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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157363
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】めっき装置およびめっき方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/00 20060101AFI20231019BHJP
   C25D 21/12 20060101ALI20231019BHJP
   C25D 7/12 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C25D17/00 C
C25D21/12 A
C25D17/00 K
C25D7/12
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067236
(22)【出願日】2022-04-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱地 彬文
(72)【発明者】
【氏名】門田 裕行
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 浩平
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA09
4K024AB07
4K024BB12
4K024CA05
4K024CB02
4K024CB04
4K024CB16
(57)【要約】
【課題】被めっき物の表裏両面にめっき液流路を備え、めっき液をそれぞれのめっき液流路に予め設定した分流比で分流して供給し、被めっき物の表裏両面を同時かつ高速にめっき処理できるめっき装置およびめっき方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るめっき装置Aは、めっき槽1内において把持部12の一側面12a側に形成される第一のめっき液流路13aおよび前記一側面12aの裏面となる他側面12b側に形成される第二のめっき液流路13bと、めっき液循環供給口7側の保持部11である第一の保持部11aに固定保持された分流部10と、を備え、前記めっき液循環供給口7から供給されためっき液を、前記分流部10により前記第一のめっき液流路13aと前記第二のめっき液流路13bに予め設定した分流比で分流して供給し、前記第一のめっき液流路13aと前記第二のめっき液流路13bとを通過するめっき液流により被めっき物5をめっき処理する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のめっき対象面と第二のめっき対象面とを有する薄板状の被めっき物の、前記第一のめっき対象面と前記第二のめっき対象面に同時にめっき液を供給することによって前記被めっき物を同時にめっき処理するめっき装置であって、
めっき槽と、
前記めっき槽内において一対の保持部により固定保持されて前記被めっき物を把持する把持部と、
前記めっき槽内において前記把持部の一側面側に形成される第一のめっき液流路および前記一側面の裏面となる他側面側に形成される第二のめっき液流路と、
前記めっき液を前記めっき槽の底部から前記めっき槽内に供給するめっき液循環供給口と、
前記めっき液を前記めっき槽の底部から前記めっき槽外に排出するめっき液循環排出口と、
前記めっき液循環供給口側の保持部である第一の保持部における前記把持部と対向する位置に固定保持される分流部と、を備え、
前記めっき液循環供給口から供給された前記めっき液を、前記分流部により前記第一のめっき液流路と前記第二のめっき液流路に予め設定した分流比で分流して供給し、前記第一のめっき液流路と前記第二のめっき液流路とを通過した前記めっき液を合流して前記めっき液循環排出口から排出して形成するめっき液流により前記被めっき物をめっき処理すること、
を特徴とするめっき装置。
【請求項2】
請求項1に記載のめっき装置であって、
前記分流部は、前記被めっき物の表面の第一の回路パターンに基づく第一のめっき条件と、前記被めっき物の裏面の第二の回路パターンに基づく第二のめっき条件と、によって定まる分流比で前記めっき液流を分流して、前記第一のめっき液流路および前記第二のめっき液流路に供給すること、
を特徴とするめっき装置。
【請求項3】
請求項2に記載のめっき装置であって、
