圧輪を振動させる機構は必要に応じて設ければよいが、本実施形態によれば、起振軸130を振動用インバータJ4及び振動用電動モータM4で作動させる。これにより、起振軸130の振動制御を容易に行うことができるとともに、起振軸130の電動化により燃料の消費量及び温室効果ガスの排出量を実質的に無くすことができる。また、起振軸130の電動化により騒音を小さくすることができるとともに温室効果ガスを実質的に無くすことができるため、オペレーターOPへの負担を軽減するとともに、作業環境の改善を図ることができる。また、従来のように振動用の油圧ポンプや油圧回路を用いないため、作動油の交換等が不要になりメンテナンス性に優れる。
【0091】
また、本実施形態によれば、振動用電動モータM4をばね上(防振ゴム121よりも上側(車体フレーム2側))に設置することにより、振動用電動モータM4に作用する振動を軽減することができる。また、起振軸130と振動用電動モータM4の出力軸とを連結する等速ジョイントを設けることで、作動角度が付いた状態においても振動用電動モータM4の駆動を起振軸130に伝達することができる。
【0092】
また、本実施形態によれば、ステアリングシステムに電動油圧ポンプ52を用いているため、電動化により燃料の消費量及び温室効果ガスの排出量を実質的に無くすことができる。また、電動化により騒音を小さくすることができるとともに温室効果ガスを実質的に無くすことができるため、オペレーターOPへの負担を軽減するとともに、作業環境の改善を図ることができる。また、本実施形態によれば、電動油圧ポンプ52を用いて油圧シリンダ55を駆動させるため、電動化を図る際に、ステアリング周りの機構の変更を最小限に留めることができる。
【0093】
また、本実施形態によれば、アキュームレータ54で蓄圧することができるため、電動油圧ポンプ52の連続作動による焼き付きを防ぐとともに、エネルギー消費を抑制することができる。
【0094】
また、本実施形態によれば、電動油圧ポンプ52、配管及びアキュームレータ54は、車体フレーム2の後部スペース16に設置されているため、後部スペース16を有効に利用できるとともに、前部スペース15と後部スペース16で架け渡す配管等の数を少なくすることができる。
【0095】
また、本実施形態によれば、油圧シリンダ55は、車体フレーム2に左右両側に設置されているため、旋回時における左右方向の油の吐出量の差を小さくするか無くすことができるため、旋回時の挙動を安定させることができる。なお、油圧シリンダ55の本数は、車体フレーム2に一つでもよい。これにより、構造を簡素化でき、部品点数を少なくすることができる。
【0096】
また、本実施形態によれば、制御部3は、前後進レバー17が中立の時、転圧輪用インバータ(前輪用インバータJ1、後輪右用インバータJ2,後輪左用インバータJ3)に0回転信号を出力するとともに、励磁ブレーキ61を作動させる。これにより、ブレーキシステムを容易に構成することができるとともに、ブレーキシステムの電動化により燃料の消費量及び温室効果ガスの排出量を実質的に無くすことができる。また、電動化により騒音を小さくすることができるとともに温室効果ガスを実質的に無くすことができるため、オペレーターOPへの負担を軽減するとともに、作業環境の改善を図ることができる。また、従来のようにブレーキシステムに油圧回路を用いないため、作動油の交換等が不要になりメンテナンス性に優れる。
【0097】
また、本実施形態によれば、制御部3は、励磁ブレーキ61を作動させた所定時間経過後に、機械的に制動させる無励磁ブレーキ62を作動させる。励磁ブレーキ61を作動させると、停止中に電力を消費し続けることになるが、本実施形態によれば、所定時間経過後に無励磁ブレーキ62に切り替わり、励磁ブレーキ61のブレーキは解除するため、電力の消費を抑えることができる。
【0098】
また、オペレーターOPがブレーキペダルBPを踏み込んだ時、又は、ダッシュボード14又は運転席13に設けられたボタン(パーキングボタン37)を操作した時、制御部3は、作動リレーにより、機械的に制動させる無励磁ブレーキ62を作動させる。これにより、緊急時に車両を停止させることができる。
【0099】
また、運転席13の周囲に無励磁ブレーキ62を解除する解除レバー63を備えることで、無励磁ブレーキ62の解除作業を容易に行うことができる。
【0100】
[第二実施形態・転圧輪用電動モータの過回転防止機構]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態に係る電動ローラ1は、前輪用電動モータM1、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3(転圧輪用電動モータ)の過回転を防止する過回転防止機構を備えている点で第一実施形態と相違する。第二実施形態では、第一実施形態と相違する点を中心に説明する。なお、以下に示す駆動指示値や時間はあくまで例示であって、これらの数値は適宜設定することができる。
