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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157415
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】保持部材および静電チャック
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
H01L21/68 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067322
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100195659
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】南端 友哉
(72)【発明者】
【氏名】上松 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴司
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 輝
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131CA09
5F131CA12
5F131CA17
5F131EA03
5F131EB11
5F131EB14
5F131EB18
5F131EB54
5F131EB78
5F131EB79
5F131EB84
(57)【要約】
【課題】保持面の耐プラズマ性を向上させることができる技術を提供する。
【解決手段】セラミックを主成分とし、対象物を保持する保持部材であって、保持部材は、対象物を保持する側の面である保持面を有し、保持面のうち少なくとも一部の表面は、第1セラミック結晶粒子で構成され、保持面よりも内側の部分は、第2セラミック結晶粒子で構成され、第1セラミック結晶粒子の粒子径である第1粒子径は、第2セラミック結晶粒子の粒子径である第2粒子径よりも小さいことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とし、対象物を保持する保持部材であって、
前記保持部材は、前記対象物を保持する側の面である保持面を有し、
前記保持面のうち少なくとも一部の表面は、第1セラミック結晶粒子で構成され、
前記保持部材のうち前記保持面よりも内側の部分は、第2セラミック結晶粒子で構成され、
前記第1セラミック結晶粒子の粒子径である第1粒子径は、前記第2セラミック結晶粒子の粒子径である第2粒子径よりも小さいことを特徴とする、保持部材。
【請求項2】
請求項1に記載の保持部材であって、
前記保持面には、凸部と、凹部と、が形成されており、
前記表面は、前記凹部を画定する底面であることを特徴とする、保持部材。
【請求項3】
請求項2に記載の保持部材であって、
前記表面は、レーザー加工面であることを特徴とする、保持部材。
【請求項4】
静電チャックであって、
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の保持部材と、
前記保持面に静電引力を発生させる静電電極と、を備えることを特徴とする、静電チャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持部材および静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
対象物を保持する保持部材として、静電引力により対象物であるウエハを保持する静電チャックが知られている。例えば、特許文献1には、セラミックス部材のうち対象物を保持する側の保持面に、ブラスト加工により凹部が形成された静電チャックが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-129632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ブラスト加工は、粒界に沿って結晶粒子を粒子ごと脱離させる加工であることから、特許文献1に記載の静電チャックでは、保持面の表面粗さが大きくなるとともに保持面に露出する粒界の面積が大きくなる虞がある。結晶粒子間の境界である粒界は、原子配列が乱れた領域であり、結晶粒子の粒内と比べて耐プラズマ性が低い。このため、保持部材における保持面の耐プラズマ性については、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、保持面の耐プラズマ性を向上させることができる保持部材および静電チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
