(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157324
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池の運転方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0444 20160101AFI20231019BHJP
H01M 8/04791 20160101ALI20231019BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20231019BHJP
【FI】
H01M8/0444
H01M8/04791
H01M8/12 101
H01M8/12 102B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067163
(22)【出願日】2022-04-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2016年度~2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電基盤技術開発/燃料電池石炭ガス適用性研究/燃料電池モジュールの石炭ガス適用性研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000217686
【氏名又は名称】電源開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 直也
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA07
5H127AB28
5H127BA02
5H127BA07
5H127BA17
5H127BA19
5H127BA28
5H127BA57
5H127BB02
5H127DB04
5H127DC05
(57)【要約】
【課題】水素リッチガス等を燃料として使用する固体酸化物形燃料電池において、燃料入口部の温度上昇を抑制するとともに、炭素析出も抑制することができる、固体酸化物形燃料電池の運転方法を提供する。
【解決手段】水素又は水素リッチガスを燃料とする固体酸化物形燃料電池の運転方法であって、前記固体酸化物燃料電池の燃料入口部から前記燃料とともに二酸化炭素を供給する際に、前記二酸化炭素の供給量の上限を供給された前記燃料のガス組成から熱平衡計算によって算出する、固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素又は水素リッチガスを燃料とする固体酸化物形燃料電池の運転方法であって、
前記固体酸化物形燃料電池の燃料入口部から前記燃料とともに二酸化炭素を供給する際に、前記二酸化炭素の供給量の上限を供給された前記燃料のガス組成から熱平衡計算によって算出する、固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【請求項2】
前記燃料のガス組成を二酸化炭素注入機構の前系統において予め検出し、検出したガス組成から熱平衡計算プロセスを行うことによって炭素析出を回避する二酸化炭素注入可能量を算出し、二酸化炭素注入量を自動的に制御する、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、天然ガス、水素又はその他の燃料と酸素による酸化還元反応により電気を生成するシステムであり、アノード、カソード及び電解質から構成される。固体酸化物形燃料電池(SOFC,Solid Oxide Fuel Cell)は、電解質として、電極間に酸素イオン電導性の固体酸化物を使用する燃料電池である。アノード電極及びカソード電極は通常、電子伝導性のある多孔質で構成され、それぞれ、燃料の酸化及び酸素の還元のための触媒として作用する。SOFCの利点は、様々な燃料を用いて効率的にクリーンな発電を行うことができる点にある。また、SOFCの高い動作温度は、熱機関におけるエネルギー回生デバイスや、熱源供給システム(コジェネレーション)システムへの用途に適しており、全体としての燃料効率をさらに向上させることが可能となっている。
SOFCの固体電解質としてセラミックス電解質を使用する場合、十分なイオン伝導度を得るためには600℃以上の温度での運転が必要となる。しかし、運転温度が高過ぎるとセルの強度や耐久性を確保することが難しくなる。そのため、SOFCは、通常、700~1000℃で発電が行われる。
【0003】
特許文献1には、混合されたイオン/電子伝導性電解質を用いて固体電解質型の燃料電池スタックを作動する方法であって、固体電解質燃料電池スタックの要求された電力出力を判定すること、該判定された電力出力に応じて固体電解質燃料電池スタックの少なくとも一つの作動条件を制御すること、を含むことを特徴とする方法が記載されている。また、スタックのエネルギー変換効率を最適化するための方法として、要求された電力出力に応じてスタック温度を500~600℃あるいは650℃までの範囲で変更可能にすることが記載されている。さらに、燃料をスチーム、二酸化炭素等により希釈することにより、スタック温度を下げるのと同様の効果が得られることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
