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特開2023-157294インジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法および装置
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  • 特開-インジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法および装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157294
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】インジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/62 20060101AFI20231019BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20231019BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20231019BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20231019BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20231019BHJP
【FI】
C09K11/62
C09K11/08 A
C09K11/08 G
C01G15/00 B
B82Y20/00
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067104
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】秋山 真之介
(72)【発明者】
【氏名】中村 太一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大哲
(72)【発明者】
【氏名】李 ヨン信
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CA01
4H001CA02
4H001CC13
4H001XA16
4H001XA29
4H001XA49
4H001XB10
4H001XB30
4H001XB60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】生成物の粒径ばらつきを抑制し、光学特性の低下がないインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】インジウムイオン源溶液を含むカチオン源溶液を作製する工程と、チオール基を有する親水性配位子を含む親水性配位子溶液を作製する工程と、アニオン源溶液を作製する工程と、カチオン源溶液と親水性配位子溶液とを混合して、カチオン-配位子混合溶液を作製する工程と、カチオン-配位子混合溶液とアニオン源溶液とを混合して、前駆体溶液を作製する工程と、前駆体溶液の中の前駆体成分の分子量を評価する工程と、前駆体溶液を加熱して、インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を得る、加熱工程と、加熱工程で加熱したインジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を冷却する工程と、冷却した前記インジウム含有量子ドット蛍光体溶液を洗浄・分離して、インジウム含有量子ドット蛍光体を得る工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともインジウムイオン源溶液を含むカチオン源溶液を作製する、カチオン源溶液作製工程と、
少なくともチオール基を有する親水性配位子を含む親水性配位子溶液を作製する、親水性配位子溶液作製工程と、
アニオン源溶液を作製する、アニオン源溶液作製工程と、
前記カチオン源溶液と前記親水性配位子溶液とを混合して、カチオン-親水性配位子混合溶液を作製する、カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程と、
前記カチオン-親水性配位子混合溶液と前記アニオン源溶液とを混合して、前駆体溶液を作製する、前駆体溶液作製工程と、
前記前駆体溶液の中の前駆体成分の分子量を評価する、前駆体溶液評価工程と、
前記前駆体溶液を加熱して、インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を得る、加熱工程と、
前記加熱工程で加熱した前記インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を冷却する、冷却工程と、
