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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157444
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】中空糸型精密ろ過膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/08 20060101AFI20231019BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20231019BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20231019BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20231019BHJP
   B01D 61/18 20060101ALI20231019BHJP
   D01F 6/76 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D69/02
B01D69/00
B01D71/68
B01D61/18
D01F6/76 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067373
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】594152620
【氏名又は名称】ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】中塚 修志
(72)【発明者】
【氏名】綿部 智一
【テーマコード(参考)】
4D006
4L035
【Fターム(参考)】
4D006GA07
4D006MA01
4D006MA22
4D006MA24
4D006MA25
4D006MA28
4D006MA31
4D006MB10
4D006MB20
4D006MC29
4D006MC62
4D006MC63X
4D006NA23
4D006NA27
4D006NA28
4D006NA75
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB20
4D006PB24
4D006PC11
4L035AA04
4L035AA06
4L035AA09
4L035BB15
4L035BB66
4L035DD03
4L035DD07
4L035MC04
4L035MF01
(57)【要約】
【課題】膜抵抗が低く、高い透水透過速度が得られる中空糸型精密ろ過膜の提供。
【解決手段】疎水性高分子からなる中空糸型精密ろ過膜であって、前記中空糸型精密ろ過膜が、外側から内側に向かって、表面孔径3μm以下の外表面緻密層、多孔の外部スポンジ構造層、短径20μm以上のマクロボイドを含む多孔中間層、多孔の内部スポンジ構造層を有しており、外部スポンジ構造層、短径20μm以上のマクロボイドを含む多孔中間層、内部スポンジ構造層の順に連続的に孔径が大きくなっており、前記精密ろ過膜の0.1MPaにおける純水透過速度が、8,000~40,000L/m・hである、中空糸型精密ろ過膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性高分子からなる中空糸型精密ろ過膜であって、
前記中空糸型精密ろ過膜が、外側から内側に向かって、表面孔径3μm以下の外表面緻密層、多孔の外部スポンジ構造層、短径20μm以上のマクロボイドを含む多孔中間層、多孔の内部スポンジ構造層を有しており、
外部スポンジ構造層、短径20μm以上のマクロボイドを含む多孔中間層、内部スポンジ構造層の順に連続的に孔径が大きくなっており、
前記精密ろ過膜の0.1MPaにおける純水透過速度が、8,000~40,000L/m・hである、中空糸型精密ろ過膜。
【請求項2】
前記多孔の内部スポンジ構造層の内側にさらに表面孔径3μm以下の内表面緻密層を有している、請求項1記載の中空糸型精密ろ過膜。
【請求項3】
