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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157333
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】紫外線発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20231019BHJP
   H01L 33/22 20100101ALI20231019BHJP
   H01L 33/16 20100101ALI20231019BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
H01L33/32
H01L33/22
H01L33/16
H01S5/343 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067182
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬嗣
【テーマコード(参考)】
5F173
5F241
【Fターム(参考)】
5F173AF07
5F173AF13
5F173AG13
5F173AG17
5F173AH22
5F173AP05
5F173AR23
5F241AA03
5F241CA05
5F241CA13
5F241CA40
5F241CA65
5F241CB36
(57)【要約】
【課題】電力変換効率WPEを向上させることが可能な紫外線発光素子を提供する。
【解決手段】紫外線発光素子は、基板と、第1主面と、前記第1主面の反対側に位置する第2主面とを有する基板と、前記基板の前記第1主面上に配置された第1導電型半導体層と、前記第1導電型半導体層上に配置された多重量子井戸構造と、前記多重量子井戸構造上に配置された電子ブロック層と、前記電子ブロック層上に配置された第2導電型半導体層と、を有する。前記多重量子井戸構造は、AlxGa1-xN(0.7≦x<1)で構成される量子井戸層とAlyGa1-yN(y>x)で構成される障壁層とがN周期繰り返し積層した構造を有する。前記量子井戸層の膜厚TW[nm]と前記多重量子井戸構造の周期数Nとが、以下の式(a)から(c)をすべて満たす。
TW × N < 50・・・(a)
N < 8・・・(b)
TW > 4・・・(c)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面と、前記第1主面の反対側に位置する第2主面とを有する基板と、
前記基板の前記第1主面上に配置された第1導電型半導体層と、
前記第1導電型半導体層上に配置された多重量子井戸構造と、
前記多重量子井戸構造上に配置された電子ブロック層と、
前記電子ブロック層上に配置された第2導電型半導体層と、を有し、
前記多重量子井戸構造は、AlxGa1-xN(0.7≦x<1)で構成される量子井戸層とAlyGa1-yN(y>x)で構成される障壁層とがN周期繰り返し積層した構造を有し、
前記量子井戸層の膜厚TW[nm]と前記多重量子井戸構造の周期数Nとが、以下の式(a)から(c)をすべて満たす紫外線発光素子。
TW × N < 50・・・(a)
N < 8・・・(b)
TW > 4・・・(c)
【請求項2】
前記第1導電型半導体層と前記多重量子井戸構造との間に、AlaGa1-aN層(aは前記第1導電型半導体層側から前記多重量子井戸構造側にかけて0.87以上0.92以下の範囲で連続的または段階的に増加する)層を更に備える、請求項1に記載の紫外線発光素子。
【請求項3】
前記多重量子井戸構造と前記第2導電型半導体層との間に、AlcGa1-cN層(cは前記多重量子井戸構造側から前記第2導電型半導体層側にかけて0.15以上0.95以下の範囲で連続的または段階的に減少する)層を更に備える請求項1または2に記載の紫外線発光素子。
【請求項4】
前記膜厚TW[nm]は、前記多重量子井戸構造に含まれる全ての前記量子井戸層の膜厚の平均値である、請求項1に記載の紫外線発光素子。
【請求項5】
前記障壁層の膜厚が、2nm以上20nm以下である請求項1に記載の紫外線発光素子。
【請求項6】
波長が220nm以上240nm以下の光を放出する、請求項1に記載の紫外線発光素子。
【請求項7】
前記基板の前記第2主面上に凸部、または凹部を備える請求項1に記載の紫外線発光素子。
【請求項8】
前記凸部は、側面が(10―1―1)面から構成される角錐型を含む請求項7に記載の紫外線発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外線発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の紫外線発光素子としては、例えば特許文献1、2に開示されているように、多重量子井戸構造を備えたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6727185号公報
【特許文献2】特許第6391207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、電力変換効率WPE(Wall Plug Efficiency)を向上させることが可能な紫外線発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る紫外線発光素子は、第1主面と、前記第1主面の反対側に位置する第2主面とを有する基板と、前記基板の前記第1主面上に配置された第1導電型半導体層と、前記第1導電型半導体層上に配置された多重量子井戸構造と、前記多重量子井戸構造上に配置された電子ブロック層と、前記電子ブロック層上に配置された第2導電型半導体層と、を有する。前記多重量子井戸構造は、AlxGa1-xN(0.7≦x<1)で構成される量子井戸層とAlyGa1-yN(y>x)で構成される障壁層とがN周期繰り返し積層した構造を有する。前記量子井戸層の膜厚TW[nm]と前記多重量子井戸構造の周期数Nとが、以下の式(a)から(c)をすべて満たす。
