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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157515
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】ダッシュパネルおよび車体前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
B62D25/08 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067468
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】園部 蒼馬
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 翔平
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203BB06
3D203BB08
3D203BB15
3D203BB35
3D203BC09
3D203CA02
3D203CA23
3D203CA58
(57)【要約】
【課題】ダッシュパネル単体の耐力を向上させる。
【解決手段】自動車のダッシュパネル10において、前壁11と、底壁12と、ホイールアーチ部13と、開口部14と、フランジ15と、第1稜線部41と、を設け、フランジ15は、開口部14の周囲において、前壁11および底壁12から車内側に突出し、第1稜線部41は、前壁11とフランジ15との間、および底壁12とフランジ15との間において、フランジ15の周囲に連続して形成されるようにする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のダッシュパネルであって、
前壁と、底壁と、ホイールアーチ部と、開口部と、フランジと、第1稜線部と、を備え、
前記前壁は、車高方向および車幅方向に広がる壁部であり、
前記底壁は、車長方向および車幅方向に広がる壁部であり、
前記ホイールアーチ部は、前記ダッシュパネルの車幅方向の両端部に形成され、
前記開口部は、前記ダッシュパネルの車幅方向の中央部において、車高方向における中途部から車長方向における後端まで形成され、
前記フランジは、前記開口部の周囲において、前記前壁および前記底壁から車内側に突出し、
前記第1稜線部は、前記前壁と前記フランジとの間、および前記底壁と前記フランジとの間において、前記フランジの周囲に連続して形成されていることを特徴とする、ダッシュパネル。
【請求項2】
第2稜線部と、第3稜線部と、を備え、
前記第2稜線部は、前記前壁と前記ホイールアーチ部との間、および前記底壁と前記ホイールアーチ部との間において連続して形成され、
前記第3稜線部は、前記第1稜線部から第2稜線部まで延びていることを特徴とする、請求項1に記載のダッシュパネル。
【請求項3】
前記前壁は、フロントサイドメンバが取り付けられる取付面を有し、
前記取付面は、前記第1稜線部と前記第2稜線部との間、かつ、前記第3稜線部の上方に位置することを特徴とする、請求項2に記載のダッシュパネル。
【請求項4】
前記取付面は、水平面に対して垂直な面であることを特徴とする、請求項3に記載のダッシュパネル。
【請求項5】
前記前壁は、該前壁に対して垂直な方向に突出した複数の凸部を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のダッシュパネル。
【請求項6】
前記複数の凸部は、該凸部が形成された面に対して垂直な方向から見たときに、前記複数の凸部の代表長さの方向が、少なくとも1方向で揃うように配置されていることを特徴とする、請求項5に記載のダッシュパネル。
【請求項7】
「前記複数の凸部の天面の総面積/前記前壁における前記複数の凸部が形成された面の面積」で算出される前記凸部の表面占有率が、25%以上であることを特徴とする、請求項6に記載のダッシュパネル。
【請求項8】
前記複数の凸部における前記代表長さが揃う方向を含むように切断された、前記凸部が形成された面に垂直な断面において、前記凸部の天面長さd1と、該凸部と隣の凸部との間隔d2との比(d1/d2)が、1.5~2.5であり、
前記凸部の代表長さが、4~20mmであることを特徴とする、請求項6に記載のダッシュパネル。
【請求項9】
引張強さが590MPa以上の鋼板で形成されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のダッシュパネル。
