(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157497
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】食材の咀嚼難易度の分類方法及び咀嚼機能評価用食材
(51)【国際特許分類】
G01N 33/02 20060101AFI20231019BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20231019BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20231019BHJP
A23L 21/10 20160101ALI20231019BHJP
【FI】
G01N33/02
A23L5/00 Z
A23G3/34 101
A23L21/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067441
(22)【出願日】2022-04-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 集会名:第75回NPO法人日本口腔科学会学術集会、発表日:2021年5月13日、開催場所:〒560-0082大阪府豊中市新千里東町2丁目1千里阪急ホテル 〔刊行物等〕刊行物名:神戸女学院大学 人間科学部環境・バイオサイエンス学科 2021年度卒業論文発表会(zoomによる配信)、WEB会議の名称:神戸女学院大学 人間科学部環境・バイオサイエンス学科 2021年度卒業論文発表会(zoomによる配信) 主催者:神戸女学院大学 人間科学部環境・バイオサイエンス学科
(71)【出願人】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】516381943
【氏名又は名称】学校法人神戸女学院
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 恭之
(72)【発明者】
【氏名】高岡 素子
【テーマコード(参考)】
4B014
4B035
4B041
【Fターム(参考)】
4B014GB07
4B035LC16
4B035LE04
4B041LC10
4B041LD02
(57)【要約】
【課題】判定基準が明確で客観性を有する食材の咀嚼難易度の分類方法、及び咀嚼機能評価用食材を提供する。
【解決手段】本発明の食材の咀嚼難易度の分類方法は、食材をヒトに摂取させた場合の該食材の咀嚼の難易度を分類する方法であって、食材の硬さ、粘着力及び付着性を測定する測定工程と、硬さ、粘着力及び付着性の測定結果から咀嚼性を算出する算出工程と、硬さ及び該咀嚼性に基づいてクラスター分析を行うクラスター分析工程とを備えることを特徴とする。本発明の咀嚼機能評価用食材は、総義歯咀嚼能率判定表に記載されている食材について、本発明の食材の咀嚼難易度の分類方法によって分類された食材と同じ分類に属する硬さ及び咀嚼性を有することを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食材をヒトに摂取させた場合の該食材の咀嚼の難易度を分類する方法であって、該食材の硬さ及び凝集性を測定する測定工程と、該硬さ及び該凝集性に基づいてクラスター分析を行うクラスター分析工程とを備える食材の咀嚼難易度の分類方法。
【請求項2】
総義歯咀嚼能率判定表に記載されている食材について請求項1の分類方法によって分類された食材と同じクラスターに属する硬さ及び咀嚼性を有することを特徴とする咀嚼機能評価用食材。
【請求項3】
グミからなる請求項2記載の咀嚼機能評価用食材。
【請求項4】
請求項1の分類方法によって分類された食材の分類表。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材の咀嚼難易度の分類方法及び咀嚼機能評価用食材に関し、総義歯装着者や、口腔外科等で顎骨切除した患者や、オーラルフレイルのある高齢者等に対する咀嚼機能評価を行うために用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
総義歯装着者や口腔外科等で顎骨切除した患者等に対して咀嚼機能を評価することは、総義歯の調整を行ったり、術後の経過を評価したり、術後の食事ケアの内容を決定したりするうえで極めて重要である。また、オーラルフレイルのある高齢者に提供する栄養学的に適切な食事メニューを決めるためにも、咀嚼機能の評価は必要である。
【0003】
従来の咀嚼機能評価としては、佐藤らの総義歯咀嚼能率判定表が良く用いられている(非特許文献1)。この判定法は、総義歯装着者に対して100種類の食品について咀嚼に関するアンケート調査を行った結果に基づき、各食品の咀嚼難易度を咀嚼指数を定めた表によって咀嚼機能が評価される。このため、各食材を用いることにより簡便に咀嚼機能を評価することができる。
【0004】