(1)本発明の一形態によれば、保持部材が提供される。この保持部材は、セラミックを主成分とし、対象物を保持する保持部材であって、前記保持部材は、前記対象物を保持する側の面である保持面を有し、前記保持面のうち少なくとも一部の表面は、第1セラミック結晶粒子で構成され、前記保持面よりも内側の部分は、第2セラミック結晶粒子で構成され、前記第1セラミック結晶粒子の粒子径である第1粒子径は、前記第2セラミック結晶粒子の粒子径である第2粒子径よりも小さいことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、保持面のうち少なくとも一部の表面は、第1セラミック結晶粒子で構成され、保持部材のうち保持面よりも内側の部分は、第2セラミック結晶粒子で構成されている。そして、第1セラミック結晶粒子の粒子径である第1粒子径は、第2セラミック結晶粒子の粒子径である第2粒子径よりも小さい。このため、保持面のうち少なくとも一部の表面は、第2粒子径よりも小さい第1粒子径の第1セラミック結晶粒子で構成されていることから、保持部材の使用時に保持面から発生するパーティクルサイズを低減することができる。また、第1セラミック結晶粒子は、第2セラミック結晶粒子の一部が削れたセラミック結晶粒子に相当することから、第1セラミック結晶粒子で構成された表面には、その表面に向けて粒内(結晶粒子のうち粒界より内側の部分)を露出させたセラミック結晶粒子が含まれている。すなわち、そのような表面においては、表面に露出している粒界が少なっていることから、そのような表面を含んだ保持面の耐プラズマ性を向上させることができる。
【0008】
(2)上記形態の保持部材において、前記保持面には、凸部と、凹部と、が形成されており、前記表面は、前記凹部を画定する底面であってもよい。
この構成によれば、凹部を画定している底面は、第1セラミック結晶粒子で構成されている。このため、保持部材が対象物を保持している際に、対象物と凹部との間を不活性ガスが流れることによって保持面から発生するパーティクルサイズを低減することができる。
【0009】
(3)上記形態の保持部材において、前記表面は、レーザー加工面であってもよい。
この構成によれば、レーザー加工が施された面であるレーザー加工面は、各々の結晶粒子を粒界から粒内に向けて微細に削り進められた面であることから、第1セラミック結晶粒子の第1粒子径は、第2粒子径よりも小さくなっている。したがって、第2粒子径よりも第1粒子径が小さい保持部材を精度良く提供することができる。また、粒界に沿って結晶粒子を粒子ごと脱離させるブラスト加工を施されたブラスト加工面と比べて、レーザー加工面は、表面粗さを小さくすることができる。すなわち、表面粗さに起因する表面積の増大を小さくすることができる。その結果、プラズマ腐食される表面積が小さくなることから、プラズマ腐食によるパーティクルの発生を抑制することができる。
【0010】
(4)本発明の別の一形態によれば、静電チャックが提供される。この静電チャックは、上記形態に記載の保持部材と、前記保持面に静電引力を発生させる静電電極と、を備えることを特徴とする。
この構成によれば、静電電極に対して電力が供給されることによって、静電引力(吸着力)が発生し、この静電引力により対象物を保持面の側に保持することができる。また、第2粒子径よりも第1粒子径は小さいことから、保持部材の使用時に保持面から発生するパーティクルサイズを低減しつつ、耐プラズマ性を向上させた静電チャックを提供することができる。
【0011】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、保持部材、静電チャック、真空チャック、セラミックスヒータ、半導体製造装置、およびこれらを備える部品、およびこれらの製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態の静電チャックの断面構成を模式的に示す説明図である。
図2】凹部の形成過程を示した説明図である。
図3】セラミック結晶粒子の形状を示す模式図である。
図4】第2実施形態の静電チャックの断面構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の静電チャック1の断面構成を模式的に示す説明図である。静電チャック1は、対象物である半導体ウエハWを静電引力により吸着して保持する装置である。図1に示した矢印は、静電チャック1に対して、半導体ウエハWが吸着される方向を示している。静電チャック1は、例えば、半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用される。静電チャック1は、保持部材10と、静電電極30と、を備える。
【0014】
保持部材10は、円盤状の部材であり、セラミックを主成分として形成されている。主成分とは、体積含有率の最も多い成分のことをいう。保持部材10の構成材料としては、酸化アルミニウム(アルミナ)や窒化アルミニウム等が例示され、本実施形態では、アルミナである。本実施形態では、保持部材10は、1枚のセラミック材質の部材から構成されている。保持部材10は、保持面10fと、裏面10bと、を有する。保持面10fは、半導体ウエハWを保持する側の円形状の面である。裏面10bは、保持面10fの反対側に位置する円形状の面である。