【請求項10】
自動車の車体前部構造であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載のダッシュパネルと、
前記ダッシュパネルに取り付けられたフロントサイドメンバと、
前記ダッシュパネルに接合されたフロアパネルと、を備えることを特徴とする、車体前部構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のダッシュパネルおよび車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年開発が推進されている自動運転化技術は、路面状況や歩行者等を認識するためのセンサーやカメラ、あるいは画像処理等を行う電子機器の搭載が必要であり、車体の重量増を引き起こす。また、近年の車体設計においては、乗員の快適性向上のために、車内空間の拡大などを目的とした車両のサイズアップが採用される傾向があり、このことも車体の重量増の原因となる。
【0003】
かかる状況の中で車両の衝突性能を確保しようとすると、骨格部品の厚肉化が必須となる。特に、車両の前面衝突に対する衝突性能の向上のためには、フロントサイドメンバ等の比較的大きな部品の厚肉化が必要となり、車体の重量増に与える影響が大きい。そこで、骨格部品の厚肉化を抑制するために内板パネルの高耐力化が指向されている。
【0004】
そのような内板パネルとして、例えばダッシュパネルがある。ダッシュパネルは、乗員(運転者および助手席搭乗者)の足元近傍に配置されるものであり、車両の前面衝突時において、フロントサイドメンバからサイドシルとフロアトンネルに衝突荷重を分散させる役割を担う。このため、乗員保護の観点からは、ダッシュパネルの高耐力化が望ましい。
【0005】
ダッシュパネルに関する技術として、特許文献1には、ダッシュパネル、フロアパネルおよびフロアトンネルが、補強部材によって補強された車体前部構造が開示されている。また、特許文献2には、ダッシュパネルとフロントピラーの接合構造に着目した車体前部構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/080305号
【特許文献2】特許第6076774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車体の重量増を抑制してダッシュパネルの高耐力化を図るためには、ダッシュパネル単体の高耐力化を図ることが望ましい。しかしながら、特許文献1に記載の車体前部構造は、補強部材によって衝突性能を向上させる構造であるため、補強部材を設けることによる重量増は避けられない。また、特許文献2に記載の車体前部構造は、補強部材を設けることなく、車長方向の入力に対する剛性と、車両上方からの荷重に対する吸収性能とを高める構造であるが、ダッシュパネル単体の高耐力化については考慮されていない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ダッシュパネル単体の耐力を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の一態様は、自動車のダッシュパネルであって、前壁と、底壁と、ホイールアーチ部と、開口部と、フランジと、第1稜線部と、を備え、前記前壁は、車高方向および車幅方向に広がる壁部であり、前記底壁は、車長方向および車幅方向に広がる壁部であり、前記ホイールアーチ部は、前記ダッシュパネルの車幅方向の両端部に形成され、前記開口部は、前記ダッシュパネルの車幅方向の中央部において、車高方向における中途部から車長方向における後端まで形成され、前記フランジは、前記開口部の周囲において、前記前壁および前記底壁から車内側に突出し、前記第1稜線部は、前記前壁と前記フランジとの間、および前記底壁と前記フランジとの間において、前記フランジの周囲に連続して形成されていることを特徴としている。
【0010】
別の観点における本発明の一態様は、自動車の車体前部構造であって、上記のダッシュパネルと、前記ダッシュパネルに取り付けられたフロントサイドメンバと、前記ダッシュパネルに接合されたフロアパネルと、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ダッシュパネル単体の耐力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る車体前部構造の概略構成を示す説明図である。
図2】ダッシュパネル単体を車内側から見た図である。
図3】ダッシュパネル単体を車外側から見た図である。
