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特開2023-157538ベントピース、タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157538
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】ベントピース、タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
B29C33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067507
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安永 智一
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AA46
4F202AB03
4F202AH20
4F202CA21
4F202CU01
4F202CU07
(57)【要約】
【課題】スピューの抜け抵抗を低減して脱型時のタイヤ密着を抑えられるベントピース、タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】タイヤ加硫金型の成形面1で開口する排気孔16に装着され、排気路21を内部に有する筒状のベントピース2であって、排気路21の断面積を小さくする絞り部26と、絞り部26よりも反成形面側に位置する前端部27とを有し、絞り部26における排気路21の断面積は、前端部27における排気路21の断面積よりも小さく且つその断面積の70%以上である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ加硫金型の成形面で開口する排気孔に装着され、排気路を内部に有する筒状のベントピースであって、
前記排気路の断面積を小さくする絞り部と、前記絞り部よりも反成形面側に位置する前端部とを有し、
前記絞り部における前記排気路の断面積は、前記前端部における前記排気路の断面積よりも小さく且つその断面積の70%以上であることを特徴とするベントピース。
【請求項2】
外周面で開口して前記排気路に通じるスロットと、前記スロットに挿入された挿入部材とを有し、
前記スロットに挿入された前記挿入部材の一部が前記排気路に向けて突出し、それによって前記絞り部が形成されている請求項1に記載のベントピース。
【請求項3】
前記スロットは、前記排気路の中心線を挟んで位置する一対の丸孔を含み、
前記挿入部材は、その一対の丸孔に挿入される一対の丸棒状に形成されている請求項2に記載のベントピース。
【請求項4】
反成形面側の端面を含む第1の筒状部材と、成形面側の端面を含む第2の筒状部材と、前記第1の筒状部材と前記第2の筒状部材との間に配置され、前記絞り部が形成された第3の筒状部材とを含む複数の部材に分割されている請求項1に記載のベントピース。
【請求項5】
成形面側の端面から前記絞り部までの長さが、ベントピース全体の長さの30~80%である請求項1に記載のベントピース。
【請求項6】
前記絞り部の反成形面側の角部が、丸みを帯びた形状及び鈍角形状の少なくとも一方の形状である請求項1に記載のベントピース。
【請求項7】
キャビティにセットされたタイヤの外表面に接する前記成形面と、前記成形面で開口する前記排気孔に装着された請求項1~6いずれか1項に記載のベントピースとを備えたタイヤ加硫金型。
【請求項8】
請求項1~6いずれか1項に記載のベントピースを備えたタイヤ加硫金型のキャビティに未加硫のタイヤをセットし、そのタイヤに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含むタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤ加硫金型の成形面の排気孔に装着される筒状のベントピースと、そのベントピースが装着されたタイヤ加硫金型と、それを用いたタイヤの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ加硫金型では、タイヤの外表面を成形する成形面に多数の排気孔が設けられている。加硫成形時には、タイヤの外表面と成形面との間の空気が排気孔を通じて排出されるとともに、排気孔に流入したゴムによってスピューと呼ばれるゴム突起がタイヤの外表面に形成される。特許文献1~3に記載されているように、スピューのサイズ調整などを目的として、筒状のベントピースを排気孔に装着することが知られている。
【0003】