前記第一のめっき液流路の第一のめっき液取込口と、前記第二のめっき液流路の第二のめっき液取込口と、の面積比が前記分流比になるように前記分流部の形状を設定すること、
を特徴とするめっき装置。
【請求項4】
請求項3に記載のめっき装置であって、
前記分流部は、長手方向に垂直な断面の外線が三角形を形成する柱状構造物であり、
前記柱状構造物は、前記三角形の何れかの頂点を含む長手方向の稜線を示す分流辺が前記めっき液流の上流側を向いて配設すると共に、前記分流辺に対向する底面により前記第一の保持部に固定保持され、
前記第一のめっき液流路の第一のめっき液取込口と、前記第二のめっき液流路の第二のめっき液取込口と、の面積比が前記分流比になるように前記頂点を挟む前記三角形の二辺の長さ比率を設定すること、
を特徴とするめっき装置。
【請求項5】
請求項3に記載のめっき装置であって、
前記分流部は、長手方向に垂直な断面の外線が四角形を形成する柱状構造物であり、
前記柱状構造物は、前記第一の保持部の前記めっき液循環供給口と相対する側の面に一平面によって固定保持され、
前記第一のめっき液流路の第一のめっき液取込口と、前記第二のめっき液流路の第二のめっき液取込口と、の面積比が前記分流比になるように、前記第一のめっき液流路へのめっき液流の流入量を制限するように前記分流部の一部が前記第一のめっき液流路に張り出して形成する第一の遮蔽部の大きさ、または、前記第二のめっき液流路へのめっき液流の流入量を制限するように前記分流部の一部が前記第二のめっき液流路に張り出して形成する第二の遮蔽部の大きさを設定すること、
を特徴とするめっき装置。
【請求項6】
請求項1に記載のめっき装置であって、
前記第一のめっき液流路は、前記一側面と所定の間隔をあけて相対する第一の陽極板を備え、
前記第二のめっき液流路は、前記他側面と所定の間隔をあけて相対する第二の陽極板を備え、
前記第一の陽極板と前記把持部に把持された被めっき物との間に第一の直流電源を接続し、
前記第二の陽極板と前記把持部に把持された被めっき物との間に第二の直流電源を接続し、
前記第一の直流電源により、前記被めっき物の第一のめっき対象面の第一の回路パターンに基づく第一のめっき条件に基づいて設定する電流を付与し、
前記第二の直流電源により、前記被めっき物の第二のめっき対象面の第二の回路パターンに基づく第二のめっき条件に基づいて設定する電流を付与すること、
を特徴とするめっき装置。
【請求項7】
請求項1に記載のめっき装置であって、
循環ポンプと、めっき液供給路と、めっき液回収路と、を備え、
前記循環ポンプの吐出側と前記めっき液循環供給口とを前記めっき液供給路で接続し、前記循環ポンプの吸込側と前記めっき液循環排出口とを前記めっき液回収路で接続して前記めっき槽と前記循環ポンプとの間で循環路を形成し、前記循環ポンプにより所定の吐出圧にて前記めっき液を循環すること、
を特徴とするめっき装置。
【請求項8】
第一のめっき対象面と第二のめっき対象面とを有する薄板状の被めっき物の、前記第一のめっき対象面と前記第二のめっき対象面に同時にめっき液を供給することによって前記被めっき物を同時にめっき処理するめっき装置であって、めっき槽と、前記めっき槽内において一対の保持部により固定保持されて前記被めっき物を把持する把持部と、前記めっき槽内において前記把持部の一側面側に形成される第一のめっき液流路および前記一側面の裏面となる他側面側に形成される第二のめっき液流路と、前記めっき液を前記めっき槽の底部から前記めっき槽内に供給するめっき液循環供給口と、前記めっき液を前記めっき槽の底部から前記めっき槽外に排出するめっき液循環排出口と、前記めっき液循環供給口側の保持部である第一の保持部における前記把持部と対向する位置に固定保持される分流部と、を備えるめっき装置を用いるめっき方法であり、
前記めっき液循環供給口から供給された前記めっき液を、前記分流部により前記第一のめっき液流路と前記第二のめっき液流路に予め設定した分流比で分流して供給し、前記第一のめっき液流路と前記第二のめっき液流路とを通過した前記めっき液を合流して前記めっき液循環排出口から排出して形成するめっき液流により前記被めっき物をめっき処理すること、