図4図2のI-I断面を示す図である。
図5】稜線部の定義を説明するための説明図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る車体前部構造の概略構成を示す説明図である。
図7】ダッシュパネル単体を車内側から見た図である。
図8】ダッシュパネル単体を車外側から見た図である。
図9図7のII-II断面を示す図である。
図10】凸部の代表長さの定義を説明するための説明図である。
図11】第1面部(凸部が形成された面)に垂直な方向から第1面部を見た説明図である。
図12】凸部の間隔を説明するための説明図であり、図11のIII-III断面を示す図である。
図13】シミュレーション(1)の結果を示す図である。
図14】シミュレーション(1)の結果を示す図である。
図15】シミュレーション(2)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る車体前部構造の概略構成を示す説明図である。なお、本明細書および図面におけるX方向は、車長方向、Y方向は、車幅方向、Z方向は、車高方向である。
【0015】
車体前部構造1は、ダッシュパネル10と、フロントサイドメンバ20と、フロアパネル30を備えている。
【0016】
ダッシュパネル10は、エンジンルーム(図示せず)と車内空間との間に位置する隔壁である。本明細書における“ダッシュパネル”は、1枚の板材の加工(例えばプレス加工)によって形成された部品であり、複数の部品を組み合わせることによってダッシュパネルとしての機能を奏する構造体は含まない。
【0017】
ダッシュパネル10の素材は特に限定されず、例えば引張強さが270MPa以上の鋼板のような金属材料、あるいはアルミニウム合金部材やマグネシウム合金部材等の金属材料を適用できる。ダッシュパネル10の素材として鋼板が使用される場合、鋼板の引張強さは、より好ましくは、440MPa以上であり、さらに好ましくは、590MPa以上または780MPa以上である。なお、ダッシュパネル10の板厚は、例えば0.8~5mmである。
【0018】
以下、第1実施形態に係るダッシュパネル10の構成について詳細に説明する。図2は、ダッシュパネル単体を車内側から見た図である。図3は、ダッシュパネル単体を車外側から見た図である。図4は、図2のI-I断面を示す図である。
【0019】
ダッシュパネル10は、前壁11と、底壁12と、ホイールアーチ部13と、開口部14と、フランジ15を有する。
【0020】
前壁11は、エンジンルーム側に面した、車高方向(Z方向)および車幅方向(Y方向)に広がる壁部である。この前壁11は、第1面部11aと、第2面部11bと、第3面部11cを有する。
【0021】
第1面部11aは、後述する凸部50が形成された壁部である。第2面部11bは、第1面部11aの車幅方向(Y方向)の中央部において、当該第1面部11aに対して車長方向(X方向)前方に凹んだ壁部である。本実施形態においては、第1面部11aと第2面部11bは、いずれも平面状であるが、車体構造に応じて曲面を有してもよい。また、車体構造によっては、第2面部11bが存在せず、第2面部11bの領域が第1面部11aで構成される場合もある。
【0022】
第3面部11cは、フロントサイドメンバ20を取り付けるための壁部であり、第1面部11aの下方に位置している。図3の第3面部11cの面内に示される二点鎖線領域は、ダッシュパネル10とフロントサイドメンバ20の取付面21である。ダッシュパネル10とフロントサイドメンバ20は、例えばスポット溶接などの溶接手段によって接合される。
【0023】
上記の取付面21は、水平面に対して垂直な平面(鉛直面)であることが好ましい。これにより、取付面21に取り付けられたフロントサイドメンバ20の前方から軸方向荷重が入力された際に、フロントサイドメンバ20の姿勢が維持され易くなり、車体前部構造1の耐力を高めることができる。
【0024】
底壁12は、車長方向(X方向)および車幅方向(Y方向)に広がる壁部であり、フロアパネル30に接合される。この底壁12は、傾斜面部12aと、接合面部12bを有する。
【0025】
傾斜面部12aは、前壁11に繋がる部分であり、接合面部12bは、車長方向の後端近傍においてフロアパネル30に接合される部分である。接合面部12bとフロアパネル30は、例えばスポット溶接などの溶接手段によって接合される。本実施形態において、接合面部12bは、略水平な面である。
【0026】
図2および図3に示すように、ホイールアーチ部13は、車幅方向(Y方向)の両端部においてタイヤ(図示せず)の周囲を囲む部分であり、タイヤと干渉しないように車内側に膨出した形状を有する。
