(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157400
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】水上太陽光発電設備監視システム
(51)【国際特許分類】
H02S 50/00 20140101AFI20231019BHJP
H02S 10/40 20140101ALI20231019BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20231019BHJP
【FI】
H02S50/00
H02S10/40
B63B35/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067293
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】512144265
【氏名又は名称】テクサジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127166
【弁理士】
【氏名又は名称】本間 政憲
(74)【代理人】
【識別番号】100187399
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 敏文
(72)【発明者】
【氏名】坂口 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】坂口 慶介
【テーマコード(参考)】
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
5F151KA08
5F251KA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明はGNSSを活用して、フロートの移動情報を取得することにより、異常や異常が発生するおそれがあることを検知し警告することを目的とする。さらに、移動情報から、フロートに掛かる加速度を計測し、係留具に掛かる負荷の累積を算出し、異常が発生する前にメンテナンスの実施を可能とすることを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するため、本発明の水上太陽光発電設備監視システムは、GNSS受信機と、係留具を介してアンカーと連結された太陽電池モジュール及びGNSS受信機を載置するフロートと、制御部と、を備え、制御部が、GNSS受信機からフロートの位置情報を取得するステップと、位置情報を用いて、フロートの移動情報を算出するステップと、移動情報に基づいて、異常又は異常が発生するおそれがあると判断した場合に警告を行うステップと、を備えたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上太陽光発電設備の設置状態を監視するシステムであって、
GNSS受信機と、
係留具を介してアンカーと連結された太陽電池モジュール及び前記GNSS受信機を載置するフロートと、
制御部と、
を備え、
前記制御部が、
前記GNSS受信機の位置情報を取得するステップと、
前記位置情報を用いて、前記フロートの移動情報を算出するステップと、
前記移動情報に基づいて、異常又は異常が発生するおそれがあると判断した場合に警告を行うステップと、
を備えたことを特徴とする水上太陽光発電設備監視システム。
【請求項2】
前記移動情報が、
最新の前記GNSS受信機の位置座標と前記GNSS受信機の位置座標の基準値との水平距離に関する移動情報であり、
前記制御部が、
前記水平距離を算出するステップと、
前記水平距離が、所定のしきい値を超えた場合に、異常又は異常が発生するおそれがあると判断するステップと、
を備えたこと、
を特徴とする請求項1に記載する水上太陽光発電設備監視システム。
【請求項3】
前記移動情報が、
最新の前記GNSS受信機の位置座標と前記GNSS受信機の位置座標の基準値との高低差に関する移動情報であり、
前記制御部が、
前記高低差を算出するステップ、
前記高低差から水位を算出するステップと、
前記水位が、所定のしきい値を超える又は下回った場合に、異常又は異常が発生するおそれがあると判断するステップと、
を備えたこと、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載する水上太陽光発電設備監視システム。
【請求項4】
距離を隔てて前記GNSS受信機を複数個配置し、
前記移動情報が、
配置された前記GNSS受信機の同時刻の各々の位置座標から算出した面の傾きに関する移動情報であり、
前記制御部が、
前記傾きを算出するステップと、
前記傾きが、所定のしきい値を超えた場合に、異常又は異常が発生するおそれがあると判断するステップと、
を備えたこと、
を特徴とする請求項1に記載する水上太陽光発電設備監視システム。
【請求項5】
距離を隔てて前記GNSS受信機を複数個配置し、
前記移動情報が、