【0101】
<課題>
前記したように、電動ローラ1は、前後進レバー17の傾きが制御部3に入力されることにより、制御部3が加速、減速又は停止の駆動指示値を各インバータJに出力している。制御部3からの駆動指示値を受け取った各インバータJは、前後進レバー17の入力量の応じた加速又は減速を行うため、転圧輪用電動モータに回転数の駆動指示値を出力することで、車両の走行動作を制御している。
【0102】
しかし、前記した実施形態であると、加速、減速又は停止時の車両挙動が安定しないという問題がある。例えば、加速時において前後進レバー17を前進方向にフルスロットルで操作すると、インバータJに入力される駆動指示値が0回転から目標駆動指示値まで一気に上昇する。この時、転圧輪用電動モータの出力が小さいため、加速時に発生している慣性力を抑えきれない。これにより、制御しきれない慣性分、転圧輪用電動モータの回転数が、目標駆動指示値に対して過回転状態になる。
【0103】
一方、減速、停止時においては、転圧輪用電動モータの制御として回生運動及び逆制動をかけることで減速する。減速、停止時において前後進レバー17をフルスロットル状態から中立位置に戻すと、転圧輪用電動モータに出力される駆動指示値が0回転まで一気に下降する。この時発生する制動トルクが転圧輪用電動モータの出力不足により制御しきれないため、停止時に制御しきれない制動トルク分の揺れ戻し動作が発生する。
【0104】
これらの課題について、より詳細に説明する。
図21は、始動時において、比較例の時間と回転数との関係を示すグラフである。
図21に示すように、細線は、前後進レバー17の入力を示している。前後進レバー17は、例えば、前進又は後進方向に最も傾倒させた状態(フルスロットル状態)となっている。
【0105】
点線は、比較例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を示している。つまり、制御部3から転圧輪用インバータへ出力する駆動指示値である。
図21に示す比較例では、目標駆動指示値P1は、約2200rpmとなっている。前後進レバー17が入力された時点を「加速側指示開始点W1」とし、転圧輪用電動モータの駆動指示値が目標駆動指示値P1に到達する点(計算上で到達する点)を「加速側目標回転数到達点N1」とし、加速側指示開始点W1と加速側目標回転数到達点N1とを結ぶ線を「第一段加速Q1」とする。比較例では、例えば、約3.0秒の間に0rpmから2200rpmまで到達する設定となっている。
【0106】
太線は、比較例の転圧輪用電動モータの回転数(実際の回転数)を示している。比較例の転圧輪用電動モータの回転数は、加速側指示開始点W1直後においては、駆動指示値となる第一段加速Q1よりも下回っている。一方、加速側目標回転数到達点N1に達した後は、加速時に発生している慣性力を抑えきれないため、転圧輪用電動モータの回転数が目標駆動指示値P1よりも所定の時間で上回っている。さらに、目標駆動指示値P1を若干下回った後、転圧輪用電動モータの回転数と目標駆動指示値P1とが一致するようになっている。つまり。当該比較例では、加速側目標回転数到達点N1以降、所定時間で転圧輪用電動モータが過回転状態となるため、車両挙動が不安定になっている。
【0107】
図22は、停止時において、比較例の時間と回転数との関係を示すグラフである。
図22に示すように、停止側においては、目標駆動指示値P2は0rpm(0回転)になっている。前後進レバー17がフルスロットル状態から中立位置に戻された時点を「減速側指示開始点W2」とし、転圧輪用電動モータの駆動指示値が目標駆動指示値P2に到達する点(計算上で到達する点)を「減速側目標回転数到達点N2」とし、減速側指示開始点W2と減速側目標回転数到達点N2とを結ぶ直線を「第一段減速Q2」とする。比較例では、例えば、約2.0秒の間に2200rpmから0rpmまで到達する設定となっている。
【0108】
比較例の転圧輪用電動モータの回転数は、減速側指示開始点W2直後においては、駆動指示値よりも上回っている。一方、減速側目標回転数到達点N2に達した後は、発生する制動トルクが転圧輪用電動モータの出力不足により制御しきれないため、転圧輪用電動モータの回転数が目標駆動指示値P2よりも所定の時間で下回っている。その後、転圧輪用電動モータの回転数と目標駆動指示値P2とが一致するようになっている。つまり、当該比較例では、減速側目標回転数到達点N2以降、所定の時間で転圧輪用電動モータが過回転状態となるため、車両挙動が不安定(停止時の揺れ戻し動作)になっている。