【0015】
保持面10fには、環状凸部12と、複数の凸部14と、複数の凹部16と、が形成されている。環状凸部12は、保持面10fの外縁に沿って形成されている。凸部14の各々は、環状凸部12の内側に形成されている。凹部16の各々は、凸部14の間に形成されている。換言すれば、凹部16の形成位置は、環状凸部12の内側において、凸部14の形成されていない位置にあたる。本実施形態では、保持面10fと向き合う方向から保持面10fを見たとき(平面視したとき)、円形状の保持面10f上に凹部16の各々が点在して配置されているとともに、保持面10fに占める凹部16の割合は9割以上である。
【0016】
保持部材10の内側には、複数の貫通流路22が形成されている。貫通流路22の各々は、保持面10fと裏面10bとの間を貫通する流路であり、裏面10bの側から供給されるヘリウムガス等の不活性ガスを保持面10fの側に供給するための流路である。貫通流路22は、保持面10fの側において凹部16に接続している。
【0017】
静電電極30は、保持部材10の内部に設けられた円盤状の部材であり、タングステンやモリブデン等の導電性材料によって形成されている。静電電極30は、図示しない外部電源から電力が供給されることによって、保持面10fに静電引力を発生させる。半導体ウエハWは、この静電引力で保持面10fに向けて吸着されることによって、保持面10fに保持される。
【0018】
保持面10fに静電引力が発生している際、半導体ウエハWは、環状凸部12や凸部14と接触することによって、保持面10fに保持される。このような保持面10fに半導体ウエハWが保持された状態において、半導体ウエハWと保持面10fとの間の熱伝導性を高めるために、半導体ウエハWと保持面10fとの間に不活性ガスが供給される。詳細には、不活性ガスは、裏面10bの側から貫通流路22を経て、凹部16から保持面10fの側に供給される。保持面10fの側に供給された不活性ガスは、半導体ウエハWと凹部16との間の空間を流れて、その空間全体に拡散する。
【0019】
図2(A)(B)は、凹部16の形成過程を示した説明図である。図2(A)は、保持部材10の基となるセラミック部材10pの一部を示している。セラミック部材10pは、加工対象面10fpを有する。加工対象面10fpは、図1の保持部材10において保持面10fとなる面であり、環状凸部12、複数の凸部14および複数の凹部16が形成される前の保持面10fにあたる。加工対象面10fpのうち凹部16が形成される凹部形成領域(不図示)の各々にレーザー加工が施されることにより、凹部形成領域に凹部16の各々が形成される。レーザー加工は、加工対象に向けてレーザーを照射する加工である。図2(A)に示す矢印は、レーザー加工の際に照射されるレーザーを表している。そして、複数の凹部16が形成された結果、後述する図2(B)に示すように、凹部形成領域に凹部16の各々が形成されることにより、凹部16の各々に隣接する部分が環状凸部12および複数の凸部14となる。なお、実際のレーザー加工の際には、凹部形成領域にレーザーが照射される。
【0020】
レーザー加工に用いられるレーザーは、超短パルスレーザーであることが好ましい。超短パルスレーザーは、パルス幅がフェムト秒領域(10―15)からピコ秒領域(10―10)の範囲にあるレーザーであり、エネルギー密度が高い。この超短パルスレーザーを凹部16の加工に用いた場合、レーザー照射された加工対象部分から熱が拡散する時間よりパルス幅が短く、加工対象部分の周囲に熱が伝わる前に加工対象部分を構成している材料を瞬時に蒸発させることから、熱影響の少ない精密な加工が可能となる。
【0021】
図2(B)は、保持部材10の一部を示している。凹部16は、側面16Sと、底面16Bと、を有する。側面16Sは、凹部16のうち側方を画定している面である。底面16Bは、凹部16のうち底部を画定している面である。すなわち、側面16Sおよび底面16Bは、凹部16を画定している。上述したように、凹部16は、レーザー加工により形成されていることから、側面16Sおよび底面16Bのうち少なくとも底面16Bは、レーザー加工面に相当する。
【0022】
図3(A)~(C)は、セラミック結晶粒子の形状を示す模式図である。図3(A)は、加工対象面10fp近傍を構成するセラミック結晶粒子の形状を示している。結晶粒子P1~P4を画定している各々の線は、粒界を表している。図3(B)は、図3(A)に示された加工対象面10fpに対して、ブラスト加工が施された場合のセラミック結晶粒子の形状を示している。ブラスト加工は、加工対象に向けて研掃材を投射する加工である。図3(B)の加工後面10fbは、ブラスト加工で加工対象面10fpが削られたことにより露出した面である。図3(C)は、図3(A)に示された加工対象面10fpに対して、レーザー加工が施された場合のセラミック結晶粒子の形状を示している。図3(C)の加工後面10fcは、レーザー加工で加工対象面10fpが削られたことにより露出した面である。図3(A)~(C)において、加工対象面10fp、加工後面10fbおよび加工後面10fcは、太線で示されている。