を特徴とするめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき装置およびめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景技術として、例えば、特許文献1に記載の技術がある。この特許文献1には、めっき槽と、該めっき槽に配設した陽極板と、該陽極板に対向して配設する被めっき物を保持する保持手段とを有するめっき装置が記載されている。このめっき装置において、前記めっき槽は、めっき液を一方向に流すめっき液流路を形成する流路壁と、前記めっき液流路に前記被めっき物のめっきしたい被めっき物表面に対応した開口部とを有している。また、このめっき装置は、前記めっき液に渦流を発生させる渦発生器と、該渦発生器に前記めっき液を送る循環ポンプとを有している。そして、このめっき装置は、前記渦発生器と前記循環ポンプとによって前記めっき液を前記めっき槽の下部より前記めっき液流路に供給し、前記めっき槽の下部より排出させる循環経路を有する。
【0003】
特許文献1に記載のめっき装置は、循環ポンプによってめっき液の一様な流速分布を持つ高速めっき液流を形成できる。そのため、このめっき装置は、深い穴や深い溝またはアスペクト比の高い穴や溝を有する被めっき物表面に新しいめっき液を供給し易くし、高速でめっきが行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4447439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のめっき装置には片面流路しか形成されていない。従って、このめっき装置で両面をめっき処理するためには、片面ずつ2回のめっき処理を施さなければならなかった。
【0006】
本発明の課題は、被めっき物の表裏両面にめっき液流路を備え、めっき液をそれぞれのめっき液流路に予め設定した分流比で分流して供給し、被めっき物の表裏両面を同時かつ高速にめっき処理できるめっき装置およびめっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決した本発明に係るめっき装置は、第一のめっき対象面と第二のめっき対象面とを有する薄板状の被めっき物の、前記第一のめっき対象面と前記第二のめっき対象面に同時にめっき液を供給することによって前記被めっき物を同時にめっき処理するめっき装置であって、めっき槽と、前記めっき槽内において一対の保持部により固定保持されて前記被めっき物を把持する把持部と、前記めっき槽内において前記把持部の一側面側に形成される第一のめっき液流路および前記一側面の裏面となる他側面側に形成される第二のめっき液流路と、前記めっき液を前記めっき槽の底部から前記めっき槽内に供給するめっき液循環供給口と、前記めっき液を前記めっき槽の底部から前記めっき槽外に排出するめっき液循環排出口と、前記めっき液循環供給口側の保持部である第一の保持部における前記把持部と対向する位置に固定保持される分流部と、を備え、前記めっき液循環供給口から供給された前記めっき液を、前記分流部により前記第一のめっき液流路と前記第二のめっき液流路に予め設定した分流比で分流して供給し、前記第一のめっき液流路と前記第二のめっき液流路とを通過した前記めっき液を合流して前記めっき液循環排出口から排出して形成するめっき液流により前記被めっき物をめっき処理することとしている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被めっき物の表裏両面にめっき液流路を備え、めっき液をそれぞれのめっき液流路に予め設定した分流比で分流して供給し、被めっき物の表裏両面を同時かつ高速にめっき処理できるめっき装置およびめっき方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係るめっき装置の全体構成を示す概略側面図である。
図2】本実施形態に係るめっき装置のめっき槽内部を説明する水平断面図である。
図3】本実施形態に係るめっき装置の保持部、把持部および分流部の構成を説明する説明図である。
図4A】本実施形態に係るめっき装置の分流部の一態様を示す斜視図である。
図4B】本実施形態に係るめっき装置の分流部の一態様を示す概略断面図である。
図4C】本実施形態に係るめっき装置の分流部の一態様を示す概略断面図である。
図4D】本実施形態に係るめっき装置の分流部の一態様を示す概略断面図である。
図5A】本実施形態に係るめっき装置の分流部の一態様を示す正面図である。
図5B】本実施形態に係るめっき装置の分流部の一態様を示す概略断面図である。
図5C】本実施形態に係るめっき装置の分流部の一態様を示す概略断面図である。
図5D】本実施形態に係るめっき装置の分流部の一態様を示す概略断面図である。
図6A】本実施形態に係るめっき装置の分流部の一態様を示す、めっき液流の上流側から見た正面図である。