【0027】
開口部14は、ダッシュパネル10とフロアトンネル(図示せず)が干渉しないように設けられる。この開口部14は、ダッシュパネル10の車幅方向(Y方向)の中央部において、車高方向(Z方向)の中途部から車長方向(X方向)の後端にかけて形成されている。
【0028】
フランジ15は、1枚の板材を加工することで形成されていて、開口部14の周囲を囲むように設けられている。このフランジ15は、前壁11の第1面部11aと第3面部11c、および底壁12の傾斜面部12aと接合面部12bの各々の壁部から、車内側に突出した形状を有する。
【0029】
図3に示すように、ダッシュパネル10においては、上述の前壁11と、底壁12と、ホイールアーチ部13の各々の壁部の間に、第1稜線部41と、第2稜線部42と、第3稜線部43が設けられている。
【0030】
第1稜線部41は、前壁11とフランジ15との間、および底壁12とフランジ15との間にある稜線部である。換言すると、第1稜線部41は、前壁11の第1面部11aおよび第3面部11cの各壁部とフランジ15とに挟まれ、かつ、底壁12の傾斜面部12aとフランジ15とに挟まれた稜線部である。この第1稜線部41は、フランジ15の形状に沿うようにしてフランジ15の周囲に連続して形成され、3次元的に湾曲している。
【0031】
第2稜線部42は、前壁11とホイールアーチ部13との間、および底壁12とホイールアーチ部13との間に連続して形成された稜線部である。換言すると、第2稜線部42は、前壁11の第1面部11aと第3面部11cの各壁部とホイールアーチ部13とに挟まれ、かつ、底壁12の傾斜面部12aとホイールアーチ部13とに挟まれた稜線部である。
【0032】
第3稜線部43は、第1稜線部41と第2稜線部42との間にある稜線部である。換言すると、第3稜線部43は、前壁11の第3面部11cと底壁12の傾斜面部12aとに挟まれた稜線部である。この第3稜線部43は、第1稜線部41と第2稜線部42を繋ぐようにして、第1稜線部41から第2稜線部42まで連続して形成されている。
【0033】
なお、本明細書における“稜線部”とは、図5に示すように、隣接する面Aと面Bの境界にある曲率半径Rが25~70mmであって、かつ、面Aと面Bの開き角度θが145°以下の曲げ部を指す。これらの条件を満たす曲げ部は、隣接する各面A、Bの面剛性の向上に寄与する。
【0034】
隣接する2面の間にある曲げ部が稜線部であるか否かの判断は、次のようにして行われる。例えば、図3に示す点P1における曲げ部において、隣接する2面は、前壁11の第3面部11cと底壁12の傾斜面部12aである。そして、これらの2面11c、12aの境界にある曲げ部の曲率半径が25~70mmであって、かつ、2面11c、12aの開き角度が145°以下である場合には、当該曲げ部は稜線部であると判断される。
【0035】
なお、点P2においては、隣接する2面は、前壁11の第3面部11cとフランジ15であり、これらの2面11c、15の境界にある曲げ部の曲率半径と、2面11c、15の開き角度から、曲げ部が稜線部であるか否かが判断される。また、点P3においては、隣接する2面は、底壁12の傾斜面部12aとフランジ15であり、これらの2面12a、15の境界にある曲げ部の曲率半径と、2面12a、15の開き角度から、曲げ部が稜線部であるか否かが判断される。
【0036】
また、本明細書において「稜線部が連続する」とは、稜線部が断絶することなく、一続きに延びている状態を指す。例えば、図3に示す第1稜線部41において、第3面部11cとフランジ15との間の一部領域に、図示しない開口部が設けられていた場合は、当該開口部を挟む稜線部は断絶した状態にある。すなわち、その場合には、「フランジ15の周囲に連続する稜線部」は存在しないこととなる。
【0037】
以上、ダッシュパネル10の概略構成について説明した。
【0038】
本実施形態に係るダッシュパネル10によれば、前壁11と底壁12に跨るように連続して第1稜線部41が形成されている。これにより、フロントサイドメンバ20から前壁11に軸方向荷重が入力された際に、フランジ15および第1稜線部41からの拘束力が高まり、フランジ15近傍における前壁11と底壁12の面剛性を高めることができる。このため、前面衝突時において、フランジ15近傍の前壁11と底壁12における変形を抑制でき、ダッシュパネル10単体としての耐力を向上させることができる。
【0039】