前記多孔の内部スポンジ構造層の内側にさらに表面孔径3μm以下の内表面緻密層を有しており、前記内表面緻密層の膜表面にノジュールが形成されている、請求項1載の中空糸型精密ろ過膜。
【請求項4】
前記多孔の内部スポンジ構造層の内側にさらに面孔径3μm以下の内表面緻密層を有しており、前記内表面緻密層の表面孔径が0.1~3.0μmであり、前記内表面緻密層の膜表面にノジュールが形成されている、請求項1記載の中空糸型精密ろ過膜。
【請求項5】
前記短径20μm以上のマクロボイドを含む多孔中間層が、断面における前記20μm以上のマクロボイドの占有面積が15~25%である、請求項1記載の中空糸型精密ろ過膜。
【請求項6】
破断強度が500g/本以上である、請求項1~5のいずれかに記載の中空糸型精密ろ過膜。
【請求項7】
バースト圧が1MPa以上である、請求項1~5のいずれかに記載の中空糸型精密ろ過膜。
【請求項8】
内径が1000μm以上、1700μm以下である、請求項1~5のいずれかに記載の中空糸型精密ろ過膜。
【請求項9】
前記疎水性高分子が、ポリエーテルスルホンである、請求項1~5のいずれかに記載の中空糸型精密ろ過膜。
【請求項10】
中空糸型精密ろ過膜におけるポリビニルピロリドン残留重量が、前記中空糸型精密ろ過膜全体質量に対して0.10質量%以下である、請求項1~5のいずれかに記載の中空糸型精密ろ過膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、食品分野や水処理用のろ過膜として使用できる高い透水性と高い膜強度を有する中空糸型精密ろ過膜に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、疎水性高分子と親水性高分子から膜壁が構成されている多孔質中空糸膜の発明が記載されており、前記疎水性高分子としてポリスルホンが記載されている(特許請求の範囲)。
【0003】
特許文献2には、内表面を倍率200倍の走査型電子顕微鏡で観察した際に開孔形状が円状であり、外表面を倍率1,000倍の走査型電子顕微鏡で観察した際に開孔形状が不定形状であり、膜断面を倍率200倍の走査型電子顕微鏡で観察した際に内表面近傍の気孔が外表面近傍の気孔よりも大きく、25℃における中空糸膜の内側から中空糸膜の外側へ向けての純水FLUXが10,000~30,000L/m/h/barである多孔質中空糸膜の発明が記載されており、前記中空糸膜が疎水性高分子と親水性高分子を含み、前記疎水性高分子がポリスルホン系高分子であることが記載されている(特許請求の範囲)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5431347号公報
【特許文献2】国際公開第2016/182015号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、膜抵抗が低く、高い透水透過速度が得られる中空糸型精密ろ過膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、疎水性高分子からなる中空糸型精密ろ過膜であって、
前記中空糸型精密ろ過膜が、外側から内側に向かって、表面孔径3μm以下の外表面緻密層、多孔の外部スポンジ構造層、短径20μm以上のマクロボイドを含む多孔中間層、多孔の内部スポンジ構造層を有しており、
外部スポンジ構造層、短径20μm以上のマクロボイドを含む多孔中間層、内部スポンジ構造層の順に連続的に孔径が大きくなっており、
前記精密ろ過膜の0.1MPaにおける純水透過速度が、8,000~40,000L/m・hである、中空糸型精密ろ過膜を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の中空糸型精密ろ過膜は、高い透水透過速度を有し、破断強度が大きく糸切れし難いことから、食品精製用のろ過膜やビール酵母液のろ過膜として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の中空糸膜における断面の電子顕微鏡(SEM)写真(60倍および400倍)であり、(b)は(a)の拡大写真。
図2】実施例1の中空糸膜における内表面と外表面の電子顕微鏡(SEM)写真(3000倍)である。