前記冷却工程で冷却した前記インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を洗浄・分離して、インジウム含有量子ドット蛍光体を得る、洗浄・分離工程と、
を含む、
インジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記親水性配位子は、カルボキシ基を含む、
請求項1に記載のインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記アニオン源溶液は、硫黄イオンを含む、
請求項1に記載のインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記インジウム含有量子ドット蛍光体は、I-III-VI族化合物のカルコパイライト構造を有する、
請求項1に記載のインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体溶液評価工程にて、
前記前駆体溶液に含まれる分子のうち、分子量300以上を有する分子の相対割合が50%以上検出した際に、
前記カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程と、前記冷却工程との間の送液が停止する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法。
【請求項6】
少なくともインジウムイオン源溶液を含むカチオン源溶液を準備する、カチオン源溶液準備部と、
少なくともチオール基を有する親水性配位子を含む親水性配位子溶液を準備する、親水性配位子溶液準備部と、
アニオン源溶液を準備する、アニオン源溶液準備部と、
前記カチオン源溶液と前記親水性配位子溶液とを混合して、カチオン-親水性配位子混合溶液を作製する、カチオン-親水性配位子混合溶液作製部と、
前記カチオン-親水性配位子混合溶液と前記アニオン源溶液とを混合して、前駆体溶液を作製する、前駆体溶液作製部と、
前記前駆体溶液を加熱して、インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を得る、加熱部と、
前記加熱部で加熱した前記インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を冷却する、冷却部と、
前記冷却部で冷却した前記インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を洗浄・分離して、インジウム含有量子ドット蛍光体を得る、洗浄・分離部と、
を含む、インジウム含有量子ドット蛍光体の製造装置であって、
前記カチオン-親水性配位子混合溶液作製部と、前記冷却部との間が、連続流路で構成され、
前記前駆体溶液作製部と、前記加熱部との間に、流路が分岐され、作製した前記前駆体溶液内の前駆体成分の分子量を評価する、前駆体溶液評価部をさらに含む、
インジウム含有量子ドット蛍光体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粒径によって発光波長を制御することができる量子ドット蛍光体に関し、特に、少なくともインジウムを含有する量子ドット蛍光体の製造方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ分野における高輝度・高演色に対する需要の高まりや、生体分野におけるバイオマーカーとしての用途展開への高まりにより、量子ドット蛍光体に注目が集まっている。量子ドット蛍光体は、同一組成、同一結晶構造を有していながら、その粒径の違いによって蛍光波長を変化させることができ、従来の無機蛍光体と比較して、所望の蛍光スペクトルを得られる特徴がある。例えば、一般的に知られているカドミニウムセレン(CdSe)量子ドット蛍光体は、その粒径をシングルナノオーダーで調整することによって、発光波長を500nm~650nmの範囲で自由に調整することができる。
一方、Cdは、その毒性の高さゆえに、製品中における含有量が世界各国で規制対象とされており、最近では毒性のない元素で構成される量子ドット蛍光体の開発が進んでいる。また、バイオマーカーとして利用する際には生体内に導入することもあり、水溶液中で製造可能であることも求められている。
【0003】
