(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157360
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】構造物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20231019BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20231019BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
F16F7/12
F16F15/02 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067226
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石山 達士
(72)【発明者】
【氏名】増田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】二木 秀也
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC26
2E139AC27
2E139AC33
2E139AC80
2E139BA06
2E139BC08
2E139CA02
2E139CA11
2E139CA21
2E139CB04
2E139CC02
2E139CC07
2E139CC11
3J048AA02
3J048AD11
3J048AD12
3J048BA08
3J048BG02
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
3J066AA26
3J066BA03
3J066BB04
3J066BC03
3J066BF09
(57)【要約】
【課題】二つの構造部の相対移動量を安定して制限し且つ衝撃を緩衝させる。
【解決手段】構造物10は、下部構造部200と、下部構造部200に対して相対移動する上部構造部100と、下部構造部200に設けられ凸部510と、上部構造部100に間隔をあけて設けられた取付部520と、取付部520に長手方向の両端部536が取り付けられ下部構造部200に対して上部構造部100が相対移動すると長手方向の中間部分538が凸部510に当たり曲げ変形する横材530と、を備えている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一構造部と、
前記第一構造部に対して相対移動する第二構造部と、
前記第一構造部及び前記第二構造部の一方に設けられ、前記相対移動方向に突出する凸部と、
前記第一構造部及び前記第二構造部の他方に横方向に間隔をあけて設けられた取付部と、
前記取付部に長手方向の両端部が取り付けられ、前記第一構造部に対して第二構造部が相対移動すると長手方向の中間部分が前記凸部に当たり曲げ変形する横材と、
を備えた構造物。
【請求項2】
前記横材の前記両端部は、前記取付部にピン接合されている、
請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記第一構造部及び前記第二構造部の一方は、下部構造部であり、
前記第一構造部及び前記第二構造部の他方は、前記下部構造部に設置された免震支承に支持された上部構造部である、
請求項1又は請求項2に記載の構造物。
【請求項4】
前記下部構造部は、免震ピットを形成し、
前記凸部は、前記下部構造部の擁壁部に設けられ、前記横材側の周面が湾曲し、金属カバーで覆われたコンクリートブロック又は金属部材で構成され、
前記取付部は、前記上部構造部の隣り合うフーチングに設けられ、
前記横材は、前記取付部にピン接合された鉄骨材で構成されている、
請求項3に記載の構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、免震構造及び構造物に関する技術が開示されている。この先行技術では、相対移動方向(揺れ方向)がX方向に沿っているとした場合、X方向に沿って配置されたPC鋼材は、軸方向に伸長し、軸方向の剛性による復元力を発揮する。一方、相対移動方向(揺れ方向)がY方向に沿っているとした場合、X方向に沿って配置されたPC鋼材は、軸方向と直交する方向に変形し、弦の剛性による復元力を発揮する。
【0003】