図3】実施例2の中空糸膜における断面の電子顕微鏡(SEM)写真(60倍)である。
図4】実施例3の中空糸膜における断面の電子顕微鏡(SEM)写真(60倍)である。
図5】実施例4の中空糸膜における断面の電子顕微鏡(SEM)写真(60倍)である。
図6】実施例4の中空糸膜における内表面の電子顕微鏡(SEM)写真(3000倍)である。
図7】実施例4の中空糸膜における外表面の電子顕微鏡(SEM)写真(3000倍)である。
図8】比較例1の中空糸膜における断面の電子顕微鏡(SEM)写真(60倍)である。
図9】比較例2の中空糸膜における断面の電子顕微鏡(SEM)写真(60倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)中空糸型精密ろ過膜
本開示の中空糸型精密ろ過膜は、疎水性高分子からなるものである。
疎水性高分子は、ポリエーテルスルホン(PES)、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデンなどを挙げることができるが、ポリエーテルスルホンを含むことが好ましい。
【0010】
本開示の中空糸型精密ろ過膜は、外側から内側に向かって、表面孔径3μm以下の外表面緻密層、多孔の外部スポンジ構造層、短径20μm以上のマクロボイドを含む多孔中間層、多孔の内部スポンジ構造層を有している。
【0011】
表面孔径3μm以下の外表面緻密層(スキン層)の厚みは、透水抵抗を減少させるため、15μm以下であることが好ましく、1~10μmの範囲内であることがより好ましい。
表面孔径は0.1~3.0μmの範囲内であることが好ましい。表面孔径が0.1μm以上の場合は、透水抵抗が低くなりすぎる場合がなくなり、3.0μm以下の場合には、食品精製用のろ過膜やビール酵母液のろ過膜としての機能面で不都合(異物阻止性能)を生じる場合がなくなる。
【0012】
多孔の外部スポンジ構造層は、外表面緻密層(スキン層)と短径20μm以上のマクロボイドを含む多孔中間層との間に形成される網目状多孔質層であり、多孔の外部スポンジ構造の空孔径は、中空糸型精密ろ過膜の外側から内側にかけて、連続的に大きくなる。
多孔の外部スポンジ構造層は、膜厚全体の約20%を占める層となる。
【0013】
短径20μm以上のマクロボイドを含む多孔中間層は、中空糸型精密ろ過膜の断面における短径20μm以上のマクロボイドの占有面積が15~25%であるものが好ましい。
「中空糸型精密ろ過膜の断面」は、中空糸型精密ろ過膜の長さ方向に対して垂直に切断したときの断面である。
「短径」は、中空糸型精密ろ過膜の長さ方向に対して垂直に切断したときの断面において、最も長さが短い部分の寸法である。
【0014】
短径20μm以上のマクロボイドを含む多孔中間層の厚みは、前記マクロボイドの長径と等しいか、少し厚い程度であるものが好ましく、中空糸型精密ろ過膜の膜厚全体の50~70%を占める層であるものが好ましい。
マクロボイドは、中空糸型精密ろ過膜の膜厚内に存在する短径20~200μm の巨大空孔を意味し、網目状多孔質層(スポンジ層)での多孔とは区別される。
中空糸型精密ろ過膜の断面におけるマクロボイドの占有面積は、10~35%が好ましく、15~25%がより好ましい。マクロボイドの占有面積が10%以上であると、透水性能(純水透過速度)が低くなることが防止でき、35%以下であると、破断強度や破断伸度の低下が生じることが防止できる。
【0015】
多孔の内部スポンジ構造層は、マクロボイドを有さない網目状多孔質(スポンジ)構造で、その空孔径は、精密ろ過膜の外側から内側にかけて、連続的に大きくなる。
多孔の内部スポンジ構造層は、中空糸型精密ろ過膜の厚さ全体の内側の10~30%を占める層であるものが好ましい。
【0016】
多孔の内部スポンジ構造層は、内側にさらに表面孔径3μm以下の内表面緻密層(スキン層)を有しているものが好ましい。
多孔の内部スポンジ構造層は、内側にさらに表面孔径3μm以下の内表面緻密層(スキン層)を有しており、前記内表面緻密層の膜表面にノジュールが形成されているものがより好ましい。