毒性のない元素で構成され、かつ水溶液中で製造可能な量子ドット蛍光体として、銅(Cu)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、および、硫黄(S)を含有するCu1-xInS-ZnS混晶型の量子ドット蛍光体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この製造方法では、銅イオン源溶液と、インジウムイオン源溶液と、亜鉛イオン源溶液と、イオン同士の結合反応を抑制する配位子と、水とを混合して、カチオン混合溶液を作製する、カチオン混合溶液作製工程と、作製したカチオン混合溶液と、硫黄イオン源溶液とを混合して、前駆体溶液を作製する、前駆体溶液作製工程と、作製した前駆体溶液を容器に入れ、前駆体溶液が収容された容器を密閉する密閉工程と、密閉された容器内で加熱反応を生じさせる、加熱反応工程と、を有することを特徴とする。作製する量子ドット蛍光体は、いずれも毒性のない元素で構成されており、銅イオン源溶液に対する亜鉛イオン源溶液の仕込み濃度を調整することで発光波長を制御することができる。また、水溶液中で分散できる配位子(親水性配位子)を有しているため、水溶液中にて容易に製造することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-19299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の量子ドット蛍光体の製造方法では、銅イオン源溶液と、インジウムイオン源溶液と、亜鉛イオン源溶液と、イオン同士の結合反応を抑制する親水性配位子と、水とを混合して、カチオン混合溶液を作製する。このカチオン混合溶液作製工程の水溶液中において、インジウムイオンに対して親水性配位子が容易に配位するとともに、その配位状態が時間経過に伴って刻々と変化する。
【0006】
具体的には、例えば親水性配位子がチオール基やカルボキシル基を有する場合、チオール基やカルボキシ基の水素部が脱離し、インジウムイオンに対して配位するが、合成時間経過に伴って親水性配位子間で重合化が進み、インジウムイオンに対する配位状態が刻々と変化する。
【0007】
本発明者は、この時間経過に伴う配位状態の変化は、量子ドット蛍光体が生成するまでの反応過程に大きな影響を及ぼし、生成物の平均粒径にばらつきが発生するとともに、光学特性は低下するという課題があることを見出した。
【0008】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、光学特性の低下がないインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法は、少なくともインジウムイオン溶液を含むカチオン源溶液を作製する、カチオン源溶液作製工程と、少なくともチオール基を有する親水性配位子を含む親水性配位子溶液を作製する、親水性配位子溶液作製工程と、アニオン源溶液を作製する、アニオン源溶液作製工程と、カチオン源溶液と親水性配位子溶液とを混合して、カチオン-親水性配位子混合溶液を作製する、カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程と、カチオン-親水性配位子混合溶液とアニオン源溶液とを混合して、前駆体溶液を作製する、前駆体溶液作製工程と、前駆体溶液内の分子量を評価する、前駆体溶液評価工程と、前駆体溶液を加熱して、インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を得る、加熱工程と、加熱工程で加熱したインジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を冷却する、冷却工程と、冷却工程で冷却したインジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を洗浄・分離して、インジウム含有量子ドット蛍光体を得る、洗浄・分離工程と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法によれば、カチオン混合溶液作製時に発生するインジウムイオンと親水性配位子の配位状態を精密に制御できる、これによって、平均粒径のばらつきを抑制し、光学特性の低下がない量子ドット蛍光体の作製を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法のフローチャートである。
図2】実施の形態1に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造装置の構成を示す概略図であって、その連続流路で実行される、カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程から冷却工程までの各工程の詳細を示す概略図である。