加硫成形を終えた後、加硫済みタイヤを金型から取り出す際に、タイヤが金型に密着して円滑に取り出せないことがある。このような脱型時のタイヤ密着の主な原因として、ベントピースに対するスピューの抜け抵抗が挙げられる。スピューの抜け抵抗によって脱型時にタイヤ密着を起こすと、意図せずにスピューが切れてしまう、いわゆるスピュー切れを生じやすい。スピュー切れの発生は、切り離されたスピューによるベントピースの目詰まりを引き起こし、空気の排出を阻害することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-30402号公報
【特許文献2】特開2017-105126号公報
【特許文献3】特開2020-82646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、スピューの抜け抵抗を低減して脱型時のタイヤ密着を抑えられるベントピース、タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のベントピースは、タイヤ加硫金型の成形面で開口する排気孔に装着され、排気路を内部に有する筒状のベントピースであって、前記排気路の断面積を小さくする絞り部と、前記絞り部よりも反成形面側に位置する前端部とを有する。前記絞り部における前記排気路の断面積は、前記前端部における前記排気路の断面積よりも小さく且つその断面積の70%以上である。
【0007】
本開示のタイヤ加硫金型は、キャビティにセットされたタイヤの外表面に接する前記成形面と、前記成形面で開口する前記排気孔に装着された上記のベントピースとを備えたものである。
【0008】
本開示のタイヤの製造方法は、上記のベントピースを備えたタイヤ加硫金型のキャビティに未加硫のタイヤをセットし、そのタイヤに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示のタイヤ加硫金型の一例を概略的に示す断面図
図2】第1実施形態におけるベントピースを示す断面図
図3】第1実施形態におけるベントピースを示す(A)外観側面図、及び、(B)a-a矢視断面図
図4】本開示のベントピースによる作用効果を模式的に示す図
図5】第1実施形態におけるベントピースの変形例を示す(A)外観側面図、(B)b-b矢視断面図、及び、(C)c-c矢視断面図
図6】第2実施形態におけるベントピースを示す(A)外観側面図、(B)d-d矢視断面図、及び、(C)e-e矢視断面図
図7】第3実施形態におけるベントピースを示す(A)外観側面図、(B)f-f矢視断面図、及び、(C)g-g矢視断面図
図8】第4実施形態におけるベントピースを示す(A)外観側面図、(B)h-h矢視断面図、及び、(C)i-i矢視断面図
図9】第4実施形態におけるベントピースの変形例を示す(A)外観側面図、(B)j-j矢視断面図、及び、(C)k-k矢視断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
[タイヤ加硫金型]
図1は、タイヤ子午線断面に沿ったタイヤ加硫金型10(以下、単に「金型10」と呼ぶ場合がある)の断面を示す。この金型10は型閉め状態にある。タイヤTは、タイヤ軸方向を上下に向けてセットされる。図1において、左方向はタイヤ径方向外側、右方向はタイヤ径方向内側である。
【0012】
金型10は、タイヤTがセットされるキャビティ15と、そのキャビティ15にセットされたタイヤTの外表面に接する成形面1とを備える。成形面1には、金型10の内部(即ち、キャビティ15)と外部とを連通させる排気孔16が設けられている。加硫成形時には、この排気孔16を通じてタイヤTの外表面と成形面1との間の空気が排出される。排気孔16には、ベントピース2が装着されている。
【0013】
成形面1の素材としては、アルミニウム材が例示される。このアルミニウム材は、純アルミ系の素材のみならずアルミニウム合金を含む概念であり、例えばAl-Cu系、Al-Mg系、Al-Mg-Si系、Al-Zn-Mg系、Al-Mn系、Al-Si系が挙げられる。ベントピース2の素材としては、ステンレスやS45Cに代表される鋼材が例示される。
【0014】
金型10は、タイヤのトレッドを成形するトレッド型11と、タイヤのサイドウォールを成形するサイド型12,13と、タイヤのビード部が嵌合されるビードリング14,14とを備える。成形面1は、トレッド型11の内面と、サイド型12,13の内面とを含んでいる。図示を省略しているが、トレッド型11の内面には、タイヤのトレッドパターンを形成するための凹凸が設けられている。図1では、トレッド型11の内面で開口する1本の排気孔16しか描いていないが、実際には、トレッド型11やサイド型12,13の内面で開口する多数の排気孔が設けられている。
【0015】