しかしながら、総義歯装着者に対するアンケートという主観的な調査方法に基づいているため客観性に乏しく、咀嚼難易度の判定基準が不明確であるという問題があった。また、食品の調理方法や形態についても定められておらず、曖昧であるという問題もあった。さらには、食生活の変化により、現代ではあまり食されていないという食品も多く含まれているという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「総義歯装着者の食品摂取状況」佐藤裕二、石田栄作、皆木省吾、赤川安正、津留宏道 J Jpn Prosthodont Soc, 32: 774~779, 1988.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、判定基準が明確で客観性を有する食材の咀嚼難易度の分類方法、及び咀嚼機能評価用食材を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記問題を解決するために、総義歯咀嚼能率判定表に示された数多くの食材の物理的特性を測定機器を用いて解析し、総義歯咀嚼能率判定表における咀嚼指数との相関関係を調べた。その結果、測定値から得られた5つのパラメータ(硬さ、粘着性、付着性、凝集性及び咀嚼性)のうち咀嚼性のみが咀嚼指数との間で有意な相関関係を示すことを見出した。さらに、咀嚼性を決定するパラメータのうち、硬さ及び凝集性の値によってクラスター分析を行ったところ、判定基準が明確で客観性を有するいくつかのクラスターに分類できることを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の食材の咀嚼難易度の分類方法は、食材をヒトに摂取させた場合の該食材の咀嚼の難易度を分類する方法であって、該食材の硬さ及び凝集性を測定する測定工程と、該硬さ及び該凝集性に基づいてクラスター分析を行うクラスター分析工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の咀嚼機能評価用食材は、総義歯咀嚼能率判定表に記載されている食材について、本発明の食材の咀嚼難易度の分類方法によって分類された食材と同じクラスターに属する硬さ及び咀嚼性を有することを特徴とする。
【0010】
咀嚼機能評価用食材としてはグミを用いることができる。グミはその組成を変えることにより、硬さや咀嚼性を容易に調整することができ、製造が容易となる。
【0011】
また、本発明の食材の分類表は、本発明の分類方法によって分類されていることを特徴とする。本発明の食材の分類表では、本発明の分類方法によって分類されているため、判定基準が明確で客観性を有することとなる。
食材としては、被験者の実際の食生活に合わせて適宜選択することが好ましい。例えば、被験者が高齢者である場合には、高齢者の嗜好性が高いと思われる食材を選択することが好ましい。また、総義歯咀嚼能率判定表に記載されている食材から選択することもできるが、食材に対する嗜好傾向の時代変化や被験者の年齢層を考慮し、適宜取捨選択したり、追加したりすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】咀嚼性と咀嚼指数の関係を示すグラフである。
【
図5】付着性と咀嚼指数の関係を示すグラフである。
【
図6】粘着性と咀嚼指数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した実施形態について説明する。
(測定工程S1)
本発明の食材の咀嚼難易度の分類方法では、まず測定工程S1として、数多くの食材の硬さ及び凝集性を測定する。これらの物性を測定する方法としては、テクスチャープロファイル分析法 (Szczesniak S. A., J. Food Sci., 28, 385-389(1963))を用いることができる。テクスチャープロファイル分析法とは、テクスチャー(食感)を数値化するためのデータ分析方法であり、
図1に示すテクスチャーアナライザー1を用いて行うことができる。テクスチャーアナライザー1はプランジャー2を上下に往復運動させることを可能とする図示しない駆動装置を備えており、さらには、食材3にかかる応力を測定するための図示しない測定器が備えられている。測定方法としては、食材3に対してプランジャー2を一定の速度で直線往復運動させ、その時の応力応答曲線を記録する。そして、その応力応答曲線から食材3の様々な特性値を求める。
【0014】
食材の応力応答曲線の例を
図2に示す。このグラフでは、プランジャーの上下運動を2回行った結果を示している。1ストローク目の往路で食材3に対する荷重が増大し、復路で減少する。2ストローク目の往路で再び食材3に対する荷重が増大し、復路で減少する。ここで、食材の「硬さ」、「粘着力」、「凝集性」、「付着性」及び「弾力性」は次のように定義される。
「硬さ」:1ストローク目に食材を圧縮した際の最大圧縮応力h1のことをいう。
「粘着力」:食材を最初に圧縮した後、プランジャーを引き上げる際の最大収縮応力h2のことをいう。
「凝集性」:1ストローク目に圧縮した際に、圧縮応力と時間のグラフにおける面積をA1とし、2ストローク目に圧縮した際に、圧縮応力と時間とのグラフにおける面積をA2とした場合の面積比(A2/A1)のことをいう。
「付着性」:1ストローク目においてプランジャーを試料から引き上げる際の応力と時間のグラフにおける面積(A3)(すなわち付着エネルギー)のことをいう。
「弾力性」:1ストローク目に圧縮した際の最大圧縮応力h1に達するまでの時間T1と、2ストローク目に圧縮した際の最大圧縮応力に達するまでの時間T2との比率(T2/T1)のことをいう。
【0015】
(クラスター分析工程S2)
測定工程S1で求めた硬さ(h1)と凝集性(A2/A1)に基づいてクラスター分析を行う。クラスター分析は、データ全体の中から似たもの同士をグループ分けする方法であり、階層クラスター分析と非階層クラスター分析が知られているが、どちらも用いることができる。こうして何種類かに分類された食材は、従来から簡便な方法として用いられていた、総義歯咀嚼能率判定表における咀嚼指数と良い相関を示し、しかも判定基準が明確で客観性を有している。
【実施例0016】
(実施例1)
・咀嚼難易度の分類