図3】実施例および比較例における結果および判定を示す表1である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の態様に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法は、少なくともインジウムイオン源溶液を含むカチオン源溶液を作製する、カチオン源溶液作製工程と、少なくともチオール基を有する親水性配位子を含む親水性配位子溶液を作製する、親水性配位子溶液作製工程と、アニオン源溶液を作製する、アニオン源溶液作製工程と、カチオン源溶液と親水性配位子溶液とを混合して、カチオン-親水性配位子混合溶液を作製する、カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程と、カチオン-親水性配位子混合溶液とアニオン源溶液とを混合して、前駆体溶液を作製する、前駆体溶液作製工程と、前駆体溶液の中の前駆体成分の分子量を評価する、前駆体溶液評価工程と、前駆体溶液を加熱して、インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を得る、加熱工程と、加熱工程で加熱したインジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を冷却する、冷却工程と、冷却工程で冷却したインジウム含有量子ドット蛍光体溶液を洗浄・分離して、インジウム含有量子ドット蛍光体を得る、洗浄・分離工程と、を含む。
【0013】
第2の態様に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法は、上記第1の態様において、親水性配位子は、カルボキシ基を含んでもよい。
【0014】
第3の態様に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法は、上記第1又は第2の態様において、アニオン源溶液は、硫黄イオンを含んでもよい。
【0015】
第4の態様に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法は、上記第1から第3のいずれかの態様において、インジウム含有量子ドット蛍光体は、I-III-VI族化合物のカルコパイライト構造を有してもよい。
【0016】
第5の態様に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法は、上記第1から第4のいずれかの態様において、前駆体溶液評価工程にて、前駆体溶液に含まれる分子のうち、分子量300以上を有する分子の相対割合が50%以上検出した際に、カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程と、前記冷却工程との間の送液が停止してもよい。
【0017】
第6の態様に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造装置は、少なくともインジウムイオン源溶液を含むカチオン源溶液を準備する、カチオン源溶液準備部と、少なくともチオール基を有する親水性配位子を含む親水性配位子溶液を準備する、親水性配位子溶液準備部と、アニオン源溶液を準備する、アニオン源溶液準備部と、カチオン源溶液と親水性配位子溶液とを混合して、カチオン-配位子混合溶液を作製する、カチオン-親水性配位子混合溶液作製部と、カチオン-親水性配位子混合溶液とアニオン源溶液とを混合して、前駆体溶液を作製する、前駆体溶液作製部と、前駆体溶液を加熱して、インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を得る、加熱部と、加熱部で加熱したインジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を冷却する、冷却部と、冷却部で冷却したインジウム含有量子ドット蛍光体溶液を洗浄・分離して、インジウム含有量子ドット蛍光体を得る、洗浄・分離部と、を含む、インジウム含有量子ドット蛍光体の製造装置であって、カチオン-親水性配位子混合溶液作製部と、冷却部との間が、連続流路で構成され、前駆体溶液作製部と、加熱部との間に、流路が分岐され、作製した前駆体溶液内の分子量を評価する、前駆体溶液評価部をさらに含む。
【0018】
上記構成により、水溶液中において、インジウムイオンに対する親水性配位子の配位状態を精密に制御でき、平均粒径のばらつきを抑制し、光学特性の低下がない量子ドット蛍光体を作製することが可能となる。
【0019】
以下、実施の形態に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法及び製造装置について添付図面を参照しながら詳述する。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法のフローチャートを示す図である。図1に示すように、実施の形態1に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法は、カチオン源溶液作製工程と親水性配位子溶液作製工程とアニオン源溶液作製工程とを含む原材料準備工程P1と、カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程P2と、前駆体溶液作製工程P3と、前駆体溶液評価工程P4と、加熱工程P5と、冷却工程P6と、洗浄・分離工程P7と、を有している。