ベントピース2は、成形面1で開口する排気孔16に装着されている。図1では、トレッド型11の内面の排気孔16に装着されているが、これに代えて、または加えて、サイド型12及び/またはサイド型13の内面で開口する排気孔に装着することも可能である。また、本実施形態では、金型10がトレッド型11と一対のサイド型12,13とを備えた構造を示しているが、これに限定されず、例えばトレッド型の中央部で上下に二分割された金型構造でもよい。
【0016】
[ベントピースの第1実施形態]
図2~5を参照して、本開示のベントピースの第1実施形態について説明する。図2に示す例では、ベントピース2の一つの形態であるベントピース2aが排気孔16に装着されている。図2において、下方向は成形面側(キャビティ側)、上方向は反成形面側(反キャビティ側)である。ベントピース2aは、排気路21を内部に有する筒状に形成されている。排気路21は、ベントピース2aを長手方向LDに貫通する貫通孔によって形成されている。図3は、ベントピース2aの(A)外観側面図と(B)a-a矢視断面図である。
【0017】
ベントピース2aは、締まり嵌めによって排気孔16に装着されている。ベントピース2aが装着される範囲において、排気孔16の内面は、成形面1から反成形面側に向けて一定の直径で延びた円筒面により形成されている。ベントピース2aの長手方向LDは、排気孔16の軸方向と一致している。ベントピース2aは、排気路21に面する内面22と、排気孔16の内面に接する外周面23と、成形面側の端面24と、反成形面側の端面25とを有する。ベントピース2aは、長手方向LDに沿って一定の外径を有しているが、これに限られない。また、本実施形態では採用していないが、スピュー切れを抑える観点から、成形面側の端面24に座ぐりを設けてもよい。
【0018】
図2に示すように、ベントピース2aは、排気路21の断面積を小さくする絞り部26と、その絞り部26よりも反成形面側に位置する前端部27とを有する。前端部27では、絞り部26から反成形面側に向かって排気路21が一定の直径で延在している。更に、本実施形態のベントピース2aは、絞り部26よりも成形面側に位置する後端部28を有する。後端部28では、絞り部26から成形面側に向かって排気路21が一定の直径で延在している。排気路21の断面積は、絞り部26において最も小さくなっている。排気路21の断面積は、排気路21の中心線CLに対して垂直な平面で切断したときの断面積を指す。絞り部26における排気路21の断面積Axは、前端部27における排気路21の断面積Ayよりも小さく且つその断面積Ayの70%以上に設定されている。
【0019】
図4は、このベントピース2aによる作用効果を模式的に示す図である。同様の作用効果は、後述する他の実施形態におけるベントピース2b~2dによっても奏される。まず、加硫成形時には、タイヤTの外表面と成形面1との間の空気が排気路21を通じて排出される。それとともに、図4(A)のように、排気路21に流入したゴムによって、タイヤTの外表面にスピューSが形成される。スピューSを形成するゴムは絞り部26を通り過ぎて前端部27にまで到達し、そのスピューSの先端部は絞り部26よりも反成形面側に配置される。
【0020】
次に、加硫成形後の脱型時には、タイヤTの外表面を成形面1から引き離す動作に伴って、スピューSをベントピース2aから引き抜く力が作用する。その際、図4(B)のように、スピューSの先端部が絞り部26に一時的に引っ掛かり、それによって引っ張られたスピューSが伸長して細くなることで、ベントピース2a(特に後端部28)の内周面22からスピューSが剥離する。その後、図4(C)のように、更に引っ張られたスピューSの先端部が絞り部26を通り抜け、ベントピース2aからスピューSが円滑に引き抜かれる。
【0021】
絞り部26における排気路21の断面積Axを、前端部27における排気路21の断面積Ayの70%以上とすることは、スピューSの先端部を絞り部26に一旦引っ掛けてから通り抜けるように挙動させるうえで(即ち、図4(B)の状態から図4(C)の状態に移行させるうえで)有用である。この比率が70%を下回り、断面積Axと断面積Ayとの差が大きくなると、更に引っ張られたスピューSの先端部が絞り部26で引き千切られ、その切れ端が空気の排出を阻害する恐れがある。以上のように、このベントピース2aによれば、スピューSの抜け抵抗を低減して脱型時のタイヤ密着を抑えられる。
【0022】
断面積Ayに対する断面積Axの比率(Ax/Ay)は、好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上である。また、比率(Ax/Ay)は、スピューSの先端部を絞り部26に引っ掛けるうえで、好ましくは95%以下であり、より好ましくは90%以下である。断面積Axは、例えば1~2.2mmである。断面積Ayは、例えば1.4~3.1mmである。絞り部26における排気路21の断面積が長手方向LDに変化する場合は、その最小値が断面積Axとして採用される。前端部27における排気路21の断面積が長手方向LDに変化する場合は、その最大値が断面積Ayとして採用される。