配置された前記GNSS受信機の同時刻の各々の位置情報及び基準位置の位置情報から算出した回転角度に関する移動情報であり、
前記制御部が、
前記回転角度を算出するステップと、
前記回転角度が、所定のしきい値を超えた場合に、異常又は異常が発生するおそれがあると判断するステップと、
を備えたこと、
を特徴とする請求項1に記載する水上太陽光発電設備監視システム。
【請求項6】
前記移動情報が、
時間経過に伴う前記GNSS受信機の位置の変位から算出した移動時の加速度に関する移動情報であり、
前記制御部が、
前記加速度を算出するステップと、
前記加速度による係留具に掛かる負荷を算出するステップと、
前記負荷が、所定のしきい値を超えた場合に、異常又は異常が発生するおそれがあると判断するステップと、
を備えたこと、
を特徴とする請求項1に記載する水上太陽光発電設備監視システム。
【請求項7】
前記制御部が、
前記負荷の累積を算出するステップと、
前記負荷の累積が、所定のしきい値を超えた場合に、異常が発生するおそれがあると判断するステップと、
を備えたこと、
を特徴とする請求項6に記載する水上太陽光発電設備監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水上太陽光発電設備において、太陽発電モジュールが載置され水上に係留されたフロートが、外的要因によって移動し、又は負荷が掛かることによって発生する異常を、監視する太陽光発電設備監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギーの利活用が盛んに行われるにしたがって、ため池に大型の太陽光発電設備を設置する事例が増えている。なぜならば、日本は他国と比較すると平地が少なく、発電効率が良い大型の太陽光発電設置するために適した土地の確保が難しいからである。
【0003】
その点、ため池は水平面であり、比較的水面が穏やかであるため、発電効率が高い方位又は方向を選択して太陽電池モジュールを設置することができる。
【0004】
また、太陽電池は、温度が高くなりすぎると、発電効率が低下するが、水面であれば、温度上昇を抑えることができ、発電効率の低下を防止することが可能となり、ため池への設置のメリットは大きい。
【0005】
日本では、将来温室効果ガスの排出をゼロにすることを目指して、再生可能エネルギーをより一層利活用するために、様々な取り組みがなされて来ていることも後押しをして、ため池に太陽光発電設備を設置することに対して、さらなる期待が高まっている。
【0006】
ため池に水上太陽光発電設備を設置する場合には留意しなければならない事項がある。利水や維持管理、構造の安定性及び機能の確保、防災又は減災機能の確保、その他のため池が有する機能の確保、地域の理解と環境対策、並びに事故防止及び事故発生時等の対応が、農林水産省の「農業用ため池における水上設置型太陽光発電設備の設置に関する手引き」において求められている。
【0007】
本発明は、これらの留意すべき事項のうち、防災又は減災機能の確保、並びに事故防止及び事故発生時等の対応に着目して開発されたものである。
【0008】
近年の大型台風や線状降水帯による強風や大雨に伴い、水上太陽光発電設備に大きな被害が発生するとともに、ため池自体の機能にも大きな影響を及ぼしているケースがある。
【0009】
強風の場合には、太陽電池モジュールを載置したフロートが風にあおられ、アンカーとフロートを接続する係留具のアンカーチェーンやボルトが破損して、フロートが流されて太陽電池モジュールが変形したり、破損したりすることにより発電所全体が停電し送電網に影響を与える。その場合においても、太陽電池モジュールは発電を継続することから火災が発生した事故も起こっている。また、大雨の場合には、ため池の決壊により太陽電池モジュールが流されたり、大きな水位の変動により太陽電池モジュールが転覆したりする場合がある。
【0010】
前述した手引きによれば、水上太陽光発電設備は、波浪や強風等の外力や水位変動により引き起こされるフロートの移動によって、ため池自体に損傷を与えないように固定し、異常を検知した場合には、その内容を発電設備設置者やため池の所有者(以下、管理者という。)が共有できるようにしておく必要があると記載されている。
【0011】
水上太陽光発電設備に関するものではないが、波浪を観測するシステムが特許文献1に開示されている。
【0012】