TW × N < 50・・・(a)
N < 8・・・(b)
TW > 4・・・(c)
【0006】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電力変換効率WPEを向上させることが可能な紫外線発光素子を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の具体例1に係る紫外線発光素子を示す断面図である。
図2図2は、実施形態の具体例1に係る多重量子井戸構造を示す断面図である。
図3図3は、実施形態の具体例2に係る紫外線発光素子を示す断面図である。
図4図4は、量子井戸層となるAlxGa1-xN層(0.7≦x<1)のAl組成と臨界膜厚との関係を示すグラフである。
図5図5は、量子井戸層となるAlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の繰り返しの周期数Nと紫外線発光素子の駆動電圧(V)との関係を示すグラフである。
図6図6は、量子井戸層となるAlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の1層当たりの膜厚TWと、キャリア注入効率ηinjとの関係を示すグラフである。
図7図7は、式(a)から(c)を全て満たす範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
<実施形態の紫外線発光素子>
本発明の実施形態の紫外線発光素子は、第1主面と、第1主面の反対側に位置する第2主面とを有する基板と、基板の第1主面上に配置された第1導電型半導体層と、第1導電型半導体層上に配置された多重量子井戸構造と、多重量子井戸構造上に配置された電子ブロック層と電子ブロック層上に配置された第2導電型半導体層と、を有する。多重量子井戸構造は、AlxGa1-xN(0.7≦x<1)で構成される量子井戸層とAlyGa1-yN(y>x)で構成される障壁層とがN周期繰り返し積層した構造を有する。量子井戸層の膜厚TW[nm]と多重量子井戸構造の周期数Nとが、以下の式(a)から(c)をすべて満たす。
TW × N < 50・・・(a)
N < 8・・・(b)
TW > 4・・・(c)
【0011】
一般に、多重量子井戸構造の繰り返し構造のうちバンドギャップが小さい方の層は量子井戸層(Quantum Well層)または単に井戸層と称され、バンドギャップが大きい方は障壁層と称される。
実施形態の紫外線発光素子は、上記の構造を採用することにより、電力変換効率(WPE)を向上させることができる。
【0012】
WPEについて詳しく説明する。
WPEは、以下の式(1)で示される。
WPE=Pout/(Iop×V)…(1)
式(1)において、Poutは紫外線発光素子の出力(mW)であり、Iopは紫外線発光素子に流れる電流(mA)であり、Vは紫外線発光素子の駆動電圧(V)である。
式(1)からわかるように、出力(mW)を大きくし、駆動電圧(V)を小さくすることで、紫外線発光素子の電力変換効率(WPE)を高めることができる。
【0013】
また、紫外線発光素子の外部量子効率ηEQEは、以下の式(2)で示される。
ηEQE=ηinj×ηrad×ηextr…(2)
式(2)において、ηinjはキャリア注入効率、ηredは内部量子効率、ηextr光取り出し効率である。式(2)からわかるように、キャリア注入効率等を高めることで、ηEQEを高めることができる。
【0014】
ここで、Pout≒ηEQEである。実施形態の紫外線発光素子は、上記の構造を採用することにより、内部量子効率の低下を抑制した状態で、低い駆動電圧と高いキャリア注入効率とを両立させる。具体的には、式(a)の規定により内部量子効率の低下が抑制される。式(b)の規定により低い駆動電圧が実現される。式(c)の規定により高いキャリア注入効率が実現される。これにより、実施形態の紫外線発光素子は、電力変換効率(WPE)を向上させることが可能となる。
【0015】
キャリア注入効率とは、例えば、量子井戸層内に注入された電流量と、紫外線発光素子内部に流れる電流の比で定義される。一般的に、キャリア注入効率を向上させるためには、量子井戸層AlxGa1-xNと障壁層AlyGa1-yNに対して、y+0.3>xとなることが強く望まれる。しかし、量子井戸層にAlxGa1-xN(0.7≦x<1)を用いた場合、物性上の観点からy+0.3>xを実現することは不可能であり、キャリア注入効率向上のためには別の方法が必要となる。
【0016】
なお、内部量子効率とは、例えば、紫外線発光素子の結晶内部で発生する単位時間あたりの光量子数と、紫外線発光素子に流れる電流(すなわち、紫外線発光素子を流れる単位時間あたりの電子数)との比で定義される。この比は、例えば百分率(%)で示される。
光取り出し効率とは、例えば、紫外線発光素子の結晶内部で発生した光と、紫外線発光素子の外部に取り出される光の量との比で定義される。この比は、例えば例えば百分率(%)で示される。
外部量子効率とは、例えば、紫外線発光素子の外部に放出される単位時間あたりの光量子数と、紫外線発光素子に流れる電流(すなわち、紫外線発光素子を流れる単位時間あたりの電子数)との比で定義される。この比は、例えば百分率(%)で示される。
【0017】
また、多重量子井戸構造は、量子井戸層となるAlxGa1-xN層(0.7≦x<1)と障壁層となるAlyGa1-yN層(y>x)の繰り返し構造であることによって中心発光波長は220nm以上240nm以下となり、波長の短い紫外線を高い外部量子効率で発光することが可能となる。
障壁層となるAlyGa1-yN層(y>x)の膜厚は特に制限されないが、内部量子効率の観点から2nm以上20nm以下であることが好ましい場合がある。
【0018】
<基板>