【0023】
絞り部26は、排気孔16自体に形成されているのではなく、その排気孔16に装着されたベントピース2aに形成されている。ベントピース2aは排気孔16に圧入されているため、成形面1に対する絞り部26の相対的な位置は変化しない。加硫成形を繰り返し行うことにより、排気路21の内部、特に絞り部26の周辺には汚れが溜まる傾向にあるが、ベントピース2aを取り外して清掃したり、ベントピース2aを交換したりすることによって対応できる。
【0024】
成形面側の端面24から絞り部26までの長さLは、ベントピース全体の長さFLの30~80%であることが好ましい。これが30%以上であることにより、前端部27に配置されるスピューSの長さが適度に短くなるため、スピューSの抜け抵抗を低減するうえで都合がよい。かかる観点から、長さLは長さFLの40%以上がより好ましく、45%以上が更に好ましい。また、これが80%以下であることにより、スピューSを前端部27に確実に到達させやすくなり、絞り部26に引っ掛けるうえで適度な大きさの先端部を持つスピューSを適切に形成できる。かかる観点から、長さLは長さFLの60%以下がより好ましく、55%以下が更に好ましい。
【0025】
スピューSの抜け抵抗を低減するうえで、長さLは、好ましくは3mm以上であり、より好ましくは4mm以上であり、更に好ましくは4.5mm以上である。長さLは、絞り部26における排気路21の断面積が最小となる位置を基準として測定される。後述する図5,6の例のように、絞り部26における排気路21の断面積が最小となる位置が長手方向LDに延びている場合は、その位置における反成形面側の端部を基準として長さLが求められる。乗用車用タイヤの成形に用いられるベントピースにおける長さFLは、例えば10~15mmである。
【0026】
図2,3に示すように、本実施形態のベントピース2(ベントピース2a)は、外周面23で開口して排気路21に通じるスロット31と、そのスロット31に挿入された挿入部材32とを有する。そのスロット31に挿入された挿入部材32の一部が排気路21に向けて突出し、それによって絞り部26が形成されている。かかる構成によれば、絞り部26を有するベントピース2aを比較的簡単な加工によって作製できる。本実施形態において、スロット31は、排気路21の中心線CLを挟んで一対で形成されており、挿入部材32は、その各々に挿入される一対の部材で形成されている。
【0027】
本実施形態では、スロット31が、排気路21の中心線CLを挟んで位置する一対の丸孔31aを含み、挿入部材32が、その一対の丸孔31aに挿入される丸棒状に形成されている例を示す。一対の丸孔31aは、互いに平行に延び且つ中心線CLに対してねじれの位置にある。図3のように、丸孔31aに挿入された挿入部材32の一部は、内周面22から突出して排気路21に侵入し、それによって排気路21の断面積を小さくしている。かかる構成によれば、図2のように丸みを帯びた形状の絞り部26が形成されるため、スピューSの先端部が絞り部26を通り抜けるうえで都合がよい。
【0028】
丸棒状に形成された挿入部材32は、丸孔31aに対して回転可能に挿入されていてもよい。かかる構成によれば、スピューSの先端部が絞り部26を通り抜けるうえで都合がよい。但し、スピューSの先端部を絞り部26に一旦引っ掛けてスピューSを伸長させるためには、回転するときに適度な抵抗を伴う程度に挿入部材32が丸孔31aに嵌入されていることが好ましい。尚、挿入部材32は、スロット31に対して回転しない構成でもよい。スロット31は丸孔31aに限られず、挿入部材32は丸棒状以外の棒状(例えば角棒状)に形成されていてもよい。
【0029】
絞り部26の反成形面側の角部は、丸みを帯びた形状及び鈍角形状の少なくとも一方の形状であることが好ましい。かかる構成によれば、スピューSの先端部が絞り部26を通り抜ける際の抵抗を減らして、ベントピース2aからスピューSをより円滑に引き抜くことができる。本実施形態では、絞り部26の反成形面側の角部が丸みを帯びた形状である。丸みを帯びた形状と鈍角形状とを組み合わせた形状を採用することも可能である。図2のように、中心線CLを含む平面で切断した断面において、絞り部26における排気路21の内周面は半円形状または半楕円形状をなし、鋭角となる部分を有していない。
【0030】