また、補強部材(図示せず)を設けずにダッシュパネル10単体の耐力を向上させることができるため、補強部材の重量分、車体前部構造1としての重量を減少させることができる。加えて、補強部材を設けないことによって、補強部材の厚み分、乗員の足元空間を拡大することができ、車内の快適性が向上する。
【0040】
さらに、前面衝突時において、フロントサイドメンバ20に軸方向荷重が入力された際には、ダッシュパネル10が変形し難いことによって、そのダッシュパネル10に接合されたフロントサイドメンバ20は、当初の姿勢を維持し易くなる。これにより、フロントサイドメンバ20で、より大きな荷重を受けることが可能となる。加えて、ダッシュパネル10が変形し難いことによって、フロントサイドメンバ20からサイドシル(図示せず)とフロアトンネル(図示せず)に伝達される衝突荷重の伝達効率を高めることができ、車体前部構造1の耐力が向上する。
【0041】
なお、本実施形態に係るダッシュパネル10においては、第1稜線部41に加え、第2稜線部42と第3稜線部43が設けられているために、各稜線部41~43に隣接する各壁部の面剛性を向上させることができる。すなわち、ダッシュパネル10全体の面剛性が向上するため、第1稜線部41のみを設ける場合よりもさらに衝突時の耐力および静粛性を高めることができる。
【0042】
また、この衝突時の耐力向上効果をさらに高めるためには、図3に示すように、フロントサイドメンバ20の取付面21は、第1稜線部41と第2稜線部42の間、かつ、第3稜線部43の上方に位置することが好ましい。第1稜線部41~第3稜線部43の近傍領域は、面剛性が特に高い領域であるため、この領域にフロントサイドメンバ20を取り付けることによって、前面衝突時におけるフロントサイドメンバ20の姿勢を維持する効果が高まる。
【0043】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態に係る車体前部構造の概略構成を示す説明図である。図7は、ダッシュパネル単体を車内側から見た図である。図8は、ダッシュパネル単体を車外側から見た図である。図9は、図7のII-II断面を示す図である。
【0044】
第2実施形態に係る車体前部構造1においては、第1実施形態に係るダッシュパネル10の前壁11の第1面部11aに、複数の凸部50(ビード部)が設けられている。
【0045】
凸部50は、第1面部11aに対して車長方向前方に向かって突出した形状である。なお、凸部50は、第1面部11aに対して車長方向後方に向かって突出した形状であってもよい。
【0046】
凸部50は、第1面部11aに垂直な方向から見て菱形状に形成されている。ただし、凸部50は、例えば台形や平行四辺形であってもよく、また、四角形に限定されず、多角形状あるいは真円や楕円等の円形状であってもよい。また、複数の凸部50の配置方法は、特に限定されない。
【0047】
第1面部11aは、他の第2面部11bと第3面部11cに対して相対的に広い面積を有し、前壁11全体の面積の大半を占めている。このような第1面部11aにおいては、平面領域を起点として振動が発生し易く、フロントのアッパーマウント(図示せず)からのロードノイズが伝達し易い。
【0048】
一方、上述のような複数の凸部50が設けられていれば、第1面部11aの面内においては、連続する平面領域が少なくなり、第1面部11aの面剛性を高めることができる。これにより、ダッシュパネル10の振動抑制効果が高まり、車内の静粛性を向上させることができる。すなわち、第2実施形態に係るダッシュパネル10によれば、前述の第1実施形態で説明したダッシュパネル10単体としての耐力を向上させる効果に加え、車内の静粛性を向上させる効果も得られる。
【0049】
また、第2実施形態に係るダッシュパネル10を有する車体前部構造1は、前壁11に間隔をおいて配置された複数の凸部50が付与されていることにより、等価放射パワーを低減でき、騒音および振動の抑制効果が高まり、車内の静粛性が向上する。
【0050】
以下、凸部の好ましい配置について説明する。この説明を行うにあたり、まず凸部50の代表長さについて説明する。図10は、凸部50の代表長さの定義を説明するための説明図である。
【0051】
代表長さとは、凸部50の天面51に垂直な方向から凸部50を見たときに、天面51の重心から最も離れた凸部50の外縁までの長さである。例えば、図10(a)に示すように、凸部50が円形である場合には、円の半径が代表長さであり、図10(b)に示すように、凸部50が楕円形である場合には、楕円の長半径が代表長さである。また、図10(a)および図10(b)に示すように、凸部50が正多角形状である場合には、天面51の重心から頂点までの長さが代表長さである。
【0052】