多孔の内部スポンジ構造層の内側にさらに面孔径3μm以下の内表面緻密層(スキン層)を有しており、前記内表面緻密層の表面孔径が0.1~3.0μmであり、前記内表面緻密層の膜表面にノジュールが形成されているものがさらに好ましい。
ノジュールは、内表面緻密層(スキン層)の表面に連なった突起状物が存在する凸凹状態を有する表面構造である。ノジュールがあることで、ファウリング物質が膜表面に圧密することが抑制されるため、精密ろ過膜のろ過処理運転においてろ過速度の低下を抑制する効果を生じさせることができる。
内表面緻密層(スキン層)の厚みは15μm以下であることが、透水抵抗を減少させるために好ましく、1~10μmの範囲内であることがより好ましい。
【0017】
本開示の中空糸型精密ろ過膜は、外部スポンジ構造層、短径20μm以上のマクロボイドを含む多孔中間層、内部スポンジ構造層の順に連続的に孔径が大きくなっている。
本開示の中空糸型精密ろ過膜は、膜中にマクロボイドが形成されているため、内部層の空孔率が増大し、透水性能(純水透過速度)の高い精密ろ過膜を得ることができる。
【0018】
本開示の中空糸型精密ろ過膜では、中空糸膜の内部に被処理液を送り、デプスろ過をしながら中空糸膜の外表からろ過液を取り出すろ過処理においても好ましく使用できるものであるため、中空糸膜の内側の空孔径が最も大きく、外側に向かって連続的に小さくなるスポンジ構造が好ましい。
さらに、本開示の中空糸型精密ろ過膜の一形態として、表面孔径3μm以下の内表面緻密層を構成層として含むろ過膜においても、中空糸膜の内側の空孔径が最も大きく、外側に向かって連続的に小さくなるスポンジ構造は、多段的に異物を除去できるため、優れた阻止性能が得られるので好ましい。
【0019】
本開示の中空糸型精密ろ過膜は、破断強度が500g/本以上であるものが好ましく、550g/本以上であるものがより好ましい。破断強度が高いことから、外力を受けたときに切断し難く、高いろ過圧力に耐えることができるため好ましい。
【0020】
本開示の中空糸型精密ろ過膜は、バースト圧が1MPa以上であるものが好ましい。
【0021】
本開示の中空糸型精密ろ過膜は、中空糸型精密ろ過膜の内径および外径は、内径1000~1700μm、外径1800~2600μmのものが好ましく、内径1100~1600μm、外径1900~2500μmのものがより好ましい。
内径が1000μm以上であると、食品やビール酵母液などを濾過した場合の閉塞を防ぐことができるので好ましく、内径が1700μm以下の場合、モジュール1本あたりの有効膜面積を大きくすることができるので好ましい。
本開示の中空糸型精密ろ過膜は、機械的強度と透水性をバランスよく付与するため、膜厚は100~500μmが好ましく、200~400μmがより好ましい。
【0022】
本開示の中空糸型精密ろ過膜は、前記中空糸型精密ろ過膜全体質量に対するポリビニルピロリドン残留質量が0.20%以下であるものが好ましく、0.10%以下であるものがより好ましい。
【0023】
本開示の中空糸型精密ろ過膜の用途の一例としては、直径0.125μmのコロイダルシリカ阻止率が50%以下となるものが好ましい。
浄水用濾過の用途においては、直径0.125μmのコロイダルシリカ阻止率が95%以下となるものが好ましい。
【0024】
本開示の中空糸型精密ろ過膜は、純水透過係数(PWP)が8,000~40,000L/m・hである。
【0025】
(2)製膜溶液組成物
本開示の中空糸型精密ろ過膜を製造するための製膜溶液組成物は、疎水性高分子、溶媒、非溶媒、孔形成剤などを含むものを使用することができる。
製膜溶液組成物は、溶媒と非溶媒からなる混合溶液に対して、先に孔形成剤を添加溶解させた後、疎水性高分子を添加溶解させることで製造することができる。
【0026】
疎水性高分子としては、ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデンなどを使用することができるが、ポリエーテルスルホンを含むものが好ましく、ポリエーテルスルホンがより好ましい。これらの疎水性高分子は、耐熱性や耐薬品性に優れているので好ましい。
ポリエーテルスルホンとしては、例えば、住化ケムテックス株式会社のスミカエクセル5200Pなどを使用することができる。
【0027】