挿入部材32の形状は棒状に限られず、スロット31の形状も然りである。したがって、例えば、図5に示すような構造により絞り部26を形成してもよい。図5に示すベントピース2aの変形例では、スロット31が、排気路21の中心線CLを挟んで位置する一対のスリット31bを含み、挿入部材32が、その一対のスリット31bに挿入される板状に形成されている。この例では、絞り部26の反成形面側の角部が直角形状である。これを丸みを帯びた形状、または鈍角形状とすることにより、更に好ましい形態となる。
【0031】
[ベントピースの第2実施形態]
次に、図6を参照して、本開示のベントピースの第2実施形態について説明する。第2実施形態としてのベントピース2bは、以下に説明する構成の他は、第1実施形態としてのベントピース2aと同様に構成できるため、共通点を省略して主に相違点について説明する。第1実施形態で既に説明した構成には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0032】
図6に示すように、ベントピース2の一つの形態であるベントピース2bは、排気路21の断面積を小さくする絞り部26と、その絞り部26よりも反成形面側に位置する前端部27とを有する。ベントピース2bは、更に、絞り部26よりも成形面側に位置する後端部28を有する。絞り部26における排気路21の断面積Axは、前端部27における排気路21の断面積Ayよりも小さく且つその断面積Ayの70%以上である。
【0033】
ベントピース2bは、反成形面側の端面24を含む筒状部材41(第1の筒状部材)と、成形面側の端面25を含む筒状部材42(第2の筒状部材)と、筒状部材41と筒状部材42との間に配置され、絞り部26が形成された筒状部材43(第3の筒状部材)とを含む複数の部材に分割されている。筒状部材41~43の各々はシンプルな形状を有しており、ベントピース2bは、それらを長手方向LDに連接することで一つの筒状体として形成されている。かかる構成によれば、絞り部26を有するベントピース2bを比較的簡単な加工によって作製できる。
【0034】
筒状部材43の内径は、筒状部材41や筒状部材42の内径に比べて小さい。このため、筒状部材43において排気路21の内周面が中心線CLに向けて突出した形状となり、それによって絞り部26が形成される。図6(B)のように、絞り部26における排気路21の内周面は、排気路21の中心線CL周りに環状(リング状)に突出している。かかる形状の絞り部26によれば、スピューSの先端部の引っ掛かりが安定するため、スピューSをバランス良く引っ張って良好に伸長させることができる。但し、これに限られず、絞り部26における排気路21の内周面は、第1実施形態で示したような形状でも構わない。
【0035】
図6(C)のように、中心線CLを含む平面で切断した断面において、絞り部26における排気路21の内周面は台形状をなし、鋭角となる部分を有していない。絞り部26の反成形面側の角部は鈍角形状である。変形例として、絞り部26における排気路21の内周面を半円形状または半楕円形状とすることが考えられる。その場合、絞り部26の反成形面側の角部は、丸みを帯びた形状となる。
【0036】
ベントピース2bを排気孔16(図6では図示せず)に装着する際には、筒状部材41~43を互いに接着して一体化してから装着してもよい。但し、それらを接着せずに別個の部材のまま装着することも可能である。その場合、別個の部材である筒状部材41~43を順次に排気孔16に圧入していくことにより、それらが排気孔16の中で連接されて、一つの筒状体としてのベントピース2bが構成される。
【0037】
[ベントピースの第3実施形態]
次に、図7を参照して、本開示のベントピースの第3実施形態について説明する。第3実施形態としてのベントピース2cは、以下に説明する構成の他は、第1実施形態としてのベントピース2aと同様に構成できるため、共通点を省略して主に相違点について説明する。第1実施形態で既に説明した構成には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0038】
図7に示すように、ベントピース2の一つの形態であるベントピース2cは、排気路21の断面積を小さくする絞り部26と、その絞り部26よりも反成形面側に位置する前端部27とを有する。ベントピース2cは、更に、絞り部26よりも成形面側に位置する後端部28を有する。絞り部26における排気路21の断面積Axは、前端部27における排気路21の断面積Ayよりも小さく且つその断面積Ayの70%以上である。
【0039】
ベントピース2cでは、周方向の複数箇所(本実施形態では2箇所)に括れ部51が設けられている。括れ部51では、外周面23が窪んでいるとともに、内周面22が中心線CLに向けて突出しており、それによって絞り部26が形成されている。絞り部26は、ペンチやポンチなどの工具を用いて外周面23に局所的な力を加え、ベントピース2cの所要部位を塑性変形させることにより設けることができる。そのため、部品点数が少なく、絞り部26を有するベントピース2cを比較的簡単で安価な加工によって作製できる。