実施形態の紫外線発光素子の基板は、第1主面と、第1主面の反対側に位置する第2主面とを有し、第1主面上に第1導電型半導体層を配置することが可能なものであれば特に制限されない。具体的には、基板として、窒化アルミニウム基板、サファイア基板、GaN基板などが挙げられる。基板上に結晶性の高い半導体層を配置する観点から、基板は窒化アルミニウム基板であることが好ましく、単結晶窒化アルミニウム基板であることがより好ましい場合がある。ここで、実施形態の紫外線発光素子の説明において、「Aの上にBを配置する」とは、Aの表面上に直接Bを配置する形態と、Aの表面から別の物質を介して間接的にBを配置する形態の両方を意味する。例えば、基板の表面から別の物質(一例として、窒化アルミニウム(AlN)層)を介して間接的に第1導電型半導体層が配置されていてもよい。
【0019】
<第1導電型半導体層>
実施形態の紫外線発光素子の第1導電型半導体層は、その上に多重量子井戸構造を配置することが可能なものであれば特に制限されない。第1導電型半導体層の具体的な膜組成の一例としては、AlN、GaN、InNおよびこれらの混晶が挙げられる。
ここで第1導電型半導体層および第2導電型半導体層とは、それぞれ異なる導電型を示す半導体層であることを意味する。すなわち、一方がn型導電性を示す場合、他方がp型導電性を示すものであることを意味する。n型導電性を示す半導体層を得る方法は特に制限されないが、例えばSiをn型ドーパントとして用いたn-AlGaNが挙げられる。同様に、p型導電性を示す半導体層を得る方法も特に制限されないが、例えばMgをp型ドーパントとして用いたp-AlGaNが挙げられる。特に制限されないが、結晶性や表面平坦性の観点から、第1導電型半導体層がn型半導体層であることが好ましい場合がある。
【0020】
第1導電型半導体層の材料は特に制限されないが、一例としてはAlGaN、GaNなどが挙げられる。結晶性の高い多重量子井戸構造を配置する観点から、第1導電型半導体層はn-AlGaNであることが好ましい場合がある。第1導電型半導体層としてn-AlGaNを採用する場合、電気伝導性や第1導電型半導体層における光吸収の観点からAl組成が0.70以上1.0以下であることがより好ましい場合がある。Al組成とは、Al原子とGa原子の合計に対するAl原子の割合を意味する。
第1導電型半導体層の厚さは特に制限されないが、駆動電圧あるいは結晶性の観点から300nm以上1.5μm以下が好ましい場合がある。
【0021】
<第2導電型半導体層>
実施形態の紫外線発光素子の第2導電型半導体層は、多重量子井戸構造上に配置されるものであれば特に制限されない。第2導電型半導体層の具体的な膜組成の一例としては、AlN、GaN、InNおよびこれらの混晶が挙げられる。電気伝導や接触抵抗の観点から、第2導電型半導体層はp-AlGaNであることが好ましい場合がある。
第2導電型半導体層の厚さは特に制限されないが、高い光出力を実現するという観点から、5nm以上110nm以下であることが好ましく、さらに15nm以上90nm以下がより好ましい。
【0022】
<電子ブロック層>
実施形態の紫外線発光素子は、電子をブロックして多重量子井戸構造に電子をより注入させるという観点から、多重量子井戸構造と第2導電型半導体層との間に、AlbGa1-bN層(b>x)を更に備えてもよい。AlbGa1-bN層(b>x)は電子ブロック層とも呼ばれる。
【0023】
<グレーデッド層>
実施形態の紫外線発光素子は、界面でのポテンシャル不連続性を低減し、第1導電型半導体層から多重量子井戸構造への電子あるいは正孔の注入効率を向上させるという観点から、第1導電型半導体層と多重量子井戸構造との間に、AlaGa1-aN層(aは第1導電型半導体層側から多重量子井戸構造側にかけて0.87以上0.92以下の範囲で連続的または段階的に増加する)を更に備えてもよい。Al組成が連続的または段階的に変化する層はグレーデッド層とも称される。
【0024】
なお、実施形態において、AlaGa1-aN層のaは0.87未満や0.92を超過する範囲を含むことを妨げるものではない。例えば、AlaGa1-aN層のaは、0以上1以下であり、第1導電型半導体層側から多重量子井戸構造側にかけて連続的または段階的に増加するものであってもよい。このような場合も、AlaGa1-aN層のaは0.87以上0.92以下の範囲で連続的または段階的に増加する構成を含むため、実施形態のAlaGa1-aN層に含まれる。
グレーデッド層の膜厚は1.0nm以上30nm以下であることが望ましく、2nm以上20nm以下であることがより好ましい。
さらに、グレーデッド層にはC、H、Si、Mgなどの不純物が含まれていてもよく、不純物の種類はこれらに限定されない。
【0025】
また、実施形態の紫外線発光素子は、第2導電型半導体層から多重量子井戸構造への電子あるいは正孔の注入効率を向上させるという観点から、多重量子井戸構造と第2導電型半導体層との間に、AlcGa1-cN層(cは多重量子井戸構造側から第2導電型半導体層側にかけて0.15以上0.95以下の範囲で連続的または段階的に減少する)層を更に備えていてもよい。このとき、AlcGa1-cN層のcは0.15未満や0.95を超過する範囲を含むことを妨げるものではない。例えば、AlcGa1-cN層のcは、0以上1以下であり、多重量子井戸構造側から第2導電型半導体層側にかけて連続的または段階的に減少するものであってもよい。このような場合も、AlcGa1-cN層のcは0.15以上0.95以下において連続的または段階的に減少する構成を含むため、実施形態のAlcGa1-cN層に含まれる。
【0026】
<凹凸部>
また、実施形態の紫外線発光素子は光取り出し効率を向上させるという観点から、基板の第2主面上に凸部、または凹部を備えても良い。凹凸部は、図3に示すように基板10に第2主面10b上に直接設けられても良い。また、凹凸部は、基板10の第2主面10b上に設けられた異なる材料の層の表面に設けられても良い。すなわち、凹凸部は基板10の第2主面10b上に、直接又は間接的に設けられていれば良い。
