(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157348
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】還元反応電極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/057 20210101AFI20231019BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20231019BHJP
C25B 11/069 20210101ALI20231019BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20231019BHJP
C25B 11/085 20210101ALI20231019BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20231019BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20231019BHJP
【FI】
C25B11/057
C25B11/052
C25B11/069
C25B11/081
C25B11/085
C25B11/054
C25B11/065
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067201
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直彦
(72)【発明者】
【氏名】河合 泰明
【テーマコード(参考)】
4K011
【Fターム(参考)】
4K011AA20
4K011AA25
4K011AA32
4K011BA01
4K011DA01
4K011DA11
(57)【要約】
【課題】高電流密度を長時間維持することが可能な還元反応電極を提供する。
【解決手段】還元反応電極10は、基材12と、還元触媒及び炭素材料を含む触媒層16と、基材12と触媒層16との間に設けられる導電性接着層14と、を備え、導電性接着層14は、ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂と、1μm~100μmの範囲の粒子サイズを有するグラファイト薄片とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
還元触媒及び炭素材料を含む触媒層と、
前記基材と前記触媒層との間に設けられる導電性接着層と、を備え、
前記導電性接着層は、ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂と、1μm~100μmの範囲の粒子サイズを有するグラファイト薄片とを含むことを特徴とする還元反応電極。
【請求項2】
前記導電性接着層は、5μm~30μmの範囲の粒子サイズを有するメソカーボンマイクロビーズを含むことを特徴とする請求項1に記載の還元反応電極。
【請求項3】
前記導電性接着層は、還元触媒を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の還元反応電極。
【請求項4】
前記触媒層の前記炭素材料は、カーボンナノチューブを含むカーボンシートであり、
前記還元触媒は、前記カーボンシート上に担持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の還元反応電極。
【請求項5】
前記還元触媒は、Ru錯体ポリマーを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の還元反応電極。
【請求項6】
前記ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の還元反応電極。
【請求項7】
炭素材料を含むシートと基材との間に、ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂と、1μm~100μmの範囲の粒子サイズのグラファイト薄片とを含む導電性接着剤を設けて、前記炭素材料を含むシートと前記基材とを接着させる第1工程と、
還元触媒含有溶液を、前記炭素材料を含むシートに塗布し、乾燥する第2工程とを備えることを特徴とする還元反応電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元反応電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光エネルギーを用いて水(H2O)から水素(H2)、水(H2O)と二酸化炭素(CO2)から一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CH3OH)等を合成する人工光合成に用いられる反応デバイスの研究が盛んに行われている。
【0003】