図6B】本実施形態に係るめっき装置の分流部の一態様を示す、めっき液流の上流側から見た正面図である。
図6C】本実施形態に係るめっき装置の分流部の一態様を示す、めっき液流の上流側から見た正面図である。
図7】本実施形態に係るめっき装置を用いて被めっき物に銅(Cu)をめっきする一例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照して、本発明の一実施形態に係るめっき装置およびめっき方法について詳細に説明する。なお、以下の説明において、上流および下流という用語は、説明対象となる装置に流れるめっき液の流れる方向における上流と下流を表す。
【0011】
参照する図面において、図1は、本実施形態に係るめっき装置Aの全体構成を示す概略側面図である。なお、図1においては、説明の便宜上、透視的に内部を図示するとともに、めっき液流を矢印で図示している。
【0012】
本実施形態に係るめっき装置Aは、第一のめっき対象面5a(図2参照)と第二のめっき対象面5b(図2参照)とを有する半導体ウェハなどの薄板状の被めっき物5をめっき処理する装置である。このめっき装置Aは、第一のめっき対象面5aと第二のめっき対象面5bに同時にめっき液を供給することによって、被めっき物5の表裏両面、すなわち第一のめっき対象面5aおよび第二のめっき対象面5bを同時にめっき処理する。
【0013】
図1に示すように、めっき装置Aは、主な構成要素として、めっき槽1、めっき液供給路2、めっき液回収路3、および循環ポンプ4を有している。循環ポンプ4はインバータにより回転速度を可変制御可能であり、めっき液を高速で循環させることができるとともに、めっき液の流速を制御できる。めっき液供給路2は、めっき槽1のめっき液循環供給口7と循環ポンプ4の吐出側とを接続する。めっき液回収路3は、めっき液循環排出口8と循環ポンプ4の吸込側とを接続する。循環ポンプ4は、所定の吐出圧によってめっき液をめっき液循環供給口7からめっき槽1に流入して、めっき液循環排出口8からめっき液を排出し、循環ポンプ4に回収する循環路によってめっき液流を形成し、めっき液を循環させる。
【0014】
次に、図2を参照して、めっき装置Aのめっき槽1の内部を説明する。図2は、本実施形態に係るめっき装置Aのめっき槽1の内部を説明する水平断面図である。
図2に示すように、めっき槽1は、めっき槽1内において一対の保持部11により固定保持されて被めっき物5を把持する把持部12を備えている。めっき槽1は、めっき槽1内において第一のめっき対象面5aに隣接して形成する第一のめっき液流路13aおよび第二のめっき対象面5bに隣接して形成する第二のめっき液流路13bを備えている。すなわち、めっき槽1は、めっき槽1内において把持部12の一側面12a側に形成される第一のめっき液流路13aおよび前記した一側面12aの裏面となる他側面12b側に形成される第二のめっき液流路13bを備えている。また、めっき槽1は、めっき液をめっき槽1の底部からめっき槽1内に供給するめっき液循環供給口7を備えている。さらに、めっき槽1は、めっき液をめっき槽1の底部からめっき槽1外に排出するめっき液循環排出口8を備えている。めっき槽1は、めっき液循環供給口7側の保持部11である第一の保持部11aにおける把持部12と対向する位置に固定保持される分流部10を備えている。
【0015】
めっき装置Aは、めっき液循環供給口7から供給されためっき液を、分流部10により第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bに所定の比率で分流して供給し、第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bとを通過しためっき液を合流してめっき液循環排出口8から排出して形成するめっき液流を形成できる。このめっき液流は、循環ポンプ4により循環されるため、高速で流れるだけでなく、めっき液の一様な流速分布を持つ。したがって、めっき装置Aは、このめっき液流により、被めっき物5の第一のめっき対象面5aと第二のめっき対象面5bとを同時かつ高速にめっき処理できる。
【0016】
一対の保持部11のうち第一の保持部11aは、めっき液導入流路9が、第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bとに接続する位置であるとともに、第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bとの中間となる位置に配設する。