特許文献2には、免震層を複数備えた複層免震建物に関する技術が開示されている。この先行技術では、複層免震建物は、下側から上側に向かって、下部構造物、下部免震層、中間構造物、中間免震層、及び上部構造物が連結されて構成されている。下部免震層及び中間免震層のいずれか一方の免震層は、水平剛性が他方の免震層より小さく設定され、かつ、一方の免震層の変形に伴って一方の免震層の水平剛性を上昇させる剛性付与機構を備えている。他方の免震層は、地震動発生時に剛性付与機構により一方の免震層の水平剛性が上昇した状態で変形する。
【0004】
特許文献3には、地震時において免震層の過大変形を抑制する免震構造、建物、及び移動規制装置に関する技術が開示されている。この先行技術では、免震構造は、上部構造体と、上部構造体の下方に配置された下部構造体との間に設けられ、下部構造体に対して上部構造体を移動自在に支持する免震層と、上部構造体と連動して移動する第1束材と、下部構造体と連動して移動する第2束材と、第1束材又は第2束材のいずれか一方に固定された緩衝部材と、緩衝部材が固定されていない第1束材又は第2束材の他方に固定された変形部材と、を備えている、変形部材は、下部構造体に対する上部構造体の相対的な移動量が所定量以上となった際に緩衝部材を介して第1束材又は第2束材のいずれか一方に押圧され変形して運動エネルギーを吸収すると共に、移動量を免震層の限界変位以下に規制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-140970号公報
【特許文献2】特開2020-133243号公報
【特許文献3】特開2022-021052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
免震建物等のように地震時に相対移動する二つの構造部を備えた構造物には、特許文献2及び特許文献3に記載されているようなゴム製の緩衝部材を設けて、二つの構造部の相対移動量を制限し且つ衝撃を緩衝させる場合がある。しかし、ゴムは使用環境によって物性変化が起こるため、衝撃緩衝性能の安定性に関して改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記事実を鑑み、二つの構造部の相対移動量を制限する際の衝撃を安定して緩衝させることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一態様は、第一構造部と、前記第一構造部に対して相対移動する第二構造部と、前記第一構造部及び前記第二構造部の一方に設けられ、前記相対移動方向に突出する凸部と、前記第一構造部及び前記第二構造部の他方に横方向に間隔をあけて設けられた取付部と、前記取付部に長手方向の両端部が取り付けられ、前記第一構造部に対して第二構造部が相対移動すると長手方向の中間部分が前記凸部に当たり曲げ変形する横材と、を備えた構造物である。
【0009】
第一態様の構造物では、第一構造部に対して第二構造部が相対移動すると、横材の長手方向の中間部分が凸部に当たり、横材が曲げ変形することで相対移動量が制限されると共に衝撃が緩衝される。よって、緩衝部材としてゴムを用いる場合と比較し、第一構造部に対する第二構造部の相対移動量を制限する際の衝撃が安定して緩衝される。
【0010】
第二態様は、前記横材の前記両端部は、前記取付部にピン接合されている、第一態様に記載の構造物である。
【0011】
第二態様の構造物では、横材の両端部は取付部にピン接合されているので、両端部が取付部に剛接合されている場合と比較し、横材が弾性変形する変形量が大きくなる。
【0012】
第三態様は、前記第一構造部及び前記第二構造部の一方は、下部構造部であり、前記第一構造部及び前記第二構造部の他方は、前記下部構造部に設置された免震支承に支持された上部構造部である、第一態様又は第二態様に記載の構造物である。
【0013】
第三態様の構造物では、下部構造部に設置された免震支承に支持された上部構造部の相対移動量を制限する際の衝撃が安定して緩衝される。
【0014】
第四態様は、前記下部構造部は、免震ピットを形成し、前記凸部は、前記下部構造部の擁壁部に設けられ、前記横材側の周面が湾曲し、金属カバーで覆われたコンクリートブロック又は金属部材で構成され、前記取付部は、前記上部構造部の隣り合うフーチングに設けられ、前記横材は、前記取付部にピン接合された鉄骨材で構成されている、第三態様に記載の構造物である。
【0015】