特許文献1では、波浪観測方法及び波浪観測システムが開示されている。具体的には、波浪観測海域毎の浮遊物標にGPS受信機及びトランスポンダ子局を搭載し、陸上にはトランスポンダ親局及び波浪データ処理装置を設置し、トランスポンダ子局は、GPS受信機が測定した自浮遊物標の位置データ及び測定時刻データをトランスポンダ親局に送信し、トランスポンダ親局は、受信した浮遊物標の前記データを波浪データ処理装置に供給し、供給された前記データに基づいて波浪解析を行う技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に開示された先行技術では、水面の変化に関して把握することは可能であるが、特許文献1に記載された浮遊物標を太陽電池モジュールが載置されたフロートと仮定して、水上太陽光発電設備に強風や波浪による異常が発生したことや異常が発生するおそれがあることについてまで認識することはできない点が、課題としてある。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、GNSS(Global Navigation Satellite System)の測位情報を活用して、フロートの移動情報を取得することにより、異常や異常が発生するおそれがあることを検知し警告することを目的とする。さらに、前記移動情報から、フロートに掛かる加速度を計測し、フロートの係留具に掛かる負荷の累積を算出し、異常が発生する前にメンテナンスの実施を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明の水上太陽光発電設備監視システムは、水上太陽光発電設備の設置状態を監視するシステムであって、GNSS受信機と、係留具を介してアンカーと連結された太陽電池モジュール及び前記GNSS受信機を載置するフロートと、制御部と、を備え、前記制御部が、前記GNSS受信機から前記フロートの位置情報を取得するステップと、前記位置情報を用いて、前記フロートの移動情報を算出するステップと、前記移動情報に基づいて、異常又は異常が発生するおそれがあると判断した場合に警告を行うステップと、を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の水上太陽光発電設備監視システムは、前記移動情報が、最新の前記GNSS受信機の位置座標と前記GNSS受信機の位置座標の基準値との水平距離に関する移動情報であり、前記制御部が、前記水平距離を算出するステップと、前記水平距離が、所定のしきい値を超えた場合に、異常又は異常が発生するおそれがあると判断するステップと、を備えたこと、を特徴とする。
【0018】
また、本発明の水上太陽光発電設備監視システムは、前記移動情報が、最新の前記GNSS受信機の位置座標と前記GNSS受信機の位置座標の基準値との高低差に関する移動情報であり、前記制御部が、前記高低差を算出するステップ、前記高低差から水位を算出するステップと、前記水位が、所定のしきい値を超える又は下回った場合に、異常又は異常が発生するおそれがあると判断するステップと、を備えたこと、を特徴とする。
【0019】
また、本発明の水上太陽光発電設備監視システムは、距離を隔てて前記GNSS受信機を複数個配置し、前記移動情報が、配置された前記GNSS受信機の同時刻の各々の位置座標から算出した面の傾きに関する移動情報であり、前記制御部が、前記傾きを算出するステップと、前記傾きが、所定のしきい値を超えた場合に、異常又は異常が発生するおそれがあると判断するステップと、を備えたこと、を特徴とする。
【0020】
また、本発明の水上太陽光発電設備監視システムは、距離を隔てて前記GNSS受信機を複数個配置し、前記移動情報が、配置された前記GNSS受信機の同時刻の各々の位置情報及び基準位置の位置情報から算出した回転角度に関する移動情報であり、前記制御部が、前記回転角度を算出するステップと、前記回転角度が、所定のしきい値を超えた場合に、異常又は異常が発生するおそれがあると判断するステップと、を備えたこと、を特徴とする。
【0021】
また、本発明の水上太陽光発電設備監視システムは、前記移動情報が、時間経過に伴う前記GNSS受信機の位置の変位から算出した移動時の加速度に関する移動情報であり、前記制御部が、前記加速度を算出するステップと、前記加速度によるフロートの係留具に掛かる負荷を算出するステップと、前記負荷が、所定のしきい値を超えた場合に、異常又は異常が発生するおそれがあると判断するステップと、を備えたこと、を特徴とする。
【0022】
また、本発明の水上太陽光発電設備監視システムは、前記制御部が、前記負荷の累積を算出するステップと、前記負荷の累積が、所定のしきい値を超えた場合に、異常が発生するおそれがあると判断するステップと、を備えたこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の水上太陽光発電設備監視システムによれば、RTK測位を採用することにより、精度の高い位置情報が得られ、太陽電池モジュールを載置したフロートの状態を正確に把握することができる効果を奏する。
【0024】
また、本発明の水上太陽光発電設備監視システムによれば、フロートの水平移動、高低移動、傾き又は回転に関する移動情報を取得することにより、太陽光発電設備の異常の発生又は異常が発生するおそれがあることを検知し、迅速に異常状態から復旧すること、又は、異常が発生する前に未然に防ぐことが可能となる効果を奏する。
【0025】