実施例1では、総義歯咀嚼能率判定表に示された数多くの食材について、物理的な食材の特性値を測定し、それらの測定値によって客観的な咀嚼難易度を分類することが可能であるかについて調べた。以下、詳細を述べる。
【0017】
(測定工程S1)
佐藤らの総義歯咀嚼能率判定表に示された食材から49種類の食材を選び、テクスチャーアナライザー(英弘精機:TA.XT plus)を用いて物性測定を行い、得られたグラフから「硬さ」、「粘着力」、「凝集性」、「付着性」及び「弾力性」を求めた。さらには、咀嚼性(=硬さ×凝集性×弾力性)を算出した。
測定試料として、表1に示す調理方法を行った後、1.5cm×1.5cm×1.5cmに成形して行った。ただし、成形困難な食材については成形を行わず、そのまま試験に供した。また、加熱食品については加熱調理後常温条件下で試験を行った。測定は1食品につき8検体行った。
【0018】
【0019】
得られた「硬さ」、「粘着力」、「凝集性」、「付着性」、「弾力性」及び「咀嚼性」について、佐藤らの総義歯咀嚼機能評価表に含まれる49種の食材の「咀嚼指数」との比較を行った。結果を
図3~
図6に示す。これらのグラフを最小二乗法によって解析したところ、咀嚼指数と有意な相関関係が認められた食品特性値は咀嚼性のみであり、硬さ、粘着性、付着性、凝集性について有意な相関関係は認められなかった。なお、食品特性のうち弾力性の値はどの食材においてもほぼ1であったため、検討から除外した。
【0020】
(クラスター分析工程S2)
咀嚼性とは(硬さ×凝集性×弾力性)で定義される値であり、弾力性については、どの食材もほぼ1であったので、硬さと凝集性についてクラスター分析を行った。クラスター分析は、非段階的クラスター分析のウォード法(すなわち、データ偏差平方和が最小となるよう結合する方法)で行い、クラスター数は4とした。4つのクラスターをグループA,グループB、グループC及びグループDと呼称する。結果を表2に示す。表2中の「硬さ」及び「凝集性」の値は、各クラスの「硬さの平均値」及び「凝集性の平均値」を示す。この表から、硬さと凝集性を制御できれば、各クラスターに属する食材を提供することができることが分かる。
【0021】
【0022】
(実施例2)
実施例2では、総義歯咀嚼能率判定表に示された食材及び高齢者の嗜好性が高いと思われる食材、合計101種類の食材について、物理的な食材の特性を測定し、それらの測定値によって客観的な咀嚼難易度を分類することが可能であるかについて調べた。測定方法は実施例1と同様であり、説明を省略する。また、クラスター分析については、クラスターの数を5とした。5つのクラスターについての硬さの平均値と凝集性の平均値を表3に示す。また、各クラスター内の食材の内容を表4に示す。表3から、硬さと凝集性を制御できれば、各クラスターに属する食材を提供することができることが分かる。
【0023】
【0024】
【0025】
(咀嚼機能評価用グミの製造)
組成を様々に変えたグミを調製し、それらのグミが上記表2のどのクラスターに分類されるかを調べた。グミの材料としては、以下の材料を表5に示す割合で混合してNo.1~6までの6種類のグミを調製した。
・材料
水、グラニュー糖、水あめ、ゼラチン、レモン汁
・調理方法
以下の順で調理を行った
1)200ml容ビーカーにゼラチンを入れ、温水(70±5℃)を加えて30秒撹拌。
2)グラニュー糖を加えて20秒撹拌。
3)レモン汁を加えて20秒撹拌。
4)水あめを加えて30秒撹拌。
5)材料の入ったビーカーを50℃に設定したマントルヒーターにセットする。
6)材料の入ったビーカーにスターラーバーを入れて3分間撹拌。
7)材料を型に流し入れ、ラップをふんわりかけ、室温で1時間放置して固め
る。
8)型から取り出して1.5cm×1.5 cm×1.5 cmの立方体型のグミを得る。
【0026】
【0027】
こうして調製したNo.1~6までの6種類のグミについて、テクスチャーアナライザー(英弘精機:TA.XT plus)を用いて実施例1,2の場合と同様の方法により応力測定を行い、硬さと凝集性を求めた結果を表6に示す。また、各クラスター内の食材の内容を表7に示す。表6に示すように、No.5がクラスター1に、No.1,2,4がクラスター2に、No.3,6がクラスター3に、それぞれ相当することが分かった。クラスター4と5に対応するグミはなかった。すなわち、グミの材料及び水の割合を変えることにより、硬さと凝集性を制御でき、目的とするクラスターナンバーに属するグミを製造できることが分かった。これらのクラスターナンバーは、総義歯咀嚼能率判定表に示された食材の咀嚼指数との間で有意な相関関係があり、しかもテクスチャーアナライザーの測定値によって客観的に定められることから、咀嚼機能評価用食材として好適に利用できることが明らかとなった。
【0028】
【0029】
【0030】
上記実施例2では咀嚼機能評価用食材として水、グラニュー糖、水あめ、ゼラチン及びレモン汁を配合することにより、様々な硬さと凝集性を有するグミを製造したが、他の材料を用いて咀嚼機能評価用食材を製造することもできる。例えば、ゼラチンの代わりに寒天、カラギーナン、キサンタンガム、グアガム、ペクチン、ローカストビーンガム、CMCナトリウム、アルギン酸塩等を用いてもよく、必要に応じて加熱したり、溶解補助剤を使用して添加したりしても良い。また、必要に応じてpH調整剤、防腐剤、保存料、安定剤等を添加しても良い。
【0031】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本発明の咀嚼難易度の分類方法及び咀嚼機能評価用食材は、総義歯装着者や、口腔外科等で顎骨切除した患者や、オーラルフレイルのある高齢者等に対する咀嚼機能評価行うために好適に用いることができる。