第四態様の構造物では、横材は鉄骨材で構成されているので、大きな衝撃が加わっても弾性変形して衝撃を緩衝する。また、凸部における横材側の周面は湾曲し、金属カバーで覆われたコンクリートブロック又は金属部材で構成されているので、鉄骨材で構成された横材の長手方向の中間部分が当たった際の凸部の周面の破損が抑制又は防止される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第一構造部に対する第二構造部の相対移動量を制限する際の衝撃を安定して緩衝することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第一実施形態の構造物をY方向から見た一部断面で示す立面図である。
【
図2】第一実施形態の構造物を上方から見た平面図である。
【
図3】第一実施形態の構造物の要部の水平断面図である。
【
図4】第一実施形態の構造物の要部の鉛直断面図である。
【
図5】第一実施形態の構造物を構成する上部構造部と下部構造部とがX方向に相対移動して横材が凸部に当たり湾曲した状態の
図3に対応した水平断面図である。
【
図6】第一実施形態の構造物を構成する上部構造部と下部構造部とがX方向に相対移動して横材が凸部に当たり湾曲した状態の
図4に対応した鉛直断面図である。
【
図7】第二実施形態の構造物の要部の鉛直断面図である。
【
図8】第三実施形態の構造物をY方向から見た一部断面で示す立面図である。
【
図9】第四実施形態の構造物をY方向から見た一部断面で示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態の構造物について説明する。なお、水平方向の直交する二方向をX方向及びY方向とし、それぞれ矢印X及び矢印Yで示す。X方向及びY方向と直交する鉛直方向をZ方向として、矢印Zで示す。
【0019】
[構造]
まず、本実施形態の構造物の構造について説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の構造物10は、第二構造部の一例としての上部構造部100が、第一構造部の一例としての下部構造部200に設置された免震支承50に支持された免震建物である。免震支承50としては、積層ゴム支承、すべり支承及び転がり支承等を用いることができる。
【0021】
本実施形態の上部構造部100は、鉄筋コンクリート造とされ、図示されていない複数の柱と梁とが剛接合されたラーメン構造の多層階を有する建築物である。なお、このような上部構造部100は一例であって、これに限定されるものではない。例えば、上部構造部100は、鉄骨鉄筋コンクリート造であってもよいし、鉄骨造であってもよい。また、
図2に示すように、本実施形態の上部構造部100は、平面視矩形状であるが、これに限定されるものではない。
【0022】
図3に示すように、上部構造部100の底部110には、下側に突出する平面視矩形状のフーチング120と、隣り合うフーチング120に接合された基礎梁130と、が設けられている。
図3及び
図4に示すように、本実施形態では、底部110の外周部112の基礎梁130の端部132は、フーチング120の内側の中心から側壁122側にずれて接合されている。
【0023】
図1に示す本実施形態の下部構造部200は、鉄筋コンクリート造であるが、これに限定されるものではない。例えば、下部構造部200は、鉄骨鉄筋コンクリート造であってもよい。また、本実施形態の下部構造部200は、地盤30を掘削して形成した平面視矩形状の掘削凹部32に構築され、免震支承50が設置された免震ピット40を形成している。
【0024】
図2に示すように、下部構造部200は、底盤210と擁壁220A、220B、220C、200Dとを有して構成されている。
図1に示すように、底盤210は掘削凹部32の底部に設けられ、擁壁220A、220B、220C、220Dは掘削凹部32の側面に底盤210を囲むように設けられている。擁壁220A、220B、220C、220Dと底盤210とは、構造的に一体とされている。
【0025】
図2に示すように、本実施形態では、底盤60は、平面視略矩形状(本実施形態では略正方形)とされているが、これに限定されるものではない。なお、擁壁220A、220B、220C、200Dを区別する必要がない場合は、符号の後のA、B、C、Dを省略して擁壁220と記す場合がある。
【0026】
図1に示すように、前述した免震支承50は、下部構造部200の底盤210に設置されている。正確には、
図4に示すように、免震支承50は、下部構造部200の底盤210に構築された架台部212の上に設置されている。免震支承50の上端部は、前述の上部構造部100の底部110のフーチング120に接合されている。
【0027】
なお、