【0023】
図3(A)~(C)を用いて、加工対象面10fpを加工する際の加工の種類によって、加工後の面を構成するセラミック結晶粒子の粒子径が異なることを説明する。図3(B)において、加工後面10fbのうち露出部分Ebは、加工対象面10fpへのブラスト加工で結晶粒子P1,P2が脱離したことにより、粒界が露出した部分である。ブラスト加工は、研掃材の投射により、粒界に沿って結晶粒子を粒子ごと脱離させることから、図3(B)に示すように、加工後面10fbの表面粗さが大きくなりやすいとともに加工後面10fbに露出する粒界の面積も大きくなりやすい。一方、図3(C)において、加工後面10fcのうち露出部分Ecは、加工対象面10fpへのレーザー加工で結晶粒子P1,P2の一部が削られたことにより、粒内(粒界より内側の部分)が露出した部分である。図3(C)に示す結晶粒子p1,p2は、一部が削られた結晶粒子P1,P2にあたる。レーザー加工は、各々の結晶粒子を粒界から粒内に向けて微細に削り進めることから、図3(C)に示すように、加工後面10fcの表面粗さは大きくなりにくく、加工後面10fcに露出する粒界の面積も大きくなりにくい。また、加工後面10fcには粒内が露出しやすいことから、加工後面10fcの表面を構成するセラミック結晶粒子の粒子径は、加工対象面10fpや加工後面10fbと比べて、小さくなりやすい。
【0024】
上述したように、複数の凹部16は、加工対象面10fpにレーザー加工が施されることによって形成されており、側面16Sおよび底面16Bのうち少なくとも底面16Bは、レーザー加工面に相当する。このため、底面16Bを構成するセラミック結晶粒子の粒子径は、図3(C)で説明したように、レーザー加工により少なくとも一部が削られていることから(例えば図3(C)の結晶粒子p1,p2)、保持面10fよりも内側の部分を構成するセラミック結晶粒子(例えば図3(C)の結晶粒子P3,P4)の粒子径と比べて小さくなっている。以降の説明において、底面16Bを構成しているセラミック結晶粒子を第1セラミック結晶粒子と呼ぶとともに、第1セラミック結晶粒子の粒子径を第1粒子径と呼ぶ。また、保持部材10のうち保持面10fよりも内側の部分を構成しているセラミック結晶粒子を第2セラミック結晶粒子と呼ぶとともに、第2セラミック結晶粒子の粒子径を第2粒子径と呼ぶ。すなわち、保持部材10において、底面16Bは、第1セラミック結晶粒子で構成された面であり、その第1粒子径は、第2粒子径よりも小さい。なお、第1セラミック結晶粒子および第2セラミック結晶粒子は、ともに保持部材10を構成している粒子である。すなわち、保持面10fの上にコーティングが施されていた場合でも、そのコーティングにより形成された層を構成している結晶粒子は、第1セラミック結晶粒子にはあたらないということである。また、第1セラミック結晶粒子および第2セラミック結晶粒子は、同じセラミック材質の材料から構成されている。すなわち、第1粒子径と第2粒子径との大小の比較は、同一材料の結晶粒子の間で行われるものとする。
【0025】
第1粒子径が第2粒子径よりも小さいことは、薄膜X線回折(薄膜XRD)にて保持面10fを測定した結果と、通常のX線回折(XRD)にて保持部材10の内部を測定した結果と、を比較することによって確認できる。ここで、薄膜XRDは、測定対象の表面に対してX線を低角度(例えば1°以下)で入射させるXRDである。XRDは、測定対象の内部に向けてX線を入射させるXRDである。比較には、薄膜XRDおよびXRDにて測定された半価幅の値が用いられる。具体的には、第1粒子径が第2粒子径よりも小さいことは、薄膜XRDの測定結果における半価幅の値が、XRDの測定結果における半価幅の値よりも大きいことで確認される。また、第1粒子径の値および第2粒子径の値は、それら半価幅の値から、下記の式(1)で表されるScherrerの式を用いて算出することができる。
r=(K・λ)/βcosθ …(1)
r:粒子径、K:Scherrer定数、λ:測定に用いたX線の波長、β:半価幅、θ:ブラッグ角
【0026】
本実施形態において、レーザー加工を施す対象であるセラミック部材10p(図2(A))は、αアルミナで構成されていることから、保持部材10のうち保持面10fよりも内側の部分についても、αアルミナで構成されている。一方、側面16Sおよび底面16Bのうち少なくとも底面16Bの近傍は、レーザー加工によりαアルミナが転移したγアルミナで構成されている。γアルミナの存在は、薄膜XRDによって保持面10fを測定した際のXRDパターンにおいて、γアルミナのピーク位置付近で相対強度が強くなっていることから確認される。
【0027】
また、第1セラミック結晶粒子は、第2セラミック結晶粒子の一部がレーザー加工により削れたセラミック結晶粒子に相当するため、凹部16を画定している側面16Sおよび底面16Bのうち少なくとも底面16Bを構成するセラミック結晶粒子の中には、底面16Bの表面に向けて粒内を露出させたセラミック結晶粒子が含まれている(例えば図3(C)の結晶粒子p1,p2)。