また、本発明の水上太陽光発電設備監視システムによれば、RTK測位によって得られた移動情報からフロートの係留具に掛かる負荷の瞬時の大きさや時間経過とともに累積する負荷の状態を把握することによって、異常が発生する可能性があることを事前に認識することができ、故障や破損の発生を未然に防止することが可能となる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】ため池に設置された水上太陽光発電設備20の平面図である。
【
図2】ため池に設置された水上太陽光発電設備20の側面視断面図である。
【
図3】本発明に係る水上太陽光発電設備監視システム10の概念図である。
【
図4】本発明に係る水上太陽光発電設備監視システム10の監視フローチャートを示した図である。
【
図5】太陽電池モジュール242が積載されたフロート22が、外的要因によって水面を水平方向に移動した状態を示した図である。
【
図6】太陽電池モジュール242が積載されたフロート22が、水位の変化に伴い高低方向に移動した状態を示した図である。
【
図7】監視フローチャートのうち、ステップ5(S5)の水平移動及び水位変化に伴う高低移動に関する演算方法について示した図である。
【
図8】本発明に係る水上太陽光発電設備監視システム10によって取得できる水位の変化に伴う高低移動に関するグラフを示した図である。
【
図9】太陽電池モジュール242が積載されたフロート22が、外的要因によって傾きが生じた状態を示した図である。
【
図10】監視フローチャートのうち、ステップ5(S5)の傾き状態に関する演算方法について示した図である。
【
図11】太陽電池モジュール242が積載されたフロート22が、外的要因によって回転が生じた状態を示した図である。
【
図12】監視フローチャートのうち、ステップ5(S5)の回転状態に関する演算方法について示した図である。
【
図13】太陽電池モジュール242が積載されたフロート22が、外的要因によって急激に移動し、アンカー26に大きな負荷が掛かった状態を示した図である。
【
図14】監視フローチャートのうち、ステップ5(S5)の負荷に関する演算方法について示した図である。
【
図15】フロート22に配設されたGNSS受信機a122乃至GNSS受信機d128で取得した移動ログを示した図である。
【
図16】監視フローチャートのうち、ステップ5(S5)の累積負荷に関する演算方法について示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る水上太陽光発電設備監視システム10を実施するための形態について、図を参照しつつ説明する。
図1は、ため池に設置された水上太陽光発電設備20の平面図である。
図2は、ため池に設置された水上太陽光発電設備20の側面視断面図である。
【0028】
図1に示すように、水上太陽光発電設備20は、太陽電池モジュール242を複数組み合わせて太陽電池アレイ24(
図5を参照)を構成する。太陽電池アレイ24は、架台又は基礎などをもち、太陽電池モジュール242を機械的に一体化し、並列接続し結線した集合体である。さらに、複数組の太陽電池アレイ24を並列接続することによって、大型の太陽光発電設備が形成される。
太陽電池モジュール242は、太陽電池セルを複数枚配列し耐環境性を持たせるために樹脂や強化ガラスなどの外囲器に封入して保護し、かつ、規定の出力を備えた最小単位の発電ユニットであり、太陽電池パネルとも呼ばれる。
【0029】
水上太陽光発電設備20は、太陽電池モジュール242の架台としてフロート22を用いて水上に浮かぶように構成している。ため池などに大規模な太陽光発電設備を設置する場合の設置方法である。太陽電池モジュール242は、発電効率が高くなるように傾斜させて設置する。ため池など平坦な場所に設置した場合は、南向きで太陽の経路に向けるなど最高の発電効率が得られる方向に傾斜させて設置する。
【0030】
発電した電力を取り出すために、複数の太陽電池モジュール242から引き出した出力ケーブルをまとめて、パワーコンディショナシステム(PCS)に並列接続するジャンクションボックス(接続箱)が備えられている。太陽電池モジュール242で発電された直流電力は、PCSによって、交流電力に変換される。PCSは、電力を変換するだけでなく出力品質を制御するなど自動運転のための各種機能を備えている。
【0031】
図2に示すように、ため池において、水上太陽光発電設備20は、池の底に固定されたアンカー26に、アンカーチェーン28をフロートの係留具として太陽電池モジュール242を載置したフロート22が、風や水位の状態に応じて所定の範囲内においては移動可能なように緩やかな状態で係留されている。具体的には、フロートの角や外周の移動において、一部分が突出して移動することがなく、全体的にバランスが取れた移動となるように係留される。アンカーは、フロートの外周近傍の池の底、又は、フロート下の池の底に複数個配置される。アンカーチェーン28は、樹脂製、又は金属製であってもよく、チェーン状又はロープ状の形状でもよい。また、図では、四箇所のみ、アンカーチェーンとアンカーを接続しているが、通常は、設置されたアンカーすべてとフロートとをアンカーチェーンで接続する。
【0032】