図1に示すように、上部構造部100の底部110と下部構造部200の底盤210との間が免震層42であり、免震層42には図示されていないダンパー等の減衰装置が設けられている。減衰装置は、上部構造部100の底部110と下部構造部200の底盤210とに接続されている。
【0028】
図3及び
図4に示すように、本実施形態では、各擁壁220の上端部222には、それぞれ外側に延出する反力受部230が形成されている。反力受部230は、間隔をあけて平行又は略平行に形成された第一受部232と第二受部234と、これらを連結する連結部236とを有し、平面視で略H字形状(
図3参照)となっている。また、第一受部232と第二受部234との間の地盤は、地盤改良された地盤改良部238となっている。なお、反力受部230の構造は一例であって、これに限定されるものではない。
【0029】
図1~
図4に示すように、上部構造部100と下部構造部200との間には、緩衝機構500が設けられている。
図2に示すように、緩衝機構500は、上部構造部100の底部110と各擁壁220A、220B、220C、220Dとの間の四ヶ所に設けられている。
図1~
図4に示すように、緩衝機構500は、下部構造部200に設けられた凸部510と、上部構造部100に設けられた取付部520及び横材530と、を有して構成されている。凸部510と横材530とは同じ高さに対向して設けられている。
【0030】
図3及び
図4に示すように、凸部510は、下部構造部200の擁壁220の上端部222に鉛直方向に沿って形成され(
図4参照)、平面視において、上部構造部100側、つまり横材530側に突出する凸状となっている。また、凸部510は、反力受部230の連結部236に対応する位置に設けられている(
図3参照)。
【0031】
図4に示すように、平面視において、凸部510における横材530側の周面512は、円弧状に湾曲している。凸部510は、鉄筋コンクリートブロック514と、鉄筋コンクリートブロック514を覆う金属カバー516と、を有して構成されている。よって、凸部510の周面512は、金属カバー516が構成する。
【0032】
図3に示すように、上部構造部100の底部110の外周部112の隣り合うフーチング120に取付部520が設けられている(
図4も参照)。取付部520は、平面視矩形状で短い柱状とされ、下部構造部200の擁壁220側、つまり凸部510側に突出している。なお、本実施形態の取付部520は、鉄筋コンクリート造であるが、これに限定されるものではない。そして、隣り合うフーチング120に設けられた取付部520に横材530が取り付けられている。
【0033】
図3及び
図4に示すように、本実施形態の横材530は、左右のフランジ532及びウエブ534を有するH形鋼で構成されている。また、横材530における長手方向の両側の端部536(以降、両端部536と記す場合がある)は、取付部520にピン接合されている。具体的には、横材530の両端部536のウエブ534を取付部520から鉛直方向に突出するピン部材522が貫通した構成である。ピン部材522の上端部には円盤状の頭部524が形成されている。別の観点から説明すると、横材530の両端部536は、鉛直方向に突出するピン部材522を回転軸に回転可能に取り付けられている。本実施形態では、ピン部材522は、クレビスピンを用いているがこれに限定されるものではない。また、横材530の両端部536の内側のフランジ532は、取付部520に干渉しないように、一部切りかかれている。
【0034】
なお、
図4に示すように、本実施形態では、横材530は、上部構造部100の底部110の外縁よりも内側に配置されている。しかし、説明を判り易くするため
図1及び
図2では、横材530は底部110の外縁よりも外側に図示している。
【0035】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0036】
図5及び
図6に示すように、想定を超える大地震時に、免震支承50に支持された上部構造部100が、下部構造部200に対して水平方向に大きく相対移動すると、横材530の長手方向の中間部分538(
図3及び
図5参照)が凸部510に衝突する。具体的には、想定を超える大地震時に、上部構造部100の底部110が、下部構造部200の擁壁220に対して閾値を超えて水平方向に相対移動して接近すると、横材530が凸部510に衝突する。
【0037】