【0028】
また、SEMによる保持部材10の断面の観察において、底面16Bの付近に、複数の微小なポア(空洞)が確認された。また、底面16Bを構成するセラミック結晶粒子の形状は、ブラスト加工で形成された凹部底面と比べて、丸みを帯びている傾向にあった。また、保持部材10の内部から底面16Bに至るクラックの長さは、ブラスト加工で形成された凹部底面と比べて、短い傾向にあった。また、保持部材10の内部から底面16Bに至るクラックの数は、ブラスト加工で形成された凹部底面と比べて、少ない傾向にあった。また、図3(B)(C)で説明したように、底面16Bの表面粗さは、ブラスト加工で形成された凹部底面と比べて、小さい傾向にあった。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の保持部材10によれば、保持面10fのうち少なくとも底面16Bは、第1セラミック結晶粒子で構成され、保持面10fよりも内側の部分は、第2セラミック結晶粒子で構成されている。そして、第1セラミック結晶粒子の粒子径である第1粒子径は、第2セラミック結晶粒子の粒子径である第2粒子径よりも小さい。このため、保持面10fのうち少なくとも底面16Bは、第2粒子径よりも小さい第1粒子径の第1セラミック結晶粒子で構成されていることから、保持部材10の使用時に保持面10fから発生するパーティクルサイズを低減することができる。また、第1セラミック結晶粒子は、第2セラミック結晶粒子の一部が削れたセラミック結晶粒子に相当することから、第1セラミック結晶粒子で構成された底面16Bには、その底面16Bに向けて粒内(結晶粒子のうち粒界より内側の部分)を露出させたセラミック結晶粒子が含まれている。すなわち、底面16Bに露出している粒界が少なくなっていることから、そのような底面16Bを含んだ保持面10fの耐プラズマ性を向上させることができる。
【0030】
また、本実施形態の保持部材10によれば、保持面10fよりも内側の部分を構成するセラミック結晶粒子の粒子径(第2粒子径)は、底面16Bを構成するセラミック結晶粒子の粒子径(第1粒子径)と比べて大きくなっている。結晶粒子の粒子径が小さいと、粒子間の接触が増えて熱損失が増える傾向にある。本実施形態の保持部材10では、保持面10fよりも内側の部分を構成するセラミック結晶粒子の粒子径は、第1粒子径よりも大きい第2粒子径であることから、同部分における粒子間の接触が低減されていることにより、同部分における熱損失を低減することができる。
【0031】
また、本実施形態の保持部材10では、凹部16を画定している底面16Bは、第1セラミック結晶粒子で構成されている。このため、保持部材10が対象物である半導体ウエハWを保持している際に、半導体ウエハWと凹部16との間を不活性ガスが流れることによって保持面10fから発生するパーティクルサイズを低減することができる。
【0032】
また、本実施形態の保持部材10では、側面16Sおよび底面16Bのうち少なくとも底面16Bは、レーザー加工面に相当する。このため、レーザー加工面である底面16Bは、各々のセラミック結晶粒子を粒界から粒内に向けて微細に削り進められた面であることから、第1セラミック結晶粒子の第1粒子径は、第2粒子径よりも小さくなっている。したがって、第2粒子径よりも第1粒子径が小さい保持部材10を精度良く提供することができる。また、粒界に沿って結晶粒子を粒子ごと脱離させるブラスト加工を施されたブラスト加工面と比べて、レーザー加工面は、表面粗さを小さくすることができる。すなわち、表面粗さに起因する表面積の増大を小さくすることができる。その結果、プラズマ腐食される表面積が小さくなることから、プラズマ腐食によるパーティクルの発生を抑制することができる。
【0033】
また、本実施形態の静電チャック1によれば、静電電極30に対して電力が供給されることによって、静電引力(吸着力)が発生し、この静電引力により半導体ウエハWを保持面10fの側に保持することができる。また、第2粒子径よりも第1粒子径は小さいことから、保持部材10の使用時に保持面10fから発生するパーティクルサイズを低減しつつ、耐プラズマ性を向上させた静電チャック1を提供することができる。
【0034】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態の静電チャック1aの断面構成を模式的に示す説明図である。第2実施形態の静電チャック1aは、第1実施形態の静電チャック1(図1参照)と比べて環状凸部12の内側に凸部14が形成されていない点を除いて、第1実施形態の静電チャック1(図1参照)と同じである。
【0035】