【0109】
<転圧輪用電動モータの過回転防止機構の構成・始動側>
図23は、比較例及び実施例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を、時間と回転数との関係で示すグラフである。実線は、実施例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を示している。点線は、比較例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を示している。
【0110】
図23の実線で示すように、実施例の始動時において、転圧輪用電動モータの駆動指示値に加速側変速点U1を備えるとともに、第一段加速Q3と、第二段加速Q4とを備えている。第一段加速Q3の傾き(加速度)は、比較例の第一段加速Q1の傾き(加速度)よりも大きく(急角度に)なっている。一方、第二段加速Q4の傾きは、比較例の第一段加速Q1の傾きよりも小さく(緩角度に)なっている。
【0111】
図24は、始動時において、実施例の時間と回転数との関係を示すグラフである。
図24では、点線が実施例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を示している。実線が実施例の転圧輪用電動モータの回転数を示している。実施例においても、転圧輪用電動モータの駆動指示値は、目標駆動指示値P1を2200rpmとし、前後進レバー17の入力時から3.0秒で目標駆動指示値P1に達するように設定されている。
【0112】
図24に示すように、実施例の始動時においては、加速側目標回転数到達点N1に臨む際の第二段加速Q4の傾きが、比較例の第一段加速Q1の傾きよりも小さく(緩角度)になっている。より詳しくは、実施例の始動時においては、第一段加速Q3の傾きが、比較例の第一段加速Q1(
図23参照)の傾きよりも大きいため、比較例よりも転圧輪用電動モータの回転数が急上昇する。その後、第二段加速Q4で比較例よりも緩やかに目標駆動指示値P1に到達する。これにより、転圧輪用電動モータが過回転することなく(若しくは過回転を小さくして)、目標駆動指示値P1に達することができる。よって、加速時の車両挙動を安定させることができる。
【0113】
<転圧輪用電動モータの過回転防止機構の構成・停止側>
図23の実線で示すように、実施例の停止側において、転圧輪用電動モータの駆動指示値に減速側変速点U2を備えるとともに、第一段減速Q5と、第二段減速Q6とを備えている。第一段減速Q5の傾き(減速度)は、比較例の第一段減速Q2の傾き(減速度)よりも大きく(急角度に)なっている。一方、第二段減速Q6の傾きは、比較例の第一段減速Q2の傾きよりも小さく(緩角度に)なっている。
【0114】
図25は、停止時において、実施例の時間と回転数との関係を示すグラフである。
図25では、点線が実施例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を示している。実線が実施例の転圧輪用電動モータの回転数を示している。実施例では、目標駆動指示値P2を0rpmとし、前後進レバー17が中立位置に戻ってから2.0秒で目標駆動指示値P2に達するように設定している。
【0115】
図25に示すように、実施例の停止時においては、減速側目標回転数到達点N2に臨む際の第二段減速Q6の傾きが、比較例の第一段減速Q2の傾きよりも小さく(緩角度)になっている。より詳しくは、実施例の停止時においては、第一段減速Q5の傾きが、比較例の第一段減速Q2(
図23参照)の傾きよりも大きいため、比較例よりも転圧輪用電動モータの回転数が急降下する。その後、第二段減速Q6で緩やかに目標駆動指示値P2に到達する。これにより、転圧輪用電動モータが過回転することなく(若しくは過回転を小さくして)、目標駆動指示値P2に達することができる。よって、減速時の揺れ戻しを防ぐとともに、車両挙動を安定させることができる。
【0116】
図26は、変形例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を、時間と回転数との関係で示すグラフである。
図26に示すように、変形例では、3段階で加速又は減速している。
図26の実線で示すように、変形例に係る始動側の転圧輪用電動モータの駆動指示値は、変速点U3,U4を備えるとともに、第一段加速Q11、第二段加速Q12及び第三段加速Q13を備えている。第三段加速Q13は、加速側目標回転数到達点N1に臨んでいる。第三段加速Q13の傾きは、比較例の第一段加速Q1よりも小さく(緩角度)になっている。これにより、第二実施形態と同じように、転圧輪用電動モータの過回転を防止することができる。
