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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157325
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】圧電素子およびMEMSミラー
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/073 20230101AFI20231019BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20231019BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20231019BHJP
   H10N 30/079 20230101ALI20231019BHJP
   H02N 2/12 20060101ALI20231019BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20231019BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
H01L41/313
H01L41/047
H01L41/187
H01L41/319
H02N2/12
G02B26/10 104Z
G02B26/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067164
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】白野 貴士
(72)【発明者】
【氏名】張替 貴聖
【テーマコード(参考)】
2H045
2H141
5H681
【Fターム(参考)】
2H045AB01
2H045AB81
2H141MA12
2H141MB24
2H141MC09
2H141MD12
2H141MD16
2H141MD20
2H141MD24
2H141MF24
2H141MG04
2H141MG06
2H141MG10
2H141MZ03
2H141MZ06
5H681BB14
5H681BC00
5H681DD23
5H681DD39
5H681GG21
(57)【要約】
【課題】上部電極層が圧電層から剥離することを防止可能な圧電素子およびMEMSミラーを提供する。
【解決手段】圧電素子100において、下部電極層110、圧電層130および上部電極層150がこの順番で形成されている。さらに、圧電素子100において、圧電層130および上部電極層150の間に、界面層140が介在して形成されている。界面層140は、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成を含んでいる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極層、圧電層および上部電極層がこの順番で形成され、
さらに、前記圧電層および前記上部電極層の間に、前記圧電層および前記上部電極層のそれぞれの組成を含む界面層が介在して形成されている、
ことを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電素子において、
前記圧電層は、少なくとも鉛(Pb)を含み、
前記上部電極層は、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、インジウム(In)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)の少なくとも1つの組成を含み、
前記界面層は、少なくとも、Pbおよび前記上部電極層の組成を含む、
ことを特徴とする圧電素子。
【請求項3】
請求項2に記載の圧電素子において、
前記上部電極層は、少なくとも金(Au)を含み、
前記界面層は、AuPb、AuPb、AuPbのうち少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする圧電素子。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の圧電素子において、
前記界面層は、前記圧電層の上面に積層により形成されている、
ことを特徴とする圧電素子。
【請求項5】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の圧電素子において、
前記界面層は、積層された前記圧電層および前記上部電極層の界面に対する熱処理により形成されている、
ことを特徴とする圧電素子。
【請求項6】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の圧電素子において、