【0021】
図2は、実施の形態1に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造装置の構成を示す概略図であって、その連続流路50で実行される、カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程から冷却工程までの詳細を示す図(P2~P6のみ)である。
【0022】
<インジウム含有量子ドット蛍光体の製造方法>
(1)原材料準備工程P1は、親水性配位子を含む親水性配位子溶液を準備する親水性配位子溶液準備工程と、インジウムイオン源以外のカチオン源と、インジウムイオン源と、を含むカチオン源溶液を作製するカチオン源溶液作製工程と、アニオン源溶液を作製するアニオン源溶液作製工程と、を含む。各工程では、各原料を、それぞれ水と混合して原材料溶液を準備する。原材料準備工程P1では、親水性配位子溶液101、インジウムイオン源溶液以外のカチオン源溶液102、インジウムイオン源溶液103、アニオン源溶液104を原材料として準備する。
【0023】
親水性配位子溶液101で用いる親水性配位子は、例えば、メルカプト酢酸、2-メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸、システイン、N-アセチルシステイン、メルカプト琥珀酸、2-メルカプトエチルアミンなどの有機化合物を挙げることができる。これらの親水性配位子は、水に溶けるとチオール基の硫黄部が水に溶けているカチオンに配位する。これらの親水性配位子の中でもカルボキシ基を有するものは、カルボキシ基の中でも1重結合している酸素部においても、カチオンと配位することが知られており、反応をより制御するためにさらに好ましい。これらの親水性配位子を水と混合させることによって、親水性配位子溶液101を作製することができる。
【0024】
水に溶けてインジウムイオン以外のカチオンを発生させる化合物を、インジウムイオン源以外のカチオン源として用いることができる。例えば、インジウムイオン以外のカチオンを有する塩化物、硫化物、酢酸物、臭化物、硫酸物、および硝酸物などを挙げることができる。これらのインジウムイオン源以外のカチオン源を水と混合させることによって、インジウムイオン源溶液以外のカチオン源溶液102を作製することができる。
【0025】
また、水に溶けてインジウムイオンを発生させる化合物を、インジウムイオン源として用いることができ、例えば、塩化インジウム、塩化インジウム四水和物、過塩素酸インジウム、酢酸インジウム、臭化インジウム、硫酸インジウム、および硝酸インジウムなどを挙げることができる。これらのインジウムイオン源を水と混合させることによって、インジウムイオン源溶液103を作製することができる。
【0026】
さらに、水に溶けてアニオンを発生させる化合物を、アニオン源として用いることができる。特に、I-III-VI族化合物のカルコパイライト構造を有する量子ドット蛍光体の作製に利用される、硫黄イオンを発生させる化合物を選択することが好ましい。例えば、硫化ナトリウム、硫化ナトリウム五水和物、および硫化ナトリウム九水和物などを挙げることができる。これらのアニオン源を水と混合させることによって、アニオン源溶液104を作製することができる。
【0027】
(2)カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程P2は、親水性配位子溶液101と、インジウムイオン源溶液以外のカチオン源溶液102と、インジウムイオン源溶液103とを、それぞれ送液ポンプ105にて送液し、例えば、T字ミキサー106にて混合する工程である。これによって、連続流路50内にて親水性配位子溶液101-インジウムイオン源溶液以外のカチオン源溶液-インジウムイオン源溶液の混合液(カチオン-親水性配位子混合溶液)を作製する工程である。
【0028】
(3)前駆体溶液作製工程P3は、カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程P2にて作製した連続流路内のカチオン-浸水し恵配位子混合溶液に対して、アニオン源溶液104を送液ポンプ105にて送液し、例えば、T字ミキサー106にて混合する工程である。これによって、連続流路内にてカチオン混合溶液-アニオン源溶液の混合液(前駆体溶液)を作製する工程である。
【0029】
(4)前駆体溶液評価工程P4は、前駆体溶液作製工程P3にて作製した連続流路50内の前駆体溶液を、連続流路の分岐先にある開閉弁107を開けることによって、その溶液を採取し、前駆体成分、つまり、親水性配位子/インジウムイオン源以外のカチオン源/インジウムイオン源/アニオン源からなる成分の分子量を分子量評価装置108にて評価する工程である。分子量評価装置108としては、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析装置などが挙げられる。