【0117】
図26の実線で示すように、変形例に係る停止側の転圧輪用電動モータの駆動指示値は、変速点U5,U6を備えるとともに、第一段減速Q14、第二段減速Q15及び第三段減速Q16を備えている。第三段減速Q16は、減速側目標回転数到達点N2に臨んでいる。第三段減速Q16の傾きは、比較例の第一段減速Q2よりも小さく(緩角度)になっている。これにより、第二実施形態と同じように、転圧輪用電動モータの過回転を防止することができる。変形例のように、変速点は始動側又は停止側において2点以上設けてもよい。
【0118】
前記したように、転圧輪用電動モータの過回転防止機構は、転圧輪用電動モータの駆動指示値に少なくとも一つの変速点があり、加速側目標回転数到達点N1及び減速側目標回転数到達点N2に臨む傾きを、比較例の傾きよりも小さく設定する。これにより、複数段階の変速域に分けて転圧輪用インバータに信号を出力し、転圧輪用電動モータの目標回転数に緩やかに到達させることができる。
【0119】
本実施形態の転圧輪用電動モータの過回転防止機構では、駆動指示値において、加速側目標回転数到達点N1及び減速側目標回転数到達点N2に臨む傾きを設定する際、加速側目標回転数到達点N1及び減速側目標回転数到達点N2から基準となる傾き(ここでは比較例の第一段加速Q1、第一段減速Q2の傾き)を設定し、当該傾きに対して傾きが小さくなるように(角度が緩くなるように)設定した。転圧輪用電動モータの過回転防止機構の駆動指示値については、前後進レバー17の傾倒角度に応じて予め設定された駆動指示値ファイルに基づいて設定してもよい。駆動指示値ファイルは、例えば、前後進レバー17の傾倒角度、目標駆動指示値、到達時間等に応じて変速点が予め設定されているデータファイルである。駆動指示値ファイルは、制御部3の記憶部に記憶されている。また、転圧輪用電動モータの過回転防止機構の駆動指示値については、例えば、検知された前後進レバー17の傾倒角度から制御部3が演算し、適宜算出するようにしてもよい。
【0120】
[第三実施形態・振動用電動モータの過回転防止機構]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態に係る電動ローラ1は、振動システムにおける振動用電動モータのM4の過回転を防止する振動用電動モータの過回転防止機構を備えている点で第一実施形態と相違する。第三実施形態では、第一実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0121】
<課題>
第二実施形態と同じように、振動用電動モータM4においても、起振軸130が偏心錘134を備えているため、振動の始動時及び停止時に目標駆動指示値に対して過回転状態となる場合がある。これにより、車両挙動が安定せず、オペレーターOPに違和感を与えることになる。
【0122】
<振動用電動モータの過回転防止機構の構成>
振動用電動モータの過回転防止機構は、制御部3から振動用インバータJ4に出力する駆動指示値に、変速点を設けている。変速点の設定の仕方は、第二実施形態と同じであるため詳細な説明は省略する。制御部3は、起振時に複数段階の変速域に分けて振動用インバータJ4に信号を出力し、振動用電動モータJ4の目標回転数に緩やかに到達させる。これにより、振動用電動モータM4が緩やかに目標回転数に達するため、過回転に起因する不安定な振動挙動を抑制することができる。
【0123】
また、制御部3は、振動停止時に複数段階の変速域に分けて振動用インバータJ4に信号を出力し、緩やかに停止させる。これにより、起振軸130の揺れ戻し現象が抑制され、安定的に起振軸130を停止させることができる。
【0124】
[第四実施形態・複数の誘導モータを同期制御させた際に発生するエネルギロスの低減]
次に、本発明の第四実施形態について説明する。
例えば、左右対称に配置された回転方向の異なる複数の誘導モータを同期駆動させた場合について、本出願人が案出した比較例と、本発明の第四実施形態とを比較対照して以下説明する。
【0125】
なお、以下に示す比較例では、「後輪右用電動モータM2」及び「後輪左用電動モータM3」を、それぞれ、「誘導モータM2」及び「誘導モータM3」と記載し、本実施形態では、「後輪右用電動モータM2」及び「後輪左用電動モータM3」を、それぞれ、「基準モータM2」及び「追従モータM3」と記載している。
【0126】
また、比較例及び本実施形態では、「後輪右用インバータJ2」及び「後輪左用インバータJ3」を、それぞれ、「第1インバータJ2」及び「第2インバータJ3」と記載している。さらに、第一実施形態~第三実施形態と同一の構成要素には、同一の参照符号を付している。
【0127】