なお、閾値は、上部構造部100の水平方向の相対移動量の上限値である。閾値とは、例えば上部構造部100の底部110が下部構造部200の擁壁220に衝突しない相対移動量の上限値や免震支承50の軸力保持機能が失われない許容範囲の上限値或いは上限値よりも小さい値である。但し、これらは一例であって、閾値は任意に設定することができる。
【0038】
また、横材530の長手方向の中間部分538(
図3及び
図5参照)とは、取付部520にピン接合されている端部536と端部536との間である。なお、X方向又はY方向に沿って相対移動した場合に、横材530の長手方向の中心位置又はその近傍に凸部510が当たるように構成されていることが望ましい。
【0039】
このように、大地震時に、免震支承50に支持された上部構造部100が、下部構造部200に対して水平方向に相対移動して、横材530の長手方向の中間部分538(
図3及び
図5参照)が凸部510に衝突すると、横材530が曲げ変形して湾曲する(
図3参照)。これにより、上部構造部100の相対移動量が制限されると共に衝撃が緩衝される。そして、上部構造部100の相対移動量が制限されることで、上部構造部100の底部110の擁壁220への衝突が防止されると共に免震支承50の軸力保持機能が維持される。
【0040】
なお、想定を超える大地震であっても、横材530の曲げ変形の変形量は弾性領域内に納まるように設計されている。よって、衝突後は、
図3のように、横材530は真直ぐに戻る。したがって、再度、横材530が凸部510に衝突した際も同じように相対移動量が制限されると共に同じように繰り返し衝撃が緩衝される。つまり、緩衝機構500は、上部構造部100の下部構造部200に対する相対移動量を安定して制限することができると共に安定して衝撃を緩衝することができる。
【0041】
また、横材530の長手方向の両端部536は取付部520にピン接合されているので、両端部536が取付部520に剛接合されている場合と比較し、横材530が弾性変形する変形量が大きくなる。
【0042】
なお、想定を大きく超える大地震で、横材530が凸部510に衝突した際の衝撃力が想定を大きく超えた場合は、鉄骨製の横材530は塑性変形し、エネルギーを吸収する。
【0043】
また、横材530は鉄骨材で構成されているので、大きな衝撃が加わっても破損(亀裂や破断等が発生)することなく弾性変形して衝撃を緩衝する、或いは塑性変形してエネルギーを吸収する。また、凸部510における横材530側の周面512は湾曲し、金属カバー516で覆われているので、鉄骨材で構成された横材の長手方向の中間部分が凸部510に当たった際の凸部510の周面512の破損が抑制又は防止される。
【0044】
また、凸部510が受けた衝撃力は、擁壁220の上端部を介して反力受部230及び地盤30に伝達され、これらで受ける。
【0045】
ここで、本実施形態の緩衝機構500ではなく、ゴムを緩衝部材として用いる比較例について検討する。
【0046】
ゴムは、直射日光や風雨が当たると環境だと劣化が早くなる。また、ゴムは、温度によって性能が変動する。このように、ゴムは、使用環境によって物性変化が起こる。また、設置する構造物毎に必要とする性能や仕様が異なるので、設置する構造物毎にゴムの材料組成を検討することになる。更に、ゴムは、衝突の緩衝性能が衝突速度に依存する。
【0047】
これに対して、本実施形態の緩衝機構500では、横材530が曲げ変形することで相対移動量を制限且つ衝撃を緩衝するので、耐久性が高い。また、横材530の断面積、断面形状及び長手方向の長さ等を変えることで、剛性、耐力及び変位量を容易に制御できる。言い換えると、横材530は、容易に緩衝性能を調整することができる。更に、横材530は、緩衝性能の衝突速度の依存性が無い又は依存性が小さい。
【0048】
また、本実施形態では、横材530は鉄骨材であり、既製品のH形鋼を用いている。よって、メンテナンス性に優れており、結果的に長期間に亘って使用することができる。また、既製品であるので、入手性が高く、安価である。
【0049】
したがって、緩衝機構500は、緩衝部材としてゴムを用いる場合と比較し、上部構造部100の下部構造部200に対する相対移動量を制限する際の衝撃を安定して緩衝することができる。
【0050】
<第二実施形態>
次に本発明の第二実施形態の構造物について説明する。なお、第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は簡略化又は省略する。
【0051】
[構造]
まず、本実施形態の構造物の構造について説明する。
【0052】