【0017】
また、めっき液循環排出口8側のものである第二の保持部11bは、めっき液排出流路15が、第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bとに接続する位置であるとともに、第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bとの中間となる位置に配設する。
【0018】
次に、図2および図3を参照して、一対の保持部11により分流部10と把持部12とを保持する構造、および把持部12により被めっき物5を把持する構造について説明する。図3は、本実施形態に係るめっき装置Aの保持部11、把持部12および分流部10の構成を説明する説明図である。
【0019】
保持部11は、柱状構造物である第一の保持部11aと第二の保持部11bとにより構成する。第一の保持部11aは、めっき液循環供給口7側に配設する。第二の保持部11bは、めっき液循環排出口8側に配設する。把持部12の両端には、端部(側面)から外側方向に突出するリッジ部12c、12cが設けられている。第一の保持部11aおよび第二の保持部11bは、把持部12の両端のリッジ部12cを差し仕込むように対向して配置する溝11cを有している。前記したリッジ部12c、12cはそれぞれ、第一の保持部11aの溝11cおよび第二の保持部11bの溝11cに差し込んでの着脱が可能な幅寸法および高さ寸法で形成されている。被めっき物5を把持部12で把持し、その状態で把持部12のリッジ部12cを前記溝11cに差し込むことにより、把持部12を保持部11に保持する。
【0020】
さらに、第一の保持部11aには、めっき液流の上流側に分流部10を当接して固定保持する。
把持部12は、把持部本体121と取付枠17から構成する。把持部本体121の水平方向(めっき液流の流れる方向)の大きさは被めっき物5の大きさに依存せず、第一の保持部11aの溝11cと第二の保持部11bの溝11cとの離間距離に等しく、溝11cにリッジ部12cを差し込んで保持することが可能となっている。
【0021】
取付枠17は、被めっき物5の大きさによって定まる開口部18を有する。取付枠17は、開口部18の全周にわたって被めっき物5と直流電源の負極側とを接続する電極16を備え、被めっき物5の縁を全周に亘って挟みこむようにして固定把持する。
該電極16は、第一のめっき対象面5aに対応する第一の電極16a(図7参照)、および第二のめっき対象面5bに対応する第二の電極16b(図7参照)により構成する。
なお、開口部18の形状は、被めっき物5の形状に従って決定する。従って、開口部18の形状は、円形の場合もあれば、四角形の場合もある。
【0022】
次に、分流部10について図4から図6により説明する。なお、図4Aは、本実施形態に係るめっき装置Aの分流部10の一態様を示す斜視図である。図4B図4Dは、本実施形態に係るめっき装置Aの分流部10の一態様を示す概略断面図である。図5Aは、本実施形態に係るめっき装置Aの分流部10の一態様を示す正面図である。図5B図5Dは、本実施形態に係るめっき装置Aの分流部10の一態様を示す概略断面図である。図6A図6Cは、本実施形態に係るめっき装置Aの分流部10の一態様を示す、めっき液流の上流側から見た正面図である。
【0023】
分流部10は、めっき液導入流路9を介してめっき液循環供給口7から供給されるめっき液流を、第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bとに分流する。その分流する比率を示す分流比は、被めっき物5の第一のめっき対象面5aの第一の回路パターンに基づく第一のめっき条件と、被めっき物5の第二のめっき対象面5bの第二の回路パターンに基づく第二のめっき条件とに基づいて予め設定しておく。なお、めっき条件は、めっき処理に用いる電流の値とめっき液流の流速とによって定めるものである。めっき液流の流速に関しては、循環ポンプ4の回転速度を制御することによって調整するが、より効果的にするため、第一のめっき液流路13aおよび第二のめっき液流路13bは、流路幅を10mm以下にすることが望ましい。
【0024】
めっき槽1において分流比は、図4B図4D図5B図5D図6A図6Cに示すように、第一のめっき液流路13aの第一のめっき液取込口22aと、第二のめっき液流路13bの第二のめっき液取込口22bとの面積比で設定する。
【0025】