円筒横縞形SOFCでは、円筒内の上部から燃料が導入され、円筒外の下部から空気が導入されるが、セルスタックの温度分布は、上部から下部まで全体にフラットであることが理想である。一般的なSOFCの燃料設計である都市ガス(メタン)を使用した場合、発電室内の温度分布は、下部セル温度が空気流により比較的温度が低く、上部はメタンの吸熱反応(CH4+H2O=CO+3H2-206.1kJ/mol、CH4+2H2O=CO2+4H2-164.9kJ/mol)のため温度が低下する弓状の温度分布となる。
一方、SOFCに吸熱反応を伴わない純水素、又は吸熱反応が小さいガス組成である水素分の高い水素リッチガス等を使用する場合、メタンのような吸熱反応が無く、上部セル温度が上昇するため、機器保護のため出力を抑制して温度を下げなければならない。セルを冷却するために水蒸気添加や熱交換によるガス冷却等が考えられるが、水蒸気添加が過剰な場合、顕熱による熱損失や再循環ラインでの温度低下によるドレン化、ガス温度の低下によって発電室内温度が全体的に低下してしまう問題がある。このような問題は円筒横縞形SOFCだけではなく、平面形でも同様に生じ得る。
SOFCの燃料入口部に二酸化炭素を注入する機構(ノズル等)を設置し、二酸化炭素を水素リッチガス等と共に燃料入口部から注入した場合、セル内部でCO2+H2=CO+H2O-41.2kJ/molの逆シフト反応が起こる。この反応は平衡反応であるため、二酸化炭素濃度が高い燃料入口部付近にあるセルの上部ほど、平衡が右へ移動することとなる。また、この反応は吸熱反応であるため、水素リッチガス等を供給した場合のように上部セル温度が局部的に高温となるとき、上部セルの温度上昇を抑制する効果が高くなる。そのため、これまでよりも発電出力を上げることができる。また、二酸化炭素はガスなので、水蒸気添加の場合のようなドレン化の懸念が無く、低温の二酸化炭素でなければ発電室内温度を全体的に低下させることも無い。
なお、注入する二酸化炭素は、気体状態に限るものではない。
しかし、二酸化炭素を過剰に注入した場合、温度及び圧力条件によっては、炭素析出が発生し、セルが損傷してしまう懸念がある。また、炭素が電極上に析出した場合、発電性能が低下することも懸念される。
【0006】
本発明は、水素又は水素リッチガスを燃料として使用する固体酸化物形燃料電池において、燃料入口部の温度上昇を抑制するとともに、炭素析出も抑制することができる、固体酸化物形燃料電池の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]水素又は水素リッチガスを燃料とする固体酸化物形燃料電池の運転方法であって、
前記固体酸化物形燃料電池の燃料入口部から前記燃料とともに二酸化炭素を供給する際に、前記二酸化炭素の供給量の上限を供給された前記燃料のガス組成から熱平衡計算によって算出する、固体酸化物形燃料電池の運転方法。
[2]前記燃料のガス組成を二酸化炭素注入機構(ノズル等)の前系統において予め検出し、検出したガス組成から熱平衡計算プロセスを行うことによって炭素析出を回避する二酸化炭素注入可能量を算出し、二酸化炭素注入量を自動的に制御する、[1]に記載の固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水素又は水素リッチガスを燃料として使用する固体酸化物形燃料電池において、セルスタックの上部にあたる燃料入口部付近の温度上昇を抑制するとともに、炭酸ガスによる炭素析出も抑制することができる、固体酸化物形燃料電池の運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、円筒横縞形SOFCにおけるセルスタックの概念図である。
【
図2】
図2は、平衡計算により得られた三角線図である。
【
図3】
図3は、固体酸化物形燃料電池複合発電システムの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では本発明の実施形態を説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
本発明において、水素リッチガスは、水素分圧が全圧の50%以上となる水素成分の高いガスの総称のことであり、例えば、石炭ガスからCO2分離回収した水素成分の高いガスのことをいう。
【0011】
図1は、本実施形態のSOFCの運転方法を実施するための円筒横縞形SOFCにおけるセルスタックの一例を示す概念図である。
SOFCセルスタック100は、概して、燃料入口部1、発電部2、及び排気ガス出口部3に分けられる。さらに、燃料入口部1にH
2(A)を供給する燃料供給ライン11、燃料入口部1にCO
2(B)を供給する二酸化炭素供給ライン12、排気ガス(C)をSOFCセルスタックの外部に排出する排気ガス排出ライン13、排気ガス(C)の一部を排気ガス出口部3から燃料入口部1に循環させる再循環ライン14を備えている。
【0012】
燃料入口部1では、供給されたH2(A)とCO2(B)により、下記式の逆シフト反応が起こる。
CO2+H2→CO+H2O-41.2kJ/mol
発電部2では、空気極側から電解質中を移動してくる酸素イオン(O2-)が燃料極と電解質の界面で、供給されたH2(A)及び燃料入口部1での逆シフト反応により発生したCOと反応して、電子(e-)を放出すると同時に、下記式の反応により水蒸気(H2O)及び二酸化炭素(CO2)を生成する。
2H2+O2→2H2O
2CO+O2→2CO2
排気ガス出口部3では、下記式によりメタンが生成する。
CO+3H2→CH4+H2O+206.1kJ/mol
排気ガス出口部3からの排気ガス(C)の一部は排気ガス排出ライン13、再循環ライン14、燃料供給ライン11を通じて燃料入口部1に戻されて、燃料として利用される。
【0013】