凸部は、円錐、角錐、半球型、長方形、錐台など多様な凸形状・密度により設けられて良い。基板10がAlN単結晶である際に、安定した結晶面により物理的耐性、化学的耐性の高い凸形状を実現する観点から、凸部は側面が(10―1-1)面からなる角錐型を含むことが好ましい。凸部の大きさは特に制限されないが、高さ0.05μm以上10μm以下であることが好ましく、0.1μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0027】
凹部は、円錐、角錐、半球型、長方形、錐台など多様な凹形状・密度により設けられて良い。基板10がAlN単結晶である際に、安定した結晶面により物理的耐性、化学的耐性の高い凹形状を実現する観点から、凹部は側面が(10―1-1)面からなる角錐型を含むことが好ましい。凹部の大きさは特に制限されないが、深さ0.05μm以上10μm以下であることが好ましく、0.1μm以上3μm以下であることが好ましい。
なお、本発明で凸部あるいは凹部を設ける場合は、凸部のみで構成されていてもよく、凹部のみで構成されていてもよく、凸部と凹部が混在していても良い。また、凸部は凸部形状の異なる複数の凸部が混在していても良い。また、凹部は凹部形状の異なる複数の凹部が混在していても良い。
【0028】
<電極>
実施形態の紫外線発光素子は、多重量子井戸構造に電子および正孔を効率的に注入するために電極を備えていてもよい。電極は特に制限されないが、第1導電型半導体層と電気的に接続される第1電極と、第2導電型半導体層と電気的に接続される第2電極であってもよい。電極は物理的に接触する層とオーミック接続となることが好ましい。
第1電極、あるいは第2電極にはAl、Au、Ti、Ni、Va、Cr、Rh、Mo、Pt、Taなどの金属あるいはこれらの混晶が挙げられる。
【0029】
<発光波長>
実施形態の紫外線発光素子は、波長が220nm以上240nm以下の光を放出するものであることが好ましく、中心発光波長が220nm以上230nm以下の光を放出するものであることがより好ましい。例えば多重量子井戸構造における量子井戸層のAl組成を0.7以上1未満にすることで、発光波長を220nm以上240nm以下にすることができる。
【0030】
<絶縁層>
実施形態に係る紫外線発光素子は、信頼性の観点から表面の少なくとも一部が絶縁層で覆われていてもよい。絶縁層の材料としては特に制限されないが、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0031】
<測定方法>
(膜厚測定)
実施形態の紫外線発光素子の各層の膜厚は、基板の第1主面に垂直な所定断面を切り出して、この断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、TEM測長機能を使用することで測定できる。測定方法としては、先ず、TEMを用いて、窒化物半導体素子の基板の第1主面に対して垂直な断面を観察する。具体的には、例えば、窒化物半導体素子の基板の第1主面に対して垂直な断面を示すTEM画像内の、基板の第1主面に対して平行な方向において2μm以上の範囲を観察幅とする。この観察幅の範囲において、組成の異なる二層の界面にはコントラストが観察されるので、この界面までの厚さを、幅200nmの連続する観察領域で観察する。この200nm幅の観察領域内に含まれる各層の厚さの平均値を、上記2μm以上の観察幅から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層の膜厚を得る。
【0032】
(組成測定)
実施形態の紫外線発光素子の各層の組成の測定法として、X線回折(XRD:X-Ray Diffaction)法による逆格子マッピング測定(RSM:Reciprocal Space Mapping)が挙げられる。具体的には、非対称面を回折面として得られる回折ピーク近傍の逆格子マッピングデータを解析することにより、Al組成が得られる。上記回折面としては、例えば(10-15)面や(20-24)面が挙げられる。
【0033】
また、量子井戸層やグレーデッド層などのXRDで十分な反射強度が得られない層については、X線光電分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)、および電子エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy-Loss Spectroscopy)によって測定することができる。
【0034】
EELSでは、電子線が試料を透過する際に失うエネルギーを測定することで、試料の組成を分析する。具体的には、例えば、TEM観察等で使用する薄片化試料において、透過電子線の強度のエネルギー損失スペクトルを測定・解析する。そして、エネルギー損失量20eV付近に現れるピークのピーク位置が、各層の組成に応じて変化することを利用し、ピーク位置から組成を求めることができる。
上述のTEM観察による層厚算出方法と同様にして、観察幅200nmにおけるAl組成の平均値を、2μm以上の観察領域から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層のAl組成を得る。
EDXでは、上述のTEM観察等で使用する薄片化試料において電子線によって発生する特性X線を測定・解析する。上述のTEM観察による層厚算出方法と同様にして、観察幅200nmにおけるAl組成の平均値を、2μm以上の観察領域から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層のAl組成を得る。
【0035】
XPSでは、イオンビームを用いたスパッタエッチングを行いながらXPS測定を行うことで、深さ方向の評価が可能である。イオンビームには一般的にAr+が用いられるが、XPS装置に搭載されたエッチング用イオン銃で照射できるイオンであれば、例えばArクラスターイオンなどの他のイオン種でもよい。Al、Ga、NのXPSピーク強度を測定・解析して各層のAl組成の深さ方向分布を得る。スパッタエッチングの代わりに、基板の第1主面に対して垂直な断面が拡大されて露出されるようにレーザダイオードを斜め研磨して、露出断面をXPSで測ってもよい。
【0036】
XPSだけでなくオージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)を用いても各層の組成を測定できる。この場合、スパッタエッチングあるいは斜め研磨により露出させた断面においてオージェ電子分光法による測定を行うことで、組成を測定できる。また、斜め研磨により露出させた断面に対するSEM-EDX測定によっても、各層の組成を測定できる。実施形態の紫外線発光素子の多重量子井戸構造の繰り返し周期の数は、量子井戸層の数で定義され、上記と同様にTEM観察により測定することが可能である。
【0037】
(発光波長測定)
実施形態の紫外線発光素子の発光波長は、フォトルミネッセンス(PL)測定により測定することが可能である。以下、PL測定の詳細について説明する。
PL測定では、量子井戸層のバンドギャップエネルギーよりも大きなエネルギーを持つレーザ光を、試料表面から45度程度傾いた角度で照射する。その際に、レンズを用いて試料へ照射するスポット径を小さくしてもよいし、フィルタを用いてレーザ光の強度を変えてもよい。照射されたレーザ光によって、試料の量子井戸層では電子が伝導体に励起され、電子正孔対を生成する。その後、励起された電子は基底状態に戻り、正孔との再結合の過程でバンドギャップに応じた波長の光を発生させる。発生させた光はサンプル直上から取得する。取得した光は回折格子を通すことで光を波長ごとに分解して、試料の発光波長を測定できる。
【0038】
<具体例>
次に、図面を参照して実施形態の具体例を示す。なお、以下の説明で参照する図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚さや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0039】
また、以下の説明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本開示の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば上下は左右に変換して読まれ、180°回転して観察すれば上下は反転して読まれることは勿論である。
また、以下に示す具体例はあくまで一例であり、実施形態は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0040】
(具体例1)
図1は、実施形態の具体例1に係る紫外線発光素子1を示す断面図である。図1に示すように、紫外線発光素子1は、第1主面10aと、第1主面10aの反対側に位置する第2主面10bとを有する基板10と、基板10の第1主面10a上に配置された窒化アルミニウム(AlN)層11と、AlN層11上に配置された第1導電型半導体層12と、第1導電型半導体層12上に配置されたAlaGa1-aN層13と、AlaGa1-aN層13上に配置された多重量子井戸構造14と、多重量子井戸構造14上に配置されたAlbGa1-bN層15と、AlbGa1-bN層15上に配置されたAlcGa1-cN層16と、AlcGa1-cN層16上に配置された第2導電型半導体層17と、を備える。
【0041】
第1導電型半導体層12は、例えばn型半導体層である。第2導電型半導体層17は、例えばp型半導体層である。
AlaGa1-aN層13は、正孔ブロッキング層である。AlaGa1-aN層13は、第1導電型半導体層12と多重量子井戸構造14との間に配置されている。AlaGa1-aN層13において、Al組成を示すaは、第1導電型半導体層12側から多重量子井戸構造14側にかけて0.87以上0.92以下の範囲で連続的または段階的に増加する。
【0042】
AlbGa1-bN層15は、電子ブロック層である。AlbGa1-bN層15において、Al組成を示すbは、量子井戸層となるAlxGa1-xN層21(後述の図2参照)のAl組成比を示すxよりも大きい(b>x)。
AlcGa1-cN層16は、組成傾斜層である。AlcGa1-cN層16は、多重量子井戸構造14と第2導電型半導体層17との間に配置されている。AlcGa1-cN層16において、Al組成を示すcは、多重量子井戸構造14側から第2導電型半導体層17側にかけて0.15以上0.95以下の範囲で連続的または段階的に減少する。
【0043】
図2は、実施形態の具体例1に係る多重量子井戸構造14を示す断面図である。図2に示すように、多重量子井戸構造14は、AlxGa1-xN層21とAlyGa1-yN層22がN周期(Nは、1以上、8未満の整数)繰り返し積層した構造を有する。AlxGa1-xN層21において、xの範囲は0.7以上1未満である(0.7≦x<1)。AlyGa1-yN層22において、yは、AlxGa1-xN層21のAl組成であるxよりも大きい値である(y>x)。1つの積層単位20-1と1つのAlyGa1-yN層22とで構成される1つの積層単位20が、N層積層した構造を有する。
【0044】
例えば、複数の積層単位20-1、20-2…、20-(N-1)、20-Nの各々において、AlxGa1-xN層21の厚さTWは、4nmよりも大きく、好ましくは5nm以上である。AlxGa1-xN層21とAlyGa1-yN層22の繰り返しの周期の開始と終了は、AlxGa1-xN層21としてもよい。
なお、膜厚TW[nm]は、多量子井戸構造14に含まれる全てのAlxGa1-xN層21の膜厚の平均値であってもよい。例えば、積層単位20-1(1層目)に含まれるAlxGa1-xN層21の膜厚TWが10nmであり、積層単位20-5(5層目)に含まれるAlxGa1-xN層21の膜厚TWが5nmであっても、多量子井戸構造14に含まれる全てのAlxGa1-xN層21の膜厚の平均値が4nmよりも大きい場合は、実施形態の範囲に含まれる。
【0045】
また、多重量子井戸構造14において、AlxGa1-xN層21とAlyGa1-yN層22の繰り返しの周期数Nと、AlxGa1-xN層21の厚さTWの積(TW×N)は、50未満である。
紫外線発光素子1が放出する光の波長は、例えば、220nm以上240nm以下であってもよい。