疎水性高分子としてPESを含有するとき、中空糸型精密ろ過膜の透水性能を高くするためには製膜溶液組成物中のPESの含有率を低くすることが望ましいが、低すぎると耐圧性が弱くなるため、15質量%以上が好ましい。一方、耐圧性を高めるためにPES濃度を高めると、透水性が低下するため、PES成分は20質量%以下が好ましい。より好ましくは16~18質量%である。
【0028】
溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド、N、N-ジメチルホルムアミドなどを使用することができる。
疎水性高分子としてポリエーテルスルホンを用い、透水性を高める場合は、NMPやDMSOが好ましい。
なお、製膜溶液組成物には、必要により高分子に対する非溶媒を添加することも可能である。
非溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセリン(GL)などを使用することができる。
中空糸膜の孔径を大きくして透水性を高めるためには、PEGやGLが好ましく、製膜溶液組成物の粘度を高めて真円性の高い中空糸を紡糸し、耐圧性の高い中空糸膜を得るためには、GLがより好ましい。
製膜溶液組成物中の非溶媒濃度は、5~15質量%が好ましく、8~12質量%がより好ましい。
【0029】
孔形成剤としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、炭酸カルシウム、酸化マグネシウムなどを使用することができる。
孔形成剤を製膜溶液組成物に添加し、製膜後、水、次亜塩素酸ナトリウム、酸などを用いて洗浄し孔形成剤を抽出除去することで透水性能を高めることができる。
作業安全性の観点から強酸洗浄が必要な炭酸カルシウム、酸化マグネシウムよりも、低濃度の次亜塩素酸ナトリウムで除去洗浄が可能なPVPが好ましい。
PVPは、重量平均分子量は40,000~360,000が好ましく、中空糸膜の孔径を大きくして透水性を高めるためには、重量平均分子量は360,000程度がより好ましい。
製膜溶液組成物中のPVP濃度は、3~10質量%、好ましくは5~7質量%である。
【0030】
(3)中空糸型精密ろ過膜の製造方法
本開示の中空糸精密ろ過膜は、上記した製膜溶液組成物を使用して製造することができる。以下、製造工程の一例を順に説明する。
【0031】
上記した製膜溶液組成物を調製し、脱泡した後、紡糸して中空糸膜を得る。
紡糸時における製膜溶液組成物の温度は、低すぎると中空糸膜の孔径が小さくなり透水性が低下し、製膜溶液の温度が高すぎると粘度が低くなり紡糸時に糸切れを生じるため、30~70℃が好ましく、40℃~60℃がより好ましい。
紡糸は二重管紡糸ノズルの外周部から製膜溶液組成物を吐出させると同時に、中央孔からは製膜成分の非溶媒(内部凝固液)を吐出させる。
【0032】
内部凝固液は、水、ジエチレングリコール(DEG)およびジエチレングリコールモノメチルエーテル(DMM)の混合溶液を使用することができる。
内部凝固液の温度は40~80℃が好ましく、50~70℃がより好ましい。内部凝固液の各成分の含有割合は、次のとおりである。
水は、好ましくは5~20質量%、より好ましくは7~17質量%、さらに好ましくは9~15質量%である。
DEGは、好ましくは17~45質量%、より好ましくは25~40質量%、さらに好ましくは27~35質量%である。
DMMは、好ましくは40~80質量%、より50~70質量%、さらに好ましくは55~65質量%である。
【0033】
その後、紡糸した中空糸を二重管紡糸ノズルから乾燥空間を通して凝固槽まで導いて凝固させ、中空糸膜を得る。
乾燥空間の温度は、中空糸外表面の孔径を大きくし高い透水性の膜を得るため、90℃~110℃が好ましく、95~105℃がより好ましい。
乾燥空間の距離は、0~100mmが好ましい。
凝固槽中の凝固液は水を用いることができ、凝固槽の温度(凝固浴の温度)は50~70℃が好ましい。
【0034】
その後、さらに50℃の水が入った水洗槽を通過させて溶媒を洗浄除去し、中空糸膜を巻き取り、乾燥する。
洗浄除去工程は、中空糸膜に含まれる孔形成剤を除去する工程である。
洗浄方法は特に制限されるものではなく、流水洗浄、洗浄水を循環させる流水循環洗浄、浸漬洗浄、浸漬撹拌洗浄等を適用することができる。