次に、第一のめっき液取込口22aと第二のめっき液取込口22bとの面積比の設定について詳述する。これらの面積比は、分流部10の形状によって設定する。該形状は、二つのケースがある。
【0026】
第一のケースは、図4Aに示すように、分流部10の形状が、長手方向に垂直な断面の外線が三角形を形成する柱状構造物(三角柱構造物)である。該柱状構造物を、当該三角形の何れかの頂点を含む長手方向の稜線を示す分流辺21がめっき液流の上流側を向くように配設すると共に、分流辺21に対向する底面により保持部11(具体的には、第一の保持部11a)に固定保持する。また、第一のめっき液流路13aの第一のめっき液取込口22aと、第二のめっき液流路13bの第二のめっき液取込口22bとの面積比が前述の分流比になるように、頂点を挟む当該三角形の二辺の長さ比率を設定する。
【0027】
図4B図4Dに示すように、めっき液取込口22は、上流側を向いた三角形の頂点を境として、第一の斜辺19a側の第一のめっき液取込口22aと、第二の斜辺19b側の第二のめっき液取込口22bと、により構成される。図4B図4Dに示すように、第一のケースでは、第一の斜辺19aと第二の斜辺19bの長さ比率によって、第一のめっき液取込口22aと第二のめっき液取込口22bとの面積比を設定する。
【0028】
分流比を50%対50%で設定する場合について図4Bにより説明する。この場合は、第一の斜辺19aと第二の斜辺19bとの長さを同じにする(第一の斜辺19a=第二の斜辺19b)。これにより、第一のめっき液取込口22aと第二のめっき液取込口22bとの開口面積が等しくなり、第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bに供給するめっき液流は、同量となる。
【0029】
第一のめっき液流路13aへのめっき液流供給量を第二のめっき液流路13bへのめっき液流供給量よりも多くする場合について図4Cにより説明する。この場合は、分流比に基づいて第一の斜辺19aを第二の斜辺19bよりも長くする(第一の斜辺19a>第二の斜辺19b)。これにより、第一のめっき液取込口22aの開口面積は第二のめっき液取込口22bの開口面積よりも大きくなり、第一のめっき液流路13aに供給するめっき液流は第二のめっき液流路13bに供給するめっき液流よりも多くなる。
【0030】
第二のめっき液流路13bへのめっき液流供給量を第一のめっき液流路13aへのめっき液流供給量よりも多くする場合について図4Dにより説明する。この場合は、分流比に基づいて第二の斜辺19bを第一の斜辺19aよりも長くする(第一の斜辺19a<第二の斜辺19b)。これにより、第二のめっき液取込口22bの開口面積は第一のめっき液取込口22aの開口面積よりも大きくなり、第二のめっき液流路13bに供給するめっき液流は第一のめっき液流路13aに供給するめっき液流よりも多くなる。
【0031】
次に、分流部10の形状の第二のケースについて説明する。
第二のケースは、図5Aに示すように、分流部10の形状が、長手方向に垂直な断面の外線が四角形を形成する柱状構造物(四角柱構造物)である。該柱状構造物は、前記めっき液流の下流側に隣接する保持部11(具体的には、第一の保持部11a)に一平面によって固定保持する。すなわち、該柱状構造物は、第一の保持部11aのめっき液循環供給口7と相対する側の面に一平面によって固定保持する。
【0032】
また、第一のめっき液流路13aの第一のめっき液取込口22aと、第二のめっき液流路13bの第二のめっき液取込口22bと、の面積比が前述の分流比になるように、第一のめっき液流路13aへのめっき液流の流入量を制限するように分流部10の一部が第一のめっき液流路13aに張り出して形成する第一の遮蔽部23aの大きさ、または、第二のめっき液流路13bへのめっき液流の流入量を制限するように分流部10の一部が第二のめっき液流路13bに張り出して形成する第二の遮蔽部23bの大きさを設定する。
【0033】
第一のめっき液取込口22aと第二のめっき液取込口22bは、めっき液流の流入量を制限しない方は遮蔽部の大きさをゼロとして開口面積を100%とし、めっき液流の流入量を制限する方は分流比によって定まる遮蔽部を張り出すことにより開口面積の大きさを設定する。
【0034】
分流比を50%対50%で設定する場合について図5Bにより説明する。この場合は、第一の遮蔽部23aと第二の遮蔽部23bとの大きさをゼロにする。これにより、第一のめっき液取込口22aと第二のめっき液取込口22bとの開口面積が等しくなり、第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bに供給するめっき液流は、同量となる。