なお、図1に示した紫外線発光素子1の変形例として、AlN層11、AlaGa1-aN層13、AlcGa1-cN層16のうちの少なくとも1つ以上を省いた構成が挙げられる。紫外線発光素子1の変形例が放出する光の波長は、例えば、220nm以上240nm以下である。
【0046】
(具体例2)
図3は、実施形態の具体例2に係る紫外線発光素子1Aを示す断面図である。図3に示すように、紫外線発光素子1Aにおいて、第1導電型半導体層12の第1領域上にはAlaGa1-aN層13が配置され、第1導電型半導体層12の第2領域上には第1電極50が配置されている。第1電極50は、第1導電型半導体層12に接触していることが好ましい。また、第2導電型半導体層17上には第2電極60が配置されている。第2電極60は、第2導電型半導体層17に接触していることが好ましい。
【0047】
図3に示すように、実施形態の具体例2に係る紫外線発光素子1Aでは、基板10の第2主面10b側に第1凸部70及び第2凸部80が設けられている。第1凸部70及び第2凸部80は、第2主面10bに直接設けられても良いし、異なる材質の層の表面に設けられても良い。すなわち、第1凸部70及び第2凸部80は、基板10の第2主面10bに、直接又は間接的に設けられていれば良い。第1凸部70は第2凸部80よりも高さが低い限りにおいて高低多様な高さで設けられても良い。
【0048】
第1凸部70は円錐、角錐、半球形、長方形など多様な凸形状・密度により設けられてよい。基板10がAlN単結晶である際に、安定した結晶面により物理的耐性、化学的耐性の高い凸形状を実現する観点から、第1凸部70は側面が(10-1-1)面からなる角錐形を含むことが好ましい。
第1凸部70の大きさは特に制限されないが、高さが0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上3μm以下であることがより好ましい。第1凸部70の大きさは、倍率20000倍の電子線走査顕微鏡(SEM)で第1凸部70の表面を観察したときの画像から測定することが可能である。
【0049】
第2凸部80は、基板10の第2主面10bに3箇所以上設けられる。第2凸部80の数は少なくとも3箇所であれば特に制限されず、紫外光の発光を著しく妨げない範囲でその大きさや個数を決めることができる。第2凸部80の裏面10bから頂部までの高さは、第1凸部70の裏面10bから頂部までの高さよりも高い。第2凸部80の頂部は、組み立て安定性の観点から基板10の第2主面10bに略平行であることが好ましい。また、第2凸部80の頂部は、組み立ての際の頂部破壊を防ぐために少なくとも5μm以上の面積を有する平面であることが好ましく、9μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがより更に好ましい。
【0050】
また、全ての第2凸部80が一直線上に存在する場合、組み立ての際に素子自体の傾きを助長し、組み立て不良を誘発する可能性がある。したがって、紫外光発光素子1Aでは、組み立て安定性の観点から、全ての第2凸部80が(裏面10bの法線方向からの平面視で)一線上に存在しないことが好ましい。換言すると、2つの第2凸部80同士を結ぶ直線上から外れた位置に、少なくとも1つの第2凸部80が存在することが好ましい。
【0051】
紫外線発光素子1Aでは、第1凸部70が本発明の「凸部」の一例となる。また、隣り合う一方の第1凸部70と他方の第1凸部70との間に存在する凹部75が、本発明の「凹部」の一例となる。紫外線発光素子1Aでは、第1凸部70と凹部75(すなわち、凹凸部)が設けられていることによって、多重量子井戸構造14から生成された紫外光が、基板10の裏面10bと外部(例えば、空気)との界面で全反射することを抑制することができる。これにより、紫外線発光素子1Aの内部から外部へ紫外光が伝播し易くなるため、光取り出し効率を向上させることができる。
【0052】
また、基板10の裏面10bに第2凸部80が存在することによって、基板10の裏面10b側を例えばサブマウント(図示せず)に接合する際に、裏面10bに設けられている第1凸部70がサブマウントに接触することを防ぐことができる。これにより、第1凸部70がサブマントに接触して破壊されることを防ぐことができる。また、第2主面10bに略平行な平面を頂部に有する第2凸部80が存在することによって、紫外線発光素子1Aをサブマントに安定に、容易に組み立てることが可能となる場合がある。
【0053】
なお、図3に示す紫外線発光素子1Aにおいて、第2凸部80は必須の構成ではない。紫外線発光素子1Aにおいて、第2凸部80が設けられていない構成も実施形態の具体例に含まれる。
また、紫外線発光素子1Aにおいて、第1凸部70は必須の構成ではない。紫外線発光素子1Aにおいて、第1凸部70が設けられていない構成も実施形態の具体例に含まれる。
また、紫外線発光素子1Aにおいて、凹部75は必須の構成ではない。紫外線発光素子1Aにおいて、凹部75が設けられていない構成も実施形態の具体例に含まれる。
【実施例0054】
次に、実施形態の紫外線発光素子をより具体的に説明するために、実施例1、2を示す。また、上述の式(a)から(c)の根拠を示す。
【0055】
(実施例1)
厚さが550μmの(0001)面AlN単結晶基板を、有機金属気相成長(MOCVD)装置を用いてアニール処理を行った。アニール処理は、1300℃の環境下において、NH雰囲気中での5分間のアニールおよびH雰囲気中での5分間のアニールを1セットとして、2セットの処理を行った。
次に、AlN単結晶基板上に、ホモエピタキシャル層であるAlN層を形成した。AlN層は、1200℃の環境下において500nmの厚さで形成した。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)が用いられた。また、N原料としてアンモニア(NH)が用いられた。
【0056】