浸漬洗浄を適用してPVPを除去するときには、濃度1000ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いて中空糸膜を72時間浸漬する。
より短い時間で洗浄を行うためには、濃度2000ppmの水溶液を用いて36時間浸漬する。
その後、中空糸膜を流水洗浄して次亜塩素酸ナトリウムを取り除き、乾燥する。
【実施例0035】
(1)純水透過係数(PWP)
実施例および比較例で得た中空糸型精密ろ過膜を10cmの長さに切断し、一端側を閉じた状態で、他端側から純水を0.1MPaで供給し、中空糸膜から一定時間に透過する純水の容量を測定した。
この容量を採取時間(h)、中空糸膜内表面の膜面積(m)で除して、0.1MPaにおける純水透過係数〔L/m・h〕を求めた。
【0036】
(2)破断強度(g/本)および破断伸度(%)
中空糸精密ろ過膜の破断強度および伸度は、小型卓上試験機(島津製作所製EZ Test)を用いて測定した。有効長5cmの湿潤状態の中空糸膜に対し,クロスヘッドを10mm/分で移動させた場合の破断強度および破断伸度を測定した。
【0037】
(3)バースト試験
中空糸精密ろ過膜を1mの長さに切断し、純水に5分間以上浸漬した後、一端側を閉じた状態で、他端側から乾燥空気を送り込み、1分間に0.2MPaの速度で加圧し、圧力を1MPaまで上昇させた。中空糸膜が破裂(バースト)したものを不合格、バーストしなかったものを合格とした。
【0038】
(4)膜構造(中空糸断面、内表面、外表面の観察方法、マクロボイドの占有面積)
実施例および比較例で得た中空糸型精密ろ過膜を切断し、断面、内表面、外表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を断面は倍率60~400倍、内表面および外表面は3000倍でそれぞれ撮影した。
中空糸膜の断面画像を得た後、サインペン(ぺんてる(株))を用いてマクロボイド部分を黒色に塗り、パソコンに画像を取り込んだ。
画像解析ソフト(MITANI Corporation製ImageJ Ver5.6.0)を用いて、膜断面積に占めるマクロボイドの占有面積を計測した。
【0039】
(5)コロイダルシリカ阻止率(%)
実施例および比較例で得た中空糸型精密ろ過膜を10cmの長さに切断し、純水に30分間浸積する。
2次粒子径0.125μmのコロイダルシリカ分散液(扶桑化学工業(株)PL-7)を濃度200mg/Lに調整し、膜入口供給圧力0.100MPa,出口圧力0.099MPaの条件で内圧クロスフローろ過し、ろ過開始から50分後、透過液および濃縮液を採取する。
携帯用濁度計(HACH社製2100P)を用いて原液、透過液、濃縮液の濁度を測定し、下式によりコロイダルシリカ阻止率を算出した。
阻止率(%)=
100-{(透過液濁度×100)/[(原液濁度)+(濃縮液濁度)]/2}
【0040】
(6)PVP残留量(質量%)
中空糸型精密ろ過膜をサリチル酸添加ケルダール法により分解し、インドフェノール吸光光度法により全窒素濃度を測定して、PVP残留量(%)とした。ケルダール分解時にサリチル酸を加えるのは、硝酸態窒素を全窒素として検出し定量するためである。
55℃で6時間、オーブンで乾燥した中空糸型精密ろ過膜の断面全体を試料として約2gを精秤し、ケルダールフラスコの中に仕込み、硫酸とサリチル酸を加えて加熱し酸化分解した。
分解後の試料液の全窒素濃度を、JIS K0102.42.1頁および2頁に記載のインドフェノール吸光光度法に準じて定量し、全窒素濃度をPVP重量に換算し、中空糸型濾過膜樹脂成分重量で除した百分率値をPVP残留量(%)とした。
【0041】
実施例1
<製膜溶液組成物>
表1に示すN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、グリセリン(GL)からなる溶媒に対して、ポリビニルピロリドン(東京化成工業(株)K90)(PVP)を加え、80℃で約1時間加熱して溶解させた。
次に、前記溶液にポリエーテルスルホン(住化ケムテックス(株)スミカエクセル5200P)(PES)を加え、80℃で約6時間加熱して溶解して、製膜溶液組成物を得た。
【0042】