図3は、本発明に係る水上太陽光発電設備監視システム10の一例を示した概念図である。本発明に係る水上太陽光発電設備監視システム10は、GNSS受信機12、アンカーチェーン28を介してアンカー26と連結された太陽電池モジュール242及びGNSS受信機12を載置するフロート22、広域通信ネットワーク30(
図3ではインターネットを例示している。)、制御部としての汎用コンピュータ40、GNSSなどの衛星システムの位置情報取得手段から構成される。制御部は、汎用コンピュータ40を例示したが、水上太陽光発電設備監視システム10に特化した専用のユーザインターフェースマシンでもよい。また、GNSSは、従来のGPSに置き換えても、最低4基以上の測位衛星の信号を捕捉することができれば、利用することは可能である。
【0033】
GNSSでは、準天頂軌道衛星50を測位に利用することにより、位置精度を高めている。近年、GNSSの測位情報を受信する受信機においては、RTK測位に対応した処理機能を搭載した受信機が開発された。当該GNSS受信機は、衛星補足継続時間の程度に依存するものの、測位精度は数十cmレベルまで高めることができるようになった。本発明では、GNSS受信機12を少なくとも3台導入し、さらに精度を高めている。
図3においては、GNSS受信機12を4第導入した場合を例示している。
【0034】
GNSS受信機12は、GNSSアンテナ14を介してGNSSから取得した位置情報を利用してRTK(Real Time Kinematic)測位を行う受信機である。RTK測位は、予め位置情報が定められている電子基準点70を設け、電子基準点70及び観測点であるフロート22に載置されたGNSS受信機12との間で位相の測定を行い、地上局60を介して電子基準点70で観測した位相データを補正信号としてGNSS受信機12に送信し、GNSSによる測位データを補正するものである。電子基準点70と観測点であるGNSS受信機12との基線長が十分短距離であれば、各擬似距離に含まれている電離層と対流圏の伝搬遅延誤差や衛星軌道誤差が略同一の値として除去することができる。したがって、GNSS受信機12において、誤差数cmレベルの測位データが得られるので、風に起因する波浪によるフロート22の微小な移動も把握することが可能となる。
【0035】
GNSS受信機が、フロート22の回転や傾きを検出するためには、前述したように水上太陽光発電設備一基に対して、3台以上を設置することが好ましい。
図1及び
図3では、フロート22の形状において、特に突出し周辺に接触する可能性が高い4箇所にGNSS受信機12を配設する場合を示した。GNSS受信機12は、時計回りに、GNSS受信機a122、GNSS受信機b124、GNSS受信機c126、GNSS受信機d128の順に配置する場合を例示している。
【0036】
GNSS受信機a122乃至GNSS受信機d128で得られた位置情報は、GNSS受信機に設けられた通信部である広域通信無線アンテナ16から発信され、広域通信ネットワーク30を介して、制御部である汎用コンピュータ40に入力される。広域ネットワークは、本明細書ではインターネットを例示して説明する。
【0037】
図4は、本発明に係る水上太陽光発電設備監視システム10の監視フローチャートを示した図である。汎用コンピュータ40における処理は、ステップ1(S1。以下、ステップは「S」と表す。)からS7までであり、S8からS10までは、人が行う作業である。
【0038】
フローチャートをスタート(S1)させると、GNSS受信機a122乃至GNSS受信機d128がGNSSから位置情報を取得し(S2)、汎用コンピュータ40はGNSS受信機(122乃至128)と通信を行い、時刻t0における位置情報を基準値(xa~d(t0),ya~d(t0),za~d(t0),t0)として設定し記憶する(S3)。当該座標をフロート22の基準位置とし、その後の外的要因による変動について評価、判断を行う。
【0039】
汎用コンピュータ40において、GNSSの測位情報から予め定められた間隔の時刻ごとに位置情報(xa~d(tn),ya~d(tn),za~d(tn),tn)を取得し(S4)、基準値及び各時刻の位置情報を用いて、フロート22の各種の状態を計測する(S5)。近年では、通信速度や演算速度の向上により略リアルタイムで位置情報を処理することが可能となっている。
【0040】
S5においては、フロート22の水平移動の状態、水位変化による高低移動の状態、フロート22の傾きの状態、フロート22の回転の状態、フロート22に掛かる負荷の状態、及びフロート22に掛かる負荷の累積状態について、演算を行う。
【0041】
S6ではS5の演算結果を基にして、異常の有無に関して評価し、判定を行う。異常がないと判定した場合には、S4に戻り、所定の時間間隔でGNSSから測位情報を取得し、フロート22の状態を計測し監視を続ける。異常があると判定した場合には、S7に進み、管理者に警告の通報を行う。通報の方法は、汎用コンピュータ40の画面に表示、又は音声によって報知する場合と、管理者が汎用コンピュータ40から離れている場合には、インターネットやローカルエリアネットワーク(LAN)を介して、管理者が所有する携帯情報機器端末に通報を行う。携帯情報機器端末は、スマートフォンなどの携帯電話やタブレット端末などが挙げられる。