前記圧電層は、PbZrO、PbTiO、Pb(Zr,Ti)O、Pb(Mg1/3,Nb2/3)O、およびPb(Zn1/3,Nb2/3)Oの少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする圧電素子。
【請求項7】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の圧電素子と、
前記圧電素子により駆動される可動部と、
前記可動部に設置されたミラーと、を備える、
ことを特徴とするMEMSミラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子および当該圧電素子を備えるMEMSミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いて、レーザ光を走査しスクリーン等に画像を投影するMEMSミラーが開発されている。MEMSミラーは、駆動手段として、たとえば、Pb(Zr,Ti)O(チタン酸ジルコン酸鉛:PZT)を主成分とした圧電膜の両主面に電極を配置した圧電素子を備える。
【0003】
MEMSミラーは、たとえば、ヘッドアップディスプレイやヘッドマウントディスプレイ等の画像投影装置の他、レーザ光を用いて物体を検出するレーザレーダ等に用いられる。この場合、MEMSミラーは、高速かつ大きい振れ角で、長時間に亘り連続駆動される。
【0004】
以下の特許文献1には、下から順番に、基板層、絶縁層、下部密着改善層、下部電極層、圧電膜層、上部電極層、上部密着改善層および絶縁被覆膜を有する積層構造体が記載されている。この積層構造体では、上部電極層上の上部密着改善層から絶縁被覆膜が剥がれることが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-106353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにMEMSミラーが駆動される場合、圧電膜から上部電極が剥離することが起こり得る。この場合、MEMSミラーの振れ角が低下する等、MEMSミラーの動作が不安定になってしまう。上記特許文献1の積層構造体では、上部電極層の上から絶縁被覆膜が剥がれることを防止できるものの、圧電膜層と上部電極層との剥離を防止することはできない。
【0007】
かかる課題に鑑み、本発明は、上部電極層が圧電層から剥離することを防止可能な圧電素子およびMEMSミラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、圧電素子に関する。本態様に係る圧電素子は、下部電極層、圧電層および上部電極層がこの順番で形成され、さらに、前記圧電層および前記上部電極層の間に、前記圧電層および前記上部電極層のそれぞれの組成を含む界面層が介在して形成されている。
【0009】
本態様に係る圧電素子によれば、圧電層および上部電極層が、界面層を介して配置されており、界面層が、圧電層および上部電極層のそれぞれの組成を含むよう構成される。これにより、圧電層と上部電極層の密着性が向上し、上部電極層が圧電層から剥離することを防止できる。
【0010】
本発明の第2の態様は、MEMSミラーに関する。本態様に係るMEMSミラーは、上記第1の態様の圧電素子と、前記圧電素子により駆動される可動部と、前記可動部に設置されたミラーと、を備える。
【0011】
本態様に係るMEMSミラーによれば、ミラーの駆動により上部電極層が圧電層から剥離することを防止できる。よって、MEMSミラーの信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のとおり、本発明によれば、上部電極層が圧電層から剥離することを防止可能な圧電素子およびMEMSミラーを提供できる。
【0013】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係る、MEMSミラーの構成を示す平面図である。
図2図2は、実施形態に係る、MEMSミラーの動作を示す斜視図である。
図3図3は、実施形態に係る、MEMSミラーの他の構成を示す平面図である。
図4図4(a)~図4(d)は、それぞれ、実施形態に係る、界面層が膜形成される場合の、圧電素子の形成手順を模式的に示す断面図である。
図5図5(a)および図5(b)は、それぞれ、実施形態に係る、界面層が熱処理により形成される場合の、圧電素子の形成手順を模式的に示す断面図である。
図6図6は、実施形態に係る、圧電素子の他の構成を模式的に示す断面図である。
図7図7(a)および図7(b)は、それぞれ、圧電層と上部電極層との密着性に関する実験に係る、圧電素子を模式的に示す平面図である。
図8図8は、圧電層と上部電極層との密着性に関する実験に係る、各圧電素子において上部電極層が剥離した領域の数の結果を示す表である。
図9図9は、変更例に係る、圧電層、界面層および上部電極層の組成を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。便宜上、各図には互いに直交するX、Y、Z軸が付記されている。Z軸正方向は鉛直上方向である。