<中空糸型半透膜の製造>
上記の製膜溶液組成物を80℃で18時間かけて脱泡した。脱泡した製膜溶液組成物を用い、50℃に加温した二重管紡糸ノズルより押し出し紡糸した。
表1に示す内部凝固液を使用し、二重管紡糸ノズルから吐出させた後、距離50mmの乾燥空間(99℃)を通して乾燥させ、60℃の水が入った凝固槽を通過させた。
その後、さらに50℃の水が入った水洗槽を通過させて溶媒を洗浄除去し、中空糸型精密ろ過膜を巻き取った。
巻き取った中空糸膜を1000ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液に72時間浸漬してPVPを除去した後、中空糸膜を流水洗浄し、次亜塩素酸ナトリウムを取り除いた。
その後、55℃の乾燥機で4時間乾燥させた。
【0043】
得られた中空糸膜について、上記した各測定を実施した。結果を表1に示す。
PVP除去前のPVP残留量は0.23%であり、次亜塩素酸ナトリウムによる浸漬洗浄後のPVP残留量は0.06%であった。
また、中空糸型精密ろ過膜の断面構造のSEM写真を図1、内表面構造と外表面構造のSEM写真を図2に示した。
図1から確認できるとおり、膜の内表面から外表面に向かって空孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造と膜厚部分にマクロボイド構造を有していた。
中空糸の内表面および外表面には3μm以下の孔が観察され、2次粒子径0.125μmのコロイダルシリカの阻止率が46%であったことから、孔径は0.1~3μmであった。
【0044】
実施例2
二重管紡糸ノズルより押し出す製膜溶液組成物と内部凝固液の吐出量を調整し、中空糸膜の内径を1450μm、外径を2070μmとした以外は実施例1と同じ方法で、中空糸型精密ろ過膜を得た。得られた中空糸膜について、上記した各測定を実施した。結果を表1に示す。中空糸型精密ろ過膜の断面構造のSEM写真を図3に示す。
【0045】
実施例3
中空糸膜の内径を1510μm、外径を2290μmとした以外は実施例1と同じ方法で、中空糸型精密ろ過膜を得た。得られた中空糸膜について、上記した各測定を実施した。結果を表1に示す。中空糸型精密ろ過膜の断面構造のSEM写真を図4に示す。
【0046】
実施例4
内部凝固液の組成を水11質量%、DEG30.4質量%、DMM58.6質量%とし、中空糸膜の内径を1220μm、外径を1930μmとした以外は実施例1と同じ方法で、中空糸型精密ろ過膜を得た。得られた中空糸膜について、上記した各測定を実施した。結果を表1に示す。
中空糸型精密ろ過膜の断面構造のSEM写真を図5、内表面構造のSEM写真を図6、外表面構造のSEM写真を図7に示す。
中空糸の内表面および外表面には2μm以下の孔が観察され、2次粒子径0.125μmのコロイダルシリカの阻止率が91%であったことから、孔径は0.1~2μmであった。
次亜塩素酸ナトリウムによる浸漬洗浄後のPVP残留量は0.05%であった。
【0047】
比較例1
製膜溶液組成物の組成をPES17質量%、DMSO38質量%、PEG45質量%とし、中空糸膜の内径を800μm、外径を1300μmとした以外は実施例1と同じ方法で、中空糸型精密ろ過膜を得た。得られた中空糸膜について、上記した各測定を実施した。結果を表1に示す。中空糸型精密ろ過膜の断面構造のSEM写真を図8に示す。
マクロボイドは確認できず、実施例に比べて透水性能が大きく劣っていた。
【0048】
比較例2
内部凝固液の組成を水13質量%、DEG29.7質量%、DMM57.3質量%とし、中空糸膜の内径を1340μm、外径を1980μmとした以外は実施例1と同じ方法で、中空糸型精密ろ過膜を得た。得られた中空糸膜について、上記した各測定を実施した。結果を表1に示す。中空糸型精密ろ過膜の断面構造のSEM写真を図9に示す。
【0049】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の中空糸型精密ろ過膜は、純水透過係数、破断強度、破断伸度の全てが高く、食品分野や水処理用のろ過膜として使用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9