上述したように形成したAlN層上に、第1導電型半導体層を形成した。第1導電型半導体層は、Siをドーパント不純物として用いたn型AlGaN層(Al組成87%)とした。第1導電型半導体層は、1080℃の温度で、真空度を50mbarに設定し、350nmの厚さで形成した。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。また、N原料としてアンモニア(NH)を用いた。また、Si原料としてモノシラン(SiH)を用いた。
【0057】
続いて、第1導電型半導体層上にグレーデッド層(正孔ブロッキング層)を形成した。グレーデッド層(正孔ブロッキング層)は、Al組成を87%から92%に連続的に変化させた。第1導電型半導体層と同様に、グレーデッド層(正孔ブロッキング層)は、1080℃の温度で、真空度を50mbarに設定し、5nmの厚さで形成した。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。また、N原料としてアンモニア(NH)を用いた。
【0058】
続いて、グレーデッド層(正孔ブロッキング層)上に5回の繰り返し周期をもつ量子井戸層AlxGa1-xNと障壁層AlyGa1-yNを形成した。量子井戸層の厚さは5nm、Al組成は85%とした。障壁層の厚さは6nm、Al組成は92%とした。第1導電型半導体層と同様に、量子井戸層AlxGa1-xNと障壁層AlyGa1-yNの形成条件は、1080℃の温度で、真空度を50mbarに設定した。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。また、N原料としてアンモニア(NH)を用いた。なお、繰り返し周期の始めと終わりは量子井戸層である。
【0059】
続いて、繰り返し周期をもつ量子井戸層上に電子ブロック層を形成した。電子ブロック層は、ドーパントを含まないAlGaN層とした。電子ブロック層は、Al組成が95%であり、1080℃の温度で、真空度を50mbarに設定し、10nmの厚さで形成した。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。
続いて、電子ブロック層上に第2導電型半導体層を形成した。第2導電型半導体層は、基板から遠ざかる方向にAl組成が分布をもち、Al=0.85から0.25まで変化する30nmの厚さを有するAlGaN層である。第1導電型半導体層と同様に、第2導電型半導体層の形成条件は、1080℃の温度で、真空度を50mbarに設定した。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。
【0060】
続いて、第2導電型半導体層上にp型の導電性を有する窒化物半導体層(pコンタクト層)を形成した。pコンタクト層は、10nmの厚さを有し、GaN層(すなわちAl:0%)とした。pコンタクト層の形成条件は、950℃の温度で、真空度を50mbarに設定した。また、Ga原料としてトリメチルガリウム(TMGa)を用いた。
このようにして得られた5回の繰り返し周期を持つ量子井戸層を有する発光素子に対して、電流注入による発光強度の測定を行った。発光素子に100mAの電流を注入したところ、発光強度は550μWであった。高い光出力かつ高い外部量子効率の素子を得た。
【0061】
(実施例2)
STRJapan株式会社製のデバイスシミュレーションソフト「SiLENSe」を用いてシミュレーションを行った。SiLENSeでは、GaN、AlGaN、ZnOなどのウルツ構造やGaInP、AlInPなどの閃亜鉛構造のLED構造のバンド構造について計算を行うことができる。入力として、膜厚、混晶組成、不純物ドーピング密度などの膜構造やバンドギャップエネルギー、電子移動度、自発分極などの物性パラメータを変えてシミュレーションを行うことができる。以下、本実施例のシミュレーション条件について説明する。
【0062】
すべての層が下地AlN層の格子定数に一致した完全ひずみ系を仮定した。AlN上に1×1019cm-3のn型ドーパントを含むAl組成87%のn型AlGaN層を置いた。n型AlGaN層の厚みは500nmである。n型AlGaN上に膜厚TW[nm]である量子井戸層Al0.85Ga0.15Nと膜厚6nmであるバリア層Al0.925Ga0.075NをN周期繰り返し配置した。繰り返し周期をN=5としてシミュレーションを行った。なお、繰り返し周期の開始と終了は量子井戸層とした。
【0063】
繰り返し周期の多重量子井戸上に、膜厚11nmの電子ブロック層AlNを配置した。さらに、電子ブロック層上にp型グレーデッド層AlcGa1-cN(Al組成を0.85から0.25まで連続的に変化させた)を配置した。膜厚は30nmであり、p型ドーパントを1×1019cm-3を含む。計算結果(例えば、後述の図6)については、電流密度40A/cmの時の結果を示す。
【0064】
次に、上述の式(a)から式(c)の根拠を説明する。
<式(a)の根拠>
図4は、Matthewsの式を用いて、AlxGa1-xN層のAl組成と臨界膜厚との関係を計算した結果を示すグラフである。図4の横軸はAlxGa1-xN層のAl組成を示し、縦軸はAlxGa1-xN層の臨界膜厚を示す。本発明者は、Matthewsの式を用いて、AlN層上に成膜されるAlxGa1-xN層の臨界膜厚を計算した。
【0065】
AlxGa1-xN層を臨界膜厚以上の膜厚で成膜すると、下地と成長層との格子定数の違いにより格子緩和が生じ、内部量子効率ηrad(上述の式(2)参照)が大幅に低下してしまう。例えば図4に示すように、AlN層上に成膜されるAl組成が85%であるAlxGa1-xN層(すなわち、Al0.85Ga0.15N層)の臨界膜厚は約50nmと算出される。AlN層上のAl0.85Ga0.15N層の膜厚が50nm以上になると、Al0.85Ga0.15N層に格子緩和が生じ、内部量子効率ηradが大幅に低下する。
【0066】
本発明者はこの点に着目して、量子井戸層となるAlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の総膜厚を50nm未満に規定した。この規定が式(a)である。式(a)を満たすことで、内部量子効率ηradの低下を抑制することが可能となる。