図7に示すように、本実施形態の構造物11は、第二構造部の一例としての上部構造部100が、第一構造部の一例としての下部構造部201に設置された免震支承50に支持された免震建物である。
【0053】
本実施形態の下部構造部201は、反力受部230(
図2及び
図3参照)が形成されていない。しかし、下部構造部201の底盤210における上部構造部100の底部110の直下には、柱状の反力受基礎部250が構築されている。底盤210と反力受基礎部250とは、構造的に一体とされている。これら以外は第一実施形態の下部構造部200(
図2及び
図3)と同様の構造である。
【0054】
なお、
図7では、反力受基礎部250は、X方向に間隔をあけて二つ設けられている。しかし、反力受基礎部250は、これらとは別に図(紙面)の法線方向であるY方向に間隔をあけて二つ設けられている。
【0055】
上部構造部100と下部構造部201との間には、緩衝機構500が設けられている。緩衝機構500は、上部構造部100の底部110と下部構造部201の反力受基礎部250との間の四ヶ所に設けられている。緩衝機構500は、下部構造部200に設けられ凸部510と、上部構造部100に設けられた取付部520及び横材530と、を有して構成されている。
【0056】
凸部510は、下部構造部201の反力受基礎部250の上端部に設けられ、平面視において、横材530側に突出する凸状となっている。
【0057】
取付部520は、上部構造部100の底部110のフーチング120に設けられている。取付部520は、凸部510側に突出している。そして、隣り合うフーチング120に設けられた取付部520に横材530の両端部536がピン接合されている。
【0058】
なお、
図7では、二つの緩衝機構500は、X方向に間隔をあけ且つX方向に対称に設けられている。しかし、これらとは別に、二つの緩衝機構500が、Y方向に間隔をあけ且つY方向に対称に二箇所に設けられている。
【0059】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。なお、第一実施形態と略同様であので、簡略化して説明する。
【0060】
大地震時に、免震支承50に支持された上部構造部100が、下部構造部200に対して閾値を超えて水平方向に相対移動し、横材530の長手方向の中間部分538(
図3及び
図5参照)が凸部510に衝突すると、横材530が弾性変形して湾曲する(
図3参照)。これにより、上部構造部100の相対移動量が安定して制限されると共に安定して衝撃が緩衝される。上部構造部100の相対移動量が制限されることで、上部構造部100の擁壁220への衝突が防止されると共に免震支承50の軸力保持機能が維持される。
【0061】
また、横材530の長手方向の両端部536は取付部520にピン接合されているので、両端部536が取付部520に剛接合されている場合と比較し、横材530が弾性変形する変形量が大きくなる。
【0062】
なお、想定を大きく超える大地震で、横材530が凸部510に衝突した際の衝撃力が想定を大きく超えた場合は、鉄骨製の横材530は塑性変形し、エネルギーを吸収する。
【0063】
また、横材530は鉄骨材で構成されているので、大きな衝撃が加わっても破損(亀裂や破断等が発生)することなく弾性変形して衝撃を緩衝する、或いは塑性変形してエネルギーを吸収する。また、凸部510における横材530側の周面512は湾曲し、金属カバー516で覆われているので、鉄骨材で構成された横材の長手方向の中間部分が凸部510に当たった際の凸部510の周面512の破損が抑制又は防止される。
【0064】
<第三実施形態>
次に本発明の第三実施形態の構造物について説明する。なお、第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は簡略化又は省略する。
【0065】
[構造]
まず、本実施形態の構造物の構造について説明する。
【0066】
図8に示すように、本実施形態の構造物12は、第二構造部の一例としての建物部101と第一構造部の一例としての基礎部203と有して構成されている。基礎部203は、傾斜地盤31をL字状に掘削して形成された掘削部33に構築され、擁壁部221と底盤部211とを有して構成され、L字形状を成している。
【0067】
建物部101は、基礎部203の底盤部211の上に構築されている。なお、本実施形態の建物部101は、耐震構造、制振構造又は中間免震構造である。また、建物部101と擁壁部221との間はドライエリア204となっている。
【0068】