【0016】
<MEMSミラー>
図1は、MEMSミラー1の構成を示す平面図である。
【0017】
MEMSミラー1は、長方形の枠状の支持体10と、2つの駆動梁21、22と、音叉振動子30と、2つの駆動梁41、42と、音叉振動子50と、可動部61と、ミラー62と、4つの圧電素子100と、を備える。回転中心軸R10は、ミラー62の中心を通り、X軸方向に平行である。
【0018】
2つの駆動梁21、22は、回転中心軸R10に沿って延びており、それぞれ、音叉振動子30の振動中心30aのX軸負側およびX軸正側に接続されている。駆動梁21のX軸負側の端部は、支持体10に接続されており、駆動梁22のX軸正側の端部は、可動部61に接続されている。
【0019】
音叉振動子30は、回転中心軸R10に対して対称な構成を有しており、2つの連結部31と、2つのアーム部32と、を備える。2つの連結部31は、Y軸方向に延びており、それぞれ、振動中心30aのY軸正側およびY軸負側に接続されている。2つの連結部31の他端は、それぞれ、2つのアーム部32のX軸負側の端部に接続されている。2つのアーム部32は、X軸方向に延びている。
【0020】
2つの駆動梁41、42も、回転中心軸R10に沿って延びており、それぞれ、音叉振動子50の振動中心50aのX軸正側およびX軸負側に接続されている。駆動梁41のX軸正側の端部は、支持体10に接続されており、駆動梁42のX軸負側の端部は、可動部61に接続されている。
【0021】
音叉振動子50(2つの連結部51および2つのアーム部52)は、ミラー62の中心を通るY-Z平面を対称面として、音叉振動子30(2つの連結部31および2つのアーム部32)と対称に構成される。
【0022】
可動部61とミラー62は、回転中心軸R10に対して対称な構成を有している。可動部61は、平板形状を有する。ミラー62は、可動部61のZ軸正側の面に形成されている。
【0023】
圧電素子100は、連結部31およびアーム部32の2つの組、および、連結部51およびアーム部52の2つの組の、Z軸正側の面にそれぞれ形成される。圧電素子100は、連結部およびアーム部に跨がるL字形状を有する。圧電素子100は、電圧が印加されることにより、配置された部分(連結部およびアーム部)を振動させる。圧電素子100の構成については、追って図4(a)~図5(b)を参照して説明する。
【0024】
図2は、MEMSミラー1の動作を示す斜視図である。図2では、便宜上、支持体10の図示が省略されている。
【0025】
X軸方向に向かい合うアーム部32、52が同じ方向に撓み、音叉振動子30の2つのアーム部32が反対の方向に撓み、音叉振動子50の2つのアーム部52が反対の方向に撓むように、4つの圧電素子100に電圧が印加される。音叉振動子30、50の振動エネルギーにより、駆動梁22、42および可動部61により構成される振動子に、ねじれ振動が生じる。これにより、可動部61およびミラー62が、回転中心軸R10を中心として、反復的に回転振動する。
【0026】
なお、可動部61およびミラー62を反復的に回転振動させる構成は、図1に示す構成に限らず、図3のMEMSミラー2のように構成されてもよい。
【0027】
図3は、MEMSミラー2の構成を示す平面図である。図3において、図1と同じ構成には、便宜上、同じ符号が付されている。
【0028】
MEMSミラー2は、図1のMEMSミラー1と比較して、駆動梁21、22、41、42および音叉振動子30、50に代えて、ミアンダ形状を有する2つの駆動梁70を備える。2つの駆動梁70のX軸方向における内側の端部は、それぞれ、可動部61に接続される。2つの駆動梁70のX軸方向における外側の端部は、それぞれ、支持体10に接続される。駆動梁70は、ミアンダ形状を構成するように交互に連結された、複数の湾曲部71および複数の振動板72により構成される。圧電素子100は、複数の振動板72に形成されている。
【0029】
MEMSミラー2においても、可動部61およびミラー62が、回転中心軸R10を中心として反復的に回転振動するように、圧電素子100に電圧が印加される。圧電素子100に電圧が印加されると、圧電素子100が形成された振動板72が、Z軸正方向またはZ軸負方向に湾曲するように変形する。隣接する圧電素子100に印加する電圧の位相を逆相にすることで、隣接する2つの振動板72が逆方向に変位する。これにより、回転中心軸R10を中心として、これらの変位が蓄積され、可動部61およびミラー62が、反復的に回転振動する。
【0030】
<圧電素子>
図4(a)~(d)は、界面層140がスパッタ法により形成される場合の、圧電素子100の形成手順を模式的に示す断面図である。
【0031】
上記MEMSミラー1の連結部31、51およびアーム部32、52、ならびに、上記MEMSミラー2の振動板72は、シリコン(Si)基板により構成される。圧電素子100は、SiOなどの絶縁体膜を介して、これらのシリコン基板の上面に形成される。
【0032】