石炭ガス化燃料複合発電(IGFC,Integrated coal Gasification Fuel cell Combined Cycle)のような石炭ガス由来の水素リッチガス等には、数%の炭素分(CO及びCO2等)が含まれるため、炭素析出する条件は、ガス化炉から供給される水素リッチガス等の組成を考慮しつつ、CO2の上限となる注入量を設定する必要がある。
そこで、炭素析出するガス組成を熱平衡計算にて理論的に算出し、ガス化炉変動により変化する水素リッチガス等の組成を測定しながら、熱平衡反応に照らしあわせ、炭素析出が発生しないCO2注入量の上限値に自動的に制御する。
【0014】
本実施形態では、SOFCの燃料極上で進む逆シフト反応等の燃料のガス組成に起因する熱平衡反応計算を計算機上で行い、炭素析出を回避できる発電条件について予め自動的に算出する。
以下に炭素析出領域を把握するための平衡計算の事例を示す。
仮に燃料のガス組成が、H2,CO2,CO,CH4とした場合、計算は、CO2+H2→CO+H2O、2H2+O2→2H2O、2CO+O2→2CO2、CO+3H2→CH4+H2O、CH4→C+2H2(炭素析出時のみ考慮)がすべて平衡に達していると仮定する。
【0015】
平衡計算により炭素析出しない上限のCO
2量は求められるが、視覚的に炭素-水素-酸素(C-H-O)三元状態図に炭素析出境界線を図示することもできる(
図2)。
図2は、境界線より上部(炭素リッチ側)が炭素析出領域となっている。例えば、この境界線は発電室の圧力が0.2MPa、温度が788Kであるときを示したものである。例えば、ガス組成(%)がH
2:28%、H
2O:37%、CO
2:35%である場合、炭素非析出領域に位置することから、CO
2は35%を上限に添加することができることがわかる。なお、ガス組成(%)は、当該ガスの分圧を全圧に対する百分率(%)で示したものである。
【0016】
図2中の●は炭素析出条件であり、○は炭素非析出条件である。これらの条件におけるC、H、Oの分圧(%)は表1に示すとおりである。
【0017】
【0018】
図3に示す固体酸化物形燃料電池複合発電システム200は、ガス化炉21と、シフト反応器22と、CO
2分離装置23と、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)24(CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)と、第1のガス分析装置25と、CO
2注入制御装置26と、第2のガス分析装置27と、固体酸化物形燃料電池(SOFC)28と、温度計測装置29と、再循環ブロア30と、ガスタービン発電機31と、を備えている。
ガス化炉21は、ガス化炉内におかれた石炭に水蒸気、空気、酸素、水素などを接触させて、一酸化炭素(CO)と水素(H
2)の混合物を生成する。
シフト反応器22は、ガス化炉21で生成した一酸化炭素(CO)に水蒸気(H
2O)を接触させて、二酸化炭素(CO
2)と水素(H
2)を生成する。
CO
2分離装置23は、シフト反応器22からの二酸化炭素(CO
2)及び水素(H
2)の混合物から、二酸化炭素(CO
2)を分離して、水素(H
2)リッチなガスを生成する。分離された二酸化炭素(CO
2)は、一部が二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)24に回収して利用、貯留される他は、CO
2注入制御装置26に送られる。水素(H
2)リッチなガスは、H
2、CO
2、CO、H
2O等を含んでおり、SOFCの燃料として使用される。
第1のガス分析装置25は、CO
2分離装置23からの水素(H
2)リッチなガスの組成を分析して、分析データをCO
2注入制御装置26に送信する。
CO
2注入制御装置26は、第1のガス分析装置25及び第2のガス分析装置27から送信されたガスの組成の分析データと、温度計測装置29からの温度データとに基づいて、水素(H
2)リッチなガスへの二酸化炭素(CO
2)注入量を制御する。
第2のガス分析装置27は、CO
2注入制御装置26からの水素(H
2)リッチなガスの組成を分析して、分析データをCO
2注入制御装置26に送信する。
固体酸化物形燃料電池28は、CO
2注入制御装置26からの水素(H
2)リッチなガスを燃料として発電を行う。固体酸化物形燃料電池28は燃料の入口側近傍及び排気ガスの出口側近傍に温度センサを備えており、温度計測装置29により温度を計測する。温度計測装置29からCO
2注入制御装置26に計測した温度データが送信される。
固体酸化物形燃料電池28の排気ガスは、一部が回収され燃料として再利用される他は、ガスタービン発電機31で発電に利用される。
再循環ブロア30は再循環ライン14上に配置され、固体酸化物形燃料電池28の排気ガス(一部)を燃料供給ライン11に戻す。
【符号の説明】
【0019】
1…燃料入口部;2…発電部;3…排気ガス出口部;11…燃料供給ライン;12…二酸化炭素供給ライン;13…排気ガス排出ライン;14…再循環ライン;21…ガス化炉;22…シフト反応器;23…CO2分離装置;24…二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS);25…第1のガス分析装置;26…CO2注入制御装置;27…第2のガス分析装置;28…固体酸化物形燃料電池(SOFC);29…温度計測装置;30…再循環ブロア;31…ガスタービン発電機;100…SOFCセルスタック;200…固体酸化物形燃料電池複合発電システム;A…H2;B…CO2;C…排気ガス