【0030】
(5)加熱工程P5は、前駆体溶液作製工程P3にて作製した連続流路50内の前駆体溶液を加熱する工程である。例えば、図2に示すように、加熱装置109にて前駆体溶液を保持する連続流路50を加熱してもよい。この工程で量子ドット蛍光体が合成される。加熱工程P5における加熱の温度は、量子ドット蛍光体を合成できる温度であれば特に限定されない。例えば、加熱の温度は、100℃以上200℃以下とすることができる。また、加熱の時間は、前駆体溶液に含まれているカチオン源やアニオン源に応じて適宜変更することができ、量子ドット蛍光体を合成できる時間であれば特に限定されない。例えば、加熱の時間は0.5分以上60分以下とすることができる。
【0031】
(6)冷却工程P6は、加熱工程P5にて合成した連続流路50内の量子ドット蛍光体を含む溶液を冷却する工程である。例えば、図2に示すように、冷却装置110にて量子ドットを含む溶液を保持する連続流路50を冷却することで、加熱を止めてもよい。冷却工程P6における冷却温度は、加熱を止めることができる温度であれば特に限定されない。例えば、冷却温度は、0℃以上5℃以下とすることができる。また、冷却時間についても、加熱を止めることができる時間であれば特に限定されない。例えば、冷却時間は0.5分以上10分以下とすることができる。
【0032】
(7)洗浄・分離工程P7は、冷却工程P6の後に得られる溶液に含まれている不要な物質を除去するとともに、量子ドット蛍光体を分離する工程である。例えば、冷却工程P6の後に得られた溶液を遠沈管に移し、例えば、アルコール(例えば、2-プロパノールなど)を入れて遠心分離することによって、溶液中から沈殿物(量子ドット蛍光体)を分離できるとともに、上積み液を除去することによって、不要な物質を除去し、洗浄することができる。
【0033】
<インジウム含有量子ドット蛍光体の製造装置>
実施の形態1に係るインジウム含有量子ドット蛍光体の製造装置100は、カチオン源溶液準備部と、親水性配位子溶液準備部と、カチオン-配位子混合溶液作製部と、アニオン溶液準備部と、前駆体溶液作製部と、加熱部と、冷却部と、洗浄・分離部と、を備える。
【0034】
<カチオン源溶液準備部>
カチオン源溶液準備部は、例えば、インジウムイオン以外のカチオン源溶液102を保持するインジウムイオン以外のカチオン源溶液保持部52と、インジウムイオン源溶液103を保持するインジウムイオン源溶液保持部53とであってもよい。なお、インジウムイオン源溶液103を保持するインジウムイオン源溶液保持部53があればよく、インジウムイオン以外のカチオン源溶液102を保持するインジウムイオン以外のカチオン源溶液保持部52は必須ではない。
【0035】
<親水性配位子溶液準備部>
親水性配位子溶液準備部は、例えば、チオール基を有する親水性配位子を含む親水性配位子溶液101を保持する親水性配位子溶液保持部51と、を有してもよい。
【0036】
<カチオン-配位子混合溶液作製部>
カチオン-配位子混合溶液作製部は、例えば、インジウムイオン以外のカチオン源溶液及びインジウムイオン源溶液を送液している連続流路50と、親水性配位子溶液を混合するためのT字ミキサー106等の混合部材とを有してもよい。
【0037】
<アニオン溶液準備部>
アニオン溶液準備部は、例えば、アニオン源溶液を保持するアニオン源溶液保持部54であってもよい。
【0038】
<前駆体溶液作製部>
前駆体溶液作製部は、例えば、カチオン-親水性配位子混合溶液を送液している連続流路50と、アニオン源溶液とを混合するためのT字ミキサー106等の混合部材とを有してもよい。
【0039】
<前駆体溶液評価部>
前駆体溶液評価部は、分子量評価装置108を有してもよい。分子量評価装置108によって、前駆体溶液中の前駆体成分の分子量を評価する。前駆体溶液評価部は、前駆体溶液中の前駆体成分の分子量の前記分子量評価装置108で検出された全分子に対する分子量300以上の分子の相対割合が50%以上検出した場合、カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程と、冷却工程との間の送液が停止する。
【0040】
<加熱部>
加熱部は、例えば、前駆体溶液を保持する連続流路50を加熱する加熱装置109であってもよい。加熱装置109によって前駆体溶液を加熱して、インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を得る。
【0041】
<冷却部>
冷却部は、例えば、量子ドット蛍光体を含む溶液を保持する連続流路50を冷却する冷却装置110であってもよい。冷却装置110によってインジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を冷却する。
【0042】
<洗浄・分離部>