建物部101と基礎部203との間には、緩衝機構500が設けられている。緩衝機構500は、基礎部203設けられた凸部510と、建物部101に設けられた取付部520及び横材530と、を有して構成されている。
【0069】
凸部510は、基礎部203の擁壁部221の上端部223に設けられ、平面視において、建物部101側に、つまり横材530側に突出する凸状となっている。
【0070】
取付部520は、建物部101における擁壁部221側の外壁102に取付部520が設けられている。取付部520は、図(紙面)の法線方向であるY方向に間隔をあけて設けられ、擁壁部221側、つまり凸部510側に突出している。そして、間隔をあけて設けられた取付部520に横材530の両端部536がピン接合されている。
【0071】
なお、建物部101が中間免震構造の場合、中間免震層よりも上側に緩衝機構500を設けることが望ましい。但し、中間免震層が擁壁部221の上端部223よりも上側にある場合は、中間免震層よりも下側に設ける。
【0072】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。なお、第一実施形態と略同様であので、簡略化して説明する。
【0073】
大地震時に、建物部101が大きく揺れて基礎部203に対して相対移動し外壁102が擁壁部221に接近すると、横材530の長手方向の中間部分538(
図3及び
図5参照)が凸部510に衝突し、横材530が弾性変形して湾曲する(
図3参照)。これにより、建物部101の相対移動量(揺れ量)が安定して制限され、建物部101の擁壁部221への衝突が防止されると共に安定して衝撃が緩衝される。
【0074】
また、横材530の長手方向の両端部536は取付部520にピン接合されているので、両端部536が取付部520に剛接合されている場合と比較し、横材530が弾性変形する変形量が大きくなる。
【0075】
なお、想定を大きく超える大地震で、横材530が凸部510に衝突した際の衝撃力が想定を大きく超えた場合は、鉄骨製の横材530は塑性変形し、エネルギーを吸収する。
【0076】
また、横材530は鉄骨材で構成されているので、大きな衝撃が加わっても破損(亀裂や破断等が発生)することなく弾性変形して衝撃を緩衝する、或いは塑性変形してエネルギーを吸収する。また、凸部510における横材530側の周面512は湾曲し、金属カバー516で覆われているので、鉄骨材で構成された横材の長手方向の中間部分が凸部510に当たった際の凸部510の周面512の破損が抑制又は防止される。
【0077】
<第四実施形態>
次に本発明の第三実施形態の構造物について説明する。なお、第一実施形態、第二実施形態及び第三実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は簡略化又は省略する。
【0078】
[構造]
まず、本実施形態の構造物の構造について説明する。
【0079】
本実施形態の構造物13は、第二構造部の一例としての第一建物150と第一構造部の一例としての第二建物151と有して構成されている。第一建物150と第二建物151とは、地盤35上にX方向に間隔をあけて構築されている。
【0080】
本実施形態では、第一建物150は、第二建物151よりも建物の高さが高いが、これに限定されるものではない。本実施形態の第一建物150は、耐震構造、制振構造又は中間免震構造である。第二建物151は、耐震構造又は制振構造である。
【0081】
第一建物150と第二建物151との間には、緩衝機構500が設けられている。緩衝機構500は、第二建物151に設けられた凸部510と、第一建物150に設けられた取付部520及び横材530と、を有して構成されている。
【0082】
凸部510は、第二建物151における第一建物150側の外壁153の上端部153Aに設けられ、平面視において、第一建物150側に、つまり横材530側に突出する凸状となっている。
【0083】
取付部520は、第一建物150の外壁152における凸部510と対向する位置に設けられている。取付部520は、図(紙面)の法線方向であるY方向に間隔をあけて設けられ、第二建物151側、つまり凸部510側に突出している。そして、間隔をあけて設けられた取付部520に横材530がピン接合されている。
【0084】
なお、第一建物150が中間免震構造の場合、中間免震層よりも上側に緩衝機構500を設けることが望ましい。但し、中間免震層が第二建物151の上端部153Aよりも上側にある場合は、中間免震層よりも下側に設ける。