図4(a)に示すように、シリコン基板上に絶縁体膜を介して、下部電極層110および配向制御層120が、スパッタ法により順に形成される。
【0033】
下部電極層110は、金属電極膜により構成される。下部電極層110の材料は、たとえば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)などの金属や、酸化ニッケル(NiO)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化イリジウム(IrO)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)などの酸化物導電体などである。下部電極層110は、たとえば、2種以上のこれらの材料により構成される。下部電極層110は低い電気抵抗および高い耐熱性を有することが好ましい。このような観点から、本実施形態では、下部電極層110はPtにより構成される。
【0034】
配向制御層120は、ペロブスカイト構造で(001)面または(100)面に優先配向し、圧電層130を構成する組成の一部を添加物として含む。配向制御層120のペロブスカイト構造は、たとえば、PbTiO、(Pb,La)TiO、(Pb,La,Mg)TiO、およびLaNiOの少なくとも1つである。本実施形態では、配向制御層120のペロブスカイト構造は、(Pb,La,Mg)TiOである。
【0035】
配向制御層120が圧電層130を構成する組成の一部を添加物として含むことにより、圧電層130の配向が配向制御層120の配向である(001)面または(100)面に整合しやすくなるため、圧電層130をより安定的に(001)面または(100)面に配向させることができる。これにより、圧電素子100の圧電定数d31を高めることができる。
【0036】
図4(b)に示すように、図4(a)の積層構造の上面に、圧電層130が、スパッタ法により形成される。
【0037】
圧電層130は、ペロブスカイト構造で(001)面または(100)面に優先配向する。圧電層130のペロブスカイト構造は、PbZrO、PbTiO、Pb(Zr,Ti)O、Pb(Mg1/3,Nb2/3)O、およびPb(Zn1/3,Nb2/3)Oの少なくとも1つである。
【0038】
圧電層130が、上記組成の少なくとも1つを含むことにより、効率良く音叉振動子30(図1参照)および駆動梁70(図3参照)を駆動できる。なお、Pb(Mg1/3,Nb2/3)OおよびPb(Zn1/3,Nb2/3)Oは、PbZrOおよびPbTiOの少なくとも一方と合わせて用いられることにより、圧電定数が向上する。この場合、Pb(Mg1/3,Nb2/3)OおよびPb(Zn1/3,Nb2/3)Oが単独で用いられる場合よりも、圧電素子100の駆動力および駆動量を向上させることができる。
【0039】
本実施形態では、圧電層130のペロブスカイト構造は、Pb(Zr,Ti)Oである。Pb(Zr,Ti)Oは、結晶相境界(MPB:Morphotropic Phase Boundary)近傍組成である。
【0040】
配向制御層120が(001)面または(100)面に優先配向することにより、配向制御層120の上面に形成される圧電層130も、(001)面または(100)面に優先配向する。上記のように配向制御層120が圧電層130の組成を含んでいると、圧電層130は、形成時に、配向制御層120の上面から当該共通の組成を起点として成長する。これにより、圧電層130が、配向制御層120の配向に沿った配向で成長しやすくなる。したがって、圧電層130の配向が配向制御層120の配向である(001)面または(100)面に整合しやすくなるため、圧電層130がより安定的に(001)面または(100)面に配向される。
【0041】
図4(c)に示すように、図4(b)の積層構造の上面に、界面層140が、スパッタ法により形成される。
【0042】
界面層140は、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成を含む。本実施形態では、圧電層130は、Pb(Zr,Ti)O(チタン酸ジルコン酸鉛:PZT)により構成され、上部電極層150は、金(Au)により構成されているため、界面層140は、AuPb、AuPb、AuPbのうち少なくとも1つを含むよう構成される。
【0043】
図4(d)に示すように、図4(c)の積層構造の上面に、上部電極層150が、スパッタ法により形成される。
【0044】
上部電極層150は、導電性を有する金属電極膜により構成される。上部電極層150は、たとえば、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、インジウム(In)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)の少なくとも1つの組成を含む。本実施形態では、上部電極層150はAuにより構成される。
【0045】