洗浄・分離部(図示せず)によって、冷却したインジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液を洗浄・分離して、インジウム含有量子ドット蛍光体を得る。例えば、インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液に含まれている不要な物質を除去するとともに、量子ドット蛍光体を分離する。具体的には、インジウム含有量子ドット蛍光体を含む溶液に、例えば、アルコール(例えば、2-プロパノールなど)を入れて遠心分離することによって、溶液中から沈殿物(量子ドット蛍光体)を分離する。上積み液を除去することによって、不要な物質を除去し、洗浄することができる。
【0043】
以下、製造する材料として、原材料準備工程P1のインジウムイオン源以外のカチオン源として、Cuイオン源とした場合に関して、実施例に基づき、さらに具体的な説明をするが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例)
(原材料準備工程P1)
カチオン源として塩化銅(I)(CuCl、関東化学株式会社製)、塩化インジウム(IV)四水和物(InCl・4HO、関東化学株式会社製)を、配位子としてN-アセチルシステイン(キシダ化学株式会社製)を、アニオン源として硫化ナトリウム九水和物(NaS・9HO、キシダ化学株式会社製)を用いて、以下の手順で各溶液を作製した。
(1)水における溶存酸素の除去
超純水に含まれている溶存酸素の除去を目的として、窒素ガスを約20分間バブリングした。
(2)親水性配位子溶液101の作製
上記(1)で準備した超純水220mlに配位子としてチオール基およびカルボキシ基を有するN-アセチルシステインを約24.0mmol加え攪拌することで、親水性配位子溶液101を作製した。
(3)インジウムイオン源溶液以外のカチオン源溶液102の作製
上記(1)で準備した超純水60mlにCuClを約0.8mmol加え、攪拌することで、銅イオン源溶液を作製した。
(4)インジウムイオン源溶液103の作製
上記(1)で準備した超純水220mlにInCl・4HOを約3.2mmol加え、攪拌することで、インジウムイオン源溶液103を作製した。
(5)アニオン源溶液104の作製
上記(1)で準備した超純水40mlにNaS・9HOを約4mmol加え、攪拌することで、硫黄イオン源溶液を作製した。
【0045】
(カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程P2)
はじめに、親水性配位子溶液101(流量:1.30ml/min)と銅イオン源溶液(流量:0.35ml/min)とをT字ミキサー106にて混合し、親水性配位子溶液101-銅イオン源溶液の混合液を作製した。その親水性配位子溶液101-銅イオン源溶液の混合液と、インジウムイオン源溶液103(流量:1.30ml/min)とをT字ミキサー106にて混合し、親水性配位子溶液101-銅イオン源溶液-インジウムイオン源溶液103の混合液(カチオン-親水性配位子混合溶液)を作製した。
【0046】
(前駆体溶液作製工程P3)
上記カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程P2にて作製したカチオン混合溶液と硫黄イオン源溶液(流量:0.189ml/min)とをT字ミキサー106にて混合し、カチオン-親水性配位子混合溶液-硫黄イオン源溶液の混合液(前駆体溶液)を作製した。
【0047】
(前駆体溶液評価工程P4)
連続流路の開閉弁107を開にすることで溶液を採取し、前駆体溶液内の全分子に対する分子量300以上の前駆体成分の分子の相対割合を評価した。
【0048】
(加熱工程P5)
加熱装置109の温度を130℃、連続流路内の溶液の加熱時間を2分として、加熱を実施した。
【0049】
(冷却工程P6)
冷却装置110の温度を0℃、連続流路内の溶液の冷却時間を15秒として、冷却を実施した。
【0050】
(洗浄・分離工程P7)
上記工程を経て、10分後、60分後、120分後にそれぞれ10ml採取し、得られた溶液を遠沈管に移し、溶液に対して2-プロパノールを2倍量添加した。その後、7000rpmの回転数で10分間遠心分離し、不要な物質を含む上澄み液を除去した。また、遠沈管底部に沈殿したCuInS系量子ドット蛍光体を真空乾燥し、粉末状物質を得た。
【0051】
■分析
(平均粒径)
上記洗浄・分離工程P7後に得られた粉末状物質を水に溶解させ、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(MT3000II、マイクロトラック・ベル製)により、平均粒子径を測定した。なお、ここでの平均粒子径は、メジアン径である。メジアン径とはレーザー回折・散乱法による粒度分布測定(JIS Z8825:2013、ISO13320)により求められる数値であって、粒度分布における中央径を意味する。