【0085】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。なお、第一実施形態と略同様であので、簡略化して説明する。
【0086】
大地震時に、第一建物150と第二建物151とが大きく揺れ第一建物150と第二建物151とが接近すると、横材530の長手方向の中間部分538(
図3及び
図5参照)が凸部510に衝突し、横材530が弾性変形して湾曲する(
図3参照)。これにより、第一建物150と第二建物151との相対移動量が安定して制限され、第一建物150と第二建物151の擁壁部221への衝突が防止されると共に安定して衝撃が緩衝される。
【0087】
また、横材530の長手方向の両端部536は取付部520にピン接合されているので、両端部536が取付部520に剛接合されている場合と比較し、横材530が弾性変形する変形量が大きくなる。
【0088】
なお、想定を大きく超える大地震で、横材530が凸部510に衝突した際の衝撃力が想定を大きく超えた場合は、鉄骨製の横材530は塑性変形し、エネルギーを吸収する。
【0089】
また、横材530は鉄骨材で構成されているので、大きな衝撃が加わっても破損(亀裂や破断等が発生)することなく弾性変形して衝撃を緩衝する、或いは塑性変形してエネルギーを吸収する。また、凸部510における横材530側の周面512は湾曲し、金属カバー516で覆われているので、鉄骨材で構成された横材の長手方向の中間部分が凸部510に当たった際の凸部510の周面512の破損が抑制又は防止される。
【0090】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0091】
例えば、上記第一実施形態の構造物10の下部構造部200には、反力受部230が設けられていたが、これに限定されるものではない。反力受部の構造はどのようなものであってもよいし、反力受部230が設けられていなくでもよい。
【0092】
また、例えば、上記第二実施形態の構造物11は、基礎免震構造であったが、これに限定されるものではない。構造物11は、中間免震構造であってもよい。また、上記第四実施形態の第二建物151は、耐震構造又は制振構造であったが、これに限定されるもではなく、中間免震構造であってもよい。
【0093】
また、例えば、上記実施形態では、第一構造部側に取付部520及び横材530を設け、第二構造部側に凸部を設けたが、これに限定されるものではない。第二構造部側に取付部520及び横材530を設け、第一構造部側に凸部を設けてもよい。
【0094】
また、例えば、上記実施形態の緩衝機構500の横材530は、H形鋼で構成されていたが、これに限定されるものではない。例えば、横材530はH形鋼以外の鉄骨材、例えば、中実の棒状の鉄骨材であってもよい。また、鉄骨以外の金属材料で構成された横材であってもよい。更に、横材は、金属材以外、例えば、合成樹脂又は木材等で構成されていてもよい。また、横材530の両端部536は、取付部520にピン接合されていたがこれに限定されるものではなく、剛接合であってもよいし、半剛接合であってもよい。
【0095】
また、上記実施形態の緩衝機構500の凸部510は、鉄筋コンクリートブロック514を金属カバー516で覆った構造であったが、これに限定されるものではない。例えば、金属カバー516以外、例えば合成樹脂板又はゴム板で覆ってもよい。なお、ゴム板は緩衝効果のためではなく鉄筋コンクリートブロック514の周面の破損を防止又は抑制をするためのものである。また、更に、凸部510は、鉄筋コンクリートブロック以外、例えば金属ブロックで構成されていてもよいし、金属以外、合成樹脂又は木材等で構成されていてもよい。
【0096】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。複数の実施形態は、適宜、組み合わされて実施可能である。
【符号の説明】
【0097】
10 構造物
11 構造物
12 構造物
13 構造物
40 免震ピット
50 免震支承
100 上部構造部(第二構造部の一例)
101 建物部(第二構造部の一例)
150 第一建物(第二構造部の一例)
151 第二建物(第一構造部の一例)
200 下部構造部(第一構造部の一例)
201 下部構造部(第一構造部の一例)
203 基礎部(第一構造部の一例)
500 緩衝機構
510 凸部
512 周面
514 鉄筋コンクリートブロック(コンクリートブロックの一例)
516 金属カバー
520 取付部
530 横材
536 端部
538 中間部分