凸部50の好ましい配置に関し、図11は、第1面部11a(凸部50が形成された面)に垂直な方向から第1面部11aを見た説明図である。
【0053】
複数の凸部50は、第1面部11aに対して垂直な方向から見たときに、当該複数の凸部50の代表長さの方向が少なくとも1方向で揃うように配置されることが好ましい。
【0054】
具体的に説明すると、図11に示す例では、各凸部50は正四角形状であるため、複数の凸部50の代表長さは、対角線の中心から一つの頂点までの長さである。すなわち、複数の凸部50の代表長さの方向とは、対角線の中心から一つの頂点に向かう方向である。
【0055】
図11に示す方向DA(本実施形態ではZ方向)は、複数の凸部50の代表長さの方向と一致する方向であり、複数の凸部50の代表長さの方向は、この方向DAで揃っている状態にある。また、図11に示す例では、凸部50が正四角形状であるために、代表長さの方向も複数存在する。図11に示す方向DB(本実施形態ではY方向)は、上記の方向DAとは異なる方向であるが、この方向DBも複数の凸部50の代表長さの方向である。
【0056】
すなわち、図11に示す例では、代表長さの方向が2方向で揃うように複数の凸部50が配置されている。このような複数の凸部50の代表長さが揃う方向が、少なくとも1方向存在する場合には、複数の凸部50の配置の規則性が高まり、第1面部11aにおける面剛性のばらつきを抑えることができる。また、この効果をさらに高めるためには、全ての凸部50の代表長さの方向が少なくとも1方向で揃うことが好ましい。
【0057】
なお、図11に示す方向DCは、各凸部50の代表長さとは関係がない方向であるため、この方向DCは、複数の凸部50の代表長さが揃う方向ではない。
【0058】
第1面部11aの面剛性をさらに高める観点においては、第1面部11aにおける凸部50の表面占有率が、25%以上であることが好ましい。表面占有率とは、「複数の凸部50の天面の総面積/前壁11における複数の凸部50が形成された面の面積」で算出される値である。
【0059】
詳述すると、図11に示すように、凸部50ごとに有する天面の面積S1、S2、S3、・・・Sn-1、Snの合計値が、上記の「複数の凸部50の天面の総面積」である。また、「複数の凸部50が形成された面の面積」は、第1面部11aの面積である。なお、第1面部11aの面積は、当該第1面部11aが平坦であって、複数の凸部50が形成されていない場合の面積である。また、第1面部11aの面内に存在しない第2面部11bは、複数の凸部50が形成された面ではないため、第2面部11bの面積は「複数の凸部50が形成された面の面積」には含まれない。
【0060】
第1面部11aの面剛性を高める観点においては、上記の凸部50の表面占有率は、より好ましくは、40%以上であり、さらに好ましくは、50%または60以上である。一方、表面占有率の上限は、特に限定されないが、凸部50の成形を容易にする観点からは、表面占有率は90%以下であることが好ましい。より好ましくは、80%以下である。
【0061】
複数の凸部50の間隔に関し、図12は、凸部50の間隔を説明するための説明図であり、図11のIII-III断面を示す図である。詳述すると、図12は、複数の凸部50の代表長さが揃う方向(図11においては方向DAまたは方向DB)を含むように、第1面部11aを当該第1面部11aに垂直な方向に切断した図である。
【0062】
凸部50の間隔は、そのような図12に示す断面において、凸部50の天面の長さd1と、その凸部50と隣の凸部50との間隔d2との比(d1/d2)は、1.5~2.5であることが好ましい。また、凸部50の代表長さLは、4~20mmであることが好ましい。これらの条件を満たすことにより、第1面部11a全体に凸部50をバランス良く配置できると共に、凸部50の天面51における平面領域および各凸部50の間の第1面部11aの平面領域を小さくすることができる。これによって、第1面部11a全体の面剛性を高めることができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0064】
例えば上述の実施形態では、ダッシュパネル10に補強部材(図示せず)を設けない構成の車体前部構造1を例示したが、製品に要求される重量要件や車内空間サイズ等の仕様を満足することができれば、ダッシュパネル10に補強材を設けてもよい。この場合であっても、ダッシュパネル10単体の耐力を向上させるという効果が得られることに変わりはない。
【実施例0065】
<シミュレーション(1)>