反応デバイスに使用される還元反応電極として、例えば、特許文献1~3及び非特許文献1には、還元触媒を含む触媒層と基材とを導電性接着剤で接着した還元反応電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-63246号公報
【特許文献2】特開2021-63245号公報
【特許文献3】特開2020-26542号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Joule, Vol.5, No.3, p687-785, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、人工光合成によるCO2還元を実用化するには、効率的なCO2還元反応を維持するために、高電流密度が安定して得られる還元反応電極が望まれる。しかし、従来の導電性接着剤は耐薬品性や導電性が低いため、還元反応電極を電解液に接触(浸漬)させて、長時間作動させると、触媒層と基材との間の接着強度や導電性が低下して、高電流密度を長時間維持することが困難となる。
【0007】
そこで、本発明は、定電圧制御の際の高電流密度を長時間維持することが可能な還元反応電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の還元反応電極は、基材と、還元触媒及び炭素材料を含む触媒層と、前記基材と前記触媒層との間に設けられる導電性接着層と、を備え、前記導電性接着層は、ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂と、1μm~100μmの範囲の粒子サイズを有するグラファイト薄片とを含むことを特徴とする。
【0009】
また、前記還元反応電極において、前記導電性接着層は、5μm~30μmの範囲の粒子サイズを有するメソカーボンマイクロビーズを含むことが好ましい。
【0010】
また、前記還元反応電極において、前記導電性接着層は、還元触媒を含むことが好ましい。
【0011】
また、前記還元反応電極において、前記触媒層の前記炭素材料は、カーボンナノチューブを含むカーボンシートであり、前記還元触媒は、前記カーボンシート上に担持されていることが好ましい。
【0012】
また、前記還元反応電極において、前記還元触媒は、Ru錯体ポリマーを含むことが好ましい。
【0013】
また、前記還元反応電極において、前記ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明の還元反応電極の製造方法は、炭素材料を含むシートと基材との間に、ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂と、1μm~100μmの範囲の粒子サイズのグラファイト薄片とを含む導電性接着剤を設けて、前記炭素材料を含むシートと前記基材とを接着させる第1工程と、還元触媒含有溶液を、前記炭素材料を含むシートに塗布し、乾燥する第2工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、定電圧制御の際の高電流密度を長時間維持することが可能な還元反応電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る還元反応電極の構成の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本実施形態の還元反応電極を用いた二酸化炭素還元装置の構成の一例を示す概略構成図である。
【
図3】実施例1で調製した導電性接着剤により形成された導電性接着層の表面のSEM写真である。
【
図4】比較例1で使用した導電性接着剤により形成された導電性接着層の表面のSEM写真である。
【
図5】実施例1~3の還元反応電極を100時間作動させた時の電流密度の推移を示す図である。
【
図6】実施例2、比較例1~2の還元反応電極を所定時間作動させたときの電流密度の推移を示す図である。
【
図7】実施例1、実施例4、実施例5及び比較例1の還元反応電極を100時間作動させたときの電流密度維持率の結果を示す図である。
【
図8】実施例2、実施例3、実施例6及び比較例1の還元反応電極を所定時間作動させたときの電流密度の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本発明は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[還元反応電極]
図1は、本発明の実施形態に係る還元反応電極の構成の一例を示す概略構成図である。
図1の還元反応電極10は、基材12と、触媒層16と、基材12と触媒層16との間に設けられる導電性接着層14と、を備える。基材12と触媒層16は、導電性接着層14によって接着されている。還元反応電極10に電圧が印加されると、基材12に生じた電荷が触媒層16に渡され、触媒層16における還元触媒反応、例えば、二酸化炭素(CO
2)がギ酸(HCOOH)等に還元される反応に利用される。
【0019】