【0042】
通報された管理者は、現地を確認し、又は現地確認を指示し(S8)、復旧作業が必要か否かについて判断する。復旧作業が必要でないと判断した場合には、S4に戻り、所定の時間間隔でGNSSから測位情報を取得し、フロート22の状態を計測し監視を続けるように、汎用コンピュータ40に指示する。その際には、現地確認を行っている間測位情報の取得が停止しているため、一旦時間経過を初期化したうえで、S4に戻る。復旧作業が必要な場合には、復旧作業が完了した後、汎用コンピュータ40に、S4に戻り、所定の時間間隔でGNSSから測位情報を取得し、フロート22の状態を計測し監視を続けるように、指示する。この場合も同様に、復旧作業を行っている間測位情報の取得が停止しているため、一旦時間経過を初期化したうえで、S4に戻る。復旧施工によって、基準位置が変わっている可能性がある場合には、S2に戻るように汎用コンピュータ40に指示する。
【0043】
以上に示したように、略リアルタイムで、フロート22の状態の監視を続ける。
【0044】
続いて、S5における各種の演算方法について説明する。S5では、少なくとも、フロート22の水平移動の状態、水位変化による高低移動の状態、フロート22の傾きの状態、フロート22の回転の状態、フロート22に掛かる負荷の状態、及びフロート22に掛かる負荷の累積状態の6つの状態について計測を行う。
【0045】
図5は、太陽電池モジュール242が積載されたフロート22が、外的要因によって水面を水平方向に移動した状態を示した図である。実線が移動した位置である。一点鎖線は、予め設定された基準位置RPを示している。通常、フロート22は基準位置RPを中心にして、アンカーチェーン28が許容する範囲を浮遊している。破線は、フロート22が移動できる限界範囲LRを示している。限界範囲LRを超える位置に移動した場合には、アンカーチェーン28に過剰な負荷が掛かることになり、切断又はアンカー26が破損するおそれがある。予め、汎用コンピュータ40において、限界範囲LRを位置座標で設定しておき、S6において、GNSS受信機(122乃至128)によって取得された座標が限界範囲LRを超えた位置座標であるか否かによって、異常の有無を判定する。
【0046】
図7に、各々のGNSS受信機(122乃至128)の位置と水平方向の限界範囲LRとの位置関係を演算するS5のフローチャートを示した。GNSS受信機a122乃至GNSS受信機d128のX-Y座標(xa~d(t
n),ya~d(t
n))とX-Y座標の限界値(xa~d(l),ya~d(l))との間で減算を行う。S6において、演算結果のxa~d、又はya~dが、正か負かによって、限界範囲LRから逸脱しているか否かの判定を行う。上記はフロート22の水平方向の限界範囲LRを逸脱した位置に存在するか否かについて算出する方法の一例を示したものであり、他の周知の演算方法によっても実現できる。
【0047】
図6は、太陽電池モジュール242が積載されたフロート22が、水位の変化に伴い高低方向に移動した状態を示した図である。破線は、基準面(基準水位)RPにあるフロート22を示している。上側の実線が、高低移動の上限の限界範囲(水位)LRにあるフロート22を示している。アンカーチェーン28が限界まで張りつめた状態、又は、水がため池から溢れる上限の限界水位である。上限の限界範囲LRを超える水位になった場合には、アンカーチェーン28に過剰な負荷が掛かることになり、切断又はアンカー26が破損するおそれがある。また、下側の実線が、水位の下限の限界範囲LRにあるフロート22を示している。下限の限界範囲LRを下回る水位になった場合には、フロート22が池の底に接触するおそれがある。予め、汎用コンピュータ40において、基準面からフロート22の高低移動の限界範囲LRを設定しておき、S5では、フロート22の高低(Z軸)方向の座標を算出し、S6で、GNSS受信機(122乃至128)によって取得された座標が限界範囲LRを超えた位置座標であるか否かを評価し、異常の有無を判定する。
【0048】
また、同時にため池の堤防を水位が超える限界水位を設定しておいて、洪水が発生するおそれがある場合についても検知することが可能である。
【0049】
図7に、各々のGNSS受信機(122乃至128)の高さ方向の平均位置と基準面との位置関係を演算するS5のフローチャートを示した。GNSS受信機a122乃至GNSS受信機d128のZ座標(za~d(t
n))の平均値(AVE(za~d(t
n))と、基準面のZ座標を減算し、フロート22の高さ(水位)と基準面との位置関係を算出する。S6において、演算結果のzと、予め設定した高低の限界範囲LRとの比較を行い、限界範囲LRから逸脱しているか否かの判定を行う。上記は水位の変化に伴ってフロート22が高低移動する際に高低方向の限界範囲LRを超えた位置に存在するか否かについて算出する方法の一例を示したものであり、他の周知の演算方法によっても実現できる。