本発明の実施例に係るダッシュパネルの衝突性能を確認するため、図8に示す構造のダッシュパネルを車両モデルに搭載した解析モデルで衝突シミュレーションを実施した。本シミュレーションは、フルラップ試験を模擬した解析であり、車体速度を56km/h、バリアを剛体壁、材料を鋼板とした条件で実施されている。
【0066】
なお、性能比較のための比較例として、従来構造のダッシュパネルを備えた車両モデルにおいてもシミュレーションを実施した。本シミュレーションにおける従来構造とは、前述の実施形態で説明した第1~第3稜線部のうちの第2稜線部のみを有する構造である。
【0067】
図13は、シミュレーション結果として、車両モデルのフロアトンネルの最大荷重の結果を示す図である。図14は、シミュレーション結果として、ダッシュパネルの後退量の結果を示す図である。なお、図13および図14のシミュレーションにおいては、材料の引張強さが270MPaと1180MPaで異なるモデルでシミュレーションが実施されている。
【0068】
図13に示すように、実施例の構造は、比較例の構造に対してフロアトンネルの最大荷重が大きく、ダッシュパネルの耐力が向上し、フロアトンネルに、より多くの荷重が伝達されていることがわかる。また、図14に示すように、実施例の構造は、比較例の構造に対してダッシュパネルの後退量が少なく、乗員の安全性が向上することもわかる。
【0069】
また、引張強さが270MPaである場合の実施例および比較例の結果と、引張強さが1180MPaである場合の実施例および比較例の結果とを対比すると、引張強さが1180MPaである場合の方が、比較例に対する実施例の効果の向上度合いが大きい。すなわち、本発明の実施例に係る構造は、より高強度材料に適用することが有用であり、これにより、ダッシュパネル10単体の耐力が効果的に増大する。
【0070】
<シミュレーション(2)>
等価放射パワーの測定試験を模擬したシミュレーションを実施した。本シミュレーションは、シミュレーション(1)における実施例と比較例の車両モデルにおいて、フロントのアッパーマウントに加振する条件で実施されている。その結果を図15に示す。
【0071】
図15に示すように、実施例の構造は、比較例の構造に対して、200~250Hzの周波数帯と300~350Hzの周波数帯で等価放射パワーが低減している。すなわち、実施例の構造においては、車内の静粛性が向上することがわかる。
【0072】
以上、本発明に係る実施例について説明した。以上の説明では、ダッシュパネルの構成を複数例示したが、各ダッシュパネルの構成は、ダッシュパネルとしての機能を阻害しない範囲で任意に組み合わせることができる。
【0073】
例えば、以下のような構成も本発明の技術的範囲に属する。
〔1〕自動車のダッシュパネルであって、
前壁と、底壁と、ホイールアーチ部と、開口部と、フランジと、第1稜線部と、を備え、
前記前壁は、車高方向および車幅方向に広がる壁部であり、
前記底壁は、車長方向および車幅方向に広がる壁部であり、
前記ホイールアーチ部は、前記ダッシュパネルの車幅方向の両端部に形成され、
前記開口部は、前記ダッシュパネルの車幅方向の中央部において、車高方向における中途部から車長方向における後端まで形成され、
前記フランジは、前記開口部の周囲において、前記前壁および前記底壁から車内側に突出し、
前記第1稜線部は、前記前壁と前記フランジとの間、および前記底壁と前記フランジとの間において、前記フランジの周囲に連続して形成されていることを特徴とする、ダッシュパネル。
〔2〕第2稜線部と、第3稜線部と、を備え、
前記第2稜線部は、前記前壁と前記ホイールアーチ部との間、および前記底壁と前記ホイールアーチ部との間において連続して形成され、
前記第3稜線部は、前記第1稜線部から第2稜線部まで延びていることを特徴とする、〔1〕に記載のダッシュパネル。
〔3〕前記前壁は、フロントサイドメンバが取り付けられる取付面を有し、
前記取付面は、前記第1稜線部と前記第2稜線部との間、かつ、前記第3稜線部の上方に位置することを特徴とする、〔2〕に記載のダッシュパネル。
〔4〕前記取付面は、水平面に対して垂直な面であることを特徴とする、〔3〕に記載のダッシュパネル。
〔5〕前記前壁は、該前壁に対して垂直な方向に突出した複数の凸部を有することを特徴とする、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のダッシュパネル。
〔6〕前記複数の凸部は、該凸部が形成された面に対して垂直な方向から見たときに、前記複数の凸部の代表長さの方向が、少なくとも1方向で揃うように配置されていることを特徴とする、〔5〕に記載のダッシュパネル。