すなわち、量子井戸層となるAlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の総膜厚をTWtotalとし、AlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の1層当たりの膜厚をTW(nm)とし、AlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の繰り返し周期をNとすると、TWtotal = TW × N が成り立つ。本発明者は、内部量子効率ηradの低下を抑制するために、TWtotal<50nmとすることで、上記の式(a)を得た。
【0067】
<式(b)の根拠>
図5は、AlxGa1-xN層の繰り返しの周期数Nと紫外線発光素子の駆動電圧(V)との関係を示すグラフである。図5の横軸はAlxGa1-xN層の繰り返しの周期を示し、縦軸は紫外線発光素子の駆動電圧(V)を示す。なお、縦軸の駆動電圧(V)は、1つのウェハ面内に形成した複数の紫外線発光素子の駆動電圧(V)の平均値である。
上述の式(1)で示したように、電力変換効率(WPE)を向上させるためには、駆動電圧Vは低い方が好ましい。本発明者は、AlxGa1-xN層(0.7≦x<1)を量子井戸層とし、AlyGa1-yN層(y>x)を障壁層とする実際の紫外線発光素子(以下、実デバイスともいう)を複数用意し、周期数Nが異なる実デバイスごとに駆動電圧(V)を測定した。
【0068】
図5に示すように、実デバイスに100mAを印加すると、周期数Nが3である実デバイスの駆動電圧と、周期数Nが20である実デバイスの駆動電圧との間には、約1Vの電位差が確認された。この結果から、100mA印加時に、量子井戸層1層当たりにかかる電圧は0.06Vであることがわかった。同様に、実デバイスに500mAを印加すると、周期数Nが3である実デバイスの駆動電圧と、周期数Nが20である実デバイスの駆動電圧との間には、約5Vの電位差が確認された。この結果から、500mA印加時に、量子井戸層1層当たりにかかる電圧は0.3Vであることがわかった。なお、図5に示す100mAは、電流密度に換算すると、概ね40A/cmになる。
【0069】
実デバイスでは、量子井戸層のほかにも、第1導電型半導体層に接続する第1電極(例えば、N電極)や、第2導電型半導体層に接続する第2電極(例えば、P電極)など、量子井戸層以外の部分にも電圧がかかる。例えば、量子井戸層以外の部分に7.5Vから8V程度かかる。量子井戸層以外の部分に7.8Vかかるとすると、周期数Nが8以上の実デバイスでは、500mA印加時に駆動電圧が10Vを越える。
本発明者はこの点に着目して、量子井戸層となるAlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の周期数Nを8未満に規定した。この規定が式(b)である。式(b)を満たすことで、駆動電圧Vを低く抑えることが可能となる。
【0070】
<式(c)の根拠>
図6は、量子井戸層となるAlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の1層当たりの膜厚TWと、キャリア注入効率ηinjとの関係を示すグラフである。本発明者は、薄膜シミュレーションでキャリア注入効率ηinjを計算した。本計算結果は、電流密度40A/cmの時の結果を示す。図6に示すように、AlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の膜厚を5nm以上にすると、キャリア注入効率ηinjが10%を超える。
本発明者はこの点に着目して、量子井戸層となるAlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の1層当たりの膜厚TWを4nmよりも大きく、好ましくは5nm以上に規定した。この規定が式(c)である。式(c)を満たすことで、キャリア注入効率ηinjを向上させることが可能となる。
【0071】
<式(a)から(c)を全て満たす範囲>
図7は、式(a)から(c)を全て満たす範囲を示すグラフである。図7の横軸はAlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の繰り返し周期数Nを示し、縦軸はAlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の1層当たりの膜厚TW(nm)を示す。図7に示すように、グラフ中の曲線aよりも下の領域が、式(a)を満たす範囲であり、格子緩和の発生が抑制され、内部量子効率ηradの低下が抑制される範囲である。グラフ中の直線bよりも左側の領域が、式(b)を満たす範囲であり、駆動電圧Vを低く抑えられる範囲である。グラフ中の直線cよりも上側の領域が、キャリア注入効率ηinjを向上する領域である。
【0072】
すなわち、図7のグラフにおいて、曲線aと直線b及び直線cで囲まれる領域内が、式(a)から(c)を全て満たす領域である。本発明の実施形態、各実施例及び各具体例では、量子井戸層となるAlxGa1-xN層(0.7≦x<1)の1層当たりの膜厚TWと、周期数Nとが、式(a)から(c)を全て満たすことによって、内部量子効率の低下を抑制した状態で、低い駆動電圧と高いキャリア注入効率とを両立させることができ、電力変換効率(WPE)を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0073】
1、1A 紫外線発光素子
10 基板
10a 第1主面
10b 第2主面
11 AlN層
12 第1導電型半導体層
13 AlaGa1-aN層
14 多重量子井戸構造
15 AlbGa1-bN層
16 AlcGa1-cN層
17 第2導電型半導体層
20、20-1、20-2、20-(n-1)、20-n 積層単位
21 AlxGa1-xN層
22 AlyGa1-yN層
50 第1電極
60 第2電極
70 第1凸部
75 凹部
80 第2凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7