【0052】
(光学特性)
上記洗浄・分離工程P7後に得られた粉末状物質を水に溶解させ、量子効率測定装置(QE-2000、大塚電子株式会社製)により、量子効率を測定した。このときの励起波長は405nmとした。
【0053】
(比較例)
比較例では、実施例におけるカチオン-親水性配位子混合溶液作製工程P2において、親水性配位子溶液101と銅イオン源溶液、インジウムイオン源溶液を連続流路において送液する前に混合し、親水性配位子溶液101-銅イオン源溶液-インジウムイオン源溶液の混合液(カチオン混合溶液)として送液(流量:2.95ml/min)し、前駆体溶液作製工程P3にて硫黄イオン源溶液と混合したことを除いて、実施例に記載の内容と同様である。
【0054】
(判定方法)
図3の表1に、実施例および比較例における下記4点の結果および判定を示す。
1)前駆体溶液評価工程において評価した溶液中の全分子に対する、分子量300以上の分子の相対割合
2)10分後、60分後、120分後に採取したCuInS系量子ドット蛍光体の平均粒子径
3)10分後、60分後、120分後に採取したCuInS系量子ドット蛍光体の量子効率
4)10分後に採取したCuInS系量子ドット蛍光体の量子効率に対して、60分後、120分後に採取したCuInS系量子ドット蛍光体の量子効率の変化率
10分後に採取した量子ドット蛍光体の量子効率に対して、60分後、120分後に採取した量子ドットの量子効率の変化率が10%以内におさまっている場合、光学特性の低下がない量子ドット蛍光体が製造できたと判定し、〇(良)とした。一方で、10分後に採取した量子ドット蛍光体の量子効率に対して、60分後、120分後に採取した量子ドットの量子効率が少なくとも1つ以上10%以内におさまらなかった場合、光学特性の低下がない量子ドット蛍光体が製造できなかったと判定し、×(不良)とした。
【0055】
(結果)
図3の表1に示すように、実施例で得られた量子ドット蛍光体は、比較例で得られた量子ドット蛍光体と比較して、時間に対する量子効率の低下が全く見られないことが分かる。具体的に、実施例にて10分後に採取した量子ドット蛍光体の量子効率と60分後に採取した量子ドット蛍光体の量子効率との変化率は0%であり、120分後に採取した量子ドット蛍光体の量子効率との変化率は0.3%であった。一方、比較例にて10分後に採取した量子ドット蛍光体の量子効率と60分後に採取した量子ドット蛍光体の量子効率との変化率は12.0%であり、120分後に採取した量子ドット蛍光体の量子効率との変化率は23.8%であった。
【0056】
また、得られた量子ドット蛍光体の平均粒径を評価したところ、実施例の量子ドット蛍光体については時間ごとの平均粒径の変化がほとんどないのに対して、比較例の量子ドット蛍光体については時間ごとに平均粒径が変化していることが分かる。
【0057】
光学特性の低下、および平均粒径のばらつきについて要因を調べてみると、前駆体溶液評価工程P4において大きな違いを確認することができた。具体的には、実施例の前駆体溶液中に含まれる全分子に対して、分子量300以上の前駆体成分の分子の相対割合は総じて30%台であった。一方、比較例の前駆体溶液中に含まれる全分子に対して、分子量300以上の前駆体成分の分子の相対割合は総じて50%台から時間経過ごとに上昇傾向であった。これはインジウムイオンに対して配位子が容易に配位するとともに、その配位状態が時間経過に伴って刻々と変化することを示している。
【0058】
また、量子ドット蛍光体の作製後の連続流路を確認すると、実施例で作製した後の連続流路には閉塞要因となる付着物が見られなかったのに対して、比較例で作製した後の連続流路には閉塞要因になりうる付着物が見られた。連続流路の閉塞は量子ドット蛍光体を生産する場合において非常に大きな問題であり、閉塞の兆候を事前に把握して、送液を停止させることは非常に重要となることが分かる。
【0059】
以上から、本開示に係る製造方法によれば、平均粒径のばらつきを抑制し、光学特性の低下がない量子ドット蛍光体の作製を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0060】
P1:原材料準備工程
P2:カチオン-親水性配位子混合溶液作製工程
P3:前駆体溶液作製工程
P4:前駆体溶液評価工程
P5:加熱工程
P6:冷却工程
P7:洗浄・分離工程
50 連続流路
51 親水性配位子溶液保持部
52 インジウムイオン以外のカチオン源溶液保持部
53 インジウムイオン源溶液保持部
54 アニオン源溶液保持部
100 インジウム含有量子ドット蛍光体の製造装置
101:親水性配位子溶液
102:インジウムイオン源溶液以外のカチオン源溶液
103:インジウムイオン源溶液
104:アニオン源溶液
105:送液ポンプ
106:T字ミキサー
107:開閉弁
108:分子量評価装置
109:加熱装置
110:冷却装置
図1
図2
図3