【0040】
図7(C)のように、中心線CLを含む平面で切断した断面において、絞り部26における排気路21の内周面は半円形状または半楕円形状をなし、鋭角となる部分を有していない。絞り部26の反成形面側の角部は、丸みを帯びた形状となっている。括れ部51は、周方向の少なくとも1箇所に設けられていればよく、3箇所以上でもよい。括れ部51は、排気路21の内周面が中心線CL周りに環状(リング状)に突出するように設けても構わない。
【0041】
[ベントピースの第4実施形態]
次に、図8,9を参照して、本開示のベントピースの第4実施形態について説明する。第4実施形態としてのベントピース2dは、以下に説明する構成の他は、第1実施形態としてのベントピース2aと同様に構成できるため、共通点を省略して主に相違点について説明する。第1実施形態で既に説明した構成には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0042】
図8に示すように、ベントピース2の一つの形態であるベントピース2dは、排気路21の断面積を小さくする絞り部26と、その絞り部26よりも反成形面側に位置する前端部27とを有する。ベントピース2cは、更に、絞り部26よりも成形面側に位置する後端部28を有する。絞り部26における排気路21の断面積Axは、前端部27における排気路21の断面積Ayよりも小さく且つその断面積Ayの70%以上である。
【0043】
図8のベントピース2dでは、前端部27における排気路21が、反成形面側に向かって直径を漸増させたテーパ状に形成されている。この例では、前端部27における排気路21の断面積が長手方向LDに変化しているので、その最大値となる端面25における排気路21の断面積が、断面積Ayとして採用される。また、後端部28における排気路21は、成形面側に向かって直径を漸増させたテーパ状に形成されている。但し、図9に示す変形例のように、後端部28における排気孔16の内面を、一定の直径で延びた円筒面により形成することも考えられる。
【0044】
絞り部26の内径は前端部27の内径に比べて小さいため、絞り部26では、排気路21の内周面が中心線CLに向けて突出した形状となっている。図8(B)及び図9(B)のように、絞り部26における排気路21の内周面は、排気路21の中心線CL周りに環状(リング状)に突出している。かかる形状の絞り部26によれば、スピューSの先端部の引っ掛かりが安定するため、スピューSをバランス良く引っ張って良好に伸長させることができる。
【0045】
[タイヤの製造方法]
ベントピース2を備える金型10を用いたタイヤの製造方法は、金型10のキャビティ15に未加硫のタイヤTをセットし、そのタイヤTに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含む。タイヤTは、ブラダーと呼ばれるゴムバッグの膨張によって拡張変形し、その外表面が成形面1に押し当たる。その過程で、タイヤと成形面1との間の空気が、ベントピース2の排気路21を通じて外部に排出される。既述の通り、脱型時には、スピューSの抜け抵抗を低減してタイヤ密着を抑えることができる。
【0046】
[1]
以上のように、本開示のベントピース2は、タイヤ加硫金型10の成形面1で開口する排気孔16に装着され、排気路21を内部に有する筒状のベントピース2であって、排気路21の断面積を小さくする絞り部26と、その絞り部26よりも反成形面側に位置する前端部27とを有し、絞り部26における排気路21の断面積Axは、前端部27における排気路21の断面積Ayよりも小さく且つその断面積Ayの70%以上である。
【0047】
かかる構成によれば、脱型時にスピューSの先端部が絞り部26に引っ掛かり、引っ張られたスピューSが伸長して細くなって、ベントピース2からスピューSが円滑に剥離する。その結果、スピューSの抜け抵抗を低減して、脱型時のタイヤ密着を抑えることができる。また、断面積Axを断面積Ayの70%以上に設定することにより、更に引っ張られたスピューSの先端部が絞り部26を通り抜けやすくなるので、ベントピース2からスピューSが円滑に引き抜かれる。
【0048】
[2]
上記[1]のベントピース2は、外周面23で開口して排気路21に通じるスロット31と、スロット31に挿入された挿入部材32とを有し、スロット31に挿入された挿入部材32の一部が排気路21に向けて突出し、それによって絞り部26が形成されているベントピース2aでもよい。かかる構成によれば、絞り部26を有するベントピース2aを比較的簡単な加工によって作製できる。