本出願人が案出した比較例では、回転方向の異なる2台の誘導モータM2,M3を左右対称、且つ、同一軸上に物理的に接続された状態で配置している。
図28に示されるように、比較例では、このように配置された各誘導モータM2,M3を、第1インバータJ2(回転数制御用インバータ)及び第2インバータJ3(回転数制御用インバータ)を介して、それぞれ回転数制御して同時に駆動させることで、同期制御を行う。なお、「回転数制御」とは、目標回転数を設定し、各誘導モータM2,M3の実回転数が設定された回転数に合うように誘導モータM2,M3を制御する方法をいう。
【0128】
<課題>
比較例では、左右対称、且つ、同一軸上に配置された誘導モータM2,M3同士の制御動作が干渉し合い、モータトルクが拡散する結果、モータ負荷が上昇しエネルギロスが発生する。以下、このエネルギロスについて、具体的に説明する。
【0129】
比較例において、各誘導モータM2,M3は、それぞれ非同期モータで同一に構成されている。このため、誘導モータM2,M3が回転する際、回転磁界の回転数よりも実際の回転数が遅れて回転する滑り現象が発生する。このため、入力された目標回転数(駆動指示値)に対して実回転数は僅かに異なっている。
【0130】
比較例では、各誘導モータM2,M3毎に第1、第2インバータJ2,J3から入力された目標回転数と現在の実回転数とを比較し、目標回転数に合わせるためにトルクの調整を各誘導モータM2,M3で行っている(
図28参照)。このため、各誘導モータM2,M3同士が異なる回転方向にトルクの調整を行った結果、誘導モータM2,M3同士が干渉し合い、トルクの拡散が発生する。この結果、一旦トルクの拡散が開始すると誘導モータM2,M3が停止しない限り負荷が上昇し続け、誘導モータM2,M3のエネルギ効率が低下し、エネルギロスが発生する。
【0131】
図29に示す比較例において、特性曲線F1、F2は、それぞれ各誘導モータM2,M3のモータ回転数を示すグラフであり、特性曲線T1、T2は、それぞれ各誘導モータM2,M3のモータトルクを示すグラフである。この
図29の特性曲線T1と特性曲線T2とを比較して了解されるように、電動ローラ1の走り出し時は、特性曲線T1と特性曲線T2とのバランスが取れているが(40sec~50sec参照)、徐々に誘導モータM2のモータトルクが誘導モータM3のモータトルク側に引っ張られ(特性曲線T1が特性曲線T2側に引っ張られ)ている。100sec経過後では、右側の誘導モータM2と左側の誘導モータM3との間のトルクバランスが崩れている。これに対し、誘導モータM2,M3のモータ回転数の特性曲線F1,F2は、それぞれ一定のバランスが確保されている。
【0132】
さらに、エネルギロスに伴って、負荷が上昇し大電流が流れ続けることで各誘導モータM2,M3及び各第1、第2インバータJ2,J3の本体の温度が上昇するため(
図33参照。温度上昇については後述する)、最終的に機器が損壊するおそれがあり、長時間の駆動が困難となる。
【0133】
<目的>
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、左右対称、且つ、同一軸上に物理的に接続された複数の誘導モータを同期駆動する際、各誘導モータで発生しているトルクの拡散を抑制して安定化させ、エネルギ効率を向上させることが可能な電動ローラを提供することを目的とする。
【0134】
<第四実施形態の具体例>
本実施形態では、電動ローラ1の後輪R2を第1インバータ(回転数制御用インバータ)J2、第2インバータ(トルク制御用インバータ)J3、各誘導モータM2,M3を用いて駆動させる。なお、2台の各誘導モータM2,M3を左右対称、且つ、同一軸上に物理的に接続された状態で配置する点は、比較例と同一である。
【0135】
本実施形態では、左右対称に配置された2台の誘導モータM2,M3のうち、一方の誘導モータM2を第1インバータ(回転数制御用インバータ)J2によって回転数制御方法で制御し、他方の誘導モータM3を第2インバータ(トルク制御用インバータ)J3によってトルク制御方法で制御する。その際、回転数制御方法で制御している一方の誘導モータを基準モータM2とし、トルク制御方法によって制御している誘導モータを追従モータM3とする(
図27参照)。
【0136】
基準モータM2を回転数制御方法で制御したとき、発生した出力トルク(実トルク値)を駆動指示値としてトルク制御方法で制御している追従モータM3を制御する。すなわち、回転数制御方法で制御している基準モータM2と、この基準モータM2から出力された出力トルク値とを目標トルクとして追従モータM3をトルク制御方法で制御し、左右対称に配置された2台の誘導モータ(基準モータM2、追従モータM3)を同期駆動させることで電動ローラ1の後輪R2を制御する。