【0050】
図8は、本発明に係る水上太陽光発電設備監視システム10によって、取得することができる水位(フロート22の高さ位置)の変化に関するグラフを示した図である。水位について警報するためは、グラフに示すように、水位の高低両方向に、警戒水位と警報水位の2段階に設定することが好ましい。警報水位の限界点のみを設定しておくと、警報直後に堤体を超え、フロート22が流出するおそれがある。そのため、警戒水位を設定しておき、水位が警戒水位をどれだけの頻度と時間、高さにおいて、超えているかの状況に応じて、ため池からの洪水調節の決定や警報水位を超えた場合の対応方法を検討する。これにより、防災又は減災機能の確保についても併せて実現できる。
【0051】
図9は、太陽電池モジュール242が積載されたフロート22が、外的要因によって傾きが生じた状態を示した図である。傾きが所定の角度を超えた場合には、太陽電池モジュール242又はGNSS受信機12が浸水し、電気的な故障が発生する。予め、汎用コンピュータ40において、フロート22の傾き角度の限界範囲を設定しておき、S5では、フロート22の傾きを算出し、S6で、S5で算出された傾きが限界範囲を超えているか否かを評価して、異常の有無を判定する。
【0052】
図10は、複数のGNSS受信機の座標からフロート面の傾きを計測するS5のフローチャートを示した。平面がZ軸となす角度(θz)は、平面上、すなわちフロート22上の3点の座標を取得することができれば、求めることができる。
図10では、GNSS受信機a122、GNSS受信機b124及びGNSS受信機c126の位置情報を取得し、平面の方程式の係数(A,B,C)を求める。ベクトルabとベクトルacの外積は平面の法線ベクトルとなり、その成分は、係数(A,B,C)となる。法線ベクトルと法線ベクトルのZ軸方向に分解されたベクトルとの角度(θz)を逆三角関数によって算出する。θzは、すなわち水平面とフロート22との傾きと一致する。S6において、演算結果のθzと、予め設定した傾き角度の限界範囲との比較を行い、限界範囲から逸脱しているか否かの判定を行う。上記は風や波浪に起因してフロート22が傾斜する際に傾き角度の限界範囲を超えたか否かについて算出する方法の一例を示したものであり、他の周知の演算方法によっても実現できる。
【0053】
図11は、太陽電池モジュール242が積載されたフロート22が、外的要因によって回転が生じた状態を示した図である。回転が所定の角度を超えた場合には、アンカーチェーン28に過剰な負荷が掛かることになり、切断又はアンカー26が破損するおそれがある。予め、汎用コンピュータ40において、フロート22の回転角度の限界範囲を設定しておき、S5では、フロート22の回転角度を検出又は算出し、S6で、S5で算出された回転角度が限界範囲を超えているか否かを評価して、異常の有無を判定する。また、併せてフロート22の水平方向の限界範囲LRを逸脱した位置に存在するか否かについて判定することによって、さらに、詳細に異常を検知することができる。
【0054】
フロート22の回転角度(θ)は、2点の基準位置の座標と、任意の時刻の対応する2点の座標とを、GNSS受信機から取得することによって、求めることができる。
図12に、2点の基準位置の座標と、任意の時刻の対応するGNSS受信機の座標からフロート面の回転角度を計測するS5のフローチャートを示した。
図12では、GNSS受信機a122及びGNSS受信機d128の任意の時刻の位置情報を取得し、基準位置のベクトルa(t
0)d(t
0)と、任意の時刻のベクトルa(t
n)d(t
n)とを、内積の公式に代入することによって、ベクトルa(t
0)d(t
0)とベクトルa(t
n)d(t
n)との角度(θ)を算出する。θは、任意の時刻におけるフロート22の基準位置からの回転角度である。S6において、演算結果のθと、予め設定した回転角度の限界範囲との比較を行い、限界範囲から逸脱しているか否かの判定を行う。上記は風や波浪に起因してフロート22が回転角度の限界範囲を超えたか否かについて算出する方法の一例を示したものであり、他の周知の演算方法によっても実現できる。
【0055】
図13は、太陽電池モジュール242が積載されたフロート22が、急激な外的要因によってアンカー及びアンカーチェーンに負荷が生じた状態を示した図である。負荷が所定の値を超えた場合には、アンカーチェーン28が切断、又はアンカー26が破損するおそれがある。予め、汎用コンピュータ40において、フロート22の移動による負荷の限界範囲を設定しておき、S5では、フロート22の加速度を検出又は算出し、取得した加速度からフロート22の負荷を算出する。そして、S6で、S5で算出された負荷が限界範囲を超えているか否かを評価して、異常の有無を判定する。
【0056】
フロート22の負荷は、任意の時刻のGNSS受信機の座標と、1回前に取得した同一のGNSS受信機の座標とを、GNSS受信機から取得することによって、求めることができる。