【0035】
第一のめっき液流路13aへのめっき液流供給量を第二のめっき液流路13bへのめっき液流供給量よりも多くする場合について図5Cにより説明する。この場合は、第一の遮蔽部23aの大きさをゼロとし、第二の遮蔽部23bの大きさを分流比によって定まる大きさとする。これにより、第一のめっき液取込口22aの開口面積は第二のめっき液取込口22bの開口面積よりも大きくなり、第一のめっき液流路13aに供給するめっき液流は第二のめっき液流路13bに供給するめっき液流よりも多くなる。
【0036】
第二のめっき液流路13bへのめっき液流供給量を第一のめっき液流路13aへのめっき液流供給量よりも多くする場合について図5Dにより説明する。この場合は、第二の遮蔽部23bの大きさをゼロとし、第一の遮蔽部23aの大きさを分流比によって定まる大きさとする。これにより、第二のめっき液取込口22bの開口面積は第一のめっき液取込口22aの開口面積よりも大きくなり、第二のめっき液流路13bに供給するめっき液流は第一のめっき液流路13aに供給するめっき液流よりも多くなる。
【0037】
なお、分流部10が四角形の柱状構造物の場合、遮蔽部は、図6Aに示すように、単に四角形の構造のうちの対辺により第一のめっき液取込口22aおよび第二のめっき液取込口22bを設けた構造とすることができる。また、遮蔽部は、図6Bに示すように、スリット部により第一のめっき液取込口22aおよび第二のめっき液取込口22bを設けた構造とすることができる。また、遮蔽部は、図6Cに示すように、切欠部により第一のめっき液取込口22aおよび第二のめっき液取込口22bを設けた構造とすることができる。これらのいずれの態様も、第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bに供給するめっき液流の分流比を適切に制御できる。
【0038】
図7に、本実施形態に係るめっき装置Aを用いて銅(Cu)をめっきする一例を示す。なお、図7は、本実施形態に係るめっき装置Aを用いて被めっき物5に銅をめっきする一例を示す概略説明図である。
【0039】
第一のめっき液流路13aは、被めっき物5の遠方側に第一の陽極板14aを備える。つまり、第一のめっき液流路13aは、把持部12の一側面12aと所定の間隔をあけて相対する第一の陽極板14aを備える。
第二のめっき液流路13bは、被めっき物5の遠方側に第二の陽極板14bを備える。つまり、第二のめっき液流路13bは、把持部12の他側面12bと所定の間隔をあけて相対する第二の陽極板14bを備える。
この場合、第一の陽極板14aおよび第二の陽極板14bはいずれも銅(純銅)で形成されている。なお、第一の陽極板14aおよび第二の陽極板14bは、形成するめっき膜に応じて金、銀、白金など任意に変更可能である。
【0040】
ユーザが、電気めっきに使用する第一の直流電源24aの正極を第一の陽極板14aに接続し、第一の直流電源24aの負極を把持部12内の第一の電極16aを介して第一のめっき対象面5aに接続する。また、ユーザが、第二の直流電源24bの正極を第二の陽極板14bに接続し、第二の直流電源24bの負極を把持部12内の第二の電極16bを介して第二のめっき対象面5bに接続する。
【0041】
めっき装置Aは、第一のめっき条件に基づいて第一の直流電源24aにより第一の電極16aを介して所定電流を付与する。また、めっき装置Aは、第二のめっき条件に基づいて第二の直流電源24bにより第二の電極16bを介して所定電流を付与する。このようにすることにより、めっき装置Aは、電気めっきにより銅イオン(Cu2+)をそれぞれのめっき対象面に誘導して被めっき物5の表面に銅をめっきする。
なお、第一の電極16aおよび第二の電極16bは、めっき対象面の電流密度を一様にするために、めっき対象面の外周部全周に配する(図3参照)。
把持部12本体には、図示していないが、電極16と直流電源からくる導線とを結ぶ電線が溝を切って配置され、ねじや樹脂で固定されている。
【0042】
次に、本実施形態に係るめっき方法について説明する。
本めっき方法は、前述しためっき装置Aを用いてめっき処理を行うものである。なお、めっき装置Aの構成については、既に詳述しているので説明を省略する。
【0043】