【0137】
換言すると、制御部3は、第1インバータ(回転数制御用インバータ)J2によって目標回転数に制御された一方の基準モータM2の実トルク値を取得し、この取得した実トルク値に基づいて他方の追従モータM3のトルクを制御する。なお、「基準モータの実トルク値の取得」は、例えば、基準モータM2の消費電流から実トルク値を演算(換算)してもよいし、又は、例えば、図示しないトルクセンサ等の検出素子を用いて実トルク値を検出してもよい。
【0138】
<第四実施形態の作用効果>
本実施形態では、第1インバータ(回転数制御用インバータ)及び第2インバータ(トルク制御用インバータ)を備えているため、速度制御及びトルク制御を容易に行うことができる。また、本実施形態では、左右対称に配置された2台の誘導モータ(基準モータM2、追従モータM3)を同期制御した場合、エネルギ効率が改善されると共に、バッテリKの充電サイクルを向上させることができる。具体的には、
図30に示されるように、基準モータM2と、追従モータM3とは、異なる回転方向で同量のトルクが出力され、基準モータM2のトルク特性曲線T1と、追従モータM3のトルク特性曲線T2とがそれぞれ対称となってバランスしている。
【0139】
図31は、比較例において、走行中の誘導モータM2の消費電流特性曲線A1と、走行中の誘導モータM3の消費電流特性曲線A2とをそれぞれ示したグラフである。本来であれば、誘導モータM2と誘導モータM3との消費電流は、同量であることが好ましいが、比較例では、例えば、100secを超えた時点から誘導モータM3の消費電流が誘導モータM2の消費電流よりも大きくなり、左側に配置された誘導モータM3の負荷が大きくなっている。
【0140】
図32は、本実施形態において、走行中の基準モータM2の消費電流特性曲線A1と、走行中の追従モータM3の消費電流特性曲線A2とをそれぞれ示したグラフである。
図32から了解されるように、基準モータM2の消費電流特性曲線A1と、追従モータM3の消費電流特性曲線A2とが略一致するようになっており、
図31の比較例と比較して、エネルギの消費効率が改善されている。
【0141】
図33は、比較例において、走行中の各誘導モータ及び各インバータの温度変化を示すグラフである。
図33において、TP1は、誘導モータM2の温度特性曲線、TP2は、誘導モータM3の温度特性曲線、TP3は、第1インバータJ2の温度特性曲線、TP4は、第2インバータJ3の温度特性曲線をそれぞれ示している。
図33から了解されるように、比較例では、100sec経過後、誘導モータM3及び第2インバータJ3の温度特性曲線TP2,TP4がそれぞれ急激に上昇している。また、195secの時点において、誘導モータM3の温度特性曲線TP2がサーチレーション状態となっている。
【0142】
図34は、本実施形態において、走行中の基準モータ、追従モータ、及び、第1、第2インバータの温度変化を示すグラフである。
図34において、TP1は、基準モータM2の温度特性曲線、TP2は、誘導モータM3の温度特性曲線、TP3は、第1インバータJ2の温度特性曲線、TP4は、第2インバータJ3の温度特性曲線をそれぞれ示している。
図34から了解されるように、基準モータM2の温度特性曲線TP1と、追従モータM3の温度特性曲線TP2とは、それぞれ略同一の温度変化を呈している。また、第1インバータJ2の温度特性曲線TP3と、第2インバータJ3の温度特性曲線TP4とは、それぞれ略同量の温度変化を呈している。この結果、本実施形態では、基準モータM2、追従モータM3及び第1、第2インバータJ2,J3がそれぞれ略同量の温度変化を呈している。
【0143】
図34に示されるように、本実施形態では、トルク負荷の上昇が抑制されることにより、基準モータM2、追従モータM3及び第1インバータJ2、第2インバータJ3の温度上昇が抑制されることで、長時間の走行ができる。
【0144】
さらに、本実施形態では、基準モータM2及び追従モータM3として、既存の誘導モータを安価で且つ容易に入手することができると共に、小型モータであっても大出力を得ることができ、搭載スペースの小さい搭乗型クラスの車両であっても容易に電動化することができる。
【0145】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において、適宜設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0146】
1 電動ローラ
2 車体フレーム
3 制御部
200A,200B ギヤボックス
M2 基準モータ
M3 追従モータ
J2 第1インバータ(回転数制御用インバータ)
J3 第2インバータ(トルク制御用インバータ)
K バッテリ