図4(d)に示すように、圧電層130および上部電極層150の間に、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成を含む界面層140が介在して形成される。こうして、圧電素子100が完成する。
【0046】
圧電素子100の駆動の際には、下部電極層110と上部電極層150との間に制御電圧が印加される。制御電圧が印加されると、圧電層130の逆圧電効果により、圧電層130の振動が励起される。
【0047】
なお、上記のようにスパッタ法により界面層140を形成することに代えて、上記と同様の組成を有する界面層140が、熱処理により形成されてもよい。
【0048】
図5(a)、(b)は、界面層140が熱処理により形成される場合の、圧電素子100の形成手順を模式的に示す断面図である。
【0049】
図5(a)に示すように、シリコン基板上に絶縁体膜を介して、下部電極層110、配向制御層120、圧電層130および上部電極層150が、この順番で形成される。配向制御層120は、下部電極層110の上面に形成され、圧電層130は、配向制御層120の上面に形成され、上部電極層150は、圧電層130の上面に形成される。各層は、たとえば、スパッタ法により形成される。下部電極層110、配向制御層120、圧電層130および上部電極層150は、図4(a)~(d)の場合と同様の材料により構成される。
【0050】
図5(a)に示すように積層構造が形成された後、この積層構造(より詳細には、圧電層130および上部電極層150の界面)が所定温度で所定時間加熱される。この熱処理により、図5(b)に示すように、圧電層130および上部電極層150の間に、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成を含む界面層140が介在して形成される。すなわち、圧電層130と上部電極層150とによって界面層140が挟まれている。
【0051】
上記のように界面に対して熱処理が行われる場合、界面層140には、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成を含む合金が分布する。本実施形態では、圧電層130は、Pb(Zr,Ti)O(チタン酸ジルコン酸鉛:PZT)により構成され、上部電極層150は、金(Au)により構成されている。また、加熱温度は、213℃~418℃である。したがって、本実施形態の界面層140は、AuPb、AuPb、AuPbのうち少なくとも1つを含む。
【0052】
上記の合金(AuPb、AuPb、AuPb)は、圧電層130と上部電極層150との界面付近において、加熱温度、加熱時間およびZ軸方向の位置に応じて生成される。たとえば、213℃~418℃の温度範囲で加熱が行われる際、加熱温度が高いとAuPbが生成されやすく、加熱温度が低いとAuPbが生成されやすくなる。また、圧電層130と上部電極層150との間において、上部電極層150に近いとAuPbが生成されやすく、圧電層130に近いとAuPbが生成されやすい。
【0053】
こうして、図5(b)に示すように、圧電素子100が完成する。
【0054】
なお、図4(d)および図5(b)の圧電素子100は、下部電極層110、配向制御層120、圧電層130、界面層140および上部電極層150により構成されたが、図4(d)および図5(b)の構成に基板を加えた構成を圧電素子200としてもよい。
【0055】
図6は、圧電素子200の構成を模式的に示す断面図である。図6において、図4(d)および図5(b)と同じ構成には、便宜上、同じ符号が付されている。
【0056】
圧電素子200は、基板210と、下部電極層110と、配向制御層120と、圧電層130と、界面層140と、上部電極層150と、を備える。
【0057】
基板210は、たとえば、シリコン(Si)基板、MgOのようなNaCl型構造を有する酸化物基板、SrTiO、LaAlO、およびNdGaOのようなペロブスカイト型構造を有する酸化物基板、Alのようなコランダム型構造を有する酸化物基板、MgAlのようなスピネル型構造を有する酸化物基板、TiOのようなルチル型構造を有する酸化物基板、(La,Sr)(Al,Ta)O、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)のような立方晶系の結晶構造を有する酸化物基板などである。基板210は、たとえば、ガラス基板、アルミナのようなセラミクス基板、およびステンレスのような金属基板の表面に、NaCl型の結晶構造を有する酸化物薄膜を積層することによって形成される。基板210は、Si単結晶基板であることが好ましい。
【0058】