基材12は、電極を構造的に支持し、電気集電性を有する部材であることが好ましく、例えば、金属または半導体を含む板状部材やメッシュ状部材等が挙げられる。基材として用いられる金属は、特に限定されるものではないが、例えば、チタン(Ti)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)等が挙げられる。基材として用いられる半導体は、特に限定されるものではないが、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、シリコン(Si)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タンタル(Ta2O5)等が挙げられる。
【0020】
触媒層16は、還元触媒と、炭素材料とを含む。炭素材料は、例えば、還元触媒が担持される担体として使用されることが好ましい。炭素材料としては、例えば、高温で熱処理された炭素繊維と炭素とを含むカーボンシート等が好ましい。カーボンシートは、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等が挙げられる。カーボンペーパーは、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維等の有機繊維をポリビニルアルコールと水系媒体との分散液に含浸させ、約2000℃で炭化させて結着させたものをシート状にしたものである。カーボンペーパーには、約25質量%程度のテフロン(登録商標)系素材が含まれることもある。カーボンクロスは、有機繊維を焼成、炭化することで得られる炭素繊維を紡織したものである。カーボンペーパー、カーボンクロスは、多孔質体であり、無数の数十μm(10μm~100μm程度)の細孔を有する。カーボンペーパー、カーボンクロスの厚さは、例えば、0.1mm~0.4mm/1枚の範囲である。
【0021】
炭素材料は、マルチウォール・カーボンナノチューブ(MWCNTs)等のカーボンナノチューブを含んでもよい。好適な炭素材料の例としては、カーボンナノチューブを含むカーボンシートが挙げられる。例えば、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNTs)等のカーボンナノチューブを含ませることにより、ナノカーボンの3次元ネットワーク構造を形成することができる。MWCNTsとしては、少なくとも直径が1nm以上100nm以下のものを含むことが好適である。カーボンナノチューブを含むカーボンシートは、例えば、エタノール等の溶媒にカーボンナノチューブを高分散させたインクを用意して、ディップ塗布や含浸塗布等の方法によってカーボンシートに塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0022】
還元触媒は、二酸化炭素を還元する還元触媒機能を有する材料であれば特に限定されないが、例えば、錯体触媒が好適である。錯体触媒は、Ru錯体ポリマーを含むことが好ましい。
【0023】
Ru錯体ポリマーを得るためのルテニウム錯体(Ru錯体モノマー)としては、例えば、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(MeCN)Cl2]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)2Cl2]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)2]n、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(CH3CN)Cl2]等が挙げられる。Ru錯体ポリマーは、例えば、Ru錯体モノマー(例えば[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)2Cl2])と重合剤(例えばピロール)と重合触媒(例えば塩化鉄)とを用いて高分子化(ポリマー)された状態のRu錯体ポリマーである。
【0024】
Ru錯体ポリマーの担持は、例えば、Ru錯体モノマー、重合剤(例えばピロール)、重合触媒(例えば塩化鉄)をアセトニトリル(MeCN)等の溶媒に溶解した液(Ru錯体ポリマー溶液)をカーボンシート等の炭素材料上に塗布、乾燥することで行うことができる。
【0025】
重合剤(ラジカル開始剤)としては、ピロール、ピリジン、チオフェン、ボレピン、アゾニン等のN,S,Bのうち少なくとも1つを含む五員環構造~九員環構造を有する複素環式芳香族化合物や、アゾ化合物、有機過酸化物等が挙げられ、酸化により容易に反応が開始される等の点から、ピロールが好ましい。
【0026】
重合触媒(化学酸化重合触媒)としては、塩化鉄(FeCl3)、FeCl3・O2、またはFeCl3・O2-ClO4等の鉄塩、塩化銅等の銅塩、塩化アルミニウム等のアルミニウム塩等が挙げられ、触媒活性が高い等の点から、塩化鉄(FeCl3)、FeCl3・O2、またはFeCl3・O2-ClO4が好ましい。
【0027】
溶媒としては、アセトニトリル、ジエチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられ、Ru錯体ポリマーを高分散することができる等の点から、アセトニトリルが好ましい。