図14に、任意の時刻のGNSS受信機a122の座標と、1回前に取得した同一のGNSS受信機a122の座標からフロート22の加速度を算出し、算出した加速度からフロート22の負荷を計測するS5のフローチャートを示した。
図14では、GNSS受信機a122の任意の時刻の位置情報と、1回前に取得したGNSS受信機a122の位置情報によって、任意の時刻の位置の変化ベクトルa(t
n)を2回微分することによって、ベクトルa(t
n)の加速度(acc(t
n))を算出する。acc(t
n)は、任意の時刻におけるフロート22の移動による加速度である。acc(t
n)にフロート22の重量mを乗じることによって、フロート22がアンカー及びアンカーチェーンに掛ける負荷(F(t
n))を算出できる。S6において、演算結果のF(t
n)と、予め設定した負荷の限界範囲との比較を行い、限界範囲から逸脱しているか否かの判定を行う。上記は、GNSS受信機a122における負荷について演算を行う例を示したが、残りのGNSS受信機(124乃至128)について負荷を算出し、評価、判定してもよい。また、上記は風や波浪に起因してフロート22がアンカー及びアンカーチェーンに掛ける負荷の限界範囲を超えたか否かについて算出する方法の一例を示したものであり、他の周知の演算方法によっても実現できる。
【0057】
図15は、フロート22に配設されたGNSS受信機a122乃至GNSS受信機d128の各々で取得したGNSS受信機(122乃至128)の移動ログを示した図である。括弧内の記号が、GNSS受信機a122乃至GNSS受信機d128に対応している。
図15では、上が北で、向かって右が東を示している。水上に設置された太陽光発電設備は、北東から南西方向の移動の頻度が高い状況であることが分かる。このように、特定方向の移動頻度が高い場合には、当該方向に係る負荷が時間経過とともに蓄積されていることになる。負荷の蓄積は、アンカーチェーン28やアンカー26を疲労させることになり、経年劣化による故障につながる可能性がある。係る故障を防止するために、負荷の累積を計測する必要がある。
【0058】
フロート22がアンカー及びアンカーチェーンに掛ける各軸方向の負荷は、任意の時刻のGNSS受信機の座標と、1回前に取得した同一のGNSS受信機の座標とを、GNSS受信機から取得することによって、求めることができる。
図16に、任意の時刻のGNSS受信機a122の座標と、1回前に取得した同一のGNSS受信機a122の座標からフロート22の各軸方向の加速度を算出し、算出した加速度からフロート22の各軸方向の負荷を計測するS5のフローチャートを示した。
図16では、GNSS受信機a122の任意の時刻の位置情報と、1回前に取得したGNSS受信機a122の位置情報によって、任意時刻の各軸方向の位置の変化ベクトルa(t
n)を2回微分することによって、各軸方向のベクトルax~z(t
n)の加速度(accx~z(t
n))を算出する。accx~z(t
n)は、任意の時刻におけるフロート22の移動による各軸方向の加速度である。accx~z(t
n)にフロート22の重量mを乗じることによって、フロート22がアンカー及びアンカーチェーンに掛ける各軸方向の負荷(Fx~z(t
n))を算出できる。経過時間ごとに、各軸方向の負荷(Fx~z(t
n))を合計することにより累積負荷SUM(Fx~z(t
n))を算出することができる。ステップ6(S6)において、演算結果のSUM(Fx~z(tn))と、予め設定した累積負荷の限界範囲との比較を行い、限界範囲から逸脱しているか否かの判定を行う。上記は、GNSS受信機a122における累積負荷について演算を行う例を示したが、残りのGNSS受信機(124乃至128)について累積負荷を算出し、評価、判定してもよい。また、上記は風や波浪に起因してフロート22がアンカー及びアンカーチェーンに掛ける累積負荷が、限界範囲を超えたか否かについて算出する方法の一例を示したものであり、他の周知の演算方法によっても実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る水上太陽光発電設備監視システムは、ため池、ダム、湖上又は海上に設置された太陽光発電設備の監視に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 水上太陽光発電設備監視システム
12 GNSS受信機
122 GNSS受信機a
124 GNSS受信機b
126 GNSS受信機c
128 GNSS受信機d
14 GNSSアンテナ
16 広域通信無線アンテナ
20 水上太陽光発電設備
22 フロート
24 太陽電池アレイ
242 太陽電池モジュール
26 アンカー
28 アンカーチェーン(係留具)
30 広域通信ネットワーク(インターネット)
40 汎用コンピュータ
50 準天頂軌道衛星
60 地上局
70 電子基準点
LR 限界範囲
RP 基準面(又は、基準位置)
PD ため池
WS 水面
WT 水