静電チャック1aは、保持面10faを有する保持部材10aを備える。保持面10faには、図1に示した凸部14は形成されておらず、環状凸部12と、凹部16aと、が形成されている。凹部16aは、保持面10faのうち環状凸部12の内側部分全体にあたる。保持面10faと向き合う方向から保持面10faを見たとき(平面視したとき)、凹部16aは、環状凸部12の内側に円形状に形成されている。凹部16aは、図1に示した複数の凹部16と同様に、レーザー加工により形成されている。すなわち、凹部16aを画定している側面16aSおよび底面16aBのうち少なくとも底面16aBは、レーザー加工面に相当する。したがって、底面16aBを構成しているセラミック結晶粒子の粒子径(第1粒子径に相当)は、保持面10faよりも内側の部分を構成するセラミック結晶粒子の粒子径(第2粒子径に相当)と比べて小さくなっている。このような第2実施形態の保持部材10aにおいても、保持部材10aの使用時に保持面10faから発生するパーティクルサイズを低減しつつ、保持面10fの耐プラズマ性を向上させることができる。
【0036】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0037】
第1実施形態では、保持面10fには、環状凸部12と、複数の凸部14と、複数の凹部16と、が形成されていたが、これに限られない。例えば、保持面10fには、環状凸部12は形成されておらず、複数の凸部14と、複数の凹部16と、が形成されていてもよい。
【0038】
上記実施形態では、保持部材10,10aの内側には、複数の貫通流路22が形成されていたが、これに限られない。例えば、保持部材10,10aの内側には、複数の貫通流路22に加えて、保持部材10の内部において貫通流路22同士を接続する流路や、その流路から分岐して凹部16に接続する流路が形成されていてもよい。
【0039】
上記実施形態では、底面16Bや底面16aBが第1セラミック結晶粒子で構成されていたが、これに限られない。第1セラミック結晶粒子で構成されている面は、保持面のうち少なくとも一部の表面である限り、その範囲は任意である。例えば、第1セラミック結晶粒子で構成されている面は、保持面のうち全面であってもよい。また、上記実施形態では、凹部16や凹部16aにおける底部は角張った底部として図示されており、その底部の底面16Bや底面16aBが第1セラミック結晶粒子で構成されている面として説明したが、これに限られず、凹部における底部が角のない丸みを帯びた底部である場合には、その底部近傍の部分が第1セラミック結晶粒子で構成されている面であってもよい。
【0040】
上記実施形態では、第1セラミック結晶粒子で構成されている底面16Bや底面16aBは、レーザー加工面であったが、これに限られない。例えば、第1セラミック結晶粒子で構成されている表面は、第1粒子径が第2粒子径よりも小さい限り、超短パルスレーザーとは異なるレーザーを用いたレーザー加工や、レーザー加工とは異なる他の任意の加工が施されることによって形成されてもよい。
【0041】
上記実施形態の静電チャックにおいて、さらに、保持部材の内部に、タングステンやモリブデン等の導電性材料によって形成された複数のヒータ電極を備えていてもよい。このような形態の場合、保持部材に対象物が保持されている際、外部電源から供給される電力でヒータ電極が発熱することによって、対象物を温めることができる。
【0042】
上記実施形態の静電チャックにおいて、さらに、保持部材の裏面に、板状のベース部材が接合されていてもよい。このベース部材の内部に冷媒流路が形成されている場合には、保持部材に対象物が保持されている際に、冷媒流路内を冷媒が流れることによって、ベース部材から保持部材を介して、対象物を冷却することができる。
【0043】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0044】
本発明は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
セラミックを主成分とし、対象物を保持する保持部材であって、
前記保持部材は、前記対象物を保持する側の面である保持面を有し、
前記保持面のうち少なくとも一部の表面は、第1セラミック結晶粒子で構成され、
前記保持部材のうち前記保持面よりも内側の部分は、第2セラミック結晶粒子で構成され、
前記第1セラミック結晶粒子の粒子径である第1粒子径は、前記第2セラミック結晶粒子の粒子径である第2粒子径よりも小さいことを特徴とする、保持部材。
[適用例2]
適用例1に記載の保持部材であって、
前記保持面には、凸部と、凹部と、が形成されており、
前記表面は、前記凹部を画定する底面であることを特徴とする、保持部材。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の保持部材であって、
前記表面は、レーザー加工面であることを特徴とする、保持部材。
[適用例4]
静電チャックであって、
適用例1から適用例3までのいずれかに記載の保持部材と、
前記保持面に静電引力を発生させる静電電極と、を備えることを特徴とする、静電チャック。
【符号の説明】
【0045】
1,1a…静電チャック
10,10a…保持部材
10b…裏面
10f,10fa…保持面
12…環状凸部
14…凸部
16,16a…凹部
16B,16aB…底面
16S,16aS…側面
22…貫通流路
30…静電電極
図1
図2
図3
図4