【0028】
導電性接着層14は、ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂と、グラファイト薄片とを含む。導電性接着層14の厚みは例えば、1μm~100μmの範囲である。
【0029】
ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の誘導体、及びフッ化ビニリデン(VDF)に由来する単位を含む共重合体等が挙げられる。共重合体は、例えば、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。これらの中では、高い接着力及び高い耐薬品性を有する等の点で、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましい。ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂の含有量は、例えば、導電性接着層14の総質量に対して、1質量%~20質量%の範囲でよい。
【0030】
グラファイト薄片は、例えば、角張った端をもつ平らな板状粒子である。グラファイト薄片の大きさは、面内方向の長さ(粒子サイズ)と厚さの2つの数値で規定できる。グラファイト薄片の粒子サイズは、導電性接着層14に高い電気伝導性を付与するために、1μm~100μmの範囲であればよいが、好ましくは5μm~50μmの範囲である。グラファイト薄片の厚さは、特に限定されないが、例えば、100nm~1000nmの範囲でよい。グラファイト薄片の含有量は、例えば、導電性接着層14の総質量に対して、68質量%~87質量%の範囲でよい。
【0031】
グラファイト薄片の粒子サイズの測定方法は以下の通りである。例えば、導電性接着層14から採取したグラファイト薄片をSEMにより撮影する。そして、このSEM画像から、ランダムに30個のグラファイト薄片を選択する。選択した30個のグラファイト薄片の外形を特定した上で、30個のグラファイト薄片それぞれの面内方向の長さ(最長長さ)を求め、それらの平均値をグラファイト薄片の粒子サイズとする。なお、グラファイト薄片の厚みは、SEM画像からランダムに選択した30個のグラファイト薄片の厚みの平均値である。
【0032】
導電性接着層14に含まれるビニリデン骨格を有するフッ素樹脂は、高い耐薬品性を有するために、本実施形態の還元反応電極10を、二酸化炭素還元に使用される電解液に長時間接触又は浸漬させても、導電性接着層14の接着力は維持され、基材12と触媒層16の接着強度の低下が抑えられる。また、導電性接着層14に1μm~100μmの範囲の粒子サイズのグラファイト薄片が含まれることにより、導電性接着層14の電気伝導性が高められるため、基材12と触媒層16との間の電気伝導性も高められる。これらのことから、本実施形態の還元反応電極10によれば、二酸化炭素還元において、定電圧が印加された場合に、高電流密度を長時間維持することが可能となる。なお、本実施形態の還元反応電極10によれば、二酸化炭素還元において、定電流制御の場合に、セル電圧を一定に維持することも可能である。
【0033】
導電性接着層14は、例えば、導電性接着層14の電気伝導性を高めることができる点で、5μm~30μmの粒子サイズを有するメソカーボンマイクロビーズを含むことが好ましい。メソカーボンマイクロビーズの粒子サイズは、メソカーボンマイクロビーズのSEM画像から、ランダムに選択した30個のメソカーボンマイクロビーズそれぞれの最長経の平均値である。
【0034】
導電性接着層14は、還元触媒を含むことが好ましい。これにより、二酸化炭素還元の反応面積が増大し、より高い電流密度をより長時間維持することが可能となる。還元触媒は、触媒層16に含まれる還元触媒と同様の触媒である。
【0035】
本実施形態の還元反応電極の作製方法の一例を説明する。例えば、カーボンシート等の炭素材料を含むシートに、前述したRu錯体ポリマー溶液等の還元触媒含有溶液を塗布、乾燥して、炭素材料に還元触媒を担持した触媒層を形成する。そして、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の溶媒に、PVDF等のビニリデン骨格を有するフッ素樹脂及び1μm~100μmの粒子サイズを有するグラファイト薄片を添加混合することにより調製した導電性接着剤を、基材または触媒層に塗布して、導電性接着剤を介して、基材と触媒層を貼り合わせた後、乾燥させる。このようにして、基材と触媒層との間に導電性接着層を形成し、基材と触媒層とを接着させる。なお、導電性接着剤を乾燥することにより、溶媒が揮発するため、形成される導電性接着層は、ポーラス(多孔質)になる。
【0036】