〔7〕「前記複数の凸部の天面の総面積/前記前壁における前記複数の凸部が形成された面の面積」で算出される前記凸部の表面占有率が、25%以上であることを特徴とする、〔6〕に記載のダッシュパネル。
〔8〕前記複数の凸部における前記代表長さが揃う方向を含むように切断された、前記凸部が形成された面に垂直な断面において、前記凸部の天面長さd1と、該凸部と隣の凸部との間隔d2との比(d1/d2)が、1.5~2.5であり、
前記凸部の代表長さが、4~20mmであることを特徴とする、〔6〕または〔7〕に記載のダッシュパネル。
〔9〕引張強さが590MPa以上の鋼板で形成されていることを特徴とする、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のダッシュパネル。
〔10〕自動車の車体前部構造であって、
〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のダッシュパネルと、
前記ダッシュパネルに取り付けられたフロントサイドメンバと、
前記ダッシュパネルに接合されたフロアパネルと、を備えることを特徴とする、車体前部構造。
【0074】
なお、以上で説明したダッシュパネルにおいては、ダッシュパネル単体の耐力を向上させるという課題を解決する観点から、第1稜線部を設けることが必須であった。しかし、車内の静粛性を向上させるという課題を解決する観点では、凸部を設けることは必須であるが、第1稜線部を設けることは必須ではない。すなわち、車内の静粛性を向上させるという課題を解決する発明の態様としては、以下に例示されるものであってもよい。
【0075】
〔1〕自動車のダッシュパネルであって、
前壁と、底壁と、ホイールアーチ部と、開口部と、フランジと、第1稜線部と、を備え、
前記前壁は、車高方向および車幅方向に広がる壁部であり、
前記底壁は、車長方向および車幅方向に広がる壁部であり、
前記ホイールアーチ部は、前記ダッシュパネルの車幅方向の両端部に形成され、
前記前壁は、該前壁に対して垂直な方向に突出した複数の凸部を有することを特徴とする、ダッシュパネル。
〔2〕前記複数の凸部は、該凸部が形成された面に対して垂直な方向から見たときに、前記複数の凸部の代表長さの方向が、少なくとも1方向で揃うように配置されていることを特徴とする、〔1〕に記載のダッシュパネル。
〔3〕「前記複数の凸部の天面の総面積/前記前壁における前記複数の凸部が形成された面の面積」で算出される前記凸部の表面占有率が、25%以上であることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載のダッシュパネル。
〔4〕前記複数の凸部における前記代表長さが揃う方向を含むように切断された、前記凸部が形成された面に垂直な断面において、前記凸部の天面長さd1と、該凸部と隣の凸部との間隔d2との比(d1/d2)が、1.5~2.5であり、
前記凸部の代表長さが、4~20mmであることを特徴とする、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のダッシュパネル。
〔5〕引張強さが590MPa以上の鋼板で形成されていることを特徴とする、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のダッシュパネル。
〔6〕自動車の車体前部構造であって、
〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のダッシュパネルと、
前記ダッシュパネルに取り付けられたフロントサイドメンバと、
前記ダッシュパネルに接合されたフロアパネルと、を備えることを特徴とする、車体前部構造。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、自動車のダッシュパネルに適用できる。
【符号の説明】
【0077】
1 車体前部構造
10 ダッシュパネル
11 前壁
11a 第1面部
11b 第2面部
11c 第3面部
12 底壁
12a 傾斜面部
12b 接合面部
13 ホイールアーチ部
14 開口部
15 フランジ
20 フロントサイドメンバ
21 フロントサイドメンバの取付面
30 フロアパネル
41 第1稜線部
42 第2稜線部
43 第3稜線部
50 凸部
51 凸部の天面
1 凸部天面の長さ
2 凸部の間隔
A 面
B 面
L 凸部の代表長さ
S 凸部天面の面積
R 稜線部の曲率半径
θ 稜線部の開き角度


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15