また、基板210の表面には、エピタキシャル成長する中間層が配置される。中間層の材料は、たとえば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、CeOのようなホタル石型構造を有する材料、MgO、BaO、SrO、TiN、およびZrNのようなNaCl型構造を有する材料、SrTiO、LaAlO、(La,Sr)MnO、および(La,Sr)Coのようなペロブスカイト型構造を有する材料、γ-AlおよびMgAlのようなスピネル型構造を有する材料などである。中間層は、たとえば、上記の2種類以上の材料により構成され、具体的には、CeO/YSZ/Siである。なお、中間層の材料はSiOであってもよく、中間層は省略されてもよい。
【0059】
下部電極層110は、基板210の表面に配置された中間層の上面(中間層が省略される場合は基板210の上面)に形成される。なお、基板210と下部電極層110との間に、両者の密着性を向上させる密着層が配置されてもよい。密着層の材料は、たとえばTiである。密着層の材料は、W、Ta、Fe、Co、Ni、Crまたはこれらの化合物でもよい。密着層は、2種以上のこれらの材料により構成されてもよい。密着層は、基板210と下部電極層110との密着性に応じて、省略されてもよい。
【0060】
下部電極層110の形成後、図4(a)~(d)または図5(a)、(b)で説明したように、下部電極層110の上面に、配向制御層120、圧電層130、界面層140および上部電極層150が形成される。
【0061】
なお、図6に示すように圧電素子200が形成された後、エッチング等により基板210が除去されてもよい。圧電素子200から基板210が除去されることにより、図4(d)および図5(b)に示した圧電素子100を取得できる。
【0062】
ところで、一般的な圧電素子では、圧電層130の上面に直接的に上部電極層150が形成されることにより、圧電素子の形成が完了する。このような圧電素子がMEMSミラー1、2に組み込まれて駆動されると、上部電極層150が圧電層130から剥離することが起こり得る。この場合、ミラー62の振れ角が低下する等、ミラー62の動作が不安定になってしまう。
【0063】
これに対し、本実施形態では、図4(a)~(d)に示した形成手順および図5(a)、(b)に示した形成手順のいずれの場合も、圧電層130と上部電極層150との間に界面層140が設けられ、界面層140は、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成を含んでいる。このため、界面層140と、その上下の上部電極層150および圧電層130とが高い親和性で結合する。これにより、界面層140を介して、圧電層130と上部電極層150との密着性が高められるため、上部電極層150が圧電層130から剥離することを防止できる。よって、たとえば、圧電素子100、200が高速かつ大きい振れ角で、長時間にわたって連続駆動されたとしても、MEMSミラー1、2を安定的に動作させることができる。
【0064】
<密着性に関する実験>
次に、発明者らが行った圧電層130と上部電極層150との密着性に関する実験について説明する。
【0065】
図7(a)、(b)は、実験に用いた圧電素子300を模式的に示す平面図である。
【0066】
図7(a)に示すように、発明者らは、基板210、下部電極層110、配向制御層120、圧電層130および上部電極層150を備える圧電素子300を作製した。発明者らは、図6の圧電素子200と同様、基板210をシリコン(Si)により構成し、下部電極層110を白金(Pt)により構成し、配向制御層120を(Pb,La,Mg)TiOにより構成し、圧電層130をPb(Zr,Ti)Oにより構成し、上部電極層150を金(Au)により構成した。
【0067】
発明者らは、図7(a)に示す圧電素子300に対して、それぞれ、加熱により界面層140の有無を設定した。すなわち、1つの圧電素子300については、界面層140を形成せず、他方の圧電素子300については、図5(b)と同様、界面層140を形成した。
【0068】
その後、発明者らは、図7(b)に示すように、各圧電素子300の上部電極層150の上面に対してカッターで格子状の切り込みB1を作製し、1つの圧電素子300に対して1辺が1mmの正方形形状の領域R1を25個形成した。そして、発明者らは、各圧電素子300において形成された25個の領域R1を観察し、上部電極層150が圧電層130から剥がれた領域R1を数えた。
【0069】
図8は、2つの圧電素子300において、上部電極層150が剥離した領域R1の数(剥離数)の結果を示す表である。
【0070】
「界面層なし」の圧電素子300では、圧電層130と上部電極層150との間に、図4(d)、図5(b)および図6に示したような界面層140が形成されていない。このため、25個の領域R1のうち11個の領域R1において、上部電極層150が剥離した。このような圧電素子300がMEMSミラー1、2に組み込まれて駆動されると、上部電極層150の剥離により、MEMSミラー1、2の動作が不安定になる。
【0071】