また、本実施形態の還元反応電極の作製方法の他の一例を説明する。まず、炭素材料を含むシートと基材との間に、導電性接着層を形成し、炭素材料を含むシートと基材とを接着させる(第1工程)。具体的には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の溶媒に、PVDF等のビニリデン骨格を有するフッ素樹脂及び1μm~100μmの粒子サイズを有するグラファイト薄片を添加混合することにより調製した導電性接着剤を、炭素材料を含むシート又は基材に塗布して、導電性接着剤を介して、炭素材料を含むシートと基材とを貼り合わせた後、乾燥させる。なお、導電性接着剤を乾燥することにより、溶媒が揮発するため、形成される導電性接着層は、ポーラス(多孔質)になる。次に、炭素材料を含むシート上(すなわち、炭素材料を含むシートの基材と反対側の表面)に、還元触媒含有溶液を塗布、乾燥させる(第2工程)。この製法によれば、炭素材料を含むシート上に塗布された還元触媒含有溶液を炭素材料を含むシート内に浸み込ませるだけでなく、当該シート内の還元触媒含有溶液の一部を導電性接着層内にも浸み込ませることができるため、還元触媒が炭素材料を含むシート(触媒層)及び導電性接着層に含まれる還元反応電極を作製することができる。
【0037】
[反応デバイス]
本発明の実施形態に係る反応デバイスは、上記還元反応電極と、酸化反応電極と、を組み合わせて構成される反応デバイスである。反応デバイスは、例えば、二酸化炭素還元装置とすることができ、その二酸化炭素還元装置と、太陽電池セルと、を組み合わせた人工光合成装置とすることもできる。
【0038】
図2は、上記還元反応電極を用いた二酸化炭素還元装置の構成の一例を示す概略構成図である。二酸化炭素還元装置1は、収容部28内に二酸化炭素の還元反応を進行させる上記還元反応電極10と、水の酸化反応を進行させる酸化反応電極18と、が離間されて対向する位置に配置される。収容部28は、入口22、出口24を有し、入口からCO
2等の反応基質を含む電解液が流入し、出口24からCO
2等が還元されて得られた有機物、例えばギ酸を含有した電解液が流出する。
【0039】
還元反応電極10と酸化反応電極18の間には、電源30から直流電圧が印加され、これによって還元反応電極10での還元反応、酸化反応電極18における酸化反応が促進される。酸化反応電極18においては、水(H2O)が酸化されて酸素(1/2O2)が得られるとともに、電子が生成する。還元反応電極10においては、酸化反応により生成する電子を受け取ることによって、例えば二酸化炭素が還元されてギ酸(HCOOH)等が生成される。なお、電源30としては、太陽電池を使用することで、太陽エネルギーによりCO2を還元してギ酸などの有機物を得ることができる。
【0040】
還元反応電極10および酸化反応電極18は、それぞれ複数の電極が積層化(スタック化)された構成となっていてもよく、また還元反応電極10と酸化反応電極18との間に、液体と気体を分離し、プロトンを移動可能とするセパレータを設けてもよい。セパレータは、液体と気体を分離し、プロトンを移動可能とする材料のものであればよく、特に制限はないが、例えば、固体高分子電解膜であるナフィオン(登録商標)等を使用することができる。また、イオン交換膜ではない多孔質の親水化処理した樹脂(例えば、多孔質ポリエチレン)等も使用できる。
【0041】
酸化反応電極18は、酸化反応によって水を酸化するために利用される電極である。酸化反応電極18は、例えば、基板上に導電層が形成された基材とその上に形成された酸化触媒層とを含んで構成される。
【0042】
電解液に含まれる反応基質は、例えば、炭素化合物が挙げられ、例えば、二酸化炭素(CO2)とすることができる。また、電解液は、リン酸緩衝水溶液やホウ酸緩衝水溶液とすることが好適である。具体的な構成例では、例えば、CO2飽和リン酸緩衝液のタンクを設け、ポンプによってこの溶液を還元反応電極10と酸化反応電極18との間に供給し、還元反応によって生じたギ酸(HCOOH)等を外部のタンクに回収すればよい。
「本願発明の構成」
構成1:
基材と、
還元触媒及び炭素材料を含む触媒層と、
前記基材と前記触媒層との間に設けられる導電性接着層と、を備え、
前記導電性接着層は、ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂と、1μm~100μmの範囲の粒子サイズを有するグラファイト薄片とを含むことを特徴とする還元反応電極。
構成2:
前記導電性接着層は、5μm~30μmの範囲の粒子サイズを有するメソカーボンマイクロビーズを含むことを特徴とする構成1に記載の還元反応電極。
構成3:
前記導電性接着層は、還元触媒を含むことを特徴とする構成1又は2に記載の還元反応電極。
構成4:
前記触媒層の前記炭素材料は、カーボンナノチューブを含むカーボンシートであり、
前記還元触媒は、前記カーボンシート上に担持されていることを特徴とする構成1~3のいずれか1つに記載の還元反応電極。
構成5:
前記還元触媒は、Ru錯体ポリマーを含むことを特徴とする構成1~4のいずれか1つに記載の還元反応電極。
構成6:
前記ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むことを特徴とする構成1~5のいずれか1つに記載の還元反応電極。