本めっき方法は、まず、ユーザの操作により、めっき槽1内にめっき液が供給される。次に、ユーザは被めっき物5を把持部12で把持する。次に、ユーザは被めっき物5を把持した把持部12の両端のリッジ部12cをめっき槽1内の一対の保持部11の溝11cに差し込み、固定保持させる。そして、ユーザはめっき装置Aを操作して直流電源から電流を付与し、被めっき物5のめっき処理を行う。電流の付与は、前述したように、第一の直流電源24aにより、被めっき物5の第一のめっき対象面5aの第一の回路パターンに基づく第一のめっき条件に基づいて設定するとよい。同様に、電流の付与は、前述したように、第二の直流電源24bにより、被めっき物5の第二のめっき対象面5bの第二の回路パターンに基づく第二のめっき条件に基づいて設定するとよい。
【0044】
そして、本めっき方法は、めっき液循環供給口7から供給されためっき液を、分流部10により第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bに予め設定した分流比で分流して供給し、第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bとを通過しためっき液を合流してめっき液循環排出口8から排出して形成するめっき液流により被めっき物5をめっき処理できる。
【0045】
以上に説明したように、めっき装置Aおよびめっき方法は、前述しためっき槽1と、把持部12と、第一のめっき液流路13aおよび第二のめっき液流路13bと、めっき液循環供給口7と、めっき液循環排出口8と、分流部10とを備えている。したがって、めっき装置Aおよびめっき方法は、めっき液循環供給口7から供給されためっき液を、分流部10により第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bに予め設定した分流比で分流して供給し、第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bとを通過しためっき液を合流してめっき液循環排出口8から排出して形成するめっき液流を得ることができる。めっき装置Aおよびめっき方法は、このようにして形成されためっき液流により被めっき物5をめっき処理する。つまり、めっき装置Aおよびめっき方法は、被めっき物5の表裏両面に予め設定した分流比でめっき液を分流して供給できるめっき液流路を備えており、それにより被めっき物5の表裏両面を同時かつ高速にめっき処理できる。
また、めっき装置Aおよびめっき方法は、前述した構成としているので、被めっき物5として近年主流となっている貫通孔を有する半導体基板などに対して、貫通孔内のめっき処理を均一に行うことが容易となり、歩留まりが向上する。
【0046】
以上、本発明に係るめっき装置Aおよびめっき方法について実施形態により詳細に説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、それぞれの実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0047】
例えば、上述の説明では、めっき槽1における分流比を第一のめっき液取込口22aと第二のめっき液取込口22bとの面積比で調整する旨説明したが、これに限定されない。例えば、分流比の調整の変形例の一つとして、第一のめっき液流路13aと第二のめっき液流路13bのそれぞれの流路上に邪魔板などの障害物を設けるなどしてもよい。このようにしても、分流比を任意に調整できる。
【符号の説明】
【0048】
A めっき装置
1 めっき槽
2 めっき液供給路
3 めっき液回収路
4 循環ポンプ
5 被めっき物
5a 第一のめっき対象面
5b 第二のめっき対象面
7 めっき液循環供給口
8 めっき液循環排出口
9 めっき液導入流路
10 分流部
11 保持部
11a 第一の保持部
11b 第二の保持部
11c 溝
12 把持部
121 把持部本体
12a (把持部の)一側面
12b (把持部の)他側面
12c リッジ部
13a 第一のめっき液流路
13b 第二のめっき液流路
14a 第一の陽極板
14b 第二の陽極板
15 めっき液排出流路
16 電極
16a 第一の電極
16b 第二の電極
17 取付枠
18 開口部
19a 第一の斜辺
19b 第二の斜辺
21 分流辺
22 めっき液取込口
22a 第一のめっき液取込口
22b 第二のめっき液取込口
23a 第一の遮蔽部
23b 第二の遮蔽部
24a 第一の直流電源
24b 第二の直流電源
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7