【0049】
[3]
上記[2]のベントピース2(ベントピース2a)において、スロット31は、排気路21の中心線CLを挟んで位置する一対の丸孔31aを含み、挿入部材32は、その一対の丸孔31aに挿入される一対の丸棒状に形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、丸みを帯びた形状の絞り部26が形成されるため、スピューSの先端部が絞り部26を通り抜けるうえで都合がよい。
【0050】
[4]
上記[1]のベントピース2は、反成形面側の端面24を含む筒状部材41(第1の筒状部材)と、成形面側の端面25を含む筒状部材42(第2の筒状部材)と、筒状部材41と筒状部材42との間に配置され、絞り部26が形成された筒状部材43(第3の筒状部材)とを含む複数の部材に分割されているベントピース2bでもよい。かかる構成によれば、絞り部26を有するベントピース2bを比較的簡単な加工によって作製できる。
【0051】
[5]
上記[1]~[4]いずれか1つのベントピース2において、成形面側の端面24から絞り部26までの長さLが、ベントピース全体の長さFLの30~80%であることが好ましい。これにより、前端部27に配置されるスピューSの長さが適度に短くなるため、スピューSの抜け抵抗を低減するうえで都合がよい。また、スピューSを前端部27に確実に到達させやすくなり、絞り部26に引っ掛けるうえで適度な大きさの先端部を持つスピューSを適切に形成できる。
【0052】
[6]
上記[1]~[5]いずれか1つのベントピース2において、絞り部26の反成形面側の角部が、丸みを帯びた形状及び鈍角形状の少なくとも一方の形状であることが好ましい。かかる構成によれば、スピューSの先端部が絞り部26を通り抜けるうえで都合がよい。
【0053】
[7]
本開示のタイヤ加硫金型10は、キャビティ15にセットされたタイヤTの外表面に接する成形面1と、その成形面1で開口する排気孔16に装着された上記[1]~[6]いずれか1つのベントピース2とを備えたものである。かかる構成によれば、スピューSの抜け抵抗を低減して脱型時のタイヤ密着を抑えられる。
【0054】
本開示のタイヤ加硫金型10は、排気孔16に装着されるベントピース2を上記の如く構成したこと以外は、通常のタイヤ加硫金型と同等であり、従来公知の形状や材質、機構などは何れも採用することができる。
【0055】
[8]
本開示のタイヤの製造方法は、上記[1]~[6]いずれか1つのベントピース2を備えたタイヤ加硫金型10のキャビティ15に未加硫のタイヤTをセットし、そのタイヤTに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含むものである。かかる方法によれば、スピューSの抜け抵抗を低減して脱型時のタイヤ密着を抑えられる。
【0056】
本開示のタイヤの製造方法は、タイヤ加硫金型10の排気孔16に上記の如きベントピース2を装着していること以外は、通常のタイヤの製造方法と同等であり、従来公知の工程や加硫条件などは何れも採用することができる。
【0057】
以上、本開示の実施形態について説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく、特許請求の範囲によって示され、更には特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0058】
本開示のベントピース、タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法は、いずれも上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。また、上述した第1~第4実施形態で採用されている各構成を、任意に組み合わせて採用することが可能である。例えば、第1実施形態のように挿入部材で絞り部を形成する構造を採用しながら、そのベントピースを第2実施形態のような分割構造にしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 成形面
2 ベントピース
2a ベントピース(第1実施形態)
2b ベントピース(第2実施形態)
2c ベントピース(第3実施形態)
2d ベントピース(第4実施形態)
10 タイヤ加硫金型
16 排気孔
21 排気路
22 内周面
23 外周面
24 成形面側の端面
25 反成形面側の端面
26 絞り部
27 前端部
31 スロット
31a 丸孔
32 挿入部材
41 第1の筒状部材
42 第2の筒状部材
43 第3の筒状部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9