一方、「界面層あり」の圧電素子300では、圧電層130と上部電極層150との間に、図4(d)、図5(b)および図6に示したような界面層140が形成されている。このため、25個の領域R1の全てにおいて、上部電極層150は剥離しなかった。このように、圧電層130と上部電極層150との間に、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成を含む界面層140が形成されると、圧電層130と上部電極層150との密着性が高められる。したがって、このような圧電素子300がMEMSミラー1、2に組み込まれて駆動されると、上部電極層150が圧電層130から剥離することを防止できる。
【0072】
<実施形態の効果>
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
【0073】
圧電層130および上部電極層150が、界面層140を介して配置されており、界面層140が、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成を含むよう構成される。これにより、圧電層130と上部電極層150の密着性が向上し、上部電極層150が圧電層130から剥離することを防止できる。
【0074】
圧電層130は鉛(Pb)を含み、上部電極層150は金(Au)を含む。界面層140は、PbおよびAuを含み、具体的には、AuPb、AuPb、AuPbのうち少なくとも1つを含む。これにより、圧電層130と上部電極層150の密着性を高めることができる。
【0075】
図4(a)~(d)に示した製法では、界面層140は、圧電層130の上面に積層により形成されている。これにより、下部電極層110から上部電極層150までの一連の積層工程により、界面層140を形成できる。
【0076】
図5(a)、(b)に示した製法では、界面層140は、積層された圧電層130および上部電極層150の界面に対する熱処理により形成されている。これにより、圧電層130と上部電極層150との間の界面層140において、積層方向に組成が遷移する。すなわち、圧電層130と上部電極層150との間に明確な境界が生じにくくなる。これにより、圧電層130および上部電極層150との密着性が高められる。
【0077】
MEMSミラー1、2は、圧電素子100により駆動される可動部61と、可動部61に設置されたミラー62と、を備える。上述したように、圧電素子100において、圧電層130と上部電極層150との間に界面層140が介在して形成されているため、MEMSミラー1、2において、たとえばミラー62が長時間にわたって駆動されたとしても、上部電極層150が圧電層130から剥離することを防止できる。よって、MEMSミラー1、2の信頼性を高めることができる。
【0078】
<圧電層、界面層および上部電極層の組成の変更例>
上記実施形態では、圧電層130はPb(Zr,Ti)Oにより構成され、上部電極層150は金(Au)により構成されたことにより、界面層140は、AuPb、AuPb、AuPbのうち少なくとも1つを含むように構成された。しかしながら、圧電層130および上部電極層150が他の組成により構成される場合、界面層140は、上記以外の組成により構成されてもよい。
【0079】
図9は、圧電層130、圧電層130、界面層140および上部電極層150の組成の変更例を示す表である。
【0080】
圧電層130は、Pb(Zr,Ti)Oに限らず、PbZrO、PbTiO、Pb(Mg1/3,Nb2/3)O、およびPb(Zn1/3,Nb2/3)Oの少なくとも1つを含むように構成されてもよい。圧電層130が、これらの組成のいずれを含む場合でも、圧電層130は鉛(Pb)を含むことになり、界面層140に含められる圧電層130の組成はPbとなる。
【0081】
上部電極層150は、金(Au)に限らず、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、インジウム(In)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)の少なくとも1つを含むように構成されてもよい。
【0082】
上部電極層150がAu、Pt、Pd、Zr、Mgである場合、界面層140の合金が、予め生成された上で、スパッタ法により圧電層130の上面に形成される。これにより、圧電層130および上部電極層150の界面に、圧電層130のPbと上部電極層150の金属とからなる合金が分布する界面層140が形成される。
【0083】
具体的には、上部電極層150がAuにより構成される場合、上述したように、界面層140は、AuとPbの合金であるAuPb、AuPb、AuPbの少なくとも1つを含む。上部電極層150がPtにより構成される場合、界面層140は、PtとPbの合金であるPtPb、PtPb、PtPbの少なくとも1つを含む。上部電極層150がPdにより構成される場合、界面層140は、PdとPbの合金であるPdPb、PdPb、Pd13Pb、PdPb、PdPbの少なくとも1つを含む。上部電極層150がZrにより構成される場合、界面層140は、ZrとPbの合金であるPbZr、PbZrの少なくとも1つを含む。上部電極層150がMgにより構成される場合、界面層140は、MgとPbの合金であるMgPbを含む。