構成7:
炭素材料を含むシートと基材との間に、ビニリデン骨格を有するフッ素樹脂と、1μm~100μmの範囲の粒子サイズのグラファイト薄片とを含む導電性接着剤を設けて、前記炭素材料を含むシートと前記基材とを接着させる第1工程と、
還元触媒含有溶液を、前記炭素材料を含むシートに塗布し、乾燥する第2工程とを備えることを特徴とする還元反応電極の製造方法。
【実施例0043】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
溶媒(エタノール95質量部)にマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNTs)5質量部を分散させたインクを用い、カーボンペーパー(CP)にディップ塗布した後、350℃で乾燥することによって、カーボンナノチューブを含むカーボンシート(以下、CP/MWCNTsシートと称する)を作製した。
【0045】
Ru錯体モノマー([Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)2Cl2])0.0414g、0.22Mの塩化鉄(FeCl3)のエタノール溶液1.65mL、0.72mMのピロールのアセトニトリル溶液0.33mL、アセトニトリル6.33mLの混合溶液(総量8.31mL)であるRu錯体ポリマー溶液を調製した。この溶液を、CP/MWCNTsシートへ塗布し、30℃で3時間乾燥してRu錯体ポリマーを担持させた触媒層(以下、CP/MWCNTs/RuCPシートと称する)を作製した。
【0046】
PVDFバインダー(クレハ製、KFポリマーL ♯1120(NMP88%、PVDF12%))2gと、グラファイト薄片(Lonza製、KS44、粒子サイズ:40~50μm)0.5gとを混合した後、24時間放置して、導電性接着剤(PVDFとグラファイト薄片の総質量に対するグラファイト薄片の割合:68質量%)を調製した。基材であるTi基板上にこの導電性接着剤を塗布した後、その上にCP/MWCNTs/RuCPシートを配置し、100℃、3時間の加熱乾燥を行い、Ti基板とCP/MWCNTs/RuCPシートとの間に導電性接着層を配置した還元反応電極を作製した。
【0047】
図3は、実施例1で調製した導電性接着剤により形成された導電性接着層の表面のSEM写真である。すなわち、
図3に示す導電性接着層は、実施例1で調製した導電性接着剤をTi基板上に塗布した後、100℃、3時間の加熱乾燥を行うことにより形成したものである。
図3から分かるように、導電性接着層は、グラファイト薄片間に部分的に隙間が存在するポーラスな構造になっている。
【0048】
<実施例2>
グラファイト薄片(Lonza製、KS44、粒子サイズ:40~50μm)の添加量を1gにしたこと以外は、実施例1と同様に導電性接着剤(PVDFとグラファイト薄片の総質量に対するグラファイト薄片の割合:80質量%)を調製した。そして、この導電性接着剤を使用したこと以外は、実施例1と同様に還元反応電極を作製した。
【0049】
<実施例3>
グラファイト薄片(Lonza製、KS44、粒子サイズ:40~50μm)の添加量を1.5gにしたこと以外は、実施例1と同様に導電性接着剤(PVDFとグラファイト薄片の総質量に対するグラファイト薄片の割合:87質量%)を調製した。そして、この導電性接着剤を使用したこと以外は、実施例1と同様に還元反応電極を作製した。
【0050】
<比較例1>
導電性接着剤として、市販品の♯15-1137グラファイトペースト(非特許文献1に記載されており、粒子サイズ100nm以下のグラファイト粉とアクリルポリマー結合剤を含む)を使用したこと以外は、実施例1と同様に還元反応電極を作製した。
【0051】
図4は、比較例1で使用した導電性接着剤により形成された導電性接着層の表面のSEM写真である。すなわち、
図4に示す導電性接着層は、比較例1で使用したグラファイトペーストをTi基板上に塗布した後、100℃、3時間の加熱乾燥を行うことにより形成したものである。
図4から分かるように、市販品のグラファイトペーストにより形成された導電性接着層は、グラファイト粉が凝集しており、実施例1の導電性接着剤により形成された導電性接着層のようなポーラスな構造になっていなかった。
【0052】
<比較例2>
粒子サイズ100nm以下のグラファイト粉0.5gとPVDFバインダー(クレハ製、KFポリマーL ♯1120(NMP88%、PVDF12%))2gとを混合した後、24時間放置して、導電性接着剤を調製した。この導電性接着剤を使用したこと以外は、実施例1と同様に還元反応電極を作製した。
【0053】
[電気化学評価]
実施例1~3の還元反応電極を用いて、3極式セル(対極:Pt、参照電極:飽和カロメル電極(SCE))を構成し、3極式セル中の電解液に二酸化炭素ガス(CO2)をバブリングしながら、ポテンショスタット/ガルバノスタットにより、電流-時間(i-t)特性を評価した。電流-時間(i-t)特性は、電圧を-1.2V(vs Hg/Hg2SO4)の一定とし、100時間動作させて、測定した。電解液として、0.4Mのリン酸バッファ水溶液(K2HPO4+KH2PO4)を使用した。
【0054】
図5は、実施例1~3の還元反応電極を100時間作動させた時の電流密度の推移を示す図である。還元反応電極における作動初期の電流密度は、実施例1が2.9mA/cm
2、実施例2が4.0mA/cm
2、実施例3が4.2mA/cm
2であった。すなわち、グラファイト薄片の含有量が増加するほど、高い電流密度が得られた。また、作動初期の電流密度に対する100時間後の電流密度の割合(電流密度維持率)は、実施例1は59%、実施例2は53%、実施例3は58%であった。
【0055】
次に、実施例2、及び比較例1~2の還元反応電極を用いて、前述と同様に、電流-時間(i-t)特性を評価した。但し、実施例2及び比較例1の還元反応電極の作動時間を500時間とし、比較例2の還元反応電極の作動時間を200時間とした。
【0056】
図6は、実施例2、比較例1~2の還元反応電極を所定時間作動させたときの電流密度の推移を示す図である。
図6では、100時間毎の電流密度をプロットした。
図6に示すように、実施例2の還元反応電極は、比較例1~2と比べて、高い電流密度を有し、また、作動初期の電流密度に対する500時間後の電流密度の割合は、比較例1と比べて高い値となった。この結果から、基材と触媒層との間に、粒子サイズの大きいグラファイト薄片とPVDFとを含む導電性接着層を形成した還元反応電極を使用することにより、高い電流密度を長時間維持することが可能になると言える。比較例1では、500時間経過後、基板と触媒層(CP/MWCNTs/RuCPシート)が剥離した。実施例2では同じ試験後、基板と触媒層は剥離せず、接着強度が向上していた。
【0057】
<実施例4>
PVDFバインダー(クレハ製、KFポリマーL ♯1120(NMP88%、PVDF12%))2gと、グラファイト薄片(Lonza製、KS44、粒子サイズ:40~50μm)0.5gとを混合したスラリーAと、PVDFバインダー(クレハ製、KFポリマーL ♯1120(NMP88%、PVDF12%))10gと、メソカーボンマイクロビーズ2g(大阪ガスケミカル性、粒子サイズ25-28μm)2gとを混合したスラリーBとを混合した後、24時間放置して、導電性接着剤を調製した。そして、この導電性接着剤を使用したこと以外は、実施例1と同様に還元反応電極を作製した。
【0058】
<実施例5>
PVDFバインダー(クレハ製、KFポリマーL ♯1120(NMP88%、PVDF12%))2gと、グラファイト薄片(Lonza製、KS44、粒子サイズ:40~50μm)0.5gとを混合したスラリーAと、PVDFバインダー(クレハ製、KFポリマーL ♯1120(NMP88%、PVDF12%))10gと、メソカーボンマイクロビーズ2g(大阪ガスケミカル性、粒子サイズ6-28μm)2gとを混合したスラリーBとを混合した後、24時間放置して、導電性接着剤を調製した。そして、この導電性接着剤を使用したこと以外は、実施例1と同様に還元反応電極を作製した。
【0059】
実施例4及び5の還元反応電極を用いて、前述と同様に、電流-時間(i-t)特性を評価した。
【0060】
図7は、実施例1、実施例4、実施例5及び比較例1の還元反応電極を100時間作動させたときの電流密度維持率の結果を示す図である。
図7に示す電流密度維持率は、作動初期の電流密度に対する100時間後の電流密度の割合である。
図7に示すように、実施例1、4及び5の還元反応電極の電流密度維持率は、59%、67%、58%であった。一方、比較例1の電流密度維持率は38%であり、実施例と比べて、著しく低い値であった。
【0061】
<実施例6>
実施例2で使用した導電性接着剤をTi基板上に塗布した後、その上にCP/MWCNTsシートを配置し、100℃、3時間の加熱乾燥を行い、Ti基板とCP/MWCNTsシートとの間に導電性接着層を配置した。そして、前述のRu錯体ポリマー溶液を、CP/MWCNTsシート上へ塗布し、60℃で1時間乾燥してRu錯体ポリマーを担持させた。このようにして、Ru錯体ポリマーが、CP/MWCNTsシート及び導電性接着層に含まれる還元反応電極を作製した。
【0062】
実施例2、3、6及び比較例1の還元反応電極を用いて、前述と同様に、電流-時間(i-t)特性を評価した。但し、還元反応電極の作動時間は、比較例1が1000時間、実施例2が800時間、実施例3が600時間、実施例6が300時間である。
【0063】
図8は、実施例2、実施例3、実施例6及び比較例1の還元反応電極を所定時間作動させたときの電流密度の推移を示す図である。
図8に示すように、実施例6は300時間までの作動において、最も高い電流密度維持率を示した。実施例6のように、Ru錯体ポリマーが触媒層だけでなく導電性接着層にも含まれる還元反応電極を使用することにより、より高い電流密度をより長時間維持することが可能となる。
1 二酸化炭素還元装置、10 還元反応電極、12 基材、14 導電性接着層、16 触媒層、18 酸化反応電極、22 入口、24 出口、28 収容部、30 電源。