【0084】
このように、スパッタ法によって形成された界面層140が、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成からなる合金を含むことにより、上部電極層150と圧電層130との密着性が高まる。このため、圧電素子100、200の駆動により上部電極層150が圧電層130から剥離することを防止できる。
【0085】
なお、上記のような合金がスパッタ法によって形成されることに代えて、界面層140の合金が、圧電層130および上部電極層150の界面に対する熱処理により形成されてもよい。この場合も、界面層140が、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成からなる合金を含むことにより、界面層140と、その上下の上部電極層150および圧電層130とが高い親和性で結合する。このため、圧電素子100、200の駆動により上部電極層150が圧電層130から剥離することを防止できる。また、界面層140が熱処理により形成されることにより、界面層140において積層方向に組成が遷移する。これにより、圧電層130および上部電極層150との密着性が高められる。
【0086】
上部電極層150がAg、Al、Cu、In、Mn、Ni、Ti、Znである場合、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成からなる混晶が、スパッタ法により圧電層130の上面に形成される。この場合、積層により形成された界面層140が、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成からなる混晶を含むことにより、界面層140と、その上下の上部電極層150および圧電層130とが高い親和性で結合する。このため、圧電素子100、200の駆動により上部電極層150が圧電層130から剥離することを防止できる。
【0087】
なお、上記のような混晶がスパッタ法によって形成されることに代えて、圧電層130および上部電極層150が重ね合わされた状態で、圧電層130および上部電極層150の界面に熱処理が施されてもよい。これにより、圧電層130および上部電極層150の界面付近に、圧電層130のPbと上部電極層150の金属とにより形成される混晶が分布する界面層140が形成される。
【0088】
このように、熱処理によって形成された界面層140が、圧電層130および上部電極層150のそれぞれの組成からなる混晶を含むことにより、界面層140と、その上下の上部電極層150および圧電層130とが高い親和性で結合する。このため、圧電素子100、200の駆動により上部電極層150が圧電層130から剥離することを防止できる。また、界面層140が熱処理により形成されているため、圧電層130と上部電極層150との間の界面層140において、積層方向に混晶状態が遷移する。これにより、圧電層130および上部電極層150との密着性が高められる。
【0089】
<その他の変更例>
MEMSミラー1、2および圧電素子100、200の構成は、上記実施形態および変更例に示した構成以外に、種々の変更が可能である。
【0090】
上記実施形態および変更例において、圧電素子100、200がさらに他の層を含んでいてもよい。たとえば、下部電極層110と配向制御層120との間に他の層が形成されてもよい。また、配向制御層120は省略されてもよい。
【0091】
上記実施形態および変更例では、下部電極層110、配向制御層120、圧電層130および上部電極層150は、スパッタ法により形成されたが、CSD法、パルスレーザー堆積法(PLD法)、化学気相成長法(CVD法)、ゾルゲル法、またはエアロゾル堆積法(AD法)、真空蒸着法などの薄膜形成手法により形成されてもよい。また、図4(c)に示したように、界面層140が圧電層130の上面に膜形成される場合、界面層140は、スパッタ法により形成されたが、CSD法、パルスレーザー堆積法(PLD法)、化学気相成長法(CVD法)、ゾルゲル法、またはエアロゾル堆積法(AD法)、真空蒸着法などの薄膜形成手法により形成されてもよい。
【0092】
上記実施形態および変更例では、圧電素子100、200は、MEMSミラー1、2の一部として用いられたが、圧電素子100、200は、たとえば、MEMS素子、ミラーアクチュエータ、波長可変フィルタ、インクジェットヘッドなどの他の装置に組み込まれてもよい。
【0093】
この他、本発明の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1、2 MEMSミラー
61 可動部
62 ミラー
100、200 圧電素子
110 下部電極層
130 圧電層
140 界面層
150 上部電極層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9